樵(きこり)の若者、ソラトバン。
子供の頃に空に見た、羽ある巨人を追いかけて。
鬼械人(きかいじん)の、秘密を知った。
戦いと、宴のあとで、ソラトバン。
村へ戻りはしたものの・・・
秘密を知った青年は、『元に戻る』こと、できなんだ。
バッツワーノ隊長、おジャス、スカルドのハル
◆ 1、バッツワーノ隊長、あらわる ◆
巨人に乗ってから、1週間。
この日。ソラトバンには、こんなことが起こった──
朝。
眼の黒い男が現われて、
「ソラトバンは、おまえか」
と、訊いてきた。
黒い眼をした男。
パイプを咥えておる。
パイプ煙草など、この村で吸う人間は居らぬ。
それを、ブカブカと吹かしておる。
「・・・誰じゃ?」
「バッツワーノ。帝国の戦士だ」
「はぁ」
「──ソラトバンだな?」
「そうじゃが。軍人さんが、何の用じゃ?」
「俺は、鬼械人部隊の隊長をやっていてな」
「・・・。」
ソラトバン、緊張した。
その様子。バッツワーノは、観察している。
ブカ・・・ブカ・・・。
「先週の騒ぎのとき、どこにいた」
「えーと、騒ぎっちゅうたら、修道騎士さんが襲われた、アレのことかのう?」
「そうだ。どこにいた」
バッツワーノ隊長。どんよりと黒い眼で、ソラトバンを睨んできよる。
「その日は~、え~、わしゃ、森に入っとって。ほんで~、賊に襲われて。シャツを──」
「おおい、巨人よ、聞こえるかぁ?」
バッツワーノ隊長が。
ソラトバンの、真似をした。
あの日。撃ち殺される直前の、ソラトバンの真似を!
「!?」
ギクリとするソラトバン。
バッツワーノ隊長は、パイプを手で持って、笑った。「近いうちに、また来る」
◆ 2、樵は木を切る ◆
昼。
覆面の男どもに、誘拐された!
ソラトバンは、1人ぼっち。
カコーン、カコーンと、木を切っておった。
そこを襲われ、ブン殴られ、ふん縛られて、誘拐されたんである!
・・・え?
なんで、こんなときに、木ィなんぞ切っとったんじゃ! じゃと?
いや、それは、理由があるんじゃ。
ソラトバンだって、わかっとる。自分が危ない立場になった、っちゅうことはな。
ほじゃけ、こういう具合に行動したんじゃ──
1、大工のユーノックどんに、バッツワーノ隊長のことを話しておく。
なんか変なことがあったとき、仲ええ人にぶちまけておくのは、村人の基本である。
ユーノックおやじは、
「しもた!」
と、額を叩いた。
そして、斧を出してきた。
「この斧は!」
「そうじゃ」
森で落とした斧。
巨人に撃ち殺されたときに、なくした斧であった。
「『森で拾ったが、持ち主はわかるか?』っちゅわれてのう。『ソラトバンの斧じゃ』と言うてしもたんじゃ」
2、家に帰って、怯える。
ソラトバンは家に逃げ込んで、怯えた(おびえた)。
ブルブル震えて、ああでもない、こうでもないと、考えた。
「なんでこんな、恐ろしいことになったんじゃ」
「どうすりゃ良かったんじゃ」
「この先、どうすれば・・・」
チーニャの姐御に『変な男が来た』と、知らせねばならん・・・
だが、どうやって?
3、森へ入って、木を切る。
お昼前になって。
ソラトバンは立ち上がった。
返ってきた斧を引っ掴み、森へ走る。
カッコーン、カッコーン! 音高らかに、木を打った。
「気付いてくれ!」
と、祈りながら。
「見に来てくれ。チーニャの姐御。再鬼(さいき)どん。伝えにゃならんことがあるんじゃ!」
──っちゅうわけじゃ。
待ち合わせの『例の広場』へゆくわけにはいかん。
見張られとるかも知れんし、いきなり行ったって、誰も居らんじゃろうしのう。
声出すわけにもいかん。
「チーニャの姐御~!」などと叫んでみろ。それこそ、ボケナスカスじゃあ、済まんわい。
それで、木ィ切ることにしたわけじゃ。
樵が木ィ切る音は、あっちこっちに、木霊(こだま)する。
チーニャの姐御か、再鬼どんが、聞きつけてくれんかのう?
と、期待してな。
・・・残念ながら、そのどっちにも届かんかったようなが(ようなのだが)。
カコーンカコーンと叩いては、周囲をチラチラ見ぃ、見ては、叩いておったら・・・
覆面の男が、突然、木陰から現われた!
「あ!」
と叫んだときには、もはや手遅れ。
正面の男にびっくりしとる間に、背後から別な覆面に迫られ・・・
タックルされて・・・
悲鳴を上げる間もあらばこそ。グルグル巻きに縛られて・・・
あわれなソラトバンは、誘拐されてしもたんじゃ。
◆ 3、ソラトバン、誘拐さる ◆
ソラトバン。
芋虫みたいに、木の根元に転がされる。
「おおう。痛い!」
「静かにしろ」腹を蹴られた。
「痛ッ・・・たいっちゅうのにから。誰かあ、助け──」
今度は無言で腹を蹴られた。
息が詰まり、声も出せんようになる。吐きそうな気分じゃ。
ソラトバンを蹴ったのは、覆面の男。
覆面に、黒いマントである。
1週間前、修道騎士のレッケンサーニたちを襲った覆面どもに、そっくりであった。
その覆面が・・・3、4、5人。
さらに木陰から、追加で3人。やはり覆面に黒マントである。1人は女か?
この3人の先頭の男が、リーダーのようである。
口を開いて、こう言うた。
「そいつで間違いないか」
「はい。隊長から直接指示されました。こいつです」
隊長。
バッツワーノ隊長か。
っちゅうことは・・・
「・・・あんたらか? 修道騎士を襲った、バッツワーノ隊長──げほっ!」
また蹴られた。
「下を向かせろ。観察されてるぞ」
「こいつ!」
頭を押さえつけられる。
だが、その前に、ソラトバンは見た。
追加で現われた3人のうち、女(らしき覆面)が、『バッツワーノ隊長』に反応したのを。
顔見知りの反応じゃ! 若き樵は、そう思った。
「おまえたちは、周囲を警戒しろ」
「了解」
覆面どもが散った。
ソラトバンは、頭をグイグイ押し下げられる。
痛いがな。わしゃ、身体固いんじゃ。団子みたいに丸めるのはやめてくれ!
「さて・・・、」
革のブーツが、視界に入った。
「知っていることをしゃべってもらうぞ、ソラトバン君」
小さな刃物が、首筋に押し当てられた。
◆ 4、ソラトバン、恐怖する ◆
「な、なにをするんじゃ・・・は、は、刃物なんか、出して・・・」
ソラトバン。
誰かに聞こえるよう、大声で叫んだ・・・つもりであったが。
全然、声が出ぬ。
震え上がってしもうて、声が思うように出せんのじゃ。かっこ悪い話じゃ・・・。
「おまえたちみたいな、乱暴者にゃ・・・ぜ、絶対、何も、教えてやらんぞ」
「ソラトバン君」
ぴた、ぴた。冷たい刃が首筋を叩く。
「人間はな、『絶対にしない』などということは、できないのさ」
「・・・。」
「心と身体を、壊されたらな?」
ハポノ言葉じゃな・・・。
ビビって震えつつ、ソラトバンはそんなことを考えた。
ナイフ男の、お国言葉である。チーニャの姐御と同じ──バッツワーノ隊長と同じお国言葉であった。
「そうなる前にしゃべったほうが、得だと思うがね?」
「ひっ!?」
目の前に、ナイフが!
のけ反って逃げようとするソラトバン。
だが、胡座の姿勢に押さえ込まれ、逃げれん!
「ひぃぃ!」
と、本気で泣きそうになってきたところで。
「・・・隊長は、拷問せえとは言うてへんかったんちゃいます?」
と、覆面の女が言った。
お国言葉は、清雅と同じであった。──オーガの女か!
助けてくれ!
あんた、オーガじゃろ?
わしゃ、清雅の仲間なんじゃ!
ソラトバンは叫びそうになった。
だがその前に、ナイフ男が口を開いた。
「符丁だったらまずい」
「ふちょう?」
「木を切る音だ。仲間に信号を伝えたのかも知れん」
「それも含めて『泳がす』っちゅう話でしょ?」
「──もういい。黙れ。おまえが隊長の奴隷でなければ、処分するところだぞ」
「恐っ。ウチは確認しましたからね?」
「連れて帰れ。邪魔だ」
「了解」
3人組の最後の1人が答え、女を連れて立ち去った。
ソラトバンを囲むのは、縄を掴む左右の男と、ナイフ男の3人だけとなった。
ソラトバンは。
・・・震えておった。
いま、わし、清雅の仲間じゃと叫びそうになったぞ・・・。
「おお。だめじゃ!」
ソラトバン。心の中で、悲鳴を上げた。
「わしゃ、意気地なしじゃ。
拷問されたら──しゃべってしまう。
わしを蘇生してくれた清雅を、裏切ってしまう・・・」
ソラトバン。
脂汗を垂らして、考えた。
どうにかできんのか。助かる方法はないのか。
裏切らずに済む方法は。
──ない、か。
「くそ! 情けない男じゃ。わしは。
こんな男、蘇生されんと死んどったほうが、マシじゃった!
──お天道さま! 助けてくだされ!」
ソラトバンは、祈った。
「せめて、秘密だけは、守らせてくれ!」
ダラダラと汗流すソラトバン。
その姿を見て、ナイフの男が「フッ」と笑った。
「なぁ、ソラトバン君。俺だって、罪のない村人を、傷つけたくはないんだぜ・・・?」
「・・・。」
「知っていることを話す。それだけでいいんだ。そうすりゃ、苦しまずに済むんだ・・・」
「・・・。」
「さ、話してくれ。あの日、何があった?」
「う・・・む・・・」
ソラトバンは、生唾を呑み込んだ。
「あ・・・あんたら一体、誰じゃ? 名前ぐらい、聞かせてくれても──」
ガツン。
衝撃。
・・・意識を取り戻してから、ソラトバンは、自分が殴られたことを理解した。
「時間稼ぎはやめろ。元に戻れんようにするぞ?」
ナイフの男が声色を変えた。
あ、コイツ、わしを殺す気じゃ。
しゃべってもしゃべらんでも、どっちみち、殺されるようじゃ。
クソぅ・・・。
涙がこぼれる。
どうせ殺されるんなら、いっそのこと・・・!
と考えた、そのときであった!
覆面どもが、騒ぎ始めたのは。
「止まれ! それ以上近付──ぐえっ!」
「なんだおまえは? 女──ぐえー」
「敵襲! 敵しゅ──ぐええ」
「コイツを押さえておけ」ナイフの男が立ち上がった。「何があった!」
「敵! エルフの女、2人組m──うぐええ!」
騒ぎが近付いてきたかと思うと。
「木霊に呼ばれて来てみれば、あにはからんや、非道の現場」
サクリ。
草を踏む、軽やかな音がして・・・
白い衣が、ふわ~んと、ふくらんで・・・
陽光の輝きのごとき、金髪ポニテが波打って・・・
「見過ごすことなど、できはせぬ。我が名・ルーンに、悖る(もとる)こと」
白い肌したエルフの乙女が、降臨したのであった!
◆ 5、通りすがりの ◆
「・・・何者だ」
「下賎(げせん)の賊に、名乗る名はなし」
白い衣のエルフの乙女。
長い耳を後ろに伏せて、綺麗な歯をうっすらと見せた。
「ただ、こう言うておく──通りすがりの裁きの剣(つるぎ)、と」
「ふざけたヤツ」
と、短い会話をしておるうちに。
ザザザッ! 覆面どもが、取り囲んだ。
人数は、さっきと同じ。欠けてはおらぬ。ただ、黒いマントに土と草がついておる。
「このエルフ、手練です」
「捕らえようとしたら、投げ飛ばされ」
「もう1人、やはりエルフの女がいたのですが・・・消えました。おそらく、魔術師」
「そうか」
ナイフ男はうなずいた。そして、
「このエルフを殺せ!」
「了解」
ジャリジャリ、ジャリン!
覆面の賊徒ども。
マントの中から、剣抜いた。
その剣は、短め。前腕と同じぐらいの長さ。
じつは、帝国軍人が好んで使う小剣(しょうけん)である──が、ソラトバンには、それはわからぬ。
「殺す、と言うたに?」
腰にある長剣の柄に、やんわりと手を乗せて。
エルフの乙女は、ほほえんだ──
「ならば、死をもって裁きとする」
──いや、ほほえみではなかった。
唇をうっすら開き、半目に全周を流し見る、その表情は。
殺意の、表明であった。
シャリーン・・・。
鈴の音のような音がして。
絹の衣のように、刃が閃いた。
──抜き打ち! 小剣もろとも、覆面の男、真っ二つ!
刃は、ツバメのごとくに、翻る(ひるがえる)。覆面の男、真っ二つ!
左右同時にとびかかったものを! ひと呼吸の間に、2人とも!
「・・・!?」凍りつく覆面ども。
「斬りかかった者は、もれなく、こうする」エルフの乙女は、淡々と告げた。「いかに?」
「──た、退却! 全員退却! 樵は始末しろ」
「た、退却ぅー」
覆面どもが叫び交わし、四方八方に逃げ散ってゆく。
ソラトバンは、押し倒された。「うぎゃー! やめてくれえ」
「あきらめろ」
左右の男が、小剣を突き出す。
ああソラトバン! その生命、風前の灯火!
「愚か者!」
エルフの乙女が、パッと指を振った。
指弾!
左の男に弾が命中して「あ痛っ!」、
右の男は、目に見えん何かにドンと突き飛ばされて「うおっ!?」、
・・・ソラトバン、なんとか、死なずに済んだ!
どてーん!
こける。
ムチャクソ痛い。縄で上半身縛られとるせいで、受け身も取れぬ。
だが文句言うとる場合ではない! 覆面ども、あくまで命令を果たそうとしておる。
芋虫ジャンプ!
ビヨーンと跳ねたソラトバン。なんとか小剣の一撃をかわした。
そこに、もう1人の覆面が迫る。
「げつれいじゅつ、みかがみ!」女の声がした。
ソラトバンの位置が、ズレた。
覆面は、ズレたソラトバンを追いかけ、逃さず、突き刺した!
ガチーン!
ソラトバンは、粉々になった・・・そして、元の位置に、現われた。
「は?」とソラトバン。
「げ、幻影!?」覆面、土に刺さった小剣を抜いて、「月霊術──ルーンマンサー(月霊術師)かッ!」
ふわり・・・。
エルフの剣士が、間を詰めた。
一閃。1人死んだ。ツバメ返し。2人目も死んだ。
戦闘終了。
通りすがりのエルフの剣士の、圧勝である。
◆ 6、スカルドのハル ◆
ぴしゃっ。
金髪の女剣士が血振り(ちぶり)をした。
半目のまま、エルフの耳を左右に動かす。
して、
「・・・どうやら、逃げたようやに」
と、結論を出した。
すると、もう1人の女も声を発した。
「お兄さん、大丈夫かに?」
「だ、大丈夫じゃ」
と答えて、そっちを見て。
誰も居らん・・・。
と、気付いて。
「ひぃぃ!? お化け!」
ビビったソラトバン。後ろに倒れる。
ゴチン。頭打った。
「おう! 痛い!」今回、最大のダメージである。
「なにしておるのえ」と金髪のエルフ。
「あなや。ごめんに?」
と、お化けが謝った。
「私も、姿現わすことにするえ」
そうして、声のあたりに・・・
モヤモヤモヤ・・・
白い霞(かすみ)が、立ちのぼって・・・
エルフの乙女が、もう1人、現われたのであった!
「お・・・女子(おなご)のお化けじゃ!」
ソラトバン、びっくりである。
現われたるは、灰色美人。
灰色の髪をした、エルフの乙女であった。
これまた、美人である。かすかに金色がかった灰色の髪が、淡い肌にじつに似合っておる。
にっこり。
ほほえむ灰色美人。
幽霊の笑い・・・ではない。とても優しい、ホッとする笑みである。
修羅場(しゅらば)直後のソラトバンも、震えが止まり、その笑顔に見惚れてしまうほど。
まるで、お月さんみたいに、綺麗なお顔じゃ・・・。
「じっとしとき。いま、ほどいたげるに」
「はい」
縄、解いてくれた。
灰色の乙女。たおやかな手で、パンパンと服の土を払ってくれる。
「・・・いやいや! じ、自分でやりますじゃ!」
ソラトバンの、あわてんことか。
「御前(ごぜん)、どうか! お手が汚れますで」
などと、村のジジイのような口調となって、アタフタしたのであった。
ソラトバンを助けてくれた、エルフの乙女2人組。
輝くような金髪の剣士。その名も、通りすがりのエルフの剣士。
モヤモヤした灰色の美人さん。お化け。
──誰がどう見ても、ただ者ではない。ソラトバンでも、それぐらいは、わかる。
「エルフの御前。あんたがたは、一体・・・?」
「我が名はジャs──「オホン! その問いには、私が答えますえ」
金髪剣士がしゃべりかけ、灰色美人が咳払い。
「・・・え、ちょ」「・・・ここは私に任しなえ」「・・・私のが歳上」「・・・ええから!」
ケンカしだした。
なんじゃ一体・・・。
ソラトバン、灰色美人を見る。
なんか、えらい荷物持ってらっしゃる。
背負い袋、水筒、でっかい革袋、束ねた縄に、丸めた毛布。鍋。
もしかして、剣士さんの荷物まで持っておられる・・・?
可愛らしい姿して、デカすぎる荷物。
何モンじゃ・・・?
さて、その灰色美人。
言い合いに勝ったらしい。金髪を黙らせて、話し始めた。
「──こちらにおわすは、いとやんごとなき御方」
「いとやんごとなき」
「ごっつい高貴。そやに、みだりに御名を問うてはなりませぬ」
「はぁ」
ソラトバン、当惑である。
いとやんごとなき御方、ごっつい不満そうに、地面から弾拾っとるけどもが・・・?
「ゆえに、私が代理を務めまする。ハルとお呼びくだされ」
「ハルさま」
「はい。スカルド(弾唱詩人)のハル」と灰色美人。「御用は私まで」
「あ、はあ」
なんの決まりかわからんが・・・
まあ、生命の恩人の言うことだし・・・
「・・・ほじゃ、えー、ハルさん、いとやんごとなき御方と、お二方にじゃが」
「なにえ?」いとやんごとなき御方、気さくに返事しよる。
「生命を助けて頂いて、ありがとう。この通りじゃ!」
ソラトバンは、ひざまずいた。
「なに。当然のことをしたまで」
「こうおっしゃっておられますに、さ、お立ちになって。ああ、ほら、また膝が汚れた」
「あー、いやいや! ハルさま!」
またハルが膝はたこうとしてくれるのを、あわてて自分でパンパンしつつ、
「お礼と言うても、干し肉と安酒ぐらいしかないんじゃが、」
「ふむ。酒には肉y「どうぞ、お構いなく!」
「いえいえ。そんなモンじゃが、家まで来て、受け取ってくださらんか?」
「お家はどちらに?」
「この近くの村で、樵をやっとるんじゃが」
「あ、それは助かりますえ。私ら、道に迷うたところで」
「迷っておられたんか」
「そえ!」
金髪の剣士。元気に返事。
「道がわからんなって、どないしたもんかに? となっておったところ、」
「かこーん、かこーんと、木ィ切る音が聞こえまして、」
「これ幸い、道をば訊ねんと、木霊に呼ばれて来たならば、」
金髪剣士、ポニテをぱっと振って、小さく見得を切った。
「非道の現場、これあり。裁かずにおれぬは、このジャs「つまり、迷子なのですえ!」
「おお・・・!」
ソラトバンは、天に感謝した。
木ィ切る音。望んだ相手には、届かんかったけれども・・・
救いの主には、届いてくれたんである。
◆ 7、村の珍事 ◆
夕方。
美しいエルフの乙女らを、村に連れ戻ったソラトバン。
そりゃあ、もう、大騒ぎになった。
「ソラトバンのヤツが、えらい美人連れて来よったがじゃ!」
「エルフじゃ、エルフの娘っ子じゃ!」
なにしろ、珍事である。
いったい、どのくらいの珍事であったのか?
それは・・・
村の長老ですら・・・
「わしゃ、生まれて70年になる。魔王の全盛期も知っておる。その頃、わしはまだ若く、力も強く、」
「おじいさん、結論はなによね」
「ええい、つまりじゃ。こんな美しいエルフのお嬢さん、わしも初めて見るっちゅうことじゃ」
「ああそうね? ──おじいさん、ちょっと話があるけぇ」
・・・と、婆さまと言い合うほどの、珍事である。
ソラトバン。
ワアワア騒ぐ村人をかき分け、自宅にたどり着く。
とにかく・・・とにかく、綺麗な水を汲んで、お出しして。
お2人が手を洗うとるあいだに、何とか他人様にお出しできるようなものを・・・と、バタバタする。
「ホンマに、お構いなく」
などと、灰色美人エルフのハルさんはおっしゃるが。まさか、そんな。
何か喜んでくれるもの・・・
荷物にならず、食当たりの恐れがなく・・・
気に入らん場合には、売り飛ばすこともできる・・・
そんなもん、ありゃせんわ! どうしたらええんじゃ、これ!
・・・となっとるところで、
「ときに、おうかがいしますが」ハルさんが言い出した。
「はいはい! なんですかのう?」
「正義の鬼械人──の、ウワサ。御存知ありませんかに?」
「!?」
ソラトバン、硬直す。
「し、知らん。鬼械人の乗り手なんぞ、わしゃ知らんぞ!」
「あらら」
灰色美人さん。
綺麗なお顔を拭きつつ──その灰色の瞳が、キラーンと光った! のに、ソラトバンは気付かなんだ。
「じつは、私ら、ショラン・ギサンチ州を旅しておりまして、」
「なんじゃと?」
「ショラン・ギサンチ州」
「?」
「お隣の属州やに、知らんのかに?」と金髪剣士。
「知らんわい」
「無知な樵やに」
「すまんことじゃ」無知な樵、謝った。
「これ、おジャス。お黙り」「おジャスてなにえ」「そなたの仮名」「カッコ悪すぎやに!」
美人2人、しばらく言い合いしたのち・・・
金髪美人、おジャス。またしても、黙らされ・・・
灰色美人のハルさんが、こう言い直した。
「私ら2人、お隣の属州を旅しておったところ、」
「はあ」
「正義の鬼械人のウワサで、持ちきり」
「なんじゃと」
「いわく──危難に見舞われた、太陽の信徒!」
「はあ」
「颯爽と現われたるは、謎の鬼械人! 胴丸く、腕長き、鉄の巨人!」
「・・・ほ、ほう」
「賊どもは、ナンガラックを持ち出して、鉄鎖でもって、襲いくる」
「うむ!」
ソラトバン。つい、聞き入ってしまう。
「恐ろしき鉄鎖! そやに、正義の巨人は、ビクともせぬ!」
「はっはっは、そりゃどうかのう?」
悲鳴上げとったがのう? チラーニの兄貴は。
いやあ~、これは、秘密じゃから。言えんなあ~。
「罪なき民を守ってみせると、ナンガラックを打ち倒す! あっぱれ、正義の鬼械人!」
「おおう!」
ぱちぱちぱち!
ソラトバン、拍手。
自分の活躍を、褒めてもらう。
なんと気分のええことか。恥ずかしく、うれしい!
しかも、美人。しかも、エルフ。生命の恩人。
「そ、そうか~! チ・・・いやその、正義の鬼械人は、すごいのう~!」
「まことに!」
ハルさん、にっこり笑って、一緒に喜ぶ。
「この話、テッペンサーニなる修道騎士さまから聞いたのですが、」
「ん? レッケンサーニ殿じゃろ?」
「ああ、そうそう!」
灰色美人の目、またキラーンとする。
「・・・で、こちらにおわす御方が、褒美(ほうび)をやるべし! と」
「いかにも!」
こちらにおわす金髪剣士。おジャスさん。話に入ってきた。
「ぜひ、褒美を授けたい。そなた、なんか、知らんかに?」
「い、いや」
「ホンマに、褒美したいだけやに。家名の誇りともなる褒美え?」
「褒美・・・いやいや。わしに言われてものう~? わしゃ、ただの、樵じゃし~」
ソラトバン。
もはや、バレバレ。
秘密もなんも、あったもんじゃない。
『いやあ・・・実は、わしなんじゃけど?』と、ニヤケた顔が言うておる。
誰か言うたってくれ。『顔に出とんねんボケェ~』とか『オマエの手柄ちゃうわ阿呆ゥ~』とか。
「──そなた、何か知っておるに?」ほらバレた。
「えっ」
ソラトバン、ニヤケとった顔が、一瞬で硬くなる。
「し、知らん! なにも知らん! あー、え~~~とォ、干し肉はどこやったかのう!」
逃げる。
家の奥に、引っ込んだ。
「・・・おジャス! 余計なこと言いなえ」「この我に向かって、余計やと」「失言おジャス」「・・・。」
美人2人、またケンカしだした。
助かった。
もうちょっとで、わしが秘密知っとるの、バレるとこじゃった(バレてます)。
ソラトバン。表情を隠そうと、床下収納に頭突っ込んだ。
──おっと? 怪我の功名。
ええもん見っけ!
酒じゃ。
おっ父が生きとったころ、祭で手に入れたヤツじゃな。
病で死にそうになったとき、「呑むか?」と訊いたんじゃが・・・
・・・うむ!
これなら、贈りモンとして、恥ずかしゅうないわい。
たしか、どこぞの属州の、麦の蒸留酒で・・・
ラベルを見れば・・・
読めん。
(学識豊かな読者の皆さんならば、『ショラン・ギサンチ州』の名が、読み取れたはずですえ。)
これを持って出たところ。
「ソラトバン。噂は聞いたぞ!」
「あれ? 村長どん」
なんと。
戸口に、白髪頭のジジイ──村長さんが、来ておった。
「えらい目に遭うたそうじゃな?」
「はあ。まことに」
「こちらのお二方に救われたとか」
「そうじゃ。生命の恩人じゃ」
「そうかそうか。よっしゃ! 後は任せよ。できる限りの歓待をするでのう」
「え」
「さ、さ、お二方。やんごとなき御方には、むさ苦しい所じゃが・・・」
村長。
美しいエルフ2人を、連れてってしもうた。
「は?」
ソラトバン。
お礼の酒も渡せぬまま・・・
まーた、1人ぼっちとなって・・・
「・・・。」
自宅で、ポカーンとするのであった。
と、まあ、これほどの珍事だったわけである。
◆ 8、おにのふみ ◆
「空。・・・おい、空」
空か。
もう、すっかり暗くなってしもうたのう。
お月さんも昇っとるわい。お星さんを従えてのう。
あれがルシーナ、アニマーリス・・・
「コラ! ソラトバン」
「ひっ!?」
ソラトバン、跳び上がる。
完全にボケーッとしておったのが、やっと我に返った。
声のしたほうを見る。
扉の外の暗がりに、誰か居る!(扉にガタが来とるで、隙間から見えよんじゃ。)
「だ、誰じゃ!」
「静かにせえ」
「・・・怒鳴ってきたくせに、静かにせいなどと言う」
ソラトバン、扉開ける。
赤き小男が、戸口に立っておった。
あ、ゴブリンの兄貴か。はいはい、わかったわい。
「再鬼どん」
「数鬼(すうき)じゃ」
「ありゃ」わかってなかった。「すまんことじゃ」
「文(ふみ)や」
パシン。
数鬼。
ソラトバンの手に、石の入った文を、渡した。
・・・手渡し?
「騒がしいのう」
「・・・ああ、それで、直接来たんか? 投げ文じゃのうて」
「ウム」
沈黙。
・・・この兄貴、会話ヘタクソじゃな。
じゃが、判断は的確じゃ。ええとこに来てくれた!
「数鬼どん。じつは、伝えねばならん事件があってのう・・・」
ソラトバン。
今日のことを、話して聞かせた。
「盛りだくさんやな」
一言だけ感想を残して、数鬼は去った。
「まったくじゃ」
ソラトバンは、つぶやいた。
「もうたくさんっちゅうことじゃ。わしゃ、ヘトヘトじゃ。2・3日は、のんびりして・・・」
┏
┃ 」 」
┃ (・へ・)
┗
「明日かーい!」
──と、いうわけで。
バッツワーノ隊長の現われた、この日。
ソラトバンには、これだけのことが起こったんである。