ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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◆ これまで ◆

 樵(きこり)の若者、ソラトバン。
 子供の頃に空に見た、羽ある巨人を追いかけて。
 鬼械人(きかいじん)の、秘密を知った。

 戦いと、宴のあとで、ソラトバン。
 村へ戻りはしたものの・・・

 秘密を知った青年は、『元に戻る』こと、できなんだ。


コローネ、院を焼け出され、弐ノ塔に乗る。
バッツワーノ隊長、おジャス、スカルドのハル


◆ 1、バッツワーノ隊長、あらわる ◆

 

 巨人に乗ってから、1週間。

 この日。ソラトバンには、こんなことが起こった──

 

 朝。

 眼の黒い男が現われて、

「ソラトバンは、おまえか」

 と、訊いてきた。

 黒い眼をした男。

 パイプを咥えておる。

 パイプ煙草など、この村で吸う人間は居らぬ。

 それを、ブカブカと吹かしておる。

「・・・誰じゃ?」

「バッツワーノ。帝国の戦士だ」

「はぁ」

「──ソラトバンだな?」

「そうじゃが。軍人さんが、何の用じゃ?」

「俺は、鬼械人部隊の隊長をやっていてな」

「・・・。」

 ソラトバン、緊張した。

 その様子。バッツワーノは、観察している。

 ブカ・・・ブカ・・・。 

「先週の騒ぎのとき、どこにいた」

「えーと、騒ぎっちゅうたら、修道騎士さんが襲われた、アレのことかのう?」

「そうだ。どこにいた」

 バッツワーノ隊長。どんよりと黒い眼で、ソラトバンを睨んできよる。

「その日は~、え~、わしゃ、森に入っとって。ほんで~、賊に襲われて。シャツを──」

 

「おおい、巨人よ、聞こえるかぁ?」

 

 バッツワーノ隊長が。

 ソラトバンの、真似をした。

 あの日。撃ち殺される直前の、ソラトバンの真似を!

「!?」

 ギクリとするソラトバン。

 バッツワーノ隊長は、パイプを手で持って、笑った。「近いうちに、また来る」

 

◆ 2、樵は木を切る ◆

 

 昼。

 覆面の男どもに、誘拐された!

 

 ソラトバンは、1人ぼっち。

 カコーン、カコーンと、木を切っておった。

 そこを襲われ、ブン殴られ、ふん縛られて、誘拐されたんである!

 

 ・・・え?

 なんで、こんなときに、木ィなんぞ切っとったんじゃ! じゃと?

 

 いや、それは、理由があるんじゃ。

 ソラトバンだって、わかっとる。自分が危ない立場になった、っちゅうことはな。

 ほじゃけ、こういう具合に行動したんじゃ──

 

1、大工のユーノックどんに、バッツワーノ隊長のことを話しておく。

 なんか変なことがあったとき、仲ええ人にぶちまけておくのは、村人の基本である。

 ユーノックおやじは、

「しもた!」

 と、額を叩いた。

 そして、斧を出してきた。

「この斧は!」

「そうじゃ」

 森で落とした斧。

 巨人に撃ち殺されたときに、なくした斧であった。

「『森で拾ったが、持ち主はわかるか?』っちゅわれてのう。『ソラトバンの斧じゃ』と言うてしもたんじゃ」

 

2、家に帰って、怯える。

 ソラトバンは家に逃げ込んで、怯えた(おびえた)。

 ブルブル震えて、ああでもない、こうでもないと、考えた。

「なんでこんな、恐ろしいことになったんじゃ」

「どうすりゃ良かったんじゃ」

「この先、どうすれば・・・」

 チーニャの姐御に『変な男が来た』と、知らせねばならん・・・

 だが、どうやって?

 

3、森へ入って、木を切る。

 お昼前になって。

 ソラトバンは立ち上がった。

 返ってきた斧を引っ掴み、森へ走る。

 カッコーン、カッコーン! 音高らかに、木を打った。

「気付いてくれ!」

 と、祈りながら。

「見に来てくれ。チーニャの姐御。再鬼(さいき)どん。伝えにゃならんことがあるんじゃ!」

 

 ──っちゅうわけじゃ。

 

 待ち合わせの『例の広場』へゆくわけにはいかん。

 見張られとるかも知れんし、いきなり行ったって、誰も居らんじゃろうしのう。

 声出すわけにもいかん。

「チーニャの姐御~!」などと叫んでみろ。それこそ、ボケナスカスじゃあ、済まんわい。

 それで、木ィ切ることにしたわけじゃ。

 樵が木ィ切る音は、あっちこっちに、木霊(こだま)する。

 チーニャの姐御か、再鬼どんが、聞きつけてくれんかのう?

 と、期待してな。

 ・・・残念ながら、そのどっちにも届かんかったようなが(ようなのだが)。

 

 カコーンカコーンと叩いては、周囲をチラチラ見ぃ、見ては、叩いておったら・・・

 覆面の男が、突然、木陰から現われた!

「あ!」

 と叫んだときには、もはや手遅れ。

 正面の男にびっくりしとる間に、背後から別な覆面に迫られ・・・

 タックルされて・・・

 悲鳴を上げる間もあらばこそ。グルグル巻きに縛られて・・・

 

 あわれなソラトバンは、誘拐されてしもたんじゃ。

 

◆ 3、ソラトバン、誘拐さる ◆

 

 ソラトバン。

 芋虫みたいに、木の根元に転がされる。

「おおう。痛い!」

「静かにしろ」腹を蹴られた。

「痛ッ・・・たいっちゅうのにから。誰かあ、助け──」

 今度は無言で腹を蹴られた。

 息が詰まり、声も出せんようになる。吐きそうな気分じゃ。

 ソラトバンを蹴ったのは、覆面の男。

 覆面に、黒いマントである。

 1週間前、修道騎士のレッケンサーニたちを襲った覆面どもに、そっくりであった。

 その覆面が・・・3、4、5人。

 さらに木陰から、追加で3人。やはり覆面に黒マントである。1人は女か?

 この3人の先頭の男が、リーダーのようである。

 口を開いて、こう言うた。

「そいつで間違いないか」

「はい。隊長から直接指示されました。こいつです」

 隊長。

 バッツワーノ隊長か。

 っちゅうことは・・・

「・・・あんたらか? 修道騎士を襲った、バッツワーノ隊長──げほっ!」

 また蹴られた。

「下を向かせろ。観察されてるぞ」

「こいつ!」

 頭を押さえつけられる。

 だが、その前に、ソラトバンは見た。

 追加で現われた3人のうち、女(らしき覆面)が、『バッツワーノ隊長』に反応したのを。

 顔見知りの反応じゃ! 若き樵は、そう思った。

「おまえたちは、周囲を警戒しろ」

「了解」

 覆面どもが散った。

 ソラトバンは、頭をグイグイ押し下げられる。

 痛いがな。わしゃ、身体固いんじゃ。団子みたいに丸めるのはやめてくれ!

「さて・・・、」

 革のブーツが、視界に入った。

「知っていることをしゃべってもらうぞ、ソラトバン君」

 小さな刃物が、首筋に押し当てられた。

 

◆ 4、ソラトバン、恐怖する ◆

 

「な、なにをするんじゃ・・・は、は、刃物なんか、出して・・・」

 ソラトバン。

 誰かに聞こえるよう、大声で叫んだ・・・つもりであったが。

 全然、声が出ぬ。

 震え上がってしもうて、声が思うように出せんのじゃ。かっこ悪い話じゃ・・・。

「おまえたちみたいな、乱暴者にゃ・・・ぜ、絶対、何も、教えてやらんぞ」

「ソラトバン君」

 ぴた、ぴた。冷たい刃が首筋を叩く。

「人間はな、『絶対にしない』などということは、できないのさ」

「・・・。」

「心と身体を、壊されたらな?」

 

 ハポノ言葉じゃな・・・。

 ビビって震えつつ、ソラトバンはそんなことを考えた。

 ナイフ男の、お国言葉である。チーニャの姐御と同じ──バッツワーノ隊長と同じお国言葉であった。

 

「そうなる前にしゃべったほうが、得だと思うがね?」

「ひっ!?」

 目の前に、ナイフが!

 のけ反って逃げようとするソラトバン。

 だが、胡座の姿勢に押さえ込まれ、逃げれん!

「ひぃぃ!」

 と、本気で泣きそうになってきたところで。

「・・・隊長は、拷問せえとは言うてへんかったんちゃいます?」

 と、覆面の女が言った。

 お国言葉は、清雅と同じであった。──オーガの女か!

 

 助けてくれ!

 あんた、オーガじゃろ?

 わしゃ、清雅の仲間なんじゃ!

 

 ソラトバンは叫びそうになった。

 だがその前に、ナイフ男が口を開いた。

「符丁だったらまずい」

「ふちょう?」

「木を切る音だ。仲間に信号を伝えたのかも知れん」

「それも含めて『泳がす』っちゅう話でしょ?」

「──もういい。黙れ。おまえが隊長の奴隷でなければ、処分するところだぞ」

「恐っ。ウチは確認しましたからね?」

「連れて帰れ。邪魔だ」

「了解」

 3人組の最後の1人が答え、女を連れて立ち去った。

 ソラトバンを囲むのは、縄を掴む左右の男と、ナイフ男の3人だけとなった。

 

 ソラトバンは。

 ・・・震えておった。

 いま、わし、清雅の仲間じゃと叫びそうになったぞ・・・。

「おお。だめじゃ!」

 ソラトバン。心の中で、悲鳴を上げた。

「わしゃ、意気地なしじゃ。

 拷問されたら──しゃべってしまう。

 わしを蘇生してくれた清雅を、裏切ってしまう・・・」

 ソラトバン。

 脂汗を垂らして、考えた。

 どうにかできんのか。助かる方法はないのか。

 裏切らずに済む方法は。

 ──ない、か。

「くそ! 情けない男じゃ。わしは。

 こんな男、蘇生されんと死んどったほうが、マシじゃった!

 ──お天道さま! 助けてくだされ!」

 ソラトバンは、祈った。

「せめて、秘密だけは、守らせてくれ!」

 

 ダラダラと汗流すソラトバン。

 その姿を見て、ナイフの男が「フッ」と笑った。

「なぁ、ソラトバン君。俺だって、罪のない村人を、傷つけたくはないんだぜ・・・?」

「・・・。」

「知っていることを話す。それだけでいいんだ。そうすりゃ、苦しまずに済むんだ・・・」

「・・・。」

「さ、話してくれ。あの日、何があった?」

「う・・・む・・・」

 ソラトバンは、生唾を呑み込んだ。

「あ・・・あんたら一体、誰じゃ? 名前ぐらい、聞かせてくれても──」

 

 ガツン。

 衝撃。

 ・・・意識を取り戻してから、ソラトバンは、自分が殴られたことを理解した。

 

「時間稼ぎはやめろ。元に戻れんようにするぞ?」

 ナイフの男が声色を変えた。

 あ、コイツ、わしを殺す気じゃ。

 しゃべってもしゃべらんでも、どっちみち、殺されるようじゃ。

 クソぅ・・・。

 涙がこぼれる。

 どうせ殺されるんなら、いっそのこと・・・!

 と考えた、そのときであった!

 覆面どもが、騒ぎ始めたのは。

「止まれ! それ以上近付──ぐえっ!」

「なんだおまえは? 女──ぐえー」

「敵襲! 敵しゅ──ぐええ」

「コイツを押さえておけ」ナイフの男が立ち上がった。「何があった!」

「敵! エルフの女、2人組m──うぐええ!」

 騒ぎが近付いてきたかと思うと。

 

「木霊に呼ばれて来てみれば、あにはからんや、非道の現場」

 サクリ。

 草を踏む、軽やかな音がして・・・

 白い衣が、ふわ~んと、ふくらんで・・・

 陽光の輝きのごとき、金髪ポニテが波打って・・・

「見過ごすことなど、できはせぬ。我が名・ルーンに、悖る(もとる)こと」

 

 白い肌したエルフの乙女が、降臨したのであった!

 

◆ 5、通りすがりの ◆

 

「・・・何者だ」

「下賎(げせん)の賊に、名乗る名はなし」

 白い衣のエルフの乙女。

 長い耳を後ろに伏せて、綺麗な歯をうっすらと見せた。

「ただ、こう言うておく──通りすがりの裁きの剣(つるぎ)、と」

「ふざけたヤツ」

 と、短い会話をしておるうちに。

 ザザザッ! 覆面どもが、取り囲んだ。

 人数は、さっきと同じ。欠けてはおらぬ。ただ、黒いマントに土と草がついておる。

「このエルフ、手練です」

「捕らえようとしたら、投げ飛ばされ」

「もう1人、やはりエルフの女がいたのですが・・・消えました。おそらく、魔術師」

「そうか」

 ナイフ男はうなずいた。そして、

「このエルフを殺せ!」

「了解」

 ジャリジャリ、ジャリン!

 覆面の賊徒ども。

 マントの中から、剣抜いた。

 その剣は、短め。前腕と同じぐらいの長さ。

 じつは、帝国軍人が好んで使う小剣(しょうけん)である──が、ソラトバンには、それはわからぬ。

「殺す、と言うたに?」

 腰にある長剣の柄に、やんわりと手を乗せて。

 エルフの乙女は、ほほえんだ──

 

「ならば、死をもって裁きとする」

 

 ──いや、ほほえみではなかった。

 唇をうっすら開き、半目に全周を流し見る、その表情は。

 殺意の、表明であった。

 

 シャリーン・・・。

 

 鈴の音のような音がして。

 絹の衣のように、刃が閃いた。

 ──抜き打ち! 小剣もろとも、覆面の男、真っ二つ!

 刃は、ツバメのごとくに、翻る(ひるがえる)。覆面の男、真っ二つ!

 左右同時にとびかかったものを! ひと呼吸の間に、2人とも!

 

「・・・!?」凍りつく覆面ども。

「斬りかかった者は、もれなく、こうする」エルフの乙女は、淡々と告げた。「いかに?」

「──た、退却! 全員退却! 樵は始末しろ」

「た、退却ぅー」

 覆面どもが叫び交わし、四方八方に逃げ散ってゆく。

 ソラトバンは、押し倒された。「うぎゃー! やめてくれえ」

「あきらめろ」

 左右の男が、小剣を突き出す。

 ああソラトバン! その生命、風前の灯火!

「愚か者!」

 エルフの乙女が、パッと指を振った。

 指弾!

 左の男に弾が命中して「あ痛っ!」、

 右の男は、目に見えん何かにドンと突き飛ばされて「うおっ!?」、

 ・・・ソラトバン、なんとか、死なずに済んだ!

 どてーん!

 こける。

 ムチャクソ痛い。縄で上半身縛られとるせいで、受け身も取れぬ。

 だが文句言うとる場合ではない! 覆面ども、あくまで命令を果たそうとしておる。

 芋虫ジャンプ!

 ビヨーンと跳ねたソラトバン。なんとか小剣の一撃をかわした。

 そこに、もう1人の覆面が迫る。

「げつれいじゅつ、みかがみ!」女の声がした。

 ソラトバンの位置が、ズレた。

 覆面は、ズレたソラトバンを追いかけ、逃さず、突き刺した!

 ガチーン!

 ソラトバンは、粉々になった・・・そして、元の位置に、現われた。

「は?」とソラトバン。

「げ、幻影!?」覆面、土に刺さった小剣を抜いて、「月霊術──ルーンマンサー(月霊術師)かッ!」

 ふわり・・・。

 エルフの剣士が、間を詰めた。

 一閃。1人死んだ。ツバメ返し。2人目も死んだ。

 戦闘終了。

 

 通りすがりのエルフの剣士の、圧勝である。

 

◆ 6、スカルドのハル ◆

 

 ぴしゃっ。

 金髪の女剣士が血振り(ちぶり)をした。

 半目のまま、エルフの耳を左右に動かす。

 して、

「・・・どうやら、逃げたようやに」

 と、結論を出した。

 すると、もう1人の女も声を発した。

「お兄さん、大丈夫かに?」

「だ、大丈夫じゃ」

 と答えて、そっちを見て。

 誰も居らん・・・。

 と、気付いて。

「ひぃぃ!? お化け!」

 ビビったソラトバン。後ろに倒れる。

 ゴチン。頭打った。

「おう! 痛い!」今回、最大のダメージである。

「なにしておるのえ」と金髪のエルフ。

「あなや。ごめんに?」

 と、お化けが謝った。

「私も、姿現わすことにするえ」

 そうして、声のあたりに・・・

 モヤモヤモヤ・・・

 白い霞(かすみ)が、立ちのぼって・・・

 エルフの乙女が、もう1人、現われたのであった!

「お・・・女子(おなご)のお化けじゃ!」

 ソラトバン、びっくりである。

 現われたるは、灰色美人。

 灰色の髪をした、エルフの乙女であった。

 これまた、美人である。かすかに金色がかった灰色の髪が、淡い肌にじつに似合っておる。

 にっこり。

 ほほえむ灰色美人。

 幽霊の笑い・・・ではない。とても優しい、ホッとする笑みである。

 修羅場(しゅらば)直後のソラトバンも、震えが止まり、その笑顔に見惚れてしまうほど。

 まるで、お月さんみたいに、綺麗なお顔じゃ・・・。

「じっとしとき。いま、ほどいたげるに」

「はい」

 縄、解いてくれた。

 灰色の乙女。たおやかな手で、パンパンと服の土を払ってくれる。

「・・・いやいや! じ、自分でやりますじゃ!」

 ソラトバンの、あわてんことか。

「御前(ごぜん)、どうか! お手が汚れますで」

 などと、村のジジイのような口調となって、アタフタしたのであった。

 

 ソラトバンを助けてくれた、エルフの乙女2人組。

 輝くような金髪の剣士。その名も、通りすがりのエルフの剣士。

 モヤモヤした灰色の美人さん。お化け。

 ──誰がどう見ても、ただ者ではない。ソラトバンでも、それぐらいは、わかる。

 

「エルフの御前。あんたがたは、一体・・・?」

「我が名はジャs──「オホン! その問いには、私が答えますえ」

 金髪剣士がしゃべりかけ、灰色美人が咳払い。

「・・・え、ちょ」「・・・ここは私に任しなえ」「・・・私のが歳上」「・・・ええから!」

 ケンカしだした。

 なんじゃ一体・・・。

 ソラトバン、灰色美人を見る。

 なんか、えらい荷物持ってらっしゃる。

 背負い袋、水筒、でっかい革袋、束ねた縄に、丸めた毛布。鍋。

 もしかして、剣士さんの荷物まで持っておられる・・・?

 可愛らしい姿して、デカすぎる荷物。

 何モンじゃ・・・?

 さて、その灰色美人。

 言い合いに勝ったらしい。金髪を黙らせて、話し始めた。

「──こちらにおわすは、いとやんごとなき御方」

「いとやんごとなき」

「ごっつい高貴。そやに、みだりに御名を問うてはなりませぬ」

「はぁ」

 ソラトバン、当惑である。

 いとやんごとなき御方、ごっつい不満そうに、地面から弾拾っとるけどもが・・・?

「ゆえに、私が代理を務めまする。ハルとお呼びくだされ」

「ハルさま」

「はい。スカルド(弾唱詩人)のハル」と灰色美人。「御用は私まで」

「あ、はあ」

 なんの決まりかわからんが・・・

 まあ、生命の恩人の言うことだし・・・

「・・・ほじゃ、えー、ハルさん、いとやんごとなき御方と、お二方にじゃが」

「なにえ?」いとやんごとなき御方、気さくに返事しよる。

「生命を助けて頂いて、ありがとう。この通りじゃ!」

 ソラトバンは、ひざまずいた。

「なに。当然のことをしたまで」

「こうおっしゃっておられますに、さ、お立ちになって。ああ、ほら、また膝が汚れた」

「あー、いやいや! ハルさま!」

 またハルが膝はたこうとしてくれるのを、あわてて自分でパンパンしつつ、

「お礼と言うても、干し肉と安酒ぐらいしかないんじゃが、」

「ふむ。酒には肉y「どうぞ、お構いなく!」

「いえいえ。そんなモンじゃが、家まで来て、受け取ってくださらんか?」

「お家はどちらに?」

「この近くの村で、樵をやっとるんじゃが」

「あ、それは助かりますえ。私ら、道に迷うたところで」

「迷っておられたんか」

「そえ!」

 金髪の剣士。元気に返事。

「道がわからんなって、どないしたもんかに? となっておったところ、」

「かこーん、かこーんと、木ィ切る音が聞こえまして、」

「これ幸い、道をば訊ねんと、木霊に呼ばれて来たならば、」

 金髪剣士、ポニテをぱっと振って、小さく見得を切った。

「非道の現場、これあり。裁かずにおれぬは、このジャs「つまり、迷子なのですえ!」

 

「おお・・・!」

 ソラトバンは、天に感謝した。

 木ィ切る音。望んだ相手には、届かんかったけれども・・・

 

 救いの主には、届いてくれたんである。

 

◆ 7、村の珍事 ◆

 

 夕方。

 美しいエルフの乙女らを、村に連れ戻ったソラトバン。

 そりゃあ、もう、大騒ぎになった。

 

「ソラトバンのヤツが、えらい美人連れて来よったがじゃ!」

「エルフじゃ、エルフの娘っ子じゃ!」

 

 なにしろ、珍事である。

 いったい、どのくらいの珍事であったのか?

 それは・・・

 

 村の長老ですら・・・

「わしゃ、生まれて70年になる。魔王の全盛期も知っておる。その頃、わしはまだ若く、力も強く、」

「おじいさん、結論はなによね」

「ええい、つまりじゃ。こんな美しいエルフのお嬢さん、わしも初めて見るっちゅうことじゃ」

「ああそうね? ──おじいさん、ちょっと話があるけぇ」

 ・・・と、婆さまと言い合うほどの、珍事である。

 

 ソラトバン。

 ワアワア騒ぐ村人をかき分け、自宅にたどり着く。

 とにかく・・・とにかく、綺麗な水を汲んで、お出しして。

 お2人が手を洗うとるあいだに、何とか他人様にお出しできるようなものを・・・と、バタバタする。

「ホンマに、お構いなく」

 などと、灰色美人エルフのハルさんはおっしゃるが。まさか、そんな。

 何か喜んでくれるもの・・・

 荷物にならず、食当たりの恐れがなく・・・

 気に入らん場合には、売り飛ばすこともできる・・・

 そんなもん、ありゃせんわ! どうしたらええんじゃ、これ!

 ・・・となっとるところで、

「ときに、おうかがいしますが」ハルさんが言い出した。

「はいはい! なんですかのう?」

「正義の鬼械人──の、ウワサ。御存知ありませんかに?」

「!?」

 ソラトバン、硬直す。

「し、知らん。鬼械人の乗り手なんぞ、わしゃ知らんぞ!」

「あらら」

 灰色美人さん。

 綺麗なお顔を拭きつつ──その灰色の瞳が、キラーンと光った! のに、ソラトバンは気付かなんだ。

「じつは、私ら、ショラン・ギサンチ州を旅しておりまして、」

「なんじゃと?」

「ショラン・ギサンチ州」

「?」

「お隣の属州やに、知らんのかに?」と金髪剣士。

「知らんわい」

「無知な樵やに」

「すまんことじゃ」無知な樵、謝った。

「これ、おジャス。お黙り」「おジャスてなにえ」「そなたの仮名」「カッコ悪すぎやに!」

 美人2人、しばらく言い合いしたのち・・・

 金髪美人、おジャス。またしても、黙らされ・・・

 灰色美人のハルさんが、こう言い直した。

「私ら2人、お隣の属州を旅しておったところ、」

「はあ」

「正義の鬼械人のウワサで、持ちきり」

「なんじゃと」

「いわく──危難に見舞われた、太陽の信徒!」

「はあ」

「颯爽と現われたるは、謎の鬼械人! 胴丸く、腕長き、鉄の巨人!」

「・・・ほ、ほう」

「賊どもは、ナンガラックを持ち出して、鉄鎖でもって、襲いくる」

「うむ!」

 ソラトバン。つい、聞き入ってしまう。

「恐ろしき鉄鎖! そやに、正義の巨人は、ビクともせぬ!」

「はっはっは、そりゃどうかのう?」

 悲鳴上げとったがのう? チラーニの兄貴は。

 いやあ~、これは、秘密じゃから。言えんなあ~。

「罪なき民を守ってみせると、ナンガラックを打ち倒す! あっぱれ、正義の鬼械人!」

「おおう!」

 ぱちぱちぱち!

 ソラトバン、拍手。

 自分の活躍を、褒めてもらう。

 なんと気分のええことか。恥ずかしく、うれしい!

 しかも、美人。しかも、エルフ。生命の恩人。

「そ、そうか~! チ・・・いやその、正義の鬼械人は、すごいのう~!」

「まことに!」

 ハルさん、にっこり笑って、一緒に喜ぶ。

「この話、テッペンサーニなる修道騎士さまから聞いたのですが、」

「ん? レッケンサーニ殿じゃろ?」

「ああ、そうそう!」

 灰色美人の目、またキラーンとする。

「・・・で、こちらにおわす御方が、褒美(ほうび)をやるべし! と」

「いかにも!」

 こちらにおわす金髪剣士。おジャスさん。話に入ってきた。

「ぜひ、褒美を授けたい。そなた、なんか、知らんかに?」

「い、いや」

「ホンマに、褒美したいだけやに。家名の誇りともなる褒美え?」

「褒美・・・いやいや。わしに言われてものう~? わしゃ、ただの、樵じゃし~」

 ソラトバン。

 もはや、バレバレ。

 秘密もなんも、あったもんじゃない。

 『いやあ・・・実は、わしなんじゃけど?』と、ニヤケた顔が言うておる。

 誰か言うたってくれ。『顔に出とんねんボケェ~』とか『オマエの手柄ちゃうわ阿呆ゥ~』とか。

「──そなた、何か知っておるに?」ほらバレた。

「えっ」

 ソラトバン、ニヤケとった顔が、一瞬で硬くなる。

「し、知らん! なにも知らん! あー、え~~~とォ、干し肉はどこやったかのう!」

 逃げる。

 家の奥に、引っ込んだ。

「・・・おジャス! 余計なこと言いなえ」「この我に向かって、余計やと」「失言おジャス」「・・・。」

 美人2人、またケンカしだした。

 助かった。

 もうちょっとで、わしが秘密知っとるの、バレるとこじゃった(バレてます)。

 ソラトバン。表情を隠そうと、床下収納に頭突っ込んだ。

 ──おっと? 怪我の功名。

 ええもん見っけ!

 酒じゃ。

 おっ父が生きとったころ、祭で手に入れたヤツじゃな。

 病で死にそうになったとき、「呑むか?」と訊いたんじゃが・・・

 ・・・うむ!

 これなら、贈りモンとして、恥ずかしゅうないわい。

 たしか、どこぞの属州の、麦の蒸留酒で・・・

 ラベルを見れば・・・

 読めん。

 (学識豊かな読者の皆さんならば、『ショラン・ギサンチ州』の名が、読み取れたはずですえ。)

 これを持って出たところ。

「ソラトバン。噂は聞いたぞ!」

「あれ? 村長どん」

 なんと。

 戸口に、白髪頭のジジイ──村長さんが、来ておった。

「えらい目に遭うたそうじゃな?」

「はあ。まことに」

「こちらのお二方に救われたとか」

「そうじゃ。生命の恩人じゃ」

「そうかそうか。よっしゃ! 後は任せよ。できる限りの歓待をするでのう」

「え」

「さ、さ、お二方。やんごとなき御方には、むさ苦しい所じゃが・・・」

 村長。

 美しいエルフ2人を、連れてってしもうた。

「は?」

 ソラトバン。

 お礼の酒も渡せぬまま・・・

 まーた、1人ぼっちとなって・・・

「・・・。」

 自宅で、ポカーンとするのであった。

 

 と、まあ、これほどの珍事だったわけである。

 

◆ 8、おにのふみ ◆

 

「空。・・・おい、空」

 空か。

 もう、すっかり暗くなってしもうたのう。

 お月さんも昇っとるわい。お星さんを従えてのう。

 あれがルシーナ、アニマーリス・・・

「コラ! ソラトバン」

「ひっ!?」

 ソラトバン、跳び上がる。

 完全にボケーッとしておったのが、やっと我に返った。

 声のしたほうを見る。

 扉の外の暗がりに、誰か居る!(扉にガタが来とるで、隙間から見えよんじゃ。)

「だ、誰じゃ!」

「静かにせえ」

「・・・怒鳴ってきたくせに、静かにせいなどと言う」

 ソラトバン、扉開ける。

 赤き小男が、戸口に立っておった。

 あ、ゴブリンの兄貴か。はいはい、わかったわい。

「再鬼どん」

「数鬼(すうき)じゃ」

「ありゃ」わかってなかった。「すまんことじゃ」

「文(ふみ)や」

 パシン。

 数鬼。

 ソラトバンの手に、石の入った文を、渡した。

 ・・・手渡し?

「騒がしいのう」

「・・・ああ、それで、直接来たんか? 投げ文じゃのうて」

「ウム」

 沈黙。

 ・・・この兄貴、会話ヘタクソじゃな。

 じゃが、判断は的確じゃ。ええとこに来てくれた!

「数鬼どん。じつは、伝えねばならん事件があってのう・・・」

 

 ソラトバン。

 今日のことを、話して聞かせた。

 

「盛りだくさんやな」

 一言だけ感想を残して、数鬼は去った。

「まったくじゃ」

 ソラトバンは、つぶやいた。

「もうたくさんっちゅうことじゃ。わしゃ、ヘトヘトじゃ。2・3日は、のんびりして・・・」

 

 ┏

 ┃  」 」

 ┃ (・へ・)

 ┗

 

「明日かーい!」

 

 ──と、いうわけで。

 

 バッツワーノ隊長の現われた、この日。

 ソラトバンには、これだけのことが起こったんである。

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