◆ 9、ソラトバン、飛び起きる ◆
「うわあ! 寝過ごした!」
ソラトバン、飛び起きる。
身支度も、そこそこに・・・
家を、飛び出して・・・
村の中を、走ってゆく!
「えらいこっちゃ。すっかり、日が昇ってしもうた!」
「おう、ソラトバン」
「ハァハァ・・・リダーニどん」
森ン中で、狩人3人組に出会うた。
リダーニどん。
ソラトバンに良くしてくれる、いくつか歳上の狩人である。
子供ンときから友人で、ソラトバンが『巨人が空飛んどった!』と騒いだときにも、
「わっはっは! その巨人、いつか話ができたらええのう?」
と、言うてくれた。
そういう兄貴が、
「ソラトバンよ。わしら、ざっと歩いて来たんじゃが、人の姿はなかったぞ」
と、情報をくれた。
仲間2人も口々に、
「足跡はようけ(仰山)あったがのー。血の痕もあったしのう?」
「ほじゃほじゃ。もう引き揚げとるようじゃの。テント痕を見つけたんで、クマ来たみたいにしといたったわい」
狩人の兄貴ら、笑う。
「せいぜいビビったらええんじゃ」「わしらの狩場で村のモン襲いよって」「ほじゃ。ケツまくって逃げるがええわい。わっはっは」
「おお。ありがたい」ソラトバン、3人に感謝した。「兄貴らに見てもらや、安心っちゅうもんじゃ」
「なーに」「気を付けての」「ほじゃの」
先へ進む。
そして、無事、指定の場所に──
「よう、ソラ」
「ハァハァ。すまん。姐御。お待たせしてしもうた」
──チーニャの姐御の待つ、綺麗な広場に、たどり着いたのであった。
◆ 10、合わせて六腕ロボ ◆
チーニャの姐御。1週間ぶり。
黒髪も美しい、おっぱいでっかい鬼械人乗り。
後ろでまとめて短く垂らした髪型が、大人っぽい顔を引き立てておる。
男物の上着。胸のとこ開けておる。シャツが・・・今日も、すごい双丘になっておる。
そんな姐御の隣に、赤い小鬼も居った。「よう」
「再鬼どんも、1週間ぶりじゃ」
「ウム」ゴブリンの再鬼どんである。
「遅れて、すまんことじゃ」
「いや。見てから来たからな」
チーニャの姐御、白い指で、上を指す。
ブ ー ン ・・・。
かすかな羽音を立てて飛んでおるのは──青灰色した、八本足の物体。
「・・・空飛ぶカメか?」
「タコ」とチーニャ。「チラーニの偵察機だよ」
「ああ、空から見るやつか!」
「そうそう。それで、おまえが来るのを見てから出て来たのさ」
チーニャの姐御、にっこり笑って・・・
ふと、目を逸らした。
「えーっと、ま、とにかく、塔に行ってからにしよう。昨日の今日だしな」
「了解じゃ」
「ほな、六腕ロボ取ってくるわい」
「りくわんロボ?」
ふわ~ん・・・。
浮遊してきたのは、でっかい猿であった。
赤い、巨猿である。
チラーニどんよりは小っちゃいが、人間よりはずっとデカい。
肩のとこに4門の砲を備えておる。見るからに鬼械人というわけであった。
にしても・・・
なんというか・・・
ずんぐりむっくりした体型である。
胴体はチラーニどんと変わらんぐらいデカいのに、手足は短いので・・・
とても、胴長短足な体型になっておる。
あと、この鬼械人には頭があった。再鬼どんの顔みたいな、赤くていかつい鬼の面がついておる。
その顔がギロリとこっちを睨んでおるようでもあり、どことなく愛嬌のある感じでもあった。
着陸。
カパ。
胸のハッチ、開く。
ゴブリン3人、顔を出す。
「あ、こりゃ、正鬼どん。数鬼どん」
「よう」「よう」
相変わらずどっちがどっちかわからん。まあ返事した順番通りなんであろう。
「どや? 六腕ロボは」再鬼どんが自慢してきた。
「ごっついのう。赤くて強そうじゃ」
とりあえず褒めた。まあ強そうなのは本当だし。
「りくわんって、なんじゃ?」
「腕六本っちゅう意味や」「そこからか」「学ないのう」
「すまんことじゃ。そうか。・・・ほじゃけど、腕、2本じゃないか?」
「よう見ィ」
数鬼(正鬼かも知れん)に言われて、よく見てみた。
グルッと回り込んで、六腕ロボを見てみる。
腕は2本、足も2本である。どっかに隠れておったりはせぬ。
「・・・よく見ても2本じゃが?」
「砲があるやろ」
「あ、うん」
右肩に2門。縦に積んだ感じで砲がある。
左肩にも2門。同じような砲がある。
チラーニどんの肩砲を縮めたような感じの、小型砲である。
「合わせて六腕や」
「2腕と4門でっちゅうことか」
「そうや」
「二腕四門ロボじゃないか」
「細かいこと抜かすなボケ」「ケツの穴の小さい餓鬼や」「もっぺん蘇生されて来いオマエ~」
流れるがごとき罵倒。
「わかったわかった。六腕ロボじゃ!」
ソラトバン、降参である。
「いや、実際、強そうでええのう? 小回りも利きそうじゃし、顔もいかついし」
「フン」
再鬼どんは鼻を鳴らしたが、
「ほな、姐御。使うてくれい」
と、譲った。
ピョーンと跳んで、ダイナミック降機。ピョーン、ピョーン。正鬼と数鬼も続いて地面に降りた。
「悪いね」
「弐ノ塔の戦士、借りとんは(借りておるのは)こっちや。どっちみち、森の調査もせなアカン」
再鬼どん。
正鬼・数鬼を引き連れて、茂みに消えようとした。
「あ、再鬼どん」
「なんや」
「うちの村の狩人も森ウロついとるんじゃ。ほじゃけ、注意してくれ」
「・・・?」再鬼どん、こっち見てきた。
「なんじゃ?」
「知らんのか」
「何をじゃ?」
「秘密なら、秘密でええわ」消えようとした。
「ちょ。狩人の兄貴はわしに良くしてくれとんじゃ。いじめんでくれよ?」
「・・・。」再鬼どん、しばし考えてから、「おまえンとこの狩人とは、顔見知りや。いじめはせん」
「え」
「ほなな」再鬼どん、消えた。「村のモンには黙っとけよ」
「初耳なんじゃけど!?」
「とっとと乗れ」
いつの間にか六腕ロボによじ登っとるチーニャ姉さんに、催促された。
六腕ロボに、よじ登る。
ハッチから中見ると、2列の座席があった。
前は1座席。これは、乗り手の席であろう。
後は、横並びに2座席。
いずれも小さい。ゴブリンサイズである。
「初めましてじゃ。六腕ロボどん。ソラトバンじゃ。お邪魔します」
<ウム>
六腕ロボ、鬼の面のあたりから、声がした。
同時に、乗り手席の前にある声玉(こえだま)からも、声が響いておる。
二重に聞こえる。不思議な感じ。
<俺は、ウッキー>
「うく、おに、で浮鬼だ」
「なるほど、なるほど。浮いとったもんのう」
ソラトバン、真面目な顔してうなずく。
正直、笑いかけたが。
名前を笑われると、ムカつくんじゃ。そのことは、よ~くわかっとる身じゃからして。
<ソラトバンか>
「そうじゃ」
<けったいな(へんてこな)名前やのう! ウキキ>
こいつ笑いよった!
◆ 11、チーニャと2人で ◆
<なんや? 姐御、窮屈やろ。後ろに座ったらええのに>
「ソラはまだ客人だからな。責任がある」
乗り手席に座ったチーニャ。
えらい窮屈そうに、長い足を折り畳んでおる。
あの・・・
おっぱいに膝が当たって・・・
揉み上げるみたいな形になって・・・
シャツの襟から、なめらかな肌が、ぷりーんって・・・
ま、まあ、ゴブリン用じゃからな。姐御も背ェ高いほうじゃし。しょうがない。うん。
・・・ゴクリ。
ソラトバンは、後ろの席である。
左右あるが、とりあえず、右に座った。
押さえ棒がないのでキョロキョロしとると、チーニャが振り向いてきた。黒い束ね髪がピョンと跳ねる。
「ベルトで留めるんだ」
「ベルトか」
座席についとるベルト。これで、肩と腰を留めるらしい。
短い! 肩がうまく収まらん。
苦戦しとったら、腕が握り棒に当たった。
<右肩砲、発射準備よーし>
「撃つな撃つな」
「すまん。当たってしもうた。──っちゅうことはアレか。ここは、弓手席か」
<そや。オマエの座っとる席は、右肩2門の担当や>
「なるほど」
たしかに、握り棒、縦に2本並んでおる。
そして顔のあたりにパイプがある。
覗いてみれば、外の景色が見えるではないか。
<覗き鏡や>
「これで狙いつけるわけか」
<そや。狙いはついたか? ほな、撃つか?>
「撃つな撃つな」
チーニャの姐御とソラトバンが座席に落ち着いたところで、早速、移動である。
「起動は省略。浮鬼、発進準備いいか」
<ホイ。いつでもオッケーや>
「弓手、いいか?」
姐御の黒髪がまたクリッと跳ねる。
膝のあたりから美人が見上げてくる。しかもその胸元がかなり見える。
これまでにも増して、目のやり場に困るお姉さんになっておる。
「お、おう」ソラトバン、うなずいて、すぐ目をそらした。「弓手、よしじゃ」
「・・・ん。では発進」
<よっしゃ、行くでー>
わずかな揺れを感じただけ。
浮上した六腕ロボは、森の中をスッタラスッタラ走り始める。
乗り心地は、かなり良かった。やはり、前向きに乗るほうが、気分ええもんじゃのう。
覗き鏡を覗いてみれば・・・ビシバシと木の枝が当たってくるので、あんまり景色は良くなかった。
<2人はなんや。どんな関係なんや>
浮鬼が、うわついたことを抜かし始めた。
「客人だって言ったろ」
「姐御はアレじゃ。わしを巨人に会わせてくれた恩人じゃ」
<なんやオマエ、チーサーニャ好きなんか巨人好きなんかハッキリせんかい>
「な、なんじゃいきなり。姐御に失礼じゃろ」
<なんやボケェ~・・・>
どっかで聞いたような口調で浮鬼がブツブツ言うた。
<まあええわ。巨人、好きなんか?>
「お、おう。大好きじゃ。子供ンときに見て以来──」
<変わっとんのう! 清雅と気ィ合うんちゃうか? ウキキ!>
「・・・。」
イラつくんじゃけど。
けどもが、ここはガマンじゃ。初対面じゃしのう。
「ほ、ほ~ぉ。清雅も、巨人が好きなんか」
<そらそうやろ。オーガの男はみんな巨人やぞ?>
「は?」
<オマエにはビックリやわ。そうか、そらチーサーニャみたいな美人にも興味ないわな~>
「いやちがうぞ! わしゃ男なんぞ興味──」
<わかっとるがな! からかっただけや。キキキ>
森の中を駆け抜けた浮鬼。
とある崖の近くまでやってきて、スピード落とす。
そして・・・
ふわ~ん・・・と、空中に浮かび上がると・・・
見る見るうちに何尋もの高さに舞い上がって・・・
崖の隙間に、スイーッと入り込んだ。
「おうっふ」
浮上の感覚に慣れとらんソラトバン。内臓の重さに、声が出る。
「今日は、塔は出さないことにしたんだ」チーニャさんは平気な感じである。「どうしても目立つしな」
<ワシなら、撃竜界でさんざん見られとるしのう>
「浮鬼どん、撃竜界の戦いに出とったんか?」
<あ、それは秘密や。悪いがな>
「すまんことじゃ」
<ウム。ま、アレや。同型機がいっぱい居んねん。俺はな。チラーニの兄貴と違うてな>
「なるほど」
<ナンガラックみたいなモンや。最悪見られても・・・っちゅう機体なワケや>
岩の隙間を、ゆっくり歩く。
そして、巨大な裂け目に出た。
底が見えんほどの、深い、深い、大洞窟──
──に、浮鬼が飛び降りた!
「ひぃぃ!」
落下の感覚に慣れとらんソラトバン。今度は悲鳴である。
「うひぃ~~~」
<なんや、男が情けない! 大したことないぞこんなモン!>
「あははは」
2人に笑われてしもうた。
「う、ううう、おおお」
空飛ぶっちゅうのは、こんな恐ろしいモンなんか?
飛行塔に乗せてもろたときは、全然恐くなかったのに!
・・・あ、そういや、あン時ゃ、姐御の裸に夢中じゃったわ。
などと、しょうもないこと考えとるうちに。
浮鬼が、トーンと地面を蹴る反動が伝わってきた。
そして、覗き窓の中に・・・
ぼんやりと、輝きながら・・・
飛行塔の正門が、浮かび上がったのであった。
◆ 12、こうれいの、準備 ◆
「おう、ソラァ! どや? 恐かったやろ? ア? ン?」
浮鬼から降りると、さっそく清雅が絡んできた。
茶色の髪した鬼っ娘。
今日も綺麗な黄色の衣。唇の端っこにチラッと見える、可愛いキバ。
「お、おう・・・ちょっと、まだ、足がガクガクするわい」
「やろうな! ウキキ!」
ニッコニコの笑顔であった。
こいつ、浮鬼に似たんじゃな・・・と、ソラトバンは思ったが。
たぶん言うと叩かれるじゃろうな・・・とも思ったので、黙っといた。
<仲ええやないか、清雅。少年愛に目覚めたんか?>
「あほー! サルは壁に繋がれとけ」
<ウキキ>
「・・・なんじゃ、少年愛とは」
「浮鬼の言うコト真に受けんな。聞き流しとけ」
「はぁ」
「こっちは順調?」チーニャも降りてきた。
「おう! ウチのほうはいつでも行けるで。あの杖があればな」
「そうか。じゃあ、やるか。──浮鬼、ありがとう」
「浮鬼どん、た・・・楽しかったわい」
<おうwww>
浮鬼、笑いながら駐機処置を受けておる。脇と股間に鉄骨挟んで縛りつけるやつである。
この駐機するやつ。
なんか、縛りつけとるみたいで、かわいそうなが・・・と思うソラトバンであったが。
後で聞いたら、こうでないと、まずいらしい。
っちゅうのは、鬼械人も眠ることはあるからである。
万が一にもコケたら、大惨事になる。多少かわいそうでも、キチンとせにゃならんと。
それにしても、立ったまま縛りつけられて眠らにゃならんとは、かわいそうなが・・・とも思ったが。
チラーニみたいな大型機は、横になって寝るとあちこちブッ壊れるので、逆に困るそうである。
立ったまんま眠るの、苦痛ではないんだとか。
<グー・・・>
おっと。言うたそばから、浮鬼どん。いびき立てて熟睡しておる。
「うるさいんが静かになったわ」と清雅。
1人はな。と心の中でソラトバン。ぼすっ。背中どつかれた。なんでバレたんじゃ。
この朝、格納庫には、4体の鬼械人が並んでおった。
左手の壁に、浮鬼。グースカ寝ておる。
右手の壁に、トンボ。こちらは遺体である。
正面の壁に、チラーニ。と、チラーニ。
「チラーニどんが2人居るのう」
「降霊先や」
右に、ハッチの開いたチラーニ。ズタボロになった背中がチラッと見えておる。
左は、サラピン(まっ更の新品)のチラーニ。清雅の言う『降霊先』は、こっちである。
「身体を引っ越すなんちゅうこと、ホンマにできるんじゃな」
「ふつうにはできへん。鬼術師の仕事や」清雅さん、胸を張る。
「おお、えらいえらい。いてっ」またどつかれた。
「チラーニ。ソラが来たぞ。そろそろ始めるぜ」
<んー・・・?>
間延びした反応が、ズタボロなチラーニのほうから返ってきた。
<あ、ソラ。おはよう。・・・朝だよね?>
「そうじゃ。ここは真っ暗じゃけ、わしもわからんがのう」
<いまからやるの?>
「ああ」とチーニャ。
<じゃあ、お願いね。あ、そうだ。俺が抜ける前に、全員退避してね>
「わかった。整備員、集合!」
≪整備員、集合でござるー!≫
わーっと、コボルドが集まってきた。
汚れた整備服を着たのが、チラーニの足元から、空中歩廊から・・・
コボルド用鬼械人・ドリノンに乗っとったヤツらは、乗ったまんまで・・・
ワラワラと集まってきて、チーニャの周囲でグチャグチャになった。
「点呼ォ!」
「いっち!」「にい!」「さん!」「しぃ!」・・・「しっち!」「はち!」「じゅう!」「全員いるでござる!」
「オイ待てや」と清雅。「いま9飛ばしたやろ」
「9はどいつだ」とチーニャ。
「・・・。」「・・・。」「(´・ω・)」「(・ω・`)」
「探すか・・・」
「あ、チー姉、ウチにやらしてくれ」
清雅が、魔泉の杖を取り出した。
先週の戦いの鹵獲品。トンボの乗り手が所有していた、きらびやかなワンドである。
「こいつのマナありゃ余裕や」
「降霊の分は・・・」
「余裕やって」
清雅さん、上機嫌である。
「みんな静かに。コボルド、音聞いといてや。ええか?」
その魔泉の杖で格納庫をぐるーっと指しながら、清雅が呪文を唱えた。
「この杖の先、壁まで──あ、1尋以下な。『生命探索・鈴音(すずね)』」
チリリーン・・・鈴の音がした。
「あそこでござる!」「突撃ー!」コボルドが突進して、「発見ェーん!」「寝てたでござる!」
目をショボショボさせとるコボルド整備員を引きずってきた。
あらためて点呼。全員いることを確認。トンボの側の空中歩廊へ、全員で退避。ドリノンは空中に浮遊。
≪ただいまより、玄関への立ち入りを禁止します。扉を施錠します・・・施錠しました≫
弐ノ塔母ちゃんのアナウンス。
「ほな、始めよかー!」
<はいな>
清雅とチラーニの声が、格納庫に響く。
「チラ兄。今日のこの日は、『ソラ・トンボの日』と呼称するからな」
<了解。ソラ・トンボの日ね>
◆ 13、ソラ・トンボの日に帰れ ◆
「・・・降霊のときは、鍵となる言葉を決めるんだ」
チーニャがささやいてきた。
近い。
吐息がくすぐったい。
あと、腕に・・・
おっぱいが・・・
柔らかくて、困るんじゃけど?
「・・・ほ、ほぉ~う」
「・・・清雅は、降霊の日に名前をつける方式だ。ま、見てりゃわかるよ」
「ほんならァー、チラ兄ィー」
清雅が大声で呼びかける。
「ちょっとの間、お休みしてェー、故郷、帰っといでー」
<了解。じゃ、後で>
という会話があって。
ズタボロになっとる方のチラーニが、ギ・ギ・ギ・・・と、嫌な音を立て始めた。
「アカンか」と清雅。
「予想はしてた」とチーニャ。
チラーニの上半身が、前のめりになり・・・
背中が曲がり・・・
膝関節も、屈し始めて・・・
背中が、バキンガキンビシバシィ!!! と、もんのすごい音を立てて!
真っ二つになって!
床に、激突した!
ついで、膝が轟音と共に床に落ちた!
「うわあ! チラーニどんが、ちぎれた!?」
ドガァンとかゴオンとかガッキンベキベキとか・・・そういう音が、濁流となって、格納庫を荒れ狂った。
床一面にパーツが飛び散る。
金属の破片が宙を飛ぶ。
空中歩廊にいるソラトバンのとこにまで、小さな破片が飛んできた。
幸い、ケガするほどの速度ではなかったが・・・
「退避が足りなかったな」
「ンむ」
「お、お、落ち着いとる場合か!?」
ソラトバン、恐怖で震えておる。
なにしろ、ちぎれたのだ。
チラーニの上半身が、ちぎれて。地面に落下したんである。
何度も<ちぎれる~>との、泣き言は聞いとったけれども。
まさか、本当にちぎれるとは・・・。
「大丈夫や。鬼術師・清雅さまに任しとけ」
「よろしく、清雅さま」
「た、頼むぞ。清雅さま。いてっ」どつかれた。「なんでじゃ!?」
「任しとけ」
鬼術師・清雅さま。
ハシゴをテンカテンカテンカテン・・・と、降りて・・・
格納庫を横切って・・・
ちぎれたチラーニ──には、見向きもせず・・・
サラピンのチラーニの足元へ、移動した。
その足元を、グルーッと・・・
ダンスするように、回って・・・
「現世から、空飛ぶ台の故郷の世界に、橋架ける」
呪文を唱えた。
魔泉の杖で、空中に文字を描きながら・・・
「鬼械人・チーササラーニ、聞こえるかァー?
こちらは現世、鬼術師・清雅。チーサニーモも、一緒やで。
ソラトンボの日の、弐ノ塔から、おまえの帰る橋架けた。
この橋渡って、帰っといで。まだまだ現世で、やることあるやろ?」
清雅の歩いたところ、魔泉の杖が動いたところが、輝いて・・・
明るい光の円陣が、ふわんふわんと、踊ったかと思うと・・・
ギシッ。
サラピンのほうのチラーニどんが、音を立てた。
そして、
<あ ー ・ ・ ・ 。 や っ ぱ り、 ち ぎ れ ち ゃ っ た ね>
と、大きな声を出したのであった。
◆ 14、チラーニ、復活す ◆
「チラーニどん! 大丈夫か!」
ハシゴを降りたソラトバン。チラーニに駆け寄る。
その上着の後ろ襟が、掴まれた。「ぐえぇ!」
「まだや。近付くな。調整終わるまで」
「ちょ・・・調整」
「降霊直後は、万が一があんねん。生身で近付いたらアカン」
<あ、 そ う そ う ! 離 れ と い て ね、 ソ ラ>
「寝起きの馬や牛みたいなもんだからな」チーニャも追いついてきた。
「そ、そうか。なるほど・・・?」
ソラトバン、首をさする。
「ほで、調子はどうじゃ? チラーニどん」
<う ん。 シ ョ ッ ク は、 な い ね>
「そりゃ良かったのう。倒れたときは、魂消た(たまげた)ぞ」
<オ レ、 ず ー っ と、 言 っ て た よ ね ?>
「はいはい。ごめんごめん」チーニャ、受け流す。
<と こ ろ で、 声、 お か し く な い ?>
「おかしいな」とチーニャ。
「速度が7割ぐらいになっとる」と清雅。
<コノグライカナ?>
「倍速だろそれw」とチーニャ。
<ウンw ・・・このぐらい?>
「3割大きい」
<こうかな>
「お! チラーニどんっぽくなったわい」
チラーニは、バラバラになった旧チラーニの破片を拾って、壁際に片付けた。
整備鬼械人・ドリノンも降下してきて、手伝う。
ソラも手伝おうとしたが、「ドリノンに任せとけ」とチーニャに止められた。
「・・・それより、チラーニの相手してやってくれ」
「・・・相手とは?」
「・・・ふつうの会話でいい」
「・・・降霊直後は、不安になんねん。ホンマに帰ってきたんか? っちゅうてな」
「・・・了解じゃ」
というわけで。
ソラトバンは、今日の話をチラーニどんにしてやった。
「飛び降りたときは、死ぬかと思うてのう。悲鳴上げてしもたわい」
「ウキキ!」清雅にウケた。
≪右足首関節テストぉー≫
<はーい>
整備用鬼械人・ドリノンに乗ったコボルドの声に応じて・・・
チラーニが、関節を動かす。
足(コマみたいな形の)を、曲げ、伸ばし、ねじり、グリグリグリと軸回転して・・・
<ちょっと重いね>
≪滑膜(かつまく)剤、追加ぁー≫
ちゅー・・・。
ドリノンが足首に何かを注入。
ふたたび動作テスト。
<いい感じ>
≪ではー、左足首ぃー・・・≫
「気の長い作業じゃな」
「うん。・・・風呂行ってきてもいいぜ?」
チーニャが微妙に試すような表情でこっち見てきた。
「いま清雅が行ったじゃろ? 風呂」
さっき横のほうで「んじゃウチ、風呂借りるわ」「行ってらっしゃい」と会話しとった。
ソラトバン君。美人2人が風呂の話するのを聞き逃したりはせぬ年頃である。
「清雅に手ェ出したら殺されるとか言うといてからに・・・」
「言ったかなぁー?」
「イタズラな人じゃ!」
「にひひ!」黒髪揺らしてチーニャが笑う。
「──しかし、姐御。チラーニどん、あんなヤバかったんじゃな」
「はいはい。ごめんごめん」
「いや、文句じゃのうて」
「にひひ」
ほとんど丸一日かかって(外は真っ暗なので、よくわからんが・・・)。
あいだで休憩が入り、コボルドが浮鬼に乗って外に出てゆき、再鬼どんたちが入って来たりして・・・
<チーササラーニ、完全復活ぅー!>
チラーニ、復活す。
なめらかに全身動かして、ユーラユラ左右に揺れつつ・・・
以前とほとんど同じ声で、宣言をしたのであった。
◆ 15、どうする? ◆
夜になったらしい。
お風呂を借りて(今日はチーニャさん乱入なしであった。正直、残念なソラトバンである)・・・
夕食も頂いて(麦粥メインで、豆・肉・魚・果実・野菜がちょっとずつという、堅実なメニューであった)・・・
ソラトバンは。
チーニャに呼ばれて、チラーニ(新)のとこへ行った。
よじ登って、中を見ると、チーニャと清雅がくつろいだ感じで座っておる。
2人とも、席には着いておらぬ。乗り手席左右の、出っ張りに、お尻乗せて半座りしとるんである。
・・・なんじゃこれ?
まさか、乗り手席に着けっちゅう意味ではなかろうし。
どうしろっちゅうんじゃ。
ソラトバン、ちょっと戸惑って、中に入らず、止まった。
チラーニどんの腰に足かけて、お腹にもたれとる状態である。たとえるならば、子猫が飼い主のお腹にぶら下がっとるような状態である。
「どうする?」
と、チーニャが訊いてきた。
そんな唐突な・・・。
ソラトバン。しばし考える。
チーニャは、何をどうと訊いとるのか?
2つ思いついたので、順番に答えることにした。
「トンボどんについては、もうちょっと後でええんじゃないか? と、思うようになったわい。
わし自身については、どうしたらええかわからん状態じゃ」
「ふむ?」
「後って、どういうことや?」と清雅。
「冥界行く言うとったじゃろ」
「ンあ」
「それをじゃ。今日チラーニどんを見て、考えが変わってのう」
「ん?」
「ほれ、トンボどん、あの状態じゃ──」
ソラトバン、身をねじって、右手の壁に繋留されとるトンボどんを指した。
撃竜界の英雄は、やせ細っておる。
スッカスカである。
帝国式の蒸気筒をすべて取り外したせいである。
チラーニたちの『筒』っちゅうのは、人間で言えば筋肉に当たるモンである。
まあ、筋肉ほど密ではないが、関節を曲げ伸ばしする、パワーの筒なわけである。
それを全部取り外したら、スッカスカな感じになるのは当然である。
であるが。
「──戻るに戻れんじゃろ? 嫌じゃろ。こんな身体に戻されるの」
「うん。そやな」
「そじゃのに、『どうしますか?』と訊きに行ったら、オマエ馬鹿にしとるんか! ってなるじゃろ」
「そやな」
「ちゃんと身体を直してやってから、訪ねてけばええと思うんじゃ」
「なるほどな」
「直す方法があるんか、わしにはわからんのじゃが」
「あると言えばある」と、チーニャ。
<トンボ型の『力の筒』は、ショラン・ギサンチに造り手がいるって聞いたことはあるね>
「それ秘密だぞ!」とチーニャ。
<ソラはもう仲間だろ?>
「まだだよ」
<いっけね>
「チラ兄は、今日はゆっくり寝たほうがええわ」と清雅。
<そうする>
「ま、ソラの気持ちはわかった。その時が来たら、ウチに声掛けェ」
「・・・。」
「なんや?」
「いや、なんでもないんじゃ」
清雅が暴言吐かんから、調子狂うたんじゃ。
・・・とは言えんからの。・・・と考えたら、清雅の血圧が上がった感じがした。
あ、叩かれる!
・・・と思うたが、何もなかった。
たぶんアレじゃ。ソラトバンがチラーニどんにへばりついとるからじゃな。
その証拠に、床に降りたあとで「思い出した」っちゅうて叩かれたわい。太鼓(タイコ)じゃないぞまったく。
「──自分のことは?」とチーニャ。「どうしたらいいかわからん、とは?」
「あ、うん。昨日のことがあって、考えたんじゃが・・・」
「うん」
「村には、居らんほうがええんじゃないかとな」
「なぜ」
「あいつら、何でもアリな雰囲気じゃった。人質取ったりするかもわからんじゃろ」
「ああ。あるかもな」
「ほんで、村を出ようと思うわけじゃ。・・・わけじゃが、行き先がないんじゃ」
「ないんだ? はーん?」
チーニャさん、微妙に怒ったような声を出しよる。
「いや、その・・・わしが、機械の整備できりゃ、姐御に頭下げるとこなんじゃが。樵じゃけ・・・」
ソラトバン、周囲を見回す。
金属でいっぱいの格納庫。
木製のものは、ひとつもない──ソラトバンの腰に刺さっとるナイフの柄ぐらいかのう?
「なんか、わしでお役に立てそうなこと、ないか? あったら使うてくれんか」
「ないなー」
「そうか・・・」
「はー、もー」清雅がため息ついた。「イラつくわー」
「なんじゃ」
「ウチが口出すトコやないしなァー・・・?」清雅、上のほうを見る。
<ソラ?>
「なんじゃ? チラーニどん」
<11歳でウチに来た女の子がいたんだけどね、その子、いまの君より無能だったぜ>
「おいコラ!」11歳で弐ノ塔入りしたチーニャさん、キレた。「おまえコラ!」
「・・・。」
ソラトバン、ひと呼吸だけ考えた。
「チーサーニャの姐御」
「は、はい」
「わしを使うてくれ。なんでもするけぇ」
「死ぬかも知れんぞ?」
「なんとなくじゃが、覚悟はしとる」
「経験済みやもんな?」
「茶化すんじゃないわ」
「乗り手の才能なかったら、コボルドにこき使われる人生になるぞ? あいつらアホだからな? 見た通りの」
「わしゃ犬苦手ではないけぇ、なんとかするわい」
「弐ノ塔母ちゃんは、腹ン中入れたが最後、抜け塔は許さんって人だぞ?」
「うむ。そもそも、村を出る時点で、死人みたいなもんじゃけぇ」
これはソラトバンの常識である。
清雅は「は?」っちゅう顔しとるので、集落によるらしい。
「えーと・・・あとはホラ・・・おい考えろ」
ぺしっ。チーニャ、チラーニを叩く。
<いま空いてる鬼械人いないね>
「あ、そう! それ。それでもいいのか? アアン?」
「チー姉と一緒に乗るんやろ?」
「・・・清雅、おまえちょっと黙れ」
「いやや」
「大丈夫じゃ。そこまで甘い考えじゃおらんわい」
「そう?」
「乞食になるしかないか・・・ぐらい、考えとったんじゃ。何でもするわい」
「ちぇっ」
チーニャさん、横向いた。
「しょうがないな。弐ノ塔母ちゃんに、私から伝えとくよ」
こうして、ソラトバンは、飛行塔に身を寄せることになるのであった。
◆ 16、おジャスさま、ふんがいす ◆
同じ夜。
ソラトバンの居らん村では。
「・・・ハル。このバカ騒ぎ、いつまで続くのえ?」
「・・・私らが逃げるまで続くんちゃうかに?」
「なんやと・・・」
おジャスさま。別名『通りすがりの裁きの剣』さま。
いちじるしく、困惑しておった。
2晩目の、宴に・・・
おジャスさまとハル。
美しい2人は、昨夜も、今夜も、宴に捕まっとるんである。
村長の屋敷。・・・まあ『屋敷』っちゅうても、大したことはないが。
そこに、村の顔役を集めての、酒盛りである。
おっさんども、顔赤くして酔っぱらっておる。
2日目だっちゅうのに、まだエルフが珍しいのか。呑みながら、チラチラと2人を見てきよる・・・
「肴(さかな)とちゃうえ!」
おジャスさま、憤慨す(ふんがいす)。
その隣で、スカルドのハルさま。ご飯食べつつ、もぐもぐしゃべる。
「なんか情報、モグモグ、持っとるか思うたらモグモグ、全然知らんようやし、」
麦粥、肉、お茶、麦粥・・・どんどん消えてゆく。
細い身体して健啖な(けんたんな)御方である。
「モグモグ、そろそろ、オサラバするかに?」
「そうすべし。とっととすべし。いますぐでもよし」
「まあまあ。モグモグ。腹ごしらえしてから、逃げたらええのえ」
宴(と迫ってくるおっさん)をやり過ごした2人。
客間に引き揚げると、すぐ、出立の準備をした。
雰囲気を察したか、村長がうかがいに来る。
「お湯でも、ご用意いたしましょうか・・・?」
「いえ、」ここはハルが煙に巻く。「おジャスさまは、お休みでして・・・」
「んごー」おジャスさま、いびきのフリ。
「まことに楽しかったですえ。よい村ですに。こちら、2日間の謝礼・・・」
「いえいえ、そんな・・・」
「お取りあれ。おジャスさまの、感謝の金子(きんす)なれば」
「ははあー」
これで貸し借りナシである。
「おジャス。・・・おジャス! ホンマに寝てどないするのえ」
するりと屋敷を抜け出して。
誰にも見られず、村を横切る2人。
「ソラトバンのとこ、行くかに?」
「うむ。行くべし。あやつ、絶対何か知っておる」
ソラトバンの家まで、やって来たが・・・
「あにはからんや、もぬけの殻」
・・・シーンと、冷たく静まり返った小屋を、目の当たりにしたのであった。
「あやつ、また誘拐されたんかに?」
「まさか」
などと、話し合うとるところに。
がっしりした人影が、近付いてきた。
「誰じゃ! ソラトバンの小屋に近付くのは!」
「あ、夜分に失礼をしました」ハルがスムーズに対応する。「スカルドのハルですえ」
「ああ、あんたらか」
「ユーノックさんでしたかに?」
「いかにも。大工のユーノックじゃ。ソラトバンが帰って来んので、様子を見に来たんじゃ」
「じつは私らも、旅立ちのあいさつをしようと、訊ねてきたのですが」
「旅立ちとな?」
「私ら、超常の夜目持ち。月神の加護もありますれば、夜の旅は苦にならず」
「はぁ」
「それより、ソラトバン殿のことですが」
「ああ、いやぁ・・・ソラのやつ、この1週間、心ここにあらずといった様子で。心配なんじゃ」
「1週間。修道騎士さまが襲われた一件以来?」
「まさにということじゃ」
ユーノックおやじと、ハル。しばし情報交換する。
2日間でもっとも有意義な情報であった。
「──ほな、そのバッツワーノいう御方が怪しいんですかに?」
「さあのう? ソラトバンは『脅された』っちゅうとったが」
「鬼械人部隊の隊長が、村人に手を出したとなれば・・・」
「国ぐるみの陰謀!」
「お黙り、おジャス。──ほな、これにて。何かわかりましたら、便りをしますえ」
ユーノックおやじと別れた2人。旅路に戻る。
「やれやれ。とんでもない無駄足」おジャスさま、唇尖らせる。
「まだわからぬえ。何事も、糾える(あざなえる)縄のごとくならぬとは、誰にも言えぬこと」
「否定重ねるのは美しゅうないえ。言葉の使い方、素人のごとし」
おジャスさま、スカルドの地雷を踏みに行った。
「いまのはふつうにしゃべったのえ!」ハルキレる。
「ふつうの人間はそなたみたいに気取っておらぬえ」
「もう! ・・・ほんで、どないする? ショラン・ギサンチ州に戻るかに?」
「そやに」
「・・・道、どっちやったかに」
「ハルは旅慣れておるに、なんでそない方向音痴なんかに?」
「方向音痴やないえ。道がわからぬだけ」
「それを方向音痴言うのえ」
「やかましえ。歩いとれば、どっかには出るに。歩くべし」
「そない言うて、昨日も」
「歩くべし、歩くべし」
おジャスとハル。
こうして、属州ショラン・ギサンチへ(?)、向かったのであった。
ソラトバンも、おジャスたちも、まだ知らぬことであったが。
鬼械人を巡る争いの渦も、ショラン・ギサンチ州へと移ってゆくのである・・・
※このページの修正記録
2025/02/23
「15、どうする?」
ソラトバンが中に入った・入ってない のどっちなのかわからなくなってました。
入ってないです。↓の1行を修正。
× よじ登って腹の中に入ると、チーニャと清雅がくつろいだ感じで座っておる。
○ よじ登って、中を見ると、チーニャと清雅がくつろいだ感じで座っておる。