◆ 17、ソラトバン、悩みを打ち明ける ◆
<ソラトバン。あなたの弐ノ塔入りは、『仮』とします>
弐ノ塔母ちゃんが、そう言うてきた。
ふわ~ん・・・。宙を、ただよいながら。
<下積みでもって、試験をさせてもらいます>
弐ノ塔母ちゃん。
ソラトバンの上半身よりちょっと小さい、カクカクした浮遊物である。
目玉ひとつ、腕2本、足はなし。お化けみたいじゃが。生きモンなのだ。
「・・・ほう」
下積みか。当然じゃな。
そのぐらい、覚悟しとるわい。
「了解じゃ! 弐ノ塔の母御(ははご)」
<・・・。>
弐ノ塔母ちゃん。なんか沈黙した。
「なんじゃ?」
<いえ。べつに>
なんじゃろ?
まあ、ええか。それより、訊いときたいことがあるんじゃ。
「おジャスさまのことじゃが・・・」
<『褒美をやる』とかいう、エルフの剣士?>
「そう、それじゃ」
<信用できません。チーニャも同じ意見です>
「一応、姐御本人に確認したいんじゃが」
<もちろん。ただ、泊まりがけで交渉に出てますので・・・>
「ありゃ」
<トンボの件で、清雅のお里にね>
「あー、一大事じゃものな」
<まさにということです>
「・・・。」
<なんです?>
「例の、覆面の賊のことなんじゃが」
<チラーニがタコを飛ばして偵察してますが、姿はないですね>
「・・・そうか」
ソラトバン。続けてしゃべろうとする。
が、言葉が腹に溜まってしまい、喉まで上げることができぬ。
<どうしたのです?>
「うん」
これは、誰にも言えずにおったこと。
このときようやく、口に出せたことであった。
「わしゃ、あの賊どもに・・・、腹立ってしょうがないんじゃ」
<当然でしょうね>
「じゃろ? ほじゃけど、どうしてええかわからんで・・・」
<何がわからないのです?>
「殺したいぐらい腹が立つ。ほじゃけど、殺すなんっちゅうこと、恐ろしいんじゃ」
<なるほど。戦士の悩みですね>
「戦士の悩み?」
<自分の国を犯す者どもを、消し去ってしまいたい。でも、人を殺すなんて恐ろしい。自分が死ぬのも>
弐ノ塔母ちゃん。
ぐる~ん・・・と、背中を向けた。
<──これだけは言っておきましょう>
「なんじゃ?」
<私は弐ノ塔。この国の統治者。我が民は、すべて、私が守る>
「・・・。」
<殺させはしない。誘拐もさせない。脅迫もさせない。手出しするヤツは、私がつぶす>
「母御・・・」
<ただ、>
ぐる~ん・・・こっちを向いた。
<現実は厳しくてですね>
「うん?」
<ウチも、手が足りなくてですね>
「ふむ?」
<戦士を増やさなければいけないなと、思っていたところでですね>
「・・・もしかして、わしのこと言うとるんか?」
<知ってましたか? 弐ノ塔に出入りしているヒューマンは、2人しかいない>
「はぁ」
<チーニャとあなたです>
「最初から、わしのこと、戦士にするつもりじゃったんか?」
<強制はしない主義です>
「いやいや、いまの話、明らかに・・・っちゅうか、意外とアレか」
<なんです?>
「意外と、都合ええのか? わし。外に居るより、ここで働くほうが」
<そりゃあそうですよwww>
ケタケタケタ。弐ノ塔母ちゃん、笑い出した。
<秘密を知った人間に外をウロつかれるより、仲間になって戦ってくれるほうが、ずっといいです!>
「むむむ!」
<気に入りませんか? 出て行ってもいいですよ・・・?>
ふわ~ん・・・。
飛行物体、回転。
ソラトバンに、背中を向けた。
<いまなら──『仮』のあいだなら、ね>
「いーや、出て行かんぞ」
ソラトバンは、涙を拭ってそう言うた。
「わしゃ決めた。あの覆面どもに、一泡吹かせてやるんじゃ!」
下積み生活の、はじまりである!
◆ 18、下積み男、ソラトバン君 ◆
1日目。村に行ってこいと言われた。荷造りのためである。
ユーノックおやじンとこに行って「村を離れて身を隠す」と伝え、薪をどーんと渡した。引き留められたが・・・もう、決めたことじゃ。んで、狩人のリダーニ兄貴ンとこにも薪を置いて(留守じゃった)。家を、出た。おジャスさまに贈るつもりじゃった、あの酒と。思い出の品を、いくつかと。それ以外は、何も持って行けなんだ・・・。
2日目。コボルドの女将(おかみ)の命令で、じゃがいもの皮むきをした。一日中!
「どうです! 参りましたか?」と言われたので、「いやぁ、さすがに肩が凝ったわい」と言うたら、女将さん、(´・ω・`)となって、シッポ左右にユラユラさせておった。樵の筋肉舐めるなっちゅうことじゃな。
3日目。夕方ごろ。
ソラトバンは、グツグツ煮える鍋を見ておった。
でーーーっかい鍋である。皮ついたまんまの新ジャガが、いーーーっぱい入っておる。イモ茹でて、皮剥いて、潰す。こういうお仕事である。つまりマッシュポテト担当である!
湯気いっぱいの調理室。
タイル張りの壁と床。木造小屋育ちのソラトバンには、あまりにもアウェーで・・・
コボルドに合わせてある調理台も、低すぎて、難儀であったが・・・
温かく、居心地よく、肉を焼く匂いがして、幸せじゃった。
一生マッシュポテト担当でも、ええかも知れん・・・
などと、愚考しておるところに。
ふわ~ん・・・。
弐ノ塔の母御が飛んできて、
<ソラトバン。話があります>
連れ出されたのは、玄関ホール。またの名を、鬼械人格納庫。
チラーニの兄貴が、壁に繋がれて立っておる。
コボルド整備員たち、後片付けちゅう。もう夕方じゃからな。
「あ、ママさん」「どうもでござる!」「おう、新入り!」「調子はどうか! 新入り」
などと吠えてきたので、「先輩がたのおかげさんでじゃ」などと、ゴマすっといた。
<ソラトバン。話は後になさい>
「すまんことじゃ」
奥の扉へ。
誰も触れとらんのに、扉が左右に割れて、開いた。
その先は、薄暗い通路である。
と、このとき。
<そこから行くんだ>チラーニどん、突然しゃべる。<オレも行っていい?>
<かまわんが、>弐ノ塔母ちゃん。突然ぞんざいな口調になる。<おまえは、入れんじゃろ?>
<こっちで行くから>
がちゃり。
ブ ー ン ・・・。
あ、この音、聞いたことあるわい。
「タコじゃな!」
<あったり~>
青灰色の八本足が飛んできた。チラーニの偵察機、タコである。
タコ。飛んできたかと思うと・・・
ぴた。
弐ノ塔母ちゃんの頭に、くっついた。
・・・どうやら、移動をサボるようである。
<ぐうたらな子>
<くっつくのも練習だから>
通路の先は、小さな格納庫であった。
──ナンガラック型1機で、いっぱいになる程度の。
「帝国の巨人じゃないか!」
<ええ>
◆ 19、弐ノ塔の秘密・その1 ドリナラーニ ◆
ナンガラックの四角いボディが、小さな格納庫をいっぱいにしておる。
しっかりと壁に繋がれ、直立ではなく座ったポーズを取っておる。
ただでさえ短い足を前に投げ出しとるので、もはや、足の長さゼロ。
長くてごっつい両腕が、ひたすらに目立つ。
その腕も、蒸気筒が取り外されて、スカスカになっておった。
もはや動くこともない蒸気械人の肩の高さに、空中歩廊があって、コボルドが1人、シャッシャッとホウキを振るっておった。
<むか~し、鹵獲した(ろかくした)ナンガラックだね>
弐ノ塔母ちゃんが、チラーニの声でしゃべった。
「?!」
<びっくりした?>チラーニ、うれしそう。<母ちゃんの声玉に、割り込んでるんだ>
「そんなことできるんか」
<うん。許可もらえばね>
「すごいのう・・・」
ソラトバンは向き直った。
「・・・で、これも、遺体かのう?」
<これは、脱け殻ですね>
「ぬけがら」
<そう>
弐ノ塔母ちゃん。
くる~り・・・と、振り向いて、
<彼は、いま、そこにいます>
「ん?」
がしょーんがしょーん。
四つ足を鳴らして、ドリノンが入って来た。
ドリノン型。
整備担当の、小さな鬼械人である。四腕四脚。コボルド限定の2人乗りで、ソラトバンよりちょっと背が高い程度。
頭部はなく(チラーニと同じである)、首ンとこには平たい金属のパーツがついておる。『丁』の字型の、カブトみたいなパーツ。この中央に宝石(?)があるのだが、これがなんか、だんだん目玉に見えてくるのだ(これもチラーニと同じである)。
ひとつしかない目玉。弐ノ塔母ちゃんと一緒。
ひとつ目鬼械人ファミリーじゃな!
さて、このドリノン。
コボルドが縦に並んで2人乗れるのだが──いまは、誰も乗っておらぬ。
空っぽのまま、無人状態で歩いてきたようである。
<ドリナラーニ>
と、弐ノ塔母ちゃんが呼んだ。
すると。
<ハイ!>ドリノンが返事して、ジャンプしよった!
「おおう? いまのは、あんたがしゃべったんかのう?」
<オウ! シンイリ!>
ドリノンが返事した。
新入りっちゅうたか? まあそうじゃが。
「初めまして。ソラトバンじゃ」
<ドリ、ナ、アーニ!>
「よろしく。ドリナラーニどん!」
<──彼は、このナンガラックでした>
「は?」
<我々が鹵獲をし、ここに連れてきたのです>
<憑依させてみたんだ。試しにね>
「ひょうい」
<オレが降霊しただろ? アレと似たようなコトさ。ただ、この格納庫で繋いだんだ>
「つないだとは」
<魔術の糸で結ぶのさ。生きてるナンガラックと、空っぽのドリノンをね>
「ほ・・・ほう・・・?」
全然わからん。
ドリナラーニどんを見る。
「えーと、その、居心地はどうじゃ? ドリノンの」
<オウ!>
ドリナラーニどん。
なにやら、がしょーんがしょーんと、ナンガラックのほうへ歩いてったかと思うと・・・
ガッツポーズをして・・・、<ツヨイ!>
腕を垂れ下がらせて・・・、<オモイ・・・>
そして。こっちへ戻ってきたかと思うと・・・
ジャンプ! ふわ~~~ん・・・・・・・・・あれ? 落ちて来ない。
空中に留まったまま・・・、<デキル!>
そして、四つ腕を高々と上げて・・・、
<タノシイ!!!>
「なるほど!」
ソラトバンも、タノシイ気分となった。
「ナンガラックはツヨイ。じゃが、飛んだりはできんものな」
<オウ!>
「空飛ぶ巨人に変身できるとか。うらやましい! ええのう、ドリナラーニどん」
<オウ! タノシイ!>
ドリナラーニどん、飛びついてきた!
「わっはっは! そうかそうか」
明らかに重そうな機体が・・・
綿毛みたいに、軽い!
浮上の能力で調節しとるそうである。まあ、<危ないだろ>とチラーニに怒られておったが。
「ところでじゃが、直接繋いだっちゅうのは、理由があるんか? 降霊でも良さそうなが」
<降霊は、失敗すると帰って来れませんから>
「なんじゃと」
ソラトバン、弐ノ塔母ちゃんの頭にくっついとるタコを見る。
<大丈夫だって。清雅は本番に強いから>
「なに言うとんじゃ、まったく」
<ま、つまり、>
と弐ノ塔母ちゃん。
<蒸気械人は、ウチの鬼械人に憑依できる。これが、弐ノ塔の秘密・その1です>
ソラトバン。しばらく考えた。
ナンガラックの御霊が、空っぽのドリノンに、憑依・・・
自由自在に、動けるようになる・・・
「帝国は、チラーニどんを乗っ取れる──っちゅうことじゃないか?」
<かもね>
<チラーニを追い出せるのかは不明ですが。試験してませんし>
<できちゃったら、オレ、死ぬもんね>
<ええ>
「えらい冷静じゃな」
<大したことないだろ>
「あるじゃろ!?」
<ナンガラックなんて、誰が乗っても動いちゃうんだぜ?>
「・・・そう言えば」
この前、チラーニが鹵獲したナンガラック。
修道騎士がその場で乗り込み、持ち去ったのであった。
<ワカラヌ!>
「ん?」
<ナンガラックはね、乗り手が誰だか、わからないんだってさ>
「なんでじゃ?」
<そういう造りなのです。目隠しをするような>
「なんでそんな造りに」
<仲間だと思ってないんだろ>
チラーニが、珍しく冷たい口調で言った。
「・・・ドリノンのときは、誰が誰だか、わかるんか?」
<ソラ、トーブ、ワン!>
「おお! わかるんじゃな。ソラと呼んでくれてええぞ」
<ソラ!>
「わっはっは」ソラトバン、ドリナラーニとじゃれ合う。
<オレたちには、君がわかる。だから、大丈夫>
チラーニが言った。
<従うか、逆らうか。決めるのはオレたちさ>
「お・・・おお・・・」
一生マッシュポテト役でええわとか・・・
誰じゃ、そんなこと抜かしたん・・・
と、冷や汗流すソラトバンであった。
「そ・・・そうじゃな! チラーニの兄貴。わしゃ、がんばるわい!」
<ガンバル!>
<がんばれw>
「い、いやぁ・・・大した秘密じゃのう? ドリナラーニどんは」
<そうでしょう>弐ノ塔母ちゃん、ちょっとのけぞる。
「あといくつあるんじゃ? 秘密」
<それは秘密です>弐ノ塔母ちゃん、目そらす。
「そうか」
<さて、ご飯にしましょうか>
「了解じゃ! 弐ノ塔の母御」
<・・・。>
くる~ん・・・。
弐ノ塔母ちゃん。振り向いてきた。<あの>
「なんじゃ? 弐ノ塔の母御」
<その呼称はまだるこしいので、もう少し短k──>
<『弐ノ塔の母御』じゃヤダ。もっと馴れ馴れしくして! だってさ>
<オマエ、割り込み禁止じゃ!>
弐ノ塔母ちゃんが怒った。チラーニ、しゃべれんようになる。馬鹿な兄貴じゃw
「あ、ほじゃ、えーと、『おふくろさん』でええかのう?」
<・・・まあ、いいでしょう>
というわけで。
<ご飯にしましょう、ソラ>
「了解じゃ! おふくろさん」
わりかし上手いこと馴染めそうな、ソラトバンであった。
◆ 20、りっけんどう ◆
「ショラン・ギサンチ行くぞソラァー!」
「なんじゃ。やぶからぼうに」
ハッチ開くなり叫んでくる清雅さんである。
4日目のことであった。
鬼械人・浮鬼が舞い戻って、清雅が飛び出してきたんである。
続いて、チーニャの姐御も降機。伸びして、重たそうな胸揺らしながら、深呼吸する。
「交渉はうまく行った。はぁ・・・。『力の筒』、買いに行こう」
「おつかれでござる!」「浮鬼どのはこちら!」「オーライ、オーライ」
コボルド整備員が活気づくなか、ソラトバンも2人に「おつかれさんじゃ」を言うた。
「オマエはどうなん?」
「マッシュポテト担当じゃ」
「あー」と清雅。「やったやった」
「おまえさんもやったんか」
「チラーニ乗りたい言うたら、やらされたわw 1日だけやけどな」
「へー」
「ママが待ってるらしい。行くぞ。ソラも来い」
「了解じゃ、姐御」
<オレも顔出すよ>
集まったのは、上半身整備室。
チラーニどんが、胸から上の部分だけ、床から突き出す、あの部屋である。
メンバーは・・・
弐ノ塔母ちゃん、チラーニ(胸から上だけ)、浮鬼(チラーニの背中にしがみついとる)。
チーニャ、ソラトバン。
清雅と、ゴブリン兄弟の再鬼・正鬼・数鬼。
以上9人である!
<チーニャ、報告を>
「あ、ごめん、その前に、」と清雅。ソラトバンを指して、「コイツは正式加入したんか?」
<『仮』です。いまは、下積みをさせています>
「仮か。オマエぁ~、どういうつもりでおんねん?」
「わしゃ、ここで、一人前になる」ソラトバンは答えた。「賊どもを見返したるんじゃ」
「・・・フン」再鬼どんが小さく笑って、背中をドンと叩いてきた。
「しがみつく覚悟、あるんやな?」
「ある」
「よっしゃ」清雅は白いキバを見せた。「信用したる。ウチらの故郷は、リッケンドウや」
「りっけんどう」
「天井まで6間(けん)ある洞窟、で六間洞や」
天井まで6間で、りっけんどうか。
たぶん『6人縦に並べても天井に届かんぐらい、デカいんじゃぞ!』っちゅう意味じゃろうな。
「メチャクチャ高いじゃないか」
「ここよりは小っちゃいやろ」
現在、弐ノ塔は深い深い裂け目の奥に建って(浮いて?)おるので。
垂直方向の広さだけ言えば、そりゃ6間を遥かに超えてはおるけれども。
「ここはただの縦穴じゃけぇ・・・」
「ま、撃竜界にくらべりゃ、田舎や」言いつつ、清雅は満足そうである。「お邪魔さんです、ママさん」
<いいえ。ではチーニャ、どうぞ>
「ん」
チーニャの姐御が、湯気の立つカップ持ったまま、立ち上がった。
「我々弐ノ塔は、清雅のお里──六間洞と、正式に交渉をし、合意した。内容は・・・」
・弐ノ塔と六間洞は、今後も友好関係を保つ。
・弐ノ塔は、正当な戦利品として、トンボの遺体を所有する。
・弐ノ塔は、撃竜界の英雄を尊重する。遺体の保全に務め、名誉を守る。
・トンボについての申し入れは、六間洞を通すこと。
・六間洞を通さず弐ノ塔に接近した場合、強盗とみなして対処する。
「・・・こんなとこだな。何かあるか?」
「・・・。」
真剣に話を聞いとったソラトバンだが、彼の頭では理解が難しい。
トンボは弐ノ塔が守る、手放す気はない、っちゅうのは、理解できたが・・・
<ソラ。質問をしなさい>
「え。わ、わし? すまんが、全然わからんで・・・」
<下積みのひとつとして命令します。質問しなさい>
「おぅ!?」
ソラトバン、泡を喰って考える。
ついチーニャと清雅の顔を見てしまうが、2人とも、はっきり、目をそらした。
「えーと・・・馬鹿な質問とは思うが、」
「何かね。新入り君」とチーニャ。
「弐ノ塔──ウチは、トンボをどうする気なんじゃ? 保全とは。姐御はさっき、『力の筒』を買うっちゅうたが」
<直します>
弐ノ塔母ちゃんはキッパリ言うた。
<ショラン・ギサンチ州へ飛んで、『力の筒』を買い入れて、万全な状態に戻します>
「・・・合意には、そうは言うとらんようじゃが」
「ぼかしたんだ。これは、他の勢力にも──撃竜界にも──公開する内容だからね」
チーニャがカップすすりながら返事した。
「弐ノ塔は、オマエに賛成する。ソラ」
「わし?」
「トンボの遺体をちゃんとした状態にしてやってから、遺志を問おうって、オマエ言ったろ?」
「ああ。うん。言うた」
「行き先はトンボ次第やな」と清雅。「蘇生するなり葬るなり、撃竜界に帰すなり、・・・六間洞がもらうなり」
ソラトバン、ドキッとして清雅を見る。
清雅はニヤニヤ笑っとる。
試しとるな? コイツ。
「やらんぞ。それにじゃ。わしが知っとる限り、ここが一番安全じゃ!」
「新入りがデカい口叩くな阿呆ゥ~」ぺちんと叩かれた。
しばらく質疑応答とか、確認がつづいて。
<では、会議は終わり。お昼にしましょう>
弐ノ塔母ちゃんが、締めた。
<食べたら、ショラン・ギサンチ州へ出発します。到着は明日未明の予定です>
そして、ソラトバンを見てくる。
<しばらく戻れませんよ。忘れ物はありませんね?>
「大丈夫じゃ」
置いてきたものはあるが。
いまから取りに行くものはない。後ろには。
<では、今日は、ホントウでご飯にしましょう>
「了解じゃ、おふくろさ──ホントウ?」
<弐ノ塔の秘密・その2>弐ノ塔母ちゃんはのけぞった。<これは、本物ではない>
◆ 21、弐ノ塔の秘密・その2 ホントウはこれ ◆
≪飛行塔、発進準備開始。これより外出を禁止します。コボルドは点呼をせよ≫
≪鬼械人の固定を確認せよ≫
≪飛行塔、離陸します≫
ほとんど揺れを感じさせずに、飛行塔は離陸した。
ソラトバンは、浮鬼に乗ってここへ来たときの、あのものすごい落差を思い出した。
が、恐怖はまったくない。
それよりもである。
「ホントウってなんじゃ?」
「は~? 本当言うたらホントやろ」
「なんじゃ。意地悪せんで、教えてくれ」
「弐ノ塔のコト、ウチが教えるんは、ちゃうと思うしなァ~」
などと、清雅に遊ばれておるうちに。
≪まもなくホントウに接続。移動を禁止します。全員、身体を固定せよ≫
「ほら、オマエも固定せぇ」
「なんじゃ。何をどうするんじゃ」
「浮鬼でやったんちゃうんか。ベルトで留めんねん」
「ああ、アレか」
ソラトバンは、応接室みたいなとこに居る。絨毯の敷かれた居心地のええ部屋である。
ただ、ふつうの応接室とちがうのは・・・
暖炉がない。テーブルがない。ソファとかもない。
長椅子はある。
だが、位置が変である。
常識的には、応接室の椅子っちゅうもんは、部屋の中央に置くもんである。
それが、壁にピターッとくっつけてある。動かそうとしても、動かせん。完全固定である。
しかもベルトがついておる。浮鬼と同じ、肩と腹を留めるタイプの、ごっついベルトである。
なんじゃこれ。
と、思いながらベルトを留めるソラトバン。
隣の清雅がメッチャニヤニヤしておるのが視界に入り、気になってしょうがない。
「何がそんな面白いんじゃ」
「黙っとけ。舌噛むぞ」
「なんじゃと?」
≪接続します。10、9、8・・・・・・・・・3、2、1、接続!≫
がこおおおおん・・・!!!
部屋全体に、地響きが走った。
──いや、ちがう。これは、塔全体!
ソラトバンたちの乗っとる塔、全体が、地響きを立てて、揺れた!
「な、な、な、なんじゃ!? 一大事じゃ! 攻撃か! 地震か」
「キキキ!」清雅さん、大喜びである。
≪接続中です。まだ立たないように。ソラトバン、しゃべると舌を噛みますよ≫
「あ、はい。すまんことじゃ」
全塔アナウンスに名指しで注意されたぞ!?
動揺のあまり、しゃべるなと言われとるのに口で謝るソラトバンである。
≪接続完了。移動を許可します。当直を除く全員、ホントウ集合。お昼ご飯にします≫
「オラ行くぞソラ」
「え? お、おう」
あわててガチャガチャベルトを外し、立ち上がってフラつくソラトバン。
ずっとニヤニヤしとる清雅に案内され、塔の大通り(デカい廊下ね)を抜けてゆく。
「この先は行き止まりのはずじゃが・・・」
「お、もう道は覚えたんか」
「まあな。みんな親切でのう」
「コボルド、やたらついてくるやろ」
「そうなんじゃ。どこ行くにもニコニコしてついて来よんじゃ。最初は見張られとるんかと」
「本能や。人が歩いとるとついて来んねん」
言うとるあいだにも。
コボルドがワラワラワラ・・・と、ソラトバンたちについてくる。
なにがうれしいのか、こっちを見上げてニコニコしておる。
足元にすり寄ってくるため、温かい。──のはええのだが、蹴っ飛ばしてしまいそうで、歩きづらい。
大通りの行き止まりについた。
でっかい扉(正面玄関なみ)で、通路が断ち切られておる。
この扉が開いたとこ、ソラトバンは見たことない。
「ほら、行き止まりじゃ」
「キキキw」
清雅が笑うと、コボルドどもも「ヘッヘッ」「フシシ」などと笑いだした。
ソラトバン中心に、笑いの波、広がる。
「何が面白いんじゃ? みんなして、行き止まりに集まって」
ぷしゅっ・・・。
ソラトバンの言葉に応じるかのように、空気が抜ける音がして・・・
行き止まりの大扉の上端が、ゆっくりと、向こうへ倒れて・・・
太陽の光と、冷たい風が、どっと塔内に流れ込んできた!
「うおっ! まぶしっ」
目が眩んだ(くらんだ)ソラトバン。手をかざして前を見る。
「足元気ィつけろよ?」
「足元」
まぶしくてようわからん。
向こうに倒れた扉が、橋のようになっとるのはわかるが・・・
おや?
なんか、前方に・・・
大きな壁があるような・・・?
いや、壁ではない? 建物・・・?
「・・・塔か? お城か?」
「塔や」
徐々に目が慣れてきたソラトバン。
わーっと走ってゆくコボルドの群れの中から、上を見上げ、下を見下ろし、前方の様子を把握する。
どうやら、どっかの山ン中に居るようである。
それも、ただの山ではない。
火口。
ただし、休火山の。
いわゆる、カルデラというやつ。
周囲をグルリと崖に囲まれた大きな盆地の中に、ソラトバンたちは飛んできたようである。
このカルデラに、人の姿はない。
青い空。冷たい風。眩しい陽光。うねりながら広がる緑の海──いや、草原。向こうのほうに見える湖。
──という風景のすべてを覆い隠す、巨大な塔!
カクカクした姿の、上のほうが広くて下のほうが狭い、八角錐(はちかくすい)みたいな。
「弐ノ塔のおふくろさんじゃないか! ムチャクチャでっかい!」
<いかにもということです>
「うわ! いつの間に」
<ふっふっふ>
ソラトバンの背後に浮かんどった弐ノ塔母ちゃん(いつものサイズのほう)。
ちょっとのけぞって、こう言うた。
<これぞ、弐ノ塔>
「・・・ん?」
<いままで乗っていたのは、飛行塔。ホントウの出島です>
「本物の、タワー。で本塔や」清雅さんの解説入りました。
<そして、この本塔が、私の本体>
ふわ~ん・・・。
弐ノ塔母ちゃん、ソラトバンの前方、上方へ浮遊。
でっかい塔を背後に、こちらを振り向いてきた。
<弐ノ塔の秘密・その2。この本塔こそ、私>
「え? じゃがその、こっちは?」
ぺたぺた。ソラトバン、目の前の弐ノ塔母ちゃんの手を撫でる。
<これは、チラーニのタコみたいなものです>
「偵察機か」
<雑務機といったところですね>
「なんと・・・」
<この本塔では、みんなの中に入って行けませんから>
「そりゃそうじゃろな」
「おかしいと思わへんかったか?」
「なにがじゃ」
「鬼械人造れるような設備、飛行塔にはなかったやろ?」
「・・・あ、そうじゃな。風呂とかはあっても、鍛冶場みたいなもん、なかったもんのう」
前方の塔は・・・
ソラトバンたちが乗ってきた飛行塔の、倍ぐらい太く、1.5倍ぐらい縦に長かった。つまり、体積で6倍ぐらいである(ソラトバンは『円柱の体積』みたいな公式は知らんが、目測は得意であった。樵ですからね)。
「デカい!」
<ふっふっふ。──さ、屋上へ行きましょう>
巨大な本塔に入る。
塔の外周に沿った通路を歩き、壁沿いの階段を上がって、上がって、上がって・・・
屋上に出た。
広い!
景色がよい!
コボルドたちが、テーブル出して食事の用意をしてくれておる!
肉やら魚やら・・・なんか酒らしきものもあるが?!
<みな、揃いましたか?>
コボルドたちがキャーキャー言いながら点呼しておる。
塔の外側から、チラーニと浮鬼も上がってきた。浮遊して、飛び乗って来たのである。ドリノンもやってきた。彼らはちょっと浮遊制御が苦手なので、念のためチラーニにへばりついた状態で一緒に上がって来たようである。
<ソラ! トーブ! ワン!>
「おお、ドリナラーニどん」
ソラの席に、ドリナラーニがやってきた。じゃれ合う。
鬼械人が飯食えんのをちょっと残念に感じたソラトバンであった。
<──揃いましたね? では、発表をします>
弐ノ塔母ちゃんが全員を静まらせた。
ズラーーーーーーーーッ・・・と並んでおるのはコボルドである。どんだけ居るんじゃ。
なぜか上座に座らされたのはソラトバン。その背後にチーニャの姐御、ドリナラーニ、そしてチラーニどんが立っておる。なんで立っとるんじゃ。落ち着かんのじゃが。立ち上がろうとしたら、姐御がガシッと肩押さえてきよるし。
お客様席に座っとるのは、清雅とゴブリンブラザーズである。お客さま扱いだがコボルドがじゃれつきに行っており、子供コボルドが清雅の膝の上を奪い合いしておる。ちなみに再鬼どんらは遠巻きにされておる。さびしい兄貴じゃw
<発表。ご飯を食べたら、全塔で出発します。目的地はショラン・ギサンチ州。目的は、お買いものです>
ワーーーー! コボルド、盛り上がる。
<重大発表。この弐ノ塔に、新しい仲間が加わりました>
「立って」
「お、おう・・・!」
チーニャに言われたので、とにかく立った。
<ソラトバンは、トンボを発見しました。そのために、生命を狙われました>
弐ノ塔母ちゃんに視線を送られたので、そのひとつしかない目玉に向かって、うなずいておく。
<彼は、鬼械人を愛しており、乗り手になるべく、チラーニ飛行塔で下積みをしています>
うなずく。
<まだまだ新入りの彼ですが、決意を表明してもらいましょう!>
背中を叩かれた。
弐ノ塔母ちゃんの浮いとった位置に、歩み出る。
「え、えーと、」
こんな状況、経験したことない。
ヤバいぞこれは。予想しとらんかったぞ。どうすりゃええんじゃ?
「・・・い、いきなりすぎんか?」と、姐御にささやいたら、
「・・・人生はいきなりなものだ」と、やり込められた。「一番やりたいことを言えばいいよ」
・・・そうか。
「ソラトバンじゃ! 空飛ぶ巨人に憧れて、ここへやってきた」
それなら、簡単じゃ。
「それは、トンボどんじゃ。
トンボどんは、いまは、遺体──脱け殻じゃが・・・
御本人がどうおっしゃるか、わからんが・・・
わしは!
トンボどんが、空を飛ぶところを、見たい!
これが、わしのやりたいことじゃ!」
ワーーーーー! コボルドども、盛り上がる。
<ソラトバン。あなたから『仮』を外し、本物の新入りとします>
「祝砲!」とチーニャ。
どごーん! どごーん!
チラーニと浮鬼が、空砲をブッ放した。
ドゴーン、ドゴーン・・・広々としたカルデラに、木霊が行き交う。
<では、ご飯にしましょう>
「・・・本物の新入りて、なんじゃ」
「私の後輩になったってことだよ」
ソラトバン。まだ胸の中に木霊が残ったまんま、席に着く。
チーニャが盃を出してくれた。乾杯する。
青空の下、巨大塔の上で、ソラトバンはお腹いっぱいになるまで、飲み食いしたのであった。
そして。
歓迎の宴も終わり、テーブルやら椅子やらと一緒に、ソラトバンたちもエレベーターで降りて・・・(じつは、垂直昇降機があったんじゃ。さっきは食事の準備で忙しく使われとったので、階段に回されたようである)。
いつもの飛行塔に戻って・・・
≪全塔、離陸!≫
本塔と共に飛ぶ、弐ノ塔の本当の出発を、経験したのであった。
◆ 22、そのころ、ショラン・ギサンチ州では ◆
──さて。そのころ、ショラン・ギサンチ州では。
「ここどこかに?」
「全然わからぬ」
見目麗しいハイエルフの女が、2人。
森の中で、迷子になっておった。
白い服もすがすがしい、金髪の女剣士。
ごっつい荷物背負ってスタスタ歩く、見た目は華奢な(きゃしゃな)、灰色の髪の女スカルド。
おジャスとハルの2人組である。
「おかしいに? ちゃんと道歩いてきたに」と、スカルドのハル。
「そやから、太い道をゆくべし言うたのえ」ちょっとふくれて、金髪剣士のおジャス。
「回り道やったもん」
「山を迂回する(うかいする)道やったのえ」
「こっちが近道やったもん」
「山ン中突っ込む道は、近道とは言わぬ。『山道』言うのえ」
「私の勘はこっち言うておる」
「はいはい、そうかに」
2人のゆく道。
全然、まったくもって、道でない。
ただの森の中。しかも、傾斜がきつい。ずーっと、登り。
『登り坂』なら、まだマシであったろう。そんな優しい地形ではない。凸凹しつつ、チョロチョロと泥水流れる割れ目があったりしつつ、岩やら木やらシダやらコケやらキノコやらに邪魔されつつ、上がったり下りたりしつつ、全体として空に近く登ってゆく──というレベルの、登りである。
「なんで登山せなならんのかに! 平原で有名なショラン・ギサンチで!」おジャス、キレた。
「どんな平地でも凸凹はあるものえ」
「凸凹の範疇(はんちゅう)超えておる」
「山で迷ったときは、上へ歩くべし」
「そもそも迷いなえ」
「過ぎたことは言わんの」
「今後の改善策を言うておる」
ワーワー言いながら(2人ともタフですね)、道なき道をノッシノッシと登山した、その結果。
「あ! 建物見えたえ!」
「ゆくべし!」
スカルドのハルが、木々の合間に建物の姿を捉えた。
でっかい荷物揺すりつつ・・・
鍋がっちゃがっちゃ言わせつつ・・・
木々のあいだを、抜けてみれば・・・
目の前に、真っ黒な建物が現われた。
木造の、背の高い建物である。
真っ黒なのは、ニスのため。長年大切に補修しては塗り直して、何十年も使われ続けた建物なためであった。
美しい艶(つや)のある黒。住人の愛情を感じる黒であったのだ。
「あー!」ハルが、喜色を露にした(きしょくをあらわにした)。「ここ、来たことある!」
「なにえ」
「蒸留所。有名なウィスキーの──イスリュー蒸留所!」
「ほう?」がぜん興味を示すおジャスさま。「うまいんかに?」
「おいッ・・・しいに! べろんべろんになるえ」
「ゆくべし!」
2人、足を速める。
「──放浪運の強さは、ホンマおっ父神ゆずりやに、ハルは」
「うん? なんか言うたかに?」
「なんでもないえ。ゆくべし」
「ゆくべし!」
迷子の2人。黒い建物に近付いた。
スカルドのハルが、あいさつに行く。
「こんにちは。ごめんくださいな」
「・・・はい」
女が、立ち上がった。
庭の土をいじっとったようで、スコップを持っておる。
ハルが礼儀正しく待っとる門のところまで、しずしずと歩いてくる。
なんか・・・
違和感のある姿である。
まず、若い。
農婦の服着とるせいで大人に見えたが、近くで見ると、明らかに10代半ばである。
頭巾を取ると、短すぎる鳶色(とびいろ)の髪。夏も冷涼なこの地域、短い髪の娘はほとんど居らぬ。
そして、その焦げ茶色の瞳。どんよりしておる。生気がない。
ただ、礼儀はしっかりしておった。ハルに軽く頭を下げて・・・、
「こんにちは。旅の御方。──イスリュー尼僧院に、何か御用でしょうか?」
※チラーニの第三座席の呼び名を改めます。
× 背乗り手(せのりて)
○ 背の手(せのて)
今回は出ていませんが、次回以降は『背の手』とします。
『背乗り(はいのり)』という単語が、現実のスパイ活動を指す言葉として存在するらしいので。
紛らわしい字面は避けることにしました。