私の世直しアカデミア   作:M.T.

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えっ…?
嘘やろ、10が入っとる…!?
ありがとうございます!!!

面白いと思っていただけましたら高評価、お気に入り、感想等よろしくお願いします。
作者は単純ですので、ものすごく喜びます。

今回はオリ主ちゃんがちょっぴりポンコツです。
飯テロ注意報。


第11話 外フワ中トロのたこ焼きこそ至高

『1時間程の昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイイレイザーヘッド、飯行こうぜ…!』

 

『寝る』

 

『ヒュー』

 

 無事に午前の部を終えると、マイク先生が実況席のマイクを切り忘れたのか、まるで男子中高生のようなやり取りが会場全体に響く。

 仲良いな……

 

 騎馬戦で一緒に戦った緑谷君と麗日君は、飯田君と一緒に昼食を食べに行き、サポートアイテムのアピールを存分にした発目君はホクホク顔でサポート科の席へ戻っていく。

 そんな中、心操君が一人で会場を出ていくのが見えた。

 ほぼ自力で勝ち上がるとは、やるじゃないか。

 絡みに行ってやろう。

 

「やあ、心操君。最終種目進出おめでとう」

 

「六徳さんもね…」

 

 私が声をかけると、心操君は首の後ろを左手で押さえながら不敵に微笑んだ。

 ヒーロー科への移籍を狙っている心操君や療子とは違い、私には最終種目へ進出するメリットがあまりない。

 何故なら六徳家当主に求められる素質は、知力や統率力、人心掌握術といった集団を巧みに機能させる力であって、個人の武力ではないからだ。

 第一種目では普通科やサポート科の生徒を煽動し、第二種目では戦略とチームワークの利を活かし一位の座を守り切る事で六徳家当主としての力を見せつける事ができたが、おそらくタイマンを張って決着をつけるであろう最終種目とは相性が悪い。

 だからこそ、六徳家当主としてではなく、私自身の実力が試される場でもある。

 あとはどこまで勝ち上がれるかという、自身への挑戦だ。

 

 外に出ると、屋台が並んでいた。

 たこ焼き、イカ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、肉まん、アメリカンドッグ、たい焼き、チョコバナナ、クレープ、フルーツ飴…

 ふらっと歩いて見ただけでも、色々あるな。

 

「ところで、君は屋台で何か買うのか?」

 

「たこ焼き。食べる?」

 

 心操君が向かったたこ焼きの屋台からは、甘味と塩味が混ざったソースの香りがする。

 その香りに食欲がそそられ、思わず唾を飲み込む。

 

 事件の数ヶ月前、父が出張で大阪を訪れた際、本場のたこ焼き屋に連れて行ってもらった事があった。

 あの時食べたたこ焼きの味が、今でも忘れられない。

 父が「また来るよ」と店主に朗らかに言ったので、また連れて行ってもらえるんだと子供心に楽しみにしていた。

 あの頃は、あの会話が店主との最後の会話になってしまうとは思いもよらなかったが。

 

「……貰う」

 

 私は、心操君に勧められてたこ焼きを買う事にした。

 それにしても、色々種類があるな。

 ソース、ねぎ塩、おろしポン酢、だし汁、カレー、もちチーズ明太、レモン、キムチ、わさび…

 どれを買えば良いのだろうか。

 

「どれが美味いのだろうか。素人の私に教えてはくれまいか?」

 

「いや、俺だってわかんねえよ」

 

 心操君のツッコミに、思わずハッとする。

 言われてみればその通りだ。

 心操君だって新入生なのだから、どれが美味いかなど知るはずがない。

 というかそもそも、たこ焼きの玄人とは…?

 なんて考えていると、店主が声をかけてくる。

 

「これはこれは、六徳家の当主さんやないか!いやあ〜えらい大活躍やったなぁ、そっちの君も!どや、ウチのたこ焼き食うていかへんか?」

 

 店主の親しげな態度に、つい拍子抜けしてしまった。

 外食をすると、ウェイターはともかく店主ですら私の言動一つ一つにビクビクする者が多いので、こうして気さくに話しかけられるのは何気に新鮮なのだ。

 途中ですれ違った上級生の会話から察するに、この店主は毎年雄英体育祭で屋台を出していると思われる。

 そうなると必然的に大勢のプロヒーローや大企業の重役相手に接客をする事になるので、自然と肝が据わってくるのだろうな。

 私は、動揺した事を悟られないように笑顔を作りつつ、注文をした。

 

「では、ソースとねぎ塩を一箱ずつ。小銭がないので千円で構いませんか?」

 

「いらんいらん、このまま持って行きーや!」

 

「いいんですか?」

 

「俺な、前の当主さん頃からこの店やっとんねん。俺らが平和に暮らしとるのも、半分はあの人のおかげや。せやから君が元気な姿見せてくれたっちゅーだけでも、俺らにとってはありがたい事やねんで」

 

 店主の言葉に、目頭が熱くなる。

 私が一番恐れているのは、父が生涯をかけて遺したものが忘れ去られてしまう事だ。

 だからこそ、私は今まで父の遺したものを絶やさぬよう必死に当主としての務めを果たしてきた。

 父のやってきた事も、私の努力も、無駄ではなかったのだ。

 

「はい、ソースとねぎ塩お待ち!熱いうちに食うてや!」

 

「…ありがとうございます」

 

 私は、渡されたたこ焼きをその場で一つ口に入れた。

 その瞬間、フワフワの生地の中から、ドロッとした生地が溢れ出し…

 

「あっふ!!」

 

 あまりの熱さに、目に涙が滲み、情けない声が漏れる。

 ふと心操君を見ると、私を見ながらぽかんとしていた。

 

 い、今のは不意を突かれただけだ!

 熱くないからな!

 

「は、はふふはい(熱くない)はふふはいほ(熱くないぞ)!」

 

「ハフハフしながら言われても、何言ってんのかわかんねえよ」

 

 私が空気を口に含んで冷ましながら言うと、心操君が呆れ顔を浮かべる。

 

「俺もソースひとつ」

 

「はいよ!」

 

 心操君が私の失態を見てニヤニヤしながらたこ焼きを買うものだから、顔が赤くなるのが自分でもわかる。

 人の失態を見て笑うとは最低な奴め…!

 と思ったが、この美味いたこ焼きに免じて今回は許す。

 不意打ちを喰らいはしたが、私好みのたこ焼きだったので他の味も買う事にした。

 

 …うむ、やはり外フワ中トロのたこ焼きは至高だ。

 鉄板でじっくり焼き上げるからこそ、このような柔らかくてトロトロしたたこ焼きになるのだ。

 最後のプリッとしたタコの食感も良い。

 生地には出汁がしっかりきいていて、生姜が良いアクセントになっている。

 ソースは一から手作りしているのだろうか?

 それにしても、まさか雄英の屋台で本場のたこ焼きが食えるとは思わなかった。

 

 余談だが、関東風たこ焼きは、店の回転率を上げる為に油を多めに使い強火で一気に焼き上げるので、油で揚げたようなカリカリ食感となる。

 冷めにくく形が崩れにくいので持ち帰りに向いている事も、関東風たこ焼きのチェーン店が多く出回っている要因の一つだ。

 確かに関東風には関東風の良さがあるが、あれはもはや別の料理だと私は思う。

 では何と呼ぶのが良いのだろうか?

 ……たこ揚げ?

 

 なんて考えつつ、買ったたこ焼きをC組の席へ持ち帰る途中、療子が女子トイレから出てくるのが見えた。

 俯いていて、心なしかいつもより早足だった。

 余計なお節介かもしれないが、もし悩んでいるなら話を聞こうと思い、声をかけた。

 

「やあ、療子。大丈夫か?」

 

「刹那ちゃん……」

 

 私が声をかけると、療子が顔を上げる。

 療子は、目を腫らして鼻を啜っていた。

 

「……大丈夫です。すみません、こんなとこ見せちゃって…」

 

 そう言って療子は、私に背を向けて立ち去ろうとした。

 療子のチームは、先程の騎馬戦で5位だった。

 4位の心操君のチームの最終得点は850ポイント、療子のチームは820ポイント。

 たった30ポイントの差で、最終種目への切符を逃してしまったのだ。

 0ポイントで敗退するより悔しいのは当然だ。

 

 1位で最終種目に残れた私が何を言っても、療子には同情としか思えないだろう。

 それでも私は敢えて、療子に声をかけた。

 

「気休めを言おう。今回最終種目に進めなかったからといって、ヒーロー科への道が閉ざされたわけではない。医療系のヒーローは、需要に対して圧倒的に供給が追いついていない。もう充分実力は証明できたのだから、雄英もヒーロー科への編入を検討してくれるはずだ」

 

 第二種目を最後まで生き残った治癒系の“個性”持ちをいつまでも普通科に置いておくほど、雄英も愚かではない。

 今回の体育祭の結果を見て、教師陣も療子の編入を検討するはずだ。

 最終種目に進出できなかったからといって、絶望する事などない。

 

 私は、療子の肩に手を置いて、今の自分に言える最大級の気休めを言った。

 私が慰めると療子は、肩を震わせて大粒の涙を零しながら話し始める。

 

「…違うんです。私…自分が負けた事が悔しくて泣いてるんじゃないんです。私は…鉄哲くん達と…()()()()()勝ち進みたかった…!ひぐっ、せっかく私をチームに入れてくれたのに…ぇぐっ……私の“個性”を必要としてくれてたのに…期待…応えられなかった…!!」

 

 その言葉を聞いて、私は自分がとんだ思い違いをしていた事に気がついた。

 私は、療子は自分が負けた事が悔しくて泣いているのだと思っていた。

 だが、違った。

 彼女は、自分のせいでチームが負けた事が、チームメイトが勝ち進めなかった事が悔しくて泣いているのだ。

 

 私は、療子の事を何もわかっていなかった。

 こんな時、私はどうすれば良いのだろう。

 

 君は充分自分の役目を果たした、誰も君のせいだとは思っていない…そう伝えるか?

 …いや、違うな。

 彼女は、そんな事はとっくにわかっている。

 チームメイトが自分を責めるような人間じゃないとわかっているからこそ、最終種目に進めなかった事が悔しいんだ。

 

 わからない。

 私は、人の感情が理屈でしか理解できない。

 だからこそ、人の心というものを知りたいと常日頃から思っている。

 私は…どうしてやるのが正解なのだろう。

 

 そんな事を考えていると、視界にたこ焼きの箱が映る。

 私はほんの思いつきで、泣いている療子の口にたこ焼きを突っ込んでみた。

 

「はふっ!?は、はひふふんへふは(何するんですか)!?」

 

 私がたこ焼きを突っ込むと、療子はハフハフしながら私に抗議した。

 人は悩んでいる時に突拍子もない事をされると、悩んでいた事を忘れ、却って冷静になるものだ。

 

「療子。私はね、君に強くなってほしいんだよ。君は優しすぎるから、他人の痛みを自分の痛みのように受け取ってしまう。尚の事、たとえ一人でもどんな困難をも乗り越えられる…そんな人間になってほしいと願っている」

 

 そう言って私は、療子にたこ焼きを持たせた。

 

「だから、今はまずたこ焼きを食え。美味いものを食えば、大抵の事はどうでも良くなる」

 

「刹那ちゃん………」

 

 私が言うと、療子は涙を拭いながら顔を上げた。

 

「……口にソースついてます」

 

「えっ?」

 

 …嘘だろ?

 って事は私、今まで口にソースをつけたまま療子に偉そうに説教してたのか!?

 そう思うと急に羞恥が込み上げてきて、咄嗟に口元を右手で隠した。

 ついてるなら何故もっと早く教えてくれなかったんだ…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「………ふぅ」

 

 療子にたこ焼きを持たせ先に席に戻らせた私は、トイレで用を足して手を洗ってから、両手の肉球にワセリンを塗った。

 私の指の肉球は、適度なしっとりプニプニ感を維持できていないと、“個性”をベストコンディションで発動できないのだ。

 だから手を洗ったり“個性”を使ったりする度に、こうして丁寧にワセリンを塗ってやらねばならない。

 私が用を済ませC組の席に戻ろうとすると、見慣れた人物に鉢合わせた。

 白銀の癖毛の短髪と水色の瞳を持った長身の青年が、私に手を振ってくる。

 

「一位通過おめでとう」

 

「…お仕事はどうしたんです、燈矢さん」

 

「俺今休憩中」

 

「あら、そうですか。それで私に何のご用でしょう?」

 

「可愛い末弟と刹那ちゃんの活躍を見に来ちゃ悪いかよ」

 

 私がのらりくらりと躱すも、燈矢さんはまるで私を妹か従妹のように扱ってくる。

 轟燈矢さん。

 A組の轟君の長兄で、現在研修中のエリート警察官だ。

 今日は雄英のスタジアムの警備にお呼ばれしたそうで、休憩時間を縫って轟君と私の顔を見に来たそうな。

 

「お気持ちは嬉しいのですが、でしたら早く観客席に戻って焦凍君を応援してあげては?その方が彼も喜びますよ」

 

「つれねぇな、俺は誰よりも刹那ちゃんに感謝してるんだぜ?刹那ちゃんが俺を救ってくれなかったら、焦凍にざる蕎麦を食わせてやる事もできなかったからな」

 

 私が言うと、燈矢さんは微笑みながら私に感謝した。

 彼が今こうして生きているのは、10年前に瀬古杜岳で山火事を起こして瀕死の重傷を負っていた彼を、たまたまトレーニング場所を探す為に瀬古杜岳に来ていた私とボディーガードの面々で救出し、長期にわたる治療とカウンセリングを施したからだ。

 今では、休みの日に手打ち蕎麦を振る舞っているそうだ。

 

「たまにはウチに蕎麦食いに来いよ。前より上手くなったからさ」

 

「ええ、是非」

 

 燈矢さんの誘いに、私は笑顔で答え、C組の観客席に戻った。

 するとそこには、クラスの女子達にもっちりと絡まれている療子がいた。

 

「たこ焼き食え〜」

 

「お好み焼き食え〜」

 

「焼きそば食えよ〜」

 

「はふっ、はっふ」

 

 他の皆が屋台で買った食べ物を療子の口に運ぶと、療子は涙や鼻水を流しながら、やけ食いと言わんばかりに屋台飯を頬張った。

 その光景に、思わず笑みが零れた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

燈矢side

 

 俺はただ、お父さんに見てほしかっただけだった。

 お父さんは、俺にオールマイトを超えさせる為に、“個性”の訓練をしてくれた。

 だけど俺にお母さんの体質が出て自分の炎で火傷するようになってからは、お父さんは“個性”の訓練をしてくれなくなって、いつからか俺を見ようとしなくなった。

 終いには俺にヒーローを諦めさせる為に子供を作って、最高傑作の焦凍に傾倒するようになった。

 

 お父さんだけじゃない。

 お母さんも、冬美ちゃんも、夏くんも、誰も俺を見てくれなかった。

 

 俺はお父さんに見てもらいたくて、隠れて“個性”の訓練をして、炎の出力を上げてきた。

 あの日はその成果をお父さんに見せる為に、お父さんが昔トレーニングに使っていた瀬古杜岳で“個性”の訓練をしてたんだ。

 

「すごいぞ俺…これならお父さんもきっとびっくりするぞ!ああでも…くっそ昂ると何だって涙が出ちゃうんだろ…」

 

 感情の昂りに応えるように、赤かった炎が青くなって、炎はさらに勢いを増した。

 だけど感情が昂るほど、涙が溢れて止まらなくなった。

 

「出るな…!涙なんか…ちくしょう…お父さ」

 

 溢れ出した涙を拭おうとしたその時、突然身体から炎が上がった。

 火力が上がりすぎて、“個性”が暴走したんだ。

 火力の上げ方しか知らなかった俺は、炎を制御できずに、あっという間に火だるまになった。

 でも、その時だった。

 

「君、大丈夫か!!?」

 

 眼鏡をかけた知らないオッサンが炎の中に突っ込んできて、俺の腕を掴んで“個性”で俺の身体を冷やしてきた。

 

「ちくちょう…触るな!!離せ、離せよ!!どいつもこいつも、俺をバカにしやがって!!」

 

 俺がオッサンの手を振り払おうとしている間に黒い服を着た連中がぞろぞろと駆けつけてきて、そのまま俺は取り押さえられて気を失った。

 

 

 

「あ、おきた」

 

 目が覚めると、知らない天井が視界に映った。

 無機質なベッドに横たわった俺はチューブで繋がれていて、焦凍と同じくらいの歳の女の子が俺の顔を覗き込んでいた。

 それが、刹那ちゃんとの出会いだった。

 

「先生、燈矢くん起きた」

 

 刹那ちゃんが病室のドアを開けると、俺の主治医の先生が病室に入ってきた。

 

「ここは……?」

 

「病院。瀬古杜岳で重傷を負っていた君を、偶然彼女が見つけたんだ」

 

 先生は、あの日俺の身に何があったのかを教えてくれた。

 “個性”を暴走させた俺は、刹那ちゃんの家の使用人に救出されて、全身に火傷を負った状態で病院まで運び込まれたらしい。

 どういうわけか奇跡的に臓器の損傷が一切なかったらしく、重傷ではあったものの命に別状はなかった。

 

「燈矢くん、4週間も眠りっぱなしだったんだよ」

 

「彼女に感謝しなよ。あと少し発見が遅れてたら、助からなかったかもしれないんだから」

 

 刹那ちゃんと先生の話を聞いて、真っ先に思い浮かんだのはお父さんだった。

 今頃、心配してるかもしれない。

 お父さんにも、お母さんにも、酷い事したし言っちゃったから謝らなきゃ。

 それで仲直りして、今度こそお父さんに見てもらわなきゃ。

 

「帰らなきゃ…」

 

 俺がチューブを引き抜いて帰ろうとすると、刹那ちゃんがついてきた。

 

「だめだよ。まだ治ってないでしょ?」

 

「うるさい…ついてくるな」

 

「リハビリ受けないとだめだよ」

 

「うるさい…!お前に俺の何がわかるんだよ」

 

 俺が突っぱねると、刹那ちゃんはムスッとした表情を浮かべて言った。

 

「わかんないよ。だって燈矢くん、何も話してくれないじゃない。言ってくれなきゃ何も伝わらないよ。思ってきた事、ちゃんと話して?」

 

 刹那ちゃんの言葉に、俺は思わず足を止めた。

 正直、まだ物心がついたばかりの子供に何の期待もしていなかった。

 だけどずっと抱えてきたものが込み上げてきて、気がつけば刹那ちゃんに全部打ち明けていた。

 今思えば、何も知らない子供だったからこそ打ち明けられたのかもしれない。

 

「だから…俺は、焦凍も、お父さんも…オールマイトだって超えてやるんだ…!!」

 

「うん」

 

「そうすりゃあ、お父さんだって俺を生んでよかったって思ってくれるからさ…!!」

 

「……うん」

 

 刹那ちゃんは、最後まで嫌な顔をせずに俺の話を聞いてくれた。

 今だから言える事だが、当時の俺は周りから見て相当歪んでいたと思う。

 それでも、彼女だけは俺を見捨てなかった。

 

 その後すぐ、お父さんとお母さんが見舞いに来てくれて、俺の顔を見るなり縋るように泣いた。

 二人は、俺が目を覚ますまで毎日病室に来てくれていたらしい。

 刹那ちゃんに背中を押された俺は、今まで思ってきた事を全部お父さんとお母さんにぶつけた。

 そしたらお父さんとお母さんも、本心を打ち明けて、今まで俺を見ようとしなかった事を謝ってきた。

 俺も俺で、お父さんとお母さんに酷い事を言った事、皆の気持ちを考えずに一人で抱え込んでいた事を謝った。

 ずっとお父さんに見てほしくて“個性”の訓練をしてきたけど、お父さんが俺を心配してくれてたなんて知らなかった。

 けどさ…

 

「燈矢くんにごめんなさいは?」

 

「燈矢…俺が悪かった…瀬古杜岳、行かなくて…ごめんな……!!」

 

 5歳児に強制土下座させられるお父さんの姿には、父親としての威厳がまるで感じられなかったな。

 それを見たら、何だか今までずっと一人で抱え込んでたのが馬鹿らしくなって、心がスッと軽くなった。

 

 その日から俺は、少しでも早く身体が本調子に戻るように、リハビリに専念した。

 先生からは、手術する時に俺の“個性”を検査した結果、俺には氷の“個性”も宿っていた事が判明したと伝えられた。

 全身に火傷を負っても命に関わる状態に陥らなかったのは、無意識のうちに氷の“個性”で身体を冷やしていたからだろうとも言われた。

 お父さんがリハビリに付き合ってくれて、身体を冷やしながら蒼炎を操る“個性”の使い方に少しずつ慣れていった。

 

 リハビリしてる間に、刹那ちゃんとも仲良くなった。

 刹那ちゃんの話も聞いた。

 彼女は、身体が弱くて家督を継ぐ資格がなかったから、家の外ではほとんど空気のような扱いを受けていたらしい。

 稀代の天才だった父親と、本来次期当主になるはずだった弟を身籠った母親が死に、自分だけが生き残ってしまった罪悪感に苦しんだ頃もあったという。

 境遇が似ているからか、刹那ちゃんの事だけは他人だとは思えなかった。

 

「おいしいね」

 

「……ああ。美味い」

 

 俺の好物が蕎麦だと話すと、刹那ちゃんは毎日のように蕎麦を食わせてくれた。

 あの頃の俺にとっては、彼女だけが唯一信頼できる友達だった。

 

 

 

「燈矢さんは、ヒーローになりたいんですか?」

 

「いや…もうわかんねえ。お父さんに見てもらいたくて、オールマイトをも超えるヒーローを目指してきたけど…俺、本当にヒーローになりたかったのかな」

 

 リハビリを始めてから2年後、刹那ちゃんは改めて俺を訪ねてきて、人生相談に乗ってくれた。

 俺は、お父さんに見てもらう為だけに、No.1ヒーローを目指してきた。

 リハビリと“個性”の訓練のおかげで、中3の夏にはお父さんにも負けない火力の蒼炎を自在に操れるようになっていた。

 だけどリハビリを終える頃にはもう、No.1ヒーローに対する熱はすっかり冷めていた。

 …ヒーローの嫌な部分も散々知っちまったしな。

 

「……燈矢さん、警察官僚になる気はありませんか?」

 

「え?」

 

「基本的に警察というのは、ヒーローより立場が上です。警察組織の上層部にもなれば、オールマイトを超えるどころか、こき使える立場になるんですよ。そこでトップになって、警視総監にまで上り詰めれば、きっとお父様もあなたを認めざるを得なくなります。興味ありませんか?」

 

「………悪くねえな」

 

 刹那ちゃんは、俺が考えた事もなかった提案をしてきた。

 今思えば、それが俺の新たな人生の原点だったように思う。

 

 雄英の普通科に進学して、国内最高峰の大学を卒業してキャリア警察官の道に進んだ。

 お父さんとお母さんは、俺の進路を応援してくれた。

 お父さんとお母さんから受け継いだ力を使う最後の機会に体育祭で優勝したら、お父さんが初めて「俺より強い」って言ってくれて、やっと今までの努力が報われた気がした。

 高校の頃から趣味で蕎麦打ちをやっていて、休日は焦凍に蕎麦を食わせてやるのが楽しみの一つになっている。

 蕎麦打ちを練習してきた甲斐あって、最近ようやく蕎麦にうるさい刹那ちゃんのお墨付きを貰えた。

 今は警察官になる為の研修を受けていて、今年の6月には昇進が確定している。

 研修終わりに先輩に飲みに連れて行かれて、しっかり酔わされて帰ってきて家の中で変な踊りを踊りながら昔の事を愚痴った時は、流石のお父さんも困惑していたらしい……記憶にないけど*1

 

 今の幸せがあるのは、刹那ちゃんが俺を救ってくれたおかげだ。

 もし彼女があの日瀬古杜岳に来なかったら、俺は憎悪を抱いたまま焼け死んでいて、家族と仲直りする事もなかったかもしれない。

 刹那ちゃんは、俺にとってのヒーローだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 昼休みも無事に終わり、午後の部が始まったのだが…

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!っとその前に、A組・B組女子一同による応援合戦だァ!!』

 

「皆ー!いくよー!!」

 

「葉隠メッチャ気合い入ってんじゃん…」

 

「好きね透ちゃん」

 

 マイク先生の実況と、軽快な音楽と共に、チアガール姿のヒーロー科女子が登場して応援合戦を始めた。

 女子達が各々の“個性”を使って、アイドルのようなパフォーマンスで観客を魅了していた。

 特に透明化の“個性”を持つ葉隠君と、端正な顔立ちをした小大君が目立っていたな。

 

「うひょおお!オイラ、この瞬間の為に雄英に入ったんだ!」

 

「ダメ元で六徳さんに声かけてよかったな、峰田ぁ…!」

 

 A組の席では、峰田君と上鳴君が涙を流しながら感動していた。

 何を隠そう、このパフォーマンスを企画したのは彼等であり、それを採用してもらう為に校長に掛け合ったのは私である。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 遡る事10日前。

 私が食堂で唐揚げ定食に舌鼓を打っていると、例の二人が話しかけてきた。

 

「あのぅ、僕ら六徳様に少々お話があって…」

 

「ちょっと今お時間いいっすか?」

 

 上鳴君と峰田君は、やたらヘコヘコと姿勢を低くして両手を擦りながら話しかけてきた。

 ヒーロー科の二人がわざわざ普通科の私に声をかけるという事は、よほど重要な用件だろうと思い、とりあえず話を聞く事にした。

 

「ヒーロー科女子によるチアリーディング…?」

 

「どうかお願いします、神様仏様六徳家当主様!!」

 

 二人が提案してきたのは、ヒーロー科女子13名による体育祭でのチアリーディングだった。

 確かに、午前の部で敗退した生徒にとってはアピールチャンスになるかもしれないし、全国のプロヒーローや大企業が見ている前で前面的に売り出していく戦略は実に合理的だ。

 その時の私は、そう考えた。

 

「それで視聴率やプロヒーローからの注目度の向上が見込めるのか?よし、そういう事なら今すぐ校長に掛け合ってみよう」

 

「「あざぁぁぁす!!!」」

 

 私が二人の提案を快諾すると、二人は全力で礼を言ってきた。

 まあ彼等の本音は、差し詰め女子達のチアガール姿を見たいが、自分達では却下されるのが目に見えているため、交渉役に私を挟もうと考えた…といったところなのだろう。

 だが目的の為なら身近な権力者を利用するのを躊躇わない姿勢は嫌いではないし、あわよくば二人を利用させてもらう機会があるかもしれないので、敢えて乗せられてやる事にした。

 私がその日のうちに校長に掛け合ってみたところ、任意参加という条件付きで許可を貰えた。

 ついでに六徳家の技術力を最大限アピールする為、パフォーマンスに必要な衣装や機材は全てこちらで用意する事にした。

 その事を二人に報告したところ、二人は私を神のように崇めてきた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんなこんなで行われたチア合戦は、期待以上に見応えがあった。

 客席は大盛況だったし、何だかんだで女子達もやり切ったようだし、来年以降も実施してみても良いかもしれない。

 

『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか…!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」

 

「去年トーナメントだったっけ?」

 

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」

 

 そんな会話が、A組の列から聴こえてくる。

 去年は確か…スポーツチャンバラだったかな。

 私には剣道経験はないが、真剣を使った実戦的な剣術を山根から教わっていたので、もしかしたらその経験が活きたかもしれないな。

 なんて考えていると、ミッドナイト先生がくじ引き用の箱を持って姿を現した。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人も居るしね。んじゃ1位チームから順に…」

 

 これから組み合わせが決まるとの事で、最初に私がくじを引こうとした、その時だった。

 

 

 

「あの…!すみません。俺、辞退します」

 

 そう言って手を挙げたのは、A組の尾白君だ。

 彼は確か…心操君と同じチームだったかな。

 

「尾白くん!何で…!?せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

 

「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分奴の“個性”で…」

 

 緑谷君が尋ねると、尾白君は心操君を指差しながら言った。

 すると心操君は、フイっと顔を逸らす。

 

「チャンスの場だってのは分かってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも…!」

 

「尾白くん…」

 

「でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ、こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺はできない」

 

 なるほどな…

 他人のおこぼれで勝ち上がった自分が許せない、的なやつか。

 プロになれば利用するのもされるのも当たり前の世界なのだから、そんなのいちいち気にしていたらキリがないと私は思うが…

 これは彼自身の問題なのだから、私が口を挟むのはお門違いだ。

 

「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せば良いんだよ!」

 

「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」

 

「違うんだ…!俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ」

 

 クラスメイトが説得を試みるも、尾白君は自分の意志を曲げるつもりはないようだった。

 すると彼と同じチームだったB組の庄田君と吹出君も口を開く。

 

「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に…()()()()()()()が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

「僕も…辞退します!こんな形で勝ち上がるなんて、やっぱり納得できない!」

 

 庄田君と吹出君も、自分のプライドを理由に辞退した。

 三人の棄権が認められるかどうかは、主審のミッドナイト先生の采配に委ねられるわけだが…

 

「そういう青臭い話はさァ…

 

 

 

 好み!!!」

 

 ミッドナイト先生は、ご満悦そうにピシャッと鞭を打った。

 

「尾白、庄田、吹出の棄権を認めます!」

 

 だと思ったよ、ちくしょう。

 というか好みで決めていいのか…?

 

「繰り上がりは5位の拳藤チームだけど…」

 

「そういう話で来るんなら…最後まで頑張って上位維持してた切奈達じゃね?」

 

 そう言って拳藤君が取蔭チームの4人を見ると、4人は顔を見合わせた。

 

「いや、上位っつっても委員長達と僅差だったし…さ?」

 

「そんなん気にしなくていいから、本戦頑張れよ」

 

「お…おめェらァ!!!」

 

 取蔭君と骨抜君が逆に拳藤チームを繰り上がりに推薦すると、鉄哲君が涙を流した。

 

「それじゃあ、拳藤チームから3人決めてちょうだい!」

 

 ミッドナイト先生が言うと、拳藤チームの表情が固まる。

 三人決める、という事は、チームの中から一人を落とさなければならない、という事だ。

 4人ともここに来る為に戦ったのだから、全員納得の上で決まるはずがない。

 我慢を強いられるのが三人や二人ならまだしも、たった一人なら尚更だ。

 本戦の前に仲間割れする最悪の未来を想定したその時、療子が手を挙げた。

 

「あの…私、辞退します」

 

 療子が自ら辞退すると、他の三人が一斉に療子を見る。

 

「え、何で…!?」

 

「私は、最後まで頑張って戦った3人に勝ち進んでほしいんです。皆さんがチームメイトとして対等に扱ってくれて、お力になれた…私はそれでもう充分です。私が繰り上がったところで、多分すぐ負けちゃうと思いますし…出場するべきなのは、どう考えても私じゃないです」

 

「癒治…」

 

「その代わり、拳藤さん、鉄哲くん、塩崎さん…絶対勝ち進んでください…!」

 

 そう言って療子は、グッと拳を握りしめて笑顔を浮かべた。

 その表情を見るに、悔いは一切ないようだった。

 療子の言葉に、鉄哲君は涙を滲ませ、拳藤君は礼を言い、塩崎君は頭を下げた。

 チームメイトの三人にありったけの感謝を受けた療子は、顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。

 

「あの子…いいわぁ……」

 

 恥ずかしがりながらチームメイトと円陣を組む療子を、ミッドナイト先生が危ない目で見ていたものだから、さりげなく療子を庇うような位置に立っておいた。

 性別問わず見境なしかよ…

 

「というわけで、組はこうなりました!!」

 

 

 

 Aブロック

 第一試合 緑谷VS心操

 第二試合 八百万VS六徳

 第三試合 轟VS瀬呂

 第四試合 芦戸VS拳藤

 

 Bブロック

 第五試合 上鳴VS塩崎

 第六試合 飯田VS発目

 第七試合 切島VS鉄哲

 第八試合 麗日VS爆豪

 

 

 

 …ふむ。

 一回戦の相手は百か。

 百とは、物心ついた頃から家族ぐるみの付き合いをしてきた。

 最後に一緒に遊んだ時からどれほど成長しているか…楽しみだ。

 

 

 

 

 

*1
笑いながら「地獄で俺と踊ろうぜ!」とか言ってたらしい。後で夏くんからその話を聞いて自分でもドン引きした




救済キャラ二人目は燈矢くんです。
ただし助かるのが原作でAFOが寄ってくるギリギリのところだったので、他の轟家救済系二次創作とは違い、ヒーローとは別の道を歩んでいます。
ぶっちゃけこれ以上ヒーロー陣営の人員増やすと連合オーバーキルになっちゃうからプロヒーローにしなかったとは言えない。
いつかお父さんを顎で使う為にバリバリ出世し、先輩に誘われた飲み会でしっかり酔っ払って踊りながら帰ってきてお父さんを困惑させる、それがうちの作品の燈矢くんです。

そしてこの世界線では、上鳴・峰田の嘘ではなく、オリ主ちゃんの計らいで本当にチアリーディングがあります。
ちなみに騎馬戦の結果

1位 緑谷チーム(緑谷・六徳・麗日・発目) 10000160P(緑谷チーム)
2位 爆豪チーム(爆豪・切島・瀬呂・芦戸) 1470P(爆豪チーム、耳郎チーム、物間チーム)
3位 轟チーム (轟・飯田・上鳴・八百万) 1005P(轟チーム、心操チーム、角取チーム)
4位 心操チーム(心操・尾白・庄田・吹出) 850P(取蔭チーム、峰田チーム)
5位 拳藤チーム(拳藤・鉄哲・塩崎・癒治) 820P(拳藤チーム、小大チーム、鱗チーム)

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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