私の世直しアカデミア   作:M.T.

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9が増えとる…
ありがとうございます!!!

面白いと思っていただけましたら高評価、お気に入り、感想等よろしくお願いします。
作者は単純ですので、ものすごく喜びます。


第12話 精神攻撃こそ最強の武器説

 第二種目を勝ち上がった総勢16名によるトーナメント。

 上位三チームの私達、爆豪チーム、轟チーム、そして心操君と、繰り上がりで拳藤チームの三人が出場する事となった。

 私の一回戦の相手は百だ。

 

「一回戦は…刹那さんですか」

 

「百。胸を借りるつもりで挑ませてもらうよ。お互い、良い試合にしよう」

 

「誠心誠意、お受け致しますわ」

 

 私が手を差し出すと、百が私の手を握った。

 うむ、いい表情だ。

 何か爆豪君に睨まれた麗日君が顔を真っ青にしているが…うん、ご愁傷様。

 

 二人の“個性”はこの二週間観察させてもらったが、二人とも敵に回すには恐ろしい強力な“個性”だ。

 だが悲しい事に、麗日君の勝てる未来が見えないんだよなぁ。

 “個性”を発動して浮かせたところで、空中で移動や攻撃ができる爆豪君にとっては痛くも痒くもないだろうし。

 

 とは言っても、この中で一番気になるのは、緑谷君と心操君の試合だ。

 純粋な殴り合いでならギリギリ緑谷君が勝つだろうが、心操君には私が()()を授けておいたし、緑谷君も“個性”が未知数だから何とも言えない。

 正直ものすごく見たいが…私の試合が第二試合だから、観客席で見られないのが非常に残念だ。

 ……入場ゲートで見るか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 そんなこんなで始まったレクリエーション。

 レクリエーションでは、大玉転がしや綱引き、借り物競走などの、所謂一般的な運動会の競技が行われた。

 ヒーロー科の女子達は、レクリエーションに参加している生徒達を、歌やダンスと共に“個性”を使ったパフォーマンスで応援した。

 私は温存したいので見るだけに留めておいたが、見ていて楽しそうだった。

 

「刹那ちゃん…!一緒に来てください!」

 

 私がレクリエーションを観戦していると、借り物競走に参加していた療子が話しかけてくる。

 

「私?構わないが…」

 

 私が立ち上がると、療子は私の腕を引いて走り出した。

 私は、療子に連れられて一緒にゴールした。

 

「ところで療子、お題は何だったのだ?」

 

 私が尋ねると、療子は俯いて恥ずかしそうにお題のカードを見せる。

 カードには、『かわいい人』と書かれている。

 もう一度療子の顔を見ると、療子は顔を赤らめて唇をモニョモニョさせていた。

 

「私が推すのは、世界一カァイイ刹那ちゃん…です」

 

 

 

 

 ………………はっ。

 

 いかんいかん、一瞬意識が飛んだ。

 素で私の意識を飛ばすとは、療子め…なんて恐ろしい奴だ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんなこんなで、レクリエーションが終わり、いよいよトーナメントが始まった。

 私は、次の試合に備えて入場ゲート付近で初戦を見守る事にした。

 生徒達がレクリエーションを行っていたスタジアムは、セメントス先生の手によって戦闘用のリングに変えられた。

 

「オッケーもうほぼ完成」

 

『サンキューセメントス!ヘイガイズ!アァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!分かるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!一回戦、第一試合!!成績の割に何だその顔!ヒーロー科緑谷出久!!対、ごめんまだ目立つ活躍なし!普通科、心操人使!!』

 

 なんとも雑なマイク先生の紹介に、内心「なんだかなぁ」と思いながらも、リングに上がる二人を見届けた。

 緑谷君は緊張で顔を強張らせていて、心操君は緑谷君の出方を窺うかのようにギラついた目で見据えている。

 

『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、後は『まいった』とか言わせても勝ちのガチンコだ!!怪我上等!!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!!道徳倫理は一旦捨てとけ!!だがまぁ勿論命に関わるよーなのはクソだぜ!!アウト!ヒーローは(ヴィラン)を捕まえる為に拳を振るうのだ!』

 

 なんかこういうルールの大会、昔漫画で読んだ事あるな。

 七つ玉を集めて願いを叶える物語で、父が好きだった作品だ。

 …途中からパワーインフレ起こしすぎて玉関係なくなってたが。

 

「『まいった』…か。わかるかい緑谷出久。これは心の強さを問われる戦い。強く想うヴィジョンがあるなら、なりふり構ってちゃダメなんだ…」

 

『そんじゃ早速始めよか!レディィィィィイSTART!!』

 

 試合開始と同時に、心操君が歩き出した。

 特に構えを取る様子もなく、歩幅を大きめに取って普通に歩く。

 一歩ずつ、確実に距離を詰めていく。

 ただそれだけなのに、心操君が一歩近づく度に、緑谷君の表情には緊張と警戒が強く現れる。

 

 ああ、あの様子だと、やはり尾白君あたりが緑谷君に心操君の“個性”を教えたんだろうな。

 だが発動条件がわからないから、心操君の挙動ひとつひとつを警戒するしかない…といったところか。

 心操君が緑谷君の間合いに入ると、離れた場所で見ている私ですら肌で感じる程のピリッとした空気が流れる。

 その状態のまま、互いに一歩も動かず、一言も会話を交わさない。

 その異様な光景を、観客は怪訝そうな表情で見ていた。

 

『両者、微動だにせず!!おいおいどーした二人とも!?初戦なんだから盛り上げてくれよ!?』

 

 マイク先生の煽りも効かず、二人は互いに間合いを取ったまま動かない。

 だが、緑谷君の頬から汗が滴り落ちた、その瞬間。

 心操君が手を伸ばし、緑谷君はハッと何かに気づいたような表情を浮かべて大きく後ろに退いた。

 すると心操君は、緑谷君に疑いの目を向けながら尋ねる。

 

「その様子だと…お前、俺の“個性”知ってるだろ。誰から聞いた?()()()か?」

 

「!」

 

 心操君が尋ねると、緑谷君は目を見開く。

 わかりやすいな…

 

「ハッ…図星かよ。どうやら、あんたの中じゃ触れたらアウトって認識になってるようだな。そりゃあまあ…触れたら発動する“個性”とか、カウンター型の“個性”とか、あるにはあるもんな。何かされる前に逃げて対策練るって判断は間違ってねえよ。けどさ………あんた、本当に勝つ気あんの?」

 

 心操君が挑発すると、緑谷君の表情が強張る。

 心操君は、距離を取ろうとする緑谷君に、強気な態度でズンズンと近づきながら煽っていく。

 

「こうしてる間にも、自分がどんどん不利な状況に追い込まれてるのわかってる?本気で勝ちに行く気があるんならさ、殴ってみろよ」

 

 心操君が煽る度に、緑谷君の表情がどんどん曇る。

 相手の“個性”の発動条件がわからない状態で迂闊に近づけば、それだけで負ける可能性がある。

 緑谷君の中で心操君の“個性”が接触によって発動するタイプである可能性が残っている以上、そんなリスキーな賭けはできない。

 この状況を打開するには、衝撃波を放って心操君を場外に押し出すしかない。

 だが緑谷君の“個性”は諸刃の剣だ。そう簡単には打てない。

 その状況に、心操君は巧みにつけ込んでいく。

 

「あーあ…こんなもんかよ、ヒーロー科。お前も、あの尾白とかいう奴も、何もわかってねえな…あいつはプライドがどうとか言ってたけど、チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」

 

「っ…なんて事言うんだ!!」

 

 心操君が尾白君への侮辱ともとれる発言をすると、初めて緑谷君が激昂して口を開き、心操君に掴み掛かろうとした。

 するとその瞬間、緑谷君は完全に動きを停止した。

 

「俺の勝ちだ」

 

『緑谷完全停止!?アホ面でビクともしねぇ!!心操の“個性”か!!?彼、ひょっとしてヤベェ奴なのか!!!』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

心操side

 

「秘策?」

 

「ウム!君が少しでも体育祭で有利に立ち回れるように、作戦を考えてきたんだ」

 

 昨日、俺は六徳さんから俺の“個性”を最大限活かす為の秘策を聞かされた。

 ワード40枚分のメモを見せられた時は度肝を抜いたが、彼女曰く「本気で勝ちに行きたいならこれくらいするのは当然だろう?」との事らしい。

 普通は体育祭の為だけにそこまでしねえよ…

 

「君の“個性”の弱点を書き出してみたんだが…軽い衝撃で解除されてしまうのと、一度タネが割れてしまえば同じ手は使えない、あとは対人戦闘でしか効果を発揮できない…という認識でよろしいか?」

 

「……ああ。一度バレたら二度と通用しないってのが痛いよな…」

 

「だったら、洗脳する時に極力相手に触れながら話しかける、というのはどうだろう?遠くから声をかけるよりは、触れながら話す方が相手の注意を引きやすいし、発動条件をあやふやにできるんじゃないかと思うんだが…ああ、これはあくまで体育祭用の策だという事は留意してくれ。(ヴィラン)に同じ事をすれば、逆に相手の“個性”の発動条件を満たしてしまう可能性があるし、最悪触れる前に手首を斬り落とされたりしかねんからな」

 

 六徳さんの言葉に、思わず顔を引き攣らせた。

 暗殺慣れしてるせいでサラッと物騒なワードが出てくるんだよな、この人…

 

「情報量を増やす事で混乱させんのか…でも、“個性”がバレたら結局警戒されちまうんだから大して意味ねえんじゃねえの?多分一度かかった奴は、同じクラスの奴に情報を共有するだろうし」

 

「むしろ警戒されるからこそ良いのだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「想像もしてみろ、喋る事も触れる事もできずに一方的に挑発され続けるのだぞ?相手からしてみれば、この上ないストレスだと思わんか?」

 

「……確かにな」

 

「今の君では、ハッキリ言って個の戦闘での勝ち目はほぼゼロだ。ならばどうするか?簡単な話だ。君の得意分野を押し付ければいい。正面戦闘を想定している相手を、無理矢理心理戦のフィールドに引き摺り込むのだ。相手が君以外に注意を向けられなくなるまで、徹底的に心を壊せ。君が勝てるとすれば、それしかない」

 

 六徳さんは、俺にずいっと顔を寄せて言った。

 『心を壊せ』という言葉に良心が痛んだが、彼女が俺の為に策を授けてくれたんだから、日和る方が彼女にも対戦相手にも失礼だ。

 勝つ為なら、何だってやってやる。

 

 

 

「仕込みはちゃんとしたか?」

 

「ああ。極力発動条件を特定されないようにしたよ」

 

「上出来だ」

 

 トーナメントの組み合わせが決まった後、俺は六徳さんと最後の作戦会議をした。

 

「初戦は出だしが肝心だ。間違っても、いきなり突っ走ったり不必要に罵倒したりするな。一旦戦闘のフィールドに入ってしまえば、君の勝ち目はなくなる。緑谷君はおそらく尾白君から君の“個性”を聞いているだろうから、尚更君を警戒して挙動のひとつひとつを注意深く観察しようとするはずだ。できるだけ長時間、緑谷君を心理戦のフィールドに引き摺り込んで、判断力を鈍らせてからトドメを刺せ」

 

「えげつない事考えるね…」

 

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 俺が顔を引き攣らせると、六徳さんはニヤリと笑った。

 六徳さんは、相手にできるだけ長く心理戦を押し付ける方法を教えてくれた。

 

 まずは背筋を伸ばして、歩幅を肩幅より一歩広いくらいに取って、相手の目をまっすぐ見ながら普通に歩く。

 歩く速さは普段より気持ち遅めで、何が起きても動じずに確実に相手との距離を詰めていく。

 これだけで、相手に威圧感を与えられるそうだ。

 

 緑谷は、相手の挙動ひとつひとつを注意深く観察して分析するタイプだ。

 そういう奴ほど、一度心理戦のフィールドに引き摺り込めばズブズブ嵌っていく。

 出だしさえ上手くいけば、ほぼ間違いなく俺に有利な状況を作れる。

 

 緊張の糸がギリギリまで張り詰めた瞬間が勝負所だ。

 虚を突いてビビらせてから、そこから畳み掛けるように煽り、ストレスを与える。

 ハッタリと煽りで正常な判断能力を奪って、トドメを刺す形で問いかけをする。

 罠に嵌るまでが勝負所だが、嵌まりさえすれば俺のペースに持ち込める。

 改めて、相手に“個性”がバレている事を逆手に取ったえげつない作戦だと思った。

 

「私は君に忖度するつもりは一切無いし、百が相手だと何もさせてもらえずに負けるかもしれない。だから一回戦で、君にできる全力を残らず出し切れ」

 

 そう言って六徳さんは、サムズアップをした。

 相手が十分な距離を取ったまま攻撃できる遠距離持ちだったら、問いかけすらさせてもらえずに負ける可能性が高い。

 おそらく本戦で俺の得意を押し付けられるのは、緑谷が最初で最後だ。

 出し惜しみする事なく、全力で挑もう。

 

「で、六徳さんから見てどうなんだよ?俺と緑谷、どっちが勝つと思う?」

 

「そうだな…私の見立てだと、99%君が勝つ」

 

「思ったより高いな」

 

「秘策を実行するのに理想的な条件が揃ってるからね。私の策がうまく嵌れば、ほぼ確実に勝ったと思っていい。ただ、緑谷君の“個性”が未知数だからな。何らかのどんでん返しがある可能性も否定できん」

 

「『何らかの』って何だよ…もし“個性”を跳ね除けられたらどうすりゃあいいんだ?」

 

「諦めろ♡」

 

 俺が尋ねると、六徳さんは満面の笑みで言った。

 そう言うと思ったよ、ちくしょう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「悪いな。俺にだって、譲れないものがあるんだ。振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」

 

 俺が命令すると、緑谷は振り向いて歩き出した。

 

『ああーーー!緑谷ジュージュン!!』

 

 わかんないだろうけど、こんな“個性”でも夢見ちゃうんだよ。

 そんな俺の背中を押してくれる人だっているんだ。

 だから、卑怯だの何だのと言われようが、俺は全力で勝ちに行く。

 さあ、負けてくれ。

 

 

 

 

 

 ――バキッ!!!!

 

 

 

 …………な!?

 

「っ……!!!ハァ!ハァ…!」

 

『──────これは…緑谷!!留まったああ!?』

 

 緑谷は、指から衝撃波を起こして、無理矢理『洗脳』を解いた。

 衝撃波を起こした指は、赤黒く腫れ上がっている。

 こいつ…何をしやがった!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 そこからは、なかなかに面白い展開になった。

 『洗脳』を受け絶体絶命かに思われた緑谷君が、まさかの自力での復帰。

 緑谷君は、今度は怯む姿勢を見せずに、逆に心操君に自ら向かっていく。

 心操君も負けじと思いつく限りの煽り文句を言いながら、緑谷君に掴みかかった。

 正直、一週間程度の仕込みじゃヒーロー科相手に勝ち目はほとんどないと踏んでいたが…

 両者一歩も譲らぬ互角の戦いが、かれこれ5分以上続いた。

 

「がんばれ心操ぉーーー!!」

 

「負けるなあああ!!」

 

「いけーーーー!!!」

 

 普通科…特にC組の皆が、緑谷君相手に粘る心操君に声援を送った。

 つい三週間前までは暗い目をして自分を卑下していたクラスメイトが、今は一丸となって彼に希望を託している。

 それを見て、この国の若い世代もまだまだ捨てたものじゃないと思いつつ、つい笑みをこぼした。

 そしてついに、その時が来た。

 互いに殴り合ってボロボロになり、心操君も声が枯れてきて、試合に終わりが見えてきた。

 

「うぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぬああああああ!!!」

 

 心操君と緑谷君は、互いに拳を振りかぶった。

 二人の拳は、互いに相手の顎にクリーンヒットした。

 顎に重い一撃を喰らった二人は、リングの上に倒れ込んだ。

 すぐさまミッドナイト先生が10カウントを取り、緑谷君はギリギリのところで立ち上がったが、心操君はリングの上で伸びたまま10秒が経過した。

 

「心操君、ノックアウト!!緑谷君、二回戦進出!!」

 

『二回戦進出!!緑谷出久ーーー!!初戦から目を離せない熱いバトルだったな!!とりあえず両者の健闘を讃えてクラップユアハンズ!!』

 

 観客席から拍手と歓声を浴びながら、二人は互いに礼をして、それぞれ入場ゲートに向かって歩き出した。

 すると緑谷君が振り向き、心操君に向かって叫んだ。

 

「心操君…!あの…最初、勝つ気あるのかって僕に聞いてきたけど…あの時、正直怖かった」

 

 緑谷君は、去っていく心操君に、包み隠さずに打ち明けた。

 その言葉を聞いた心操君は、足を止めた。

 するとC組の皆が、心操君に拍手と歓声を送る。

 

「かっこよかったぞ心操!」

 

「正直ビビったよ!」

 

「俺ら普通科の星だな!」

 

「ヒーロー科1位の奴といい勝負してんじゃねえよ!!」

 

 クラスの皆は、次々と心操君に声をかけた。

 さらにはプロヒーローの間でも、心操君の“個性”の有用性を評価する声が上がった。

 

「聞こえるか心操、お前すげえぞ」

 

 クラスメイトに声をかけられた心操君は、泣きそうなのを堪えて緑谷君に背を向けながら話す。

 

「…………結果によっちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?今回は駄目だったとしても…絶対諦めない。ヒーロー科入って、資格取得して、利用出来るものは全部利用して…今よりずっと強くなって…絶対お前らより立派にヒーローやってやる」

 

 そう言い残して、心操君はこちらに戻ってきた。

 入場ゲートで待機していた私は、心操君に声をかけた。

 

「お疲れ様」

 

 私が声をかけると、心操君は、私の隣に立ち止まって口を開く。

 

「…あいつ、俺が六徳さんに教えてもらった秘策で戦った時、『怖かった』って…」

 

「……そっか、良かったな」

 

 心操君が言うと、私は一言だけ、今の彼にかけるべき言葉を送った。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 心操君が声を震わせながら礼を言うのを聞き届けた私は、スタジアムへと歩き出しながら返事をした。

 後ろで鼻を啜る音が聴こえたが、振り向かずにリングへと歩いた。

 次は私の試合だ。

 ヒーローに興味はないが、弟子がここまで頑張ったのだから、師匠としてかっこいいところを見せなくてはな。

 

 

 

『お待たせしました!!続く第二試合!!俺は正直これが一番見たかった!!万能創造!推薦入学とあって、その才能は折り紙付き!ヒーロー科、八百万百!!対!騎馬戦で1位を死守した策士!六徳グループのCMでお馴染み、六徳家の当主!普通科、六徳刹那!!』

 

『おい、私情入りすぎだろ』

 

 マイク先生の偏向実況に、相澤先生が呆れる。

 激しい戦闘を想定して髪を高い位置で編み込みシニヨンにした私は、体操服の襟を正しながらリングに上がる。

 一方で百も、私を見据えながらリングに上がった。

 私達は、互いに向き合って立礼をした。

 

 …うむ、先程の試合以上に、客席が盛り上がっているな。

 何やら「踏んでください」だの「罵ってください」だの、()()()()()()()からの応援が聴こえるが…無視した方が良さそうだ。

 

『START!!!』

 

 スタートの合図と同時に、私は全速力で駆け出した。

 それとほぼ同時に、百が道具を創造する。

 さあ、お手並み拝見といこうか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

八百万side

 

 刹那さんとは、物心がつく前から家族ぐるみのお付き合いをしているお友達でした。

 彼女は私が何をする時もついてきて、私が“個性”を見せる度に喜んでくれて、私にとっては歳の近い妹のような存在でした。

 彼女に尊敬されるヒーローになると決めた矢先、六徳家本邸が全焼する大事件が起こりました。

 ご両親を亡くし深い傷を負った刹那さんは塞ぎ込んでしまい、そんな彼女を「お飾りの当主」などと揶揄する声を聞いては、まるで自分の事のように心が痛んだものです。

 ですが彼女はご自分の意志で立ち直り、そこからの成長速度は凄まじいものでした。

 いつも私の後ろを歩いていたはずの刹那さんは、いつの間にか私よりずっと先へ進んでいて、次第に世間が刹那さんに信頼を置くようになった事を幼馴染みとして喜ばしく思う一方で、どこか彼女へ劣等感を抱いていました。

 

 ですが、彼女と自身を比較して卑屈になるのは今日までです。

 この場で刹那さんという高い壁を乗り越えて、プルスウルトラしてみせますわ!

 

 

 

『START!!!』

 

 プレゼント・マイク先生の掛け声と同時に、私は“個性”で道具を創造しました。

 刹那さんの“個性”は非常に強力ですが、指で触れて時間の遅れを調節する必要がある以上、発動までにコンマ数秒のタイムラグがあります。

 ですから、私の取る行動はひとつ!

 私は、素早くマトリョーシカを創造し、それを刹那さん目掛けて投げつけました。

 当然刹那さんは、両手の肉球を合わせて“個性”を発動しようとしますが、その直前でマトリョーシカが割れ、中に入っていたスタングレネードが炸裂し、強烈な閃光と爆音が発生しました。

 

 これで当分は、視覚と聴覚が正常に機能しないはずです。

 私はその隙に、グレネードランチャー型のセメントガンを創造し、刹那さんに照準を合わせました。

 刹那さんの“個性”は、発動のタイムラグ以上に、彼女自身が冷静でないと機能しないという最大の弱点があります。

 ですのでスタングレネードで彼女の思考を鈍らせ、その隙に距離を取ったまま拘束する、これこそが最善手───

 

「正解だよ」

 

「なっ!?」

 

 気がつけば刹那さんは、私の目の前にいました。

 いつの間に…!?

 そもそも、視覚と聴覚を封じられた状態で、どうやって接近したんですの!?

 一瞬混乱で思考がまとまりませんでしたが、すぐに我に返り、刹那さんにセメントガンの銃口を向けようとしました。

 ですが…

 

「遅い!」

 

 セメントガンは刹那さんの裏拳で逸らされ、すかさず回し蹴りが飛んできました。

 私は、咄嗟にジュラルミン製の盾を創造する事で、直撃を回避しました。

 

「くっ…!!」

 

 盾で直撃を防いだ私ですが、蹴りの勢いでそのまま吹き飛ばされてしまいました。

 盾がひしゃげる程の威力の蹴りでしたが、幸い私へのダメージは最小限で済みました。

 私はすぐに態勢を立て直し、拘束用の武器を創造しました。

 この程度のダメージなら、まだ戦えますわ!

 

「八百万さん!」

 

 私がグレネードランチャーを創造し終えた瞬間、ミッドナイト先生の声がしました。

 振り向くと、ミッドナイト先生が鞭で私を指しています。

 

「場外!」

 

「えっ!?」

 

 ミッドナイト先生の声にハッとし足元を見ると、右足が半歩リングの線の外に出ていました。

 

「六徳さん、二回戦進出!!」

 

『決まったーーーーー!!!まさに電光石火!!セレブ美女対決を制したのは、C組六徳刹那!!!』

 

 勝負が決まると刹那さんが軽く右手を挙げ、プレゼント・マイク先生が締め括ると歓声が沸き起こりました。

 負けて、しまいましたわ…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 百がセメントガンを創造し終える前に“個性”を発動した私は、音速に迫るスピードで百を盾ごと蹴り飛ばし、危なげなく押し出しで勝利を収めた。

 相手を遷音速で蹴り飛ばすこの技は、飯田君の技をパク…因んで、『レシプロマッハ』と名付けよう。

 …いや、名付けなくて良かったか?

 

 試合を終え、立礼をしてから百の顔を見てみると、百は悔しそうに俯いていた。

 彼女自身、失敗を気にしすぎて時折先の事が見えなくなる節があるように思う。

 余計なお節介かもしれんが、今後の為にもアドバイスをしておこうと思った。

 

「そう落ち込むな。最初の判断は、ほぼ正解に近かった。計算違いがあったとするなら…スタングレネードでは、私の“個性”を鈍らせるには不十分だったという事だ」

 

 百が私の“個性”を封じる為にスタングレネードを投げたのは、ほぼ最善手だった。

 しかもスタングレネードを警戒されない為にマトリョーシカでカモフラージュしたのも、合理的な判断だった。

 だが生憎私は、日々暗殺者に狙われているおかげで、“個性”に頼らずともあの場で回避行動が取れるし、仮に視覚と聴覚を封じられても皮膚感覚と直感さえ正常に機能すれば、冷静さを欠く事なく次の手が打てる。

 とは言っても、そんな事百が知るはずもないし、常人なら普通にスタングレネードで詰むので、百の最初の判断が間違いだったわけではない。

 敢えて彼女のミスを指摘するなら、そこからさらに私を追い込んでこなかった事だ。

 私を拘束しようとする前に私の冷静さを欠く決定打があれば、私は苦戦していたかもしれない。

 

「もし君がセメントガンを構える前にマシンガンかショットガンを創造してクイックファイヤーで攻めていれば、私も苦戦を強いられていた事だろう」

 

「………そうですか」

 

 私が言うと、百はそう返事をして入場ゲートへ向かっていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私はその足で()()()を済ませてから観客席に戻ったのだが、私が観客席に戻るまでの間に第三試合は終わっていた。

 療子曰く、瀬呂君がテープで轟君を拘束して場外に投げようとしたものの、テープを炎で燃やされ、スタジアムの半分を覆う氷結で逆に拘束され、打つ手がなくなり降参したらしい。

 私と百の試合をも置き去りにする瞬殺だったため、私が観戦する事は叶わなかった。

 

 

 続く第四試合は、A組の芦戸君と、B組の拳藤君の試合だった。

 私は途中からの観戦だったが、なかなかに面白い試合だった。

 両者共に身体能力はクラスで女子一位なので、どちらが勝つかC組でも予想が分かれたが、結論から言えば勝ったのは拳藤君だ。

 最初こそ芦戸君が拳大の強酸を次々と分泌し、それを銃弾のように飛ばしてリードしていたが、拳藤君はそれを大拳で薙ぎ払って芦戸君に接近し、芦戸君の身体をガッチリ掴んでしまった。

 当然芦戸君は強酸を出して抵抗したが、拳藤君はそのまま芦戸君を場外に放り投げ、試合は決着。

 勝った拳藤君も、試合が終わった後で「素手で掴むもんじゃないな…」と言っていたので、芦戸君の酸が予想以上に強かったのだろう。

 

 

 そして第五試合、A組の上鳴君とB組の塩崎君の試合。

 言っちゃ悪いが、ハッキリ言って瞬殺だった。

 相手が心の綺麗な女子だからと侮った上鳴君が開始早々後先考えずに放電し、塩崎君の蔓で絡め取られて一瞬で無力化されてしまった。

 放電が効かないとわかった後でうまく立ち回れればまだ良かったんだが、慌てて最大出力を連発したのが良くなかった。

 それにしても、あの蔓強すぎないか?

 勝つには…蔓を片っ端から燃やすか、絡め取られる前に場外に押し出すしかないな。

 

 

 第六試合は…何とも言えない試合だった。

 結論から言って、発目君がやりたい放題やって勝手に満足して終わりだった。

 飯田君を言いくるめて彼に自分のサポートアイテムを装着させた発目君は、向かってくる飯田君をのらりくらりと躱しながらサポートアイテムのプレゼンをし、10分にも及ぶプレゼンの末、満足したらさっさと場外に出てしまった。

 利用された飯田君は憤慨していたが……うん、ドンマイ。

 

 

 第七試合は、A組の切島君と、B組の鉄哲君の試合。

 二人の実力は互角で、激しい殴り合いの末、両者ダウン。

 結局、この試合で決着がつかなかったため、先に第八試合を行ってから腕相撲で決着をつける事に。

 

 

 第八試合は、A組の麗日君と爆豪君の試合だったのだが……いい意味で私の予想を裏切ってきた。

 開始早々、麗日君が爆豪君に突撃するも、爆豪君が容赦なく返り討ちにし、それを見た観客が爆豪君にブーイングを浴びせた。

 私はブーイングを浴びせたヒーロー達に対し、こいつらは一体何を見に来たんだ…と愛想を尽かすばかりだった。

 また私の中でプロヒーローへの評価が下がりそうになったその時、相澤先生がヒーロー達に説教をして黙らせてくれた。

 相澤先生の言葉を聞いて、私は頬が緩んでいたらしく、心操君に「ニヤけてんぞ」と指摘された。

 ああいう事をちゃんと言ってくれる教師がいるなら、今のヒーロー科は立派なヒーローになってくれるだろう。

 なんて考えていると、わざと爆豪君に爆破を使わせる事で武器を集めていた麗日君が、大量のセメントの破片を爆豪君の頭上に浮かせ、“個性”を解除して一気に降らせた。

 だが爆豪君は、麗日君の渾身の一撃をもたったの一撃で全て吹き飛ばし、力を使い果たした麗日君がダウンして試合終了。

 麗日君が私の想定以上に奮闘し、私の予想を裏切ってきた。

 この試合での悔しさをバネに、一回りも二回りも成長してほしいものだ。

 

 

 そして最後に、第七試合の決着をつけるべく、腕相撲が行われた。

 互角の戦いだったが、勝ったのは鉄哲君だった。

 どうやら、騎馬戦の時に療子が血を渡していたのが功を奏したようだ。

 

 

 こうして、二回戦にコマを進める8人が揃った。

 二回戦に勝ち進んだのは、緑谷君、私、轟君、拳藤君、塩崎君、飯田君、鉄哲君、爆豪君の8人だ。

 最初の試合は…っと、私かよ。

 あと10分もしないうちに、私と緑谷君の試合が始まる。

 そろそろ、入場ゲートに向かわねばな。

 

 

 

 

 




原作とは違い、二回戦の半分をB組と普通科が占める結果となりました。
これには物間くんもニッコリ。

A組の期末前の修行パートいります?

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