私の世直しアカデミア   作:M.T.

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面白いと思っていただけましたら高評価、お気に入り、感想等よろしくお願いします。
作者は単純ですので、ものすごく喜びます。

6/18 一部展開を修正しました。


第14話 春なのに栗拾いは季節外れだと思います

癒治side

 

「すぅ…すぅ……」

 

 A組の轟君との戦いを終えた刹那ちゃんは、控え室で仮眠を取っている。

 刹那ちゃんにお遣いを頼まれた皆は、氷嚢を持ってきたり、外の屋台でスイーツを買ってきたりした。

 刹那ちゃんは、氷嚢で頭を冷やして、汚れを浮かして溶かす花を出す『ソープフラワー』の“個性”を持つ泡田さんに身体を綺麗にしてもらっていた。

 クラスの皆が買ってきてくれたフルーツ飴や綿菓子、チョコバナナ、クレープ、たい焼きなんかのスイーツを食べて、私の血も飲んだ刹那ちゃんは、だいぶ回復したみたいだ。

 あとは、A組の八百万さんに頼んで、刹那ちゃんのジャージを創ってもらった。

 八百万さんは刹那ちゃんと仲が良いらしくて、私達が呼びに行ったら、「刹那さんの為ですもの…!」とプリプリしながらその場で創って渡してくれた。

 

 甘いものを食べて血糖値が急激に上がったからか、飯田君と爆豪君の試合が終わると、刹那ちゃんは着替えもせずに電池が切れたように眠ってしまった。

 八百万さんに体操服創ってもらったのに…

 ……試合前に起こせばいいか。

 

「やっぱり寝てる刹那ちゃんもカァイイ…」

 

「ウチの実家の猫の寝相にそっくり」

 

 私と心操君は、ベンチの上で猫みたいに丸まって眠っている刹那ちゃんを見守っていた。

 所々に藍色が混じった濡羽色の髪、濃くて長い睫毛、陶器のように白い肌、透明感のある薄紅色の唇、ほっそりとした指の腹から生えた厚みのある肉球。

 どれを取っても刹那ちゃんは、美術品のように美しい。

 顔の右半分が火傷で引き攣って右眼に眼帯をつけているけど、そんなの気にならない…いや、むしろそれも含めて彼女の魅力だと思えるくらいだ。

 規則正しく寝息を立てて、呼吸に合わせて脇腹を小さく上下させながら眠っている姿を見ると、何だか守ってあげたくなる。

 心操君は、寝ている刹那ちゃんを見て珍しく頬を緩ませていた。

 確証はないけど、心操君は刹那ちゃんの事を憎からず思っている…と思う。

 …ちょっとカマをかけてみようかな。

 

「……心操くんは好きな人とかいないんですか?」

 

「何でそれを今聞く?」

 

「やっぱり」

 

 私がニッと笑うと、心操君は俯いて頬を染めた。

 『何でそれを今聞く?』って逆に聞いてくるって事は、心操君の気になる相手が今ここにいるって事だと思う。

 私と話してる時は全然そんな感じじゃなかったから、十中八九刹那ちゃんだ。

 心操君は、首の後ろを左手で押さえながら話し始めた。

 

「…俺は、六徳さんの事を尊敬してる。クラスメイトとしても、師匠としても…一人の女性としても。それが好きって事なのかどうかはわかんないけど…こんな気持ち、初めてなんだ」

 

 心操君は多分、この気持ちをしまっておくつもりなんだと思う。

 刹那ちゃんはクラスのほぼ全員の憧れの存在で、決して手の届かない高嶺の花だから。

 それでも、心操君には“好き”に生きてほしいと思ってる。

 だって私も、刹那ちゃんが好きだから。

 

「じゃあライバルですね」

 

「えっ?」

 

「私も、刹那ちゃんの事が好きなんです」

 

「………マジかよ」

 

「改めて、心操くんに宣戦布告…です」

 

 私は、挑発的に微笑んでみせた。

 すると心操君は、一瞬戸惑いつつも挑発的な笑みを返した。

 

「って、もうこんな時間じゃん」

 

「……あっ」

 

 もうそろそろ刹那ちゃんを起こさないと。

 着替える時間なくなっちゃう。

 私と心操君が刹那ちゃんを起こすと、刹那ちゃんはぶるっと身体を震わせながら伸びをした。

 寝起きの仕草まで猫っぽい…

 

「んん〜ぅ…ああ、もう時間か」

 

「新しい体操服、机の上に置いてあるから」

 

「ありがとう」

 

 心操君が机の上に畳んで置いてある体操服を指差すと、刹那ちゃんはベンチから起き上がりながらお礼を言った。

 刹那ちゃんか爆豪君、次の試合で勝った方が優勝者になる。

 刹那ちゃんは勝ち敗けに興味がないと言うけど、私は刹那ちゃんに勝ってほしいと思ってる。

 

「刹那ちゃん。決勝戦、頑張って下さいね」

 

「…うん」

 

 私が刹那ちゃんを応援すると、刹那ちゃんは優しく微笑んだ。

 私と心操君は、刹那ちゃんの勝利を願いながら控え室を後にした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 療子と心操君が出ていった後、私は百が作ってくれた体操服に着替えた。

 さっきは、着替えもせずに寝落ちしてしまったからな…

 試合が始まる前に着替えなくては。

 

「んしょ…」

 

 私が体操服の上着を脱ぎ、Tシャツを胸の上までたくし上げた、その時だった。

 勢いよく扉が開き、爆豪君が入ってくる。

 私は扉の方を向いて着替えていたから、下着に包まれた胸を思いっきり晒す事になったわけだが…

 

「あれ?控え室…ここ2の方かクソが!」

 

 そう言って爆豪君は、勢いよく扉を閉めた。

 

 何だったんだ、あいつ……

 控え室を間違えたのは仕方ないにしても、せめて詫びの一言くらい言え。

 …まあ、幸い私が下に着ていたのは布面積が広いタイプのスポブラだから、見られたところで別に恥ずかしくはないんだがな。

 

 それにしても、彼の粗暴な言動はどうにかならないものか。

 客の前ではそういうキャラ作りだと言い訳できても、最低限の礼儀すら弁えないのであれば、それはもうヒーロー云々以前の問題だ。

 何故常日頃から全方位にキレ散らかし暴言を吐く必要があるのだろうか。

 

 ……いや、もうこの際口が悪いのはそういう個性として認めてしまおう。

 彼は、性格は兎も角、才能は轟君にも劣っていない。

 むしろ純粋な戦闘センスで言えば、爆豪君の方が上だ。

 

 これは持論だが、教育に必要なのは『抑圧』ではなく『制御』だと私は考えている。

 個性を認めつつ、プラスの方向に利用できるように導く、それが理想の教育というものだ。

 この戦いで、彼から得られるものがあれば良いんだがな。

 

 なんて考えつつ、新しい体操服にパパッと着替えた。

 …何かこの体操服、すごく肌に馴染むな。

 しかもさっきまでのやつより軽いし丈夫だ。

 百には改めて礼をしなくてはな。

 

 

 

『さぁいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここに決まる!!決勝戦!!爆豪対六徳!!今!!』

 

 マイク先生の実況と共にリングに上がった私は、爆豪君に立礼をし声をかけた。

 

「爆豪君、互いに良い試合にしよう」

 

「ぶっ飛ばしてもいいんスか」

 

 私が声をかけると、爆豪君は(ヴィラン)顔負けの表情で尋ねる。

 うむ、私に敬語(敬語かどうか微妙だが)を使ってぶっ飛ばし許可を取れるだけの気遣いができたとは。

 誰彼構わず噛みつくのかと思いきや、どうやら六徳家当主である私に対して少しは弁えるだけの常識はインストール済みらしい。

 正直驚いた。

 

「ああ、構わないよ。尤も、ぶっ飛ばせたらの話だがな」

 

 爆豪君の質問に、私は快く答えた。

 その瞬間、爆豪君の額にビキっと青筋が浮く。

 

 

 

『START!!!』

 

 開始の合図と同時に、爆豪君は私目掛けて突っ込んできた。

 思ったより移動速度が速い…が、“個性”を使いこなす為に動体視力と反射神経を極限まで鍛えた私にとっては、“個性”を使わずとも目で追えない速さじゃない。

 でも“個性”を発動するには、ギリギリ演算が追いつかんな。

 

「『閃光弾(スタングレネード)』!!」

 

 …って、おいおい。顔面爆破する気満々かよ。

 さっきは気遣いがどうのと言ったが、前言撤回。

 女子の、しかも世界有数の権力者に何の躊躇いもなく顔面爆破とか…やっぱりこいつ、イカレ野郎だよ。

 なんて思いつつ、私は爆豪君の攻撃を見切り、攻撃が当たる直前で目を瞑り、姿勢を低くする事で回避した。

 するとその直後、瞼越しでも眩しいと感じる程の閃光と爆音が襲いかかる。

 私が目を瞑って回避した事を直前で察したのか、『閃光弾(スタングレネード)』の光が消えないうちに、容赦なく絨毯爆撃を仕掛けてくる。

 私は、脳細胞をフル稼働させて演算を行いながら、爆撃を最小限の動きで避け続ける。

 

 ……爆破の音がうるさくて、演算に集中できない。

 少しは静かにしてくれ、と言いたいところだが…多分できない相談だろうな。

 

「避けんじゃねぇクソが!!」

 

 アホか。

 避けるに決まっているだろう。

 頭がおかしいのかお前は。

 

 …っと、ようやく演算が終わった。

 これであとは、タイミングを見計らって触れるだけだ。

 なんて考えていると、爆豪君の右の掌が目の前まで迫ってきた。

 彼の手が触れる直前、私は“個性”を発動し、爆豪君の攻撃を回避した。

 

「チッ!!」

 

 爆豪君は、振り向きざまに爆破を放ってきた。

 だが、もう遅い。

 全てが緩やかに見える世界で、私は爆豪君の爆破を避け、思いっきり脇腹に中段蹴りを叩き込んだ。

 すると爆豪君は、身体をくの字に曲げてペットボトルロケットのように吹き飛んでいく。

 このまま場外かと思いきや。

 

「クソがっ…!!」

 

 何と、両手で爆破を逆方向に放つ事でブレーキをかけ、場外を免れたではないか。

 蹴る前に反応していなければできない判断だ。

 遷音速の世界にいる私の攻撃に素で反応するとは…どんな反応速度をしてるんだ。

 

 私が爆豪君の反応速度に呆れていると、彼は右腕を振りかぶって爆破を放ってきた。

 私の死角となる4時の方向から、爆豪君の掌が爆破つきで迫ってくる。

 

 …うん、やっぱり戦闘センスは頭ひとつ抜けてるよ。

 だが遅い。()()()()

 

 私は、爆豪君の攻撃を最小限の動きで避けると、そのまま体操服を引っ掴んで背負い投げ、リングに思いっきり叩きつけた。

 リングに鈍い音を響かせながら、爆豪君は激しく背中を打った。

 私が追い討ちをかけようとすると、爆豪君がすぐに起き上がって左のフックを放ってきたので、私はそれを最小限の動きで捌こうとする。

 すると爆豪君は、咄嗟に拳を引き、その反動で拳を前に押し出してきた。

 

 ほう、対処されるのを読んでフェイントを入れてきたか。良い判断だ。

 だが、当たらなければどうという事はない。

 私は、爆豪君の拳よりも早く、彼の顎に回し蹴りを叩き込んだ。

 爆豪君がよろけると、私はすかさず彼の背中を蹴り飛ばし、そのまま背中を踏みつけた。

 

「ガッ…!!」

 

 私が踏みつけた事により、爆豪君はうつ伏せの状態で床に這いつくばる無様を晒す羽目になった。

 私は、そのまま彼の背中の上でグリグリと右足を擦りつけた。

 

『カウンタァアアア!!!攻撃を仕掛けたはずの爆豪が、逆にボコボコにやられてんぞ!!六徳、容赦なしかよ!!!』

 

『爆豪の戦闘センスは、ヒーロー科の中でも頭ひとつ抜けている。だがそれは、あくまであいつが()()()()()()()の中での話だ。極音速で動ける六徳の前では、止まっているも同然ってこった』

 

「ふざけ、やがって…」

 

 爆豪君は、私の右足の下で爆破を放ちながらジタバタ暴れている。

 彼は、確かに喧嘩はずば抜けて強い。

 もし私が“個性”にかまけて鍛錬を怠ってきたマヌケなら、どんなに速く動こうが、すぐに見切られて不利な状況に追い込まれていた事だろう。

 だが世界最強クラスの傭兵集団に軍隊格闘術の基礎を叩き込まれた私にとっては、喧嘩の強弱など誤差の範囲でしかないのだ。

 

 私は別に彼をいじめる趣味はないが、仮にもヒーロー科の頂点を狙うなら、この程度の困難は自力で乗り越えてもらわねばな。

 未来のトップヒーローの実力がこの程度では、この先私は不安で夜も眠れない。

 

「素晴らしい戦闘センスだね。だが、届かなければ何の事はない。君と私では、文字通り()()()()()

 

「舐めてんのか…!!」

 

「別に舐めているわけではなく、ただの事実だ」

 

「それを舐めてるっつってんだよ!!」

 

 そう言って爆豪君は、私目掛けて爆破を放ち、無理矢理私の足の下から脱出した。

 そして両手を下に向けて爆破を放ち、両手の爆破に僅かな時間差をつける事で急上昇。

 私の頭上を取ってきたではないか。

 

「死ねぇ!!!」

 

 死ね……

 死ね、かぁ。

 その言葉はもう、聞き飽きたよ。

 

 なんて考えていると、爆豪君が頭上から爆破を撃ち出してきた。

 滞空性能のない飯田君が爆撃に翻弄されて何もできなかったように、私に対しても頭上からの攻撃なら対処が可能だと考えたのだろうか。

 そう推測している間にも、周囲が爆炎と黒煙に包まれ、視界が悪くなる。

 

「ハッ」

 

 リングを覆う黒煙を見て、私が爆撃に巻き込まれたと思ったのか、爆豪君がしたり顔をする。

 そのしたり顔を崩してやろうと、爆豪君の頭上を取った私が足を振り下ろして踵落としを決めようとすると、直前で爆豪君が気付いて回避した。

 ……勘の良い奴め。

 ()()()()()()()()()私を見て驚愕している爆豪君に対し、私は両手を組んで両腕を振り上げ、そのまま両腕を振り下ろし、拳を腹に叩き込んだ。

 私が爆豪君を真下へ叩き落とすと、ドゴォッと轟音を立てながら爆豪君がリングへ叩きつけられ、コンクリートのリングが放射状にひび割れる。

 

「っ〜、ゲホッ…ゲホッ……!!」

 

 爆豪君は、ひび割れたリングの中心で腹を押さえながら悶えていた。

 口からは、ボタボタと血が垂れている。

 …もしかしたら、今ので肋骨が何本か粉砕したかもな。

 でもまあ、私に『死ね』発言をしたのだから、骨の一本や二本や百本は覚悟してもらおう。

 爆豪君には悪いが、例外を作ってしまうと当主としての体裁がなくなる。

 私に楯突くというのは、()()()()()だ。

 

「飛べるのは、君の専売特許ではないよ」

 

 私は、時の流れを元に戻して着地しながらそう告げた。

 爆豪君が私に殺気を向けながら立ちあがるので、ひび割れたリングから粒状のコンクリート片を拾い上げ、それを掌の中で軽く丸め、投擲の瞬間に“個性”を発動。

 加速したコンクリート片が、まるで散弾のように爆豪君を襲う。

 爆豪君は、飛んでくる破片を驚異の反応速度で見切り、爆破で全て撃ち落とした。

 

 だが、目が良すぎたのが仇となった。

 爆豪君が破片を撃ち落とそうと放った爆破による黒煙で、彼の視界が塞がれている間に、背後に回り込みイガグリ頭を鷲掴みにした。

 そしてそのまま、思いっきりリングに頭を叩きつける。

 

「が……!!」

 

 コンクリートに頭部を強打した爆豪君は、呻き声を上げる。

 普通なら、これで気絶するはずだが…

 

「く……そ…がぁ……!!」

 

 すぐに意識を取り戻した爆豪君は、私を睨んできた。

 私はすかさず、右手で彼の胸ぐらを掴み、疑問をぶつけた。

 

「ひとつ聞かせろ。何故そうやってすぐ暴言を吐く?そういうキャラのつもりか?それとも、()()()()()()()()()()()()があったのか?」

 

 私は、ただ純粋に、疑問を爆豪君に投げかけた。

 別に私は、今すぐに暴言をやめろと言っているのではない。

 多少の口の悪さは、そういう個性として認める事にした。

 私はただ、爆豪勝己という人間の本質を知りたいだけだ。

 ただの不良キャラのつもりか、それとも周りを取り巻く環境が彼をこういう人間にしたのか。

 彼の答え次第で、今後の彼への身の振り方を変えねばならない。

 

 私が爆豪君の身体を持ち上げようとした、その瞬間。

 爆豪君は、いきなり私の顔面に爆破を浴びせてきた。

 今までの攻撃の中で、一番意志のこもった強い一撃だった。

 私はそれを、敢えて避けずに受けた。

 頬がヒリヒリと痛み、鼻からは血が数滴垂れるが、私は怯まずに爆豪君を見続けた。

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ…ぶっ殺すぞ」

 

 爆豪君は、私を睨みながらそう言い放った。

 今度は『殺す』か…

 いちいち暴言を吐かないと死ぬ病気なのか?

 

「………質問の答えになっていないが?」

 

「っせえ…俺が獲んのは、ただの一位じゃねえ…完膚なきまでの一位だ…!!当主だか何だか知らねえが…あんたをぶちのめさねえと、オールマイトを超えるNo.1ヒーローになれねえんだよ!!」

 

 爆豪君の言葉に、私は思わず僅かに目を見開く。

 『オールマイトのようなヒーローになりたい』と言う者は腐るほど居るが、『オールマイトを超えたい』と宣う者はそういない。

 ハッキリ言って、思い上がりもいいところだ。

 聞いた話によれば、爆豪君は救助(レスキュー)ポイント0で入試を突破したらしい。

 救う事をなおざりにしておいて『オールマイトを超える』などとほざくとは、まともな頭なら妄言にしか聴こえない。

 

 だがどうやら、私はまともな側の人間ではないらしい。

 どこまで行っても賎陋たる彼の人間性に呆れる一方で、彼の見ている未来を冷静に見据えている自分がいた。

 

「……そうか、そうか、つまり君はそんな奴なんだな。爆豪勝己。要するに君は、根っからのクソという事か」

 

「誰がクソだ!!殺すぞ!!!」

 

 私が言うと、爆豪君は両掌から爆破を放ちながらキレた。

 そういうところがクソだと言っているのだ。

 質問に暴言で返すのは癪だが、おかげで彼という人間の本質を理解できた。

 元々そういう人間性なら、わかりやすい。

 

「オールマイトを超える…か。面白い事を言うね。だったら、今の君にできる全力で私を倒してみろ」

 

 そう言って私は、軽く手招きしてみせた。

 オールマイトを超えるヒーローになるつもりなら、まずは私を倒さねばな。

 

「ハナからそのつもりだ」

 

 そう言って爆豪君は、走りながら空高く飛び上がり両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら突撃してその勢いを乗せたまま特大火力の爆発を叩き込む大技を仕掛けてくる。

 

「死ねぇえええええっ!!!『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』!!!」

 

 眠くなってしまうほどに全てが緩慢に動く世界で、私はゆっくりと上を見上げる。

 見ると、爆豪君が私の頭上にいた。

 私は、爆炎が降ってくるスレスレの位置に拳を突き出した。

 すると私の拳から爆炎を吹き飛ばす威力の衝撃波が放たれ、そのまま爆豪君の身体も衝撃波で打ち上げられた。

 

『麗日戦でも見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!!対する六徳、轟戦で見せた衝撃波で反撃!!!果たして勝者はどっちだぁ!!?』

 

 トラックに撥ねられたみたいにドンッと鈍い音を立てながら高く打ち上げられた爆豪君は、放物線を描きながら自由落下した。

 落下した爆豪君は全身ボロボロで、もはや虫の息だったが、かろうじて意識はあるようだった。

 正直やり過ぎたと思いつつ、リング上に臥した爆豪君を見る。

 爆豪君が落下した位置は、リングのラインの内側だった。

 

「まだ…だ……俺は…まだ……やれ…る………!!」

 

 リングの上にうつ伏せに倒れ込んだ爆豪君は、掌からバチバチと火花を散らしていた。

 衝撃波をモロに喰らい、自由落下によってリングに身体を強打したせいで、利き腕は変な方向に曲がり、額からはドロっと血が流れている。

 “個性”の限界だって、とっくに超えているはずだ。

 なのにまだ、立ち上がろうとするのか。

 きっと彼は、気を失わない限り、勝利を諦めないのだろうな。

 

 私は、彼にトドメを刺そうと、一歩前に踏み出した。

 するとその瞬間、ぐにゃりと視界が歪み、リングにポタポタと赤いものが滴る。

 鼻の下を手で拭うと、血で濡れていた。

 

「…やばっ」

 

 頭が重くて、痛い。

 思考がまとまらない。

 さっき…から、頭の中…変な音がする…

 

「……ミッドナイト先生」

 

「どうしたの、六徳さん?」

 

「参りました。私の負けです」

 

「…………は?」

 

 私が降参すると、爆豪君は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

 ミッドナイト先生は、ピシャッと鞭を打ちながら勝敗を言い渡した。

 

「六徳さん降参!!勝者、爆豪くん!!」

 

『以上で全ての競技が終了!今年度の雄英体育祭1年優勝はA組爆豪勝己!!!!』

 

 マイク先生が締め括ると、観客席からは歓声が湧き起こった。

 ……一部、ブーイングが聴こえないでもないが。

 私は改めて、優勝者の爆豪君に向かって立礼をすると共に賛辞の言葉を呈した。

 

「優勝おめでとう、爆豪君。なかなか楽しい試合だったよ」

 

「ふざけんなあああああああっ!!!」

 

 私が爆豪君を賞賛すると、爆豪君は(ヴィラン)顔負けの表情で怒鳴ってきた。

 なんだ、思ったより元気じゃないか。

 というか顔すごいな…

 

「完膚なきまでの一位っつったろうが!!てめぇ勝手に降参してんじゃねえ!!もう一回だ!!もう一回俺と戦え!!!」

 

「嫌だよ。もう終わりだ。私は君に、降参せざるを得ない状況に追い込まれた。誰が何と言おうと、君の勝ちは揺るがない」

 

 爆豪君が無茶を言うので、私は軽くあしらった。

 確かに全力を出さないまま降参したのは事実だが、油断も慢心もせず最初から最後まで本気で挑み、降参せざるを得ない状況に追い込まれた、そこに嘘偽りはない。

 ただ、彼等と私とでは、『本気』の意味が違う。

 私の『本気』とは、あくまで『相手を殺さない範囲で』、という意味だ。

 

 私の“個性”には、キャパシティというものが無い。

 それこそ、自分に流れる時間を止めてしまえば、理論上は光速で動けるも同然の状態になる。

 だがそれはあくまで理論上の話。

 光速に極限まで近づくとどうなるかは、私ですら予測がつかない。

 だから周囲に取り返しのつかない被害を出さぬよう、緻密に計算しながら時を操っているのだ。

 その計算も、当然ながら何の制限もなく行えるわけではない。

 周辺の物理法則を全て計算しながら時を操っていると、“個性”の限界より先に私の脳が限界を迎える。

 脳細胞を酷使する事により、脳内に熱がこもり機能が低下した状態…所謂オーバーヒートを起こす。

 一度脳がオーバーヒートしてしまうと、相手を殺さないように調整する事ができなくなってしまう。

 それどころか、観客をも巻き込む可能性が高い。

 

 休憩中に糖分補給と睡眠で消耗した脳機能を回復させていたんだが、せいぜい1時間の休憩では完全には回復しなかった。

 騎馬戦で緑谷君に“個性”を使ったのと、轟君との試合で分子運動に干渉したのが大きかったようだ。

 蓄積した疲労が今になって襲ってきて、気がつけば爆豪君に想定を大きく上回る重傷を与えてしまうレベルまで脳機能が低下していた。

 

 まあヒーローに興味がないというのが最大の理由だが、私がヒーローを目指さなかったもう一つの理由がこれだ。

 民間人に被害を出さないように加減するのにいちいち消耗するようでは、ヒーローに向かない。

 爆豪君には申し訳ない事をしたが、私は全国民が見ている前で大量殺人犯になりたくはない。

 

「言い訳すんな!!!大体てめ………」

 

 爆豪君が私に掴み掛かろうとした瞬間、ふわっと甘い香りがした。

 振り向くと、ミッドナイト先生が腕のタイツを破り、『眠り香』を放っていた。

 私よりも先に『眠り香』を嗅いだであろう爆豪君は、前のめりに倒れ込んだ。

 私は彼を受け止めようと咄嗟に前に出たわけだが、それが凶と出た。

 

「んぶっ!?」

 

 腕で受け止めるつもりが距離感を誤り、眠気に襲われて倒れた爆豪君の顔が私の胸の谷間に収まった。

 さっきまで暴れまくっていた彼は、激闘によるダメージと『眠り香』、そして私の乳圧によって、私の胸の中で気を失った。 

 私の部下の中には、私に無礼を働く者を社会的に抹殺しようとする過激派もいる。

 幸い、彼等に私への暴言を聞かれ爆豪君の未来が脅かされる事態は回避したわけだが……ある意味放送事故だろこれ。

 

「先生方、あとはよろしくお願いします」

 

「え、ええ…」

 

 私は、何とも言えない空気の中、気絶した爆豪君をミッドナイト先生に引き渡した。

 リカバリーガールの治療では間に合わないとの事で、療子も治療に加わり、爆豪君がある程度回復し次第表彰式が行われる運びとなった。

 ふと観客席に目を向けると、なんかA組の峰田君が血涙を流しているが…うん、見なかった事にしよう。

 激戦が予想された決勝戦だが…蓋を開けてみれば、勝った爆豪君が重傷を負い、負けた私がほぼ無傷という結果に終わった。

 

 ちなみに爆豪君が言っていた『完膚なきまでの一位』という言葉だが……

 本来『完膚なきまで』とは、『無傷な皮膚がないほど徹底的に』という意味で、『完膚なきまでに叩きのめす』、『完膚なきまでの敗北』などといった使い方をするのが正しい。

 つまり『完膚なきまでの一位』とは、完全勝利や楽勝などという意味ではなく、無傷な皮膚がないほどにボロボロにやられて無様を晒しながらかろうじて手にした一位を意味するのである。

 

 それを踏まえた上で、今の爆豪君を見てみよう。

 今の彼は、“個性”を使い果たし、衝撃波を受けて無傷な皮膚がないほどにボロボロになり、まさに完膚なきまでに叩きのめされた状態である。

 本人は試合の結果がお気に召さないようだが、これこそが正しく『完膚なきまでの一位』なのでは…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

 体育祭の終わりを知らせる花火が打ち上げられ、天井が開き私達の立っていた表彰台が迫り上がる。

 そこは、ちょうど開会式の時と同じ場所になっていた。

 

「何アレ…」

 

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまーーー…締まんねー表彰式だな」

 

 1年生全員…特にA組は、ドン引きした表情で表彰台を見ていた。

 その理由は言わずもがな。

 

「ん゛ん゛〜〜〜〜!!」

 

 1位の表彰台の上には、拘束具で全身を拘束され、猿履を噛まされた爆豪君がいた。

 優勝者が拘束されて登場って…もはや世も末だな。

 

「3位には轟君ともう一人、飯田君がいるんだけど…ちょっとお家の事情で早退になっちゃったので、ご了承下さいな」

 

 そう言ってミッドナイト先生は、カメラに向かってセクシーポーズをする。

 家の事情…か。

 私は試合でそれどころではなかったが、もしや彼の兄のインゲニウム関連だろうか?

 心配だし、表彰式が終わったらニュースを確認してみるか…

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

「私が、メダルを持って来t「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」

 

 せっかくのオールマイトの登場に、ミッドナイト先生の掛け声が被った。

 オールマイトが少ししょげて震えていると、ミッドナイト先生が手を合わせて苦笑いを浮かべながら謝った。

 ぐだぐだじゃないか…

 事前に段取りくらい決めておけと言いたい。

 だがまぁ、すぐに持ち直したオールマイトがメダルを手に、3位の轟君から順番に声をかけていく。

 

「轟少年、おめでとう!見事な戦いだったよ。氷と炎、相反する二つの“個性”を使いこなして戦う姿は、実に美しく、そしてとても強かった」

 

「ありがとうございます。今日の敗北を胸に刻み、親父の…エンデヴァーの息子に相応しいヒーローになれるよう、努めていきます」

 

「うむ!君なら、必ず素晴らしいヒーローになれる!」

 

 そう言ってオールマイトは轟君の首に銅メダルをかけ、ハグをした。

 そして次に、私の前に立った。

 

「六徳少女、おめでとう!普通科の生徒が表彰台に登るのは、実に6年ぶりの快挙だ。君は本当に強いな」

 

「…勿体無いお言葉、ありがとうございます。負けてしまいましたが、大変有意義な試合でした」

 

「見事な格闘センスと“個性”の使い方だった。これからの君の活躍に期待しているよ」

 

 そう言ってオールマイトは、私の首に銀メダルをかけ、ハグの代わりに握手をした。

 そして最後に、拘束具で全身をガチガチに拘束されている爆豪君の前に立った。

 

「さて爆豪少年!!っと、こりゃあんまりだ…見事な伏線回収だな!」

 

 オールマイトは、暴れている爆豪君の猿轡を外した。

 すると爆豪君は、既に何人か殺めていそうな人相で口を開く。

 

「オールマイトォ、こんな一番何の価値もねぇんだよ…世間が認めても俺が認めなきゃゴミなんだよ!!」

 

「顔すげぇ…」

 

 爆豪君の剣幕に、流石のオールマイトも顔を引き攣らせていた。

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ!傷として!忘れぬよう!」

 

「要らねぇっつってんだろが!!」

 

 オールマイトは、嫌がる爆豪君の鼻に金メダルの紐を引っ掛け、そのまま滑らせるように下の歯に紐を引っ掛けた。

 そしてその場で振り向き、これを見ている観衆全体に語りかけた。

 

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧頂いた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和ください!!せーの…」

 

「「「プルス…「お疲れ様でした!!!」」」」

 

 オールマイトが空気を読まず叫ぶと、ブーイングが巻き起こった。

 

「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」

 

「ああいや…疲れたろうなと思って……」

 

 ミッドナイト先生がツッコミを入れると、オールマイトは申し訳なさそうに言った。

 最後までぐだぐだだったな…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「皆さん、お疲れ様でした!第一種目から皆さんが一丸となって目標を達成できた事を、僕はとても誇らしく思います」

 

 その後のホームルームで、私達は13号先生から有り難いお言葉を戴いた。

 その言葉に、体育祭に参加したクラスメイトはほとんど全員照れ臭そうに笑っていた。

 正直私も、悪い気分ではない。

 

「明日明後日は休校なので、しっかり身体を休めてくださいな。それでは、本日はこれにて解散!」

 

 13号先生がそう言うと、皆それぞれ体育祭の感想を言いながら帰っていった。

 私も帰り支度をしていると、後ろから心操君が声をかけてくる。

 

「準優勝おめでとう、委員長」

 

「え?あ、うん、ありがとう」

 

「…どうかした?」

 

「いや…何でもない」

 

 考え事をしていて適当な返事をしてしまった私に対し、心操君が心配をするので、私は咄嗟に笑顔を作った。

 表彰式が終わった後、私は飯田君の件でニュースを確認した。

 目に飛び込んできたのは、ヒーロー殺し“ステイン”によって、飯田君の兄のインゲニウムが再起不能に追い込まれたというニュース。

 ヒーロー殺しは、17人のヒーローを殺害、23人を再起不能に追い込んだ凶悪犯だ。

 奴の事は以前から追っていたのだが、まさか私が体育祭に出ている間に出没するとはな。

 早急に対処せねば、さらに多くの犠牲者が出る。

 それ以外にも、六徳家当主として早急に対処せねばならない問題が山積みだ。

 

 だが今日は、“個性”を長時間使用した事による脳疲労で、それどころではない。

 とりあえず、ウチの警備会社のヒーロー殺し対策部隊からの連絡を待って、動かせる社員を保須市に派遣して、目を通せる書類にだけ目を通して…

 疲れているせいか、考えただけで頭痛がひどくなる。

 ……早く家に帰って、温泉入りたい。

 

 

 

 

 




戦闘不能一歩手前までズタボロにやられ、ご所望だった完膚なきまでの一位を獲った爆豪のかっちゃん(※作者は爆豪アンチではありません)。
オリ主ちゃんに(別の意味で)おもしれえ奴認定されたかっちゃんの明日はどっちだ。

ちなみにちらっとでてきた普通科の泡田さんは、バブルガールの妹の泡田(あわた)千花(ちか)さんです。
“個性”は『ソープフラワー』で、洗浄・除菌効果のあるソープフラワーの花弁を散らし、いろんなものをきれいにしてくれます。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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