私の世直しアカデミア   作:M.T.

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今回から、ようやくヒーロー以外がメインのお話になります。
面白いと思っていただけましたら高評価、お気に入り、感想等よろしくお願いします。
作者は単純ですので、ものすごく喜びます。


【第一部】第三章 ヒーロー殺し編
第15話 休日?何それ美味しいんですか?


「ん〜ぅ……」

 

 体育祭が終わった後、私は目を通せる書類に目を通し、新井が作ってくれた糖分多めのディナーを食べてから、大浴場の温泉に浸かった。

 空を見上げると、満天の星が見える。

 その光景にうっとりと心を休めながら、温泉の中でぐぐっと身体を伸ばす。

 

 今日の体育祭、私は準優勝に終わった。

 元々はヒーロー科が主役の興行なので、別に優勝できなかった事が悔しいわけではない…というかむしろ、表彰台に登れただけ御の字だ。

 

 ()()()()()()、ヒーロー殺しだ。

 奴はインゲニウムを再起不能にし、今もなお逃走を続けている。

 奴は必ず、同じ地域でヒーローを複数人襲ってから、他の地域で事件を起こす。

 今回保須市で被害に遭ったのは、まだインゲニウム一人だけだ。

 奴は必ず、近いうちに保須に現れる。

 

 ヒーロー殺しがターゲットにするのは、ヒーローだけではない。

 凶悪犯を何人も葬り、若者の間ではヒーロー殺しを英雄視する声すら上がっている。

 だが私にとっては奴も、奴が葬ってきた凶悪犯と同類だ。

 自分が正しい事をしているつもりなのだろうが、インゲニウムをはじめとする良識的なヒーローにまで手をかけた時点で、奴のロジックはとうに破綻している。

 結局は奴も、やりたい放題やって人に迷惑をかけているだけだ。

 どこまで行こうと、奴のしている事はただの害だ。

 一刻も早く、除かねばならない。

 もちろん合法的に、だ。

 

「うぅ〜…」

 

 私は、鼻から下を温泉に浸け、ぶくぶくと泡を立てながら考え事をした。

 温泉の中で胸を寄せては離して浮かせる、といった遊びをして気分転換をし、心を落ち着かせた。

 私がやらなきゃいけない事は、何もヒーロー殺しの追跡だけじゃない。

 明日からは、やる事が山積みだ。

 今日はもう疲れたし、早めに寝よう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 休日一日目。

 私は、部下達と共に山根の運転するバスに乗って、屋敷から遠く離れた農村に向かった。

 私達が訪れたのは、村長から許可を取って借りた介護施設の講堂だ。

 見ると、昨日の体育祭の影響か、予想以上に多くの聴衆が訪れていた。

 私は壇上に上がり、マイクを手に取って開会の辞を述べた。

 

「皆様。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。本日の講演会の主催団体代表を務めます、全日本“個性”福祉協会会長の六徳刹那と申します。本日は、国際社会における異形型“個性”への差別の現状と課題、そして課題解決に向けた当団体の取り組みについて解説させていただきます。是非、皆様にとって何らかの気づきが得られる機会になれば幸いです。最後までどうぞよろしくお願い致します」

 

 私が挨拶をすると、聴衆が拍手を送った。

 好感触な出だしに内心安堵しつつ、セミナーを始めた。

 

 今日のセミナーは、“個性”社会の課題、特に異形型の“個性”への差別問題について考えてもらうという内容だ。

 都心部では異形型の“個性”の人々が何不自由なく暮らしているが、過疎地ではまだ異形型の“個性”への酷い差別が続いているのが現状だ。

 父は生前“個性”差別をなくす為に全国をまわって演説を行い、その甲斐あって差別も沈静化したが、それでも完全に差別をなくす事はできなかった。

 故に私が父の遺志を継ぎ、差別をなくす為の福祉団体を自ら立ち上げたのだ。

 幸い、設立の為の資金なら腐るほどあった。

 利用できるものを片っ端から利用して、会員を募って、ようやく全国的に認知されるようになった。

 

 私の設立した団体の主な活動内容は、差別に遭っている被害者の保護や就職支援、そして地方でのセミナーだ。

 “個性”差別が横行している地域では、差別対象となる“個性”への理解が進んでいないケースがほとんどだ。

 だからこうしてセミナーを開いて、少しでも興味を持ってもらう必要がある。

 もちろんセミナーの内容はウェブで配信もしているが、私達がターゲットとしている層はそもそもインターネットを積極的に利用しない者が多いので、直接足を運んで訴えかける事に意味があるのだ。

 今回は異形型“個性”に絞って講演を行ったが、当団体は、“無個性”や突然変異型の“個性”、そして“個性”由来の障碍や難病を抱えた患者など、幅広い層に向けて活動を行っている。

 

 もちろん、一方的に喋って終わりではない。

 会員達が対象となる地域への支援活動を行う見返りとして、セミナーの場を借りているのだ。

 現に私が壇上で話している間にも、外では会員達が農作業を手伝っている。

 住民との間により深いWin-Winの関係を築く事が、“個性”差別をなくす第一歩であると私は考えている。

 

 私は、30分に及ぶセミナーを通して、私達の活動を聴衆に知ってもらった。

 最後により詳しく理解を得る為の資料を配り、セミナーはつつがなく終わった。

 するとセミナー中に私のアシストをしてくれた部下が、私に声をかけてきた。

 

「お疲れ様でした、会長。素晴らしい講演でした」

 

「何を言う。伊口君の助力あってこその成功だ。ありがとう」

 

「こちらこそ、会長のお役に立てて光栄に存じます!」

 

「君の活躍には、これからも期待しているよ」

 

「はい!」

 

 私が期待を込めて言うと、伊口君がハキハキと返事をした。

 緑色の肌に紫色の髪といったリザードマンを彷彿とさせる外見をした彼の名前は、伊口秀一君。

 私の立ち上げた福祉団体の創設メンバーの一人だ。

 私が活動に必要なメンバーを募集していた時、募集に応じてくれたのが彼だった。

 

 当時の私は、父の遺志を継ぐと息巻いたはいいものの、全くと言っていいほど当主としての信用がなかった。

 団体のメンバーを募る為に動画をアップしてみたり、演説を行ってみたりしたのだが、周りの大人には子供のお遊びだと嗤われ、地方に住む当事者達には『どうせ金持ちの道楽だろう』と拒絶され、最初は誰も相手にしてくれなかった。

 そんな中、私のアップした動画を見て電話をかけてくれたのが、伊口君だった。

 

 伊口君はかつて、酷い異形差別を受けていた。

 かつては、外を出歩いただけで害虫のように扱ってくる奴等と、そういう奴等を生み出した社会を恨んでいたそうだ。

 だが私の作った動画を見て、私についていけば自分にも何かできるかもしれないと思った、そう言っていた。

 あの頃の私にとって、彼からの電話がどれだけ嬉しかった事か。

 

 

 

 ――“没個性”?(ヴィラン)向き?周りと違う?そんなの、知った事か!俺からすりゃあ、ここにいる全員がすげえ奴だ!!

 

 ――きっとヒーローが助けてくれる?甘ったれた事言ってんじゃねえ!てめぇの望む時代を創る英雄(ヒーロー)に、てめぇがなれ!!この世に生まれた瞬間から、誰もが誰かのヒーローだ!!

 

 ――このクソ理不尽な世界に抗ってやろうっていう馬鹿野郎は、俺についてこい!!未だ誰も見た事がない景色を、俺が見せてやる!!

 

 

 

 ふと、父が学生時代に行ったスピーチの文言を思い出した。

 誰にも相手にされずに途方に暮れていた時、私はいつも縋るように父の映像を見ていた。

 映像の中の父の勇姿が、私を奮い立たせてくれた。

 そして行き詰まっていた私を助けてくれたのが、伊口君だった。

 ぎこちない声で電話をかけてくれた彼の勇気を、私は忘れない。

 

 セミナーを終えた私達は、地域住民の手伝いやインフラのメンテナンスなどの業務を行った。

 セミナーに足を運んでくれた人達には、地元で採れた農作物で昼食を作って振る舞った。

 全ての業務を終えた私達は、バスで二時間以上かけて帰った。

 

 私は伊口君に、父と私の意志を継ぎ、異形差別撤廃の先駆者になってほしいと思っている。

 こればかりは、私にはできない。

 人の形に生まれた私が何を為したところで、所詮は他人事だからだ。

 傷を受け苦しんだ彼だからこそできる事がある。

 伊口君が、同じように異形差別に苦しむ人々のヒーローになれたらいい。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

伊口side

 

 ――死ね、バケモノ!! 

 

 ――イギョーは家から出てくるな! 

 

 ――土地が穢れる、出ていけ。

 

 ――時代がどう進もうとも、我々はその血を受け入れる事はない。

 

 

 

 外に出ただけで、殺虫剤を撒かれ、石を投げられる日々だった。

 まるで壁を這うヤモリのように、気味悪がられ人前に出ないようひっそりと生きてきた。

 こんな“個性”(かたち)にさえ生まれなければ。

 自分の“個性”を、この社会を呪う日々だった。

 日の下を出ないように引きこもってネットサーフィンをしていた時、偶然ある動画が目に留まった。

 

『私達と一緒に、世の中を変えていきましょう。あなたはもう、独りじゃない』

 

 そこに映っていたのは、笑顔で訴えかける六徳家当主の姿だった。

 彼女は、部下の一人がかつて酷い異形差別に苦しんでいた事、何の罪もない者達が苦しむ現状を変えたいと思った事を動画内で語った。

 

 その日、俺は救われた。

 日陰を照らす、小さな光に。

 

 気がつけば俺は、ボロボロと泣きながらその動画を何度も再生していた。

 彼女は、俺が誰にもかけられなかった言葉を、誰かに言ってほしかった言葉を、何度も投げかけてくれた。

 まだ幼い子供なのに、そこらのヒーローよりずっと先を見据えていた。

 この人についていけば、俺も『何か』になれるかもしれない。

 そう思った俺は、動画の概要に書いてあった電話番号に電話をかけた。

 

「もっ、もしもし!その…動画、見ました!あの、メンバーを募集してるって聞いたんですけど…」

 

 俺は居ても立ってもいられなくなって、六徳さんの動画を見て感銘を受けた事を伝えた。

 そしたら、是非一度会って話がしてみたいと言われた。

 俺は中学卒業と同時に家を飛び出し、彼女に会う為になけなしの金で上京した。

 彼女に案内してもらったのは、これから活動拠点にする予定だという綺麗なオフィスだった。

 俺が緊張しながら待っていると、彼女が来た。

 

「やあ、君が伊口君だね。話は聞いているよ」

 

「は、はい!」

 

 直接俺の前に来た六徳さんは、澄んだ声で俺に話しかけてきた。

 まだ子供なのに、空っぽの人生を送ってきた俺とは違う、人の上に立つ人間としてのオーラが漂っていた。

 

「伊口君。君の故郷では、いまだに酷い異形差別が横行しているそうだね。そこで、ここに来てくれた君に頼みたい事がある。君には、異形差別に苦しむ人々のヒーローになってもらいたい。引き受けてはくれまいか?」

 

「俺が…ヒーロー…?六徳さんが中心になって活動するんじゃないんですか?」

 

「こればかりは、私にはできない事だ。この姿に生まれた私では、差別に苦しむ当事者達に何を言っても、同情にしか聴こえないだろうから。その立派な手足を持つ君にしか、できない事がある」

 

 六徳さんの言葉に、俺は心を打たれた。

 壁に張り付く事しかできない俺の手足を、立派だと言ってくれた。

 信じられるか?

 まだ10歳の子供が、俺の…いや、俺達の本当に望む事をちゃんと理解してくれてるんだぜ?

 

「どんなに強く眩しい光でも、それひとつで全ては照らせない。だからこそこれからの時代は、誰もが誰かのヒーローにならなくてはならないのだ」

 

 そう言って六徳さんは、厚さ1cm程の札束が入った紙袋を手渡してきた。

 

「まずはこの金で、必要なものを買え」

 

 その日から、六徳さんは俺に仕事を教えてくれて、宣伝活動をしているうちに少しずつメンバーが増えていった。

 “個性”に苦しめられてきた者達が集まって創設した団体は、5年弱で全国的に認知されるようになって、支持者も倍増した。

 

 何者にもなれないと思っていた。

 日の下を歩く事もできず、ただ流されて生きていくだけだと思っていた。

 

 そんな俺を救ってくれたのが、六徳さんだった。

 彼女は俺の心を救ってくれて、仕事を、何より安心して過ごせる居場所をくれた。

 こんな俺でも、誰かのヒーローになれると言ってくれた。

 彼女は、流されてついてきただけの俺を咎めなかった。

 

「何色にも染まれる君だから、私の言葉に耳を貸してくれたんじゃないのか?」

 

「会長…」

 

「誰かについて行きたいと思うのだって、立派な意志だ。君の目には、君自身が宿っているよ」

 

 六徳さんが何気なく発したその言葉は、俺にとっては救いだった。

 そんな風に言ってくれたのは、彼女だけだった。

 

 それまで、何の目標も信念もなく、ただ何となく生きているだけだった。

 だけど俺だって、流される相手くらいは選びたい。

 

 六徳さんは…会長は、俺の女神だ。

 誰にも照らされなかった俺を、照らしてくれた。

 俺は、会長という神を信仰する忠実な使徒になる。

 俺には差別に苦しめられてきた奴等を救おうなんて大それた信念は無いが、それで俺の女神(会長)が認めてくれるなら、ヒーローだって何だってやってやる。

 

 

 

「すごい話しかけられた…」

 

「会長、体育祭で準優勝でしたからね」

 

「まあ私の名が知れ渡るのは、いい事ではあるんだがな」

 

 帰りのバスの中で、会長は背もたれにもたれかかりながらそう言った。

 会長は、昨日の雄英体育祭で、準優勝を果たした。

 実質優勝したも同然だったんだが、会長が決勝戦の途中で降参したから、試合は準優勝に終わった。

 それはいいんだが…

 

 優勝者の爆豪とかいうガキ…

 会長の胸に挟まれるなんて、羨ま…いや、不潔な奴め…!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 休日二日目。

 今日も、六徳家当主としてやらなければならない事が山のようにある。

 朝起きてすぐ、私は書斎の机に山のように溜まった書類に片っ端からサインをした。

 不動産管理や融資等の事務処理も、私の仕事だ。

 普段は学校帰りの空き時間に捌いているのだが、それだけだととてもではないが追いつかないので、休日は午前中の時間を使って溜まった分の書類を捌いているのだ。

 あまりにも処理しなければならない事務が多すぎてひとつひとつこなしていてはキリがないので、書類に必要事項を記入しながら、山根に携帯を持ってもらって同時に複数の事務を捌いていく。

 

 今日中に終わらせなければならない重要な業務をひと通り終えた後は、融資の申請に目を通し、融資を行うかどうかの最終確認を行う。

 六徳家は、企業や個人向けに融資や投資を行い、得た分の利益で更なる事業の拡大を図っている。

 だが融資を行うには、申請元のキャッシュフローを確認し、正規の事業かどうか、返済能力があるかなどの必要事項を厳しく審査しなければならない。

 融資を申請してくる相手のほとんどは審査の必要がない健全な企業だが、中には裏稼業で得た収入を隠して申請してくる犯罪者(バカ)や、借金を踏み倒そうとする恩知らず(アホ)が紛れているので、そいつらを未然にはねる必要があるのだ。

 その最終確認をするのが、私の役目だ。

 

「………これ、どこから出てきた数字だ?」

 

 作業の途中で異変に気がついた私は、すぐに手を止めた。

 融資を申請してきたサポート会社に、妙な金の流れがあったのだ。

 

 申請元は、デトネラット社の関連会社か…

 デトネラットの社長は()()()()()()()()()()()

 半グレ紛いの連中の間で、安価でそこそこ使いやすいデトネラットのサポートアイテムが大量に出回っているらしい。

 私には裏社会の事情に詳しい()()()が沢山いるので、そういったタレコミもすぐに私の耳に入ってくる。

 私の考えすぎかもしれんが、万が一という事もあるし、一応マークしておくか。

 

 

 

「ふぅっ」

 

「お疲れ様でした、お嬢様」

 

 午前11時半、ようやく事務処理がキリのいいところまで終わった。

 私が背もたれにもたれかかると、山根が茶を出してくれた。

 これなら、午後の予定には充分間に合いそうだ。

 

 事務作業を終えた私は、新井が作ってくれた昼食を食べた。

 今日の昼食は、ざる蕎麦だ。

 燈矢さんが打った蕎麦をくれたので、それを新井に頼んで茹でてもらったのだ。

 ざる蕎麦以外にも、だし巻き卵や板わさ、蕎麦味噌、天麩羅といった、蕎麦屋で定番の料理が出てきた。

 

「…美味い」

 

 私は、もきゅもきゅと蕎麦を噛み締めて香りを楽しみながら、思わず頬を緩めた。

 蕎麦つゆを大根おろしの汁で割って食べるのが、私の好きな蕎麦の食べ方だ。

 …それにしても燈矢さん、また蕎麦打ちの腕を上げたな。

 この後の用事が済んだら、蕎麦の感想を伝えないと。

 

 

 

 昼食を摂った私は、すぐに身支度を整える。

 お気に入りの水色のブラウスと濃紺のフレアスカートを身につけ、胸には六徳家の家紋があしらわれたロイヤルブルーサファイアのブローチをつける。

 首筋がすっきり見えるように髪は高い位置で括って編み込み、ブローチとお揃いのイヤリングをつけ、画面映えするように化粧をする。

 私は所謂盛り耐性というものが無い顔立ちのため、あまり化粧を重ねすぎると浮いてしまうので、ナチュラルメイクにしてもらった。

 最後に姿見の前で自分の姿を確認したら、身支度の完了だ。

 

 今日は午後から、テレビ局の取材がある。

 私は当主としての立場上、取材を頻繁に受けており、テレビへの露出も多い。

 流石に学校や事務で忙しい時は山根に調整してもらっているが、それでもできるだけ取材は受けるようにしている。

 狙われるリスクを冒してまで取材を受ける事には、六徳家当主として健全な姿を世に示す事で、誇りと信頼を維持するという意義があるからだ。

 世の中にはマスゴミなるものが大量に蔓延っているが(それでも私が釘を刺したおかげでだいぶマシにはなったが)、その手の奴等に根掘り葉掘り聞かれたら別にやましい事が無くても困りものなので、山根が選んだ信頼のおける報道陣のみ本邸での取材を許可している。

 

 しばらくすると、記者を乗せた車が屋敷の前に到着した。

 私は、取材に来てくれた記者を応接間に招き入れた。

 取材用のレイアウトにした応接間は、国宝級の高級な家具が置かれ、壁には美術品が飾られている。

 本邸の応接間が客に見せる用の豪華なレイアウトになっているのをある程度は想定していたのか、取材に来た記者は、緊張のあまり挙動不審になったり美術品に触ろうとしたりなどといった粗相を全くせず、スムーズに取材に移ってくれた。

 無礼を働かれるのも、逆に緊張しすぎて取材が滞るのも困りものだったので、スムーズに取材をしてくれるのは非常に助かる。

 

「遠方から御足労いただきありがとうございます」

 

「とんでもない!本日はよろしくお願いします」

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 笑顔が爽やかな記者は、ウインクをしながら挨拶をしてきた。

 こうして、インタビューが始まった。

 

「それでは、早速質問に移らせていただきますね。先日の雄英体育祭ですが、刹那様はどういった意図で参加されたのですか?」

 

「仲間と共に高め合い、日々の努力の成果を発揮できる場であると考え、参加を決意しました。現状として、プロヒーローやヒーロー科のみが注目されていますが、これからは誰もが誰かのヒーローになる時代です。雄英体育祭は全国的に知名度の高いスポーツの祭典ですので、先日の体育祭を機にクラスメイト達一人一人の活躍をより多くの方々に見て頂けたのなら幸いです」

 

「誰もが誰かのヒーロー…ね。その話、もう少し詳しく伺っても?」

 

「オールマイトの活躍により、近年はヒーロー飽和社会と言われるまでに治安が安定しました。ですがヒーローだけで、全ての人を救う事はできません。私は、ヒーローに救われなかった人達を大勢この目で見てきました。それに、オールマイトがヒーローとして活動していられる時間は有限。だからこそ、オールマイトに頼りきるのではなく、国民一人一人が誰かを救うヒーローであるという自覚を持つべきだと考えています」

 

 記者の質問に対し、私は明瞭に自分の意見を語った。

 すると記者は、僅かに目を見開き、そして優しく微笑んだ。

 

「……それは…素晴らしい考えですね」

 

「ありがとうございます」

 

「これまでの質問を踏まえた上でお聞きしますが…刹那様にとっての最高のヒーローとはズバリ、誰だと思いますか?」

 

 記者の質問に、私は思わず一瞬言葉を詰まらせる。

 それは想定外の質問をされて返答に詰まったからではなく……ああいや、ある意味想定外の質問なのか?

 正直、ヒーロー科とやり合った感想や、メダル授与を行ったオールマイトの事などを聞かれるのかと思っていた。

 私自身についてちゃんと聞かれるとは思っていなかったから、この記者にはいい意味で内心驚かされた。

 私は、この記者には、正直に思っている事を話す事にした。

 

「……実は、『誰もが誰かのヒーロー』という言葉は、父の受け売りなんです。私は、亡き父の遺志を継ぎ、父の望んでいた社会を私の手で創っていきたいと考えています。…そういうわけで、私にとっての最高のヒーローは、私の父です」

 

 私は、目を細めて微笑みながら、記者の質問に答えた。

 すると記者は、笑顔を浮かべながら私の答えに頷いた。

 

 その後も、私が記者の質問にひとつずつ答えていく形で取材は進んだ。

 有り難い事に、無神経な質問はひとつもされなかった。

 記者の質問に率直に答えていくうちに、気がつけば時間になっていた。

 取材を終えると、記者が丁寧に頭を下げる。

 

「今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ」

 

 記者が丁寧に礼をすると、私も笑顔を浮かべ、頭を下げて見送る。

 すると記者が、思い出したように足を止める。

 

「あっ、そういえば…」

 

 足を止めた記者は、振り向いて私のもとまで歩いてきて、小声で話しかけてくる。

 

「表彰式のメダル授与の時、オールマイトと握手をされていましたが…正直どんな感じでしたか?」

 

 あ、やっぱり本当はオールマイトの話を聞きたかったんだな。

 

「…すみません、どうしても個人的に聞きたかったもので。今のは、オフレコにしときます」

 

 記者は、申し訳なさ半分、好奇心半分、といった感じの笑顔を浮かべながら、人差し指を口の前で立てた。

 取材の時の笑顔とは違う素の笑顔に、思わず面食らう。

 

 取材の時は、私の話題そっちのけでオールマイトやヒーロー科A組の話題中心にならないように、質問の内容を選んでくれていたのか。

 これが入学したての頃のマスゴミなら嫌悪感を剥き出しにしていたかもしれんが、公私をきちんと分別しつつ、好奇心を認めて包み隠さず尋ねてくる姿勢は、正直嫌いじゃない。

 自然体で聞いてくる記者に対し、私も営業スマイルではなく、できるだけ自然な表情で答える事にした。

 

「……思ったより手が温かかったです」

 

 私が正直な感想を言うと、記者は僅かに目を見開く。

 …流石に気の利かなさすぎる答えだったような気もする。

 

「…そっか、ありがとう」

 

 そう言って記者は、優しげな笑顔を浮かべた。

 この時だけは、記者と取材対象という関係を忘れて素で話した。

 最後に、取材に来てくれた記者の特田さんに記念撮影をしてもらって、その日の取材が終わった。

 私は、特田さんの車が見えなくなるまで見送りながら、世の報道陣が皆特田さんのように良識のある人だったらいいのに、と心の中で願った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

特田side

 

 18年前、僕の父はオールマイトに救われた。

 オールマイトは、塚城のコンビナート爆発事故に巻き込まれた24人の従業員を全員救い出した。

 その従業員の中には、僕の父もいた。

 父を抱えて工場から出てきたオールマイトの姿が、鮮烈に焼きついた。

 僕は、“個性”で出したカメラを無意識に向けていた。

 その時撮った写真が、後日新聞に載った。

 あの日から、オールマイトは僕にとっての希望になった。

 

 そして、僕の父を救ってくれたのはオールマイトだけではない事を、後で知った。

 あの事故で犠牲者が出ずに済んだのは、当時の六徳家の当主が、オールマイトに事故の事をいち早く伝え、迅速な消火の為に消防隊を出動させたからだと聞いている。

 『誰もが誰かのヒーロー』、彼が口癖のように言っていた言葉に、僕は衝撃を受けた。

 

 オールマイトがどんなに強い光でも、いつまでも僕達を照らし続けていられるわけじゃない。

 だからこそこれからの時代は、誰もが誰かを照らしていかなきゃいけない。

 当たり前の事のはずなのに、誰も気づかなかった…いや、気づかないフリをし続けてきた。

 彼だけが、何十年も先の未来を見ていた。

 

 僕はあの時、確かに照らされた。

 オールマイトに負けないほどに強い光に。

 

 だけど7年後、11年前の六徳家本邸全焼事件。

 その事件で、彼は志半ばで命を落とした。

 当主の座は、当時まだ4歳だった娘の刹那ちゃんが継いだ。

 人々を照らしていた強い光は消えてしまったが、まだ希望はある。

 

 今日の取材で刹那ちゃんの話を聞いて、僕は確信した。

 彼女はまるで、先代当主の生き写しだった。

 彼の遺志は、刹那ちゃんの中でまだ生きている。

 きっと彼女が、未来を照らす光になるのだろうな。

 

 

 

「表彰式のメダル授与の時、オールマイトと握手をされていましたが…正直どんな感じでしたか?」

 

 僕は刹那ちゃんに、表彰式の時のオールマイトをどう思ったかを尋ねた。

 次世代の希望となり得る彼女がオールマイトと直接話して何を感じたのか、記者としてではなく、僕個人が知りたかった。

 

「……思ったより手が温かかったです」

 

 幼い子供のような感想に、思わずこちらが面食らってしまった。

 てっきり用意してきた言葉を言うのかと思いきや、刹那ちゃんはその場で感じた事をそのまま僕に伝えてきた。

 六徳家当主としてではなく、一人の女の子としての彼女を見た気がした。

 …やっぱり、直接足を運んで取材に来てよかった。

 

 僕は、刹那ちゃんとのツーショットを“個性”でプリントし、胸ポケットにしまった。

 この写真は、大事にしまっておこう。

 誰もが誰かの希望になれる、理想の社会になるその日まで…ね。

 

 

 

 

 




ギャルゲーの主人公の如く原作キャラからの好感度を爆上げしていくオリ主ちゃん。
救済キャラ三人目はスピナーこと伊口くんです。
この世界線の彼は、ステインに憧れる前にオリ主ちゃんに心を救われているので、ステインオタクではありません。

そしてアニオリキャラの特田さんをゲストとして出してみました。
原作のマスゴミは彼を見習え。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
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