私の世直しアカデミア   作:M.T.

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ダブドラ様、唐野葉子様、オリジナルキャラクターのご応募ありがとうございます。
ご応募いただいたキャラクターは、本編で登場させていただきます。

ごめんなさい今回めちゃくちゃ難産でした。
どれもこれもバイトとか卒業式とかが…(言い訳)

cbdool様、評価9を入れていただいてありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら感想・お気に入り・評価等よろしくお願いします。


第17話 ヒーロー殺しはミディアムレアにされたらしいです

 療子と心操君が先生からヒーロー科への編入に向けた特別講習のお誘いを受けていた頃。

 飯田君が浮かない顔で帰路についているのを見かけたので、私は後ろから声をかけた。

 

「やあ、飯田君。今少し話いいかい?」

 

「六徳くん…申し訳ないが、俺はこれから兄の見舞いで…」

 

「君のお兄さんの事で、話がしたい。20分…いや、10分だけでいい。頼むよ」

 

 そう告げると、飯田君は了承してくれた。

 私は、自販機でオレンジジュースを買って飯田君に奢り、誰もいなくなったC組の教室に飯田君を呼んで話をした。

 

「飯田君。お兄さんの容態は?」

 

「……下半身不随だそうだ。もう二度と、ヒーロー活動をする事は叶わないらしい」

 

「そうか。それは……つらいな」

 

「兄さんは多くの人を救け、導いてきた。僕に夢を抱かせてくれた、最高のヒーローだ…!殺人鬼に潰されていい理由など、何ひとつ無いんだ…!!」

 

 飯田君は、ヒーロー殺しへの憎悪を剥き出しにしながら言った。

 大切な兄の未来を奪った犯人を殺してやりたい、そんな思いが感じ取れた。

 

「そうだね。君がヒーロー殺しに怨みを抱くのは、至極当然の事だ。私は、復讐をやめろなどと綺麗事を言うつもりはない。ただ、間違っても法は犯すな。独断で行動し、奴を捕まえようなどと考えるのはやめておけ。もし君がヒーロー殺しに返り討ちにされて殺されたら、君のお兄さんは、両親は、どれだけ苦しむと思う?仮に成功したとしても、君が道を踏み外してまでヒーロー殺しを討ったと知れば、君の家族はそれを喜ぶと思うか?」

 

「それは……っ」

 

 私が尋ねると、飯田君は眉を顰めて俯く。

 ……ああ、自分の行いがどれだけ人に迷惑をかけるのかすら気付いていなかったのか。

 本人が家族を犠牲にする覚悟で復讐の道を歩むというのであれば、私が声をかける義理もないと思っていたが…

 やはり、声をかけて正解だった。

 

「どの道、君が道を踏み外せば、君のお兄さんや両親が苦しむ事になるのだ。ヒーロー殺しに一矢報いたいのであれば…正規の活動で奴を豚箱に放り込め。君はまだ学生だ。ヒーローとして奴を捕らえたいのなら、身近な大人を利用しろ」

 

 私が言うと、飯田君は俯いたままため息をつく。

 そして私に深く頭を下げてきた。

 

「六徳くん……すまない。君の言う通りだ。僕は、兄さんを再起不能にしたヒーロー殺しを憎むあまり、ヒーローとして一番大事な事を見失ってしまっていた…」

 

「謝る相手は私ではないのではないか?君が思い詰めていた事で、心配している人間が少なからずいるはずだ」

 

「……ああ、そうだな」

 

「わかってくれれば良いんだ。そして、これは提案なんだが…君にひとつ朗報がある。私なら、君のお兄さんの身体を治してやれるかもしれない」

 

 私が言うと、ずっと俯いていた飯田君が顔を上げる。

 

「…!?今、何て……!?」

 

「君のお兄さんを治してやれるかもしれないと言ったんだ。当家には、腕利きのドクターがいる。今は別件があって家にはいないが、今診ている患者の容態が落ち着いたら診てくれるそうだ。君が望むなら、今すぐにでも話をつけよう」

 

 私は、飯田君にウチのドクターを紹介した。

 今は海外で医者として活動しているが、早ければ来週にでも帰ってくるらしい。

 

「君のお兄さんがヒーロー活動を再開できるようになるまで、時間がかかるだろうが…お兄さんの見舞いに行ったら、思いの丈をぶつけるといい。家族との時間を、大事にしろ。君も、お兄さんも、まだ生きているのだからな」

 

 そう言って私は、飯田君にドクターの連絡先を書いた紙を渡した。

 すると飯田君は、大事そうに連絡先を受け取り、深く頭を下げてきた。

 

「ありがとう。本当に…」

 

 飯田君は、何度も私に頭を下げて感謝してきた。

 私は、フッと微笑みながら返事をした。

 

「どういたしまして」

 

 その後飯田君は、その足でインゲニウムの見舞いに行った。

 私の話が終わる頃には、彼の目に宿っていた怨恨の炎はすっかり鎮まっていた。

 これでもう大丈夫だろう。

 

 それにしても…兄弟同士、本当に強い絆で結ばれているのだな。

 私の弟も生きていたら、インゲニウムにとっての飯田君のような存在になっていたのだろうか。

 本当に…君が羨ましいよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 社会科見学の話を聞かされてから、あっという間に時が過ぎ、社会科見学当日。

 早朝から荷物を持って東京駅の駅前に集合した私達は、整列して担任の話を聞いていた。

 希望の職場が関東圏内に集中していたため、東京駅での待ち合わせにしたらしい。

 私達C組の隣には、D組とE組も並んでいる。

 

「皆さん、よく見てよく学び、是非今日の経験を今後の糧にしてください。それから、職場の方にはくれぐれもご迷惑のないように。それでは、解散!」

 

 13号先生の合図とともに、私達は解散し、それぞれの行き先へ向かった。

 

「お前はこっちだ。来い」

 

「はい!」

 

 ヒーロー科への編入の為の特別講習を希望した心操君は、付き添いの相澤先生に連れられて雄英に向かった。

 そんな彼を尻目に私も移動を始めると、他の生徒が数人私についてくる。

 彼等も、私と同じ職場を見学先に選んでいたようだ。

 

「アタシら、見学先一緒だね」

 

「よ、よろしくお願いします…!」

 

「ウム、よろしく」

 

 私と同じ職場を選んだ生徒達が話しかけてきたので、軽く挨拶をしておいた。

 本来は電車やバスなどの通常の交通機関を使って見学先に行くのだが、私の場合はSPもなしに通常の交通機関を利用しては暗殺の危険に晒されかねないので、特例として東京駅から出ている送迎バスで霞ヶ関に向かった。

 行きのバスの中で、バスガイドが今回のツアーの解説をしてくれた。

 そんなこんなで、まずは総務省、ヒーロー公安委員会、国土交通省が所在している中央合同庁舎を見学する事になった。

 すると、私にとっては見慣れた男性が出迎えてくれた。

 パステルグリーンのメッシュが入った癖っ毛の黒髪と翡翠色の瞳を持ち、左眼にのみ六芒星のようなハイライトが入った壮年男性だ。

 

「ようこそ、ヒーロー公安委員会へ」

 

「イケメンだ…」

 

 出迎えてくれた男性が笑顔を浮かべると、斥口君が見惚れる。

 確かに外見だけ見れば、かなりの美形の部類に入るのだろう。

 だがその男性は、私の顔を見るなり、ブワッと涙を溢れさせて大泣きした。

 

「刹那ぁぁぁ!!クソブラックな職場で働いてる俺のオアシスはお前だけだよ!補給させて!」

 

「迷惑なので近寄らないでください、叔父上」

 

 叔父がいきなり大泣きしながら抱きついてきたので、私はやんわりと叔父を引き剥がした。

 危うく鼻水を制服につけられるところだった…

 というか他の皆がドン引きしてるからやめてほしい。

 

 彼の名は六徳(りっとく)風天(ふうてん)

 ヒーロー公安委員会の幹部にして、父の弟…つまり私の叔父だ。

 余談だが、父には二人の兄と姉、そして弟がおり、それぞれが各分野で活躍している。

 六徳家が盤石の地位を築いているのも、叔父上達のおかげだ。

 私が叔父を引き剥がすと、叔父は赤面しながら咳払いをし、自己紹介を始めた。

 

「えー、見苦しいところをお見せしました。改めまして本日皆さんの案内を担当します、ヒーロー公安委員会所属、六徳風天です。この庁舎の中にはヒーロー公安委員会、総務省、そして国土交通省のオフィスがあります。まずはヒーロー公安委員会のオフィスから順にご案内しますね」

 

 叔父は、自己紹介をしながら、私達をエレベーターに乗せて解説をした。

 エレベーターを降り、まずはヒーロー公安委員会のオフィスを見学した。

 オフィスでは、スーツを着た職員達が、忙しなく書類を書いたり電話の応対をしたりしていた。

 

「僕達の仕事はヒーロー運営…主にプロヒーローの指揮、ヒーロー免許の発行、機密情報の管理、テロリストや凶悪(ヴィラン)への対策等です。今は比較的落ち着いていますが、特に3月、6月、9月はヒーロー免許及び仮免の発行時期なので忙しくなります」

 

 私は、叔父の説明をレポート用紙にメモした。

 説明を聞いた皆は、顔を引き攣らせていた。

 オフィスの職員達は忙しなく仕事に追われていて余裕がないように見えるが、これでもマシだというのだ。

 繁忙期は土日休めれば御の字だと聞く。

 

 公安のオフィスを見た後は他のオフィスも見学し、昼食の時間になった。

 昼食は、叔父に案内してもらった食堂で摂った。

 私が重箱をテーブルに置いて食べ始めると、他の皆が覗き込んでくる。

 

「六徳さんのお弁当すごい…」

 

「シェフが作ってくれたんだ。食べるか?」

 

「え、いいの?」

 

「どうせ一人では食べ切れないからな」

 

「やったありがと!」

 

 新井が作ってくれた弁当を、皆に少しずつ食べてもらった。

 弁当は、いつも一緒に昼食を食べている斥口君だけでなく、D組とE組の皆にも好評だった。

 弁当を食べ終わった後は、持ち寄ったお菓子を皆で食べた。

 弁当の礼に分けてもらったお菓子を、ひとつずつ試食する。

 まずはう◯い棒とやらを食べてみる事にした。

 

「うまっ」

 

 一口齧るとサクサクとした食感とコーンポタージュの風味がして、思わず声が漏れる。

 新井が作ってくれるスイーツとは違うが、これはこれで美味い。

 これで10円だなんて信じられんぞ。

 なんて考えながら駄菓子を食べていると、皆が驚いたような顔で私を見てくる。

 

「…六徳さん、もしかして駄菓子食べた事ないんですか?」

 

「あー…すまん。その、食べる機会がなくてな」

 

 煙藤君の質問に、思わず顔を赤くしながら答える。

 恥ずかしい話だが、私は生まれてこの方、駄菓子というものを口にした事がない。

 同年代の友達は少なくないが、友達と遊ぶ時は大抵、お気に入りのスイーツ店のスイーツを奢るか、新井が作ってくれたスイーツを振る舞うかしていたからな…

 

「委員長これ美味しいから食べてみ!」

 

「きのこ食べます?美味しいですよ」

 

「いやたけのこの方が美味いっスよ」

 

 私が無知を恥じながらも正直に打ち明けると、皆は私にお菓子を分けてくれた。

 皆食い気味にお菓子を勧めてくるものだから、思わず少し驚いてしまった。

 ヒーロー科、特にA組の引き立て役にされてスレている者もいるが、皆根は優しい者達ばかりなのだ。

 皆から分けてもらったお菓子を試食した私は、またひとつ賢くなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

癒治side

 

 皆と解散した後、私は地下鉄に乗って保須市の総合病院に向かった。

 すると、隣にいた複原さんが話しかけてくる。

 

「よろしく、癒治さん」

 

「あ、はい…!よろしくお願いします」

 

 気さくに話しかけてきた複原さんに、私はワンテンポ遅れつつも返事をした。

 私と同じ総合病院での社会科見学を選択した、同じクラスの複原(ふくはら)無生(なお)さん。

 “個性”は『複製』、左手で触れたものの複製を右手から生み出す事ができるらしい。

 生物を複製する事はできないけど、食べ物とか摘出した臓器とか、本人が生き物じゃないと認識しているものなら複製できるみたいだから、医療分野で活かせる“個性”だと思う。

 

 私達は、院長先生に案内してもらって、病院内を見学した。

 どういった患者さんが来るのか、普段はどんな事をしているのか、ひとつひとつ丁寧に教えてもらった。

 私と複原さんは、教わった事をレポート用紙にメモした。

 するとその時、ちょうど入院している患者さんの点滴スタンドに吊り下げられた輸血パックが目に留まる。

 

「はふ…」

 

 あまりにも血が綺麗だったものだから、つい見惚れて、顔が赤くなるのを感じる。

 すると複原さんが、心配そうに声をかけてきた。

 

「癒治さん、大丈夫?」

 

「は、ひゃい!」

 

 ぼぅっとしている時に声をかけられて、思わず変な声が漏れた。

 血を見ると我を忘れる癖、どうにかしないとな…

 なんて考えていると、インゲニウム…A組の飯田君のお兄さんの病室が目に留まった。

 インゲニウムは、ヒーロー殺しにやられて脊髄損傷で半身不随の重傷を負った。

 あらゆる医者や医療系ヒーローが手を尽くしても一向に良くならなかったらしくて、世界屈指の名医が執刀するという今日の手術に賭けるしかないそうだ。

 

 私の“個性”なら、インゲニウムを元に戻せるかもしれない。

 だけど学生の私には関係のないところで、話は進んでいく。

 そこに私が入れる余地なんかない。

 何もできないのが、ただただ悔しい。

 

「………はぁ」

 

 私がお昼ご飯中にため息をつくと、複原さんが声をかけてくれた。

 

「大丈夫?」

 

「はい…」

 

「さっきから考え事してるみたいだけど、どうしたの?」

 

「治せるかもしれない人が目の前にいるのに、私、何もできないのが悔しくて…」

 

「悔しいと思うなら、尚更今は見学に専念するべきじゃないかな。資格取って、いいお医者さんになるんでしょ?」

 

「…………」

 

 複原さんにそう言われて、私は黙り込んでしまった。

 確かに、彼女の言う通りだ。

 私達は学生だからこそ、今は社会勉強をする必要がある。

 だけど…この気持ちはどうしたらいいんだろう。

 

「その子の言う通り」

 

 私が悩んでいると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、薄めのピンクのロングヘアを後ろで束ね白衣を着た気怠げな女性が立っていた。

 

「今はあんたらの出る幕じゃないわ。ガキは大人しくお勉強してな」

 

「医与さん!?」

 

 刹那ちゃんの専属のドクターの登場に、思わず声を上げて驚く。

 彼女には、私が特訓の過労で倒れた時お世話になった。

 なんで彼女がここにいるの…!?

 

「なんでここに…!?」

 

「あ?だってアタシ、インゲニウムの担当医だもん」

 

「え!?」

 

「本来、こういうのってアタシの仕事じゃないんだけど…お嬢様に命令されちゃあ、引き受けないわけにはいかないものね」

 

 そう言って医与さんは、気怠げに頭を掻いた。

 

「良かったら手術室の見学もしとく?」

 

「良いんですか?」

 

「あんた達がこの病院に社会科見学に来るのは知ってたからね。飯田家から見学の許可を取っておいたわ。何もできない事が悔しいと思うなら、手術がうまくいく事を祈ってなさいな」

 

 医与さんはそう言って、私達を手術室に案内してくれた。

 私と複原さんは、手術着を着て後ろで医与さんの手術を見守った。

 医与さんは、“個性”を発動してインゲニウムの手術をした。

 

「今から、切断された神経を全て繋ぎ合わせて修復します。足りない分の細胞は、“個性”で培養した分化細胞で補うわ」

 

 医与さんは、手術の段取りを私達にもわかるように説明してくれた。

 医与さんの“個性”は『オペ』、超人的な手術で肉体を修復・改造できる“個性”だそうだ。

 リカバリーガールの“個性”が本人の治癒力に依存するのに対し、医与さんの“個性”は、体組織を完全に修復する事ができるらしい。

 今回みたいな半身不随とか瀕死の重傷とか、治癒系“個性”で治せない怪我じゃない限り“個性”を使う事がないそうだけど…

 正直、どこに行っても重宝される“個性”だと思う。

 

 医与さんは、淡い桃色の光を全身から放ちながら、目に留まらぬスピードで縫合をした。

 私達は、固唾を飲みながら手術が成功する事を祈った。

 手術が始まってから2時間弱、医与さんは深くため息をついてから口を開く。

 

「手術は成功よ。次に目が覚めた時は、下半身が動くようになっているはずよ」

 

 その言葉を聞いた私と複原さんは、顔を見合わせて喜んだ。

 インゲニウムのご両親…そして弟の飯田君は、手術が成功して完治した事を喜んでいた。

 

「兄さん…!良かった、本当に…」

 

「天哉…心配かけてごめんな」

 

 手術が終わった後、飯田君はお兄さんの手を握りしめながら泣いていた。

 飯田君は、お兄さんの手術がある事を職場体験先のマニュアルさんに話したら、「俺の事はいいからお見舞い行ってきな!」って感じで今日だけお休みを貰えて、休暇を利用してお兄さんのお見舞いに来たそうだ。

 飯田君がヒーロー殺しへの復讐を考えているんじゃないかって心配だったから…救われて本当に良かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「今日はありがとうございました。おかげで勉強になりました」

 

 16時ちょうどに社会科見学が終了し、私達は病院を案内してくれた院長先生にお礼を言った。

 私達が帰ろうとすると、ちょうど飯田君を迎えに来たマニュアルさんに声をかけられた。

 

「君ら、社会科見学に来たんだろ?良かったら送ってくよ」

 

「いえ、大丈夫です。多分方角逆なので」

 

「そっか…気をつけて帰るんだよ」

 

「はい…」

 

 マニュアルさんは私達を送ってくれると言っていたけど、ただでさえヒーロー殺しが出てピリピリしている時に迷惑をかけたら申し訳ないと思って、咄嗟に断ってしまった。

 私と複原さんは、事務所に戻っていくマニュアルさんと飯田君を見送ってから駅に向かった。

 帰ったらレポート書かないとな…

 なんて考えていると、いきなり後ろから車が接近してきて、車の中から強く腕を掴まれた。

 

「っ!?」

 

「癒治さん!?」

 

 腕を掴まれた私は、そのままものすごい力で車の中に引き摺り込まれたかと思うと、後ろで両手を縛られて、無理矢理ハンカチを咥えさせられた。

 複原さんが追いかけてきたけど間に合わずに、私を引き摺り込んだ車は猛スピードで走り出した。

 

「ん゛ーーーーーっ!!」

 

 なに…!?

 何が起こったの…?

 なんで、私がこんな事に…

 

「ぐひひひ、雄英の女子がこんな簡単に捕まるなんてな」

 

「この女、本当に好きにしていいのかよ?」

 

「遊んでもいいが壊すなよ。こいつは大事な人質なんだからよ」

 

 私が混乱していると、ガラの悪そうなおじさん達が私を見てニヤニヤしていた。

 この人達、まさか(ヴィラン)…!?

 私、(ヴィラン)に攫われたの…!?

 私が混乱していると、(ヴィラン)の一人が私に噛ませていたハンカチを外した。

 

「げほっ…げほっ、な、なんで…なんでこんな事するんですか…」

 

 私が呼吸を整えながら尋ねると、(ヴィラン)がずいっと顔を近づけて、私の顎を掴んできた。

 

「お嬢ちゃん、六徳家の当主様のお友達だろ?お友達がピンチだって知ったら、当主様も放っておかないんじゃないかと思ってな」

 

「なんで…せ…六徳さんを狙うんですか…」

 

「俺らのアニキがあの女のせいでタルタロスにぶち込まれたから、報復してやるんだよ」

 

 (ヴィラン)の話を聞いて、なんで私がこの人達に攫われたのか、ようやく理解した。

 この人達は、私を餌に刹那ちゃんを誘き寄せるつもりなんだ。

 多分、体育祭で第二種目に勝ち進んだ私に目をつけて、人を使って私と刹那ちゃんがクラスメイトだって事を割り出したとか、そんなところだと思う。

 

「報復って…彼女に何するつもりですか…!?」

 

「あん?そんなの決まってんだろ!レイプだよレイプ!!」

 

「ギャラリーの前でマワしてやるんだよ。一通り楽しんだ後は、ハラワタ引き摺り出して殺すけどな」

 

 その言葉を聞いた途端、顔から血の気がさぁっと引いた。

 逆恨みで刹那ちゃんにそんな事をするなんて、頭がおかしいとしか思えない。

 

「当主を誘き寄せるまでは、お嬢ちゃんに遊び相手になってもらうからな。恨むんならあのクソガキを恨みな」

 

 そう言って(ヴィラン)の一人が、下卑た表情を浮かべながら私の胸を掴んできた。

 刹那ちゃんは優しいから、私が泣き喚いたり助けを求めたりなんかしたら、絶対に助けに来てしまう。

 私のせいで刹那ちゃんの未来がこんな奴等に潰される…それだけは、絶対に避けなくちゃいけない。

 泣き喚いてなんかやるものか。

 私が、刹那ちゃんを守るんだ。

 

「……こんな事したって、無駄ですよ」

 

「あ?」

 

「六徳さんとは、友達でも何でもありません。私を嬲って楽しいなら、好きなだけ楽しめばいいんじゃないですか?でもそんな事したって、六徳さんは私を助けになんか来ないですよ」

 

 私が(ヴィラン)を挑発した、次の瞬間だった。

 

「ぁぐっ…!?」

 

 ゴッと鈍い音が響いたかと思うと、顔に激痛が走った。

 鼻と口からは、ボタボタと血が垂れる。

 今、殴られた……?

 

「じゃあ望み通りにしてやるよ」

 

 そう言って(ヴィラン)が、私の上にのしかかって制服を剥いできた。

 ゴツゴツした男の手が、下着越しに私の身体を弄ってくる。

 

「こいつ、全然抵抗しねえな」

 

「大人しそうな見た目のくせに、実は淫乱なんじゃねえの?」

 

 違う…私は、そんなんじゃ…

 ごめんなさい…刹那ちゃん、私……

 

 

 

 ――バキャッ

 

 

 

「っ!!?」

 

 外から大きな音が聴こえたかと思うと、大きく車体が揺れ、車は道路の真ん中で止まった。

 (ヴィラン)も想定外の事態だったのか、私を襲おうとした(ヴィラン)は見るからに動揺していた。

 

「何だ!?」

 

「クソッ、タイヤがパンクしやがった!何なんだ急に…!?」

 

 (ヴィラン)が車のエンジンをかけようとしたけど、タイヤがパンクしているのか、(ヴィラン)は慌てふためいていた。

 するとその直後、運転席のサイドガラスが割れて、鋭い円錐状の弾丸が車体を貫通した。

 

「ヒッ!?」

 

 弾丸が窓ガラスを貫通すると、運転席と助手席に座っていた(ヴィラン)が震え上がる。

 

「くそっ、もうヒーローが追って来やがったのか!?」

 

「逃げるぞ!!」

 

「逃げるってどこに!?」

 

「知るか!!」

 

 ヒーローに追跡されている事を悟ったのか、(ヴィラン)は車から降りて逃げ出した。

 だけどその直後、先頭を走っていた(ヴィラン)の右足首を、鋭い弾丸が貫いた。

 

「ぎゃあああああっ!!!」

 

 右足首を砕かれた(ヴィラン)は、その場でのたうち回る。

 いきなり仲間が狙撃されたせいか、他の(ヴィラン)は狼狽えていた。

 

「ひいいいっ!?」

 

「狙撃…!?どっから撃ってきやがった!?」

 

「くそっ、こうなったら…!」

 

 切羽詰まった(ヴィラン)は、“個性”で触手のようなものを生やして私を拘束したかと思うと、私の頭に銃を突きつけて脅してきた。

 

「おいクソヒーロー!!このガキの頭吹っ飛ばされてえか!?」

 

 (ヴィラン)が、私の顳顬にハンドガンの銃口を押しつけてくる。

 だけどその瞬間だった。

 

「がっ…!?」

 

 私を人質にした(ヴィラン)がいきなり吹っ飛ばされて、地面に倒れ込んだ。

 見ると、(ヴィラン)は白目を剥いて泡を吹いていて、肩には注射針のようなものが刺さっていた。

 これ、もしかして麻酔銃……?

 

「が…!!」

 

「ぐえっ!!」

 

 (ヴィラン)が麻酔銃を撃たれて倒れた直後、他の(ヴィラン)も、どこからか飛び出してきた男女に拘束された。

 一人は四本腕を生やした岩のような肌の大男、そしてもう一人は矢印のような形の長い髪をした美女だ。

 よく見ると、二人は刹那ちゃんのお屋敷の庭師の囲さんとメイドの亜楼さんだ。

 

「ミッションコンプリート…でございます」

 

「はい動かないー」

 

 前を見ると執事長の山根さんが麻酔銃を構えて立っていて、後ろを見るとシェフの新井さんがさっき撃たれた(ヴィラン)を拘束していた。

 そして囲さんや亜楼さんと一緒に現れた小雪さんが、私を助け出してくれた。

 

「お嬢様!療子ちゃんを保護しました!」

 

 私を保護してくれた小雪さんは、どこかに向かって叫ぶ。

 すると刹那ちゃんと、日本刀を背負ったボディーガードの狭間さんと、蛍光色の光沢を持った髪を伸ばした使用人の西馬さんが現れた。

 

「ご苦労」

 

「おつかれー」

 

 刹那ちゃんは私を保護した小雪さんを一瞥し、西馬さんは小雪さんに向かって手を振った。

 刹那ちゃんの顔を見た私は、涙を抑えきれずに、その場で泣き出した。

 

「せづなぢゃん…わだしっ…う、うぅ…ぇぐっ…」

 

 私が泣き出すと、刹那ちゃんは私を抱きかかえて慰めてくれた。

 

「今は何も喋るな。私達が来たからもう大丈夫だ」

 

 私は、刹那ちゃんの腕の中で泣くだけ泣いた。

 やっぱり刹那ちゃんは、私を助けに来てくれた。

 世界一カァイイ、私のヒーロー。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 結局、療子を攫った犯人は全員逮捕され、療子は狭間に送られて私の屋敷で保護された。

 療子が攫われた事をいち早く教えてくれた複原君のおかげだ。

 

 私達が療子を救けていた頃、保須ではヒーロー殺しが現れたらしい。

 聞いた話によれば、奴に襲われていたヒーロー“ネイティブ”を飯田君が救出して増援を呼び、エンデヴァーやウチの警備会社のヒーローをはじめとするヒーロー達によってヒーロー殺しは逮捕されたそうな。

 ヒーローが来るまでネイティブを庇いながらヒーロー殺しと戦った飯田君は、全身を刃物で滅多刺しにされる重傷を負ったが、幸い神経や臓器に深い損傷はなく、明日にでも退院できると聞いている。

 

 そして保須市では、ヒーロー殺しの他にも、脳が剥き出しの異形“脳無”が複数体現れ、その場にいたヒーローが総出で全員倒したそうだ。

 その場にいたヒーロー達が苦戦していたから、狭間の“個性”で屋敷の使用人も討伐に向かわせた。

 ウチの使用人は、この国のトップヒーローにも引けを取らない実力者ばかりなので、脳無の退治にはさほど梃子摺らなかったそうだ。

 

 狭間の“個性”は『亜空刀』、愛着のある刃物で時空を切り裂き、亜空間に物を収納したり空間と空間を繋いで人や物を瞬間移動させる事ができる。

 希少かつ便利な“個性”なので、有事の際は活用させてもらっている。

 

 そして私は今、療子を攫った犯人を警察に引き渡しているところだ。

 

「クソッ…あんな化け物集団を飼い慣らしてるなんざ、聞いてねえよ…!」

 

 こいつら…私を取り巻く環境がどんなものかも知らずに、療子を餌に私を誘き寄せようとしていたのか。

 勉強不足にも程がある。

 悔しそうに言う犯人に対し、私は真実を教えてやった。

 

「知らないようだから教えてやる。当家の使用人は、私が選び、ヒーロー免許を取得させた、当家専門のプロヒーローだ」

 

 私が教えると、犯人は顔を歪める。

 私に仕える使用人は、全員ヒーロー免許を取得し、“個性”や銃刀の使用が許可されている、歴としたプロヒーローだ。

 ただし、彼等が一般的なプロヒーローと違うのは、一般的なプロヒーローは公安の指示で動くのに対し、私に仕える使用人は、私の命令でのみヒーロー活動を行うという点だ。

 要は“個性”の使用を許されたSPなので、当然ビルボードチャートに載らないし、知名度はアングラヒーローのイレイザーヘッドよりさらに低い。

 

 ちなみにヒーロー免許の取得は、あくまでウチの屋敷で働く上での()()()()だ。

 知能、身体能力、教養、家事能力、ストレスや拷問に対する耐性といった精神力、あとは私の命令とあらば殺人すらも厭わない忠誠心。

 そういった条件を全てクリアして初めて、六徳家の使用人を名乗る事を許されるのだ。

 

「何故療子を狙った?私が憎いなら、私を直接狙えば良かっただろう?」

 

「……てめぇのその見下した顔を見るとムシズが走るんだよ。このクソ女が」

 

 連行されていく(ヴィラン)が、私に向かって捨て台詞を吐いた。

 すると狭間が、激昂して(ヴィラン)に掴み掛かる。

 

「貴様、よくもお嬢様を侮辱したな!?」

 

「てめぇらもてめぇらだよ。なぁにが『お嬢様』だ。どいつもこいつも、ハエみてぇにクソに群がりやがって。金か?それとも、ヘコヘコ媚び諂ってりゃヤらせてもらえるとでも思ってんのか?どうせてめぇも、このアマで毎日ヌいてんだろ?」

 

「貴様…取り消せ!!」

 

「何度でも言ってやるぜ。先代当主のチンカスの分際で、偉そうにしやがって。お飾りはお飾りらしく、大人しく屋敷に引き篭もってりゃあいいものを!」

 

 (ヴィラン)は、私を侮辱したいだけ侮辱した。

 (ヴィラン)の挑発に激昂して殺気を剥き出しにしながら刀を抜こうとする狭間を、私は片手で制止した。

 

「その通りだ。私は…ただ()()()()()()()()()()()の、お飾りの当主だ。それでも…そんな私の為に命を懸けてくれる馬鹿者や、危険を承知で慕ってくれる学友がいる。私には、六徳家当主として、雄英高校1年C組学級委員長として、彼等に応える義務がある。だから私は、彼等と笑い合える未来を作らねばならんのだ」

 

 この(ヴィラン)の言う通り、私は当主の器じゃない。

 本家の唯一の生き残りというだけの理由で家督を継ぐ事になった、ただの小娘だ。

 かつては人に会うのが怖くて、屋敷の中で怯えながら生きてきた。

 『学校に行きたい』など、私には贅沢すぎる望みだと思っていた。

 だが山根は、私のわがままを叶える為だけに、命を懸けて私を守ると誓ってくれた。

 C組の皆は、暗殺に巻き込まれる危険が付き纏う私を除け者にはしなかった。

 山根達のおかげで、療子や心操君、C組の皆のおかげで、私は今ここに生きてる。

 皆の未来を脅かす輩は、どんな理由があろうと徹底的に潰すまでだ。

 

「肝に銘じておけ。もし次、私の大事なものを傷つけようものなら…どんな手段を使ってでも、貴様を殺す」

 

 私が目に殺気を込めながら言うと、(ヴィラン)はその場に尻餅をついて「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

 全身が震えて冷や汗をかいていて、みるみるうちに髪が白くなっていく。

 友達を傷つけられたからとはいえ、怖がらせすぎたか…

 

 その後、療子を傷つけた(ヴィラン)は、全員連行された。

 療子を拉致した上に六徳家を敵に回したのだから、無期懲役は確定だろう。

 私は、療子を助けてくれたスナイパーに連絡を入れた。

 

「ありがとうございます。ナガンさん」

 

 私は、当家専属のスナイパーのナガンさんに礼を言った。

 元々はヒーロー殺し討伐の為に東京に来てもらっていたのだが、複原君から療子が攫われたと連絡を受け、急遽こちらに出向いてもらったのだ。

 

『私は任務を遂行しただけだ。そんな事より…友達、助かって良かったな』

 

「……はい」

 

 ナガンさんの言葉に、私は思わず笑みが溢れる。

 ナガンさんは元々公安直属のヒーローだったが、公安の命令で人を殺し続ける日々に疲弊していたそうだ。

 だが父が先代の公安委員長の悪事を暴いた事で彼は退職を余儀なくされ、公安での居場所を失ったナガンさんはヒーロー免許を返上。

 行き場を失くし途方に暮れていた彼女をスカウトしたのが、他でもない父だったそうだ。

 彼女は、私の両親と弟を救えなかった事を悔やみ、犯人の捜索に協力してくれた。

 結局、犯人はヒーロー殺しに殺されてしまったが…

 

 ナガンさんは、身勝手な(ヴィラン)から私を守ってくれていれる。

 山根達も、私の為なら命を懸ける覚悟で勤めてくれている。

 私が毎日学校に通えているのは、皆のおかげだ。

 だからこそ私は、今この瞬間を笑って過ごさねばならんのだ。

 

 

 

 

 




救済キャラ四人目はレディ・ナガンです。
今判明しているオリ主と癒治以外の普通科のオリジナル生徒は以下の通りです。

泡田(あわた)千花(ちか)
C組の女子生徒。バブルガールの妹。
“個性”:『ソープフラワー』
洗浄・除菌効果のあるソープフラワーを生み出せる。

斥口(せきぐち)離乃(りの)
C組の女子生徒。刹那と仲のいい女子の一人。常識人でツッコミ役。
“個性”:『斥力(リパルション)
触れた物体に斥力を付与して反発させる事ができる。
生物には適用されない。

御法(みのり)鉄槌(てっつい)
C組の副委員長。真面目そうな見た目に反してノリが良い。
“個性”:『罰則』
触れた相手の行動を一定時間制限できる(ただし心操の『洗脳』と違って細かい命令などはできない)。
一度触れた相手は常に監視する事ができ、任意のタイミングで行動を制限できる。
生物にしか適用されない。

複原(ふくはら)無生(なお)
C組の女子生徒。癒治と一緒に病院の社会科見学を選択した。
ダブドラさんにご応募いただいたキャラクターです。
“個性”:『複製』
左手で触れた物の複製を右手から生み出す事ができる。
生物の複製は不可能。ただし、生物由来のものでも本人が生き物と認識していなければ複製可能(臓器や野菜など)。
食べ物を複製した場合、どんな味になるかは本人も試した事がないのでわからない。

矢田(やだ)叶恋(きょうこ)
C組の女子生徒。刹那と仲のいい女子の一人。アホキャラ。斥口とは中学時代からの親友。
“個性”:『キューピッド』
特定の人物に対する好感度を操る事ができるオーラの矢を生み出せる。
特定の人物をイメージしながら金の矢を撃つと、撃たれた相手はイメージした人物を好きになり、鉛の矢を撃つと嫌いになる。
女性よりも男性の方が効きやすい。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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