私の世直しアカデミア   作:M.T.

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ムッシー様、kinono様、キャラのご応募ありがとうございます。
万丈柚樹様、ZINTAKA様、高評価を入れていただきありがとうございます!
面白いと思っていただけましたら感想・お気に入り・評価等よろしくお願いします。


第18話 ヒーロー科女子、常識人は0人説

 ヒーロー殺しが逮捕されてから2日後。

 朝起きてシャワーを浴び、着替えてから部屋の外に出ると、ちょうど療子と会った。

 

「おはようございます、刹那ちゃん」

 

 療子は、丁寧に挨拶をしてくる。

 社会科見学の帰りに療子が(ヴィラン)に攫われたので、念には念を入れて療子を屋敷に泊めていたのだ。

 

「おはよう。療子、もう大丈夫なのか?」

 

「はい…ご迷惑をおかけしました」

 

「もし途中でつらくなったら、家まで送るよう山根に伝えておく」

 

「……ありがとうございます」

 

 療子は、ペコっと頭を下げてリムジンの後部座席に乗った。

 聞いた話によれば、療子は(ヴィラン)に理不尽に暴力を振るわれ、制服を脱がされ、下着越しに胸や性器を触られたそうだ。

 ()()()()()には至らなかったそうだが…傷つけられ辱めを受けた事には変わりない。

 

 療子を傷つけた奴等を今すぐにでも死刑にしてやりたいところだが…奴等に然るべき罰を与えるのは、警察や裁判官の仕事だ。

 

 この2日間、私は療子のメンタルケアに努めた。

 新井の料理や当家自慢の温泉を用意し、カウンセリングを受けさせた。

 雄英の先生方も、療子の為に出来る限りの事をしてくれた。

 その甲斐あってか、療子の顔色はだいぶ良くなった。

 私の隣に座った療子は、私に寄りかかってきた。

 

「…療子?」

 

「刹那ちゃん…お願い、今だけぎゅっとさせて」

 

 か細い声で言いながら抱きついて胸の谷間に顔を埋めてくる療子の背中を、私は優しく摩った。

 そのまま抱き寄せると、シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐる。

 嗅ぎ慣れた匂いに、こっちまで心が安らいでくる。

 すると療子は、私の膝の上でモゾモゾと動き、上目遣いで私を見つめてくる。

 

「刹那ちゃん、血…吸ってもらってもいいですか」

 

「…ああ」

 

 療子がごろんと横になったので、私は療子の耳の後ろに噛みついて血を啜った。

 彼女の為に食事や温泉を用意したが、血を吸われるのが一番落ち着くそうだ。

 私には吸血趣味はないが、それで療子が楽になるのなら、友達としてできる事をしてやるまでだ。

 しかし、何故だろうか。

 療子の耳朶の柔らかさが、口の中に流れる血の温もりが、なんだか儚くて、それがすごく心地良い。

 

 私達が登校すると、C組の教室に入った瞬間に複原君が駆けつけてくる。

 

「癒治さん、もう大丈夫なの?」

 

 複原君は、社会科見学中に攫われた療子を心配していた。

 療子は、複原君に心配されて恥ずかしそうに頬を赤らめつつ、ペコっと頭を下げた。

 

「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 

「そっか…良かった」

 

 そう言って療子は、自分の席に座った。

 思ったより顔色のいい療子を見て安心したのか、複原君は安堵のため息をついて自分の席に戻った。

 私も席に戻り、本を読んで過ごしていると、クラスメイトが次々と教室に入ってくる。

 皆最初は攫われた療子に気を遣って社会科見学の話題はしないようにしていたが、療子が元気な姿を見せると、皆は社会科見学の話をし始めた。

 

「ジキはどうだった?」

 

「楽しかったよー!ちょっとだけ仕事体験できたし!」

 

「いいなー」

 

 クラスのムードメーカーの完膳君が答えると、斥口君が羨ましがる。

 そういえば完膳君は、叔父であるランチラッシュ先生の食堂でアルバイトをしているのだったな。

 今回の社会科見学も、その延長のような感じだったのだろうか。

 

「委員長は?」

 

「ヒーロー公安委員会や、各省庁を見て回ったよ。有意義な時間だった…と言いたいところだが、正直叔父の絡みが鬱陶しかった」

 

「あれ?刹那ちゃんの叔父さんって官僚でしたっけ」

 

「いいや、ヒーロー公安委員会の幹部だ。そういえば言ってなかったかな」

 

「え、すごい!超エリートじゃん!」

 

「なあ俺の行ったとこどうだったと思う!?」

 

「やべ俺レポート忘れた」

 

 私達は、社会科見学の話で盛り上がった。

 するとその時、心操君が教室に入ってくる。

 

「おはよう…」

 

「ウワァ人使っちどーした!?車にでも轢かれたか!?」

 

「いや…これは朝練で…」

 

 心操君が全身に包帯や絆創膏を貼った状態で登校すると、芸民具君が驚くので、心操君は気まずそうに苦笑いを浮かべながら説明した。

 そういえば心操君は、相澤先生に稽古をつけてもらっていたのだったな…

 

「心操さ…相澤先生に指導してもらってたんだよね?」

 

「のほほ…スパルタだねぇ。って、僕も他人事じゃないんだけどさぁ」

 

「あーそっか、暗土は相棒(サイドキック)狙いだったね」

 

 ボロボロの心操君を見て顔を引き攣らせる暗土君は、ヒーローのサイドキック狙いだ。

 ヒーローになるにはヒーロー免許さえ取れればいいので、必ずしもヒーロー科の学校を卒業する必要はない。

 “個性”が限定的な場面でしか使えないような者は、ヒーロー事務所に事務員として就職し、そこからサイドキック入りを目指すのがセオリーだ。

 

 私達が雑談をしていると、予鈴と共に13号先生が教室に入ってくる。

 朝のホームルームで社会科見学のレポートを提出し、事務連絡を受けた。

 昨日のヒーロー殺しや脳無の騒動と、療子が攫われた件を受けてか、私達は先生からできるだけ一人で帰宅しないよう注意された。

 

「中間テストまで残り10日となりました。皆さん社会科見学でお疲れかとは思いますが、予習復習をお忘れなく!それでは、今日のホームルームはここまで」

 

 そう締め括って13号先生は教室を後にした。

 

「そっかもうすぐ中間テストか」

 

「やばい全然ついていけてない」

 

「ならこの週末にでも勉強会をしようか?わからないところがあれば教えてやる」

 

「まじかっ!?委員長あんたマジ神だぜ!」

 

「ウチら委員長に何か返せてるかなぁ…」

 

 ホームルームの後、私は中間テスト対策の為に屋敷で勉強会をする約束を交わした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あっという間に授業時間が過ぎ、気がつけば放課後になっていた。

 委員の仕事を済ませ帰り支度をしていると、療子が話しかけてくる。

 

「刹那ちゃん、一緒に帰りませんか?」

 

「ああ、すまない。今日は外せない用事があってな…悪いが他の誰かと帰ってくれるか?」

 

「あ…はい」

 

 私が断ると、療子はしょんぼりとした表情で去っていく。

 療子には申し訳ないが、私も暇ではない。

 いつまでも療子にばかり構ってはいられない。

 

 山根に雄英のヘリポートまで迎えに来てもらい、ヘリで目的地へ向かった。

 ヘリに揺られる事30分弱、私が向かったのは保須市の拘置所だ。

 拘置所に足を踏み入れた私は、面会窓口で面会手続きを済ませ、電子機器を山根に預けてから面会室に入った。

 面会室で待っていると、アクリル板の向こうでは、ステイン…本名赤黒血染が入室した。

 赤黒は、両手首を拘束具で拘束された状態でパイプ椅子に座った。

 鼻は削ぎ落とされ、髪を無造作に伸ばした姿は、どこか不気味に見える。

 

「気分はどうだ」

 

 私は、アクリル板の向こうで項垂れている赤黒に尋ねる。

 すると赤黒は、ため息をつきながら地を這うような声で私に尋ねる。

 

「ハァ……そんな事を聞きにわざわざ出向いてきたのか」

 

 質問に質問で返されるのは癪だが、その酷い面が答えだという事にしておこう。

 私は、舌打ちしたいのを堪えて冷静に話を進めた。

 私は感情的な話をしに来たのではない。

 

 私が赤黒の面会を希望したのは、私の家族の命を奪った奴の情報を手に入れる為だ。

 実行犯が殺された今、黒幕の正体を知り得るのは、実行犯を殺した赤黒しかいない。

 こいつの事は嫌いだが、もし聞き方を誤れば、犯人の情報は一生手に入らない。

 

「お前が殺した(ヴィラン)について…聞きたい事がある。私の質問に嘘偽りなく答えろ」

 

 私は、赤黒の反応を見つつ、頭の中で慎重に質問を選んだ。

 あらかじめ印刷しておいた犯人の似顔絵を鞄から取り出し、アクリル板越しに赤黒に見せる。

 

「この男を殺したのは、お前だな?」

 

「ああ…そいつは確かに俺が殺した」

 

「それは…この男が私の家族を殺した犯人だと知っていて犯行に及んだ、という認識でよろしいか?」

 

「……そうだ」

 

 私の質問に、赤黒は何の躊躇いもなく答える。

 脈拍・呼吸・視線・発汗…どれも正常の範囲内だ。

 今のところ、奴の言葉に嘘偽りはないとみていいだろう。

 私はさらに、踏み込んで質問をする事にした。

 

「何故殺した」

 

 私がそう尋ねると、赤黒の目つきが鋭くなる。

 奴の仕草のひとつひとつを注意深く観察していると、奴は口を開いて話し始める。

 

「ハァ…お前の父は…偉大だった。オールマイトを除いてただ一人、本物の英雄と呼べる男だった。そいつは、お前の父を…社会の希望を奪った。死んで当然の屑だ。だから粛清してやったんだよ」

 

 赤黒は、全く悪びれる事なくそう言った。

 呆れて言葉も出てこなかった。

 奴の信念とやらがただのファッションだったら、どんなに良かった事か。

 これは、自分の行いが正しいと本気で信じ込んでいる思想犯の目だ。

 どこまでも救いようのない奴だと分かると、却って冷静になってくるものだ。

 

「そいつは、死の間際に何か言っていなかったか?覚えている範囲でいい。答えろ」

 

「口を開けば、聞くに耐えない命乞いばかりほざいていた…金に目が眩んだだの、こんなつもりじゃなかっただの、見苦しい言い訳ばかりしたから殺してやった」

 

「お前の主観を訊いているのではない。私は客観的な事実を訊いているのだ」

 

 (ヴィラン)への憎しみがこもった目で語る赤黒に対し、私は淡々と状況説明を求めた。

 私は奴の感想が聞きたいのではなく、事実が聞きたいのだ。

 …まあ、そうでなくともこいつの感情論になど、耳を貸したくもないがな。

 

「……そういえば…一人、妙な事を言った奴がいたな」

 

「妙な事?」

 

「俺がお前の父を殺した屑を追い詰めた時、違和感があったんだ…()()偉大な男を殺したにしては、弱すぎる。大した信念も能力もない雑魚に、お前の父を殺れるとは思えなかった。だから……ハァ…どうやって殺したのか問い詰めた。そうしたら、あっさり白状したよ…『あの力は()()()()()()()()』…とな」

 

「……!!」

 

 『あのお方に貰った』…だと…?

 黒幕は、他人に“個性”を与えたり奪い取ったりする事ができる“個性”だというのか…

 そんな芸当ができる人間を、私は一人だけ知っている。

 

 オール・フォー・ワン…

 超常黎明期に暗躍し、数年前オールマイトに重傷を負わせた(ヴィラン)だ。

 私の父も、奴の悪事を止める為にオールマイトと協力し、奴に対抗する為の勢力を掻き集めていたそうだ。

 

 私は殺人鬼の言葉など信じない。

 だが、もしこいつの言っている事が本当だとして、私の両親を殺した(ヴィラン)を影で操っていたのがオール・フォー・ワンだとすれば…

 チンピラ如きに父が殺されたのも、私達がいくら追っても尻尾を掴む事ができなかったのも、全て辻褄が合う。

 奴にとって父がオールマイトにも匹敵する脅威であった事と、時を操れる私の“個性”を考えれば、チンピラを使って屋敷を襲撃するのには充分すぎる動機だ。

 

「……話はよくわかった。今後の捜査の参考にさせてもらうよ」

 

 私は赤黒の話を全て記憶し、一旦話を終えると、職員の女性が声をかけてくる。

 

「時間です。そろそろ…」

 

「ええ。もう充分です。本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます」

 

 職員の女性に対してにこやかに微笑みながら礼を言うと、彼女ははにかみながらドアを開けてくれた。

 私がそのまま席を立って面会室を去ろうとすると、赤黒が口を開いた。

 

「……ひとつ聞きたい。お前は……ハァ…何故今になって親の仇を追う?復讐でもするつもりか」

 

 赤黒は、私に鋭い目を向けながら尋ねる。

 何故…か。 

 この質問は、私の事を試している…という事なのだろうな。

 この状況でも、あくまで主導権を握るつもりでいるのか。

 殺人鬼というだけあって、面の皮の厚さはもはや賞賛に値する。

 

「貴様に教える事など、何もない。だが強いて言うなら、理想の為だ」

 

 私は、両親と弟を殺した奴を見つけ出して、復讐を果たすと決めた。

 だけどそれは、何も私自身の為だけじゃない。

 

 私が復讐をするのは、理想の為だ。

 あの日私は、瀕死の重傷を負い、大切なものを失い、絶望のどん底に立たされた。

 それでも今日まで生き延びてこられたのは、自ら死を選んだら負けだと思ったからだ。

 

 私は、何に代えてでも、『誰もがヒーローになれる世界を創る』という父の理想を必ず果たす。

 だが私の家族を殺した黒幕がいる限り、それが叶う事はない。

 純粋にヒーローに憧れる子供が、愛する者を奪われる恐怖に怯え、絶望で目が濁る事など、あってはならないのだ。

 私の理想を阻むなら、有望な若者の未来が奪われる前に、徹底的に排除するまでだ。

 そうと決まれば、もう躊躇う事はない。

 私はただ、望む未来へ一直線に突き進むだけだ。

 

「私は、誰もが誰かのヒーローになれる世界を創る。それを邪魔する奴は、誰であろうと許さない」

 

 私が答えると、赤黒は僅かに目を見開き、そしてすぐに目を細めた。

 奴は、私の理想が合格だとも不合格だとも言わなかった。

 私は別に、奴の選別になど興味はない。

 私の中では、奴の思想は不合格なのだから。

 

「ありがとう赤黒。おかげでわかった事がある。私が貴様と交わる事はない。暴力を振りかざすしか能がないなら、せいぜい幻想の世界で一生自分に酔ってろ」

 

 私は赤黒に捨て台詞を吐いてから、拘置所を後にした。

 奴は、ヒーローを殺し、『誰もが誰かのヒーローになれる』という父の理想を完全否定したのだ。

 私が奴を受け入れる時など、一生来ない。

 人として生きる事ができないのなら、せいぜい獣として生きて死ねばいい。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お疲れ様です、お嬢様」

 

「ありがとう小雪」

 

 赤黒との面会が終わった後、メイドの小雪が帰りのヘリの中でコーヒーを淹れてくれた。

 今日のコーヒーは、ジャマイカ産のブルーマウンテンだ。

 客人が来る時はカペ・アラミドやブラック・アイボリーを振る舞ったりするのだが、自分ひとりで飲む時はわざわざそんな超高級コーヒーを毎回飲むものでもないので、大体1杯1000円〜2000円くらいの価格帯のものからその日の気分で選んで飲む事が多い。

 

「…嬉しくはないのですか?お嬢様がずっと追っていたヒーロー殺しが捕まったというのに…」

 

「どうだろうね…正直、わからないんだ」

 

 私が今日聞いた話をメモしていると、小雪が尋ねるので、私はコーヒーを飲みながら答える。

 私は、両親の仇を殺した赤黒を軽蔑していた。

 だが赤黒から情報を聞き出した今、奴をどう思っているのか、自分でもわからない。

 

 それよりも今考えるべき事は、これからどうするのかだ。

 殺人鬼の証言を鵜呑みにするつもりはないが、奴の証言は頭の片隅に置いておく価値はある。

 もし私の両親と弟を殺した犯人をオール・フォー・ワンが操っていたとしたら、尚の事早急に捕えなくてはならない。

 

「…とりあえず、この事をオールマイトと塚内さん、それから叔父上に報告するか…」

 

 オールマイトや塚内さんにこの事を話せば、間違いなく捜査に協力してくれるだろうし、私の頼みならば叔父も動いてくれるだろう。

 …正直、あの鬱陶しい男に頼むのは気が進まないが。

 あとは、近いうちにサー・ナイトアイにも会っておきたい。

 彼の『予知』の“個性”があれば、より具体的に今後の方針を決める事ができる。

 彼はワン・フォー・オールの事を知っているし、協力してくれるなら非常に心強い。

 オール・フォー・ワンを倒すなら、ワン・フォー・オールの力が必要不可欠だ。

 …何にせよ、一度きちんと時間を設けてオールマイトと話をするべきだな。

 

 面会の内容を記録し終え、スマホでニュースをチェックする。

 するとだ。

 

「ぶっ」

 

 目に飛び込んできた投稿に、決して安くはないコーヒーを思わず吹きこぼした。

 プロヒーローの“ウワバミ”と、彼女のもとで職場体験をしている百と拳藤君の姿が、ネットニュースに載っていたのだ。

 

「お嬢様、大丈夫ですか!?」

 

「…すまん、こぼした」

 

 小雪が急いでハンカチで顔を拭いてくれて、幸い服やシートにシミを残さずに済んだ。

 拳藤君はともかく、何だ百のあのコスチュームは!?

 どう見ても露出狂じゃないか!!

 

 百は“個性”の都合上、服が邪魔になる*1

 だが、それは大衆の面前で露出していい理由にはならん。

 服が邪魔になるというのであれば、創造物を捻出する際に邪魔にならないケープかポンチョのようなデザインにするとか、いつでも肌を露出できるようにジッパーをつけるとか、いくらでも工夫ができる。

 つまり“個性”を理由に痴女装備にする必要性は全くなく、あのデザインはコスチュームを制作したサポート会社の人間の趣味としか考えられん。

 百は昔から押されると丸め込まれてしまうところがあるから、サポート会社に言いくるめられてデザインの変更を希望できなかったのかもしれん。

 そういう事なら、私からサポート会社に強く言っておこう。

 

 私はヘリを降りてすぐに百のコスチュームを製作したサポート会社に連絡し、彼女のコスチュームのデザインを担当したデザイナーに繋いでもらった。

 

「八百万百のコスチュームのデザインを担当したデザイナーは貴方ですか?あのような過激なデザインは、公序良俗に反する虞があるので、今すぐにデザインの変更をして頂きたい。…何?本人の要望だと?ふざけるな!もう少しマシな嘘をつけ!」

 

 私は、担当デザイナーに連絡し、百のコスチュームのデザインの変更を要望した。

 だが担当デザイナーは、『本人の要望』だの『これでも露出を抑えた方』だの言い訳をしてきたものだから、流石に怒りが堪え切れなくなって、声を張り上げて怒鳴りつけた。

 由緒正しき八百万家の令嬢が自ら破廉恥なコスチュームを希望するはずがないというのに、よくもまあすぐばれる嘘をいけしゃあしゃあとつけるものだ。

 デザイナーはあくまでも百の要望だと言い張り、本人に確認しろとまで言ってきたので、念の為百の携帯に電話した。

 

「ああ、百か?ついさっき、ネットニュースを見たところなんだが…実は今、君のコスチュームのデザインについて、担当デザイナーに問い合わせをしていてな。担当デザイナーが本人に確認しろと言うから、一応電話したんだ。……えっ?本当に君の要望だったのか?」

 

 聞いてみれば、本当に百の要望だったようだ。

 さらには、百が希望したコスチュームは、さらに露出の多いものだったらしい。

 …だったら私は、百の希望に添いつつ最大限の配慮をしてくれたデザイナーに無礼な態度を取った悪質なクレーマーという事にならないか!?

 思えば、本人に確認を取らずにいきなり怒鳴りつけるなど、私としたした事が、人としてあるまじき事をしたものだ。

 おそらく百が真剣に考えたであろうコスチュームのデザインを、『破廉恥』だの『露出狂』だの酷評した事が恥ずかしい。

 私はデザイナーにすぐに電話をかけ、ひたすら平謝りした。

 幸い、デザイナーが寛大な方で、私が誠心誠意謝罪したらすぐに許してくれた。

 

 ちなみに百が希望していたコスチュームの原案を見せてもらったのだが、ほぼ紐と呼んで差し支えない布面積のスリングショット型のレオタードに、分厚いベルトとピンヒールのパンプスを付け加えただけという。

 事実確認もせずにいきなりクレームを入れた私が言うのもアレだが、名家の令嬢として、最低限の恥じらいは持とう?

 

 さらに言うと、彼女のクラスメイトの葉隠君は、透明人間の特性を活かす為にコスチュームは手袋とブーツだけだという。

 ミッドナイト先生も学生時代は際どいコスチュームだったらしいし*2、ヒーロー科に行く奴はどいつもこいつもイカレているのか?

 ……とりあえず、葉隠君には今日中に光学迷彩に特化したウチのサポート会社を紹介しよう。

 サポート会社に髪や爪を持っていけば本人の体質を反映したコスチュームが作れるし、きっと彼女に合ったコスチュームを作ってくれるだろう。

 

 それにしても、自分の考えたコスチュームをサポート会社が作ってくれるというのは、やはり夢があるな。

 純粋にヒーローに憧れていた子供時代は、コスチュームを自分でデザインし、ヒーローネームや必殺技の案をいくつも考えて、将来ヒーローになる夢をいつも思い描いていたものだ。

 その時考えたコスチュームのデザインの出来が良かったらしくて、母が私の為にオーダーメイドのコスチュームを特注してくれたのが懐かしい。

 …結局、一度も着る機会はなかったがな。

 

 

 

 帰宅後、私は塚内さんに連絡をした。

 私が赤黒から聞き出した情報を、主観を交えずに事細かに説明した。

 

『ヒーロー殺しがそんな事を…』

 

「あくまで、『その可能性がある』というだけの話です。ですがもし、駒を使って私の家族を殺したのがオール・フォー・ワンだとするなら、今までに私の命を狙ってきた暗殺者の中に、奴の息のかかった刺客がいる可能性も否定できません。現在収監中の刺客から、出来るだけ詳しく情報を吐かせていただけると有り難いです」

 

 私は、今までに捕えた刺客からも情報を入手するよう塚内さんに伝えておいた。

 私は幼少の頃から、毎日のように暗殺者に狙われてきた。

 幸い、我が社の誇る世界最高レベルのセキュリティシステムと頼れる私兵達のお陰で、私はそういう輩に殺されずに済んでいる。

 だがもし、その刺客達を操る黒幕がいるのだとしたら、そいつを潰さなければ、いくら目の前の敵だけを潰したところでキリがない。

 今までに私の命を狙った刺客の中に、オール・フォー・ワンの駒がいる可能性も否定できん。

 今は少しでも多くの情報が欲しい。

 私は多忙で時間が取れないから、刺客から地道に情報を聞き出すのは警察に任せるしかない。

 

『捜査にご協力いただき、ありがとうございます。引き続き、犯人逮捕に尽力して参ります』

 

「ありがとうございます。何か進展があれば、どんな事でも構いませんのでご連絡ください」

 

 私が情報提供をすると、塚内さんが礼を言った。

 私とて、自分で捜査できないからと言って、何もかもを警察に丸投げしているわけではない。

 私は優秀な情報屋や探偵を抱えているし、我が社は“個性”を使えない警察の為にサポートアイテムを提供している。

 “個性”因子や筋肉を麻痺させるプロテクターや、“個性”因子のみを溶かす非殺傷性のレーザーガン、ミクロサイズの全自動追尾式ドローンなんかは、我が社の発明品だ。

 我が社が提供するサポートアイテムのおかげで、近年での犯罪検挙率は飛躍的に上がった。

 情報やサポートアイテムの提供の見返りとして、警察は私が個人的に持ち込んだ事件や捜査依頼に応じてくれているのだ。

 家族を殺した犯人に復讐を果たす為にも、最大限警察のサポートに努めなければな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ヒーロー科の職場体験が終了し、通常の授業が再開した。

 ちなみにあの後葉隠君は、私の紹介したサポート会社に透明なヒーロースーツを作ってもらい、全裸でヒーロー活動をするのは免れたそうだ。

 今私と緑谷君は、オールマイトに呼び出されて仮眠室にいる。

 

「どうぞ、ウチのドクターからの差し入れです」

 

「ああ…ありがとう」

 

 私は、鞄からスープジャーを取り出し、オールマイトに差し出した。

 医与特製、鶏ガラベースの薬膳スープだ。

 余談だが、医与は“個性”を使ってオールマイトの治療を計画的に進めており、この差し入れも治療の一環だ。

 不運にも、医与が免許を取得したのがオールマイトの傷が癒えてきた頃だったので、彼女の“個性”ではオールマイトを完治させる事はできなかったが、医与のおかげでオールマイトはだいぶ回復している。

 

「緑谷君はグラントリノのもとへ職場体験に行ったのだな。あの後、『ワン・フォー・オール』は使いこなせるようになったか?」

 

「いえ、まだ全然…30%の出力を瞬間的に出すのがやっとです」

 

「そうか………まあ…進展があったのなら良かった」

 

 全盛期のオール・フォー・ワンの所業を考えると、今の段階で30%前後しか『ワン・フォー・オール』を使えていないというのは、正直言って戦力と呼び難い。

 ただしこれは別に緑谷君に限った話ではなく、雄英ではビッグ3でギリギリ戦力になるかどうかだ。

 それこそ、世界中のNo.1ヒーローをかき集めた総力戦。

 私が想定しているのは、()()()()()()()だ。

 

 せめて現段階で50…いや、40%の出力を維持できれば話は楽だったんだが…まあ、ヒーローの卵といえど1年生にそこまで求めるのも酷な話か。

 2週間前までは“個性”を使う度に腕を壊していた事を考えれば、そこから30%の出力を一瞬とはいえ出せるようになったのは、グラントリノの指導の賜物と言えよう。

 そう考えていると、オールマイトが、私の取り寄せた黒豆茶を淹れて緑谷君に差し出してから、徐に口を開く。

 

「それじゃあ、本題に入ろう。今日は君達…特に緑谷少年に、『ワン・フォー・オール』の成り立ちを話しておこうと思ってね。『ワン・フォー・オール』は、元々()()()()()()()”から派生したものだ」

 

 オールマイトは、一旦言葉を切り、静かに息を吐いてから顔を上げて話を続けた。

 

「『オール・フォー・ワン』。他者から“個性”を『奪い』己がものとし…そしてそれを他者に『与える』事の出来る“個性”だ」

 

 そう言って、オールマイトは超常社会の歴史を語り始めた。

 時は超常黎明期、社会がまだ超常に対応しきれていなかった頃。

 “人間”という規格は一気に崩れ去り、法は意味を失い、文明は歩みを止め、社会は荒廃した。

 そんな混沌の時代に、いち早く人々を纏め上げた人物が()()いた。

 

 一人は、六徳家の74代目当主…私の5代前のご先祖様だ。

 彼は、超常による社会の混乱をものともせず変化に適合し、圧倒的なカリスマをもって異能を持って生まれた人々を纏め上げた。

 超常の発生によって世界中の富豪が大打撃を受けた中、唯一彼だけは右肩上がりの成長を遂げ、経済界の事実上の支配者に成り上がった。

 

 そしてもう一人が、『オール・フォー・ワン』だ。

 奴は人々から“個性”を奪い、圧倒的な力で勢力を拡げ、瞬く間に“悪”の支配者として日本に君臨した。

 

「…その話が、ワン・フォー・オールにどう繋がってくるんですか?」

 

「『オール・フォー・ワン』は『与える』“個性”でもあると言ったろ。彼は与える事で信頼…あるいは屈服させていったんだ。ただ…与えられた人の中にはその負荷に耐えられず、物言わぬ人形のようになってしまう者も多かったそうだ。ちょうど脳無のように………ね」

 

 脳無…

 USJや保須に現れたという、複数の“個性”を持つ化け物か。

 

「一方…与えられた事で“個性”が変異し、混ざり合うというケースもあったそうだ。彼には“無個性”の弟がいた。弟は身体も小さくひ弱だったが、正義感の強い男だった…!兄の所業に心を痛め…抗い続ける男だった。そんな弟に彼は、『力をストックする』という“個性”を無理やり与えた。それが優しさ故か、はたまた屈服させる為かは、今となってはわからない」

 

「まさか…」

 

「うん…“無個性”だと思われていた彼にも、一応は宿っていたのさ。自身も周りも気付きようのない…“個性”を『与える』だけという、意味のない“個性”が!!」

 

 オールマイトは、両手を広げながら言った。

 

「力をストックする“個性”と、与える“個性”が混ざり合った!これが『ワン・フォー・オール』のオリジンさ」

 

 正義はいつだって、悪より生まれ出ずる。

 何とも皮肉な話だ。

 

 当時の当主は、オール・フォー・ワンとバチバチにやり合っていて、奴の悪行を止めるという共通の目的の為に奴の弟に力を貸したが、結果として彼等は負けた。

 そして皮肉な事に、彼等が負ける原因を作ったのが、当時の当主の息子だった。

 

 当時の当主には、子供が二人いた。

 世界を揺るがす程の強力な“個性”を持ち非の打ち所がない優秀な兄と、内気でおとなしい“無個性”の妹がいたが、どういうわけか当時の当主が家督を譲ったのは妹の方だった。

 妹に家督を奪われた腹いせに、兄はオール・フォー・ワンと手を組み、実の父親と妹を、そして初代ワン・フォー・オールの仲間を手にかけたのだ。

 オール・フォー・ワンと奴の率いる悪党どもに敗れた初代ワン・フォー・オールは、後世に託す事にした。

 

 本家を裏切った74代目当主の長男は、75代目当主の子供達とその部下によって討ち取られ、オールマイトの代でついにオール・フォー・ワンをも討ち取ったかに思われたが、奴は生き延び、(ヴィラン)連合のブレーンとして動き出しているという。

 

 ちなみに何故私がこの話を知っているかというと、かつて巨悪と対峙し時代を切り拓いた偉人の末裔であると同時に、『ワン・フォー・オール』9代目継承者の候補の一人でもあったからだ。

 …尤も、私はヒーローになる気はないので、即刻拒否したが。

 

「『ワン・フォー・オール』は、いわば『オール・フォー・ワン』を倒す為、受け継がれた力!君達はいつか奴と…巨悪と対決しなければならない…かもしれん。酷な話になるが…」

 

「頑張ります…!!」

 

 オールマイトが言うと、緑谷君は食い気味に答えた。

 

「オールマイトの頼み…何が何でも応えます!あなたがいてくれれば、僕は何でもできる…できそうな感じですから!!」

 

 緑谷君がそう宣言すると、オールマイトは僅かに目を見開き、そして片手で目元を拭った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

オールマイトside

 

 緑谷少年は、私がいれば何でもできると言ってくれた。

 

 言うんだ、オールマイトよ。

 言わねば…!!

 

 違うんだよ、緑谷少年。

 私は……多分…その頃にはもう、君のそばにいられないんだよ。

 

 

 

「…言われなくとも、そのつもりです。たとえ私達の世代では無理だったとしても…何十年、何百年かかっても、あなたが要らないくらいに生きやすい世界にしてみせます」

 

 六徳少女は、強い意志が宿った目を私に向けながら宣言した。

 

「ですから…あまりでしゃばらないで下さいね。正直熱苦しいです」

 

 そう言って六徳少女は、静かに息を吐いた。

 彼女は、私の言葉の真意を汲み取ってくれたばかりか、私がいなくても平和を守ってみせると誓ってくれた。

 

「…ああ。ありがとう」

 

 私は、緑谷少年と六徳少女に礼を言った。

 『あまりでしゃばるな』…か。

 活動限界が縮まってしまった今、とても耳の痛い忠告だ。

 

 いつか緑谷少年が巨悪と対峙する時、私はもう彼の側にいてやる事はできないだろう。

 だがそれまでは、一秒でも長く彼の側にいてやれるよう、何が何でも生きねば。

 

 

 

 

 

*1
『創造』の“個性”は創った物体を生み出す箇所を選べないため

*2
コートの下の装備は胸当て代わりのポーチと分厚めのベルトだけという痴女装備だったため、次の年から“コスチュームの露出における規定法案”が制定されたという。正気か?




お馴染みキャラ紹介です。
ご応募いただいたキャラクターの一部設定を変えました。ご了承下さい。

74代目当主
刹那の高曽祖父。
超常黎明期に“無個性”でありながらいち早く人々を纏め上げ、経済界の事実上のトップオブトップに君臨していたが、実の息子から逆恨みを買い、娘諸共殺害された。

74代目当主の長男
強力な“個性”を持ち、非の打ち所がないと称される程優秀な人物だったが、父親が妹に当主の座を譲った腹いせに、オール・フォー・ワンと手を組んで実の父と妹を殺害した。
後に、妹の沙羅の息子によって討ち取られている。

六徳(りっとく)沙羅(さら)
75代目当主。刹那の高祖母。
超常黎明期に“無個性”でありながら当主として人々を纏め上げ、初代ワン・フォー・オールの手助けをしていたが、実の兄の逆恨みによって殺害された。


芸民具(げいみんぐ)(あきら)
クラスのムードメーカー的存在の男子生徒。ヒーローになるつもりはないが、純粋にヒーローに憧れている心操を尊敬している。
唐野葉子様にご応募いただいたキャラクターです。
“個性”:『ゲーミングレーザー』
目から1680万色のレーザービームを発し、レーザーの光を見た人間の意識を仮想空間に引き込む事ができる。
意識を仮想空間に取り込まれた相手は、眠ったまま身体だけ操り人形のようになる。
オンオフの切り替えはできず、常時レーザーを発しているため、普段は特殊なサングラスをかけて生活している。

暗土(くらつち)(もぐ)
おっとりしていてマイペースな男子生徒。“個性”を活かす為に、森林を活動拠点とするヒーローのサイドキックを目指している。
ムッシー様にご応募いただいたキャラクターです。
“個性”:『モグラ』
モグラっぽい事をモグラ以上にできる。

完膳(かんぜん)(じき)
明るく元気溌剌な女子生徒。ランチラッシュの姪で、食堂でアルバイトをしている。
kinono様にご応募いただいたキャラクターです。
“個性”:『完全食』
食べ物の栄養価を操作できる。
ただし栄養価の総合値は変わらない。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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