私の世直しアカデミア   作:M.T.

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今回から、原作の流れと大幅にストーリーが変わります。
そのため、構成を練るのに時間がかかりました。
面白いと思っていただけましたら感想・お気に入り・評価等よろしくお願いします。


【第一部】第五章 死穢八斎會編
第20話 授業参観は正直苦手なイベントです


 2泊3日の合宿を終えたある日の事。

 

「お嬢様、大変よくお似合いですよ!」

 

「…ああ、ありがとう」

 

 私が雄英の夏服を着ると、小雪が興奮気味に褒めちぎってきた。

 緑のエポレットに金のボタンが二つついた半袖シャツに袖を通し、緑のスカートを穿いた自分の姿が姿見に映る。

 パンストだと暑いのでストッキングを履き、涼しく見えるように髪は頭の後ろで緩めの編み込みシニヨンにしてみた。

 雄英は、今日から夏服だ。

 

 女子の夏服には一応ベストがあるが、雄英のホームページを見る限り、着ている生徒は例年あまり見ない。

 だから初日はベストを着ていかなかったわけだが…

 シャツを着てみると胸のあたりが少しきつく、冬服の時よりも身体のラインがわかりやすくなったような気がする。

 そのせいか校舎に着いた途端周りからチラチラと視線を浴びる事になったし、途中すれ違った峰田君からは何か知らんが崇拝された。

 ……やっぱり明日からベストを着よう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「再来週に授業参観があります」

 

 ホームルームで13号先生から告げられたのは、授業参観のお知らせだった。

 雄英には、学期ごとに1回ずつ、学年全体での授業参観がある。

 私達普通科はともかく、他の科でもきちんとご家族に授業風景を見てもらう機会は設けているらしい。

 …正直、ヒーロー科の授業風景なんか見せたら、卒倒する親が出てこないか心配ではあるが。

 

「当日の授業内容ですが、ご家族の方への日頃の感謝を伝える為、作文を発表していただきます。今から配るプリントは、必ずご家族の方に渡して下さい」

 

 そう言って先生は、プリントを渡してきた。

 

「授業参観か…」

 

 

 

 ――六徳さん、母の日なのにお手伝いさんの絵描いてるの?変なの。

 

 ――コラ!!⬛︎⬛︎くん!!そういう事言っちゃダメっていつも言ってるでしょ!!

 

 ――刹那ちゃんは、お父さんとお母さんが死んじゃって“かわいそう”なんだよ!

 

 

 

 授業参観というワードに、小学生の頃の苦い記憶が蘇る。

 私は、正直言って授業参観というイベントが苦手だ。

 私は4歳の頃に親と弟を亡くしているし、そもそも家庭環境が特殊だったし、授業参観の度にクラスメイトと自分を比べて『普通』じゃないのを実感する羽目になるのが地味に嫌だった。

 

 小2の頃の授業参観で、母の日に日頃の感謝を込めて母親の絵を描く授業があった。

 私も最初は母の絵を描こうとしたのだが、授業参観に来てくれた山根に日頃の感謝を伝えたくて、結局山根の絵を描いた。

 そしたら『母の日なのにお手伝いさんの絵を描くなんて変』だと隣の席の男子に突っ込まれて、するとその男子が担任や他のクラスメイトから執拗なまでに非難されて泣き出してしまい、なんとも言えない空気で終わった、という事があった。

 

 両親を亡くした相手に対し無神経な発言をした男子も男子だが、それを必要以上に責める周りも周りだ。

 よってたかっていじった奴を責めれば、いじられた側の傷口が拡がるという事くらい、少し考えればわかる事だと思うんだがな。

 おまけに、男子を責めて泣かせた周りのせいで、私がその男子を泣かせたみたいな構図になって胸糞悪かった。

 あれ以来、私は授業参観というイベントを憂鬱に感じるようになった。

 私が過去を思い出してうんざりしていると、療子が口を開いた。

 

「私、正直何書いたらいいのかわからないです」

 

「療子のご両親は来られないのか?」

 

「難しいと思います…」

 

 私が尋ねると、療子は残念そうに俯きながら言った。

 彼女の両親は、海外に出張中だ。

 仕事の都合で国外にいる以上、娘の授業参観の為に帰国するのは難しいのだろう。

 療子の話を聞く限り、そもそも彼女の両親は、海外出張を口実に療子を捨てたと解釈できる程に、療子に関心がない…というよりは、療子を娘として見ていない。

 彼女の両親にも事情があったのだろうし、他所の教育方針に口出しをするつもりはないが、最後まで娘の面倒を見れずに日本に置き去りにした奴等には、親の資格があるとは思えない。

 

「刹那ちゃんは、やっぱり山根さんですか?」

 

「多分ね」

 

 私がプリントを見せれば、ほぼ間違いなく山根は来てくれるだろう。

 別に他の使用人でも構わないし、何なら無理に来なくても良いのだが、一応便宜上は私の保護者である自分が授業参観に行くべきだという、山根なりの気遣いだ。

 毎回参観の顔ぶれがコロコロ変わったり逆に誰も来なかったりで、悪い意味で注目を浴びるのも面倒なので、何気にその気遣いが有り難い。

 そんな事を考えていると、療子が話しかけてくる。

 

「…あの、刹那ちゃんのご両親ってどんな方だったんですか?」

 

「そうだね…一言で言うと、『変人』……だったかな」

 

「へ、変人?」

 

「特に父は精神年齢が些か幼くてな…いい歳して明け方に半裸で屋根に登って奇声を上げたり、屋敷中のアラーム全てをX J◯PANの『紅』に変えるイタズラをしたりしていた。母は、何というか…学者気質でね。誰も答えのわからない事を、真剣に考えている人だった。変わり者同士、気が合ったんだろうね…父の奇行を面白そうに笑って見ていたよ」

 

「そうなんですか…」

 

 私が両親の話をすると、療子は苦笑いを浮かべる。

 私の父と母は、客観的に見てかなりの変わり者だったように思う。

 

 父は、『馬鹿と天才は紙一重』という諺を体現したような人物で、くだらないイタズラをして山根や婆やを困らせたかと思えば、学生時代に画期的な論文を書いて世界中の学者を驚愕させたりしていた。

 常人には理解不能な奇行を繰り返していたからか、親戚や旧友からの渾名は『宇宙人』だったという。

 

 母は、絶世の美女と謳われる程に美しく儚げで、浮世離れした人だった。

 何十年も先の未来や何百年も前の歴史をまるで今ここで起きた出来事のように話したり、いくら考えても正解の見つからない事を考えては思いついたように口にしたりしていた。

 

 変わり者同士波長が合っていたのか、その日の夕食の話が、1分後には世界経済の展望や哲学の話になっていたりするのはよくある事だった。

 周りの使用人の反応から、自分の親が普通じゃない事は幼いながらになんとなく理解していたし、ハッキリ言ってイカレ夫婦だったと今でも思う。

 だが、いざとなれば一声で人々を纏め上げるだけの人望がある父と、いつも父を側で支えてきた聡明な母は、私にとって自慢の両親だった。

 

「………変わり者だったが、自慢の両親だったよ。それこそ、私にはもったいないくらいにな」

 

「そっか…羨ましいなぁ」

 

 私が両親との思い出を語ると、療子は私を羨ましがった。

 愛してくれた者を奪われる事と、はじめから愛されない事、どちらが不幸かなど私にはわからない。

 だが療子なりに、充分な愛情を得られなかった苦悩はあったのだろう。

 私がそう考えていると、療子が話しかけてくる。

 

「刹那ちゃんは、ご両親に会えるなら、また会いたいですか?」

 

「…会いたいよ。言えなかった事が山ほどある」

 

 もしもう一度父と母に会えるなら、私は二人に償いがしたい。

 私は幼い頃、父の仕事の邪魔ばかりしてきた。

 いつも忙しい父に少しでも楽をさせたくて手伝いをしようとしても全部空回りして、結局余計に仕事を増やす事になった。

 きちんと親孝行をした事なんて、一度もなかった。

 

 父は、そんな私を庇って死んだ。

 母は、私を連れて隠しシェルターへと逃げようとした。

 だが私は、父を置いて逃げた母を泣き喚きながら責め、そのせいで(ヴィラン)に見つかってしまった。

 その(ヴィラン)は、『娘と身体を差し出すなら命だけは見逃す』と母に交換条件を出してきたが、母はこれを拒否し、逆上した(ヴィラン)の手で弟諸共焼き殺された。

 

 (ヴィラン)の要求を拒み必死に抵抗した両親の決断が正しかったのかは、今となってはわからない。

 だが、これだけはわかる。

 私が家族を死なせたようなものだ。

 

 父と母の事だから、きっと私が自分を責める事など、望んではいないのだろう。

 それでも、『ありがとう』と『ごめんなさい』くらいは伝えたかった。

 

「療子は?」

 

「私は…たまには、両親と会って直接話したいです。私にとっては、たった二人の肉親ですから…」

 

「……そうか」

 

 療子は、少し俯きながら言った。

 たとえ子供にどんな仕打ちをしていたとしても、血の繋がった親の存在は大きい。

 療子の為にできる事はしてやりたいが、余計な事をして関係が拗れるのも考えものだ。

 

「こういう時は…」

 

 私は、早速ある人物にラインを送った。

 これで事がうまく運ぶといいんだがな…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「授業参観…でございますか」

 

「ああ。別に無理して来いとは言わないが…」

 

 その日の夕食の時間、山根から授業参観の話を聞いた小雪が口を開く。

 私は、皿に盛られたラムフィレ肉のステーキをフォークとナイフで切り分けて口に運び、オーストリア産のローター・トラウベンモスト*1を一口飲む。

 来てくれるのはありがたいが、私の授業参観を優先して屋敷の事が疎かになるようなら、正直言って屋敷での留守番を優先してほしい。

 彼等の本職は、私の保護者ではなく、使用人なのだから。

 

「ニャ!そういう事でしたら私が…」

 

 小雪は、私の授業参観の話を聞いて、私の保護者に立候補しようとした。

 だが山根は小雪が前に出ようとするのを制止し、にこやかに微笑んだ。

 

「水臭い事を仰らないでください。私達は、お嬢様がお呼びとあらばどこへでも駆けつけます故」

 

「ウム」

 

 山根の言葉に頷き、ワイングラスに口をつけた、その直後だった。

 

『聞いたよ刹那!!授業参観があるんだって!?』

 

 いきなりテレビがついたかと思うと、叔父の顔がドアップで映ったので、思わず飲み物を吹きこぼしそうになった。

 飯時にテレビ電話してくるなよ…

 というかこの人、私の学校で授業参観があるのを何で知ってるんだ?

 

『お前の気持ちはよくわかる。クラスメイトの親が教室に来るところを想像して、お前も父親と母親が恋しくなったんだろう?』

 

 一人で何語ってんだこの人。

 始終気持ち悪い。

 あと胸が少し膨らんでいるのは何だ?

 

『だから……今日から俺が、お前のお父さんでお母さんになろう!!』

 

 そう言って叔父は着ていたスーツをバリィッと引き裂き、無駄に鍛えられた肉体と、胸の代わりに肉饅と餡饅が包み込まれたブラジャーを見せつけた。

 

 ……いや、本当に気持ち悪いな。

 食い物で遊ぶな。

 数千万はするであろうスーツを引き裂くな。

 食事中に汚いものを見せるな。

 親のいない、しかも思春期の姪に不謹慎なネタをぶっ込むな。

 

『お母さんの胸に飛び込んで──』

 

 流石にこれ以上見ていられなかったので、テーブルの上のベルを鳴らすと、西馬がテレビの電源を切った。

 妻子がいるのに何やってるんだあの人…

 というか、叔母上もよくあの変態と結婚したな…

 

「…私の頼みならどこへでも駆けつけると言ったな。ならば、お言葉に甘えさせてもらおうか」

 

 私は、叔父の奇行を無かった事にして食事を続けつつ、山根に話しかけた。

 

「喜んで。小雪、屋敷の事は任せましたよ」

 

「はい!」

 

 山根が言うと、小雪はピシッと敬礼をする。

 山根と小雪は、祖父と孫娘という関係なのだが、この屋敷の中では直属の上司と新人という関係だ。

 

「!」

 

 食事を続けていると、私宛てに一通のメッセージが来る。

 

「西馬」

 

「はい」

 

 私が命令すると、使用人の西馬が“個性”でメッセージを読み上げた。

 西馬の“個性”は『電脳』、自分の脳を電子回路やインターネットに繋ぎ支配できるという力だ。

 今のようにメールを読み上げたり、ファイアウォールをすり抜けて必要な情報を入手したり、あとは逆に敵のハッキングから重要な情報を護ったりする事ができるという強力な“個性”のため、非常に重宝している。

 …逆に言うと、敵に回すとこの上なく厄介な“個性”でもあるわけだが。

 

「サー・ナイトアイ様からです。是非一度、お嬢様にお会いしたいと」

 

「……何?」

 

 サー・ナイトアイが…?

 多忙で時間が取れない彼がわざわざ自分から私に連絡を寄越したという事は、捜査に何らかの進展があった、もしくは六徳家(わたし)の協力が必要なほど重大な事件に巻き込まれたという事だ。

 どちらにせよ、彼にとっても私にとっても、重要な用件である事に変わりはない。

 後者でなければいいのだが…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 後日、私はナイトアイを自宅に招き、話の場を設けた。

 ナイトアイは、他のヒーローとは違い、“個性”を使った探偵業をしている。

 彼は数年前までオールマイトのサイドキックとして活動していたが、オールマイトがオール・フォー・ワンとの戦いで重傷を負ったのをきっかけに、独立して事務所を立ち上げた。

 

 私とナイトアイは、浅からぬ関係にある。

 オールマイトのサイドキックになる前から父と交流を持っていた彼は、何度もこの屋敷に足を運んでいる。

 私も幼い頃、一度ナイトアイに未来を見てもらった事がある。

 多忙な彼がここまで私に協力してくれるのは、私がかつての友人の娘だからという事もあるのだろう。

 

「突然の連絡に対応していただき、ありがとうございます」

 

 ナイトアイは、第一声から私に感謝の言葉を告げ、頭を下げてきた。

 普段はユーモアを何よりも大切にする彼が、始終神妙な面持ちで話をするものだから、正直面食らってしまった。

 冗談の一つも挟むのを忘れるほど、今回の用件がよほど重大だという事だろう。

 

「貴方に捜査を依頼したのは私です。私に直接アポを取ってきた…という事は、捜査に何か進展が?」

 

 私が尋ねると、ナイトアイが無言で頷く。

 

「…私達ナイトアイ事務所は、2週間ほど前から()()()()の調査をしておりました。詳細は、お送りした調査資料に記載してあります」

 

 私は、ナイトアイに促され、タブレットで資料を開いた。

 資料には、ここ2週間で起きた事件の概要が記載されていた。

 内容は、全国各地で通行人が何者かの襲撃に遭い重軽傷を負わされる事件が相次いでいるというものだった。

 当初は何の関連性もない事件と思われていたが、現場付近から同一のDNAが検出された事から、全国で起こっている傷害事件が同一犯による計画的犯行である可能性が高いという。

 

「……フム。事件の概要は理解しました。つまり、どこぞの馬鹿が、全国各地で一般人相手に揉め事を起こしている…こういう事ですね?」

 

「ええ。犯人の身元については、現在捜査中です。そして、ここからが本題です」

 

 そう言ってナイトアイは、鋭い眼差しを向けながら話を続けた。

 

「我々が調査を始めた頃はまだ被害範囲が狭く、死者は出ていなかったため、ただの愉快犯による犯行と見ていました。しかし調査を進めていくうちに、これらの傷害事件全てに共通点がある事が判明したのです」

 

 ナイトアイが次の資料を見るよう促すので、私はタブレットを操作して次の資料を見た。

 そこには、彼が調べたであろう、事件現場付近の地図が表示されていた。

 地図を一枚一枚確認していくうちに、私はその全てにある共通点がある事に気付いた。

 それと同時に、あまりにも悍ましい、事件の本質に気付いてしまった。

 

「っ………!?」

 

 犯人の狙いに気付いた私は、思わず全身を強張らせ、吐き気を催した。

 すると私の異変を感じ取った小雪が、動揺した様子で駆け寄ってくる。

 

「お嬢様、如何なさいましたか!?」

 

 小雪が肩にブランケットをかけてくれて、深呼吸をしてようやく落ち着いた。

 小雪が淹れてくれた紅茶を飲み、頭の中で情報を整理する。

 

 事件現場全ての共通点、それは徒歩圏内に死穢八斎會の拠点がある事だ。

 死穢八斎會は、かつては指定(ヴィラン)団体*2と呼ばれ、ヒーローに監視されながら細々と活動していたが、現会長が私の父と協定を結び、ヒーローに追われる事もなくなった。

 六徳家が死穢八斎會に資金提供などの全面的支援を行う代わりに、死穢八斎會には私達が制御しきれない裏社会の人間を制御してもらう、そうやって持ちつ持たれつの関係を築いてきたのだ。

 死穢八斎會と六徳家の協定が今も続いている以上、彼等が一般人(カタギ)に牙を剥く事はあり得ない。

 だとすれば、彼等が何者かに狙われているという事になる。

 

 私が地図を見た瞬間寒気を覚えたのは、死穢八斎會の拠点付近で事件を起こしている犯人の手口が、11年前にどこぞの屑が私の家族を殺した時の手口と酷似していたからだ。

 おそらく末端から突いて芋蔓式にトップを炙り出そうとしたか、もしくは陽動が目的だったのだろう。

 あの時も、屋敷に(ヴィラン)が侵入する直前に、奴等の仲間が六徳グループの支社付近で事件を起こしていた。

 犯人は、11年前の事件と同じ手口で、死穢八斎會を壊滅させるつもりだ。

 

 もし、チンピラを操って私の家族を殺した奴と、全国で起こっている傷害事件の黒幕が、同一人物だったとしたら…?

 私を殺す為に、邪魔な死穢八斎會を排除しようとしているのかもしれない。

 考えれば考えるほど、腑が煮えくりかえってくる。

 

「……その様子だと、犯人の目的に気付いたようですね」

 

「ええ。確証はありませんが…私の家族を殺した奴と何らかの繋がりがある可能性もゼロではない…ですよね?」

 

 私は、事件を自分の中で噛み砕いて要約し、ナイトアイに確認した。

 するとナイトアイは、追加の資料を見せながら言った。

 

「実は、今回の案件は我々の手に余ると判断し、公安直属ヒーローのホークスに調査協力を依頼しまして…彼のおかげでつい先日、被害者の一人から有力な証言が得られました」

 

「その被害者、というのは?」

 

「死穢八斎會の構成員の恋人を名乗る女性です。意識不明の重体で路上に倒れていたところを、ホークスに保護されました」

 

 私はナイトアイから、直近の事件の詳細を聞いた。

 被害者女性は発見された当初、顔が変形して誰だかわからない程に殴られ、両手両足を折られていたそうだ。

 死穢八斎會を潰す為に、女性にまで手を上げるとは…

 つくづく、吐き気が込み上げてくる。

 

「被害者女性は、意識を取り戻してすぐに『“個性”が使えなくなった』と証言しています。そして今もまだ、“個性”は使えないままだそうです」

 

 私は、ナイトアイの言葉を聞いて、少し考え込んだ。

 “個性”を使えなくする薬物は、あるにはある。

 凶悪犯の確保や医療用に、六徳製薬が開発し特許を取得した麻酔剤がその最たる例だ。

 イレイザー・ヘッドの“個性”を参考にした麻酔薬で、“個性”因子のみを麻痺させて“個性”を使えなくする効果がある。

 だがそれは、どこの誰とも知らん奴が好き勝手に使える代物ではないし、持続時間はせいぜい数時間だ。

 しかし…誰かがウチの製薬会社の技術を盗み、違法薬物を製造している可能性も捨てきれん。

 

「……違法薬物を投与された可能性は?」

 

 私が尋ねると、ナイトアイは首を横に振った。

 

「被害者に薬物の類を使用した形跡はなく、検査の結果、“()()()()()()()()()()()()()()()事が判明しました」

 

 “個性”因子そのものが消失していた…か。

 状況から考えて、“個性”を封じられたというより、()()()()可能性が高いな。

 

「“個性”そのものが抜き取られた、と考えるのが自然か…」

 

「おそらくは」

 

「“個性”を奪われた…となると、やはりオール・フォー・ワン絡みでしょうか…?」

 

「その可能性が高いと踏んでいます。…が、断定はできません。今後も調査を進め、何かわかった事があればすぐにご連絡します」

 

「よろしくお願いします。私も、何かできる事があれば協力しますので」

 

 私は、ナイトアイに頭を下げて頼み込んだ。

 死穢八斎會は六徳家にとって重要な取引相手だし、昔よく一緒に遊んでくれた廻兄や、私を姉のように慕ってくれる壊理にとっては大切な居場所だ。

 何より会長は、私を娘か孫のように可愛がってくれた大切な人だ。

 一般人に手を上げて“個性”を奪うような屑に、潰させるわけにはいかない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ナイトアイside

 

 六徳家当主との会議を終えた私は、車で事務所に戻った。

 わずかな情報だけで本質を見抜く頭の回転の速さといい、自分の親の仇が絡んでいるかもしれない事件の話にも物怖じしない精神力といい、ついこの前まで中学生だったとは思えない。

 

「…流石は、あなたの娘だ」

 

 私は、かつての友を思い出しながら呟いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私と那由他は、私がオールマイトのサイドキックになる前から親友同士だった。

 オールマイトの大ファンだった私は、オールマイトと共にこの国の平和を守ってきた彼の話が聞きたくて、この屋敷に押しかけた事があった。

 那由他は、いきなり押しかけてきた私を面白がり快く受け入れてくれて、私も知らなかったオールマイトの話を聞かせてくれた。

 歳が近かった事もあり、私達はすぐに打ち解けた。

 私がオールマイトを根負けさせる形でサイドキック入りした後も、たわいもない話をしに屋敷を訪れていた。

 

 彼は、私が未来を見るのを頑なに拒否してきた。

 きっと、誰かに自分の未来を決められたくはなかったのだろう。

 だが、私がオールマイトのサイドキックになって間もない頃だった。

 

「ナイトアイ。俺の未来を見てくれないか」

 

「どういう風の吹き回しだ?あなたらしくもない」

 

 那由他は、突然私に未来を見てほしいと頼み込んできた。

 彼はその場で咳き込んで血を吐いた。

 

「俺にはもう、時間がない」

 

「まさか…!」

 

「医者に言われたよ。あと半年もつかどうかってな」

 

 彼は、全身の細胞が少しずつ死滅していく正体不明の病を患っていた。

 それでも周囲に悟られないよう、元気に振る舞っていた。

 

「俺にはまだ、やらなければならない事が山ほどある。だからせめて、いつ、どこで死ぬのかを知りたいんだ」

 

 私は、那由他の頼みを断れず、彼の未来を見てしまった。

 この頃はまだ、未来を変えられるかもしれないと思っていたんだ。

 見なければよかった。

 彼に触れて“個性”を発動した瞬間、脳裏に映り込んだのは、口にするのも憚られるほど凄惨な光景──

 (ヴィラン)が放った炎から娘を庇い、もがき苦しみながら死にゆく彼自身の姿だった。

 

「……あなたはもう、当主の座を降りるべきだ。あなたの後継は必ず見つかる。余生は、どこか人の目につかないところで穏やかに暮らそう」

 

「何?」

 

「このままだとあなたは…半年後にこの場所で、(ヴィラン)に殺されるんだ!!」

 

 私は絶交も覚悟で、彼に真実を告げた。

 彼には、一秒でも永く生きていてほしかった。

 

「………そうか」

 

 那由他は、少しも驚かずに私の告げた未来を受け入れた。

 

「忠告ありがとう。でも、俺は逃げも隠れもしない。残りの人生を、全力で生きる事にするよ」

 

「それじゃあダメなんだ!!」

 

 私はその場で身を乗り出して立ち上がり、最悪の未来を甘んじて受け入れようとする彼に説得を試みた。

 

「あなたが安心して過ごせる隠れ家なら、私が用意する!!病気の治療ならそこですればいい!!家族の事は、必ず守りきってみせる!!だから、誰にも見つからない場所で穏やかに過ごすと、今ここで約束してくれ!!でないと、『予知』の通りになってしまうぞ!!」

 

「お前の『予知』が外れた事はないんだろう?半年後に殺される未来を回避したところで、(ヴィラン)が攻めてくるのはその次の日かもしれないし、もっと先かもしれない。(ヴィラン)に殺される未来を確実に回避できるまで、ずっと隠れてろと?」

 

「それは…」

 

「医者に余命を告げられた時から、決めてた事だ。どうせあと半年の命なら、カッコいいとこ見せたいもんな」

 

「それであなたが死ぬんじゃ、何の意味もないじゃないか!!私は、あなたの為に言っているんだ!!」

 

「人はいつか死ぬ。いい加減、現実を見ろ」

 

 那由他は、私の説得にも耳を貸さず、逆に私を諭してきた。

 『現実を見ろ』、彼が大嫌いなはずの言葉だった。

 誰よりも現実を見ていたのは、誰よりも理想に生きていたはずの彼だった。

 

「わかっているさ…それでも私は、あなたに生きていてほしいんだ!頼むから…判断を誤らないでくれよ…!」

 

「………ごめん」

 

 結局那由他は、最後まで私の頼みを聞いてくれる事はなかった。

 私は、あらゆる方法で最悪の未来を回避しようと試みたが、結局未来は現実になってしまった。

 

 私の“個性”で見た未来は、決して変える事はできない。

 私の“個性”は『予知』などではなく、未来を確定させてしまう“個性”なのではないか。

 皮肉にも、親友の死をもって、その仮説を証明してしまった。

 私が殺したようなものだ。

 

 そして6年前、私はオールマイトが凄惨な最期を迎える未来を見てしまった。

 もし私の『予知』が現実になるとしたら、オールマイトは今年中に(ヴィラン)に殺される。

 11年前に、私が那由他の死を回避できなかったのと同じように。

 あれ以来、私は誰かの遠い未来を見るのが怖くなった。

 だが、そんな私のトラウマを断ち切ってくれたのが、刹那ちゃんだった。

 

「くだらない」

 

 彼女は、私の葛藤をバッサリと切り捨てた。

 

「オールマイトに説得を試みたあなたの判断は、間違っていなかったと思います。ですが、オールマイトが死ぬ未来を見てしまったからといって『予知』を使わないというのは、はっきり言って馬鹿げてます」

 

「馬鹿げているだと…!?一度見てしまった未来は変えられないんだぞ!何度試しても、未来は変わらなかった…!!君の父親だって、私の『予知』の通りに死んだんだ!!」

 

「あなたに未来を見るよう頼んだのも、あなたの見た未来を受け入れる事にしたのも、父の意志です。今までの人達も、元々そうなる運命だったというだけの事。あなたの『予知』に未来を確定させる力があるかどうかなんてさほど重要じゃないし、あなたが責任を感じる事なんか何もない」

 

 刹那ちゃんは、私を正論で諭してきた。

 彼女は、私が父親の死を確定させてしまった事を、これっぽっちも恨んでいなかった。

 誰よりも那由他の死を悔やんでいたはずの彼女が、何故私のせいじゃないと割り切る事ができるのか、私には理解できなかった。

 

「私は、私の見たい未来しか信じない。私が見たいのは、あなたが見た未来の、さらにその先の未来です」

 

 刹那ちゃんは、何の迷いもなくそう言い切った。

 この言葉を聞いて、絶望のどん底にいた彼女が何故ここまで這い上がってこられたのか、分かった気がした。

 彼女は、那由他やオールマイトとは違う。

 彼女を当主の器へと押し上げたのは、偏に狂おしい程の未来への執念。

 

「余計なお節介かもしれませんが…とりあえず、一度オールマイトと話し合ってみては?一緒にオールマイトが長生きできる方法を探せば、今度こそ未来が変わるかもしれない。たとえダメだったとしても、あなたの行動ひとつで、その先の未来はいくらでも変えられるはずです」

 

 その言葉に、私はハッとさせられた。

 彼女は、未来を変える為に、ずっと足掻き続けていた。

 それに引きかえ、私はオールマイトの死を予知してしまったトラウマで、本当に見るべきものが見えなくなっていた。

 とんだお笑い草だ。

 

 私はオールマイトに会いに行き、あの日の非礼を詫びた。

 久々にオールマイトと腹を割って話し、オールマイトも、精一杯生きていくと約束してくれた。

 オールマイトと和解するきっかけを作ってくれた刹那ちゃんには、感謝してもしきれない。

 

 『ワン・フォー・オール』を彼女に継がせようと考えていた時期もあった。

 誰よりも未来を見据えている彼女なら、オールマイトの力を正しく使ってくれると思ったんだ。

 もっとも、彼女自身がそれを拒否したわけだが。

 

 私はふと、那由他が刹那ちゃんの未来を見てほしいと頼んできた時の事を思い出した。

 

 

 

「刹那ちゃんの未来を?」

 

「ああ。お前に見て欲しいんだ。ダメか?」

 

 那由他は、私が未来を予知した翌日に、刹那ちゃんを抱きかかえて私に会いに来た。

 

「……ダメだ。刹那ちゃんの未来を知ったら、もう悔いは無いとでも言うつもりだろう?」

 

「違えよ!俺、余生は治療に専念する事にしたんだ。療養中は気が滅入るだろうから、少しは夢のある話が聞きたくてさ」

 

「もし、彼女に待ち受ける未来が、言い表しようのないほど凄惨な未来だったら?私が、その未来を確定させてしまうかもしれないんだぞ」

 

「心配ねえよ。だって見ろよ、ウチの娘、こんなに可愛いんだぜ?絶対幸せになる!」

 

 そう言って那由他は、刹那ちゃんの頭を撫でた。

 彼は、根拠になっていないような理由で娘の幸せな未来を信じていた。

 どうか刹那ちゃんに待ち受ける未来が、那由他の望む未来であるようにと願いながら、私は刹那ちゃんの頬に触れた。

 触られてくすぐったそうに笑う彼女を見て頬を緩ませつつ、“個性”を発動した。

 するとだ。

 

「……!?これは…」

 

 彼女の未来を見た瞬間、パリンっと眼鏡がひび割れた。

 何というか…見てはいけない未来を見てしまった。

 近くで目を見られたのが恥ずかしかったのか、刹那ちゃんは頬を染めて那由他の胸に顔を埋めた。

 今思えば、刹那ちゃんには本当に申し訳ない事をした。

 私が見た未来をそのまま那由他に伝えれば、確実に彼は怒るだろうと思っていた。

 

「どうした?」

 

「いや…これは、言っていいのかどうか…」

 

「何だよ、言えよ」

 

「…怒るなよ。知りたがったのはあなただ」

 

 そう言って私は、那由他に私が見た内容を耳打ちした。

 すると彼は、一瞬驚いた顔をしたかと思うと、プッと吹き出して笑い出した。

 

「あっはっはっはっは!!!」

 

「お、お父さん?」

 

「刹那、今から外に出かけるぞ!今日は最高に良い日だ!」

 

 那由他は、刹那ちゃんを抱きしめて外へ飛び出そうとした。

 私は、療養中だというのに外出しようとする彼を止めようとした。

 

「待て!!治療に専念するという話だっただろ!あれは嘘だったのか!?」

 

「知らねえのか未来!笑うと免疫力上がるんだぜ!」

 

 彼は、制止しようとした私の腕を掴み、満面の笑みを浮かべた。

 

「しけたツラしてないで笑え!人は笑う為に生きてる!!」

 

 その言葉の通り、彼は最期まで笑って生きた。

 元気とユーモアのない社会に、明るい未来はやって来ない。

 彼はそれを、生き様で証明してみせた。

 

 那由他が死ぬ未来は、どう足掻いても変えられなかった。

 だが、オールマイトが死ぬ未来は、何度でも抗って変えてみせる。

 あの日那由他が笑った未来を、現実にしてみせる。

 そして、その先の明るい未来が見てみたい。

 

 刹那ちゃんは、那由他が遺したたった一人の娘だ。

 私の心を救ってくれた彼女には、幸せになってもらいたい。

 …いや、絶対に幸せにしてみせる。

 

 

 

 

 

*1
赤ワイン醸造用のブドウで作られたブドウジュース。濃密な果実味と程よい酸味が特徴で、肉料理と相性が良い

*2
超常黎明期以前は『ヤクザ』や『極道』と呼ばれていた反社会的集団の総称




ごめんなさい、書いてるうちに書きたい事が膨らみすぎて一話で収まりきらなかったので、この章はもう一話続きます。

余談ですが、なんかこの前たまたまヒロアカキャラのMBTIが書いてあるサイトを見つけたので、うちの子はどうなんだろうって思って診断してみました。
オリ主ちゃんはINTJ、癒治ちゃんはINFPでした。
本作を振り返ってみたら思い当たる節だらけすぎて。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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