私の世直しアカデミア   作:M.T.

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第22話 幼女誘拐?よろしい、ならばカチコミだ

「お姉ちゃん!」

 

「壊理、久しぶり。今日は何して遊ぼうか」

 

 日本家屋の屋敷の広い庭で、幼い少女が駆け寄ってくる。

 私が壊理と二人で遊んでいると、怪我をした男二人が帰ってきた。

 八斎會の若頭の廻兄と、その補佐の玄野さん。

 内心『またか』と呆れつつ、私は二人に話しかけた。

 

「また他所の組と喧嘩したんですか」

 

「オヤジを馬鹿にしたアホをノしただけだ」

 

「私は止めやしたぜ」

 

 私が二人に尋ねると、二人は言い訳をした。

 廻兄と玄野さんは、友達の少なかった私と遊んでくれて、“個性”の訓練に付き合ってくれた。

 二人には会長を支え続けてほしいから、チンピラ如きに構って足を止めてほしくない。

 

「治崎さん。八斎會や会長の事を想う気持ちはわかります。ですが、会長の為にも堪えてください。何の為の協定だと思ってるんですか」

 

「オヤジを侮辱した奴等を放っておけってのか?」

 

「そうです。どうせそいつらは、六徳家との協定のおかげで日の下を歩けている会長を妬んでるだけです。六徳家を敵に回した奴等には、必ず地獄が待ってます。吹けば飛ぶような連中、放っておけばいいんです。あなたが積み上げてきた力や知識は、本当に会長が困った時に使ってください」

 

 会長を侮辱した阿呆への怒りが収まらない廻兄を、私は落ち着いて諭した。

 廻兄が拾ってくれた会長に恩返しする為に、誰よりも努力してきた事は知っている。

 だが他所の組といざこざを起こし、八斎會がそこらのチンピラと同類だと思われてしまっては、せっかく積み上げてきたものが無駄になってしまう。

 私は、廻兄の事を想うからこそ説教をした。

 すると壊理が、廻兄に触れて“個性”を発動した。

 

「大丈夫…?」

 

「治さなくていいよ壊理。自業自得なんだから」

 

「え…でも…」

 

 私が廻兄を治そうとする壊理を抱きかかえて胸の上で遊ばせると、壊理は戸惑う。

 “個性”を制御できるようになったとはいえ、壊理の幼い身体では、“個性”を使う度に体力を消耗する。

 勝手に喧嘩して怪我した二人を治す為にいちいち“個性”を使っていては、壊理が疲れてしまう。

 

 私は、他所の組と喧嘩をして帰ってきた二人に対して()()怒っている。

 理由は詳しくは語らないが、とにかく怒り心頭である。

 苛立ちが限界に達した私は、二人に笑顔で厭味を言った。

 

「とりあえず、二人とも会長に怒られてきてください。私は壊理と遊んでますから」

 

「…お嬢、怒ってやすよね」

 

()()ね」

 

 玄野さんに図星を突かれた私は、額に青筋を浮かせ頬を引き攣らせながら笑顔を浮かべた。

 

 これは、夢。

 懐かしく美しい、私の記憶。

 皆で笑い合える幸せが続く事を、願っていたのに。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

治崎side

 

「…以上が、調査結果の報告になります」

 

「ウチのシマでカタギに手を出した奴は見つかってねえのか」

 

「襲撃事件の犯人は、現在我々が追跡中です。この本拠地が狙われている可能性もありますので、犯人が見つかるまでは極力不要不急の外出を控えるようお願い致します」

 

「あぁ…わかった」

 

 公安ヒーローがオヤジに調査結果を報告しに来たのは、昨日の事だった。

 最近、八斎會(ウチ)の連中はピリピリしている。

 ここひと月弱、どこの誰とも知らねぇバカが何度もウチのシマで騒いで、その度に姿を眩ませていた。

 そして先週、例のバカは()()()()()()()()()()()()をやらかして、完全に俺達を怒らせた。

 

 そいつは、俺の部下の女を気絶するまで殴った挙句、“個性”を奪って逃げた。

 これには、普段は穏健なオヤジも激昂していた。

 あんなに怒ったオヤジを見たのは、11年前の六徳家全焼事件以来だった。

 

「若頭。俺はあんたに拾われるまで、自分を何の価値もないゴミだと思ってた。だが美輝は…あいつは、こんな俺に価値を見出してくれたんだ。ゴミにも、守りたいものくらいあるんだよ。あんたが止めても、俺は美輝の仇を取りに行く」

 

 宝生が一人でも女の仇を討ちに行こうとすると、窃野と多部もそれに賛同した。

 こいつらが俺の指示に叛いたのは、これが初めての事だった。

 

 先週襲われたのは、俺の部下の宝生の女だ。

 女はかつて自分を助けた宝生に惹かれ、宝生も(ヴィラン)だった過去を軽蔑しない女に惹かれ、互いが心の支えになっていた。

 

 窃野や多部も、宝生と同じように悲惨な過去を持ち、社会に捨てられた者同士固い絆で結ばれている。

 宝生の女が殴られ“個性”を奪われたと聞いた時、こいつらは自分の事のように憤っていた。

 

 俺だって、オヤジをコケにした奴を今すぐにでも殺したいのは同じだ。

 だが無策で突っ込んでいっても、返り討ちに遭うだけだ。

 そもそも敵がどこの誰かもわからないのだから、探しようがない。

 犯人探しは、警察や六徳家の情報屋を頼るしかない。

 それが最善だと分かってはいるが、既に會に実害が出ているのに何もできないのがやるせない。

 

「お前ら、落ち着け。何の為に六徳家と協定を結んでヒーローの手を借りてると思ってんだ」

 

 すぐにでも犯人を探しに行こうとする俺の部下と、それを止めようとするオヤジの部下が反発し合っていると、オヤジが喝を入れた。

 すると今の今まで啀み合っていた奴等が静まり返った。

 

「お前らの怒りはもっともだ。カタギの女にまで手を出したバカを、これ以上のさばらせるわけにはいかねぇ。だが、こんな時だからこそ、俺達が動じてどうする」

 

 オヤジの一声で、さっきまで熱くなっていた頭が冷えた。

 八斎會の危機に焦るあまり、オヤジの考えを無視するところだった。

 自分の未熟さを反省しつつ、現実的な方向に頭を切り替えようとした、その次の瞬間だった。

 

 

 

「オヤジ!!」

 

 気がつけば、屋敷は火の海になっていて、オヤジや部下が血を流して倒れていた。

 俺は、“個性”で床を崩して壁を作りつつ、オヤジを介抱した。

 俺の目の前には、剥き出しの脳と黒い肌を持つ化け物と、その化け物を従える髪の長い男がいた。

 そいつらは、何の前触れもなく、突然俺達の前に現れた。

 

「キェエエエエエ!!!ぶっ殺してやる、このクソ──」

 

 入中が男に殴りかかろうとすると、化け物が前に出て入中をたったの一撃でのした。

 そいつらは、揃いも揃って複数の強力な“個性”を使いこなしていた。

 八斎會きっての武闘派“八斎衆”ですら、まるで歯が立たなかった。

 俺の部下を叩きのめした男は、怯えている壊理に歩み寄った。

 

「ひっ…」

 

「安心しろ。殺しはしない」

 

 男が言うと、化け物が壊理に向かって手を伸ばした。

 するとその時、床に倒れていた玄野が、頭の針で化け物を刺した。

 俺は玄野が化け物の動きを遅くしている間に床を鋭い棘に変形させ、化け物を串刺しにした。

 

「オヤジ!!壊理を連れて逃げろ!!」

 

 俺達は、総出で敵を阻み、オヤジと壊理を逃がした。

 乱波が男に殴りかかると、男は数センチ離れた場所に結晶状の盾を生み出し、乱波の攻撃を防いだ。

 そして生み出した盾目掛けて指先からレーザーを放ち、レーザーを乱反射させて乱波を返り討ちにした。

 

「その“個性”は…美輝の…!!」

 

 男が盾とレーザーを組み合わせて攻撃してきたのを見て、宝生が激昂する。

 男が繰り出した盾の“個性”は、宝生の女から奪った“個性”だった。

 

 俺達は、オヤジと壊理を逃がす為に死力を尽くして敵を食い止めた。

 俺は、雷撃を喰らいながらも、敵に喰らいついた。

 だが、それも長くは続かなかった。

 

「時間切れだ。できる事なら、生きたまま連れ帰りたかったが…そうも言ってられまい」

 

 そう言って男は、俺達を無視してどこかへ視線を向けた。

 奴の視線の先には、オヤジに抱きかかえられた壊理がいた。

 

「ちさきさん…!」

 

 男は、壊理目掛けてレーザーを撃とうとしていた。

 目を瞑ってオヤジの腕の中で縮こまっている壊理を見て、咄嗟に身体が動いた。

 俺がオヤジと壊理の前に飛び出した瞬間、俺の身体をレーザーが貫いた。

 

「若!!!」

 

 その場で膝をつくと、玄野や音本、俺の部下の声が屋敷に響いた。

 “個性”を発動したいのに、さっき喰らった雷撃のせいで身体がいう事をきかなかった。

 オヤジを…壊理を守らねぇと……

 

「壊理……壊理!!」

 

 薄れゆく意識の中、オヤジの悲痛な叫び声が聴こえた。

 最後に見たのは、化け物に腕を掴まれて無理矢理黒い渦の中に引き摺り込まれる壊理の姿だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 死穢八斎會。

 かつて指定(ヴィラン)団体と呼ばれていたその組織は、会長が父と協定を結んだ事でヒーローや警察から追われなくなり、今では大っぴらに活動できている。

 その協定というのは、八斎會を六徳家の庇護下に置き資金援助などの支援を全面的に行う代わりに、ヒーローや警察が把握しきれない裏社会を八斎會が取り締まるというものだ。

 父と大の仲良しだった会長は、私を本当の娘か孫のように可愛がってくれて、構成員の皆も私を『お嬢』と呼んで慕ってくれた。

 会長の孫娘の壊理も、私によく懐いてくれた。

 

 壊理は“個性”の暴発によって父親を消してしまい、精神崩壊を起こした母親が壊理を置いて失踪。

 実の親に捨てられ行く宛のない壊理を、会長が引き取り今に至る。

 最初は“個性”を暴発させてしまうのを恐れて心を閉ざしていた壊理も、私や八斎會の構成員のサポートによって少しずつ“個性”を使いこなせるようになっていき、性格も少しずつ明るくなった。

 幼い頃に弟を失った私にとっては、壊理は本当の妹のように大切な存在だ。

 たとえ何を擲ってでも、助け出さなきゃいけない。

 もう二度と、家族を失うわけにはいかない。

 

 

 

「ここに運び込まれた時点で、生死の境を彷徨う重体でした。手術で一命を取り留め、現時点で命に別状はありませんが…未だに意識は回復していません」

 

「……そうですか」

 

 廻兄や八斎會の皆が重傷を負ったと聞いて病院に駆けつけた私は、廻兄の担当医から話を聞いた。

 剥き出しの脳と黒い肌を持った化け物…脳無を引き連れた男が壊理を攫いに来て、廻兄達は壊理を守る為に戦ったそうだ。

 だが脳無を引き連れていた男の“個性”になす術なくやられ、特に壊理と会長を庇いながら戦った廻兄は致命傷を与えられ、救急搬送された時点で心肺停止の重傷だったらしい。

 廻兄の部下はほぼ全員即日退院できたそうだが、廻兄と玄野さんだけは未だに入院中だ。

 そして今回の事件で会長も負傷したらしく、会長と廻兄を傷つけて壊理を攫っていった連中に対し、特に入中さんと音本さんは怒りのあまり犯人のもとへ殴り込もうとして、取り押さえるのに一苦労だったそうだ。

 

「すいやせん、お嬢…」

 

 病衣を身につけ頭に包帯を巻いた玄野さんが、私に頭を下げてくる。

 

「謝らないでください、玄野さん。相手はオールマイトを負傷させ、保須で民間人に甚大な被害を出した化け物です。むしろ、全員生還できた事が奇跡なくらいです。壊理は必ず私達が取り戻しますから、今は治療に専念してください」

 

 私は、壊理を守れなかった事を悔いる玄野さんに前向きな言葉をかけた。

 構成員達の必死の抵抗も虚しく壊理は攫われ、ヒーローが駆けつけた時にはもう全て終わった後だった。

 オールマイトですら手こずる程の(ヴィラン)の奇襲を受けたのだから、間に合わなかったヒーローも、もちろん壊理を守りきれなかった廻兄達も悪くない。

 悪いのは、廻兄や八斎會の皆を傷つけ壊理を攫った阿呆だけだ。

 

「廻兄……」

 

 私は去り際に、重傷を負い未だに意識のない廻兄を見た。

 廻兄が八斎會を守る為に、会長に報いる為に、血反吐を吐く程の努力をしてきた事は知っているし、いつか廻兄の隣に並び立ちたいと思っていた。

 廻兄が敵にボロボロにやられて生死の境を彷徨っているところなんて、()()()()()()()

 私は、やり場のない感情を胸の中で押し潰しながら、病室を後にした。

 

 それにしても、脳無を引き連れた男…か。

 今回の犯人も、(ヴィラン)連合絡みと見ていいだろう。

 奴等、ここまで私をピンポイントで怒らせに来るとは…よほど死にたいらしいな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後私は、今動けるプロヒーローに招集をかけ、屋敷で壊理奪還の為の作戦会議を開いた。

 そこには、雄英ヒーロー科最強の三人、通称“ビッグ3”もいた。

 

「ねぇねぇ!六徳さん、私達なんで呼ばれたの?ねぇ、通形知ってる?」

 

「俺も知らないんだよね!」

 

 波動先輩が私の肉球や頬をプニプニしながら尋ねると、通形先輩が笑いながら答える。

 波動先輩は、私を六徳家の人間だからと特別扱いせず面倒見のいい先輩として接してくれている。

 私の肉球をプニプニするのが好きらしくて、会う度に肉球を揉まれるのがもはやお約束となっている。

 

 通形先輩は、ナイトアイ事務所のインターン生という事もあって、実は入学前から交流があったりする。

 護身術の訓練の一環として、一度だけ組み手をした事もある。

 通形先輩はお得意のボディーブローで私を沈めようとしたが、私にも六徳家当主としてのプライドがある以上ゲロをぶちまけたくはなかったので、15年間の暗殺ターゲット生活で培った反射神経でボディーブローを全て躱し、逆にもっちりとボディーブローを喰らわせて差し上げた。

 

「ダメだ…ミリオ…六徳さんだって哺乳類…わかってはいるけど…直視できないっ……というか、同じ空間にいるだけで既に限界…!」

 

「SAN値直葬するタイプの怪異か何かですか私は」

 

 壁に立てかけられたモナ・リザのレプリカに向かって何かをブツブツ言っている天喰先輩に対して、私は冷静にツッコミを入れた。

 天喰先輩は、初めて会った時からずっとこんな調子だ。

 仮にもビッグ3の一人なのだから、いい加減慣れてくれないものか。

 

 私が個性豊かな先輩方と戯れていると、私が招集したヒーロー達が屋敷にやってきた。

 元々八斎會絡みで捜査を依頼していたナイトアイとホークスはもちろんの事、波動先輩のインターン先のリューキュウや天喰先輩のインターン先のファットガム、イレイザー・ヘッドこと相澤先生、緑谷君の職場体験先のグラントリノ、そしてNo.2ヒーローのエンデヴァーやNo.8ヒーローのミルコもいる。

 豪華メンバーが勢揃いだ。

 

 壊理を確実に奪還するため、今動ける戦力を掻き集められるだけ掻き集めた(オールマイトは年寄りの冷や水で活動時間を削るくらいなら緑谷君(後進)の教育を優先してほしいので、ハブった学校で授業をしてもらっている)。

 今回は(ヴィラン)連合絡みという事で、グラントリノと塚内さんにも声をかけた。

 ちなみに肝心の塚内さんは、今は別件でここにはいない。

 できる事なら塚内さんにも同行してもらいたかったが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 私は、屋敷の大食堂で作戦会議を開いた。

 

「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんをここへ招集したのは、他でもありません。昨日拉致された死穢八斎會会長の娘、壊理の奪還にご協力いただきたい」

 

 私はまず、集まってもらったヒーロー達に頭を下げた。

 するとナイトアイのサイドキックのセンチピーダーが、今回の事件の概要を話し始める。

 

「敵は、『ワープ』の“個性”を使って死穢八斎會の本拠地に奇襲を仕掛け、会長・若頭を含む構成員全員に重傷を負わせ、エリちゃんを攫って逃亡。我々も犯人を追跡中ですが、犯人は『ワープ』の“個性”を使って逃げたとの事で、未だに足取りを掴めておりません。エリちゃんが攫われてから既に8時間が経過しており、一刻の猶予も許されない状況です」

 

「人ん家踏み荒らして小さい子掻っ攫ってトンズラたぁ、とんだど畜生やな…!!」

 

 センチピーダーが説明をすると、ファットガムがグッと拳を握りしめて憤った。

 

「犯人について、何か情報は?」

 

「それについては、俺が」

 

 リューキュウが尋ねると、ホークスが軽く手を挙げて話し始める。

 

「八斎會の構成員から、今回の犯行は複数人によって行われたという証言が得られました。その中には、(ヴィラン)連合が連れていた怪人“脳無”もいたそうです」

 

「脳無……」

 

 ホークスが話すと、相澤先生…もといイレイザー・ヘッドが右眼の下の傷に手を添える。

 イレイザーは、USJで脳無にやられたんだったな…

 

「じゃあそいつもクソ連合絡みなんだな!?蹴っ飛ばす!」

 

 ミルコは、挑発的な笑みを浮かべながら言った。

 ミルコの発言に対し、「あっこの人苦手だ」と思ったのは内緒の話。

 

「我々は、3週間前から相次いでいる傷害事件について調査していました。被害者の中には死穢八斎會の関係者もおり、彼女は保護された時点で“個性”を喪失していたとの事。そして先程襲撃された構成員に聞き込みをしたところ、奇襲を仕掛けた(ヴィラン)の一人が、被害者女性の“個性”を使っていたそうです」

 

「“個性”を奪う“個性”…か。まるでオール・フォー・ワンだな」

 

 ナイトアイが説明をすると、グラントリノが顔を顰める。

 すると、今回の壊理奪還作戦のメンバーの一人、ロックロックが気怠げに口を開く。

 

「話はわかったけどよ。敵はワープでトンズラこいて、どこにいるかもわかんねぇんだろ?子供を奪還しろっつったって、手の打ちようがねぇんじゃねぇのか?」

 

 ロックロックが言うと、数秒の間沈黙が続いた。

 普通なら、ワープで逃げた敵に攫われ、どこに連れ去られてしまったのかもわからない壊理を助け出す事など不可能だ。

 だが私は、どこに連れ去られていようと確実に壊理を助け出せる方法を、一つだけ知っている。

 

「ひとつだけ、方法があります」

 

 私が言うと、全員の注目が私に集まる。

 私は、ナイトアイの方を向いて口を開いた。

 

「ナイトアイ。この中の誰かの10分後…いや、5()()()()()()を見て下さい」

 

「…!」

 

「今ここにいるメンバーの未来を見れば、()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えるはずです。そこからウチの者が座標を割り出し、皆さんを壊理の元へ転送します」

 

「……その手があったか」

 

 私がナイトアイに言うと、イレイザーがボソッと呟く。

 壊理を見つけ出す為に、『未来は変わらない』、その性質を逆手に取る。

 予知も織り込み済みの未来が見えるなら、『壊理のもとへ辿り着く未来』を確定させてから、ゴールまでの道のりを逆算すればいい。

 だがこの作戦は、失敗のリスクが大きい。

 もし場所の特定に失敗すれば、再び壊理を助け出せるチャンスは24時間後になってしまう。

 今でさえ壊理が生きている保証などどこにもないというのに、さらに24時間も遅れれば、壊理を生きて救出できる確率は絶望的に低くなる。

 しかしそれは、『予知』を使わなかったとて同じ事だ。

 もし壊理を救い出せる可能性が1%でもあるなら、私はその1%に全てを賭ける。

 

「座標の特定は僕が」

 

「皆様の転送は、私にお任せください」

 

 私が作戦を説明すると、どこからか西馬と狭間が現れる。

 

「お願いします。サー・ナイトアイ」

 

 私は今一度、ナイトアイに頭を下げて頼み込んだ。

 ナイトアイは、一瞬戸惑いの表情を見せた後、眼鏡をクイっと上げて口を開く。

 

「…わかりました。ですがその前に、皆さんに確認させてください。私の『予知』は、一度使えばその未来が確定してしまいます。もし死の未来が見えてしまったら、その人の死は避けられないものになってしまう。それでも、『予知』を使いますか?」

 

 ナイトアイは、ここにいる全員に意思確認をした。

 すると、腕を組んで話を聞いていたエンデヴァーが立ち上がる。

 

「ふん、何をもったいぶっているのかと思えばそんな事か。ならば俺の未来を見るがいい。俺はそこらの雑魚に殺されはしない」

 

 エンデヴァーは、自分の死が確定してしまうかもしれない危険な役割を、自ら買って出た。

 それを見たホークスが、あっけらかんと笑う。

 

「エンデヴァーさんらしいですね」

 

「笑うな」

 

 ホークスが笑うと、エンデヴァーがゴォッと顔から炎を出して怒った。

 壊理が攫われたというのに呑気なものだと思ったが、おかげで、逆に安心した。

 ナイトアイは、私と顔を見合わせて頷くと、エンデヴァーと握手を交わし“個性”を発動した。

 そしてその直後、今度は西馬がナイトアイの左手を握って『予知』で見ている光景を読み取り、自身の尾を挿したデバイスで座標の特定を開始する。

 ナイトアイとの協力プレイで入手した位置データを、今度は狭間のスマホに転送した。

 

「来ました!皆様、後ろに下がってください」

 

 スマホで位置データを確認した狭間は、長い髪を頭の後ろで縛り、刀を抜いた。

 微かに白い光が宿る刀を振り、目に留まらぬ速さで床を斬ると絨毯が捲れ、床に開いた穴の中には白と黒の渦巻きのような模様が見える。

 狭間は超人社会となった現代でも珍しい、時空を斬り裂く事ができる“個性”の使い手だ。

 

「この穴の先が、敵のアジトです。そこにエリちゃんもいます。では皆様、ご武運を」

 

 そう言って狭間は、奪還作戦の参加メンバーに向かって頭を下げた。

 参加メンバーが時空の渦の中に飛び込もうとすると、廻兄や玄野さんに代わり会長の付き添いに来ていた音本さんが、皆に懇願した。

 

「皆さん、どうか壊理さんを取り返してください。そして、若の仇を…!!」

 

「頼んだぞ」

 

 音本さんが懇願すると、会長もヒーロー達に頼み込んだ。

 するとナイトアイが、会長に対して力強く宣言する。

 

「必ず、我々がエリちゃんを取り戻します」

 

 ナイトアイのその言葉と共に、奪還メンバーは、時空の渦の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ナインside

 

 死穢八斎會の本拠地から少女を連れ出した私は、黒霧の“個性”で本州から遠く離れた離島のアジトに戻ってきた。

 このアジトはかつてドクターが脳無製造工場として使っていた施設で、今は私達が設備の一部を修繕して使っている。

 独房に閉じ込めた少女をモニター越しに見る。

 

 私は元々天を操る力を持ち、オール・フォー・ワンの“個性”の移植手術により新たに8つの“個性”をストックできる力を手に入れたが、使う度に全身の細胞が少しずつ死滅していくという副作用がある。

 だがこの少女の『巻き戻し』の“個性”を使えば、私の“個性”のデメリットを克服できる。

 彼女がいれば、私の夢が叶う。

 この世界を力で支配するという夢が。

 

 少女を手に入れた事で新世界の実現を確信した私は、別のモニターに視線を移す。

 そのモニターには、雄英体育祭で他の生徒を圧倒する六徳家当主が映っている。

 こいつは、私の夢を阻む最大の障壁であると同時に、私が今最も欲している力を持った女だ。

 時を操り、物理法則さえも支配する、神の領域に達した“個性”。

 この女の力さえ手に入れれば、もはや私に敵など──

 

「ぐ…うぅ……!」

 

 突然、視界が歪み、全身に激痛が走る。

 くそっ…“個性”を使いすぎた…

 早く身体を巻き戻さなくては…

 私がその場で膝をつくと、仲間のスライスが駆けつけてきた。

 

「ナイン、しっかりして」

 

「しょ、少女をここに……」

 

 私は、スライスに支えられながらベッドに腰掛け、指示を出した。

 

「わかったわ。少し待ってて」

 

 そう言ってスライスは部屋を後にし、同じフロア内にある制御室に向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スライスside

 

 子供を連れてくるようナインから命令を受けた私は、制御室に向かった。

 制御室は分厚いアクリル板で仕切られていて、アクリル板の向こうが独房になっている。

 その独房の中に、ナインが攫ってきた子供を閉じ込めておいている。

 この子の力は確かに有用だけれど、簡単に人を殺せる力でもある。

 万が一にも変な気を起こして消されないように、普段はこの独房に閉じ込めて、ナインとの接触も最小限にしている。

 

 …それにしても、気味の悪い子。

 ここに連れてきた時から、ずっとベッドの上で蹲って、一言も喋らないし泣きもしない。

 わけのわからないままこんな所に連れて来られたら、普通泣き喚いたり助けを求めたりするでしょ。

 

「ナインがお呼びよ。“個性”を使いなさい」

 

「いや…!」

 

 私が制御室のマイク越しに命令すると、子供は首を横に振った。

 

「…仕方ないわね。頭の悪い子には、お仕置きが必要よね」

 

 私はため息をつきながら、制御室の装置を操作した。

 すると子供の身体に高圧電流が流れ、部屋中に悲鳴が響き渡った。

 この独房には、電流や毒ガス、高温に低温、音波、電磁波なんかの拷問の為の設備が揃っている。

 かつては、危険な“個性”を持つ被験体を大人しくさせる為の拷問部屋として使っていたらしい。

 私が言うのも何だけど…さすがドクター、いい趣味してるわ。

 

「お姉…ちゃん……ちさきさん…」

 

 電流を喰らった子供は、床に転がり落ちて痙攣を起こしていた。

 

「アハハ!哀れね。でも、誰も助けになんか来ないわよ。あんたは私達の言う事を聞いていればいいの」

 

 無様な姿を嘲笑うと、子供は肩を振るわせて啜り泣いた。

 あとひと押しってところね。

 

「最後のチャンスよ。ナインの為に“個性”を使うと言いなさ──

 

 

 

 ――ビーッ!!ビーッ!!

 

 

 

「っ……!?」

 

 突然、アジト全体にけたたましく警告音が響き渡る。

 何…?

 何が起こったの…!?

 

 私は、ふと制御室のモニターに目をやった。

 アジトの入り口付近にはヒーローと警察が大勢いて、その中でもエンデヴァーが監視カメラ越しにこっちを睨んでいる。

 

 嘘でしょ…!?

 何で…何でここがわかったのよ!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 屋敷に残った私は、壊理奪還に向かった部下から、敵のアジトへの突撃に成功したという報告を受けた。

 一か八かの賭けは、うまくいったようだ。

 

「西馬はアジトのシステムの掌握を。それ以外の者は、壊理を探し出せ。ああ、あとこれは私の憶測だが…」

 

 ヘッドセット型の通信機を装着した私は、部下からの通信を聴き、その場で指示を出した。

 

「さて…覚悟しろよ、(ヴィラン)共」

 

 私の妹分を攫った代償は、高くつくぞ。

 

 

 

 

 




死穢八斎會の組長ですが、「會なら組長じゃなくて会長じゃねえの?」と思ったため、本作では会長にしています。
原作での言動がクソすぎて治崎救済系二次創作は珍しいので、敢えて本作では救済してみました。
魔改造しすぎてもはや別もんになってて草。

そして本作では味方の八斎會の敵を誰にするか考えた結果、劇場版二作目の敵のナインにしました(あんまりオリキャラが出張るのも良くないと思いまして)。
エリちゃんの“個性”ならナインの“個性”のデメリット克服できそうだし、活真くんの代わりに狙われても不思議じゃないと考えた結果です。おっと、癒治ちゃんにも飛び火が…
今後の展開との兼ね合いで、インターン編・劇場版二作目・ハイエンド編をミックスジュースにしてみました。
なおデクさんは出てこない模様。


ちなみにこの世界線での死穢八斎會の皆さん

会長:面倒見のいいおじいちゃん。原作では組長(オヤジ)と呼ばれていた。上記の理由で会長に変更。
オリ主パッパとマブダチ設定。バリバリの現役です。

エリちゃん:オリ主の妹分。
治崎に虐待されていないので、現時点で“個性”を使いこなしています。
攫われた時真っ先に助けを求めるくらいには、治崎を信頼してます。
“個性”破壊弾?知らない子ですね。

治崎:オリ主の兄貴分。
潔癖症と喧嘩っ早い性格は原作通りですが、本作の世界線ではわりかし冷静で面倒見のいいお兄ちゃんになってます。
オリ主家との協定のおかげで八斎會が潰れるかもしれない危機とは無縁のため、原作ほど過激な性格ではありません。
オバホ?知らない子ですね。

玄野:オリ主の兄貴分その2。
オリ主と“個性”が似ているので、“個性”の訓練に付き合っていたという裏設定があります。
クロノ?知らない子ですね。

入中:会長大好きおじさん。
ただしキレやすい性格は原作通り。
ミミック?知らない子ですね。

音本:若大好きおじさん。
この世界線では副業でカウンセラーをやっています。

宝生:きれいな治崎に拾われた結果、彼女持ちになった人。

窃野・多部:宝生くんのお友達。きれいな治崎に拾われた結果、捻くれ度が下がりました。

乱波:原作通り違法な地下闘技場に入り浸っていた過去持ちですが、治崎とオリ主に負けてからは変な拗らせ方をしてます。
裏社会を取り締まるというよりは、治崎やオリ主と再戦する為に八斎會を守ってる喧嘩大好きおじさん。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
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