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第25話 期末試験があるのでお勉強します
死穢八斎會での宴会の翌日。
雄英の食堂では。
「勉強してねーーーー!!!」
「フフ…フフフ…僕達は勝たなきゃいけないんだ…憎きA組に…」
「物間怖」
鉄哲君の声が響く中、挙動がおかしくなっている物間君を、隣の席に座っていた柳君が怖がっていた。
「鉄哲くん、物間くん。林間合宿行きたいんですよね…ちゃんと勉強しないとダメですよ!」
「ほら、言われてんぞお前ら」
鉄哲君と物間君を療子が真顔で心配すると、回原君が療子に同調した。
「赤点取ったら合宿お預け?ヒーロー科も大変だね…」
「ん」
心操君の同情に、小大君が頷く。
私は仲のいいメンバー*1と食堂に来たのだが、たまたまB組の皆*2と一緒になったので、席を詰めて一緒に昼食を摂る事にしたのだ。
期末試験まで、残すところ10日程となった。
体育祭をきっかけにB組と仲良くなった療子と心操君が、鉄哲君と物間君の世話を焼いていた。
どうやら鉄哲君と物間君は、中間試験の成績が悪かったから頑張らないといけないようだ。
ヒーロー科は、期末試験の成績が振るわないと、林間合宿に参加できないらしい。
まあ合宿云々は、十中八九合理的虚偽だろう。
そもそもヒーロー科の合宿は、実技面の強化が目的だったはずだ。
ただでさえ成績が振るわない者を合宿に参加させずに校舎に缶詰にするなど、非合理的にも程がある。
おそらく合宿に参加できないという虚偽は、生徒に本気を出させる為のものだ。
それをヒーロー科にバラしてしまっては、試験で気を抜いて赤点が続出する可能性も否めないので、言わないのが吉だ…と思う。
「私で良ければ勉強を教えようか?」
私は、心操君の隣の席に炒飯定食*3を置きながら、B組の面々に話しかけた。
「今週末、私の屋敷で勉強会を企画している。もし予定が空いていれば、他のB組の皆も誘うといい」
私は、B組の皆を合同勉強会に誘った。
A組では、百がクラスメイトに勉強を教えるらしい。
B組も百と一緒に勉強できればその方が良かったのだろうが、物間君がA組から勉強を教わるのを嫌がるので(何ならクラスメイトがA組と一緒に勉強する事さえ嫌がる)、赤点の危機に瀕している物間君は私が助けてやる事にした。
「それ、いいですね!鉄哲くんも、勉強教えてもらいましょ。刹那ちゃんすごく頭いいですよ」
「しかもすごく教え方わかりやすいよな」
療子と心操君の言葉に、思わず顔が赤くなるのが自分でもわかる。
ちなみに私の中間の成績は、学年1位だ。
特に数学や物理は、“個性”を使いこなす為の訓練の過程で計算能力を鍛えまくったから、今更試験勉強をする必要がなかったりはする。
化学も、“個性”の使い方の幅を広げる為に体育祭前に勉強したから、高校の範囲はその分の貯金でカバーできる。
それでも父には遠く及ばないが………いや、父が異常なだけだな。
科学者でもないのに、“個性”因子の暴走を抑える方法を確立して“個性”科学史に名を刻むとか…自分の父親にこんな事を言うのも何だが、ハッキリ言って人の皮を被った怪異か何かだと思う。
「誘ってくれるのはありがたいんだけど…いいの?クラス違うのに」
私が提案に対し、拳藤君が申し訳なさそうに口を開く。
「君達は、未来の私の駒だ。見捨てれば、私の恥になる」
私は、蛋花湯を熱いうちにレンゲで掬いながら口を開く。
彼等がプロヒーローを目指す以上、そう遠くない未来に私の駒になる。
私の駒になるのなら、赤点で補習などという無様は晒さないでもらいたい。
というか、我が家の講堂は少なめに見積もっても千人は入れるから、別に20人くらい増えようと正味問題はない。
「君達にも、出来れば指導を頼みたいんだが」
私は、一緒に昼食を食べに来たクラスメイトにも声をかけた。
すると皆は、快く頷いてくれた。
「まあ、いいでしょう」
「私もお手伝いします!」
御法君*4や療子*5も、教える側として当日屋敷に来てくれる事になった。
当日は他にも、サポート科や経営科の友達を呼ぶつもりでいる。
学科全体での座学の平均点は、実はヒーロー科より他科、特に普通科や経営科の方が高い。
ヒーロー科が実習を受けている時間を、
「困った時はお互い様だしナー」
「お前は教わる側だ矢田!!」
「アッーーー!!!ヤメロォアタマワレルゥ!!」
クラス最下位…むしろ勉強を教わる側であるにもかかわらず他人事のように言う矢田君に対し、斥口君*6がヘッドロックをかました。
いつも思う事だが、仲良いなこの二人…
「六徳くん!」
私が炒飯に舌鼓を打っていると、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
振り向くと、飯田君、麗日君、耳郎君、轟君、緑谷君、百の6人がいた。
私が返事代わりに手を振ろうとすると、物間君が席から立ち上がった。
「ちょっと、気安く話しかけないでもらえるかなぁ!?」
「「ウワァ!?」」
物間君がいきなり席を立って難癖をつけてくると、麗日君と緑谷君が怖がる。
「君達、今六徳さんに話しかけようとしたよね!?彼女と話したかったら、許可を取ってもらわないとねええ!?」
「は?」
物間君がとんでもない事を言い出すと、彼以外の全員が呆然とする。
物間君が暴論を語っている背後では、拳藤君が手刀を構えていた。
「癒治さんは騎馬戦で鉄哲とチームを組み、六徳さんは僕らと勉強会の約束をしているんだ。つまりだよ!?2人は
私は、A組に対して一方的に喋り続ける物間君に呼びかけた。
「大きな声で騒ぎ立てるな。座って、行儀良く食事をしようか」
やや遅めのテンポで、諭すような口調で注意をした。
すると物間君は、言葉を詰まらせ、大人しく自分の席に座った。
「………ハイ」
「物間が黙った…!?」
物間君が小さく返事をしながら座ると、B組の面々が驚く。
「ごめんなA組」
拳藤君がA組に謝っている隣では、物間君が借りてきた猫のように食事を摂っていた。
私の友達をA組だからという理由で口撃したのもそうだが…私も療子もヒーローになる気は毛頭ないので、勝手に『名誉B組』などという呼び方をするのはやめてもらいたい。
あとB組がウチで合同勉強会をする事になったのは、元はと言えば君の成績が悪いせいだからな?
「B組っていつもこうなん」
「ああ…うん。物間な、ちょっと心がアレなんだよ」
心操君*7が尋ねると、回原君が歯切れの悪い返答をした。
心がアレって…
「…まあ、多少
一応、フォローはしておいた。
下手にプライドをへし折るような発言をして期末に支障を来しでもしたら、それこそ元も子もない。
精神的に不安定なら尚更だ。
それにしても、療子はさっきから黙り込んで何も言わないが…もしや物間君の発言が気に障ったか?
「……療子?」
恐る恐る療子の顔を覗き込んでみると、療子は少し染まった頬を両手で持ち上げて微笑んでいた。
「仲間だと思ってもらえた…!」
ああ…うん。
良かったね。
◇◇◇
週末、私は友達を家に呼び、講堂で勉強会を開いた。
勉強会には、仲の良いクラスメイトの他に、B組や、サポート科と経営科の友達も来ていた。
私はまず、中間試験の成績を確認し、小テストを解いてもらったわけだが…
「……思った以上に酷いな」
「ほんっとごめんな…」
私が物間君の成績を見てため息をつくと、拳藤君が代わりに謝った。
物間君の成績が予想以上に悪くて、頭が痛くなってきた。
せいぜい20点とか30点あたりだろうと思っていた私が甘かった。
まさか、6教科全て合計しても100点に満たないとは思わなかったよ…
理系教科に至っては一桁だと…?
…これ、何点満点のテストだっけ?
「こいつ、普段の頭の良さからは想像できないくらい勉強できないんだよな」
「ハハ…」
骨抜君が呆れながら言うと、物間君は乾いた笑い声を上げた。
中間は骨抜君が勉強を教えていたそうだが、あまりにも出来なさすぎて間に合わなかったらしい。
逆にこれでどうやって入試に受かったのか教えてもらいたいぐらいだ。
だがここで匙を投げる事は、私のプライドが許さん。
指導を引き受けた以上は、何がなんでも赤点を回避させてやる。
「先に言っておくが、私の指導はスパルタだぞ。昼までこの講堂から退室させるつもりはないから、今のうちにトイレ行ってこい」
「だとよ。頑張んな」
私が言うと、骨抜君が物間君の背中を押した。
「あ、でも、流石にヒーロー史とかは教えられねえだろ?ヒーロー基礎学の授業あるの、ヒーロー科だけだし」
回原君が、ヒーロー史の教科書を見せながら言った。
ほう、言ってくれるねぇ。
「押江君。テスト問題は作ってきてくれたかな?」
「うん。言われた通りに作ってきたよ。こんな感じでどう?」
「……うん、よく出来てる。この問題で合格点を取れれば、期末も心配ないだろうね」
私は、経営科の押江君に作ってもらったヒーロー史のテストを確認した。
割と無理を言った自覚はあるが…よく出来ているな。
前半は基礎的な知識問題を中心に、後半は会話文形式の問題文を挟んで近代のヒーロー制度の変遷や法の制定における背景、現在のヒーロー制度の課題などを分析させる出題になっている。
これで合格点が取れたら、この単元はしっかり理解していると捉えていいだろう。
「何でヒーロー科の授業内容まで理解してんだよ…怖」
円場君が顔を引き攣らせながら言うと、皆が再び顔を見合わせる。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科予備軍が多いじゃん?だから、ヒーロー史とかの授業も受けてるんだよねぇ」
「座学だけね。実習はヒーロー科の特権」
暗土君と斥口君は、私達がヒーロー基礎学の知識もある理由を説明した。
普通科にはヒーロー科への編入を狙っている生徒もいるから希望者は講義を受講できるし、ヒーロー関連の企業への就職を狙っている経営科の生徒に至っては、経営戦略を考える上でヒーロー基礎学の知識が必要になるので、専門的な知識を独学で身につけている者も多い。
ヒーロー科に比べて時間や体力の制約が少ない分、意欲さえあれば知識の仕入れがいくらでもできるのだ。
え、私?
修士や博士レベルの専門知識なら兎も角、高校の授業など一般教養の範疇だ。
社交の場で恥をかかないよう、ヒーロー基礎学の勉強もしている。
午前中は、主に苦手科目の練習問題をひたすら解かせ、残りの時間はその解説に充てた。
短時間で学力を上げるなら、ただ一方的に話すよりも数を熟すに尽きる。
赤点を回避するなら、応用問題は捨てて、基礎問題を自力で解けるようになるまで底上げするのが確実だ。
昼食は、各自弁当を持参してもらって、ダラダラしないよう全員講堂で食べた。
ウチには専属の料理人や執事達がいるとはいえ、流石に50人もの食事の用意と片付けをするとなるとタイムロスが大きい。
優雅なランチに時間を使うくらいだったら、その時間を勉強に充てるべきだ。
それなら、コンビニ弁当でもいいから各自で用意してもらった方が合理的だと考えた結果だ。
ちなみに私の昼食は、生姜焼き定食*8だ。
味は白米の方が好きなんだが、血糖値スパイクによる睡魔が怖いので五穀米にしてもらった。
午後は、主に物間君の得意科目の底上げをしてから、もう一度苦手科目の振り返りをするというスケジュールで勉強を進めた。
理系科目こそ酷いが、英語だけはケアレスミスさえなければそこそこ点を取れてたのは褒めて遣わす(だが赤点)。
「…よし。一旦ここまでにして、休憩にするか」
物間君にスパルタで勉強を教え込んだ私は、参考書を閉じて席を立つ。
私の正面では、物間君が燃え尽きて灰になっていた。
これ以上の詰め込みは逆効果だろうし、少し気分転換するか。
「フ…フフ…打倒A組…打倒A組…」
「物間が壊れたノコ」
「期末までに間に合うかこれ?」
真っ白に燃え尽きた物間君を、B組の皆が呆れ半分、心配半分といった眼差しで見る。
物間君の成績が想像以上に悪くてほぼマンツーマンになってしまったので、他の皆の指導は療子や御法君に任せきりにしてしまった。
だがまあ、勉強していないと騒いでいた鉄哲君も含めて理解に苦しんでいる様子ではなかったので、赤点の心配は要らないだろう。
「もう3時か…そろそろ皆、疲れてきた頃だろう?ケーキがあるんだが、食うか?」
「「「「KUUUUUUU!!!」」」」
おぉう…すごい熱量。
私は呼び鈴を鳴らし、用意しておいたケーキを山根に持って来させた。
「トルタ・ディ・パラディーゾ。イタリア発祥のバターケーキだ。ジェラートを添えて召し上がれ」
イタリア語で『天国のケーキ』を意味するこのケーキは、ロンバルディア州パヴィア発祥の伝統菓子だ。
レモンの皮を気持ち多めに入れてさっぱりとした味わいに仕上げ、ヨーグルトのジェラートを添えてみた。
夏の暑い日の勉強のお供にピッタリの一品だ。
10号の型で2台焼いたが、50人分に切り分けたら一人分がだいぶ小さくなるな…
こんなに参加人数が多いなら、もう一台焼けばよかった。
「So gooood!!」
「口が幸せ〜!!」
「これ、どこの店のやつだろ…あ、それともシェフが作ってくれたとかかな」
私が振る舞ったケーキは、皆に好評だった。
うむ、口に合ったようで何よりだ。
「そうか…うまく焼けているようで良かった」
「え、もしかしてこれ六徳さんが作ったの?」
「ウム。皆が来る前に焼いておいたんだ。普段の食事は新井に任せきりだから、たまには自分で料理をしてみようと思ってだな」
「嘘だろッ!!?」
「マジか、これ手作り!?」
心操君が気づいたので、私が本当の事を話すと、驚嘆の声が上がる。
使用人がいる家の当主だとあまり料理をするイメージが湧かないかもしれないが、私の場合は命を狙われてほとんど学校に行けない事もあったので、山根や新井に頼んで料理を教えてもらったのだ。
簡単な時短料理から難易度の高い料理まで幅広く教わったが、作った料理を食べてくれる女友達がいた事もあって、特にリンゴやザクロを使ったスイーツはかなり上手くなったと思う。
「見事な腕前ですな。お菓子作りは、専属のシェフに習ったのですかな?」
「ああ…あとは、山根に少し……家から出られない事も多かった故…教養として…」
宍田君の質問に、私は指で自分の肉球を揉みながら答えた。
……何だこれ、意外と悪くない気分だ。
いざ褒められると、言葉がうまくまとまらん。
料理を教えてくれた山根と新井には、感謝しないとな。
◇◇◇
勉強が一区切りついた頃、私はB組の女子と一緒にトイレ休憩を取った。
「あの物間が、ブラド先生以外に大人しく教えを乞うとは…六徳さん様様だわ」
「…林間合宿に行かせると約束したしな」
取蔭君の言葉に、私は平然を装いながら応える。
正直、あの捻くれ者に勉強を教えるのはかなり苦労したが…弱音を吐くのは私のプライドが許さん。
「筆記は何とかなりそうだけど…実技試験がウラメシいよね」
「内容が不透明ですものね…」
柳君と塩崎君は、実技試験の心配をしていた。
ヒーロー科は
なんて考えていると、拳藤君が口を開く。
「実技試験なんだけどさ、入試の時みたいなロボ演習らしいよ。先輩から聞いた。ちょっとズルだけど…」
拳藤君は、先輩から聞いたという話をクラスの女子達に話した。
「ああ、それなんだが…今年からは試験内容が変わる可能性が高いと思うぞ」
「えっ?」
「ヒーロー科の実力を測るのに、ロボ無双は非合理的だと判断したのでな。校長に『ヒーロー科の試験内容を変えろ』と進言したのだよ」
私は、入学直後に根津校長に試験内容の変更を進言した事を、B組の皆に話した。
入試でも体育祭でもロボを出したのに、期末もロボ演習は、いくらなんでも非合理が過ぎる。
従来の試験内容のn番煎じをするだけでは、いつまで経っても優秀なヒーローは育たない。
私の予想では、期末の実技は2パターンのどちらかだと思う。
一つ目が、私達他科を要救助者に見立てた救助演習。
当然ヒーロー科には救助訓練の経験くらいあるだろうが、救助の対象はクラスメイトや教師、それからマネキンがほとんどだったはずだ。
一般人を要救助者に見立てた救助訓練の経験は、授業参観を除いてほとんど無いと言っていい。
根津校長の事だから、もし要救助者が私の予想通り他科の生徒なら、“個性”使用アリの妨害…なんてえげつない事をやらせてくる可能性もある。
そして二つ目は、教師陣との戦闘。
ヒーロー科の生徒…特にB組は、自分と同格の相手との戦闘経験しかない。
格上相手に冷静さを欠かずに戦えるかを試してくる可能性は高い。
「まあ勝ち筋は用意してあるだろうし、驕りさえしなければ不合格になる事はないと思うが…」
「「「「「………」」」」」
「………ごめん」
私が気休めを言うと、皆が何とも言えない表情をしたので、一応謝っておいた。
試験内容変更の原因を作った張本人が何言ってんだって話だね…うん。
◇◇◇
その後も物間君に勉強を教え、気がつけば夕方の5時を回っていた。
解散する前に、物間君には私が作った小テストを解いてもらい、勉強会の成果を確認した。
流石に一日では間に合わなかったが、勉強会を始める前に比べて確かに学力の向上が見られた。
試験まであと10日はあるし、そこは課題などで調整する予定だ。
「…ふぅ。あとは、物間君本人の頑張り次第だな」
「ありがとね、六徳さん」
「気にするな。半分は私のプライドの問題だしな」
私がため息をつくと、拳藤君が礼を言ってきた。
今日は、物間君の成績が上がった他にもうひとついい事があった。
それは、B組の皆…特に女子と仲良くなった事だ。
主に物間君絡みの愚痴を聞いているうちに、趣味の話や好きなスイーツの話に発展し、気がつけば相互理解が深まっていた。
…いや、損得勘定抜きにこの問題児の面倒見れるブラドキング先生やB組の皆は、本当にすごいよ。
「ああそうだ物間君、このあと少し時間あるか?」
勉強会をお開きにした後、私は物間君を呼び止めた。
◇◇◇
「うーん…ダメだ」
私と同じように指の腹から肉球を生やした物間君が、残念そうに呟く。
物間君の“個性”は『コピー』、触れた相手の“個性”を5分間使用する事ができる。
“個性”を二つ同時に使う事は不可能だが、一度にストックできる“個性”の数に上限はないらしい。
物間君が私の“個性”を使えるようになれば、できる事がかなり増える。
時間制限がある“個性持ちと組めば持久戦の弱点を克服させられるし、医療知識さえあれば血液の流れを部分的に遅らせて止血したり、毒の侵食速度を遅らせて解毒までの時間を稼いだりできる。
だから“個性”をコピーしてもらって、使い方を教えようと思ったんだが…
「君の“個性”は“スカ”だね」
「スカ?」
「エネルギーを溜め込む系の“個性”だったりすると、エネルギーの蓄積がないから“個性”を使えなかったりするんだよね。君はそのタイプって事」
「…そうか。君が私の“個性”を使えるようになれば…と思ったんだがな」
結論から言うと、物間君の『コピー』では、私の“個性”を発動する事はできなかった。
時を遅くする方法だけでも覚えてくれれば、万能なサポート型ヒーローとして重宝されるんじゃないか…とか考えたんだが、そう都合よくはいかないか。
それにしても、何故“個性”をコピーできなかったのだろうか。
別に、溜め込む系の“個性”ではないんだが…
「だがまあ、体調に異変が無さそうで良かったよ。慣れないうちは、時空への干渉だけで体力を持っていかれるから…」
「あのさ…当然のように言ってるけど、時空への干渉ってどうやるの?」
「え?」
「え?」
「………あっ」
なるほど、ようやく謎が解けた。
どうやら私と彼で、時間操作に対する認識がズレているらしい。
いちいち面倒な説明をするのも非合理的なので、私の“個性”を説明する時は『時を止める“個性”』と言っているが、厳密には少し違う。
正確には、触れたモノに対して歪みを与え、触れたモノを『停滞』させる“個性”だ。
私は時空の歪みを操る事で、高次元空間に干渉して自分以外のヒトやモノの動きを極限まで遅くし、相対的に自分を加速させたり運動エネルギーを増加させたりしている。
運動エネルギーを極限まで増幅させれば、オールマイト並みの超パワーと超スピードを発揮できる。
…まあ、操作領域を拡張すると、単純に扱う情報量が増えるので、脳への負荷が半端ないというデメリットもあるわけだが。
事実、幼少の頃は“個性”を扱いきれずに高熱で寝込んだ事もあったし、体育祭では爆豪君相手に降参せざるを得ない状況に追い込まれた。
私自身、高次元空間の認識と操作は“個性”発現時からできていた事もあって、この“個性”に標準搭載されているスペックだと思っていたんだが、どうやら違ったようだ。
改めて思う。
…認識のズレって怖いね。
「ハハッ…才能の違いってやつか。ほんと、嫌になる」
私が一人勝手に納得していると、物間君が自嘲気味に笑う。
「『一人じゃ何もできない“個性”だ』、なんて言われてきたよ。ま、君にはわからないだろうけど」
「…ああ、わからない。何故くだらん負け惜しみに耳を貸す?君がそんな事を言われる筋合いなど、どこにもないというのに」
私がキッパリと言ってやると、物間君が顔を上げる。
『一人じゃ何もできない』など、ハッキリ言って負け惜しみにしか聞こえない。
心操君の時も思ったが、どいつもこいつも負け犬の遠吠えを真に受けすぎだ。
私からすれば、羨ましいくらいに素晴らしい力だというのに。
「たとえ一億人の命を救える力があったとしても、ヒーローとして活躍できない時点でただのゴミ。それが今の社会だ。だからこそ、君が一億人を救うヒーローになれ。ゴミをゴミじゃないものにできるのは、君しかいない」
私は、自分の考えを物間君に伝えた。
戦えなくなって引退したヒーローは大勢いる。
ヒーローになれなかった者は、もっといる。
今の社会は、ヒーローとして活躍できない者に見向きもしない。
それがたとえ大勢の命を救える力であったとしても、ひっそりと消えていくしかない。
だが物間君の“個性”なら、その力を代わりに使う事ができる。
私にはそれができないから、彼が羨ましい。
「……お世辞が上手いんだね」
「紛れもない本心だよ。じゃ、期末ガンバレ」
そう言って私は、物間君の肩を軽く押してやった。
これで少しは、期末で良い結果を残せるといいんだがな。
ちなみにA組の方は、主に百が筆記、飯田君と轟君が主導で実技の対策をしているそうだ。
飯田君は、私が発破をかけ、
つい最近インゲニウムから飯田家に代々伝わる修行法を教わり、超加速を手に入れたそうだ。
轟君も、エンデヴァーと燈矢さんから炎の圧縮撃ちを教えてもらい、体育祭の時とは見違える程に強くなっているという。
プロヒーローの息子2人が直接実技の対策をしているのだから、A組は私が介入しなくても大丈夫だろう。
強いて言うなら、爆豪君が心配じゃないでもないが…まあ何とかするだろう。
職場体験の直前、少しばかり
◆◆◆
爆豪side
「クソッ……」
クソ髪に勉強を教え殺した後、俺は家の裏庭で“個性”の特訓をしていた。
思うようにいかない苛立ちからか、癖で誰にでもなく悪態をつく。
すると2階の窓が開いて、ババアの声が聴こえてくる。
「勝己!!あんたこんな時間に何やってんの!!近所迷惑でしょうが!!」
「うるせーババア!ちゃんと気ィつけてやっとるわ!」
俺は、2階の窓から身を乗り出して怒鳴ってくるババアに怒鳴り返した。
二度と、体育祭の時みてえな無様は晒さねえ。
俺は
◇◇◇
雄英に入るまで、俺は自分が一番だと思ってた。
戦闘訓練の時、俺はデクに策で負けて、ポニーテールの奴に説教されて、半分野郎には勝てねえんじゃねえかとすら思っちまった。
だがあの時の俺は、そんなもんがチャチに思えるくらいに高い壁があるのを知らなかった。
ポニーテールやデク、半分野郎の全力を捩じ伏せて勝ち上がってきた、六徳刹那という化け物。
あいつには、俺が積み上げてきたもんが何一つ通用しなかった。
結局わけわかんねえ理由であいつが降参して、勝負に負けた俺が試合に勝った。
あれのどこが完全勝利だ。
それだけじゃねえ。
ポニーテールといい、デクといい、半分野郎といい、メガネといい、六徳と関わった奴はあり得ねえ速度で成長してやがる。
体育祭の直後の授業で、俺はてめえがいかに出遅れてるかを思い知る羽目になった。
俺だって、今までずっと何もしなかったわけじゃねえ。
戦闘訓練で屈辱を味わってから、驕らずに特訓して、新技だって編み出した。
なのに、ヒーローを目指してすらいない女に、俺は手も足も出ずにボロ負けした。
あいつにあって、俺に無えもんは何だ…?
「クソが!!」
苛立ちのあまり右腕を振るった、その瞬間だった。
――ふに
振るった右腕が柔らけえ何かに当たったから前を見ると、体育祭で俺に屈辱を与えたデカ乳女が立っていた。
六徳が無表情で見ているのに気付いた俺は、右乳を掴んでいた手を咄嗟に離した。
「…ちゃんと周りを見ないと危ないぞ」
六徳は、何事もなかったかのように制服の皺を直しながら注意をしてきた。
普段なら悪態のひとつやふたつついていたんだろうが、この時の俺はそれどころじゃなかった。
「………悪ィ」
「らしくないな。体育祭の時の威勢はどうした?」
俺が謝ると、六徳は眉間に皺を寄せながら首を突っ込んでくる。
……ほとんどてめえのせいだろ。
「もしや体育祭の結果をまだ引きずっているのか?だとしたらお生憎様。誰が何と言おうと君の勝ちは揺るがないし、私が負けを取り消す事もない。結果に納得できないなら、気が済むまで精進すればいい。…だが、君にとって屈辱的な試合にしてしまった事は、悪かったと思っているよ」
六徳は、すぐ側に置いてあった自販機で飲み物を選びながら、俺に謝ってきた。
奴の言葉は、ムカつくが正論だった。
勝ち敗けを決めていいのは、強え奴だけだ。
決勝はゴミみてえな試合だったが、これ以上結果をどうこう言うつもりはねえ。
俺が納得いかねえのは、そこじゃねえんだ。
「まだ何か思うところがありそうだね。言いたい事があるなら、言ってみろ」
「……ひとつ聞かせろ。ヒーローを目指してるわけでもねえあんたが、何で戦闘において俺の上を行っとんだ。あんたにできる事が、何で俺にはできねえ!?才能の差か!?」
「違う。君が無知なだけだ」
俺が尋ねると、六徳はあっさり答えを返した。
馬鹿にしてやがんのか、こいつ。
「俺が無知なだけだと?」
「そうとも。僭越ながら、君の“個性”を分析した上で気付いた事を言わせてもらおう。君は、“個性”で汗の成分を調整する事はできないのか?」
「……あ?」
「爆発を起こす度に黒煙が出ていたが…あれって、有機物が不完全燃焼を起こした時に出る煙だよな?不完全燃焼が起こっているという事は、爆破の燃焼効率が低いという事だ。完全燃焼の推進力を100%とするなら、今の君の爆破の推進力はせいぜい40〜50%ってところだろう」
なん…だと…?
俺はずっと、半分以下の力でしか戦えてなかったってのかよ…!?
「あと、黒煙が多いと攻撃の度に視界が悪くなるし、環境にも悪い。もし可能なら、燃焼効率のいい爆薬を分泌できるように特訓しろ。自力でやるのが難しいなら、サポートアイテムの仕様を変更してみるといい。…尤も、私も専門家ではないから、これ以上は知識をひけらかすものでもないが」
クソが…
俺は今まで、半分以下の力しか出せてねえ事にすら気付いてなかったんか。
そりゃあ、追いつけるわけねえわな。
「己の無知を知れ。知恵に対して常に貪欲であれ。そうすれば君は、私なんかよりもっと強くなる」
「ボコボコにした相手に対して嫌味かよ」
「何を言っている。私のは、死にかけた事で発現した火事場の馬鹿力…要はズルみたいなものだ。才能で言えば、間違いなく君の方が上だよ」
六徳は、真剣な表情で言った。
真面目な顔しておべっか使うような奴じゃねえって事くらい、俺にもわかる。
そういや、こいつは試合中イラつく事を色々言ってきたが、俺を相手に慢心した事は一度もなかったな。
「私のつまらない考察に付き合ってくれた礼に、一杯奢ってやる。この熟成豚キムチオレなんてどうだ?君、辛いの好きだろ」
「気色悪い気遣いしてくれてんじゃねえ!!」
自販機で売ってた気色悪い飲み物を勧めてくるデカ乳女に、俺は爆破を放ちながら怒鳴った。
何だ豚キムチオレって、辛えのかしょっぺえのか酸っぺえのか甘えのか苦えのかわけわかんねえじゃねえか!!
◆◆◆
刹那side
「ふぅっ」
物間君を家に帰し、この日の事務作業を終えた私は、自室のシャワールームで熱めのシャワーを浴びた。
胸を寄せて谷間にお湯を溜めては離す、などという遊びをしながら、身体の汗を流した。
…いやほんと、今日一日疲れたなぁ。
まあ人に教えるのは、自分の勉強にもなるから嫌いではないが。
身体を洗い終えた私は、髪を入念に乾かしてから軽く結ってナイトブラとハイレグのTバックを身につけ、ベッドの上で汗をかかない程度に軽くストレッチをした。
普段は上にパジャマかネグリジェを着るのだが、ストレッチをするのに邪魔なので、風呂上がりのストレッチの時は基本的に下着しか身につけない。
「う〜…んっうぅ〜…」
ストレッチをしていると、身体がほぐれてきたからか、眠くなってきた。
髪を結んでいたヘアゴムをほどいてから、シーツに身を預け枕を抱きしめる。
ダメだ…服を着ないと、山根に怒られる…
でも眠い……
結局睡魔に負けた私は、重い瞼を閉じ、眠りについたのだった。
地味に飯田君とかっちゃん強化入りました。
ぶっちゃけ飯田君に関しては、肉球マッハ女をオリ主として出しちゃったせいで、これくらいしてあげないと立つ瀬がないんや…
何かとオリ主のおっぺえに巻き込まれるかっちゃんですが、思ったより体育祭編の反響があったので完全に作者が味をしめてます。
かっちゃんとのやりとりはもっと早い段階で書きたかったんですが、ヒーロー科中心の話でもないタイミングで挟むのは不自然だと考え、このタイミングに回想という形で挟みました。
決してど忘れしてたからじゃないです。
本作では、学科全体での学力の平均はヒーロー科より他科の方が高いという設定にしています。
午後の授業で訓練をしているヒーロー科よりは、ガッツリ大学受験の為の勉強をしているであろう普通科や経営科の方が学力高いイメージあるので。
受験を舐めるな(半ギレ)。
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毎度お馴染みオリキャラ紹介
経営科の男子生徒。1年K組所属。
経営アドバイザー志望。
A組の期末前の修行パートいります?
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書け
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いらん、本編進めろ
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んなもんより他の番外編書け
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好きにしな