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「ねむい……」
B組やクラスメイトとの勉強会をした次の日、私はいつもより早めに家を出発し、山根の運転するリムジンで学校に向かった。
それはいいのだが、朝起きた時からずっと眠くて仕方ない。
というのも、昨日寝間着を着ないで寝落ちしたせいで身体が冷えたらしく、きちんと眠れていないのだ。
私がシートにもたれかかってうつらうつらしていると、私の考えている事を見透かしたのか、山根が厳しい指摘をする。
「きちんと寝間着を着ずにお休みになったからでは?」
「……見たのか、スケベジジィめ」
「スケベジジィで結構。お嬢様の体調管理も、私めの役目でございます」
「ムッ…」
山根は、私が昨日下着で寝た事を詰ってきた。
朝起きた時、かけた覚えのない毛布が身体にかかっていたが、おそらく私が寝ている間に山根が毛布をかけてくれたのだろう。
寝不足は完全に私の自業自得だし、私の身体を案じて毛布をかけてくれた山根には本来感謝すべきなのだが、ただでさえ眠い時に正論を言われるのもなんだか癪なので、揚げ足を取って論点をすり替えようとした。
だが私のそんな浅はかな考えをも見透かされ、あっさり論破された。
私が生まれる前から当家に仕えていただけあって、山根にだけは敵わないとつくづく思う。
改めて思ったが、眠い時や忙しい時に正論を吐かれると鬱陶しく感じるものだな。
今なら、入学式や授業参観の時に私が論破した相澤先生の気持ちがわからんでもない。
だからといって、正しい事をするのをやめるつもりはないが…
鬱陶しい思いはしたくないので、今度からは腹を出して寝るのはやめよう。
こうして私は、また一つ賢くなったのだった。
「……ん」
授業の前に少しでも睡眠をとっておこうと目を瞑ろうとしたその時、何かの気配を感じた。
気配と呼べるかすら怪しい、確証のない直感。
だがそれがただの直感ではない事を本能的に悟ったからか、完全に目が覚めた。
私は、シートから飛び起きて山根に呼びかけた。
「おい、車止めろ」
「はい」
山根がブレーキを踏み込んだ、次の瞬間。
突然、何かが道路の上に飛び出してきた。
よく見ると、それは8、9歳くらいの子供だった。
ギリギリブレーキが間に合い接触せずに済んだが、車とぶつかりそうになって腰を抜かしたのか、飛び出してきた子供は車の前で尻餅をついていた。
私は車から降り、目の前にいる子供に歩み寄った。
「大丈夫か、少年」
私は、急に飛び出してきた子供に声をかけた。
黒い髪が無造作に伸び切っていて、頬は痩せこけて青白く、服はボロボロで、口からは紐が垂れ下がっている。
ガラスの破片や砂利を裸足で踏んだからか、足の裏は表皮がボロボロになり血で赤く染まっていた。
華奢な体格だが、多分男の子で合っている…と思う。
私が近づこうとすると、少年は電池が切れたかのように道路の上に倒れた。
少年に駆け寄り痩せ細った身体を抱きかかえた私は、思わず言葉を詰まらせた。
「っ……!?」
……酷い熱だ。
この暑さのせいか、熱中症を起こしている。
それだけじゃない。
所々にできた傷口が化膿して、感染症を引き起こしている。
感染症によって免疫力が下がっていたせいで、熱中症を発症してしまったのだろうか。
この状態でよく外を出歩けたな…
というか、保護者の姿が見当たらないが…何故こんなになるまで放置しておいたんだ?
それとも、
どちらにせよ、早く治療しないと取り返しのつかない事になる。
「山根、今すぐドクターに連絡。あと、一応警察にも通報しろ。この少年、何らかの事件に巻き込まれている可能性がある」
「はっ」
私は、少年に応急処置を施しながら山根に指示を出した。
意識を失っている少年をリムジンに乗せ、山根の“個性”で作った氷嚢で少年の身体を冷やしながら、セントラルへと車を走らせた。
◇◇◇
少年を病院に送り届けた後、一応警察に通報をし、私はその足で登校した。
もしかしたら保護者が行方不明の少年を探しているかもしれないので、本来なら真っ先に保護者に連絡を入れるべきなのだろうが、少年は身元がわかるものを何も持っていなかった。
警察が少年の身元を調べてくれているが、何しろ情報があまりにも少なすぎるし、
昼休み、私は医与に電話をかけ、少年の容態を尋ねた。
『幸い、命に別状はないわ。病院に運び込まれるまでの処置が適切だったおかげよ』
「そうか…」
『…ただ、この子の怪我、昨日今日でできたものじゃないわ。身体に夥しい自傷の痕があった。4年か5年か…ずっと劣悪な環境下で育ってきたのでしょうね』
医与から聞いた話は、ほとんど私の想像通りだった。
私が保護した少年(医与曰く、名前は照元光輝君というらしい)は、やはり長年にわたって虐待を受けていたようだ。
最初は誘拐の可能性を疑っていたが、全身に刻まれた自傷痕はどう見てもここ数日でついたものじゃない。
もちろん、長期間にわたって
光輝君の親は何故、彼が攫われた時点で、通報も近隣住民への呼びかけもしなかったのだろうか。
よほど後ろめたい事でもない限り、まともな神経をしている親なら、警察に行方不明者届を提出するか、近隣住民に呼びかけて捜査協力を仰ぐかするはずだ。
もし警察沙汰になればこのご時世、すぐニュースに取り上げられる。
西馬の“個性”を使い10年間のニュースや届出を調べたが、光輝君が行方不明になったというニュースも、行方不明者届が提出された記録も、何一つ残っていなかった。
だとすると、そもそも警察に通報していない可能性の方が高まってくる。
もしそうなら、私が当初想定していた、
光輝君の保護者が虐待の加害者だという可能性だ。
もし保護者が虐待の事実を隠していたのだとしたら、近隣住民からはごく普通の家族に見えた事だろう。
もちろん光輝君の保護者が虐待をしていたというのは、単なる私の妄想に過ぎない。
『通報したら子供を殺す』と誘拐犯に脅されていた可能性もあるし、通報していなかったからといって虐待だと決めつけるのは、些か飛躍しているような気もする。
だが妄想も、証拠と根拠があれば真実になり得る。
妄想の真偽を確かめるべく、私はある人物に電話をかけた。
「お忙しいところ申し訳ございません。調べていただきたい事があるのですが…」
◆◆◆
???side
私達警察は、先日六徳家が保護したという光輝君の家に来ていた。
第一発見者である当主様ご本人にもご同行いただき、警察官とヒーロー数人が玄関前に待機している。
それはいいんだけど…
随分と立派な豪邸だ事。
調査によれば、曽祖父、祖父、祖母、叔父、叔母、父、母、姉、そして光輝君の9人家族だそうだけど…祖父母はともかく曽祖父や叔父叔母まで同居しているなんて、相当裕福な家よね。
こんなに綺麗で広い家で虐待が行われていたなんて、にわかに信じ難いわ。
なんて考えていると、住民と思しき男性がドアを開けた。
「はい」
ドアを開けたのは、端麗な顔立ちをした壮年男性だった。
多分、光輝君の父親だと思う。
神父を思わせる真っ白な服を着ていて、家の玄関はステンドグラスや十字架を模した置物で装飾されていた。
……なるほど、大体察しがついたわ。
「長野県警の白石です。先日、お宅のお子さんが一人で出歩いているとの通報を受けましたので、こちらで一時的に保護させていただきました。安否確認のため、ご家族の方に面会をお願いしたいのですが…」
私は、この家に住む家族に虐待の容疑がかかっている事は伏せ、光輝君を預かっている事を伝えた。
本性を顕にするのか、それとも白々しく『心配していた』なんてほざくのか…
私が男の挙動を注意深く観察しながら反応を予想していると、彼は笑みを浮かべながら平然と言った。
「保護?人違いでは?ウチには息子なんていませんよ」
なるほど、そうきたか。
どうやらこの家族は、本気で光輝君の存在をなかった事にしたいようね。
でも、今ので完全に墓穴を掘ったわね。
「お言葉ですが…私は、保護したのが息子さんだとは一言も言っていませんよ」
「っ!?」
私が言うと、男はわかりやすく顔を歪める。
これはもう、100%クロね。
虐待の証拠を隠されようものなら、手の打ちようがなかったけど…これで心置きなく、ここに来た
「それから…照元晃さん。光志郎さん、煌晴さん、日和さん、朝陽さん、晄雄さん、明見さん、彩さん。あなた方8名を、傷害及び監禁の容疑で逮捕します」
「逮捕だと…!?ふざけるな!!証拠もないのに人の家に上がり込んで、許されると思っているのか!?」
私が逮捕状を見せながら罪状を読み上げ、部下と一緒に家に上がり込むと、被疑者一家が声を荒げながら抵抗してきた。
証拠がどうとか言うけど、残念ながら逮捕状が発行されてる時点でネタは出揃ってるんだな、これが。
六徳家の当主様…刹那ちゃんに、親族による虐待の可能性を考慮して捜査を進めてほしいと頼まれて調べてみたら、虐待の証拠が次々と出てきて、逮捕する充分な理由に該当すると判断した裁判所が逮捕状を発行してくれたのだ。
逮捕状が発行された以上、暴れたところで逮捕は覆らない。
私達は、暴れる被疑者一家を取り押さえ、表に停めておいた護送車に一人ずつ押し込んだ。
「離せ!!私達は、神に選ばれた一族だぞ!!神聖な血筋から穢れを排除するのは、創造主のご意志だ!!私達は、正しい行いをしたのだ!!!」
照元晃は、連行されている最中も、詭弁を並べて自分の行いを正当化していた。
私が“無個性”だからなのかもしれないけれど、“個性”で人を判断する人には全く理解も共感もできない。
ここまでくると、もう病気としか思えない。
私が照元の言い分に呆れていると、刹那ちゃんが口を開いた。
「…確かにあなたのおっしゃる通り、光輝君はあなた方の家族ではありません」
「何だと…?」
「貴様らに、あの子の家族を名乗る資格はない。光輝君は、私達が責任を持って育てる。貴様らは、豚箱で一家団欒してろ」
刹那ちゃんは、嫌悪に満ちた表情を浮かべながら、照元に侮蔑の言葉を投げかけた。
確かに照元一家は、刹那ちゃんにそう言われて当然の事をした。
だけど私には、刹那ちゃんの
◇◇◇
照元一家を逮捕した後、事情聴取のため刹那ちゃんに警察署に来てもらった。
一通り話を聞き終えた私は、お茶を淹れて刹那ちゃんに出した。
「落ち着いた?」
「…はい。ありがとうございます」
刹那ちゃんは、私が淹れたお茶を飲みながらひと息ついた。
刹那ちゃんはらしくもなく、苛立ちを露わにしていた。
私には、刹那ちゃんがあの家族に対して自分の事のように憤る理由がわかる。
刹那ちゃんには、生まれる前に亡くなった弟がいた。
もし無事に生まれてきていたら、今年で11歳になっていたらしい。
きっと、弟と歳が近い光輝君に、亡くなった弟を重ねているんだと思う。
「刹那ちゃん。あなたがあの家族に対して憤るのも無理はないわ。でもね、これだけは覚えておきなさい。光輝くんは、あなたの弟じゃないのよ。光輝くんを言い訳にあの家族に八つ当たりするのは、人として正しい行いとは言えないわ」
私は、優しめの口調で刹那ちゃんを諭した。
すると刹那ちゃんは、ハッとした表情を浮かべたかと思うと、眉間に皺を寄せて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
かと思えば、ため息を吐いてから、どこか覚悟を決めた様子で笑顔を浮かべた。
私には、彼女が何を考えてこんな顔をしているのかはわからない。
だけどきっとこの数秒の間に、目まぐるしい速度で思考を巡らせて、彼女なりの答えを出したのだと思う。
「ご忠告ありがとうございます。もう、大丈夫です」
刹那ちゃんはそう言って席を立った。
話が終わる頃には、日が暮れて外はすっかり暗くなっていた。
「捜査にご協力いただき、ありがとうございます」
私は、刹那ちゃんに向かって敬礼をしながら彼女を見送った。
刹那ちゃんが光輝君に弟を重ねるあまり道を踏み外そうとしていないか不安だったのだけれど…今の彼女なら、その心配も必要なさそうね。
◆◆◆
刹那side
「はぁ……」
自分の愚かさに厭気が差し、ついため息が溢れる。
私とした事が、自分本位な判断で、光輝君の家族に暴言を吐いた。
白石警部の言う通り、私は、事件の日に亡くした弟を光輝君に重ねていたのかもしれない。
両親と弟を殺した黒幕がいまだにのうのうと生きている事に対する苛立ちが、光輝君を虐待していた家族への怒りにぴったりと重なって、あの家族に八つ当たりをするという愚行に走ってしまった。
ただの暴言にとどまらず、『死ね』という言葉が喉元まで出かかっていた。
まあ、それを口に出すのは、ギリギリ残っていた理性が踏み止まらせてくれたが。
確かに光輝君の家族は、客観的に見ても裁かれて当然の事をした。
だがその事と、私の弟が殺された事とは何の関係もない。
何が愚かだったかって、私は光輝君を、自分の鬱憤晴らしの口実にしようとしたのだ。
私情で周りが見えなくなって、一番なりたくない自分になってた。
「…っと、もうこんな時間か」
事情聴取の間にも反省と自己分析を続ける事数時間、空はすっかり暗くなっていた。
やってしまった事をいつまでも悔いるより、これからどうすべきかを考えた方が合理的だ。
それに、こんな状態で光輝君に会いに行っては、きっと不安にさせてしまう。
いい加減、切り替えないとな。
「やあ、調子はどうかな」
警察署で事情聴取を受けた後、私は光輝君のお見舞いの為にセントラルを訪れた。
暇潰しに読めそうな本を見繕って、面会時間終了ギリギリに駆け込んだ。
光輝君は、広い個室のベッドに腰掛けていた。
医与から聞いた話によれば、光輝君は現代ではあり得ない程の栄養失調状態にあり、感染症や熱中症を引き起こしたのもそのせいだという。
リフィーディング症候群を防ぐため胃腸に優しい病院食を出していたそうだが、それでも食事が喉を通らないらしく、ほとんど残していたそうだ。
栄養補給だけなら薬剤や点滴でもできるが、精神面が心配だ。
「今日は、本を持ってきたんだ。ここに置いておくから、好きなのを読むといい」
私は、行きつけの本屋で見繕った本を病室の本棚に置いた。
光輝君の知能年齢や趣向がわからないので、私も幼少期に愛読していたハリーポッターの絵本や、わかりやすい図解つきの鉄道図鑑、幼稚園児から高齢者まで楽しめるパズル本など、幅広く買っておいた。
本を見繕っている時、西馬がやたらとしつこくうんこドリルを勧めてきたが…子供が誰でも下ネタで喜ぶと思うなよ。
閑話休題。
私は光輝君が読めそうな本を持ってきたが、光輝君の反応はあまり芳しくなかった。
読みたい本がなかったのか…それとも、本嫌いだったかな。
「……かえらなきゃ」
光輝君は、ベッドから起き上がって帰ろうとしていた。
「かってにおうち出てきたから、かえらなきゃ…パパにおこられる…」
何故、いきなり『帰らなきゃ』などと言い出したのだろうか。
…ああ、私が自分を家に帰らせようとしていると思っているのか。
無理矢理家に帰らされるくらいなら、自分の意思で帰った方が、罰が軽く済む。
今まで、そうやって教え込まれてきたのだろう。
これは本来、光輝君の精神が回復するまで黙っておくべき事なのだろうが…
私は、光輝君に本当の事を伝える事にした。
「君の家族は、遠いところへ行った。いつ会えるかはわからない」
「え…」
私がそう伝えると、光輝君は僅かに目を見開く。
家族が逮捕されたと知ったらショックが大きいだろうから、流石に『悪い事をしたから捕まった』とは言えなかったが、二度と親に会えない事は伝えた。
「パパやママの代わりにはなれないけれど、私にしてほしい事があったら、何でも言ってくれて構わない」
「パパとママは、どこに行ったの?」
「君の知らない、どこか遠いところだ」
「シスターも、おじさんも、おばさんも、じぃじも、ばぁばも、大じぃじも…みんな、いなくなっちゃったの…?」
「そうだ」
私は、一切の私情を交えず、事実を淡々と伝えた。
すると光輝君は、俯いて涙を流した。
私は白石警部に窘められてから、ある覚悟を決めていた。
それは、光輝君に恨まれる覚悟だ。
虐待している親を裁く事が、必ずしも子供にとって救いだとは限らない。
たとえ子供を虐待するような親でも、子供にとっては、親が世界の全てだ。
親を裁く事が、ある子供にとっては救いでも、別の子供にとっては絶望かもしれない。
それでも私は、毒親を裁く事が間違いだとは思わないし、今後もやめるつもりはない。
何故なら私はどこまで行こうと、子供の気持ちより、秩序を守る事の方が大事なのだから。
無理に救おうとして自己矛盾を抱えるくらいなら、救えないものもあると割り切って、恨まれるくらいが丁度いい。
そう思えてしまうのが、私がヒーローに向かない所以だと思う。
私は光輝君の家族に家族の資格を説いたが、子供の幸せよりも条理を優先できてしまう私には、幸せを説く資格などないのかもな。
「じゃあ…もう、痛い思いしなくて済むかなぁ…?」
光輝君は、大粒の涙を流し顔を引き攣らせながらも、笑っていた。
家族がいなくなったと聞いて流したのは、安堵の涙だったのか…
入院中も、家族の影が付き纏って、心を許せずにいたのだな。
私達が保護するまで、どれほど痛く苦しく、怖い思いをしてきたのだろう。
今までたった一人で、どれほどの我慢をしてきた事だろう。
私は、堪えきれずに光輝君を抱き寄せた。
「…うん。もう二度と、痛い思いなんかさせない。君が笑っていられる未来を、私が作ってみせるから…君は、君の好きに生きていいんだ」
「お姉ちゃん…」
「遅くてごめん。でももう、独りにさせない」
私は、光輝君の痩せ細った身体を抱きしめながら約束した。
光輝君は、私の胸に顔を埋め、腕の中で大声を上げて泣いた。
私に必要だったのは、この子に恨まれる覚悟なんかじゃなかった。
たとえどんな困難が待ち受けていたとしても、この子を…この子が笑って生きられる未来を守る覚悟だ。
◆◆◆
光輝side
4さいのたんじょうび、僕はおいしゃさまから、『かけいのどこにも属さないとつぜんへんいの“こせい”』だときかされた。
あの日から、パパも、ママも、シスターも、おじさんも、おばさんも、じぃじも、ばぁばも、大じぃじも、みんなやさしくなくなった。
みんな、僕をきみわるがって、僕をなかまはずれにするようになった。
ママとシスターがつくったごはんも、僕の分だけなかった。
まるで、僕のことがみえてないみたいだった。
パパとじぃじは、僕をちかにとじこめた。
いやがったら、口をぬわれて、またとじこめられた。
暗くて、怖くて、痛くて、悲しかった。
何がいけなかったのだろう。
なんで、僕だけこんな目に…!!
――一緒にお祈りしましょうね。そうすれば、神様が助けてくれるから。
シスターは、いつも僕にそう言っていた。
でも苦しいとき、どんなに祈っても、神さまは助けてくれなかった。
神さまなんて、どこにもいなかった。
僕は、シスターをうそつきだと思った。
みんながお出かけに行った日、僕はおうちを飛び出した。
パパはへやから出ちゃダメだって言ってたけど、あつくて、おなかがヒリヒリ痛くて、がまんできなかった。
久しぶりの日の光は、とても痛くて、怖かった。
走ってたら、目の前がぐらぐらして、立っていられなくなった。
「大丈夫か、少年」
頭がくらくらしてうごけない僕を、お姉ちゃんが助けてくれた。
お姉ちゃんは、僕をびょういんにつれていってくれて、痛いところを治してくれた。
でもやくそくをやぶったから、怒られて、おうちに帰らされると思った。
おうちには帰りたくなかったけど、帰らされてなぐられるのはもっといやだったから、自分で帰らなきゃって思った。
だけどお姉ちゃんは、やくそくをやぶった僕を怒らなかった。
ずっと痛くて苦しかった僕を、抱きしめてくれた。
お姉ちゃんのうでは、あったかくて、やさしかった。
「遅くてごめん。でももう、独りにさせない」
だれも助けてくれないと思ってた。
神さまなんていないと思ってた。
でも神さまは、ここにいた。
やさしくて、きれいな、僕の女神さま。
◆◆◆
刹那side
その後も、私は面会時間が終わるまで、光輝君と話をした。
光輝君は、私が話す度に反応を見せてくれるようになった。
まだ上手く笑えてはいなかったが、これから少しずつ笑えるようになればいい。
「おっと、そろそろ面会時間が終わる。それじゃあ、明日もまた来るよ」
私が荷物をまとめて病室を出ようとすると、光輝君は両手を組んで祈るような姿勢を取った。
私はその行動の意図が分からず、思わず片眉を上げた。
「…何をしているのだね?」
「神さまに、お祈りをしています」
お祈り…か。
そう言えば、光輝君の家は宗教系の家系だったな。
だが、親の躾が染みついているというよりは、光輝君が自分の意志で祈っているように見える。
「フム…だったら、『お願い』より『ありがとう』の方に力を込めて祈るといい」
私がアドバイスをすると、光輝君は両手を固く握りしめ、もう一度祈りを捧げた。
私はその姿を見届けてから、病室を後にした。
『神に祈る時は、『願い』よりも多く『感謝』を伝えろ』。
生前の父の教えのうち、最も好きな言葉のひとつだ。
11年前の元旦、家族で初詣に行った時、父に「願い事より多く感謝を伝えろ」と言われた。
当時は参拝の時に感謝する意味がわからなかったから、父に「何で?」と尋ねたら、父はこう言った。
――お前なぁ…誰だって、『助けて』ばっか言ってる奴より、ちゃんとお礼言ってくれる奴を助けたいに決まってんだろ?
その言い分が父らしくて、今でもふとした瞬間に思い出している。
父はいつも運を味方につけていたし、父の周りには自然と人が集まっていた。
思えば父は、神の寵愛を受けるべくして受けていたのだと思う。
私が父のアドバイスを光輝君に教えたのは、私の個人的な願い故だ。
光輝君は家族に愛されなかったから、せめて神様だけは、あの子を愛してやってほしい。
…ところで、光輝君は何故ドアに向かって祈っていたのだろう?
願い事をする時は普通、窓の外…もっと言えば、天に向かって祈るものだと思うのだが…
彼の信じる神が、ドアの方にいた…という事なのだろうか。
◇◇◇
その日から、光輝君は少しずつ明るくなった。
少しずつではあるが病院食も食べてくれるようになって、私が買った本も読んでくれた。
気に入らなかったら、知人が運営する児童養護施設に寄付するつもりだったんだが…気に入ってくれたようで何よりだ。
ちなみに光輝君は、私が推していたハリーポッターの絵本が気に入ったらしく、最初に買っておいた『賢者の石』をあっという間に読破してしまったので、続編も買っておいた。
「君は、この中だと誰が好きなのかな」
「……スネイプ先生」
「私と同じだ」
私が微笑むと、光輝君ははにかんだ。
それにしても、スネイプ先生推しとは…話がわかるじゃないか、少年。
推しについて語り合う仲間が増えた。やったね!
何というか、光輝君とは気が合いそうな気がするな。
互いに酒を飲める年齢になった時が楽しみだ。
気がつけば光輝君は、すっかり私に心を開いてくれるようになった。
私としても、弟が増えたようで嬉しい。
だが、私が光輝君を引き取って面倒を見れるかと言われれば、正直な話難しい。
と言うのも、昼間は学校があるし、朝と夜も六徳家当主としての仕事が山積みだから、安定して休みを取れる時間帯が夜中くらいしかない。
私が引き取ったところで、光輝君に寂しい思いをさせてしまうかもしれない。
何より、やっと長年の虐待から解放された彼には、六徳家に付き纏う重圧を背負わせたくはない。
光輝君の幸せを考えるなら、養子縁組を利用するか、信頼の置ける施設に預けた方がいい。
児童養護施設を運営している
変わり者だが面白くて良い奴だし、施設の子供達も一癖も二癖もあるが根は良い子ばかりだから、光輝君の事を息子か兄弟のように可愛がってくれるはずだ。
◇◇◇
「一時はどうなる事かと思ったが…信頼できる引き取り手がいてよかった」
「左様でございますね」
私は帰りの車の中で、山根とそんな会話をした。
こういう時、信頼の置ける場所があるというのは大きい。
やはり、気のいい奴と友達になっておくと、良い事があるものだな。
「ところでお嬢様、明日の期末試験の自信の程は?」
「まあ…ぼちぼちだよ」
「では、心配は要りませんね」
私が山根の質問に答えると、山根は目を細めて笑った。
ここ一週間忙しすぎて危うく忘れるところだったが、明日は期末テストだ。
仲のいい友達には抜かりなく勉強を教えたし、私も光輝君にばかり構って勉強時間を削るなどというアホなマネはしていない。
試験の内容にもよるが、私が直接教えた友達は、前回より成績が上がっているはずだ。
私も、うっかり気を抜いて1位の座を奪われないように、気を引き締めて臨まないとな。
ジョキジョキくん救済回。ババァごめんな。
ぶっちゃけジョキジョキくんの話を挟めそうなタイミングがこれ以降なかったので、ここで強引にぶち込みました。
原作が最終回を迎える前に最終話を迎えてしまった二次創作が圧倒的に多いため、ジョキジョキくんが出てくる二次創作は希少です。
これからもっと増えるといいなぁ〜(チラッチラッ
照元家ですが、原作の描写から、本作では上級貴族を先祖に持つ宗教系の家系という設定にしています。
光の“個性”の家系で、一族の純潔を守るために近親婚を繰り返してきたため、氷叢家ばりに血が濃く度し難い一族です。
闇の“個性”を持つジョキジョキくんが神さま(オリ主)の寵愛を受けて、光の“個性”を持つ家族が陽の差さない豚箱にぶち込まれるという皮肉。
とりあえず、無垢な少年の価値観(と性癖)を破壊した顔面つよつよドスケベ巨乳巨尻隻眼肉球女の罪は重い。
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お馴染みオリキャラ紹介
長野県警の警察官。階級は警部。
刹那が信頼を置く警察官の一人で、“無個性”でありながら凶悪
大じぃじ。
じぃじ。
ばぁば。
パパ。
ママ。
おばさん。
おじさん。
シスター。
A組の期末前の修行パートいります?
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書け
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いらん、本編進めろ
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んなもんより他の番外編書け
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好きにしな