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3日間に及ぶ期末テストも、無事に終わった。
私の家で開催した勉強会の成果もあり、全員が手応えを感じられたそうだ。
今回は、光輝君の保護に関して必要な事務処理に追われていたから、逆に私の方が不安だったりはしたが…
それなりの手応えはあったので、よほどしょうもないミスでもしていない限り90点を下回る事はないだろう。
「あー終わったー」
「全部埋められた?」
「うん」
ようやく期末テストが終わった事だし、週末買い物に行くか。
ちょうど買いたいものもあるし。
………あ、そうだ。いい事思いついた。
私は、帰り支度をしている心操君に声をかけた。
「心操君。明日の休み、少し付き合えるか?君にしか頼めない事があるんだ」
「あ、うん…」
私が尋ねると、心操君は携帯を見ながら頷いた。
よしっ、いい返事を貰えた。
明日は心操君にやってもらいたい事があるが、それが終わったら好きなものを買ってやろう。
さて…と、明日はどんな格好をしていこうかな。
◆◆◆
心操side
テスト明けの日曜日、俺は六徳さんと買い物をする為に待ち合わせ場所に向かった。
正装とまではいかないけど、家にある私服の中で一番高い服を着てきた。
…いや、別に期待してるわけじゃないからな?
あまり安物の服を着てくると、六徳さんに失礼だと思っただけで…
そもそもデートに来たわけじゃないし…何なら、俺じゃなくてもよかったわけだしな。
俺が六徳さんに買い物に誘われたのは、プレゼントを選ぶ為だ。
何でも、この前保護した光輝君という男の子に贈り物をしたいけど、小学生くらいの男の子は何をあげれば喜ぶのかがわからないらしくて、男として忌憚のない意見を俺に聞きたいそうだ。
俺は六徳さんの力になりたいだけで、これを機に付き合えるかもとか烏滸がましい事は考えていない。
…まあ、付き合いたいと思ってないと言えば嘘になるけど。
「お待たせ」
しばらく待っていると、俺の目の前で黒いリムジンが停まり、中から六徳さんが降りてきた。
ノースリーブの青いワンピースの上に白いレースのカーディガンを羽織っていて、髪を高い位置でまとめ、青い宝石がはめ込まれたイヤリングをつけている。
ワンピースの上に透け感のあるカーディガンを着ているから、カーディガン越しにうっすらと腕が見える。
スレンダーラインのワンピースが六徳さんのスタイルの良さを強調していて、周囲の視線を独占していた。
「…どうかしたか?」
「ああ、いや…」
俺がつい見惚れていると、六徳さんが話しかけてきたから、思わず視線を逸らした。
何凝視してんだ俺、キモすぎんだろ…
◇◇◇
俺と六徳さんが来たのは、六徳グループが経営する日本最大手のデパート、『六徳百貨』だ。
どっかの国の宮殿かと見紛う立派な西洋建築の中に入ると、目の前には巨大な大理石の彫刻が鎮座していて、その両傍には二階へと続く大階段が見えた。
上を見上げると、天井にはステンドグラスが填め込まれていた。
相変わらず育ちの違いを見せつけられつつ六徳さんについていくと、制服を着た従業員達が両傍に綺麗に整列して頭を下げた。
「ようこそお越しくださいました、刹那お嬢様。お連れ様は心操様ですね」
「お子様向けの商品は6階にございます」
そう言って店員さんが、俺達を6階に案内してくれた。
ちなみに何故店員さんが俺の名前を知っていたかというと、六徳さんが俺と一緒に買い物に来る事を伝えていたからだそうだ。
6階には、子供向けの服や雑貨、玩具なんかを扱っている店が並んでいた。
小さい子供が遊べるようなスペースもあって、客を飽きさせない工夫がされている。
欲しいものを言えば、その商品のエキスパートが、最適の商品を紹介してくれるそうだ。
……あれ?だったら俺、いらなくね?
「私としては、雑貨とかがいいと思うんだが…心操君はどう思う?」
「あのさ…六徳さん。これ、俺が来る意味あった?」
「え?」
「いや、だってさ…プレゼントを贈りたいんだったら、店の人に選んでもらえばよかったんじゃないの?」
俺が言うと、六徳さんは目を僅かに見開いて一瞬固まる。
そして何かを考えたかと思うと、少し上目がちに俺を見ながら、徐に口を開いた。
「……君が選んだプレゼントを贈りたいんだ。それじゃダメか?」
「っ……」
……待って。
その顔はずりぃよ。
これ、素でやってんのか?
…いや、計算であってくれ。
じゃないと、色々保ちそうにない。
「そういう事なら、俺が選ぶけど…」
六徳さんの言葉に何も言い返せなくなった俺は、彼女の頼みを引き受けた。
そうと決まれば、責任重大だけどやるしかない。
俺には兄弟がいないけど、子供だった事はある。
光輝君に喜んでもらえるようなプレゼントを選ばないとな。
「無地だと味気ないか…小学生だしな。ドラゴンのやつ…は、やめておいた方がいいか。GANRIKI☆NEKO…うーん……」
「そこは『オールマイト一択でしょ』とか言わないんだな」
「子供が誰でもヒーロー好きとは限らないからな」
「………フム」
俺がプレゼントを選んでいると、隣で雑貨を選んでいた六徳さんが口を開く。
六徳さんと一緒じゃなければ、迷わずヒーローのグッズを選んでいたと思う。
子供の頃の俺なら、多分喜んでただろうし。
でも長年虐待を受けていた子供なら、ヒーローに失望しててもおかしくないだろうから、現存のヒーローのグッズを選ぶのは得策とはいえない。
ぶっちゃけ、下手にヒーローのグッズを推そうものなら、六徳さんに嫌われるのは目に見えてるんだよな。
脈がないのはわかってるけど、だからってあからさまな地雷を踏み抜いて嫌われたくはない。
…なんか、光輝君のプレゼントを選んでるはずなのに、六徳さんの気に入りそうなプレゼントを選んでるみたいになってるんだが。
というかこれ、思ったより難易度高くないか?
俺が子供だった頃に貰って嬉しかったものを選べばいけんじゃね、って思ってたけど…
俺が子供の頃貰って喜んだものといえば、自転車かGANRIKI☆NEKOかヒーローのグッズか、あとはお菓子くらいだった記憶しかない。
自分の幼少期の記憶って、アテにならないもんだな…
「色々考えた結果…光輝くんには、これをオススメします」
俺が選んだのは、子供用のリュックだ。
黒地にシルバーの手裏剣の模様がついていたり、両傍に鎖帷子っぽいポケットがついていたりと、全体的に忍者をイメージしたデザインになっている。
チャックの部分が日本刀みたいな形をしているのと、所々に紫のラインが入っているのが、個人的にオシャレだと思う。
大容量の割に軽くて、折り畳んでコンパクトにもできる、機能性の高いリュックだ。
六徳さんの話を聞いた限り、暗めでクール系のものが好きそうな子だから、多分喜んでくれるんじゃないかとは思うんだが…
俺が六徳さんにリュックを見せると、六徳さんはリュックをひょいと持ち上げて、少し揺らしてみたり細部を確認したりしてから店員さんに渡した。
「これを買いたいんだが」
「かしこまりました。お支払いはいかがなさいますか?」
「一括で」
「こちら、お包み致しましょうか?」
「ああ、頼む」
六徳さんは、俺が呆然としている間にも、俺が選んだリュックを買っていた。
えっ、即決…?
確かに、俺が選んだものをプレゼントしたいとは言ってたけど、そんなすぐに俺の意見を信頼していいものか…
「ありがとうございました〜」
光輝君へのプレゼントを買って店を出ると、店員さんが礼儀正しく頭を下げて礼を言ってくれた。
六徳さんは、心なしかホクホク顔でルンルン歩きをしていた。
「わざわざ付き合ってくれてありがとう。あとは好きに買い物をするといい。代金はツケておいてくれたら、後で私が払う」
そう言って六徳さんは、百貨店のマップを俺に渡してきた。
いや、好きに買い物していいって言われても…人の金で好きに買い物とかできないです。
そもそも、六徳さんが光輝君のプレゼントを選んでくれって頼んだから来たわけだし…
「いや、ほんとありがたいんだけど、正直もうお腹いっぱいというか…」
「なんだ、本当に何も買わなくていいのか?なら仕方ない…私がここの楽しみ方を教えてやる」
そう言って六徳さんは、俺の手を引いて歩き出した。
◇◇◇
俺達が最初に行ったのは、六徳さんの行きつけだという『MAGNE』という美容室だ。
この店の美容師さんが、ヘアカットが上手い上に人生相談に乗ってくれると評判らしくて、髪を切ってもらう事になった。
そろそろ髪切ろうと思ってた頃だから、ちょうど良かったけど…
「あらぁ、刹那ちゃん!いらっしゃい!今日は彼氏くんも一緒?」
「「友達です」」
店員さんが尋ねてきた直後、俺と六徳さんは同時に否定した。
返答が被ったものだから、六徳さんが小声で「ごめん」と謝ってきた。
俺達を出迎えてくれたのが、オーナーの健磁さん。
分厚い唇が特徴的なガタイのいい男…に見えるけど、女性だという。
何でも、六徳さんがオーナーと知り合いらしくて、ヘアカット以外にも
「それで?今日はどんなご要望で?」
「ああ、私ではなくて…彼の髪をアレンジしてあげてください」
オーナーが椅子をセットしながら尋ねると、六徳さんは俺を指しながら言った。
するとオーナーは、一番手前の席の椅子を引いて、俺を鏡の前に座らせてくれた。
「さて、と。どんな感じに仕上げましょうか?」
「えっと…」
「特に希望がないなら、お任せでもいいケド」
「あ、じゃあお任せで…」
俺が言うと、オーナーは慣れた手つきで俺の髪をアレンジしてくれていた。
髪をカットしている間にも色々と相談に乗ってくれて、何だか歳の離れた姉さんみたいだった。
そうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、注文をしてから小一時間、ヘアアレンジが終わった。
「アラヤダ、どっかのモデルみたい!」
「はぁ……」
俺の髪をアレンジしたオーナーが、無邪気にはしゃいでいた。
普段は逆立たせている髪を下ろして、少し毛先を遊ばせるヘアスタイルにしてもらった。
なんか、こういう髪型に慣れてないから自分が自分じゃないみたいだ…
「どう、かな…」
「いいんじゃないか、よく似合ってる」
俺が六徳さんの前に立つと、雑誌を読んでいた六徳さんは顔を上げて褒めてくれた。
相変わらずの無表情だったけど、正直悪くない気分だ。
ヘアセットが終わる頃にはオーナーと仲良くなって、『MAGNE』のクーポン券を貰った。
その後は、下の階に降りてペット用品を見た。
家で飼ってる猫が最近運動不足だから、新しい玩具を買う事にした。
あと、ウチの猫が好きな餌や猫砂も売ってたから、買っておこうと思う。
俺が真剣に玩具を選んでいると、六徳さんが話しかけてくる。
「心操君は猫が好きだね」
「まあね」
六徳さんの言葉に、俺は口角を上げながら答える。
六徳さんは、手の中でマタタビボールを転がして匂いを嗅いだかと思うと、頬を緩めて蕩けた表情を浮かべた。
マタタビボールが気に入ったのか、ずっと手の中でこねている。
マタタビボールで遊んでいる時の反応が、ウチの実家の猫そっくりだ。
……さすが俺らの委員長、あざとい。
ところで、買った品物ってどうするんだ…?
持ったまま歩くのもな。
どこかに預けたりできないのかな…
「ああ、荷物の心配はしなくていいぞ。買ったものは全部配送できるから」
俺が荷物の事を気にしていると、六徳さんは俺の考えている事を見透かしたのか、俺が疑問を口に出す前に答えた。
しれっと心読むのやめて…
でもまあそういう事なら、餌と猫砂は多めに買っとくか。
「お会計28510円になります」
うわ…結構高いな。
一応軍資金は5万円持ってきたけど、一回の買い物で半分以上使っちまった。
ツーリング用品も買いたかったんだけど…
しょうがない、また今度買うか。
俺が財布を取り出そうとすると、六徳さんが止めた。
「待て。私が払う」
「いや、俺の買い物だし…さっきヘアカット代払ってもらったのに悪いよ」
「買い物をする時は私にツケろと言っただろ?今日くらい、私に見栄を張らせろ」
そう言って六徳さんは、半ば強引に俺の買い物の代金を払った。
見栄を張らせろって…億万長者じゃん。
別に親の遺産で好き勝手やってるわけでもないしさ。
何というか…お金払ってくれるのはありがたいんだけど、逆に申し訳ないし目的がわからないのが怖い。
言っちゃ悪いけど、六徳さんは、何の理由もなく金を好きに使わせてくれるほどお人好しじゃない。
好きに買い物させてくれるというのは、何か裏がありそうなんだよな…
散髪と猫用のペット用品の買い足しを終えた俺は、六徳さんに連れてきてもらったフードコートで昼食を食べた。
ハンバーガーが美味いと聞いたから、俺はハンバーガーとポテトのセットを頼んでみた。
そして六徳さんはというと、冷たい酢橘うどんを頼んでいた。
「六徳さん、蕎麦派じゃなかったっけ」
「この店はうどんの方が美味い」
「そうなんだ…」
六徳さんは、取り分けたうどんを酢橘のつゆに浸けながら言った。
彼女は、蕎麦には並々ならぬこだわりがあって、蕎麦の事になるとつい口うるさくなるそうだ。
………長野県民だから?
ちなみにオススメしてもらったハンバーガーとポテトのセットは、評判通り美味しかった。
よくわからないけど、何だかリッチな味がした。
「次はツーリング用品だったか。私のオススメの店が入っているから、そこで買いたいものを選ぶといい」
昼食を食べ終わった後、六徳さんは、俺をツーリング用品の店に連れて行ってくれた。
何を買うか迷ったけど、結局修理用のマルチツールと、ロードバイクの部品を買った。
店の人にアドバイスをしてもらったおかげで、自分に合った買い物ができた。
ついでに、登山用の靴やレインウェアも買った。
六徳さんにクライミングを教えてもらって、登山を勧められてからは、休日中に山に行く事が増えた。
クライミングを続けているうちに筋肉がついてきたし、楽しくなってきたところだ。
と言っても、まだ上級者向けの山は登れないんだけどな。
六徳さんは、ヒルクライムの経験もあるらしくて、俺がサイクリングの話をすると乗っかってくれる。
サイクリングを趣味にしている登山家も多いって聞くし、やっぱり親和性があるんだろうな。
欲しかった猫用のペット用品とアウトドア用品を買った後は、服を選んだ。
選んだ服に試着室で着替え、どう見えるかを六徳さんに確認してもらった。
俺が選んだのは、シンプルなシャツとジーパンの組み合わせだ。
「……どう?」
俺が自分で選んだ服を着ると、六徳さんは顎を触りながら考え込んだ。
似合ってなかったか…?
「うーん…良いと思うが…試しにこれを着てみてもらえるか?」
そう言って六徳さんは、俺にジャケットを渡してきた。
試しに渡されたジャケットを着てみると、確かにしっくりくる。
夏だと普段は暑いかもしれないけど、少し冷えてきた時とか、室内で着る上着としてならピッタリだ。
「うん、やはりこのデザインだとジャケットが合うな」
俺が選んだシャツとジーパンに合うジャケットを選んできた六徳さんは、得意げな表情を浮かべた。
その後も、六徳さんに促されるまま服を何着か選んだ。
俺が服を選ぶと、六徳さんはそれに合うボトムスやアイテムを選んでくれた。
選んでくれるのはありがたいんだけど、俺ばっかりいいのかな…
ただでさえ俺の買い物の代金を払ってもらってばかりなのに。
「六徳さんは服選ばないのか?」
「私はいいかな、別に」
俺が尋ねると、六徳さんはアパレルショップの中を歩きながら答える。
俺ばっかりお金払ってもらって、服選んでもらって…ってのもな。
普段は制服かジャージだから、それ以外の服も見たかったりするし。
「俺だけ選んでもらうのも不公平でしょ。というか正直、俺が見たいし」
俺が言うと、六徳さんはぱちくりと瞬きをする。
そして何かを考え込むような仕草をしたかと思うと、服を何着か選んでから試着室のカーテンを開けた。
「じゃあ、今度は君に選んでもらおうかな。候補がいくつかあるんだ」
そう言って六徳さんは試着室に入りカーテンを閉めた。
店のスピーカーから聴こえる海外アーティストのエレクトロポップに耳を傾けながら店の中を見ていると、試着室のカーテンが勢いよく開いた。
「これはどうだ?少しサイズが小さいが…」
六徳さんは、紺のチューブトップとミニスカートを身につけていた。
チューブトップはショート丈で、ミニスカートにはスリットが入っていて、腹と右腿を大胆に露出するデザインになっている。
あと、胸が……
これ、目のやり場に困るんだけど…
「……ちょっと露出が多いと思う」
「ウム、やはりか」
俺がそっぽを向きながら言うと、六徳さんは再びカーテンを閉めた。
しばらくしてまたカーテンが開き、別の服に着替えた六徳さんが姿を見せた。
「これは?」
六徳さんが次に選んだのは、ボーイッシュ系の服だった。
白いインナーの上に半袖のデニムジャケット、下は紺のショートパンツ、靴はハイカットのスニーカーといった服装だ。
普段清楚系の服を着ているイメージが強いからか、こういう服装の六徳さんは何だか新鮮で、魅力的に見える。
ちょっと脚の露出が多いのが気になるけど、これはこれでアリだと思う。
「いいと思う」
「そうか」
俺が服を褒めると、六徳さんは満更でもなさそうに髪をいじった。
その後も服を何着か選んで、二人分の服をまとめて買った。
「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったか?」
買い物を終えた後、六徳さんは、俺が気に入った服に着替えていた。
俺が選んだのは、シンプルなノースリーブのシャツとスラックスの組み合わせだ。
「うん。おかげさまで」
終始六徳さんの目的は分からなかったけど、デパートの中を見て回ったのはいい思い出になった。
なんか、デートみたいで楽しかったし。
「買いたいものは買えたか?」
「まあね。でもさ、いいのかな…何から何まで金払ってもらっちゃって」
「何を言う。今日は君の為にここへ来たのだぞ」
俺の為って…どういう意味だろう。
光輝君のプレゼントを選びに来たんじゃなかったのか?
「最後に、夕食に付き合ってはくれないか?オススメの店があるんだ」
そう言って六徳さんは、先に目的のレストランへと入っていった。
俺が六徳さんを追いかけてレストランに入った、その瞬間。
――パァン
――パンッ
「わっ…!?」
「「「「「誕生日おめでとう心操(くん)〜!!!」」」」」
クラスの皆が、クラッカーを鳴らしながら俺を迎え入れた。
「祝うのが遅くなってすまない。これは私達からの気持ちだ」
そう言って六徳さんは、クラスを代表して俺にプレゼントを渡した。
えっ…待って、理解が追いつかないんだけど。
どういう事?
何で皆がここにいんの?
「何これ、どういう事…?」
「何って、一週間前お前の誕生日だっただろ?」
「あっ…」
そっか、先週は俺の誕生日だった。
当日はテスト直前だったから、誕生日祝ってる余裕なんかなかったけど…
「皆で心操くんのお誕生日会の計画を立ててたんですよ」
「クラス全員で心操の誕生日祝えるのは今年が最初で最後かもしれないから、せっかくなら盛大に祝ってあげようって委員長が」
「バレるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよね」
癒治さんが言うと、角野と細谷が、顔を見合わせながら言った。
皆の発言から察するに、俺が六徳さんと買い物をしている間に、皆がレストランで誕生日会の準備をしてくれていたようだ。
だから六徳さん、俺に好きに買い物をさせてくれたのか…
六徳さんも、皆も、俺の為にわざわざ誕生日会の計画を立ててくれてたんだな。
…何だこれ。
泣きたいわけじゃないのに、涙が溢れてきた。
「ほら、主役はここ座って!」
「こんなの人使っちだけの特別だからな〜?」
「ケーキあるよ〜!後で一緒に食べよ〜!」
俺が目頭を拭っていると、クラスの皆が俺を誕生日席に座らせてくれた。
だけどまだ、ひとつだけ気になることがある。
俺はその事を、六徳さんに訊いてみる事にした。
「六徳さん。ひとつ聞きたいんだけど…」
「何だ?」
「光輝くんのプレゼントを選んでほしいって言ってたのって…もしかして、俺をここに連れて来る為だったりする?」
「いいや?君が選んだプレゼントを贈るのは本当の事だよ。ヒーローたる者、苦しんでいる男の子一人笑顔にできなくてどうする」
そう語る六徳さんの笑顔に、思わず顔が熱くなるのを感じる。
ズルいんだよな、この人…
どこまで計算なのかはわからないけど、彼女になら騙されてもいいと思っちまう。
「それでは、一週間遅れになってしまったが…心操君の誕生日を祝って、乾杯!」
「「「「「カンパ〜イ!!!」」」」」
六徳さんが音頭を取って、クラス全員での乾杯で俺の誕生日パーティーが始まった。
食事はビュッフェ形式で、俺が注文すると、他の皆が俺の分の料理を取ってきてくれた。
食事の間にも、皆が考えた企画を順番に披露してくれた。
経営科も巻き込んで考えたという企画は、想像をはるかに超えるクオリティだった。
腹が膨れてきた頃、完膳さん主導で作ったというホールケーキが出てきた。
ランチラッシュの姪がレシピを監修したというだけあって、出てきたケーキは絶品だった。
皆それぞれ出来上がって、そろそろお開きにしようかというタイミングで、六徳さんが口を開く。
「皆、手を動かしながらでいいから聞いてくれ。私は六徳グループの代表として、『I・エキスポ』のプレオープンに招待されている。そういうわけでこの夏、『I・アイランド』に行く事になった」
六徳さんが言うと、さっきまで食事をしていた皆も、手を止めて耳を傾けた。
『I・アイランド』。
世界中のヒーロー関連企業が出資し、“個性”の研究やヒーローアイテムの発明などを行う為に作られた学術研究都市だ。
この夏『I・アイランド』で、“個性”やヒーローアイテムの研究成果を展示した個性技術博覧会『I・エキスポ』が開催される。
その前日のプレオープンは、関係者や招待客のみを対象としている。
I・エキスポの大口スポンサーの六徳グループの総帥である六徳さんも、当然ながら招待されていた。
「ここにI・エキスポの招待状があるんだが…誰か一緒に行かないか?」
六徳さんが一緒に行かないか尋ねると、皆が一斉に手を挙げた。
当日用事で行けない奴やそもそも興味がない奴を除いて、クラスのほとんど…25人がI・エキスポに行きたがっていた。
すごい熱量……
皆、そんなに行きたいのか…
って言う俺も手を挙げてるんだけどさ。
「…うん、多いな。募集人員は2人なんだが…ジャンケンで決めるか?」
六徳さんが言うと、さっきまで和気藹々としていたレストランに張り詰めた空気が流れる。
誰もが、六徳さんと一緒にI・アイランドに行ける特等席を狙ってる。
俺だってそうだ。
俺にだって、譲れないものはある。
ヒーローになる為に必要なものを見つけに行きたい。
熾烈な戦いの末に、その権利を手にしたのは…
「やっちまったああああああ!!!!」
矢田の絶望の声が、レストラン中に響いた。
俺、癒治さん、矢田の3人にまで絞り込まれて、俺と癒治さんがジャンケンに勝った。
六徳さんから招待状を受け取る俺と癒治さんを、クラスの皆が微笑ましそうに見ていた。
「諦めなよ、あの2人になるのは当然なんだからさ」
「アタシらは将来自分の稼ぎで行こ」
「う〜…」
斥口と細谷が、半泣きになっている矢田を宥めた。
矢田はまあ…ドンマイ。
帰ったら、土産話でもしてやるか。
「2人とも楽しんできてね」
「お土産買ってこなくていいからな〜」
「ありがとう、楽しんでくるよ」
クラスの皆が、俺達に温かい言葉をかけてくれた。
俺が芸民具と話している隣では、癒治さんが皆にペコリと頭を下げていた。
俺は、招待状を大事そうに握りしめている癒治さんに話しかけた。
「楽しみだな」
「はい…あ、でも心操くん、パスポート持ってましたっけ」
「…そういえば、発行してない」
そう言えば、I・アイランドに行くのにはパスポートが要るんだった。
癒治さんに言われるまで、すっかり頭から抜けてたな…
パスポート発行するの何気に初めてだし、発行する時になって焦らないように手続きのやり方とか調べておかないと。
忘れないうちにその場でカレンダーを確認しようとすると、矢田がここぞとばかりに口を挟んでくる。
「パスポート持ってないなら話は変わってくるな!不成立っ!!ノーカウントッ!!ノーカウントッ!!ノーカウントなんだぁー「うるさい矢田!」ヴッ」
矢田がパスポートを理由に俺から招待状を奪おうとすると、斥口が矢田の後頭部を引っ叩いて黙らせた。
相変わらず仲良いなこいつら…
「だったら今度、一緒に発行しに行きましょ?私もそろそろ期限切れそうなので」
「うん」
「時間に余裕をもって申請しに行けよ。平日でも、2時間は待たされるから」
「わかりました」
斥口にお仕置きされている矢田をよそに、癒治さんとパスポートを申請しに行く約束をして、六徳さんには申請しに行く時の注意点を教えてもらった。
六徳さんの話を聞いているうちにちょうどレストランの閉店時間が来て、俺達は店の前で皆解散した。
「じゃあまた明日〜」
「ばいば〜い」
皆と解散した俺は、パーティーの余韻を噛み締めながら帰路についた。
こんなに泣かされた誕生日会は、生まれて初めてだ。
ヒーロー科に編入して、ヒーローになりたいという気持ちは、今も変わらない。
だけど、このクラスがこんなに居心地が良くて、いい奴らばっかりだと思わなかった。
俺の為に祝ってくれた六徳さんやクラスの皆には感謝しないとな。
※付き合ってません。
※付き合ってません。
※付き合ってません。
恋愛タグは唐揚げにして食いました。
ただの作者より。
しれっとマグネ救済回。
オリ主家のおかげで原作よりはるかにトランスジェンダーにとって生きやすい世の中になってるので、ヴィラン堕ちを回避しました。
A組がお買い物に行く日ですが、1週間後に後ろ倒しにしました。
自分の学生時代は高校・大学共にテスト返却に1週間くらいかかったので、別に1週間くらい後ろ倒しにしても整合性は取れる…はず。
楽しいお誕生日パーティーに水を差したくなかったのです。
A組の期末前の修行パートいります?
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書け
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いらん、本編進めろ
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んなもんより他の番外編書け
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好きにしな