私の世直しアカデミア   作:M.T.

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いよいよI・アイランド編に突入します。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。


【第一部】 第七章 I・アイランド編
第29話 近未来ってなんだかロマンがありますね


 トラブルがありつつも無事に夏休みを迎えた私達は、プライベートジェットでI・アイランドに向かった。

 

「わぁぁ…!」

 

「なんか足が浮いてる感じがして落ち着かない」

 

 療子は私の右隣の席で、薄紫の瞳を輝かせながら外の景色を眺めていた。

 私の後ろの席に座っている心操君は、落ち着かない様子で独り言を言っていた。

 

 まあ、無理もないな。

 今時国内ならリニアでどこにでも行けるから、海外旅行でもしない限り飛行機に乗る機会がない。

 人生初の飛行機が、当家のプライベートジェットだとはね。

 

 I・アイランドへ行くには、国際空港から直行便に乗るのが一般的だ。

 だが六徳家の人間であれば、一般人と相乗りせずともプライベートジェットでI・アイランドへ行けるのだ。

 ちなみに私達が乗っているプライベートジェットは、父が生前家族旅行用に航空機メーカーに造らせたもので、ハイパー豪華仕様になっている。

 まず座席だが、1シートごとに個室が設置されていて、ドアを閉めれば完全個室になる。

 シートは水平に倒せばベッドになり、背の高い心操君でもゆとりを持って眠れるくらいのスペースは確保されている。

 機内食は三ツ星シェフの作るフルコースを楽しむ事ができ、機内設備はバーカウンターやバスルームなどを完備している。

 

 離陸から約3時間半。

 私は和食の機内食*1を、療子と心操君は洋食*2を注文した。

 シェフ自慢の機内食は、二人に満足してもらえたようだ。

 特に療子は、ステーキを美味そうに頬張っていた。

 ふと療子を見ると、ステーキを食べ終わり、フルコースのメニューを眺めながらそわそわしている。

 

「おっと、気付かなくて申し訳ない。彼女にステーキを」

 

「かしこまりました」

 

 私が注文すると、CAがすぐにステーキのおかわりを持ってきた。

 すると療子は、目を輝かせながら唾を飲み込みつつ、私の方を見た。

 私はコホン、と咳払いをした。

 

「血になるものが必要なのだろう?食えるうちに食えるだけ食っておけ」

 

「刹那ちゃん…」

 

「その代わり、私が疲れた時は血を貰ってもいいか」

 

「……はい!」

 

 私が言うと、療子は笑顔で頷いた。

 療子は、運ばれてきた分厚いステーキ肉にかぶりついた。

 

 私はこの前、軽率な発言によって療子を傷つけ、せっかくの休日を台無しにしてしまった。

 こんな事で罪滅ぼしになるとは思っていないが、休日楽しめなかった分、療子には旅行を楽しんでほしい。

 

「六徳さん、なんか変わったよな」

 

「そうか?」

 

 心操君が後ろの個室から身を乗り出しながら口を開くので、私は肩をすくめて返事をした。

 

「…まあ、ちょっとした心境の変化だよ」

 

 食後の緑茶を飲みながら言うと、心操君は席に座った。

 結局あの後、療子はステーキを5回もおかわりしていた。

 おかわりされる事を見越してか、途中から倍の大きさの肉が出てきたが、療子はおかわりした分を全て平らげた。

 食えるだけ食っておけとは言ったが…機内食をキログラム単位で平らげたのは流石にツッコませろ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『只今より入国審査を開始します』

 

 無事にI・アイランドに到着した私達は、空港で簡単な入国手続きを済ませた。

 入国審査を終えると自動ドアが開き、アナウンスが放送される。

 

『入国審査が完了しました。現在、I・アイランドでは様々な研究・開発の成果を展示した博覧会、I・エキスポのプレオープン中です。招待状をお持ちであれば、ぜひお立ち寄りください』

 

 自動ドアを潜ると、その先にはI・アイランドの景色が広がっていた。

 一般公開前のプレオープンで多くの来場者が訪れており、最先端の技術を使った噴水やスピーカーなどが街を鮮やかに彩っていた。

 来る度に思う事だが、街並みも広々としていて、人工の島とは思えないな…

 

「わぁぁ…!すごい、最先端の設備がこんなに…!」

 

 まるで魔法の国のような非現実的な光景に、療子は大きく見開いた目を輝かせ、心操君は圧倒されて言葉を失っていた。

 

「I・アイランドは、日本と違って“個性”の使用が自由だからね。気になるパビリオンがあったら行ってみるといい」

 

 私は、スマホで古くからの友人と連絡を取りながら二人に説明した。

 するとだ。

 

「見て、六徳家の当主様よ!」

 

「嘘だろ、本物!?」

 

「美しい…」

 

「こっち向いて〜!」

 

 周りの観光客や住民が私に気付き、歓声を上げた。

 私が笑顔を向けながら手を振ると、さらに黄色い声が上がる。

 何人かは胸を押さえながら倒れていたが…大丈夫だろうか。

 私が周りの観光客に対応しつつ友達と連絡を取っていると、心操君が話しかけてくる。

 

「六徳さん、さっきから誰と連絡取ってんの?」

 

「ん?I・アイランドにいる友達」

 

 私が心操君の質問に答えた、その直後だった。

 

「刹那ちゃ〜ん!」

 

「メリッサ!」

 

 眼鏡をかけた金髪ロングの女性が、赤いホッピングに乗りながらこちらに向かってきた。

 彼女はホッピングを折りたたみながら駆け寄り、私達は熱い抱擁を交わした。

 それを見た療子は、目を丸くして赤くなった頬を両手で覆った。

 

「来てくれてありがとう、会えて嬉しい!」

 

「私もだよ」

 

 私達が久しぶりの再会を喜んでいると、心操君が話しかけてくる。

 

「あの…六徳さん。もしかして、この人が…」

 

「おっと、そういえば紹介がまだだったね。彼女が私の友達さ」

 

「はじめまして。メリッサ・シールドです」

 

 メリッサは、二人に笑顔で挨拶をした。

 彼女はメリッサ・シールド、ノーベル“個性”賞を受賞した天才デヴィット・シールドの一人娘で、私の親友だ。

 シールド博士が父と大の仲良しだった事もあり、メリッサと私も家族ぐるみの付き合いをしている。

 

「はじめまして。心操人使、六徳さんのクラスメイトです」

 

「同じく、クラスメイトの癒治療子です」

 

 メリッサが挨拶をすると、二人は緊張気味に挨拶を返した。

 

「ところでメリッサ。博士に挨拶をしたいのだが、今から向かっても構わないか?」

 

「もちろん!パパも刹那ちゃんに会えるのを楽しみにしてるわ」

 

 そう言ってメリッサは、私達を博士のもとへ案内してくれた。

 すると心操君が気まずそうに口を開く。

 

「あの、俺らついてきていいんすか」

 

 心操君と療子は、ガチガチに固まっていた。

 無理もないな。

 ノーベル賞受賞者に直接会うなど、一般人からしてみれば、一生のうちに一度あるかないかというほど名誉な事なのだから。

 見るからに緊張している二人に対し、メリッサは笑顔を向ける。

 

「刹那ちゃんのお友達なら大歓迎よ」

 

 その言葉に、心操君と療子はほっとため息をついた。

 私達は、メリッサに連れられて博士のいる研究所へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私達は、I・アイランドのセントラルタワー、その上層階にある研究所にやって来た。

 

「パパ、刹那ちゃんが来てくれたわよ!」

 

 そう言ってメリッサが私達を研究室の入り口に連れてくると、シールド博士が私達を迎えてくれた。

 私は帽子を脱ぎ、博士に向かって一礼した。

 

「お久しぶりです。博士」

 

「あぁ…大きくなったな、刹那」

 

 私が右手を差し出しながら挨拶をすると、博士は私の手を取って握手を交わした。

 デヴィット・シールド博士。

 “個性”研究のトップランナーで、オールマイトのアメリカ時代の相棒だ。

 そして、かつて私の父と共同で()()()()において功績を残し、共に“個性”科学史に名を刻んだ、父の親友だ。

 研究仲間の娘という事で、博士には物心つく前から可愛がってもらっていた。

 伯父は二人とも私に対して冷たかったし、叔父はアレだから、私にとっては博士が伯父のような存在だった。

 

「これはこれは、刹那さん。ようこそお越しくださいました」

 

「サムさんもお元気そうで何よりです」

 

 私が博士との再会を喜んでいると、博士の助手のサムさんも私に挨拶をした。

 一言二言たわいない会話をしてから、入れ替わるように心操君と療子が前に出て自己紹介をする。

 

「あの、シールド博士。私、論文読みました!『細胞活性装置を用いた再生医療技術』について、是非ご意見いただけませんか?」

 

 療子は、興奮気味に早口で博士に話しかけた。

 博士とメリッサがポカンとしているのを見て、療子がハッと我に返る。

 

「私、医者になって、一人でも多くの人の命を救うのが夢なんです。だから、人の命を救う研究をしているシールド博士には、ずっと前から憧れていて…」

 

 療子が頬を赤らめながら言うと、博士とメリッサが笑った。

 

「それはいい夢だ。医療関係のパビリオンには私が携わった研究もあるから、後で行ってみるといい」

 

「はっ、はい!」

 

 博士がパビリオンを勧めると、療子はピンッと背筋を伸ばしながら返事をした。

 それにしても…療子がシールド博士のファンだったとは。

 これは初耳だったな。

 

「いい友達を持ったな」

 

「はい。自慢の親友です」

 

 博士が療子の事を褒めてくれたので、私は微笑みながら答えた。

 だが私は、その時の博士の表情を見て、()()()()がした。

 

「二人とも。私は博士の研究の事で、大事な話がある。悪いが話が終わるまで、パビリオンを見学していてくれないか?」

 

「大事な話って…?」

 

「すまないが、これから話す事は極秘事項でね。島外への情報の持ち出しを禁止されているのだよ」

 

「そういう事なら、仕方ないか…」

 

「なに、1時間…いや、30分で終わる話さ」

 

 私と一緒に見学できない事を残念がる二人に対し、私は事情を話し、30分で合流すると約束をした。

 極秘事項、というのは嘘ではない。

 尤も、本当の事も言っていないわけだが。

 私が話すと、二人は何とか納得してくれた。

 

「だったら私、博士がおすすめしてくださったパビリオンを見学したいです」

 

「じゃあ一緒に行くよ。というか俺も見たいし」

 

「せっかく来てくれたのに、申し訳ない。そうだメリッサ、2人をパビリオンに案内してあげなさい」

 

「わかったわ、パパ」

 

「サム、悪いが第二研究室の片付けをしておいてくれないか」

 

「わかりました」

 

 博士に目配せをすると、博士はメリッサとサムさんにも席を外させた。

 こうして、研究所には博士と私の二人きりになったわけだが…

 私は、博士が淹れてくれたコロンビアコーヒーに口をつけながら話を切り出した。

 

「…さて、シールド博士。改めてお尋ねしたい事があるのですが。娘さんにも隠している事がありますよね。それも、研究の極秘事項などではなく…娘さんにも隠さなければならない()()()()()()なのではありませんか?」

 

「何故そう思う?」

 

「まあ…ただの勘なんですがね。私達がここに来た時の貴方の顔が、どうも客を歓迎する人間の顔に見えなかったもので。ここには私と貴方しかいない事ですし、話していただけませんか?私としても、もし博士が悩みを抱えていらっしゃるのなら、知っておきたいのです。私は貴方のパトロンなのですから」

 

 私が言うと、博士はため息をついてから椅子に座り込んだ。

 

「…君には、隠し事はできないな。勘の良さは、父親譲りか」

 

 そう言って博士は、私達にずっと隠していた事を話し始めた。

 

「刹那。君ならわかってくれるか…?私はどうしても、あの研究を諦めきれないんだ」

 

「…それは、国に凍結させられた“個性”増幅装置の研究の事ですか?」

 

「そうだ」

 

 シールド博士は、機械的に“個性”を増幅させるという画期的な装置を発明した。

 闇ルートで出回っている薬物などとは違って、人体に有害な影響を及ぼす事なく“個性”を増幅させられるその装置は、まさに世界を変える発明だった。

 だがそれによって社会構造が激変するのを恐れた各国政府が圧力をかけ、研究は凍結。装置と研究データはスポンサーに没収されてしまった。

 六徳家(わたし)も、研究を再生医療や被災地のインフラ整備等に応用すれば多くの人の命を救えると考え、一スポンサーとして多額の資金援助をしていた。

 当然私は博士の研究を守る為に尽力したが、現行の制度では博士の研究を国の圧力から守りきれなかった。

 自分達の地位を守る事しか頭にない老害どもの圧力によって、本来博士が受けるはずだった栄誉は消えてなくなってしまったのだ。

 

「あの装置を取り戻すチャンスは、タワーが休みになる今日しかないんだ。()()()()()使()()()()()、奪還しなくては…!!」

 

 なるほど、だいたい話が読めた。

 要は博士は、このI・エキスポの機会を狙って、タワーの最上階に封印された研究データと装置を取り返そうという算段なのだろう。

 ()()()()()()()()()()()、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事にして、どさくさに紛れて研究データと装置を奪い返す…とまあ、こんなところか。

 筋書きは読めたが、ひとつ腑に落ちない点がある。

 

「研究の凍結に関しては、私としても誠に遺憾です。力が及ばず、申し訳ございません。しかし…何故今になって研究を取り返す気になったんです?取り返そうと思えば、その機会は今までにもあったと思うのですが」

 

「……オールマイトの為だ」

 

 私が尋ねると、博士はポツポツと話し始めた。

 

「君も知っているだろう?トシは…オールマイトは6年前の戦いで重傷を負い、活動時間が短くなっている。彼がヒーロー活動を休止し雄英で教鞭を取ったのも、活動時間の短縮が関係しているに違いない」

 

「…………」

 

 …流石はオールマイトの元相棒だな。

 雄英に来てからのオールマイトに直接会ったわけでもないのに、そこまで核心に近づくとは。

 

「…だが、私の装置があれば、元に戻せる!いや…それ以上の能力を彼に与える事ができる。No.1ヒーローが…平和の象徴が…再び光を取り戻す事ができる!また多くの人達を、助ける事が出来るんだ!」

 

 …ああ、なるほどな。

 博士は…オールマイトの力を取り戻したいあまり、周りが見えなくなっていたのか。

 

 というかこれ、オールマイトが『ワン・フォー・オール』の事を博士に話さなかったせいでは?

 オールマイトから『ワン・フォー・オール』の話を聞いていれば、博士も独断で研究を取り戻そうとはしなかっただろうに。

 親友の身を慮ったからこそ、秘密を話していないのだろうが…

 

 何というか…自分の事を棚に上げるようだが、私はオールマイトの、一人で何でもかんでも救おうとするところ、自分だけが苦しめばいいと考えているところが大嫌いだ。

 敢えてクラスメイトの言葉を借りて言うなら、本当に“きもい”と思う。

 現に行き過ぎた自己犠牲が周囲の人間…特に緑谷君あたりに悪影響を及ぼしているからこそ、余計に虫唾が走る。

 まあ、一種の同族嫌悪だろうな。

 

 何にせよ、オールマイトは今すぐにでも秘密を博士に話すべきだと私は思う。

 親友を大切に想うなら尚更だ。

 だが、私は博士に『ワン・フォー・オール』の秘密を話すつもりはない。

 これはオールマイト本人が直接話すべき事であって、私の口から話すのは違う。

 

「博士。オールマイトを復活させたい、彼の役に立ちたいという気持ちは、理解しているつもりです。ですが貴方は今、本当にオールマイトの為を思っていますか?」

 

「何だと…?」

 

「研究の奪還は、オールマイト本人が望んだ事ですか?…違いますよね」

 

「それは……」

 

「それだけではありません。研究を強引に奪い返してオールマイトを復活させたところで、娘さんは喜ぶとお思いですか?」

 

 私は、言葉を詰まらせる博士に対し質問攻めをする。

 私は療子を思っての言葉によって、逆に彼女を傷つけてしまった。

 だからこそ、言わねばならない。

 オールマイトの為だけではない。

 メリッサや博士自身の為だ。

 

「もし貴方が今後も研究を続けるというのなら、研究者としてのプライドは持つべきです」

 

「だったら…私にどうしろと言うんだ。オールマイトが平和の象徴でいられなくなってしまっては…この世界はどうなる!?彼の復活を待ち侘びている人が、どれだけいると思っている!?今もなお苦しんでいる人達に、希望のない暗黒の日々を過ごせというのか!!」

 

 私が博士に反省を促すと、博士は珍しく感情的になって叫んだ。

 オールマイトにいつまでも平和を守ってほしくて必死になる彼の心情は、共感こそできないが理解はできなくもない。

 私は、博士に私の言いたい事をわかってもらえるように、諭すような口調で話した。

 

「オールマイトも人です。いつまでも平和の象徴でいられるわけじゃない。だからこそ、オールマイトがいなくても暗黒の日々を過ごさなくていいように、世界が変わるべきなんです。オールマイトが人を救えなくなったら、貴方が人を救えばいい。オールマイトが現れるまで世界はそうやって回ってたし、私だってそうしてる。これからは、誰もが誰かのヒーローになる時代です」

 

「誰もが、誰かのヒーローになる時代…」

 

 私が言うと、博士は『オールマイトがいつまでも平和の象徴でいられるわけじゃない』という現実に打ちのめされながらも、私の言葉を噛み締めた。

 この言葉も父の受け売りでしかないわけだが、だからこそ父の親友であった博士には深く刺さったようだ。

 

「オールマイトは今、平和を次の世代に託す為に、新たな挑戦をしています。正直、お世辞にも褒められた出来ではありませんが…もし本当に彼の為を思っているのなら、彼を信じて背中を押すべきではありませんか」

 

 私がオールマイトの話をすると、博士は僅かに目を見開く。

 そしてしばらく思案した後、意を決した表情を浮かべて言った。

 

「……わかった。一度、トシと腹を割って話し合ってみるよ」

 

「それがいいと思います」

 

 博士から一番聞きたかった言葉を聞けた私は、博士に手を差し出した。

 博士と和解の印に握手を交わし、再びコーヒーに口をつけた頃には、コーヒーはすっかりぬるくなっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私が医療関係のパビリオンへ行くと、ちょうど見学し終わったらしい療子達が出てきた。

 

「刹那ちゃん!」

 

「お待たせ」

 

 療子は、パビリオンから出てくるなり私のもとへと駆け寄ってきた。

 私が三人に手を振ると、メリッサが私に話しかける。

 

「何だかスッキリした顔だけど、何か収穫でもあった?」

 

「…うん。とても、有意義な時間だったよ」

 

「やっぱり」

 

 私が笑顔で言うと、メリッサも微笑んだ。

 やはり付き合いが長いだけあって、そういうのはお見通しか。

 

「そういえば二人とも、パビリオンはどうだった?」

 

「うん。何というか…流石は研究の島だなって」

 

「すごく良かったですよ!刹那ちゃんも絶対見に行くべきです!」

 

「そ、そうか…」

 

 私が尋ねると、心操君と療子が答える。

 療子のあまりの熱量に、思わず顔を引き攣らせる。

 

 その後私達は、一緒にパビリオンを見学した。

 余談だが、療子と心操君は、私が来る前に既にメリッサからI・アイランドの話を聞いているらしい。

 

 I・アイランドでは、旅行を除けばどんな事でもできる。

 一応、I・アイランドに住む科学者とその家族は、機密情報の守秘義務があるので渡航を制限されているが。

 そのため、島内で一通りの事ができるように、大都市にはあらゆる設備や娯楽が揃っている。

 

 私達は、I・エキスポに招待されたヒーローがファン対応するのを見つつ、私のお気に入りの宇宙開発のパビリオンを訪れた。

 

「ここよ」

 

「わぁ、すごい…!」

 

 メリッサに案内された私達は、パビリオンの中に入った。

 中は巨大なプラネタリウムのような設備になっていて、最先端の宇宙開発技術の展示が並んでいる。

 超常の発現によって文明が停滞し、さらにはヒーローの登場によって宇宙開発の研究はすっかり影が薄くなった。

 だからこそ、本気で宇宙進出を目指している物好きは稀少だし、千金を投資する価値がある。

 色々と気になる展示はあったのだが…私はその中でも、一際大きいカプセル型の装置に興味が湧いた。

 

「これは何だ?」

 

「宇宙体験アトラクションよ。体験してみる?」

 

「……やる」

 

 メリッサにアトラクションを勧められた私は、アトラクションに参加するため、入り口を探そうとした。

 するとどこからか、白衣に身を包んだ癖毛の男性が姿を現す。

 

「よう、メリッサ!今日は友達連れてきてんのか?」

 

「スティーブ先生!」

 

 白衣の男性が気さくに話しかけると、メリッサが親しげに応える。

 

「紹介するわ。スティーブ・ウォーターマン教授。私のアカデミーの先生で、宇宙開発のパイオニアよ。宇宙進出を視野に入れたスーツの開発に力を入れているわ」

 

「いやあ、それ程でも…って、えっ!?刹那様!?何故ここへ!?」

 

 メリッサが教授の事を私達に紹介すると、スティーブ教授は度肝を抜かしたような表情を浮かべる。

 私は、下手に不安を与えないよう、穏やかな笑顔を浮かべながら教授に話しかけた。

 

「宇宙体験アトラクションとやらに興味がありまして。体験させてもらえませんか?」

 

「は、はい!こちらへどうぞ!」

 

 私が話しかけると、教授は緊張気味に私をアトラクションの中へと案内してくれた。

 アトラクションを体験する前に更衣室へ案内され、その中でスーツの説明をしてもらった。

 

 白いワンピースとパンプス、ストッキングを脱ぎ、下着も全て脱ぐよう言われているので、ブラとパンツも脱いで生まれたままの姿になる。

 ニップレスと前貼りを貼ってから、首から下を全て覆うスーツを着て手首のスイッチを押す。

 するとブカブカだったスーツが収縮し、身体にピッタリと張りついた。

 スーツの着心地を確認した後は、頭部全体を覆うヘルメットを装着する。

 

 スーツのデザインだが、全体的に青を基調としており、所々に白いラインが入っている。

 ヘルメットは透明な球状で、後頭部から白いネコミミのようなものが生えたデザインになっている。

 それはいいのだが…

 胸元から下腹部まで、脇から肘まで、そして内腿の部分がグレーのシースルー素材になっている。

 幸い、胸の下半分を覆う布地とハイレグパンツのような形状の布地で隠すところは隠れているが…この格好で外を歩くなど、ハッキリ言って正気じゃない。

 

「このアトラクションでは、スーツのテストの為に特殊な装置を用いて宇宙空間を再現しています。アトラクションを体験する際は、減圧装置と冷却装置を搭載したバックパックを着用して下さい」

 

 バックパックを脇に抱えて更衣室を出ると、鼻の下を伸ばし息を荒くした変態紳士…もとい、教授がアトラクションの説明をした。

 

「それはわかったんですけど…」

 

「何か問題でも?」

 

「……この服、恥ずかしいんですが」

 

「申し訳ございません、材質とか機能とかの関係でどうしてもそういうデザインになってしまうんですよ」

 

 嘘つけ。

 聖職者が欲望に忠実に生きるな、エロジジィめ。

 六徳家の権力を使って失墜させたろかい。

 

 …とまあ、愚痴と冗談はこの辺にしておいて。

 バックパックを背負い、本体から伸びたチューブをスーツに接続すると、改めてその性能を実感させられた。

 見た目のゴツさに反して軽量で、動きをほとんど阻害しない機能的なデザインになっている。

 腐ってもI・アイランドの科学者だな。

 

 装備の最終チェックを終えた私は、球状の部屋へ案内された。

 室内に入ると、中心にはスペースジャイロのような形状の装置が設置されていた。

 アトラクションを始める前に、これで身体を慣らしておけ、という事なのだろうか。

 装置で遊んで身体を慣らし終えると、分厚い扉のロックが開く。

 

『それでは、快適な宇宙の旅をお楽しみ下さい』

 

 教授のアナウンスと共に扉が開き、私の身体は室外に放り出された。

 

「…おぉっ」

 

 そこには、無数の星々が輝く漆黒の世界が広がっていた。

 最先端技術によって宇宙空間の無重力と真空状態が再現されているのか、身体がふわふわと空中に浮いていて、ヘルメットに搭載されたデバイス以外からは一切の音が聴こえない。

 おそらく、周囲の風景はMR技術によって造り出されているのだろう。

 

 私は、教授が生み出した無重力空間の中を遊泳し、最先端技術をその身で存分に堪能した。

 空中でくるくる回ったり、スーツの機能で遊んだりしていると、ソフトボール大の水色の光る玉がふよふよ漂ってくる。

 球に触れた瞬間、球が光の粒になって弾け、中から光るオブジェクトが飛び出してきた。

 

『こんにちは、セツナ!』

 

 うわっ、びっくりした。

 ゲーミングデバイスのように1680万色の光を放ちながら空中で動き回るナニカが、私に話しかけてくる。

 否、話しかけてくるというよりは、動きに合わせてヘルメットから機械的な女性の音声が聴こえる。

 I・アイランドは一応英語圏のはずなんだが、光るナニカは何故か日本語で話しかけてきた。

 これもアトラクションの一部なのか?

 

『私はイヴ。あなたのアシスタントです。何かお手伝いできる事はありますか?』

 

 アシスタント…ねぇ。

 彼女(?)も最近流行りの、サポートAIだろうか。

 

「そうだな…では、このアトラクションの楽しみ方を私に教えてもらえないだろうか」

 

『了解しました!』

 

 私がリクエストすると、イヴはピカピカと黄色に光り、私の周りに光るオブジェクトを生み出した。

 喜んでいる、と認識して良いのだろうか?

 

 光るオブジェクトを触ると、スーツの機能の説明や、この空間でできる事が、直感的にわかりやすいアイコンで表示される。

 それを見てこのアトラクションの楽しみ方を理解した私は、靴の裏からのジェット噴射で加速して戦闘機のように旋回してみたり、ヘルメットに内蔵されたカメラで美しい銀河の風景を録画したりしてみた。

 なるほど、確かにこれは楽しいな。

 ふとイヴを見ると、今度は緑が混じった黄色に光っていた。

 

 …何だろう、彼女がこうして喜んでいるのを見ると、何だか複雑な気分になる。

 アトラクションのシステムの一部なのに、人間(わたし)より人間らしいんだが。

 

 宇宙体験アトラクションを一通り楽しんだ私は、スティーブ教授の指示通りにアトラクションから退室し、スーツを脱いで元々着ていたワンピースに着替えた。

 私がスーツを脱いだ後も、イヴは私の顔の近くで感情豊かに光り輝きながら揺れ動いていた。

 …遠隔操作でもしているのだろうか?

 なんて考えていると、教授が話しかけてくる。

 

「随分と長い時間楽しまれていましたね」

 

「ええ。とても楽しかったもので」

 

「どうでしたか?私の発明したスーツは」

 

「大変素晴らしい発明品でした。特にこのバーチャルアシスタントなのですが…」

 

 私は、イヴが与えてくれた体験を、開発者の教授にフィードバックしようとした。

 だが当の教授は、私の隣でピカピカ光って自己主張するイヴを見て、怯えるようなリアクションを取っていた。

 

「知らん…何それ…怖…」

 

 何、だと……?

 じゃあ何なんだ、こいつは。

 ………怖。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「次はどのパビリオンを見に行く?」

 

「そうだなぁ…」

 

 宇宙開発のパビリオンを満喫した私達は、4人でI・アイランドを散策した。

 結局イヴは、宇宙開発のパビリオンを出た後も私についてきて、時々光っては私にアドバイスをくれる。

 メリッサに聞いても、よくわからないとの事だった。

 出所がわからないのが怖いが、実害はないし、むしろ色々と役に立ちそうなので有効活用させてもらっている。

 あるものは使う、これも一種の合理主義だ。

 

「あっ、いけない!約束の時間に遅れちゃう!」

 

 私達がパビリオンを見学していると、メリッサが時計を見て慌てる。

 ああ、もうそんな時間か。

 

「約束?」

 

「ええ。実は、お客さんをもう一人招待してるの。空港まで迎えに行く約束だったんだけど…」

 

「お客さん…?誰ですか?」

 

「内緒!」

 

 心操君が尋ねると、メリッサは笑顔ではぐらかした。

 …まあ、私は誰だか知っているんだがな。

 ちなみにメリッサが招いた()()()()()()の介入によって、この後事態が急変するのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

*1
・玉蜀黍のババロア

・チーズパイ

・桃のイベリコハム巻き

・お造り

・車海老とオクラの寄せ物

・茄子の揚げ浸し

・冷しゃぶ

・鰈の幽庵焼き

・ご飯

・味噌汁

・お新香

・水羊羹

*2
・玉蜀黍のババロア

・チーズパイ

・桃のイベリコハム巻き

・甘海老とアボガドのタルタルキャビア乗せ

・合鴨のロースト

・冷製オニオンスープ

・太刀魚のルロー

・トゥルヌド・ロッシーニ

・ポテトピューレ

・全粒粉バゲット

・オペラケーキ




癒治ちゃんが興味を持った博士の研究は、オールマイトに使おうとした“個性”増幅装置の前身となる研究という設定です。
オリ主とメリッサさんのやりとりが、原典のオールマイトやデクとのやりとりと似すぎてしまった… (*´・∀<)テヘペロ
オリ主ちゃんが試着したスーツのイメージは、『リゼロ レム 宇宙服』で画像検索すると出てきます。


**********

お馴染みオリキャラ紹介


スティーブ・ウォーターマン

本作オリジナルキャラ。
I・アイランドのアカデミーの教授で、宇宙開発のパイオニア。
研究者としては優秀だが、研究の成果物に自分の性癖を盛り込む変態紳士。
余談ですが、名前に『ティー』と『ウォーター』が入ってます。
苗木君、ここまで言えばわかるわね?

“個性”:『ノルアドレナリン』
お茶を飲むと活性化物質が分泌される。
お茶の種類によって効果の出方にばらつきがある。
アニオリキャラの印照さんとは違って、知能は据え置き。
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