私の世直しアカデミア   作:M.T.

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第3話 白米と味噌汁の組み合わせは最強説

 入学二日目。

 昨日は入学式とガイダンスに出席し、同じクラスの心操君と少しだけ仲良くなった。

 ちなみに、毎年入学式をサボる事で有名な相澤先生が担任の1年A組は、あの後“個性”把握テストなるものを実施していたらしい。

 サボり魔なだけでなく除籍魔でも有名な相澤先生は、テストで最下位だった生徒を除籍するという、イカレているとしか思えないやり方で生徒をテストしていたそうだ(除籍自体は合理的虚偽だったそうだが)。

 そんな相澤先生の理不尽除籍回数は、なんと154回。

 教師歴4年目でこんなふざけた除籍回数を叩き出しているのは、もはやバグだろ。

 

 とまあ、他のクラスの話はこの辺にしておいて、今は教室で英語の授業を受けている。

 英語の担当教師は、ラジオDJをしているプレゼント・マイク先生だ。

 勢いよく教室の扉を開けて入ってきたマイク先生は、一番後ろの席の私ですらビリビリと空気が震えるのを感じる程の声量で授業を始めた。

 

『ヘイエヴィバディ!!今日から俺の授業が始まるぜ!!アーユーレディー!!?』

 

 

 

 ――シンッ…!!

 

 

 

『オーケーオーケー、全員出席してんな!!んじゃ早速授業を始めてくぜ!!お前らちゃんと教科書持ってきてっかァ!!?』

 

 マイク先生は、彼自身のハイテンションについていけずに黙り込む生徒を他所に、平然と授業を続けた。

 さすがラジオDJ、メンタル強いな…というか、まさかこの後1時間ずっとこのノリが続くのか?

 

 午前中の授業は、拍子抜けする程に普通の授業だった。

 …まあ、大学受験が控えている私にとっては、別に授業に新鮮味も面白味も要らないのだが。

 ただ、中学の頃の英語の授業と少し違っていたのは、日本の英語教育にありがちな所謂日本英語の授業ではなく、海外でも通用する英語を実践的に教えてくれる授業だというところだ。

 正直受験の為だけの英語教育など無駄なだけではないかと常々考えていたので、きちんと使える英語を教えてくれるところは素直にありがたいと感じた。

 授業中に教科書を音読する機会があったのだが、私が音読したらマイク先生が褒めてくれた。

 発音やイントネーションのつけ方が綺麗で、ネイティヴでも通用するレベルだとか。

 

 余談だが、私は主要20ヶ国の言語を、政治や学術的な会話ができる程度には習得している。

 特に英語に関しては、六徳家の当主として、各国の首脳やトップヒーロー達、あとはハリウッドスター等とも話をする機会があったため、どこに行っても恥ずかしくない程度には会話レベルを引き上げてきた。

 …尤も私の父は、60を超える言語を自在に操る化け物だったわけだが。

 こればかりは、経験の差と言えよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昼休み。

 午前中の授業が全て終わり、他のクラスメイト達は緩んだ空気の中雑談をしていた。

 授業の感想や午後の授業の話などがほとんどだったが、中には部活動の話がチラホラ聞こえてきた。

 ヒーロー科は部活動禁止だが、普通科では普通に部活動が行われている。

 ヒーロー科に編入する気がない生徒は、部活動に勤しむ者も多いと聞く。

 中には合宿がある部活もあり、部活内で先輩や後輩との接点が多いのだとか。

 

 私は当面部活に参加する予定はないので、それよりも今は別の話をしよう。

 雄英の学食というのがどんなものか前から気になっていたので、一緒に学食を食べに行ってくれるクラスメイトを探す事にした。

 一応弁解しておくと、私は学食を利用した事がないから恥をかかない為に友人から助言を得たいだけであって、別に一人で食べるのが虚しいとかそういう理由じゃないからな。

 とまあ、誰に向けたわけでもない言い訳をしつつ、私は昨日仲良くなった心操君に声をかけた。

 

「心操君。今日は私と一緒に昼食を食べないか?」

 

「俺が、か?」

 

「そうだ。実は今から学食に行こうと考えていたんだが、いかんせん私は学食というものを利用した事がなくてな。素人の私に注文の仕方を教えてくれないだろうか」

 

「素人て…」

 

 私が心操君に頼み事をすると、心操君が呆れた表情を浮かべた。

 はて、私がそんなにおかしな事を言っただろうか?

 

「なんか心操、六徳さんと仲良くなってない?」

 

「よく普通に会話できんな…俺だったら畏れ多くて話しかけらんねぇよ」

 

「逆玉…」

 

 私が心操君と話していると、他のクラスメイトが私達の事で話をしていた。

 そんなに遠慮がちにならなくても、皆もっと普通に話しかけてくれて良いんだぞ?

 あ、もしかしてこれ、私が先に話しかけないとずっと距離が縮まらないやつか?

 そういう事なら、明日は他のクラスメイトも誘ってみるか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私は、心操君と一緒に大食堂に来た。

 雄英高校にある大食堂では、一流の料理を安価で頂ける。

 クックヒーロー“ランチラッシュ”をはじめとする一流の料理人達が調理しているのだ。

 中学の頃は、シェフが彩りや栄養バランスを考えて弁当を作ってくれていたが、今日は学食を食べてみたいから弁当は作らなくていいとお願いしておいた。

 ちなみに私が注文したのは、焼き魚定食だ。

 

「カードで支払いができるのはありがたいな。会計がスムーズで混雑緩和に効果がある上に衛生面にも優れている。合理的なシステムだ」

 

「ブラックカード…」

 

 私が独り言を言いつつ会計を済ませようとすると、心操君が顔を引き攣らせていた。

 高校生がカードで支払いをするのがそんなに珍しいのだろうか。

 私としては、わざわざ現金を持ち歩く煩わしさがなくて便利なんだがな。

 …まあ本来は学生向けではなく、普段からカードで支払いをしている教員向けのキャッシュレス対応なのだろうが。

 そう考えていると、ちょうど端の席に座っていた三人が今まさに席を立とうとしていた。

 

「あの席にするか」

 

 私と心操君は、ちょうど空いたばかりの席を確保しようとした。

 するとその時、他の生徒がテーブルにトレーを置いた。

 先を越されたと思い落胆しつつもその生徒に目を向けると、見覚えのある顔だと気付く。

 

「…ん?君は…」

 

 透き通るほど白いボブヘアーと長い前髪から見え隠れする薄紫色の瞳を持つ小柄な女子生徒は、私の前の席に座っているクラスメイトだ。

 名前は…癒治療子といったかな。

 彼女は、私達が席を取ろうとしていた事に気付くなり、小動物のように縮こまる。

 

「す、すみません割り込んでしまってごめんなさいすぐ消えます…」

 

 そう言って癒治君は、食事のトレーを持って私達の前から立ち去ろうとした。

 だがもう他の席は既に埋まってしまっていて、今彼女がここを離れてしまえば、次に席が空くのはいつかわからない。

 私は咄嗟に、癒治君を呼び止めた。

 

「癒治君」

 

 私が呼び止めると、癒治君は驚いたような表情を浮かべる。

 私は自分の昼食をテーブルに置き、彼女が座ろうとしていた席を引いた。

 

「私は別に、相席でも構わないよ」

 

「俺も、六徳さんがいいなら…」

 

 私が言うと、心操君も私をチラッと見てから言った。

 すると癒治君は、控えめに会釈をしてからテーブルにトレーを置いて席に座った。

 

「いただきます」

 

 ようやく腰を下ろせた私達は、ランチラッシュ先生が作った昼食を頂いた。

 今日の焼き魚定食の献立は、白米、豆腐とワカメの味噌汁、鯵の塩焼き、ヒジキの煮物だ。

 温かい味噌汁に口をつけてから、炊きたての白米を口に運ぶ。

 

「……美味い」

 

 学食の白米の美味さに、思わず笑みがこぼれた。

 おそらく炊飯器で炊いているのだろうが、ウチで食べる白米に劣らない。

 

 私は、炊飯器で炊いた米よりは、釜で炊いた米が好きだ。

 家では、シェフが私の希望に沿って、薪で炊く羽釜の米を食卓に出してくれている。

 

 『はじめチョロチョロ中パッパ』という歌詞にもあるように、釜で米を炊く時はまず弱火でゆっくりと釜を温め、そして一気に火力を高めて炊き上げる。

 すると釜は短時間で非常に高温になり、一気に水が沸点に達し、釜底から上層へと対流が発生する…米が釜の中でおどり、一粒一粒にムラなく熱が行き届くのだ。

 余計な水分が水蒸気として蓋の隙間から逃げ出し、ここで火力を弱めると、高温の水分が満遍なく米粒に吸収され、もちもちとした食感が増す。

 再び火力を高めて余分な水分を飛ばしてから火を止めて蒸らすと、旨み成分を米が吸収する。

 

 こうして炊き上がるのが、ふっくらしていてツヤがあり、甘みと旨みが詰まった米飯だ。

 釜戸炊きは、現代科学の面から見ても、米をおいしく炊き上げる方法として理に適っている。

 だから美味いのだ。

 あの味は、断熱性の高い釜と、薪の火力あってこそのものだ。

 どんなに技術が進歩し家電が進化を遂げようと、炊飯器でそれは再現できない。

 

 しかしここの食堂の白米は、私の好きな米の味に限りなく近い。

 特殊な炊飯器を使っているのか、それとも一流の料理人達の技量の問題なのか…

 なかなか気に入ったので、次来る時も定食を注文してみようと思う。

 

 ところで、この定食は米だけではなく味噌汁も美味いな。

 具は豆腐とワカメだけとシンプルかつオーソドックスな味噌汁だが、だからこそ出汁と味噌の味をしっかりと感じられるというものだ。

 出汁は一番出汁だろうか?

 使っている味噌が白味噌ベースなのも、私の好みを捉えている。

 色んな味噌汁に浮気しつつも、結局はオーソドックスな味噌汁に落ち着く。

 ランチラッシュ先生とは、食の好みが合うのかも知れんな。

 

「あの…話してもいいのでしょうか…?」

 

 私が昼食を食べながら色々と考えていると、不意に癒治君が口を開く。

 

「何だ?」

 

 私が塩焼きの鯵の身に箸を入れながら話を聞くと、癒治君は安堵のため息をついた。

 癒治君は、私と心操君を交互に見てから、コソッと私に話しかけた。

 

「六徳さんと心操くんって、仲良さそうですけど…どういうきっかけで一緒にいるんですか?」

 

「私が話しかけたんだ。クラスの中で唯一ヒーローになる未来を見据えていた彼に、興味が湧いてね」

 

 私が言うと、癒治君は悲しそうな表情を浮かべた。

 彼女は俯きながら、消え入るような声で話し始める。

 

「未来…か…はは、やっぱり六徳さんは見抜いてたんですね…私なんかじゃヒーローになれないって事…」

 

「どういう事だ?」

 

「…私、ヒーロー科の入試に落ちたんです。私の“個性”じゃ、合格に必要なポイントを稼げなくて…」

 

「ああ、そういえばヒーロー科の入試の内容については調べてなかったな。どういう試験だったのだ?」

 

「仮想(ヴィラン)のロボットを制限時間内にできるだけ多く行動不能にするっていう試験だったんだよ。一応審査制のレスキューポイントもあったんだけど、そんなの知らなかったから自分の事しか考えてなくてこのザマってわけ」

 

「…なるほどな」

 

 心操君は、自嘲しながらヒーロー科の入試の内容を説明してくれた。

 過去の雄英ヒーロー科の卒業生を調べてみたら、戦闘向きの“個性”の生徒の数に対して救助やサポートに適した“個性”の生徒が極端に少ないので、おかしいとは思っていたが…

 実に非合理的な入試方法だ。

 

 入試にロボを採用するのは、『人に“個性”を使うのか』などというクレームへの対策なのだろうが、対人にしか効果がない“個性”だった場合はどうしろというのだ。

 例えば、心操君の『洗脳』や相澤先生の『抹消』のように、(ヴィラン)に対して使う事で犯罪抑止に繋がる“個性”だった場合は?

 これに関しては、身体を鍛えてどうこうなる問題じゃない。

 どんなに身体を鍛えても、生身の人間では限界がある。

 身体能力が高くなる“個性”や破壊を生む“個性”に勝てないのは当たり前だ。

 例えるなら、歩兵と戦車や戦闘機を同じ基準で競わせるようなものだ。

 歩兵の方が有利な状況だってあるというのに、『火力の高さ』しか評価しない事がいかに愚かで非合理的な選択であるかは、言うまでもない。

 

 本来なら、適性不足の受験生を書類審査の段階で門前払いしてから、通過した者を厳正な審査基準で慎重に審査すべきなのだ。

 玉石混淆の受験生を無理矢理同じ基準で審査しようとするから、審査方法が雑になる。

 どう見ても適性がない者にまでチャンスを与えてしまい、その結果真に評価すべき学生を取りこぼしてしまう…まさに悪平等というやつだ。

 

 まあ、雄英が『ウチは戦闘専門のヒーローに特化した学校なんです』と言ってしまえばそれまでだが、そうならそうと初めから募集要項に書くべきで、勝ち目のない“個性”の生徒にまで希望を抱かせるべきじゃない。

 

「私の“個性”は、自分の血を飲ませた相手の怪我や病気…あとは疲労とかを治す事ができるんです。治癒力は飲ませた血の量に比例して、一滴なら擦り傷程度ですけど、コップ一杯なら複雑骨折や内臓損傷なんかの重傷も治せます。怪我してから時間が経って傷が塞がっちゃうと、治せなくなっちゃうんですけどね…」

 

 …うむ、なかなかに興味深い“個性”だな。

 ただでさえ治癒系“個性”は希少だというのに、重度の疾患や疲労まで治せるとなれば、医療従事者からすれば喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 血液を飲むという心理的ハードルが高い発動条件があるのがネックだが、ポテンシャルは看護教諭“リカバリーガール”以上だ。

 これはいい事を聞いた。

 

(ヴィラン)ポイントを稼げないのはわかってたので、せめて少しでも爪痕を残そうと思って、怪我した受験生に血を配ろうとしたんですけど…『気持ち悪い』って拒否されたんです。何とか一人だけ血を渡せたんですけど、それでいっぱいいっぱいで、結局レスキューポイントも足りなくて…」

 

「他の受験生を助けただけ、癒治さんは立派だと思うよ。俺は六徳さんに言われるまで、自分の“個性”が避難誘導に使えるかもしれないって発想すらなかったからな」

 

「そんな…私は全然立派じゃないですよ。私は…ヒーロー科に入れば、私の“個性”を『気持ち悪い』って言ってきた人達を見返せるかもしれないって思っただけで、そもそもヒーローになりたいのかどうかすらわからなくて…ヒーローになりたいと思ってる心操君が、羨ましいです」

 

 心操君と癒治君は、話に飽きてきた私を他所に傷の舐め合いを始めた。

 私は、他人の傷の舐め合いになど興味がない。

 

 それにしても、白米と味噌汁の組み合わせは至高だ。

 毎日温かい白米と味噌汁にありつける、日本人としてはこれこそが最高の幸福だと私は思う。

 巨万の富を手に入れようと、酒池肉林の限りを尽くそうと、やはり結局は白米と味噌汁に落ち着くのだ。

 これは遺伝子レベルで刻み込まれた習性であり、真理だ。

 

「……うん、美味い」

 

「米と味噌汁に集中してて話聞いてない…!」

 

 私が考え事をしながら昼食を堪能していると、二人が呆れたような表情を浮かべる。

 つい、白米と味噌汁に意識が持っていかれてしまった。

 いや、本当に申し訳ないとは思っているのだよ。

 

「ああ、すまない。だんだんと話への興味が薄れてしまってな…ただ、君達は何か勘違いをしていないだろうか?」

 

「勘違い…?」

 

「確かに、ヒーロー科の入試が非合理的であった事も、君達の“個性”が入試に向かなかった事も事実だ。だがその事と、君達がヒーロー科のレベルに達していない事とは、全く関係がない」

 

 私は、ヒーロー科に落ちた原因をうまく“個性”を活かせなかったせいだと思っている二人に対し、事実をハッキリと伝えた。

 確かに、心操君の“個性”も癒治君の“個性”も、プロヒーローになれば引くて数多の“個性”だ。

 入試と“個性”の相性が悪かったのは気の毒だが、相性さえ良ければヒーロー科でやっていけたかと言われれば、私はそうは思わない。

 今の彼等には、ヒーロー科に入る上で一番大事なものが、まだ足りていないからだ。

 

「“個性”を戦闘機や戦車だと思って考えてみたまえ。戦術学の知識も操縦技術もない人間がいきなり戦闘機や戦車を与えられたとして、それを使いこなせると思うか?」

 

「「…………」」

 

「ヒーロー業も然り、知識も戦術も無い者には務まらん。最低限の戦闘はこなせる基礎体力も、なければならないな。それから、緊急事態にも落ち着いて対処できる精神力も必要だ。ヒーローへの適性の本質とは、“個性”そのものではなく、それを使う人間の基礎能力だ。私がヒーロー科の入試を非合理的だと言っているのは、“個性”が入試向きではないがために適性の高い者が落ち、逆に“個性”が派手だというだけで適性の低い者が受かってしまう事だ。だが、ヒーロー科のスタートラインに立つだけの基礎能力を高めるのは、それ以前の問題だ。そうは思わんかね?」

 

 心操君も癒治君も、ヒーローを志す人間としては、致命的に基礎体力が足りない。

 残念ながら、これは紛れもない事実だ。

 私がその事を指摘すると、二人は俯いたまま黙り込む。

 …少々、キツイ言い方をしてしまっただろうか?

 そう考えていると、心操君が首の後ろを手で押さえながら口を開く。

 

「……いや、もう本当に仰る通りだよ。“個性”のせいにしてた自分が馬鹿みたいに思えてきた。何でもっと早く、やれる事をやらなかったかな…」

 

 …うむ、どうやら杞憂だったようだな。

 正直なところ、私は心操君に関してはさほど心配していない。

 彼は、未来を見据え可能性に向かって踠いてる。

 今から死ぬ気で基礎体力を磨きさえすれば、遅くとも2年生までには間に合うと私は踏んでいる。

 

 だが問題は、癒治君だ。

 彼女は、自分が何をしたいのかすらわかっていない。

 ヒーローになりたいという確固たる意志が無ければ、どんなに身体を鍛えても、ヒーロー科ではやっていけない。

 そもそも彼女は、本当にヒーローになりたいのだろうか?

 

 何にせよ、今の私にできる事は、二人が胸を張ってヒーロー科へ編入する為の技術的なサポートだ。

 私はヒーローに興味はないが、クラスメイトがヒーローになりたいというのであれば、それを助けるのが私の務めだ。

 

「そこで二人に提案なんだが、ヒーロー科への編入に向けた特訓を始めてみないか?」

 

「……えっ?」

 

「君達の家から電車で1時間以内の場所に、私がかつて使っていた訓練場がある。いつでも開放しておくから、放課後と休日はそこに来るといい。トレーニングメニューは私が用意しておこう。それから癒治君」

 

「はっ、はい」

 

 私が話しかけると、癒治君が肩を跳ね上がらせる。

 私は改めて、現状の課題を彼女に伝えた。

 

「君は今一度、自分が何をしたいのかを考え直すべきだ。『見返したい』だけでやっていける程、ヒーロー業は甘くない」

 

「…そう、ですよね……ごめんなさい、私が浅はかでした」

 

 私が言うと、癒治君は俯きながら消え入るような声で自分を卑下した。

 別に責めているわけではないのだがな…

 仕方ない、手を貸してやるか。

 

「私の親友が、かつて君のように“個性”の悩みを抱えていた。彼女なら、君の悩みを解決してくれるかもしれない」

 

「え…?」

 

 意外に思えるかもしれないが、実は私には、同年代の友人が多い。

 小学生の頃に出会って仲良くなった親友が、癒治君のように周囲から理解されない“個性”を持っている。

 彼女の“個性”は癒治君の“個性”と少し似ているし、彼女の良き理解者となってくれるかもしれない。

 

「君が会いたいと言うなら話をする機会を作るが、君はどうしたい?」

 

「え…と、わ、わたしは…」

 

 私が尋ねると、癒治君は俯いて口籠る。

 返答を聞くのは、後日になりそうだな。

 そんな事を考えつつ、食事を終えた私は箸を置き、両手の肉球が重ならないように手を合わせる。

 

「ご馳走様でした」

 

 私は、トレーを持って席を立ち、返却コーナーに持って行こうとした。

 すると癒治君が、私を呼び止めた。

 

「あ、あの…六徳さんは、どうして私にそこまでしてくれるんですか?」

 

「この世界には、自分の事しか考えない者が多すぎる。この世界が生きづらいから、自分の面倒を見るので手一杯なんだ。だけど世の中が生きやすくなれば、ほんの少しだけ、自分以外に目を向けられるかもしれない。そしていつか、誰もがそう思えるようになるといい。そう考えただけの事だよ」

 

 私はそう言って、食器を返しに行った。

 私の後ろでは、癒治君が何度も私に頭を下げていた。

 

 …さて、と。

 私も、自分にできる事をしなければな。

 まずは、至急二人のトレーニングメニューを作らなくては。

 あ、それから、来年以降のヒーロー科の入試問題でも作ってみるか。

 出願の段階で学力テストや体力テストの結果の同封と、企業の採用試験などでも行われる適性検査への回答を必須にするというのはどうだろうか。

 志望度が高く、尚且つ基礎能力が水準に達している学生のみに受験資格を与えれば、受験生を厳正かつ慎重に審査できるかもしれない。

 雄英だけじゃなく、他のヒーロー科の高校でも使ってもらえないか、各校の理事長に打診してみよう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

癒治side

 

 ――療子、お前また友達の前で手首を切ったのか!!

 

 ――ちがうの…!ケガしてたから、治そうとしたの!

 

 ――うぇえっ、キモチワリー!!

 

 ――療子ちゃんの“こせい”、なんかコワーイ!

 

 ――ねえ聞いた?あの子、クラスの子に無理矢理血を飲ませようとしたんだって。

 

 

 

 “個性”が発現したのは、3歳の頃だった。

 指先を怪我して血が出たから舐めてみたら、すぐに傷が治った。

 この事を誰かに教えてあげようと思って、怪我して泣いてた友達に血をあげようとした。

 そしたら怖がられて大泣きされて、怪我を治してあげようとした友達に嫌われた。

 『体液を無理矢理飲ませようとする異常者』って周りの大人にも言いふらされて、私は完全に居場所をなくした。

 お父さんも、お母さんも、友達も、先生も、誰も私の話を聞いてくれなかった。

 

 血をあげようとしたら気味悪がられるから、小学校高学年に上がったあたりからは自傷癖を隠してきた。

 だけど本当は、好きなように“個性”を使える他の友達が羨ましかった。

 私だって、一度くらいは、好きなように“個性”を使ってみたかった。

 

 ヒーローになれば皆からの評価も変わるかもしれないと思って、ヒーロー科を受験した。

 実技入試の内容が対ロボの戦闘だって知らされた時は、絶対合格できないって絶望した。

 でもせめて爪痕だけは残そうと思って、ポイントを稼ぐのは諦めて他の受験生の回復に専念する事にした。

 

「あ、あの…これ、飲んでください。疲れ、取れますよ」

 

 私は、怪我をしたり疲労で動けなくなったりしている受験生に、水筒に入れて持参した血を配って回った。

 だけど現実は、私が思っていた程甘くはなかった。

 

「他人の体液なんか飲めるか!気持ち悪い!」

 

「え、血…?」

 

「遠慮しとく…ごめんね」

 

 私が声をかけた受験生は、血を飲むのを拒否した。

 だけど話を聞いてくれる人達は、まだマシだった。

 

「邪魔よ、どっか行って!」

 

「冷やかしに来たんなら帰れ!!」

 

「あ…ぁぁぁ………」

 

 中には、私が血を配っているのを妨害か冷やかしだと捉えて追い払おうとしてくる人もいた。

 妨害行為と見做されて会場から追い出されるくらいなら大人しくしていようと思ったその時、(ヴィラン)ロボが私に襲いかかってきた。

 

『標的発見!!ブッコロス!!』

 

「きゃあ!!」

 

 (ヴィラン)ロボが、いきなり殴りかかってきた。

 ロボの攻撃を間一髪避けたけど、その拍子に血の入った水筒を落としてしまった。

 

「あ…!」

 

 私が水筒を拾おうとした時、(ヴィラン)ロボがまた襲いかかってきた。

 逃げられないと悟ったその時、他の受験生がロボを壊してくれた。

 

「大丈夫か!?」

 

「あ…はい…ありがとうございます…」

 

 全身が銀色の男の子が、私を助けてくれた。

 その男の子は、ぶっ続けでロボを倒し続けていたからか、疲れているようだった。

 

「クソッ、もっと鉄分摂っておけば…!」

 

 男の子が独り言を言っているのを聞いた私は、考えるより先に言葉が出ていた。

 

「あの…私の血、要りませんか?」

 

「え!?」

 

 私は、誰も飲んでくれなくて満タンの水筒を彼に差し出した。

 もし鉄分が必要な“個性”なら、血で鉄分が摂れるかもしれない。

 

「私の血、怪我とか疲れとかを治せるんですけど…血って、鉄分いっぱい入ってますよね?これで少しは足しになりませんか?」

 

「…けど、いいのか?俺達、ライバル同士なんだぞ?」

 

「…私、こんな“個性”だからポイント全然稼げなくて…だから、少しでも爪痕を残したいんです。これで足りるかどうかはわかりませんけど…私の分まで、頑張ってください…」

 

「そっか、そういう事ならありがたく貰うぜ!これでまだ闘える、ありがとな!」

 

 名前も知らない男の子は、私の水筒を受け取って走り去っていった。

 ただの自己満足だった。

 それでも、彼には合格してほしかった。

 私を助けてくれたばかりか、必要としてくれた、お人好しの彼に。

 

 結局私は、ヒーロー科の入試に落ちた。

 審査制のレスキューポイントが40点分加算されていたようだけど、(ヴィラン)ポイント0で合格できるほど、ヒーロー科は甘くなかった。

 それでも入学式の日、ヒーロー科の列の中に入試の時の彼がいるのを見つけて、ほんの少しだけ救われた気がした。

 だけど私は、入試の日から、わからなくなった。

 ヒーローになって周りを見返す事が、本当に私のやりたかった事なのか。

 

「私は…何がしたいんだろう…」

 

 六徳さんは、簡単に私の本心を見透かしてきた。

 私は、本気でヒーローになりたい心操君とは違う。

 自分がヒーローになりたいのかどうかすら、わからない。

 自分の“個性”が人の役に立てた事は、嬉しかった。

 だけどヒーローになりたいのかと聞かれれば、なんか違う気がする。

 

 六徳さんは、こんな私にも、ヒーロー科への編入に向けた特訓の提案をしてくれた。

 私は、彼女が提案してくれた特訓に参加しようと思う。

 自分の本当にやりたい事は、走り始めてから見つかるものかもしれない。

 それに、入試の時に助けてくれた彼のようにカッコいい自分になりたいという気持ちは、きっと本当だと思うから。

 

 

 

 

 




今作のヒロイン(暴論)は心操くんじゃないです!!(クソデカボイス)
オリ主ちゃんのヒロイン(暴論)は別のキャラを予定してます!!!(クソデカ(ry
ちなみにオリキャラの癒治ちゃんのプロフィール



癒治(ゆじ)療子(りょうこ)

所属:雄英高校普通科1年C組
出身校:鳴羽田中学校
“個性”:『治癒』
誕生日:8月21日
身長:148cm
スリーサイズ:79/56/81
血液型:O型
出身地:東京都
好きなもの:イチゴ、トマト、モフモフしたもの
性格:控えめ
見た目:白髪のボブで、前髪は目にかかる長さ。瞳は薄紫色。ジャケットの下にオーバーサイズのカーディガンを着ている。

“個性”:『治癒』
自分の血液を摂取した相手を回復させる事ができる“個性”。
怪我だけでなく、病気や疲労も回復する。
回復力は摂取した血液量に比例し、一滴だと小さな切り傷が塞がる程度だが、コップ一杯分だと複雑骨折や臓器損傷などの重傷も完治する。
血液成分の種類によって、効能が異なる(赤血球→疲労回復、白血球→疾患の回復、血小板→外傷の回復)
自己回復も可能。
ただし、完全に塞がった傷を消したり、死者を蘇らせたりする事はできない。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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