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幸い重傷は負っていなかったので、療子が持ってきていた薬だけで完治し、今は特に身体に異常などは見られない。
サミュエルが雇った奴等が本物の
念の為博士に大丈夫かどうかを尋ねると、博士が私に尋ねる。
「サムは…彼は一体どうなるんだ…?」
博士は、裏切りにあったにも拘らず、
自分を裏切った助手の心配をするなんて、お人好しが過ぎないか?
「まあ
「そうか…」
私があえてきつい言い方をすると、博士は俯いて弱々しく口を開いた。
サミュエルは、相手が
どう足掻いても、この先研究者として食っていく事はできないだろう。
私は、助手の処罰を重く受け止める博士に対し、気休めを言った。
「そう悲観する事はありませんよ、シールド博士。貴方は、彼と違って最後の最後に踏みとどまる事ができた。科学者としての貴方は、まだ死んでいない。これからいくらでもやり直せるんです」
「刹那…」
「つらい道のりかと存じますが…私は、貴方の事を応援してます。貴方は貴方の研究を続けて下さい」
「…ああ」
私が言うと、博士は一度俯き、そしてもう一度顔を上げてから頷いた。
するとその時。
「デイヴ!!」
トゥルーフォームの姿のオールマイトが、研究室に駆け込んでくる。
オールマイトは、博士の身を守れなかった事を何度も謝罪した。
「すまないデイヴ、私がついていながら…!」
「トシ…君は悪くない。これは全部、私が蒔いた種だ。私が、もっと早く気付くべきだったんだ…」
博士は、自分の過ちを悔い、オールマイトに全て打ち明けた。
研究を取り戻す為に、
本物の
オールマイトは、親友が道を踏み外しかけた事にショックを受けつつも、最後まで博士の話を聞いた。
「だが、道を踏み外す前に大事な事に気付く事が出来た。君のおかげだ」
「デイヴ…」
博士がオールマイトに礼を言うと、オールマイトは博士に歩み寄った。
さて…と。
私はそろそろお暇するかな。
ここからは、二人がじっくり話し合う時間だ。
◇◇◇
事件を未然に防いだ私は、療子と心操君を連れてホテルに向かった。
私達が向かったのは、六徳家が経営するI・アイランドの最高級ホテル、『ニューヘキサステラホテル・I・アイランド』だ。
島内でセントラルタワーに次ぐ高さを誇るこの120階建てのホテルの最上階は、所謂VIPしか泊まる事のできない価格帯だが、それだけの金を払う価値のある絶景を眺める事ができる。
私は、ホテルのフロントでチェックインを済ませた。
「…はい。確認が取れました。六徳刹那様、心操人使様、癒治療子様ですね。当ホテルでは、オンラインチェックインを導入しております。事前にご登録いただいたアプリで開錠・施錠、ルームサービスのご利用、お食事券の発行ができますので、ぜひご活用下さい」
チェックインを済ませ、荷物をフロントに預けた後、私は二人を連れて慣れた足取りでエレベーターに乗り、ホテルの最上階、その一つ下の階に向かった。
私は最上階のロイヤルスイートルームを、二人は1つ下の階のスイートルームを予約した。
二人もロイヤルスイートに泊めてやりたかったんだが、最上階は1フロア1部屋だから、まあ仕方ない。
「…ふぅ」
部屋に上がると、預けた荷物は既に部屋の中に置かれていて、私専属のメイド達がドレスの準備をしてくれている。
部屋のシャワールームでシャワーを浴びてから、レセプションパーティー用に用意したドレスに袖を通す。
ドレスに着替え終わった後、メイドがヘアセットやメイクをしてくれて、レセプションパーティーの1時間前には全ての身支度が終わった。
「大変お似合いですよ、お嬢様!」
「そうか…?」
亜楼や小雪が興奮気味に私を褒めちぎってくるので、思わず困惑してしまった。
ちなみに私がチョイスしたパーティー用のドレスは、紺のマーメイドドレスだ。
裾の部分にかかったグラデーションや装飾が、星空を連想させる。
髪は高い位置で編み込みにして、耳には父に貰ったスターサファイアのイヤリングをつけている。
少し胸元が心許ないが…まあ、こういうデザインだと思っておこう。
「あっ、刹那ちゃん!」
私が部屋を出ると、既に療子と心操君が待っていた。
療子は、ピンクを基調としたAラインのドレスを、心操君はラベンダー色のスーツを着こなしていた。
うむ。二人とも素材がいいから、正装すると一気に化けるな。
「はわぁ、刹那ちゃんすっごくカァイイです!!」
療子は、頬を赤らめてぴょんぴょん飛び跳ねながら私を褒めてきた。
褒めてくれるのはいいけど…正装を着る場で、年頃の女子が飛び跳ねるのははしたないよ。
だがまあ今日は…別にいいか。
「ありがとう、療子。君のドレスも、よく似合っている」
「えへへ、そうですかぁ?」
私が褒めると、療子はふにゃりと笑顔を浮かべる。
療子のドレスには、ところどころに桜をモチーフにした装飾が施されていて、療子によく合っている。
やはり療子にはAラインが似合うな。
あとでスリーショットでも撮って、被身子に自慢してやろう。
心操君は、私を…というか、私の身体の一部にチラチラと視線が移っていた。
「…やっぱり胸、気になるか?」
「あっ、いや…その、あまりにも綺麗だから、つい見惚れて…」
「そうか」
心操君が頬を赤く染めながら言うものだから、こっちまで頬が赤くなるのが自分でもわかる。
心操君って、見た目はかなりいい方だし、気が利くし、根は真面目だし…俗っぽい言い方だが、かなりの優良物件なんだよなぁ。
いっその事、ロミオトラップ系ヒーローを目指すのもアリなのでは?…って思ったけど、優しすぎるから無理か。
ふと横を見ると、私の顔の近くでイヴがピンク色に光っていた。
おいやめろ、茶化すんじゃない。
このAI、有能なのに時々俗っぽいところ出てくるのなんなんだ。
「…心操君のスーツも似合っているぞ」
「ありがと…」
何とか話題を変えようと、心操君のスーツを褒めると、心操君は恥ずかしそうに首を手で押さえながら返事をした。
…なんだこれ、余計に気まずくなったんだが。
互いに気まずくて何とか話を繋げようとしていると、療子がふわっと花のような笑みを浮かべながら言った。
「ここで立ち話も何ですし、そろそろパーティー会場に向かいませんか?」
「そうだね…うん」
療子のおかげで、さっきまでの気まずい空気は一旦消え去った。
私達は療子に促され、パーティー会場へ向かったのだった。
◇◇◇
18時45分、セントラルタワー2階のパーティー会場で、レセプションパーティーが開かれた。
パーティー会場には、招待を受けた各国のヒーロー達が集まっていた。
私達も、会場の入り口でスタッフからソフトドリンクを受け取り、パーティーに参加した。
パーティー会場には、豪華な食事が並んでいて、療子は目を輝かせながらゴクっと唾を飲み込んでいる。
それにしても、思ったより視線が気になるな…
なんかやけに話題にされてるし。
…ドレス選び、失敗したかも。
「相変わらず人気者ね、刹那ちゃん」
「人気と言って良いのかね、これは…」
微笑みながら話しかけてくるメリッサに対し、私は苦笑いを浮かべながら答えた。
メリッサは、普段の眼鏡ではなくコンタクトレンズをつけ、髪をアップにしてドレスに身を包んでいる。
私が言うのもアレだが、君も大概だからな?
ところで、A組の皆はまだか?
もう開始時刻なんだが…
「……A組の皆は何をしているのだ?」
「まだ来てないみたいね。私、迎えに行ってくるわ」
私が尋ねると、メリッサはそう言って席を外した。
開始時刻を過ぎてもA組が一向に来ないのでメリッサが迎えに行き、開始5分後にはA組の皆がパーティー会場に集まった。
「ああ、よかったやっと来た」
「こっちです!」
療子が背伸びをして手を振ると、皆が気付いてこちらに来た。
私を見た上鳴君と峰田君は、その場で数秒固まっていた。
「神はここに…!」
「アホか」
私の方へ走ってくる峰田君を、耳郎君がしばいていた。
…おや?おかしいな、これで全員か?
「ム、そういえば爆豪君切島君の姿が見えないが?」
「それが、さっきから通話をかけているんだが、一向に繋がらないんだ」
飯田君からの報告を聞いた私は、思わず頭を抱える。
ったく。何をやっているんだ、あの二人は…
パーティーの場所と時間くらい、事前に確認しておけ。
仕方なく遅れるにしても、遅刻の連絡くらい入れろ。
と言いたいところだが、心の中で思うだけに留めておこう。
せっかくの楽しいパーティーに水を差すわけにはいかんからな。
◆◆◆
爆豪side
「おい…!本当にこの道で合ってんのか?」
俺と
「多分…そうだと思うけど…」
「多分だぁ!?」
「あ、いやぁ!実は携帯部屋に忘れてきちゃってさ!」
は…?
こいつ…道わかんねえ上に、携帯まで忘れてきたってのか!?
俺がキレそうになったその時、黒いスーツを着た背の高え野郎が前から歩いてきた。
そいつは俺の前に立つと、俺を見下して薄ら笑いを浮かべた。
「こんばんは」
…何だこいつ?
パーティーの客じゃねえな。
「あぁ?何だてめぇ」
「やめろって爆豪!」
俺が前に出ると、
「あのー、俺ら道に迷ってしまって!レセプション会場ってどこに行けば…?」
「レセプションパーティーの会場をお探しなら…80m進んで左折した先のエレベーターで2階まで降りて、すぐそこです」
「あざっす!えっと…」
「私はアダム。ご主人様の僕です」
黒スーツは、生気のねえ気色悪い笑顔を浮かべた。
何だったんだ、あの野郎…
◆◆◆
刹那side
『えー、ご来場の皆様。I・エキスポのレセプションパーティーにようこそおいで戴きました!乾杯の音頭とご挨拶は、来賓でお越し戴いたNo.1ヒーロー、オールマイトさんにお願いしたいと思います!』
司会が言うと、パーティーの客達は一斉に歓声を上げる。
『皆様、盛大なる拍手を!』
司会が拍手を求めると、客達はオールマイトに盛大な拍手を送った。
オールマイトは、笑顔を浮かべつつも若干困惑していた。
『どうぞステージにお越し下さい!』
司会が言うと、オールマイトは博士と一言二言話してから壇上に上がった。
『ご紹介に与りました、オールマイトです!堅苦しい挨拶は抜きにして、私が!!乾杯の音頭を取りに来た!!!』
オールマイトが決めポーズをすると、再び歓声が上がった。
緑谷君に至っては、感激のあまり今にも蒸発しそうになっていて、飯田君と麗日君が介抱していた。
君らは毎日学校で会っているだろうに…私にはよくわからんな。
『それでは皆さん、せーの!乾杯!』
「「「「「CHEERS!!!」」」」」
オールマイトがグラスを掲げながら合図をすると、他の客も一斉にグラスを掲げながら掛け声を上げた。
こうして、パーティーが始まったわけだが…
療子は、料理を端から取り分けてパクパク食べた。
こういう場では、食事だけでなく会話も楽しむものだが…まあ、今日は細かい事を言うのはなしだ。
今回のパーティーには私達日本人も多く参加するからか、嬉しい事に、食事には和食もあった。
私はその中から、手毬寿司と茶碗蒸しを自分の皿に取り分けた。
だが食事に箸をつける暇もなく来客が次々と話しかけてくるので、私はその度にユーモアを交えながら会話をしつつ、時折適切なタイミングで食事を勧めて会話のテンポを調節する。
山根に教わった、パーティーや会食で実践できる会話術だ。
不勉強な言語での質問もいくつかあったが、良く言えば受け応えのしやすい会話がほとんどだったので、会話にはさほど困らなかった。
「これはこれは、刹那様。また一段とお美しくなられて」
「ありがとうございます」
「実は私、倅がおりまして。ぜひ一度貴女に会っていただきたいのですが…どうです?今度、お食事でも」
「お気持ちは嬉しいのですが、先約がおりますので」
こういうパーティーの場になると、必ずと言っていいほど縁談を持ちかけられるので、私は決まり文句で受け流す。
何というかもう、流れ作業だな。
その後も客の会話を捌き切り、少し落ち着いてきた頃、心操君が水を持ってきてくれた。
「大丈夫?」
「…ありがとう。でも大丈夫だ。こういうのは慣れている」
私は、心操君からグラスの水を受け取り、受け応えをしてから水を口に含んだ。
まあ、慣れているから苦痛ではないというだけで、嫌いじゃないとは言わないが。
「パーティーは楽しんでいるか?」
「おかげさまで…ね。ところでさ、何でさっきから俺と癒治さんの好物ばっかり運ばれてくるわけ?何も言ってないのに」
「君達は今回の事件解決の功労者だからね。全身全霊で労うよう私が頼んでおいた」
「いや、別に功労者ってわけじゃ…」
私がコソッと話すと、心操君は唇をモゴモゴさせる。
まだまだ甘え慣れてないねぇ。
厚意は受けすぎて損をする事などないのだから、受け取れるだけ受け取っておけ。
会場が温まってきた頃、切島君と爆豪君が会場に駆け込んできた。
「わり、遅れた!」
切島君は、A組の皆に対して遅れてきた事を謝った。
ちなみに何故二人がここまで遅れたかというと、盛大に道に迷っていたらしい。
爆豪君は性格がああなので委員長の飯田君の連絡先を知っているはずもなく、飯田君の連絡先を知っている切島君は携帯をホテルの部屋に置いてきてしまい、連絡を取ろうにも取れなかったそうな。
小学生か?
「おいクソ髪!!てめえが道間違えたからオールマイトの挨拶聞き逃したじゃねーか!!」
「悪かったって、爆豪!」
盛大に遅刻したせいでオールマイトの乾杯の音頭を聞き逃した爆豪君は、他の客に詫びるどころか、切島君に当たっていた。
私はこの時点で、爆豪君に対する怒りのボルテージがギリギリまで上がっていた。
百歩譲って遅刻は仕方ないにしろ、反省の色が全く見られないのは何なんだ。
落ち着け私。
キレるな、キレたら負けだ。
この程度のクソ客、今までに散々見てきたろ。
流石に彼ほど口が悪い奴はいなかったが。
「刹那ちゃん、顎カクカクしてますよ」
「エ?キノセイジャナイカナ」
「てかお前ら、どうやって来たん」
「ああ、それがよ。たまたま途中で会った人が道教えてくれたんだ」
切島君の話によれば、道がわからず迷子になっていたところを、知らない人が道を教えてくれたおかげでパーティー会場に辿り着けたそうだ。
パーティー会場の場所くらい、招待状に書いてあるんだから頭に入れてから来いと言いたい。
私が呆れていると、シールド博士が壇上に上がり話し始めた。
『皆さん。少しだけ、私の話を聞いて下さい』
そう言って博士は、マイクを手に持って全員に呼びかける。
全員がステージに注目する中、博士が口を開いた。
『私は今日…いえ、ずっと前から、過ちを犯してきました』
そう言って博士は、世界中のヒーローやスポンサー達が聴いている前で、自分の過ちを洗いざらい話した。
凍結させられた研究を取り戻す為、犯罪行為に手を染めた事。
自分が招いた
唯一彼が嘘をついたのは、
きっと私と腹を割って話した時から、助手の分の罪も背負ってこの場で自白するつもりだったのだろう。
父親の犯した過ちを知ったメリッサは、ショックを受けていた。
「そんな…パパ」
『全て私が計画し、
博士は、全ては自分の独断だと断言した。
自分の犯した過ちによって、娘に火の粉が降りかからないように。
ノーベル賞受賞者が罪を犯したという衝撃的なカミングアウトには、当然どよめきが起こった。
だがその空気を掻き消すように、博士は話を続けた。
『そしてもう一つ。私はある人に、感謝を伝えにここへ来ました。事件を起こす前に踏みとどまる事ができたのは、私を諭し、友と話す機会を与え、
そう言って博士が手で私を指し示すと、スポットライトが当たる代わりにイヴがキラキラ輝いて私の身体を照らす。
おいおい、聞いてないぞ。
『オールマイトが平和の象徴でいられなくなる日を悲観していた私に対し、刹那さんはこう言ったのです。『オールマイトが人を救えなくなったら、貴方が人を救えばいい』。私は、彼女のおかげで、大事な事に気づきました。今一度、お礼を言わせてください。ありがとう』
博士が言うと、客達は私に拍手を送った。
全員の注目を浴びて頬が赤くなるのを感じる中、私は博士からマイクを受け取って話し始める。
『シールド博士、ありがとうございます。せっかくなので、私からもお話をさせていただきます』
私は一礼してから、話を始めた。
イヴが、来客全員に私の話が通じるよう翻訳をする。
『突然ですが…皆さんは、今から10年後の未来を想像した事はありますか?今この世界は、私が子供の頃は想像もつかなかった速度で変化しています。そしてこれからの10年は、世界がさらに目まぐるしく変化していきます。常識が簡単に覆り、社会は混乱を極める事になるでしょう。皆さんは、激動の時代を生き抜く準備ができていますか?“個性”終末論、地殻変動、異星人の侵略、パンデミック…このような未知の脅威に直面した時、その中でどうやって生き延びるか、考えた事はありますか?』
私が問いかけると、会場がどよめく。
私は全員の注目を集めてから、再び話し始めた。
『誰もが、誰かのヒーローになれる。父の掲げていた信念であり、私の夢です。がむしゃらに今を生きるのもいいですが…ほんの少しだけ、周りに目を向けてみませんか。今皆さんにできる事を、考えてはみませんか。そうすれば、いつか来るかもしれない脅威に打ち勝つ事ができる。私はそう信じています』
私がそう言って話を締めくくると、拍手喝采が起こった。
すっかり、罪を犯しかけたシールド博士を責める空気ではなくなっていた。
私のスピーチを翻訳していたイヴが鳥のように宙を舞い、花火のように弾けた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ…レセプションパーティーはつつがなく終わりを迎えたのだった。
◇◇◇
レセプションパーティーの2日後。
I・エキスポを見学した後、私達は当初の予定を少し早めて日本に帰国する事になった。
結局あの後博士は、アメリカ大統領の代理人から処分が言い渡されたそうだ。
研究を取り返す為に
ただし、
謹慎が明けてほとぼりが覚めるまでの間、私は
博士とメリッサの事は六徳家の全権力をもって守るし、心強い味方が新しくできた。
何があろうと、危険に晒させなどしない。
そして封印されていた“個性”増幅装置と研究データだが、今回の件を受けて処分される事が決定した。
悪質な
シールド博士の長年の努力は、水の泡となってしまったわけだが…
当の本人は、もう研究への未練が断ち切れたらしく、『これで良かった』と言っていた。
謹慎が明けたら、今度はオールマイトではなく、未来の平和の象徴の為の研究を新たに始めるそうだ。
博士が罪を償って、新たな研究が完成した時…それをこの目で見るのが楽しみだ。
私が心操君と療子と一緒に空港へ行くと、メリッサが私達を見送りに来てくれた。
メリッサは、私に手を差し伸べながら言った。
「来てくれてありがとう、刹那ちゃん。おかげで楽しかったわ」
「私もだよ、メリッサ」
私は差し伸べられたメリッサの手を取り、固く握手を交わした。
そしてメリッサは、私の隣にいた療子と心操君にも声をかける。
「療子ちゃんと人使くんも、またいつでもおいでね」
「はい!」
「今度来る時は、自分の稼ぎで来ますよ」
メリッサが言うと、療子は満面の笑みで頷き、心操君もメリッサに会いに行く約束をした。
私は水色に光りながら私達を見送りに来たイヴにも声をかける。
「君ともここでお別れだな、イヴ」
『はい。マスター・セツナ、どうかお元気で』
私が別れを告げると、イヴは悲しそうな声で答えた。
イヴは、I・アイランド内でのみ使用できるデバイスに搭載されているAIだ。
この島の中でなら何でもできる代わりに、この島から出る事はできない。
要は、ここでお別れという事だ。
電脳世界に生きる者同士意気投合していたのか、西馬はイヴと離れるのを寂しがっていた。
私だって、イヴが日本に来てくれたらと何度考えた事か。
だが、ここから出られない規則なのだから仕方あるまい。
「メリッサ、彼女の事をよろしく頼むよ」
「ええ、任せて」
私がメリッサにイヴの事を頼むと、メリッサが微笑む。
すると私の顔の近くに浮いていたイヴは、メリッサの胸の近くへと飛んでいった。
イヴには、これから何があってもメリッサの事を守るように頼んでおいた。
彼女がいれば、心配はいらないだろう。
何せ私のアシスタントなのだからな。
メリッサと別れた後、私達はプライベートジェットで10時間近くかけて帰国した。
窓を見ると、I・アイランドがどんどん小さくなっていく。
ふと二人を見ると、二人とも遊び疲れたのか、泥のように眠っていた。
思えばこの3日間、色々あったからな…
着陸まで、休めるだけ休ませてやろう。
日本に着いた瞬間、私のスマホに通知が来る。
開いてみると、画面が暗くなり、画面の中央で見覚えのある光の粒がクルクル回っていた。
…嘘だろ、とっくにI・アイランドから離れたはずなのに…
『私はイヴ。あなたのアシスタントです』
画面の中のイヴがそう告げた次の瞬間、イヴはパッと消え、私のスマホの画面が元に戻った。
それ以降、何度試しても私のスマホからイヴを呼び出す事はできなかった。
◆◆◆
???side
刹那達が日本に帰国してから数時間後。
予定時刻ちょうどにI・アイランドからの直行便が着陸し、二人の人物が空港から出てきた。
一人はロップイヤーを思わせる髪型をした赤い髪の女性のロップ、そしてもう一人は帽子を深く被った少年だった。
「日本か…来るのは初めてだな」
「団長。あちらに迎えの者が来ております」
少年が夜景を見ながらポツリと呟くと、ロップが少年を案内する。
案内した先には、一台の車が停まっており、目元に傷のある眼鏡の男性のラットが中から出てくる。
「お待ちしておりました、団長」
そう言ってラットは、車のドアを開けた。
三人を乗せた車は、高速道路を走っていく。
「長旅お疲れ様でした。しかし…日本への通り道でもないI・アイランドに、何故わざわざ?」
「I・アイランドにオールマイトと六徳家の当主が行くってニュースを見たからな。それに、天才デヴィット・シールドの発明とやらを、この目で見ておきたかったから」
ラットが運転しながら尋ねると、少年が窓の外を見ながら答える。
三人を乗せた車は、そのまま山奥へと向かい、ステンドグラスで装飾された宗教施設の前で停まった。
三人が車を降りて施設に足を踏み入れた、その直後。
「団長〜!」
「よぉ、団長久しぶり!」
二人の青年が、少年の元へ駆けつけた。
一人はネジのようなピアスをつけた細身の青年シャム、もう一人はリザードマンのような見た目の大柄な青年カイマンだった。
二人の足元には、白い服を着た仮面達が大勢倒れており、全員足や手が変な方向に折れ曲がっていた。
「そいつら何?」
「ああ、これ?ムカつくから折った♡」
少年が尋ねると、シャムが笑顔を浮かべながら答える。
すると、教祖と思われる中年の男が、カイマンを睨みながら悪態をつく。
「い、忌み血が…」
「じゃーま」
教祖が悪態をつくと、シャムが教祖の顔を踏み潰し、壇上から蹴落とした。
顔が潰れた教祖は階段を転がっていき、信者達の目の前に落ちた。
原型を留めないほどに潰れた教祖の顔を見て、信者達は悲鳴を上げる。
「ヒッ!」
信者達は、ボロボロの身体を引きずって部屋の隅に逃げた。
そんな信者達には目もくれず、シャムとカイマンは少年を手厚く歓迎する。
「団長ー、腹減ってねえか?何食いたい?色々あるぜ」
「まあとりあえず座れよ」
カイマンが壇上の椅子を引くと、少年は椅子に腰掛ける。
帽子を脱ぐと、少年の顔が顕になる。
そこには、両眼に白い星を宿した、若かりし頃の那由他によく似た美少年がいた。