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デヴィットside
あれは、オールマイトがアメリカで活動していた頃。
まだ若かった頃の私のもとへ駆けつけてきたのは、幼い日本人の少年だった。
「あなたの研究を、手伝わせてください!金なら余るほど持ってます!どんな苦難も覚悟の上です!」
そう言って少年は、私を追いかけてきた。
最初は冗談か、オールマイト目当てだろうと思って突っぱねたが、彼は何度も私のもとへ訪れた。
時には、一般人が一生汗水垂らしても稼げないほどの大金や、自分で書いたという論文を持ち込んだ事もあった。
少年の熱意に根負けした私は、彼を研究室の中に入れた。
それが私の、那由他との出会いだった。
それから那由他は、毎日のように研究室を訪れ、私の手伝いをした。
那由他は、天才という言葉では表現し切れない程に頭が良かった。
普通の子供なら退屈で眠くなるような研究だったが、彼は私の研究の理論を理解した上で私に敬意を向け、研究のサポートをしてくれた。
妬まれたり嫌われたりする事も少なくなかった私にとって、那由他は、トシ以外の数少ない理解者だった。
オールマイトが帰国した後も、那由他はしばらく私の研究室に入り浸っていた。
おまけに彼は、人柄も明るく親しみやすかった。
彼が帰国する頃には、研究者と助手の関係ではなく、歳の離れた親友同士になっていた。
「よぉデイヴ、久しぶり!」
「あぁ…本当に立派になったな、那由他」
メリッサが生まれてから数年後、那由他は久々に研究の話がしたいと言って、私のもとへ訪れた。
那由他の持ってきた話は、彼が考案したという“個性”制御装置の製作を、私に手伝ってほしいというものだった。
初めて会った時は幼かった彼は、すっかり大人の男性になっていて、生後間もない赤ん坊を連れてきていた。
「ところで、その子は?」
「俺の娘。刹那っていうんだ。可愛いだろ。将来は絶対美人になる!」
そう言って那由他は、私に刹那を抱かせてきた。
私が刹那を抱くと、刹那は私を見ながら手足をパタパタ動かした。
もし彼が今も生きていたら…あの頃のように、家族ぐるみで楽しく過ごせていたのだろうか。
◇◇◇
大統領から謹慎を言い渡された私は、研究室内の備品の片付けをしていた。
謹慎期間中は、タワーへの立ち入りを禁止されている。
今日中に私の私物は全て撤去し、持ち運びを禁止されているものは処分しなければならない。
私はまず、処分するものをまとめて段ボールの中に詰めていた。
すると、研究室内のモニターがひとりでに点灯する。
そこには、私のかつての友人の那由他が映っていた。
『よぉーうデイヴ、気分はどうだ?』
画面に映る那由他は、気さくに話しかけてきた。
私に無邪気に笑いかける姿は、生前の彼そのものだ。
「…悪くはないな。そう言う君は?」
『最悪だよ、この身体になってから女を抱けなくなっちまったんだからよ。あーあ、生身の身体があった頃が懐かしいぜ』
私が尋ねると、那由他は冗談混じりに言った。
笑いながら冗談を言う彼を見ると、本当に彼が生き返ったような気分になる。
だが私は、目の前の彼が本物でない事は、とっくに知っている。
何故なら彼を造ったのは、私なのだから。
彼は、生前の那由他の記憶をもとに造った人工知能だ。
私は那由他から、余命が僅かである事を聞かされていた。
もし彼が息絶えてしまえば、世界は混乱に陥ってしまう。
そこで私達科学者が着手したのは、那由他の人格をトレースし、まるで彼が生きているかのように振る舞うAI、『ナユタ』の開発だった。
那由他の人格を仮想空間に複製する事ができれば、彼は肉体の制約なしに半永久的に生き存える事ができる。
世界中の人々が、彼の死に絶望しなくて済む。そう考えたんだ。
日に日に進化し、那由他の思考パターンや性格を再現していくAIを見て、本当に不老不死が実現するのではないかとすら思った。
だが計画は、99%完成したところで打ち切られた。
高性能なAIにネットワークを支配されるのを恐れた政府が、すぐに削除するよう要請したのだ。
しかし、削除しようとした時には、既にナユタは我々の予測を超える行動を始め、我々にも制御できなくなっていた。
ナユタは削除される事を悟ったのか、手始めに研究員の携帯を乗っ取って永遠さんや刹那の写真や動画で埋め尽くしたり、ノイズを発生させたりして抵抗した。
結局我々はナユタを削除したものの、彼は自身のバックアップを隠して生き延び、今もなお我々の予測を超える速度で成長を続けている。
老いる事も死ぬ事もなく、どこにいようと私達の事を知る事ができる…
電子の世界に限って言うなら、彼はまさしく神になったと言っても過言ではないだろう。
「正直…君が政府を欺いて生き延びていたと知った時は、驚いたよ。そうまでして、君は何がしたかったんだ?」
『まあ、30過ぎたオッサンのちょっとした親心だよ。俺は幼い娘を置いてあっさり逝っちまったからよ。うまくやれてるか、親としては心配なんだ。俺は刹那に姿を見せねえが、どこにいようとずっとあいつを見守り続ける。俺にとっちゃ大事な娘だからな』
「そんなに家族を大事に想っているなら、何故刹那には一度も姿を見せない?あの子が君の理想を叶える為にどれだけ自分を犠牲にしてきたか、知らないわけじゃないだろう?」
『だからこそだ。あいつには、俺に構わず幸せになってほしいんだよ』
そう語るナユタの表情は、子を想う親そのものだった。
彼が政府を欺いて秘密裏に活動していたのは全て、娘の刹那を想っての事だった。
彼にそこまでさせたのは、彼の親でもある那由他の、偏に狂気とさえ呼べる程の娘への愛だ。
那由他は家族の幸せの為に命を懸けて世の中を変え、那由他の記憶を引き継いだナユタもまた、娘に幸せになってもらいたい一心で
『悪かった、デイヴ。苦しい時、何もしてやれなくて』
私に全てを打ち明けたナユタは、頭を下げて謝ってきた。
何もしてやれなかったなんて事はない。
那由他は私が苦しい時、充分すぎるくらいに助けてくれたし、世界中の多くの人を救ってきた。
変わらなければいけないのは、私の方だったんだ。
「…謝るのは私の方だ。君やトシに重いものを背負わせて、君が死んでから、トシに縋る事しかできなくなっていた。本当にすまなかった」
『………』
「私にこんな事を言う資格は無いのかもしれないが…これからは、未来のヒーローを支える為の研究をしようと思う。君の思い描いていた、誰もが誰かのヒーローになれる世界にする為に」
『俺の、じゃなくて
「…ああ、そうだな」
私が決意を語ると、ナユタは笑いながら訂正した。
『お前んとこに現れるのはこれで最後にするからよ。頑張れよ、デヴィット・シールド』
ナユタがそう言った直後、モニターの電源がひとりでに落ちた。
私が片付けを再開し、大方片付け終わった頃、メリッサが声をかけてくる。
「パパ、そっちの準備は終わった?」
そう言ってメリッサは、私が片付けをしている研究室に入った。
アカデミーが終わってすぐ来てくれたのか…
その後も、私は研究室内の私の備品を全て片付け、家に持ち帰る物とここで処分する物に分けた。
途中からメリッサが手伝ってくれたおかげで、片付けは思いの外早く進んだ。
日が暮れる前には、研究室の片付けが終わり、広い研究室には私のいた形跡がすっかりなくなっていた。
「この研究室とも、しばらくはお別れね」
「すまないメリッサ、私のせいで…」
私は、寂しそうに呟くメリッサに心の底から謝罪した。
私が罰を受けるのはいい。
だが、私が罪を犯そうとしたせいで、メリッサにも迷惑をかけてしまった。
この先、私の娘というだけでメリッサまで非難を受けるかもしれない。
私は、それだけの事をしようとしていたのだ。
私がメリッサに謝罪すると、メリッサが口を開く。
「正直、ショックだった。パパがマイトおじさまの為に、罪を犯そうとしていた事。私の尊敬するパパは、絶対にそんな事しないって信じてたから…」
メリッサは私に、思いの丈をぶつけてきた。
耳の痛い話だった。
私は、ずっと娘を裏切り続けていた事に、気づきすらしなかった。
「でも私、パパを支えるって決めた。今までパパが世界中のヒーロー達のサポートをしていたように、私もパパや未来のヒーロー達をサポートしたい。それが、私の目指すヒーローのなり方」
「メリッサ…」
そう意気込むメリッサを見て、私は胸が苦しくなった。
謹慎期間中の生活費は、今までの貯金で何とか賄える。
だが今の私には、メリッサを進学させてやれるだけの金はない。
メリッサの夢だったI・アイランドのユニバーシティに入れてやる事もできない。
私がその事を謝ろうとすると、メリッサは言葉を続けた。
「私の心配ならしないで。学校の事だけど…スティーブ先生が、私をユニバーシティに推薦してくれてるの。優秀な成績を残せば、学内の設備を無償で提供してもらえるんですって。デクくんやお茶子ちゃん、皆が雄英で頑張ってるんだもの。私も頑張らなきゃ!」
そう言ってメリッサは、両手をグッと握りながら笑顔を浮かべた。
その笑顔に、私は幾分か救われた気がした。
尚の事、これ以上メリッサに情けないところは見せられない。
彼女の夢を叶える為にも、そして私の理想の為にも、精一杯やれる事をやろう。
◆◆◆
???side
「どうしたものか…」
セントラルタワーの上層階の研究室にて、白衣と眼鏡を身につけた中年女性がそう呟いていた。
朱色のメッシュの入った黒髪を後ろで束ね、真紅の瞳の片側に白い星を宿した女性だった。
彼女は、検査用のカプセルに入った背の高い男性を見ながら、ポツリと呟いた。
彼女の名は
I・アイランドにも劣らない最先端の科学技術を誇る六徳研究所の所長であり、“個性”科学史にその名を刻んだ天才科学者でもある。
「まさか、こんな事になるなんてね。ねぇ、那由他?」
そう言って火輪は、タバコに火をつけた。
彼女が開いたスマホのホーム画面には、彼女の部下の研究員達と、弟の那由他と一緒に撮った記念写真が表示されていた。
◆◆◆
火輪side
私は子供の頃から、飛び抜けて頭が良かった。
周りはバカばっかりで、子供の頃の私は自分以外の全てを見下していた。
だけど那由他だけは、唯一私の思考速度についてきて、知的で建設的な話題を提供してくれた。
“無個性”のくせに目立ちたがりでバカで生意気で心底ムカつく弟だったけど、六徳家の当主たる器はあいつしかいないと思った。
凡愚どもはあいつの才能だけを見て『天才』だの『神童』だの持て囃したけど、那由他が人々の英雄になったのは、天才だからじゃない。凡愚どもの何百倍、何千倍もの努力をしてきたからだ。
だからこそ私は、あいつの姉である事を誇りに思ってきた。
あいつが当主としてこれからもずっと六徳家を守ってくれると、心のどこかで思っていた。
あいつが私の知らない世界を見せてくれたから、私はあいつの夢見ていた新時代を創る為に、科学者の道を選んだ。
だけど那由他は、余命が残り僅かだと明かすと、もし自分が死んだらその先は娘の刹那に託すと言い出した。
私は、那由他が『第二の平和の象徴』と呼ばれるに至るまで、どれだけ自分を犠牲にしてきたかを知ってる。
その那由他が死ぬというだけでも信じられなかったのに、たまたま那由他の娘に生まれただけの小娘が、何の努力もせずに那由他の築いた地位を継ぐなんて、そんなの許せなかった。
まあ刹那は、私の話について来られるくらいには地頭が良かったし、当主になってからは家を守る為の努力はしてる。そこ
だけどあの子がどんなに形だけ真似たって、そんなのは那由他じゃないし、私は絶対に認めたくなかった。
那由他の余命を聞かされた時私は、あいつを失いたくない一心で、I・アイランドの科学者と共同でナユタを造った。
大嫌いな弟だったけど、私にとっては、唯一私に居場所をくれた家族だったから。
『姉貴〜、元気してる?』
ナユタは、生前と変わらないヘラヘラした笑顔で話しかけてきた。
「あんたは相変わらず元気そうね」
『あれ、なんか小皺増えた?』
「…は?焼き殺されたいの?」
ナユタがデリカシーもへったくれもなく私を煽ってくるものだから、私は苛立ちのあまり手から炎を出した。
造った私が言うのも何だけど、生意気なところは本物そっくりだわ。
こういうとこ、ほんっと大嫌い。
『なあ、面白いもん考えたから、姉貴も作るの手伝ってくれよ』
「はぁ!?」
『AIとアンドロイドなんだけどさ。刹那と劫波にプレゼントしてやりたいのよ。せっかくなら、かっこいいの作りたいんだよな。姉貴そういうの得意だったよな?』
そう言ってナユタは、発明品の設計図を私に見せてきた。
自分で機械を作るAIなんて、聞いた事ないわよ…
でも私がこんなものを作る義理はない、そう思っていた。
「…嫌よ。何で私があんたの子供へのプレゼントを作らなきゃならないのよ」
『だって姉貴、俺の事好きだろ?』
「は!?何でそうなんのよ!?」
『俺、姉貴が俺の為に誰よりも努力してくれてた事はわかってるからさ』
こいつ…調子のいい事言って…!
そういうとこ、昔っからほんと大嫌い。
『じゃ、そういうわけだからよろしく』
「ちょっ…待ちなさいよ!話はまだ終わってないわよ!」
ナユタは、一方的に言いたい事だけ言って消えた。
ったく、人の気も知らないで勝手な奴。
自分で造ったAIに翻弄されるなんて、これじゃどっちが主人だかわかりゃしないわ。
「ったく…」
ナユタは、私に発明品の完成を丸投げしてきた。
あいつの研究を引き継ぐ義理なんてどこにもなかったけど、あいつの研究が未完成のまま終わるなんて私が黙っていられなかったから、私の手で完成させた。
あいつの発明品は、主に二つだった。
一方は、主人の命令でのみ動き、主人の命令を完璧に遂行する高性能アンドロイド型軍用機器。
もう一方は、I・アイランド全域にアクセスして学習を行い、使用者の知識を補うAI。
それぞれを自分の子供にプレゼントしたかったらしいけど、一応AIのプロトタイプは女性をモデルに作ったから、そっちを刹那にプレゼントするつもりだったみたい。
名前を決めてなかったから、名前は私が決めてやる事にした。
アンドロイドの方は、
AIの方は、
略して、『
ナユタという神が生み出した発明達にピッタリの名前だ。
イヴの方は、主人である刹那と出会って、今は刹那の代わりにメリッサに従っている。
だけどアダムの主人になるはずだった那由他の息子は生まれる前に死んで、使い手のいない機械だけが取り残された。
まあ、主人がいないからって保管庫の中に閉じ込めておくのも勿体無かったから、シールド博士と一緒に独自の解釈で改造を施してセントラルタワーの警備ロボとして活用していたんだけど。
まさか、そのシールド博士が罪を犯しかけて謹慎処分を受けるなんてね。
「…よし、終わった。あなたとはしばらくお別れね」
アダムのメンテナンスを終えた私は、工具の入った箱の蓋を閉じ、メンテナンス用のカプセルの中に入ったアダムに目を向ける。
アダムの設計書を書いたのはナユタだけど、実際に作ったのは私とシールド博士だ。
アダムが万が一暴走を起こした時、暴走を制御できるのは私とシールド博士しかいない。
私も自分の研究の為に日本に帰らないといけないから、シールド博士の謹慎期間中は、アダムの機能を停止させておく必要がある。
私はアダムの頬に手を添えながら、別れの言葉を告げる。
外見はほとんど人間と変わらないのに、触れてみると、冷たくて硬い。
触れると改めて、彼も機械なんだと実感する。
「あなたと過ごした時間は少しだけ楽しかったわ。
そう言って私が電源を落とすと、ブゥン、と電源が落ちる音が鳴り、アダムは深い眠りについた。
私はアダムが眠るのを見届けてから、タバコに火をつけながら研究室を後にした。
◆◆◆
刹那side
I・アイランドのレセプションパーティーから3日。
無事に日本に帰国し、忙しくはありつつも平穏な日常に戻るものかと思いきや。
「では時間となりましたので、I・アイランドへの
胸の下まで伸ばした髪をポニーテールにしてダークグレーのレディーススーツに身を包んだ私は、急遽開かれた記者会見に出席していた。
私が予定を早めて帰国したのは、記者会見に出席する為だ。
世界中の注目を集めるI・エキスポ。そのプレオープン中に
レセプションパーティーは全世界に配信されていて、当然博士のカミングアウトも瞬く間にネット上に広まった。
あの場では私のフォローもあってか、博士を責める声はなかったが、ネットではかなり批判的な意見も散見される。
サミュエルが計画していたタワー占拠は私達が防いだものの、今まで一度も
まあそれ自体は博士がカミングアウトしなかったとて、
肝心なのはそこじゃなくて、その後どうするのかが重要だという話だ。
ただでさえ侵入者の存在が明るみになった事で、I・アイランドへの信用が揺らいでいる状態なのだ。
私の発言一つで、人々はI・アイランドへの信用を完全に失ってしまう。
私は、発言に気をつけながら、今回の事件の説明をした。
まずはレセプションパーティー中の博士の発言について、この場を借りてその真偽を証言した。
まず、デヴィット・シールド博士が、凍結された研究を取り戻す為に
しかし博士自身は何も知らされておらず、本物の
それを私がいち早く察知し、
何一つやましい事などしていないのだから、嘘をつく必要もはぐらかす必要もない。
私は、自分の口から真実を話した。
「以上が、今回の事件の概要となります。何かご質問は?」
私が事件の概要について質問を受け付けると、次々と報道陣の手が上がった。
私が順番に記者を指名すると、指名を受けた記者が質問を投げかける。
「今回の事件の対応についてお聞きしたいのですが、
「
「今回の事件を受けて、六徳様は今後どういった対応をされるご予定ですか?」
「現在、I・アイランドでは既に新たなセキュリティシステムの試験運用を実施しています。六徳家の代表として、そのような取り組みに対し資金の提供や技術的なサポートを行う予定です。また、今回のような事例に対する法制度整備に向けて、ぜひ一度
私は、記者の質問に対し、曖昧にしたり嘘をついたりせず明瞭に答えた。
ほとんどの質問が想定内の質問だったので、私は記者達の質問にそつなく答える事ができた。
プライバシー保護の観点から答えられない質問もあったが、流石に日本のマスコミといえど自分達の置かれている立場をわかっているからか、私が『ノーコメントで』と答えた質問はそれ以上掘り下げなかった。
マスコミパニックの後、私が改めて報道機関の上層部に圧力をかけて記者達に再教育を受けさせたから、以前のようにあからさまなマスゴミはあまり見なくなった。
だがそんな中、一人の記者が質問を投げかけてきた。
「ひとつ、質問をよろしいでしょうか?六徳さんは、何を根拠として
その記者は、少し踏み込んだところまで尋ねてきた。
ううむ…なんて答えようかな。
本当の事を話せば、『金欲しさに
別にサミュエルを庇うつもりはないが、彼をあからさまに悪者にするような発言をするのもな。
「
私は真実を伝えつつ、サミュエルが博士を拘束してケースに詰め、人質に取って逃走しようとしていた事は伏せた。
この記者会見の本質は、現状に不安を抱える民衆に対し納得のいく答えを示す事であって、一研究員の悪事をほじくり返す場ではない。
心操君の“個性”を使って尋問した事も、念の為伏せておいた。
“個性”を自由に使用できるI・アイランド内での行動だし、緊急性の高い状況であった事は明らかなのだから、事実が明るみになったところで私や心操君が何らかの罪に問われる可能性は低い。
でも誰が聴いているかもわからないので、具体的な尋問方法は開示しないのが得策だろう。
だが私が具体的な尋問方法を開示しなかった事で、記者…いや馬鹿が調子に乗って口撃してきた。
「つまりあなたは、システムが異常を検知したというだけで研究員に疑いをかけ、捕まえて尋問したという事ですか?冤罪かもしれないのに研究員を脅して自白を強要した事については、どうお考えで?
なるほど、そう来たか。
馬鹿が私の対応の粗探しをし、その事についてネチネチと問い詰めてきた。
馬鹿が喋る度に周りの報道陣がみるみる青くなっていくが、馬鹿はその事に気付く事なく、憂さ晴らしをするかの如く私に非難の声を浴びせた。
たまにいるんだよな。
少しでも六徳家の評判を落としてスカッとしたい哀れな連中が。
毎回思う事だが、私を貶めるのならもう少し上手くやれないものか…
こいつの指摘は、ピント外れもいいところだ。
そもそも私はサミュエルを脅したりなどしていないし、確実かつ奴を最も傷つけない方法で尋問をした。
つまりこいつが言っている事は全て、私の発言を自分の都合のいいように解釈した妄言に過ぎない。
「………ふ」
おっと、詰め方があまりにもお粗末すぎて笑ってしまった。
私が笑うと、馬鹿は怪訝そうな表情を浮かべる。
「いえ、失礼。あまりにもお口が達者なものでしたから。ですがここは記者会見の場です。これ以上妄言を吐くようでしたら、他の方のご迷惑となりますのでお引き取り願います」
「妄言?私は、疑問に思った事をお尋ねしただけですが?勝手な決めつけをしないで下さい」
「勝手な決めつけをしているのは貴方の方です。『脅して自白を強要』?『人権を侵害』?私の言葉をどう解釈すれば、そのような言葉が出てくるんです?」
「それは…っ、だって、捕まえて尋問した容疑者の証言が真実の可能性が高いって聞いたら、脅すなりして無理矢理吐かせたと思うでしょ普通!?」
「ああそうですか。残念ながら、私が容疑者を脅迫したという事実はございません。容疑者を特定する為の調査も、尋問も、プロヒーローの確認のもとで行っています。人権侵害をして心が傷まないのかと仰っていましたが、心が痛むわけないでしょう?だって、そんな事してないんですから」
私が馬鹿の妄言をキッパリと否定し反撃すると、馬鹿の顔がまあ歪む歪む。
プロヒーローである当家の執事が先陣切って捜査している時点で、私が違法かつ非人道的な方法で捜査を強行したという馬鹿の理屈は破綻している。
はじめに馬鹿がしてきた質問に全て答えた私は、馬鹿に対してトドメを刺す。
「ところで貴方は今、全国で放送されている記者会見の場で、勝手な決めつけで人様の評価を下げるような発言をしたわけですが…これで材料が揃いましたので、近日中に名誉毀損で告訴させていただきますね」
「な…!?」
私が笑顔で言うと、馬鹿は見るからに動揺する。
私の社会的評価を落としたかったのだろうが、公然の場で私を悪く言ったところで自分の首を絞める結果にしかならない事など、周知の事実だ。
こういう時実際に告訴するケースが少ないのは、裁判を開くのに必要な金と時間に対して、得られるものが少ないからだ。
だが私の場合は、知り合いに腕利きの弁護士の先生がいるし、私に楯突く邪魔者を法的に制裁できるのなら、裁判の費用など安いものだ。
一般人にしているのと同じやり方が、何故私にも通用すると思ったのだろうか。
「先に言っておきますが、これは決して脅しやハッタリではなく、確定事項ですので悪しからず。他に何も言う事が無ければ、他の方からの質問への返答に移らせていただきます」
私がそう言うと、良識のあるジャーナリスト達が馬鹿をその場からつまみ出してくれた。
無論、この記者会見が終わったら奴の事は本当に訴えるつもりだ。
ああいう馬鹿を放置しておくと、つけ上がる奴が出てくるからな。
この際、日本のマスコミを叩き直すいい機会だ。
法廷では一切反論の余地を与えずボコボコにするつもりだが、根拠のない妄想で私を貶めたのだから、自業自得だ。
それにしても、私を貶めるのに必死すぎてボロボロだったなぁ。
そこまでして私を悪者にしたいとは、こいつもしかしてヴィ……いや、それは流石に邪推が過ぎるな。
◇◇◇
記者会見を終えた後、私は駐車場へ行き車に乗ろうとした。
だがその時、私達を囲むように向けられるぎらついた視線を感じた。
…まあ、駐車場に来た時から
「隠れてないで出てきたらどうだ?」
私がため息をついてから言うと、見るからにカタギじゃない奴等がウヨウヨ出てくる。
……こういうの見ると、日本に帰ってきたって感じがするな。
I・アイランドには、私の命を狙う刺客がいなかったから。
山根が背中の後ろに回した手でハンドサインをしてくるので、それを見た私は素早く車に乗り込む。
すると、車に乗る前に殺そうと、刺客が一斉に寄ってくる。
山根は、そいつら目掛けて閃光弾を投げつけた。
刺客が怯んでいる隙に山根は車に乗り込み、アクセルを踏み込んで発車した。
「逃がすな!!追えぇ!!」
「100億ドルは俺のもんだァ!!」
刺客共が、下品な声を上げながら追ってくる。
私達が高速道路に逃げ込むと、刺客がしつこく追いかけてきた。
刺客の車は4台か…
さらにその後ろには、パトカーが来ている。
警察に同行しているプロヒーローは、“個性”を使って刺客を止めようとする。
すると刺客は、“個性”を使って応戦しつつ、私達の車目掛けて攻撃を放ってきた。
山根はプロ顔負けのハンドル捌きで刺客の攻撃を回避し、速度を上げて引き離した。
こんなに大袈裟なカーチェイスは、2年前の
…割と最近だったな、
「山根。亜楼達はあとどれくらいで到着する?」
「あと30秒で到着します」
30秒か…
高速道路を抜けるまでに、亜楼達が間に合うかどうか…
などと考えていたその時、ヘリコプターが飛んでくる。
ヘリの中から何かが4つ落ちてきたかと思うと、空中で減速しながら道路へ降りてくる。
降りてきたのは、人だった。
降りてきた4人のうち、大柄な男が刺客の車の前に先頭の車を両腕で持ち上げ、車体を横転させた。
一人は両手に構えたサブマシンガンで車を一台パンクさせ、一人はボンネットに飛び乗ってフロントガラスを突き破りハンドルを奪って車を暴走させた。
そして最後の一人は、残った車に向かって突っ走り、大きく跳躍してルーフの上に飛び乗り、ルーフを突き破って車内に侵入した。
しばらくして車体がガタガタと大きく揺れたかと思うと、車のドアが吹っ飛び、車内に侵入した小柄な男が中から出てくる。
その直後、別の車から刺客が飛び出し、“個性”を使って小柄な男に不意打ちを仕掛けるが、回し蹴りの一撃で返り討ちに遭った。
突然現れた4人の不審者は、ものの数秒で刺客を全滅させてしまった。
そのうちの一人、リーダー格の小柄な男と目が合った。
「あ……!」
初めて見るはずなのに、一目で誰だかわかった。
子供らしい中性的な顔立ちをしながらも、両眼に星を宿した鋭い眼差しは、父を思わせる。
「劫波…なのか…?」
あの日死んだものだと、ずっと思っていた。
一度もこの目で見る事は叶わなかった、私の弟。
これにてI・アイランド編終了です。
やっと前々から匂わせてた弟くんを出せました。
“無個性”なのに身体能力と洞察力をフル活用して“強個性”持ちをフルボッコにするとか…ナックルダスターかお前は。
パッパもパッパで、“無個性”なのにオールマイト級の活躍をして世界中の人類から愛されてた現人神だしよ。
もうこいつらが主人公でいいのでは?(錯乱)
最近世直し要素薄すぎてもはや別作品になっていますが、弟くんの話と梅干し退治が終わったら当初の軌道に戻します。
本当はオリ主の頭脳と政策で世の中にメスを入れる話を書くつもりだったんですが、そうなるとどうしても梅干しがノイズになっちゃうんですよね(実際オリ主のパッパも梅干しに目をつけられて殺されてるわけですし)。