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第33話 【朗報】弟がお友達を連れてきました
「もしも〜し、きこえてますか〜」
わたしが話しかけると、お母さんのおなかが動いた。
「動いた…!お母さんっ、動いたよ!」
「ふふっ、返事が上手ね」
わたしが手をぱたぱたさせると、お母さんは笑った。
半年くらい前、お母さんからいつもと違う匂いがしたから、お母さんがお母さんじゃなくなっちゃうと思ってずっと怖かったけど、お医者さまに調べてもらったら、おなかに赤ちゃんがいることがわかった。
昨日、お母さんがお医者さまにおなかの赤ちゃんを診てもらって、来月赤ちゃんが産まれるって教えてくれた。
あと一か月で、わたしはお姉ちゃんになる。
わたしが赤ちゃんに話しかけていると、お父さんがねこちゃんみたいに丸くなって、お母さんに甘えてきた。
「あんた何してんの」
「だって永遠も刹那も、最近この子にベッタリで全然俺に構ってくんねーんだもん。夜泣きしてやる」
「お前が赤ちゃん返りすんのかい」
お父さんが言うと、お母さんはお父さんの耳を引っ張った。
ナイトアイさんに会ってから、お父さんはお母さんとわたしに甘えてくることが多くなった気がする。
そういえばお母さんのおなかに赤ちゃんができたのは、お父さんがナイトアイさんに会ってすぐだったような気がする。
じゃあお父さんが見た未来は、赤ちゃんが生まれてくる未来だったのかな。
「お父さん、お母さん…わたし、ちゃんとおねえちゃんやれるかなぁ…?」
「俺でさえ親になれたんだから、何とかやれるんじゃねーの?」
「…がんばる」
わたしは、産まれてくる赤ちゃんのために、がんばってお姉ちゃんになるって決めた。
赤ちゃんの名前は、男の子なら『
この子は劫波、わたしの弟。
世界でたった一人の、私の弟
この手で抱きしめてあげたかった。
毎日おはようって伝えたかった。
どこへでも、どこまでも、行きたいところへ連れて行きたかった。
◇◇◇
「劫波…なのか…?」
信じられなかった。
だって、あの日死んだと思っていたから。
だけどあの子は、間違いなく私の弟だ。
だが、もしそうだとするなら、あの状況でどうやって助かって、どうやって今日まで生き延びてきた?
我が家の情報網を持ってしても、弟が生きているという情報は一度も聞いた事がない。
…いや、そんな事より今は……
『君達、何をしているんだ!!』
メガホンを持った警察官の声によって、私の思考は現実に引き戻された。
警察と共に刺客を追っていたヒーロー達が、少年達に向かって話しかける。
「見たところ、未成年だな?親はどうした?」
「は?」
「ヒーロー免許を持たない者が“個性”を使う事は、法律で禁止されている。しかもそれを
ヒーロー達は、少年達に向かって説教をした。
日本では、一般人の“個性”の使用は認められていない。
とはいえほとんどの地域では人に迷惑がかからない範囲内での“個性”使用は黙認するという暗黙のルールがあるから、破ったところで厳重注意や謹慎処分で済む事がほとんどだが、今回のように
最悪、
しかし、今のは“個性”を使っているようには見えなかったが…?
「
「
「
「
少年達は、説教するヒーロー達を他所に、独特の訛りが入った英語で喋っていた。
早口で鈍った英語を喋る少年達に、ヒーロー達は戸惑っていた。
すると白石警部が前に出て、流暢な英語で少年達に話しかけた。
「えっと…
「
白石警部が説得を試みると、細身の青年がべっと舌を出して白石警部を煽った。
リーダー格の少年と白石警部は、互いに睨み合う。
少年達が戦闘態勢を取ると、ヒーローや警察はいつでも少年達を捕えられるよう武器を構えた。
一触即発とは、この事だ。
「待って下さい」
私は車を降り、仲裁に入ろうとする。
すると山根が、咳払いをしてから私に話しかける。
「お嬢様」
「…わかっている」
山根の言わんとする事は、何となくわかる。
私とて、公私を混同するほど愚かではない。
ここで仲裁に入らなければ、警察が損失を被る事になると判断したまでだ。
私は、警察と少年達の間に入り、説得を試みた。
「白石警部、私も同行させてください」
「刹那ちゃん…」
「元はと言えば、
私はまず、警部の説得を試みた。
私が事情を話せば、付き合いのある警部ならわかってくれるだろう。
そんな期待をしつつ説得すると、警部は私の願いを聞き入れてくれた。
「…わかったわ。というか、元々そのつもりだったしね。でも刹那ちゃん、この子達に絆されちゃダメよ。あなたなりに思う事はあるのでしょうけど、この子達はルールを破った。それだけは覚えておきなさい」
「重々承知しております」
警部が私に対して釘を刺してくるものだから、私は内心警部の鋭さに脱帽しつつ笑顔で返事をした。
警部を説得した私は、未だに私達を警戒している少年達に目を向け、小声で話しかける。
「
「
私が小声で言うと、赤い髪の少女が即答し、青年二人が私を睨んでくる。
すると少年が左手を挙げ、三人を制止した。
「
少年がそう言うと、他の三人は警戒しつつも私を睨むのをやめ、大人しくついてきた。
こうして、私は少年達と共に警察署へ向かったわけだが…
少年は、何度も私の顔を見てきた。
そういえばまだ、この子の名前を聞いていなかったな。
「
「
私が少年に名前を尋ねると、少年はそっけなく答える。
名前はない、か…尚の事、この子が今までどうやって生きてきたのかが気になる。
聞きたい事は、山ほどある。
言いたい事も、数えきれないほどある。
だが今は、これからどうするのが最善かを考えなくては。
◇◇◇
その後、警察署にて。
少年率いるヴィジランテ予備軍4人に加え、彼等の仲間だという『ラット』という青年にも事情聴取をした。
彼等は、『
「あのね?あなた達の国では、一般人が“個性”を使ってもOKだったかもしれないけど、この国では使っちゃダメなの。ましてや
語学が堪能な白石警部が、彼等の言葉でこの国のルールを丁寧に説明した。
するとシャムが、笑いながら答える。
「おいおい言いがかりはよせよ、オネーサン!俺らは“個性”を使ってなんかいないぜ?」
「というより、使いたくても使えませんよ。彼以外は全員“無個性”なので。彼の“個性”も、見た目意外に特筆した能力はありませんし」
シャムが言うと、ラットも隣に座っているカイマンを指しながら言った。
5人中4人が“無個性”だと…?
確かに先程の戦闘で“個性”を使っているようには見えなかったが、もしそうなら、“個性”を使わずに刺客を全員無力化したって事になる。
本当にそんな事ができるのか…?
などと考えていると、事情聴取をしていた警察官が口を開く。
「“個性”を使っていないだと?そんなわけあるか!嘘をつくな!」
「嘘をついてると思うんなら調べてみれば?」
警察官が怒鳴ると、シャムが笑いながら言い放つ。
すると白石警部と一緒に事情聴取をしていた“プッシーキャッツ”のラグドールが、“個性”である『サーチ』を使って5人を調べる。
「嘘はついてないニャン。この子以外は、4人とも“個性”を持ってニャいよ。この子も、『見た目がトカゲっぽくなる』以外の力は持ってニャいわ」
そう言ってラグドールがカイマンを指すと、事情聴取をしていた警察官達がどよめく。
4人は“無個性”で、唯一“個性”を持っているカイマンも、『見た目がトカゲっぽくなる』だけという、ほとんど“無個性”同然の“個性”だった。
それなのに、“強個性”を持つ刺客に何もさせずに一瞬で全滅させてしまったというのだ。
飄々とした態度で事情聴取を受けている少年達に対し、マンダレイが尋ねる。
「“無個性”だというのが本当だとして、随分と闘い慣れているようだけど?」
「オールマイトとかいうヒーローに守られてぬくぬく暮らしてるお前らと違って、俺らは血煙を浴びて生きてきたんだよ。スラム育ち舐めんなよ」
「「「…………」」」
マンダレイが尋ねると、シャムは身を乗り出して目をひん剥きながら、煽るように笑った。
シャムが当然のように言った言葉に、警官達は絶句し、何も言い返せなくなる。
「あなた達が“個性”を使っていないのはわかったわ。でもお嬢ちゃん、あなたの持っていたこのエアガン、改造銃でしょ?この国では改造した空気砲は所持禁止ってわかってるわよね?」
「はあ?何、エアガンもダメなんかよ?あー、日本ってめんどくせー国だな。息が詰まりそう」
「つーかさ、俺らいい事したのに何で怒られてるわけ?
「そういうルールなのよ。
白石警部が少年達の罪状を伝えると、カイマンとシャムは呆れたようにため息をつく。
警察やヒーローは、少年達が武器を使って
尋問をのらりくらりと躱す少年達に対し、警察やヒーローは完全に彼等のペースに飲まれていた。
このままでは埒が開かないと判断した私は、話題を変える事にした。
「…ひとつ聞かせろ。何故日本に来た?」
私は、少年達に単刀直入に尋ねる。
他にも色々聞きたい事はあるが、今知りたいのは、異国の地で暮らす彼等が何の目的で日本に来て、これから何をしようとしているのかだ。
私が尋ねると、少年以外の4人は、見るからに不満げな顔で私を見てくる。
だがその時、少年が顔を上げ、私を指差しながら口を開く。
「六徳家当主。お前に話を聞きにきた」
…え?
…………私?
「それは…彼女が六徳家の当主だと分かった上で、彼女を助ける為に
「ああ。あいつらは、話をするのに邪魔だったから片付けた」
白石警部が尋ねると、少年は平然とした態度で答える。
…やはり、彼等は手当たり次第に
そんな気はしていた。
明確な狙いが無ければ、わざわざヘリを使って高速道路に降り立ったりはしない。
「異国で暮らしていたあなた達がわざわざ日本に来て、彼女に何を聞きに来たの?」
白石警部は、簡潔に少年に尋ねる。
すると少年は、しばらく私の目をじっと見てから口を開く。
「……ある奴が、こう言ってた。俺の実の親は、六徳家という日本の大富豪だった。だけど、俺を産んですぐに捨てた」
な…んだ、と…!?
「おい待て、その話は本当か?」
「嘘つくんならもっとマシな嘘をつく」
私が尋ねると、少年は一切動揺する事なく答えた。
反応を見るに、嘘はついていないようだ。
どうやらこの子に六徳家の事を教えた人物がいる、というのは本当のようだ。
だとしたら、誰がそんな事を吹き込んだんだ…?
父と母が私の弟を捨てただなんて、全くのデタラメだ。
おそらくそいつは、六徳家へのヘイトを植え付ける為にホラを吹いたのだろう。
そいつが六徳家を陥れる為に思いつきでデタラメを言ったのか、それとも六徳家に息子がいた事を
だが少年に六徳家の事を教えた奴は、間違いなく六徳家に敵意を持っている人物だ。
もしかしたら、私の両親を殺した奴と何か関係があるのかもしれない。
「誰がそんな事を言っていた?」
「知らねえよ」
「直接会ったんじゃないのか?」
「会ってない。端末で声を聞いただけだ」
端末で声を聞いただけ、だと…?
直接会って話を聞いたわけじゃないのか?
「ちょっと待って、それって…」
「俺は、この目で見たものしか信じない。だから、この目で確かめに来た。お前が俺の敵かを」
白石警部が何かを言おうとするのを遮って、少年は私を鋭い目で見据えながら言った。
白く輝く星を宿した眼光を見て、私は改めて確信した。
やはりこの子は、
◇◇◇
その後、一通りの事件の調査や事情聴取が終わり、私は待合室で5人の処遇が決まるのを待っていた。
すると調査を終えた白石警部が、医与と一緒に来て待合室に来て私に声をかけてくる。
「お待たせ、刹那ちゃん」
「お疲れ様です、白石警部」
「お茶でも飲む?」
「…いただきます」
警部は、私に自動販売機のロイヤルミルクティーを奢ってくれた。
その前に医与が、“個性”で私達の遺伝子を調べた結果を教えてくれた。
「お嬢様。やっぱりあの子は、あなたの弟で間違いないわ」
「…やはり、そうか」
医与の“個性”でDNA鑑定を行った結果、あの子は私の弟である事が証明された。
あの子は私の父によく似ているから、そんな気はしていた。
「それと……」
「何だ?」
「…いえ、何でもないわ」
医与は、何かを言おうとして、言葉を濁した。
私は、医与の発言が気になりつつも、それ以上は問い詰めなかった。
この時医与を問い詰めなかった事を、後で後悔する事になるとも知らずに。
その後私は、警部から今回の事件の概要を聞いたのだが…
逢魔刻団が倒した
そして
5人とも未成年で、そのうち弟とロップは法律で処罰されない年齢だった事、5人とも身寄りが国内にいない事、そして建前とはいえ私を助ける為に
まあ本音は、今回のような特殊なケースに対して処罰するのは面倒だから見なかった事にしてしまえ、という事だろうが。
今回は初犯という事で、警察やヒーローからの
「以上が、私達警察が出した結論よ」
「…そうですか」
白石警部が事件の概要を話すと、私は特に驚くわけでもなく静かに頷いた。
正直、子供だからといって見なかった事にするのはどうかと思うが…
などと考えていると、警部が席を立つ。
「こんな時間まで長居させてごめんなさいね。また何かわかった事があったら連絡するわ」
「ありがとうございます」
白石警部に感謝の言葉を伝えてからその場を去ろうとすると、警部が声をかけてきた。
「ああそうだ、刹那ちゃん。弟くん…生きててよかったわね」
白石警部は、私に優しい言葉をかけてくれた。
私が涙ぐんでいると、警部は私を優しく抱きしめてくれた。
白石警部は、私が両親を殺した
賢く、勇敢で正しく、市民に優しい、まさに警察官の鑑だ。
彼女がいなければ、私は警察に対する信用などとうに失くしていただろう。
◇◇◇
「いい?今回は大目に見るけど、二度とあんな事しちゃダメよ?お返事は」
「「はーい」」
白石警部が釘を刺すと、シャムとカイマンが反省していなさそうな態度で返事をする。
事情聴取が終わる頃には、すっかり日が暮れて辺りは暗くなっていた。
迎えの車を手配した私は、5人に声をかける。
「乗れ。私の家に案内しよう」
私は、5人を迎えの車に乗せた。
山根の運転する車は、そのまま警察署を後にした。
「君達のお陰で、命拾いした。改めて礼を言う」
私は、刺客を退治してくれた逢魔刻団の5人に礼を言った。
やり方が良くなかったとはいえ、私の命を救ってくれたのもまた事実。
だが、それはそれ、これはこれ。
ルールを破った事に対しては、きちんと反省させないと。
「だが、君達のした事は、公共のルールに反する。二度とやるな」
私が言うと、劫波以外の4人がワンテンポ遅れて頷く。
…いまいちピンと来ていない?
もしかして、暴力はダメっていう認識が無いのか?
私は、彼等の反応を見て、少し考えてから口を開く。
「…あと、わかっているとは思うが、日本ではたとえ相手が殺意剥き出しで襲いかかって来ようが、こちらから手を上げるのはアウトだ」
「「!!?」」
私が言うと、シャムとカイマンは驚いたような表情を浮かべていた。
まじかよ、そこからか…
一応話しておいて正解だったな。
「そっか、オールマイトがいる国だもんな…」
「え、でも手ェ出すのナシってやばくね?どうやって自衛すんの?」
日本のルールがよほど衝撃だったのか、カイマンとシャムは小声で話し合っていた。
こいつら、さては初犯じゃないな?
「逆に、君達の国ではどうするのが正解なんだ?」
「殺られる前に殺る」
「即、射殺」
「正義鉄拳バンザイ☆」
「………」
「…まあ、法なんてあってないようなものだったので、そうでもしないと生き残れなかったんですよ」
カイマン、ロップ、シャムが即答すると、一応ラットがフォローを入れる。
なるほど、道理で“無個性”が“個性”持ちより強いわけだ。
改めて思う。
カルチャーショックって怖いね。
などと考えていると、劫波が口を開く。
「お前ら、絆されんな」
劫波の鶴の一声によって、他の4人は再び私を警戒する。
忠誠心強いな…
可愛い弟にいいお友達ができて、お姉ちゃん嬉しいZOY☆
とまあ冗談はさておき、全然信用されてないな。
…どうしたものか。
「お前はまだ、俺達の敵じゃないって事を証明してない」
「…わかった。屋敷に着いたら、本当の事を話そう」
私がそう約束すると、劫波は私を睨むのをやめた。
私達を乗せた車は、すっかり暗くなった庭の中を走り、屋敷に到着した。
◇◇◇
「どうぞ」
逢魔刻団を客間に招いた私は、紅茶を振る舞った。
だが5人は、私の淹れた紅茶を警戒しているのか、一向に飲もうとしない。
「心配するな、何も入れていないよ」
そう言って私が紅茶を口に含んで毒の類が入っていない事を証明すると、劫波とロップ以外の三人がようやく紅茶に口をつけた。
一息ついてから、私は劫波に尋ねる。
「…さて。私が敵かどうかを確かめたいと言ったが…その前に、聞きたい事がある。実の親に捨てられたというのは、どういう事だ?そもそも、どこでどうやって生きてきた」
私が尋ねると、劫波が口を開く。
「スラムに来る前は、孤児院にいた。でも“無個性”だからって、スラムに捨てられた」
「………」
「何驚いてんだ?俺が育った国ではよくある事だ。街の奴等が、スラムにゴミを捨てに来るんだ。“無個性”とか異形型の“個性”のガキとかもな」
私は、劫波の話を聞いて言葉を失っていた。
日本ではあまり広く知られていないが、ほんの数年前まで、治安の悪い国には、上流階級の国民のゴミ捨て場と化しているスラム街があった。
超常黎明期以降はそういったスラムが激的に増え、毒親が望む“個性”を持たない子供を捨てるせいで人口は増え続け、戸籍を持たない人間が100万人以上暮らしていたとも聞く。
中にはマフィアが取り仕切り治安を維持しているスラムもあるが、そうではない所は、司法などまるで機能しておらず、殺人や暴行などの犯罪が毎日横行していた。
父や私が六徳家の力で世界各国の政治を改善し、そのような場所は私の耳に入らない程度には減ったが、それでもゼロになったわけではない。
…なるほど、道理でこの11年間、弟が生きているという噂を一度も聞かなかったわけだ。
まさか弟が生きていて、しかも異国のスラムに捨てられていただなんて…
「スラムで暮らしてた時、
『“個性”を与える』……
まさか、オール・フォー・ワンか…?
拘置所での赤黒の言葉が、いよいよ真実味を帯びてきた。
これはもう、あいつが父と母を殺し、劫波を攫って唆した…と考えていいだろう。
だとしたら、マッチポンプもいいところだな。
「それでお前は…その言葉を少しでも信じたのか?」
「は?信じるわけねーしソッコーで蹴ったわ。俺は、“個性”がねえと生きていけねえような雑魚じゃねえ。あんなのを信じる奴は、頭ん中にクソでも詰まってんじゃねえの?」
私が尋ねると、劫波が即答する。
さすが我が弟、強い子でお姉ちゃん嬉しい。
“無個性”に生まれた事を全くコンプレックスに思わない鋼のメンタルは、多分父譲りだと思う。
「あいつの言葉は信じてないけど、嘘かどうかはわからない。俺は、この目で本当の事を確かめる為にここに来た。お前らは、俺を捨てたのか?お前らは、俺達の敵か?」
劫波は、私に鋭い視線を向けながら尋ねる。
私はこの子の、目に映るもの以外全部疑ってかかる姿勢に、どこか危ういものを感じた。
「…もし、そうだと言ったら?捨てられた憂さ晴らしでもするつもりか?」
「復讐なんかクソダセェ事誰がするかよ。敵はぶっ殺す。それだけだ」
そう言って劫波は、首を切るジェスチャーをする。
別に、私の事を舐めているわけでも、調子に乗っているわけでもない。
本気で敵と見做したもの全てを殺す奴の目だ。
「…君達は?」
「私は団長の命令に従う。それだけだ」
「同じく」
私が尋ねると、ロップが答え、他の三人も頷く。
私が言うのもなんだが、こいつら狂ってんね。
これはもう、私が真実を話すまで、梃子でも動かないな。
「…わかった。真実を話すよ。まず結論から言って、父と母はお前を捨ててなどいない。お前が聞いた話は、全くのデタラメだ。父と母は、この屋敷に侵入してきた
そう言って私は、眼帯を外し、あの日の事件で失った右眼を見せた。
今は義眼を入れているが、それでもあの日の事件の凄惨さを物語るには充分なほどに痛々しい傷が残っている。
その傷を見ても、劫波は私の話を信じられない様子だった。
「お前に見せたいものがある。ついて来い」
私は、父と母の遺品を保管してある仏壇の間に劫波を連れてきた。
えっと…確かこの辺だったかな。
ああ、あったあった。
私は、父と母の遺品の中から、劫波に関するものを全て取り出した。
家族三人で撮ったマタニティフォトや母子手帳、あとは劫波の為に母が手作りした毛糸の帽子や靴下などがあった。
中には燃えて原型を留めていないものもあったが、二人が劫波の為に遺したものだから、捨てずに当時のまま保管しておいたのだ。
「父と母は、お前が生まれてくるのをずっと楽しみにしていたんだ。そんな2人が、お前を捨てるはずがない」
私は、両親の遺品をひとつひとつ確認している劫波に向かって話した。
「この世界は歪んでいて、目に映るものさえ不確かだ。それでも、何があっても揺るがないものがある。父も、母も、私も、いつだってお前の幸せを願っている。たとえお前が世界の敵になっても、私達はお前を愛し続ける」
私は、劫波の小さな身体を抱きしめた。
この手で抱きしめてやりたかった。
見る事さえ叶わなかった弟が、生きてここにいる。
こんなにも嬉しい事はない。
「生まれてきてくれて、今まで生きていてくれてありがとう。それだけで、私にとっては奇跡なんだ」
私は、劫波を抱きしめながら伝えた。
あの日の事件から今日までの事が、走馬灯のように脳裏に蘇る。
「う…うぅ…うぁあああ、あぁあああ…!!」
「うわ汚ねえ、何すんだよ!?」
私は、劫波を強く抱きしめながら子供のように大声で泣いた。
当たり前だと思っていた幸せを突然壊されて、絶望の淵に立たされて、死のうとした事は何度もあった。
それでも、未来を笑って生きる為に、苦しい現実に耐えてきた。
あの時散々苦しんだからこそ、今日こうして弟に会えた。
今日まで、生きていて良かった。
「お前のせいで服がびちゃびちゃ。どうしてくれんだこれ」
「ごめん…」
ひとしきり泣いた後、劫波が鬱陶しそうに私から離れた。
劫波の服は、私の涙と鼻水でびちゃびちゃになっていた。
…うん、汚いね。ごめんね。
あとで洗ってやらんとな。
などと考えていると、劫波の仲間が私に話しかけてくる。
「あの…僕達、ずっと知りたかった事があるんですが…団長の名前は、何ていうんですか?」
ラットは、少しそわそわした様子で私に尋ねる。
他の三人も、話を聞きたそうにそわそわしている。
名前…か。
そういえば、まだ一度も名前で呼んでいなかったな。
「劫波。とても長い時間という意味だ」
私が言うと、4人は顔を見合わせたかと思うと、目を輝かせながら私を見た。
「「かっけぇ…!!」」
カイマンとシャムは、幼い子供のように率直に感情を伝えてきた。
ロップも無言のまま目を輝かせていて、ラットはしきりに眼鏡をクイっとしている。
仲間に褒められて、劫波は心なしか頬が少し赤くなっている。
…ほんと愛されてんね。
劫波がいいお友達に恵まれて、お姉ちゃん感激。
その後私は、『逢魔刻団』の4人から弟の話を聞いた。
私もまた、弟が生まれる前の話をした。
私が弟の話をすると、4人は興味津々といった様子で食いついてきた。
話をしているうちに、また感情が込み上げてきて、再び弟を抱きしめた。
本当に、生きててよかった。
【悲報】アフォさん、弟くんの攻略失敗。
ぶっちゃけオリ主パッパは、ヒロアカ世界では希少なマトモ親なので、子供を
オリ主は言わずもがな、弟くんもメンタルつよつよな上に勘のいいガキなので、そう簡単に懐柔されませんし。
それもこれも全部、六徳家に付け入る隙が無さすぎるのが悪い。