すみません、今週は週末にイカゲーム見てたので一話しか投稿できませんでした(言い訳)。
まさかあんな結末になるとは…
面白いと思っていただけましたら、高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。
約10分前。
私は、西馬からの報告により、劫波が何者かに狙われている事を知った。
六徳家の血を引く人間には、危険が付き纏う。
だからこそ、安全に匿える屋敷に劫波を連れてきたのだ。
そして西馬のおかげで、劫波に付き纏っている奴が、私の命を狙っている事がわかった。
私の命を取りたいが為に弟をストーキングするとは、いい度胸してるな。
ここまで私の地雷を踏み抜いておいて、タダで済むと思うなよ。
「状況は?」
『第一層、突破されました!!第二層の突破も時間の問題です!!』
私が状況説明を求めると、西馬が答えた。
このタイミングで侵入者してきたという事は、おそらく劫波のストーカーが差し向けた刺客だろう。
第一層は一番突破し易いとはいえ、雄英バリアに匹敵する硬度を誇るんだが…
部下には生け捕りにしろと命令したが、失敗したら即刻殺害に切り替えて構わないと指示を出しておいて正解だった。
屋敷の外の状況を把握した私が自室の書斎から部下に指示を出していると、さらに西馬から連絡が入った。
『お嬢様、申し訳ございません!!』
「何だ」
『作戦失敗です!!亜楼先輩と囲先輩が食い止めていますが、長くは保ちません!!』
「新井の
『それが、一度は効いたのですが、敵がパワーアップし…』
私が尋ねると、西馬が状況を説明した。
新井は戦闘力こそ高くないが*1、その代わり無血開城に特化している。
新井の“個性”は身体からあらゆるものを綺麗にする洗剤を分泌するというものだが、汚れだけでなく摩擦や“個性”まで削ぎ落とし、一度浴びれば“個性”や武器を使う事も立ち上がる事もできず完全に無力化されてしまう。
一応水で洗い流されれば効果を失うという弱点があるわけだが、それ以外で破られるのはまず見た事がない。
標的がデカすぎるというのはあるんだろうが、それを抜きにしても新井の奥の手で止めきれなかったのは、これが初めてだ。
新井だけじゃない。
ウチの使用人は、私が選び雇った世界最強クラスの傭兵達だ。
彼等でも拘束出来ないなら、もはや殺す以外に止める術はない。
できる事なら、ここへ攻めてきた理由を奴から聞き出したかったが…
生け捕りに拘って取り返しのつかない被害を出すくらいなら、ここで確実に殺すのが最善だ。
追い詰められた鼠は何をするかわからんからな。
法律違反にはなるが、我が国の秩序を守る為なら、それを邪魔する法など不要だ。
「今すぐ殺せ。手段は問わん。絶対にここへ通すな」
『…っ、はい!』
西馬に指示を出すと、西馬は返事をして通信を切った。
西馬に命令を下した後は、医療班とサポート班に通信機で指示を出す。
「医療班、直ちに麻痺毒をありったけ用意しろ」
『ラジャ』
「サポート班は、ロケット弾の用意を。出来るだけ貫徹力が高いものを頼む」
『了解』
私が指示を出すと、医与とサポート班が短く答える。
部下に侵入者の抹殺命令を下した私は、鍵付きの机の中に隠してあるスイッチを手に取る。
庭から屋敷までには三段階のセキュリティが敷かれているが、私の書斎に隠してあるスイッチを押せば、屋敷全体が核爆弾でも傷一つつかない防壁に覆われ、屋敷そのものがシェルターと化す。
シェルターを発動するような事態にならないと願いたいが、もし万が一の事があったとしても、劫波が傷つくような事は絶対にあってはならない。
そう考えつつ屋敷のセキュリティを強化しようとしたその時、部下から連絡が入る。
『お嬢様、大変です!!』
「どうした?」
『坊っちゃんとご友人の方々が…脱走しました!!』
「は?」
おい待て、今なんて言った?
私の部下が安全な場所に避難させていたというのに、脱走しただと…?
あのバカ共、ただでさえ侵入者が攻めてきてるって時に、何やってんだ!?
…まさか、自分達で侵入者をぶっ飛ばそうとか考えてるんじゃないだろうな?
というか、絶対考えてるな。
我が弟ながら、血の気多すぎて頭痛くなってくる。
これ終わったら、耳にタコができるくらいこっぴどく説教してやる。
だからそれまで無事でいろ。
というか、私が守ってみせる。
二度も家族を失ってたまるか。
◆◆◆
狭間side
「夜中にギャーギャー騒ぎやがって。まあでも、昼のザコよりは歯応えがありそうだ」
そう言って劫波君は、標的に狙いを定めると、口角を上げながら手をポキポキ鳴らした。
他の4人も、六徳家が開発したサポートアイテムの試作品を身につけて戦闘態勢を取っていた。
何やってんだ5人とも、安全な場所に避難してろってお嬢様に言われてたのに…!!
「待て!!」
俺は5人に向かって叫んだが、5人は止まらず標的に突進した。
5人は移動用のサポートアイテムを使って素早く標的の頭上へ移動すると、標的に攻撃を仕掛けた。
「くたばれ」
ラット、シャム、カイマンの三人は、的確に侵入者の膝裏を狙って容赦なく爆撃を仕掛け、ロップがそこをマシンガンで狙い撃つ。
人体の構造上、どうしても装甲で覆う事ができない箇所というのは存在する。
できるだけ攻撃を分散させないよう、そこを集中攻撃して侵入者の体力を確実に削っていく。
本人達の戦闘能力もそうだけど、極めて合理的な作戦を即興で実行できる度胸や頭の回転の速さやチームワークは、まるで訓練された軍隊だ。
そして劫波君はというと、ワイヤーを射出して侵入者の動きを封じてから、仲間が攻撃した箇所を、両手に握った刀型のサポートアイテムで叩き斬った。
攻撃する度に刃がボロボロになっていくが、刃を即座に交換し、何度も刃を叩きつけるように斬りつけた。
当然そんな事をしてもこの巨体は止まらないが、劫波君はまるで壊れた機械のように何度も侵入者の左膝を抉った。
だが侵入者も黙って攻撃を続けさせるはずがなく、巨大な腕を振り上げた。
「鬱陶しい蝿が…」
侵入者が腕を振り下ろすと、奴の拳が地面を砕き、耳の奥が痛む程の大きな音が響く。
拳が振り下ろされた場所には、巨大なクレーターができていた。
だが劫波君は、ギリギリのところで侵入者の攻撃を回避していた。
侵入者が再び劫波君に向かって腕を伸ばすと、劫波君はサポートアイテムを使って空中で高速回転しながら侵入者の手を斬りつけた。
侵入者の手を斬りつけた事で劫波君は大量の返り血を浴びる事になったが、そんな事は気にも留めず、劫波君は回転を活かして侵入者を斬りつけ、確実にダメージを蓄積させていった。
劫波君や逢魔刻団の皆は、俺達の想定をはるかに超えて強かった。
だけど正直、加勢ありがとうなんて言ってられる場合じゃない。
あの子達の事は、命に代えても守れとお嬢様に言われている。
どのみち、俺達でこのバケモノを仕留めないといけない。
けどこいつを殺す前に、俺達の体力が保ちそうにない。
絶望的な状況に歯噛みしたその時、サポート班から連絡が入る。
『狭間さん!こちら、工作室!お嬢様に頼まれたもの、用意できました!今すぐ転送を!』
サポート班から連絡を受けた俺は、地面を斬って亜空間を屋敷の工作室と繋げた。
繋げた亜空間から出てきたのは、神経毒を仕込んだロケット弾だった。
流石お嬢様、いつかこうなる事を予測してサポート班に兵器を造らせていたのか。
「先輩、これを!!」
俺は、サポート班から受け取ったロケット弾を新井先輩に渡した。
その直後、侵入者が再び劫波君目掛けて攻撃を仕掛けた。
劫波君は最小限の動きで攻撃を避けたけど、着地に失敗して右足首を捻った。
「チッ…!!」
「団長!!」
劫波君が着地と同時に顔を歪めると、ロップが血相を変えて叫ぶ。
右足を捻挫して逃げられなくなった劫波君に、巨人の右手が迫ってくる。
だがその時、人間サイズのロケット弾が超音速で飛んできて巨人の右手を突き刺し、それとほぼ同時にロケット弾が内側から爆発した。
ロケット弾の爆発により、巨人の手がボロボロになった。
振り向くと、監視塔にいた筒美先輩が、巨人の方に投射砲を向けていた。
巨人の攻撃が止まった隙に、新井先輩が劫波君を、小雪ちゃんがロップとカイマンを、そして俺がラットとシャムを助け出した。
「加勢ありがとよ、ボウヤ達。おかげで助かった。けどな、俺達は君らを守れってあの人に言われてんだ。俺らを差し置いて無茶した事は、叱ってやらなきゃならねぇ」
「ここから先は、大人に任せなさい」
新井先輩と亜楼先輩は、少しカッコつけながら言った。
体力は充分回復したし、サポート班から武器ももらった。
ここからは、俺達の仕事だ。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
巨人は、雄叫びを上げながら暴れた。
地面にはクレーターがいくつもでき、地震かと思う程の揺れが起こる。
「寝ぇてぇろぉ!!近所迷惑だ!!」
巨大化した囲先輩が、暴れる巨人を食い止めた。
「お嬢様は、俺に生きる理由をくれた。ここにいて、わかった事がある。俺は、あのお方を守る為にこの“
囲先輩が、侵入者に組みついて押し返しながら口を開く。
囲先輩は、それこそ悪魔のような禍々しい姿になっていた。
だが俺にとっては、その姿が誰よりもカッコ良くて頼もしかった。
「お嬢様には、ずっと笑顔でいてほしいから…その為なら、命なんかいくらでも懸けてやる」
小雪ちゃんも、毛を逆立てて普段より一回り大きな姿になりながら言った。
そして侵入者に喰らいつくと、爪で侵入者を刺して毒を注入した。
「あの人の理想を阻む奴は、俺達が排除する」
西馬は、尾を侵入者に挿して神経に干渉しながら言った。
直接神経を弄られた事で、侵入者の動きが鈍る。
それでも侵入者は俺達を蹴散らそうと暴れたが、新井先輩が身体を擦って出した泡で攻撃を滑らされて、俺達には当たらなかった。
「悪いわね。それが私達の仕事なの」
そう言って亜楼先輩は、無数の矢印を束ねて作った巨大な矢印で侵入者を捕らえ、巨大な矢印を引っ張って侵入者の態勢を崩した。
そしてもう一本矢印を出して、侵入者目掛けて放った。
矢印の上には、新井先輩が乗っていた。
新井先輩は、矢印から飛び降りると、ロケット弾の発射装置の照準を侵入者の頸に合わせる。
「
新井先輩は、侵入者の頸目掛けてロケット弾を発射した。
ロケット弾は、侵入者の頸に突き刺さった直後、内側から爆発した。
頸を爆破された侵入者は、前のめりに倒れ込む。
お嬢様を守りたいという想いが、俺達を勝利に導いてくれた。
…ありがとうございます、お嬢様。
ちなみにサポート班曰く、新井先輩と筒美先輩が打ち込んだロケット弾には、巨人の身体の大きさから想定される致死量の100倍の量の麻痺毒を仕込んであるらしい。
確実に殺す為にここまでやったんだ。
流石にもう起き上がらないと思いたいが、念の為油断なく構えた。
その直後、侵入者が起き上がって劫波君に襲いかかった。
それと同時に、俺達と逢魔刻団の皆が侵入者に飛びかかった。
巨大な手が迫ってくる中、劫波君は、逃げも反撃もせず無言で侵入者を睨みつけた。
すると侵入者は、劫波君の目の前でピタリと手を止め、劫波君をまじまじと見つめながら涙を流した。
「主の…匂い……」
「あ?」
侵入者は、劫波君に向かって何かを呟くと、そのまま意識を失って倒れた。
劫波君は、気絶した侵入者を見て呆然としていた。
だが、その直後。
「痛っ…」
劫波君は、思い出したように右足を押さえて痛がる。
劫波君の右足は、着地に失敗した時にヒビが入ったのか、赤く腫れ上がっていた。
そんな彼を心配してか、逢魔刻団の皆が劫波君に駆け寄ってくる。
「団長!」
「大丈夫ですか、団長」
「このくらい大した事ねえよ。すぐ治る」
特にロップとラットが劫波君を心配すると、劫波君はズボンの裾で腫れた足を隠そうとした。
すると亜楼先輩が、劫波君の右足を矢印で縛り上げて、劫波君の小さな身体を宙吊りにした。
「大した事なくない!あんた達が怪我したら、私達がお嬢様に怒られるんだけど!」
「いってえ、っにすんだババァ!!」
「お黙り!!」
亜楼先輩の説教に劫波君が口答えすると、亜楼先輩は劫波君を宙吊りにしたままおそろしく速いビンタを喰らわせた。
逢魔刻団の皆は、劫波君をビンタした亜楼先輩を見て唖然としていて、特にロップは今にも殺しそうな目で先輩を睨んでいた。
ロップが飛びつこうとすると、囲先輩がちょうど4本の腕で4人の首根っこを掴んで持ち上げた。
「はーい、君達はこっち来てね」
囲先輩は、劫波君を心配するあまり亜楼先輩を攻撃しようとするロップ達を引き離した。
亜楼先輩は、怪我した劫波君に応急処置を施していた。
亜楼先輩に膝枕されて身体をガッチリ押さえつけられた劫波君は、心なしか不服そうにしていた。
「あんな無茶するからよ。今から医務室に連れてくから、我慢しなさい」
そう言って亜楼先輩は、劫波君の右足に添え木を当てて矢印で固定した。
ちょうど亜楼先輩が応急処置を終えた、その時だった。
「劫波」
お嬢様が、執事長に連れられて森の中に来ていた。
劫波君が口を開こうとすると、先にお嬢様が口を開いた。
「何故こんな所にいる。安全な場所に避難していろと言ったはずだ」
「人ん家でギャーギャー騒いでるバカをシメて何が悪い。実際、俺らが行かなきゃやばかったろ」
「そういう事じゃない。危険だから勝手な事をするなと言ってるんだ」
「うるせえな、俺らはあんたらに心配されるほど弱くねえ。俺の心配してる暇があったら、自分の心配してろ」
お嬢様が劫波君を窘めると、劫波君は口答えした。
するとお嬢様は、劫波君の肩を掴んで揺すりながら言い聞かせる。
「強いとか弱いとか関係ない。お前は、私にとってたった一人の弟なんだ。姉の私が弟を心配するのは、当たり前の事だ」
お嬢様が言うと、劫波君は僅かに目を見開いてから俯いた。
お嬢様は、劫波君を静かに抱き寄せると、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
◆◆◆
刹那side
その後私は、侵入者の処理を部下に任せ、部下や逢魔刻団の皆の安否確認をした。
私は、劫波の患部に触れて“個性”を発動した。
発痛物質の産生速度や痛みの伝達速度を極限まで遅くする事で、痛みを消す。
「痛くないか」
「ああ」
私が言うと、劫波はコクリと頷く。
もし大切な人に何かがあった時、命を救えるように、医療知識を身につけ技術を磨いてきた。
痛みを遮断したり、止血したり、有害物質を無毒化したり、使い方次第で割と色々応用がきく。
とは言っても、それはあくまでちゃんとした医者に診せるまでの時間稼ぎでしかない。
時間を操れると言っても、私ができるのはあくまで遅くする事だけだ。
傷が治るまでの時間を早めたり、時間を巻き戻して怪我を無かった事にしたりする事はできない。
私にはできない事ができるからこそ、傷を治す事ができる医与や療子、廻兄や壊理の存在は、私にとって救いと言っても過言ではない。
「動くな。痛みをなくしただけだから。医務室で診てもらおう」
「……ん」
私が言うと、劫波がコクリと頷く。
足を怪我した劫波を抱きかかえて医務室に向かおうとした、その時だった。
「ゲホッ、ゲホッ…!!」
突然、劫波が膝をついて激しく咳き込んだ。
劫波は、口から大量の血を吐き、息も絶え絶えになっていた。
「劫波!!」
私は、劫波を横抱きにして、小さな身体を揺すりながら叫んだ。
私が叫んでいると、山根がスーツから救急ポーチを取り出し、すぐに応急処置を開始した。
「どうした!?しっかりしろ!!」
「団長!!」
「おい、どうなってんだよ…!?団長…団長!!」
私や逢魔刻団の皆が叫んでも、劫波は返事をしなかった。
劫波は、過呼吸になり目の焦点も合っていなかった。
私が見た限りでは、足首の他に外傷はなかった。
さっきまで元気だったのに、何故急に……
『可哀想に…僕の言う事を聞いていれば、そんな目に遭わずに済んだというのに』
どこからか聴こえてきた声に、私の中での警戒心が過去最大レベルに跳ね上がる。
急いで劫波のズボンのポケットを確認すると、中からひび割れたスマホが出てきて、スマホから声が聴こえた。
「……誰だ」
『やあ。久しぶりだね、六徳刹那ちゃん。いや、こうして話をするのは初めてだったか。君達の両親を死に追いやった真犯人、と言えばわかるかい?』
「オール・フォー・ワン…!!」
『ご名答』
私が言うと、電話の向こうから上機嫌な返事が聴こえてきた。
オール・フォー・ワン。
六徳家の宿敵にして、私の両親を殺した黒幕だ。
「あの巨人は、貴様の仕業か」
『アレは君へのプレゼントのつもりだったんだ。せっかくの姉弟の再会の記念にと思ってね。でも、君に辿り着く前に倒されたのは想定外だ。本当にいい
奴の言葉に、沸々と怒りが湧いてくる。
何が『倒されたのは想定外』だ、嘘つきが。
はじめからこの巨人を捨て駒にする腹つもりだったくせに。
「父上とオールマイトに敗けて尻尾を巻いて逃げたお前が、今更私と劫波に何の用だ」
『僕はずっと彼が欲しかったんだ。ずっと僕のところに来ないかって誘っていたんだが、なかなか強情でね。だから君の目の前で、僕の手で葬ってやるつもりだったんだ。その方が、
オール・フォー・ワンが悪びれずに言う度に、心の中で舌打ちをする。
なるほど、要は自分に致命傷を負わせ、悉く邪魔をした父上への当てつけか。
既にこの世にいない父上に嫌がらせをする為だけに
だがその直後、オール・フォー・ワンがさらに言葉を続ける。
『でももうその必要もなさそうだね。だって放っておいても、もうすぐ死ぬから』
「…………………………は?」
今、なんて…?
「いけません、お嬢様!!それ以上は…!!」
『君の先祖には悉く邪魔をされてね。目障りだから根絶やしにしようとしたんだけど…失敗してしまったんだ。だから、まあ…腹いせってやつかな。僕のシンパを使って、君の先祖に“呪い”をかけたのさ。自分の命と引き換えに、六徳家の一族の寿命を削る呪いをね。だがその“個性”の真に恐ろしい点は、呪いは遺伝するという性質なんだ。世代を経るごとに寿命は短くなり、いずれは彼のように大人になれずに死ぬ世代が来る。君達の眼にある星は、その呪いの名残りさ。わかるかい?君達の一族はどう足掻いても、破滅に向かうしかないんだよ』
嘘だ。
そんな事、あっていいはずがない。
こんな戯言に惑わされるな。
こいつの言っている事に、何一つ信憑性などない。
「お前…団長に何をした!?今すぐ団長を元に戻せ!!」
『治せるチャンスなら、今までに何度も与えてきたさ。それを拒否したのは、彼自身だ』
「ふざけんなてめぇ、殺すぞ!!」
血を吐いて意識を失った劫波を見て、逢魔刻団の皆が激昂する。
それに対してオール・フォー・ワンが嘲笑で返すと、逢魔刻団の皆はスマホ越しにオール・フォー・ワンに殺意を向けながら怒鳴り散らした。
オール・フォー・ワンは、余裕そうに笑いながら言葉を続けた。
『僕なら、寿命を伸ばしてあげられたというのに…その様子だと…あと半年ももたないだろうねぇ。まあ、そう仕向けたのは僕なんだけどね』
違う。
こんなの、私を動揺させるためのハッタリだ。
信じるな。
余計な事は何も考えるな。
今はただ、劫波を助ける方法を考えないと…
………あれ?
ダメだ、頭が動かない。
演算ができない。
動かなきゃいけないのに、自分の頭じゃないみたいだ。
「お嬢様!お気を確かに!!お嬢様!!」
『ああそうだ。姉弟の感動の再会祝いに、もうひとつとっておきのプレゼントをあげるよ』
目の前に、ぼんやりと何かが映る。
立って逃げないといけないのに、身体が動かない。
頭がまるで働かない。
声が聴こえるけど、何を言っているのかわからない。
うまく呼吸ができない。
自分の心臓の鼓動だけが、うるさく鳴り響く。
グシャグシャになった思考をリセットしようと瞼を閉じた、その刹那。
――ザシュッ
瞬きをしたその瞬間、顔に生温かいものが飛び散った。
その温かさと腥さが、私の思考を現実に引き戻した。
「お嬢様…坊っちゃん…ご無事ですか……」
「いや……!!」
私の目の前で、山根が身体を黒い棘のようなもので貫かれていた。
黒い棘が、山根が凍結の“個性”で作った氷の壁を貫通し、私と劫波を庇う形で立っていた山根を突き刺した。
血飛沫の赤が、脳裏に忌々しい記憶を蘇らせた。
――お゛と゛う゛さ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!
――あ゛…ぁ……に、げろ゛ぉ゛…!!
あの日父は、私を庇って炎に焼かれた。
あの人は、全身を炎に焼かれて苦しみながらも、
母は、父が
――奥様、お逃げ下さい!!
――やだ…やだぁっ、お父さん!!お父さぁん!!
――ごめんね…ごめんね…!
母は、泣きながら父を何度も呼ぶ私に謝りながら逃げた。
私達を逃がしてくれたのが、山根だった。
だが、私が泣き喚いたせいで、屋敷の隠し通路を通って脱出しようとしていた母が
焼け死なずに済んだのは、直前で母に突き飛ばされ炎に巻き込まれなかった私だけだった。
私が
もし山根が私を助けてくれなかったら、私は今ここにはいられなかった。
「お゛え゛っ…げほっ、げぇっ…」
過去のトラウマがフラッシュバックした私は、吐き気を堪えきれず、膝をついて嘔吐した。
あの時と、何も変わっていない。
私が不甲斐ないばかりに、山根が身を挺して私の代わりに攻撃を喰らった。
私のせいで、山根が……
「山根さん!!」
「おじい様!!」
「てめえ、よくも!!」
山根を刺されて激昂した部下と、劫波の件でオール・フォー・ワンに殺意を抱いた逢魔刻団の皆が、一斉にオール・フォー・ワンに攻撃を仕掛ける。
オール・フォー・ワンは、まるで彼等を嘲笑うかのように、あっさりと返り討ちにした。
私は…また、家族を失うのか…?
そんなの、嫌だ…!!
◆◆◆
オール・フォー・ワンside
六徳家の当主に群がる部下を一掃した僕は、抜け殻のようになっている当主に歩み寄る。
六徳家とは、100年以上も前から続く因縁がある。
元々は、人々を纏め上げ悪の帝王になろうとした僕を、74代目当主が邪魔してきたのが始まりだった。
それだけでなく奴は、あろう事か二代目と手を組んで弟を逃がし、“無個性”の分際で僕や僕のシンパの追跡を2年間も振り切り、弟を匿っていた。
奴等を見つけ出して根絶やしにするつもりが、僕が見つけ出した時には既に75代目当主が自分の子供を海外に逃がしていた。
僕はシンパを使ってその子供に、世代を経るごとに短命になる呪いをかけた。
僕のシンパがかけた呪いは、六つ角の星として今もなお六徳家の血を引く人間に受け継がれている。
今の当主の刹那は短命の呪いを免れているが、弟の方は父親の体質を呪いごと受け継いでいる。
彼が僕のものになっていれば、寿命を伸ばしてマスターピース化の改造手術を試し、僕のものにならなかったらならなかったで、死体を有効活用するつもりだった。
何より、彼を刹那の目の前で死なせれば、僕を長年苛立たせてきた六徳家に嫌がらせができる。
彼を刹那に出逢わせる為に、僕は彼に六徳家の存在を教え、血の繋がった家族に興味を持たせた。
彼があそこまで人の話を聞かないのは想定外だったが、僕の思惑通り、彼は実の姉に会いに行く為に日本に来た。
六徳家の人間は精神力が桁違いに強いから、そのままでは“個性”を奪えない。
だから刹那には弟を再び目の前で失う絶望を味わせ、心を壊してから“個性”を奪って殺すつもりだった。
だが厄介な事に、高度なセキュリティシステムと訓練された傭兵達が、それを悉く邪魔してくる。
そこで僕は、刹那を殺すのに邪魔なセキュリティと使用人を排除する為に、マキアを差し向けた。
正直、まさか使用人達が死者を一人も出さずにマキアを仕留めてしまうとは思わなかったが、マキアのおかげで僕が屋敷の敷地内に侵入できるだけの隙ができた。
「さて…」
マキアを媒体に六徳家の敷地内に侵入した僕は、ゴミのように地面に散らばっている使用人や子供を無視して、当主に歩み寄った。
使用人は、僕の想定よりも強い者ばかりだった。
しかも、どれもこれも長年の鍛錬によって“個性”を使いこなしている者達だ。
あの手の“個性”は、奪っても旨味がない。
子供は…まあ、“無個性”にしてはよくやった方だったかな。
生身でよくあそこまで頑張ったものだ。
リーダーの返答次第では“個性”を与えて弔の仲間にしてやっても良かったが、あの様子だと無理だろうな。
「ここまで長かった。だが、ようやくそれも終わる」
そう言って僕は、右手で刹那の顔に触れようとした。
彼女の“個性”は、時間を止められるだけでなく、時空の歪みに干渉する事でオールマイト並みのパワーとスピードを無制限に引き出せる。
もはや神の領域に到達していると言っても過言ではないチートぶりだ。
だが彼女が神の領域にいるのは、高度な演算と理論の構築を瞬時に行える頭脳と、世界を崩壊させかねない爆弾を手足のように使いこなせる天才的なセンス、そして発狂レベルの膨大な情報を捌ける精神力によるものだ。
常人が同じ“個性”を使おうものなら、脳が負荷に耐えきれず、一瞬で人格が崩壊し廃人と化す。
ピーキー過ぎて、僕の手に余る“個性”だ。
奪ったところで、使いこなせる代物じゃない。
だからこそ、不確定要素は消しておくに越した事はない。
だが、殺そうとすれば“個性”が暴走し兼ねない以上、“個性”を奪わずに殺す事は難しい。
ならば“個性”を奪ってから殺し、奪った“個性”は適当な人間に押し付けて処分すればいい話だ。
ここに来るまで長かった。
ようやく、僕をずっと苛立たせてきた六徳家への仕返しが終わる。
僕が刹那に向かって手を伸ばした、その瞬間。
――ズァッ
「………何だ?」
刹那に触れる直前、僕の右手の指が塵になって消えた。
咄嗟の判断で腕を斬り落として前を見ると、弟を抱きかかえた刹那が、殺気のこもった目で僕を睨んでいた。
「触るな……!!」
見ると、刹那を中心に景色が歪んでいる。
強力な時空の歪みは、光すらも曲げる。
彼女が発生させた時空の歪みは、まるで世界そのものが彼女に引き寄せられるかのように、周囲のものを巻き込みながら広がっていく。
まいったな、僕とした事が失念していたようだ。
最も警戒しなくてはならないのは、追い詰められた獲物だという事を。
どうしたものか…
「そこまでだ、オール・フォー・ワン!!」
どこからか、聴き慣れた忌々しい声が聴こえてきた。
振り向くと、そこにはマッスルフォームのオールマイトが立っていた。
「私が来た!!」
オールマイトは、僕に殴りかかってきた。
僕は“個性”を使ってすぐさま吹き飛ばそうとしたが、できなかった。
木陰から、イレイザー・ヘッドが僕を睨んでいた。
それだけじゃない。
トップヒーローや雄英の教師陣が、六徳家の庭に勢揃いしていた。
いくら何でも、ヒーローの到着が早すぎる。
まさか…刹那が呼んだのか?
どこまでも計算ずくで…
これは…今の僕じゃどうしようもないかな。
オールマイトがいる上に、今の刹那は“個性”の出力が不安定になっていて下手に近づけない。
今日は退いたほうが良さそうだ。
「これは…今の僕じゃ分が悪いね。今日のところは引き上げるとしよう。だが覚えておけオールマイト。次会う時は、君を殺す時だ」
「待て!!」
僕は、オールマイトに宣戦布告してから煙幕を張った。
煙幕でイレイザー・ヘッドの“個性”が弱まっている間に、ワープで六徳家を出て行った。
ワープしている途中、オールマイトの悔しがる声が聴こえた。
「Shit!!!」
ワープしている途中、オールマイトの悔しがる声が聴こえた。
次会う時は必ず殺すよ、オールマイト。
ここまでの厄ネタの役満も逆に珍しい気がする。
ちなみにこの世界のマキアは、原作より数十倍強化されています。
麻酔を飲まされて数分〜数十分後に効果が現れた原作に比べて、想定の致死量の100倍の量の神経毒+ロケット弾での爆撃を喰らっても気絶で済んだ時点で耐久力は桁違い。