私の世直しアカデミア   作:M.T.

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mayotuna44様、高評価を入れていただきありがとうございます!
面白いと思っていただけましたら、高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。





【第一部】最終章 決戦編
第37話 合宿襲撃?よろしい、ならば100倍返しだ


癒治side

 

「………」

 

 気がつくと、無機質な白い天井が目に映る。

 あれ…?

 私、何してたんだっけ…

 確か、刹那ちゃんに『弟を治してくれ』って頼まれて…

 刹那ちゃんの弟の劫波君を治そうとして、それで…

 血を流しすぎて、倒れたんだっけ…?

 

「療子!!」

 

 私が目を覚ますと、刹那ちゃんが安堵の表情を浮かべながら声をかけてくる。

 いつもの刹那ちゃんを見て、心がほんわかするのを感じた。

 

 私はさっきまで、六徳家の医務室のベッドの上で眠っていた。

 私の眠っていたベッドの隣のベッドは、カーテンで仕切られていて、医与さんのいびきが聴こえる。

 多分“個性”を使って手術をしたから、疲れてそのまま寝ちゃったんだと思う。

 それにしても、本当に広いお屋敷だよなぁ。

 医務室の隣に、手術室や研究室もあるなんて。

 しかも診察室の検査カプセルは、I・アイランドの研究室にも置いてあった最新モデルだ。

 刹那ちゃん曰く、万が一自然災害や(ヴィラン)のせいで外を出歩けなくなった時はこの屋敷がシェルターとして機能するから(だからこんなに広い)、一通りの事はこの屋敷の中でできるように、医務室に最先端の医療設備を設置しているらしい。

 なんというか、そういう用意周到で合理主義的なところが刹那ちゃんらしいな。

 そんな事を考えていると、被身子ちゃんが私に抱きついてきた。

 

「療子ちゃん〜」

 

「わっ」

 

 被身子ちゃんは、私に抱きついて頬ずりしてきた。

 思い出した。

 私が血を失って死にかけていた時、被身子ちゃんが血を飲ませて助けてくれたんだった。

 

 これは刹那ちゃんと被身子ちゃんに出会ってから気づいた事だけど、私の“個性”は、感情によって効き方に差が出る。

 好きな人の事を考えてる時、特に刹那ちゃんや被身子ちゃんにぎゅっとしてもらって心がぽかぽかしてる時が、一番効き目が強かった。

 私が戻ってこられたのはきっと、大好きな被身子ちゃんが私を助けようとしてくれたからだと思う。

 

「被身子ちゃん…ごめんね。ありがとう」

 

 私は、被身子ちゃんの背中に手を回してお礼を言った。

 すると刹那ちゃんも、私と被身子ちゃんの肩に手を置いて、そっと身体を寄せてきた。

 そういえば…劫波君はどうなったんだろう。

 

「あの…劫波くんは、どうなったんですか?」

 

「もう治ったよ。元気すぎて困っているくらいだ」

 

「良かった…」

 

 刹那ちゃんが呆れたように笑うのを見て、私は思わずため息をこぼした。

 助かったのは良かったけど…そういえば、治崎さんの姿が見えない。

 どこ行ったのかな。

 

「…あれ?治崎さんは?」

 

「八斎會に帰ったよ。患者が治ったからもうここにいる理由はないってさ。せめてお礼くらいしたかったのにな…」

 

 私が尋ねると、刹那ちゃんは私の右手に自分の手を重ねながら言った。

 

「…ありがとう、療子。君のおかげだ」

 

「えへへ…」

 

 微笑みながらお礼を言ってくる刹那ちゃんを見て、私はまた心がほんわかするのを感じた。

 今まで、刹那ちゃんの役に立ちたいってずっと思ってた。

 でも口先ばっかりで、いっつも助けられてばっかりだった。

 だけどやっと、刹那ちゃんを助ける事ができた。

 

「ただ、次やったら今度こそ絶交するからな」

 

「私もです。療子ちゃんがいなくなるくらいだったら、友達やめるから」

 

「う、うぅ…」

 

 刹那ちゃんと被身子ちゃんがずいっと顔を寄せて脅してくるものだから、思わず肩を竦めてしまった。

 私は、劫波君が助からなくて、そのせいで刹那ちゃんが壊れるくらいなら、自分が死んだ方がマシだと思ってた。

 でもやっぱり、刹那ちゃんと被身子ちゃんに絶交されちゃうのは嫌だなぁ。

 なんて考えていると、医務室に劫波君の友達が入ってくる。

 

「あの。リョーコさん、ヒミコさん」

 

 劫波君の友達の一人…確かラット君は、私と被身子ちゃんに英語で話しかけてきた。

 

「僕達の団長を助けていただいて、ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

「ん…ありがとな」

 

 ラット君がお礼を言うと、カイマン君とシャム君もお礼を言った。

 そんな中、ロップちゃんは、口をもごもごさせて何かを言いたそうにしていた。

 

「あ…ぇ……あ、アリガトウ」

 

 ロップちゃんは、頭をペコっと下げながらカタコトの日本語でお礼を言ってくれた。

 友達の為に見ず知らずの相手に頭を下げられるなんて、本当に皆劫波君の事が大好きなんだね。

 

「ほら、団長も」

 

 ラット君は、劫波君にも頭を下げさせようとした。

 すると劫波君は、私の前に立って口を開いた。

 

「…お前が、俺に血を分けて助けたんだってな。そのせいで死にかけたって」

 

 劫波君が尋ねると、私は思わず返事をする代わりに目を逸らした。

 すると私の態度を肯定と受け取ったのか、劫波君が私の胸ぐらを掴んで睨んできた。

 

「余計な事してんじゃねえぞ。俺は別に助けろなんて言ってねえ。知らねえ奴に勝手に助けられて死なれちゃ、目覚めがワリーんだよ」

 

 劫波君は、私に向かってそう吐き捨てた。

 確かに、私は劫波君に助けろなんて言われてない。

 もし逆の立場だったら…私が助かる為に誰かが命を落としたとしたら、きっと一生自分を責めてたと思う。

 私が彼を助けたのは、結局自己満足でしかない。

 それでも私は、あの時助けたいと思った気持ちを曲げたくはなかった。

 私は、私を睨んでくる劫波君に一歩近づいて、劫波君の目を見た。

 すると劫波君は、ため息をついてから私の胸ぐらから手を離す。

 

「まあでも、生きてんならいいか。ありがとよ」

 

 そう言って劫波君は、私を解放した。

 そういえば、劫波君達はこれからどうするんだろう。

 刹那ちゃんと会えたわけだし、このままずっと日本にいるのかな。

 まあ劫波君にとっては、本来ここが帰るべき家なわけだけど…

 

「ところで、皆はこれからどうするんですか?」

 

「ああ、その事なんですが…」

 

「俺達、敵の親玉を倒すまでは、この屋敷のお手伝いさん達を手伝う事になったんだ」

 

 私が尋ねると、ラット君とカイマン君が答える。

 刹那ちゃん曰く、山根さん達が大怪我を負ってしばらくは本調子に戻れない上に、今はセキュリティシステムや庭の修復で人手をとられているから、敵を倒すまでの間は劫波君達に屋敷の家事を手伝わせる事にしたそうな。

 どのみち劫波君達は敵に命を狙われていて屋敷の外に出られないから、だったら今回みたいに無茶したりしないように見張るという意味でも、ここで働かせる事にしたらしい。

 そういえば、最初に刹那ちゃんとトレーニングした時も、オーバートレーニング防止の為に雑用させられたっけな…

 

「そういうわけだから、被身子、療子。もし良ければ、今日はここに泊まっていけ。私達に礼をさせてはくれないか」

 

「いや、そんなお礼なんて…」

 

「やったぁ、ありがとうございます!」

 

 私が断ろうとすると、被身子ちゃんは私の言葉を遮って笑顔で誘いに乗った。

 厚意はありがたく受け取っておけって事かな…

 そういう事なら、私もお言葉に甘えておこうかな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後私達は、劫波君の友達がお屋敷の料理人の人達と一緒に作ったご飯を食べた。

 特に劫波君と、劫波君を治す為に血を抜いた私と刹那ちゃんと被身子ちゃんは、血になるものを摂取する為に、お肉がたくさん使われた料理が出てきた。

 私が分厚いステーキにかぶりつくと、シャム君が私の左隣を指差して笑った。

 

「あはは、お前ら食い方汚すぎ」

 

 シャム君がおかしそうに笑うものだから、ふと横を見ると、にんじんがたっぷり入ったミートパイを、劫波君とロップちゃんが手掴みで口の中に掻き込んで爆食いしていた。

 二人の口元やテーブルクロスはソースで汚れていて、それを見ていた後ろの黒服の人の顔がひくついている。

 シャム君が指摘すると、ロップちゃんは周りの目を気にしてか、ようやくナイフとフォークを使い始めたけど、食べ方はまだ汚かった。

 よっぽどおなか空いてたんだろうなぁ…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「はふ…」

 

「療子」

 

 楽しい食事会が終わった後、食べ過ぎて膨れたお腹を摩っていると、刹那ちゃんが話しかけてくる。

 刹那ちゃんは、キャミソールタイプのワンピースを着ていて、大胆に胸元を露出していた。

 メロンみたいにたわわに実ったおっぱいが綺麗な谷間を作っていて、きめ細やかな肌が窓から差し込む月明かりに照らされて、白く妖艶に光っているのがすごくえっちだ。

 私が刹那ちゃんに見惚れていると、刹那ちゃんが頭を下げてくる。

 

「ありがとう。本当に…」

 

「私はただ、皆を助けようと必死だっただけで……助かって良かったです」

 

 私は、刹那ちゃんにお礼を言われて、頬が赤くなるのを感じた。

 皆が助かったのは良かったけど…刹那ちゃんはこれからどうするんだろう。

 

「あの…刹那ちゃんはこれからどうするんですか?」

 

「そんなの、決まっているだろ」

 

 私が尋ねると、刹那ちゃんはさっきまでの穏やかな表情から一変して、青筋を浮かせながら口を開く。

 刹那ちゃんは、気の小さい人なら目を合わせただけで死んでしまう程の殺気を漏らしていた。

 

「あのクソ(ヴィラン)は、()()()()()()()()()()()()をした。もはや悔い改める余地さえ必要あるまい。早いことあいつを見つけ出して、制裁を加えてやる」

 

 刹那ちゃんは、血が滲む程強く拳を握りしめながら言った。

 刹那ちゃんから出ている殺気に、思わず背筋が凍りついて冷や汗が流れる。

 …忘れてた。

 刹那ちゃんは、紛れもなく六徳家の当主だって事を。

 頭のネジの一本や二本飛んでなきゃ、10年以上も六徳家のトップでいられるはずがない。

 

 でも、私は知ってる。

 刹那ちゃんは、誰よりも優しくて、寂しがり屋だって事。

 刹那ちゃんがつらい時は、私が側にいなきゃ。

 

「療子、弟を治してもらったばかりで申し訳ないのだが…君を信頼に足る友人と見込んで、頼みたい事がある」

 

 そう言って刹那ちゃんは、真面目な顔で話し始めた。

 唐突すぎて、正直頭が追いつかなかったけど、これだけはわかった。

 刹那ちゃんが、私の力を必要としている事。

 私は刹那ちゃんの話を聞いて、刹那ちゃんのお願いを二つ返事で了承した。

 すると、その時だった。

 

 

 

「刹那ちゃん療子ちゃん捕まえた〜」

 

「わっ」

 

「被身子?」

 

 後ろから、被身子ちゃんが抱きついてきた。

 被身子ちゃんは、私と刹那ちゃんをまとめて抱きかかえて、可愛らしく笑顔を浮かべた。

 私が刹那ちゃんと二人きりで話してたから、寂しくて混ざりたくなったのかな。

 それとも、私達を心配して、和ませようとしてくれたんだろうか。

 どっちにしても、やっぱり被身子ちゃんはカアイイ。

 

 その後刹那ちゃんが私達二人を部屋に連れて行ってくれて、三人で一緒に楽しくおしゃべりした。

 お喋りしているうちに眠くなってきて、二人の腕の中でゆっくりと瞼を閉じた。

 二人の肌の温もりと甘い香りのおかげか、いつもより気持ちよく眠れた気がする。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから特に何事もなく、時間だけが過ぎていった。

 次の日、六徳家に(ヴィラン)が侵入した件について、事件に関わったヒーロー達と一緒に、刹那ちゃんが記者会見に応じた。

 刹那ちゃんも黒いレディーススーツに身を包んでいた。

 記者会見が始まると、オールマイトが今回の事件の概要を説明した。

 

『以上が、この度の事件の概要です。我々の不備により(ヴィラン)を取り逃がし、皆様に不安を与えてしまった事、深くお詫び申し上げます』

 

 オールマイトのその言葉に続き、プロヒーローの面々や刹那ちゃんが頭を下げた。

 するとマスコミは、弾幕のようにフラッシュを浴びせた。

 

『11年前にも六徳家は襲撃を受けていますが、今回襲撃を受けるまで、具体的にどのような対策をしていたのか、お聞かせください』

 

『セキュリティの強化、戦闘に特化した人員の配置、及び近隣のヒーロー事務所との情報共有。また、六徳家当主として『(ヴィラン)に屈しない』という姿勢を見せる事で、当家の警備員やプロヒーロー達の士気を高め、犯罪抑止に努めておりました』

 

 マスコミが刹那ちゃんに質問すると、刹那ちゃんは毅然とした態度で答えた。

 するとそのマスコミが、刹那ちゃんの発言に噛みついてくる。

 

『抑止できていないじゃないですか。今回の襲撃は、どう説明するんです?』

 

 何これ、完全に悪者扱いじゃない…

 六徳家の人がテレビに出てくると、必ずと言っていいほどこういう言いがかりみたいな批判が飛んでくる。

 刹那ちゃんが批判されるようなやましい事をした事なんて、今までに一度だってない。

 この人が刹那ちゃんを悪く言っているのは、六徳家の富や地位への嫉妬でしかない。

 刹那ちゃんの事、何も知らないくせに…

 勝手な事ばっかり言わないでよ…!

 

『…………』

 

 マスコミの悪者扱いにも、刹那ちゃんは眉ひとつ動かさなかった。

 刹那ちゃんがマイクを手に取って口を開こうとすると、先にエンデヴァーがマイクを手に取って話し始めた。

 

『私が六徳家当主から通報を受けたのは、(ヴィラン)が六徳家の敷地内に侵入する前でした。彼女は(ヴィラン)を発見した時点で、最悪の事態を想定して動いていました。(ヴィラン)を取り逃がしたのは、遅れてきた我々の失態です。批判は彼女にではなく、全て我々に向けていただきたい』

 

 エンデヴァーが刹那ちゃんを庇うと、場の空気が変わった。

 SNSや掲示板では、刹那ちゃんを擁護する声が大多数を占め、『奇襲受けたのに庭の損壊だけで済ませた六徳家マジ有能』という投稿に大量のいいねとリツイートがつけられていた。

 (ヴィラン)を取り逃がしたヒーロー達に対しても、批判よりはむしろ同情的な意見や応援コメントが多く寄せられていた。

 特にエンデヴァーは、記者会見で刹那ちゃんを庇った事で株が上がり、ファンスレがものすごい勢いで伸びていた。

 刹那ちゃんを悪者にしようとしたマスコミに関しては、瞬く間に炎上し、批判的な声が殺到した。

 

 事実、あの時点での刹那ちゃんの判断は最善だった。

 最先端のセキュリティシステムと、戦闘に特化した使用人達を配置して、それでも取り逃がした場合を想定してオールマイトやエンデヴァーといったトップヒーローに通報もしていた。

 そのおかげで、屋敷に侵入されて刹那ちゃんも殺される最悪の事態は防ぐ事はできたし、死人も出なかった。

 もしオール・フォー・ワンが来た時に刹那ちゃんが森にいなければもっと被害は抑えられたんだろうけど、侵入者を倒したタイミングで別の(ヴィラン)が来るだなんてわかるわけないし、怪我をした弟を心配して様子を見に行くのは、姉として当然の判断だと思う。

 

 刹那ちゃんとプロヒーローが真摯に対応したおかげで、今回の事件による世間の不安は、すぐに下火になった。

 だけど刹那ちゃんは、私達が普通に過ごしている間にも、水面下で(ヴィラン)逮捕の準備を進めている。

 そしてついに、その時は来た。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

緑谷side

 

 7月下旬に起こった六徳家襲撃事件の影響で、林間合宿は延期となった。

 僕達がI・アイランドから帰ってきてすぐの出来事だった。

 本来7月最終週に始まる予定だった林間合宿は、8月中旬に行われた。

 

「雄英高は一学期を終え、現在夏休み期間に入っている。だがヒーローを目指す諸君に安息の日々は訪れない。この林間合宿でさらなる高みへ、Plus Ultraを目指してもらう」

 

「「「はい!!」」」

 

 相澤先生の言葉に、僕達はピシッと背筋を伸ばして返事をした。

 わいわいした空気の中、相澤先生が続けて口を開く。

 

「それともう一つ、大事な報告がある。突然だが、合宿にあと二人参加する事になった」

 

「おおっ、まじかぁ!?」

 

「誰!?誰が来んの!?」

 

「女子来い女子…!!」

 

 相澤先生からの報告に、上鳴君と芦戸さんがはしゃいだ。

 峰田君は、鼻息荒くしてるけど…

 このタイミングで飛び入り参加って…多分、他科の人だよね?

 誰が来るんだろう?

 そんな事を考えていると、相澤先生とブラドキング先生の後ろから、男子と女子が一人ずつ出てきた。

 

「普通科所属の、心操人使くんと癒治療子さんだ」

 

 先生方の後ろから現れた二人に、A組B組関係なく皆驚く。

 心操君!?

 それに癒治さんまで…

 来てたんだ…!!

 

「まず心操だが…体育祭での成績や“個性”の有用性を鑑みて、我々教師陣による協議の結果、夏休み明けからヒーロー科に移籍する事が決まった。実戦経験を少しでも積んでおこうって事で、林間合宿に参加させる事になった」

 

「それから癒治には、リカバリーガールの代わりにバイトとして来てもらった!ヒーロー科には、回復系の“個性”がいないからな」

 

 相澤先生とブラドキング先生は、二人が合宿に参加する事になった経緯を説明した。

 

「二人とも、簡単に挨拶と自己紹介」

 

「「はい」」

 

 相澤先生が言うと、二人は頷いてから自己紹介を始めた。

 

「普通科C組所属、心操人使です。2学期からヒーロー科に編入する事になりました。まだまだスタートラインにすら立てていませんが、この合宿で少しでも差を縮められるように頑張ります。一週間よろしくお願いします」

 

「癒治療子です。この一週間、皆さんのサポートをさせていただく事になりました。もし怪我や病気をしたら、私に言ってください」

 

 心操君と癒治さんは、この合宿での意気込みを語った。

 意志のこもった二人の言葉に、緊張感が高まる。

 こうして、説明が終わってバスに乗る事になったわけだけど…

 

「とりあえず心操はA組、癒治はB組のバスだ」

 

「よろしくな、療子」

 

「はい!」

 

「チクショウ!!」

 

 癒治さんが拳藤さんと仲良さそうに話しながらB組のバスに乗ると、峰田君が悔しがった。

 そんなに癒治さんがこっち来るの期待してたんだ…

 

「アタシ芦戸三奈!よろしく!!」

 

「一緒にがんばろーぜ!!」

 

「同じクラスだといいねぇ!」

 

「明るい…」

 

 芦戸さん、切島君、葉隠さんは、同じバスで移動する事になった心操君に早速話しかけていた。

 心操君は、皆のテンションについていけずに少し引いていた。

 

 バスが発車してすぐ、バスの中はお祭り騒ぎになった。

 上鳴君と切島君が流した音楽をBGMに、皆楽しくおしゃべりしたり、持ち寄ったお菓子を交換したりしていた。

 かっちゃんはずっと寝てたけど…

 そんな中、青山君が酔ってしまったらしく、近くの席に座っていた麗日さんと蛙吹さんが介抱した。

 

「吐く!?袋、袋!」

 

「え?何、青山酔ったの?」

 

「まぁそれは大変ですわ!」

 

「大丈夫ー?」

 

 青山君が酔ってしまって、さっきまでのお祭り騒ぎから一変して、皆は右往左往していた。

 すると近くの席に座っていた心操君が、青山君に薬を手渡した。

 

「酔い止め要る?」

 

「め、メルシィ…☆」

 

 青山君は、心操君が手渡した酔い止めを飲んで、少し落ち着いたみたいだ。

 その後は、皆でしりとりをしたり、峰田君が猥談なのか感動系なのかよくわからない話をしたり、蛙吹さんが怪談をしたりして、一時間くらいバスに揺られた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

癒治side

 

 B組のバスが目的地に着いた後、全員がバスから降りると、私達の目の前にプッシーキャッツの虎さんとラグドールさんが現れた。

 二人は、『昼までに合宿施設に辿り着く』という課題を皆に課して、私以外の皆を崖の下に突き落とした。

 どこかでピクシーボブさんが“個性”を使っているらしく(多分A組の方)、崖の下に突き落とされた皆を大量の土が受け止めた。

 皆が合宿施設に向かっている間に、私とブラドキング先生は、虎さんとラグドールさんと一緒に先に合宿施設に向かった。

 黒いBMWの後部座席に座ると、運転席に座っている虎さんが話しかけてくる。

 

「貴様がリカバリーガールの代わりに来たというアルバイトか。話は聞いているぞ」

 

「は、はい…」

 

「医療知識は?どの程度の治療ならできる?」

 

「え…っと、一応簡単な応急処置だけは…あんまり大きな怪我だと、“個性”使わないとダメですけど」

 

「充分だ」

 

 虎さんの質問に、私は小さな声で答えた。

 威圧感のある声に、思わず萎縮してしまった。

 

「そう身構えるな。貴様は我が雇ったアルバイトだ。獲って食ったりはしない」

 

「逆に私じゃなかったら獲って食うんですか」

 

「アハハハ!この子面白いニャン」

 

 虎さんの物騒な発言に、さっきまで萎縮していたのも忘れてノータイムでツッコむと、ラグドールさんが笑った。

 いや、笑うところじゃないし…

 そんなこんなで合宿施設に到着すると、A組を魔獣の森に送り出したピクシーボブさんが、私に声をかけてきた。

 

「療子ちゃん。あれから刹那ちゃん大丈夫?」

 

「え…?」

 

「聞いてるよ、刹那ちゃんの友達なんでしょ?私ら、一回あの子の弟に会ってるからさ。それで、ちょっと心配になって」

 

 ピクシーボブさんに続けてマンダレイさんも説明してくれたおかげで、ようやく理解した。

 聞くところによると、劫波君が少し前にちょっとしたトラブルを起こしたらしくて、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの皆さんは、取り調べで劫波君に会った事があるらしい。

 それで、劫波君を引き取ったタイミングで六徳家が襲撃されたと聞いて、刹那ちゃんの事が心配になったそうな。

 

「あぁ…今はもう大丈夫です」

 

 私がそう言うと、二人は安堵の表情を浮かべた。

 それから私は、荷物をまとめて着替えた後、台所で昼食の準備を手伝った。

 今日作るのは、豚バラとキャベツの回鍋肉風味噌炒めと、夏野菜たっぷりのラタトゥイユと、卵スープだ。

 私が前に新井さんに教えてもらったレシピを思い出しながら、ラタトゥイユを調理していると、一緒に台所で昼食を作っていたウォーターホースのお二人が、私の作った料理を味見した。

 

「うん、美味い。療子ちゃん、うちの嫁より料理上手いな」

 

「ちょっと、余計な事言わなくていいの!」

 

「痛って」

 

 台所でいきなり始まった夫婦喧嘩…もとい夫婦漫才に、思わず苦笑いがこぼれた。

 なんでも、夫の滄汰(そうた)さんがマンダレイさんの従弟だそうで、仕事が休みの時は夫婦でまたたび荘の手伝いをしているらしい。

 二人とも2年前に凶悪(ヴィラン)と戦って重傷を負って死にかけたけど、刹那ちゃんのおかげで助かったという。

 その時に二人はそれぞれ左腕と右脚を失って義手と義足になっているけど、今ではすっかり元気そうだ。

 …っと、早く残りも完成させちゃわないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 お昼過ぎ、全身ボロボロになったヒーロー科の皆がまたたび荘に来た。

 

「お、戻ってきたニャン」

 

「思ったより早かったね〜」

 

 プッシーキャッツの皆さんは、時間ギリギリに戻ってきた皆に対して、いい意味で驚いていた。

 どんなに速くてもあと2時間はかかると思っていた…というか、『お昼まで』っていうのは、『プッシーキャッツの4人なら』という意味だったらしい。

 や、やらしい…

 

「皆さん、お昼ご飯できてますよ〜!」

 

 私は、ボロボロになって戻ってきた皆に、ウォーターホースのお二人と一緒に作ったご飯を振る舞った。

 あと体力の回復用に、私の血の成分を抽出して作ったキャラメルも配った。

 するとだ。

 

「あのぅ…癒治さん…オイラ、毒蛇に股間を噛まれちゃって…毒を吸い出してもらえませんかね…」

 

 峰田君が、下心丸出しで私に近づいてきた。

 これだけボロボロになっていてもセクハラするなんて、もうその執念には軽蔑を通り越して尊敬の念すら抱いてくる。

 でも私は、刹那ちゃんや被身子ちゃん以外の人にそういう事するなんて、絶対に嫌。

 …やっぱり峰田君には、私のお菓子、配らなきゃよかったかも。

 A組の女子が鬼の形相で峰田君を制裁しようと構えていると、どこからか水が飛んできて、峰田君の顔面に的中した。

 

「がばばばごぼぼぼぼ!!!」

 

 水を浴びせられた峰田君は、そのまま数メートル吹っ飛ばされて気絶した。

 振り向くと、そこには右手から水をポタポタと滴らせた男の子が立っていた。

 

「アホな事してねえでさっさと飯食え」

 

 峰田君を制裁した男の子は、伸びている峰田君に向かってそう言い放つ。

 この子は、洸汰君。

 ウォーターホース夫妻の子で、夏休みの間だけ一緒にまたたび荘を手伝っている。

 私は、峰田君を制裁してくれた洸汰君に、笑顔でお礼を言った。

 

「洸汰くんありがとう」

 

「………」

 

 私がお礼を言うと、洸汰君は頬を少し染めて俯いた。

 か、可愛い…!!

 

 

 

 お昼ご飯の後、皆は夕食の時間まで自主練をした。

 その間私は、診療所で待機していた。

 特に大きな怪我もなく暇だから、私は受験勉強の合間に洸汰君に話しかけた。

 

「洸汰くんは、尊敬してる人はいるの?」

 

 私が尋ねると、洸汰くんは俯いたまま答える。

 

「…うん。ヒーローじゃないけど」

 

 ヒーローじゃない、かぁ。

 誰なんだろう。

 なんて考えていると、(ほのか)さんが洸汰君に話しかける。

 

「洸汰は、パパとママを助けてくれたお姉ちゃんが大好きなんだよね」

 

「や、やめてよ」

 

 母親の洸さんに茶化された洸汰君は、顔を真っ赤にしていた。

 そういえば、2年前の事件で重傷を負ったウォーターホースが入院している間、刹那ちゃんが洸汰君の事を気にかけてたんだっけ。

 ……ああ、それでか!

 

「洸汰くん、刹那ちゃんの事好きなんだ?」

 

「…………」

 

「わあ、一緒だ!じゃあお友達だね」

 

 洸汰君も、刹那ちゃんの事が好きなんだねぇ。

 刹那ちゃん、優しいもんね。カァイイし。

 なんか仲間ができて嬉しい。

 

 

 

「いただきます!」

 

 自主練が終わった後は、プッシーキャッツの皆さんが作った夕食を皆で食べた。

 竜田揚げやチキン南蛮、お刺身、煮魚なんかの新鮮な肉や魚をたくさん使ったご飯が並んでいた。

 皆相当お腹がすいていたらしくて、すごい勢いでご飯をがっついていた。

 私は、A組の皆と一緒にご飯を食べている心操君に話しかけた。

 

「心操くん。訓練どうでしたか?」

 

「キツすぎ…いつもの訓練の比じゃないよこれ」

 

 私が話しかけると、心操君は珍しく弱音を吐いた。

 心操君は、朝と放課後に毎日相澤先生に訓練してもらってるけど、それよりもキツいんだ…

 

「でも、俺はここにいる誰よりも遅れてるからな。ギア上げてかないと」

 

 心操君がそう意気込むと、私も気を引き締めた。

 なんか、キメ顔でサムズアップをしているイマジナリー刹那ちゃんが頭に浮かんでくる。

 私は、心がほんわかするのを感じながら、揚げたての竜田揚げを噛み締めた。

 

 ご飯の後は、私はB組の女子の皆と一緒にお風呂に入った。

 なんか峰田君がA組の女子のお風呂を覗こうとしたらしくて、虎さんにボコボコにされて宙吊りにされていたけど…見なかった事にしておこう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 2日目。

 この日は、ヒーロー科の皆は朝から“個性”伸ばし訓練をしていた。

 もちろん心操君も強制参加。

 “個性”伸ばし訓練が終わった後は、皆でカレー作りをする事になった。

 

 カレーといえば、刹那ちゃんの家で食べたカレー、美味しかったなぁ。

 割と本格的な本場風カレーで、一緒に食べたチャパティ*1との相性も抜群だった。

 あの後新井さんにレシピ教えてもらって、自分でも作れるように練習したし、せっかくだから作ってみようかな。

 

「心操くん手際いいねぇ。どっかで習ったん?」

 

「六徳さんに教えてもらった。あの人登山が趣味だから、休みの日はよく山に連れてってくれるんだ」

 

 火起こし係の心操君が火をつけていると、麗日さんが話しかけてくるので、心操君は慣れた感じで火をつけながら答えた。

 私もそうだけど、刹那ちゃんは休みの日に六徳家が所有している山に連れて行ってくれて、そこでキャンプの知識を教えてくれていた。

 まあ、キャンプって言っても、私達の体力強化がメインだったけど。

 刹那ちゃんからしてみればただの暇潰しなんだろうけど、おかげで今こうして役に立っている。

 なんかものっすごい血涙流している人がいるけど…無視しておこう。

 

 その後は、作ったカレーを皆で食べた。

 私の作ったカレーは、皆に好評だった。

 ご飯の後は、女子みんなで恋バナをしたり、男子が枕投げで盛り上がりすぎて先生に怒られたりして、合宿2日目が終わった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 3日目。

 私はこの日も、訓練を終えた皆と一緒に夕食作りをした。

 この日は皆の体力を回復させる為にちょっとだけ血を抜いたから、流石に少し疲れた。

 今日のご飯は、肉じゃがだった。

 ちなみに男子は、昨日の枕投げが原因で、相澤先生と一緒に特訓していた心操君以外、全員肉じゃがの肉抜きの刑を受けていた。

 なんか見ていて可哀想だったから、肉の代わりに油麩を入れて、味付けも濃くしてみた。

 そして、夕ご飯の後は…

 

「…さて!腹もふくれた皿も洗った!お次は…」

 

「肝を試す時間だー!!」

 

 皆お待ちかね、肝試しの時間だ。

 くじ引きで心操君がA組の方に参加する事になったから、人数調整の為に私はB組の方に参加する事になった。

 私はこういうの平気…というかむしろ好きな方だけど、これ苦手な人は怖いだろうなぁ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

マスタードside

 

 世の中、間違ってる。

 どいつもこいつも、口を開けば雄英、雄英。

 “強個性”で(ヴィラン)をぶっ倒す事しか頭にないバカを持ち上げる、異常な社会。

 単細胞のバカが学歴だけでチヤホヤされる、そんな世の中、正しくない。

 だからこそ、そんな世の中をひっくり返してやろうと暴れている(ヴィラン)連合に憧れた。

 そんな僕を(ヴィラン)連合に勧誘してくれたのが、死柄木さんだった。

 僕は一も二もなく、死柄木さんの誘いに乗った。

 

 死柄木さんから作戦を聞かされた時、僕は胸が躍った。

 雄英ヒーロー科の合宿を襲撃して、雄英の信頼を地に堕とす。

 まさか雄英も、六徳家襲撃からひと月も経たないうちに(ヴィラン)が奇襲を仕掛けてくるだなんて、予想だにしていなかったんだろう。

 その証拠に、生徒を外に連れ出して肝試しなんてやってる。

 呑気なもんだよねぇ、これから襲撃されるとも知らずに。

 

 ここで雄英のエリートを皆殺しにすれば、(ヴィラン)連合に入れてもらえる。

 でも功を急ぐな、計画通りに一網打尽にしろって死柄木さんに言われてる。

 まずは計画通り、“個性”で森に毒ガスを撒いて…

 

 

 

 ――パァン

 

 

 

「ぅぐ…っ!」

 

 突然、腹に突き刺さるような衝撃を受け、僕はその場で膝をついた。

 な…何が起こった…!?

 今、撃たれたのか…!?

 

 くそっ、どうなってんだ…力が抜けて動けない…

 “個性”も、出ね…

 まさか、毒……

 

 

 

「ヒュ〜♪さすがお嬢様、罠張ってたらマジで釣れたぜ。ガーガーうるせえカモがよ」

 

 声のした方を振り向くと、迷彩服を着た男が、アサルトライフルを構えながら木の枝の上に座っていた。

 

地獄の果て(キッチン)へようこそ。どう料理されてえ?」

 

 嘘だろ…!?

 奇襲は完璧に成功したはず…

 なのに何で…何で森ん中にヒーローがいるんだよ!?

 

 

 

 

 

*1
本場インドでの主食はチャパティかお米が一般的。ナンは高級レストランでたまに出てくる程度らしい(刹那ちゃん談)




ここから急展開になってまいります。
次回は、種明かし及びVS連合回となります。
早ければあと2話くらいで梅干し退治終わると思います。
ドッキリ仕掛けるつもりが逆ドッキリ喰らったマスタードくんは泣いていい。

何気に6話ぶりに原作主人公登場。
この世界線、大人が有能だわ原作ヴィランが本職ヒーロー以上にヒーローしてるわで、学生が出張る隙がないんすよ。まじで。

あと、オリ主の介入により、この世界線ではウォーターホースは生存しています。
ヒロインレースに新たなダークホース(洸汰くん)参入。
無垢な少年の性癖を破壊した顔面つよつよどすけべ巨乳巨尻隻眼肉球女の罪は重い。
この世界線では洸汰くんが捻くれる要素が無いので、両親を殺害され無神経な愚民のせいでヒーローに憧れなくなった捻くれ属性は、オリ主に受け継がれました。

ウォーターホースのお二人は、確か原作で名前が出てきていなかったと思うので、捏造しました(どっかで出てきてたらすみません)。
ヒロアカ世界って、両親の名前から一文字ずつ取ってくるネーミングがありきたりだと思うんですが(爆豪両親、耳郎両親然り)。
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