数週間前。
調査を進めているうちに、ある可能性に行き着いた。
それは、雄英…もっと的を絞れば、1年A組に内通者、もしくは情報源がいるという可能性だ。
私は、自分の仮説を確かめる為、A組の生徒の情報を部下に調べさせた。
不審な経歴を持つ生徒がいないかどうか、警察や探偵の力も借りて徹底的に調べさせた。
こういう時すぐに国家権力を利用して情報収集ができるので、やはり当主の座を継いでおいて正解だった。
などと考えているとだ。
「お嬢様!!見つかりました!!」
「うむ」
部下が、調査結果を報告しに来た。
結論から言って、私の仮説は最悪の形で的中していた。
通常“個性”は、4歳の頃に発現する。
だがA組には、かつて“無個性”と診断され、後に“個性”が発現した生徒がいる。
一人は緑谷君だが、実はもう一人いた事が発覚したのだ。
1年A組出席番号1番、青山優雅。
彼の“個性”である『ネビルレーザー』は、彼の家系のどこにも属さない“個性”で、しかも発現したのは“無個性”だと診断された直後だ。
突然変異の“個性”という可能性もまだあるが…もしかすると緑谷君と同じように、誰かから“個性”を与えられたのかもしれない。
だから内通者と決めつけるわけではないが、今回の事件と何らかの関係がある可能性は否定できなかった。
真偽を確かめるべく、青山一家を雄英に呼び、塚内さんやカウンセラーの資格を持つ音本さんに協力してもらい、“個性”カウンセリングと称して接触を試みた。
最初は普通にカウンセリングをしているだけだったが、質問をしていくうちに二人の挙動がおかしくなり、発言に齟齬も出てきたので問いただしたところ、最後にはオール・フォー・ワンに“個性”を貰った見返りに内通をしていた事を白状した。
私は、すぐに相澤先生とA組の生徒を雄英の会議室に呼び、この事をA組の皆に打ち明けた。
青山君が内通者だと知ったA組の皆は、ショックを受けたり、泣き崩れたりしていた。
「…なるほど、“個性”を与えてもらい…支配されるに至ったと…付与は約10年前か…」
「嘘だろ…!?なあ、嘘だって言えよ青山…!!」
真実を聞かされ、切島君はショックを受け、特に青山君と仲が良かったらしい芦戸君や葉隠君に至っては、嗚咽を漏らしながら泣いていた。
青山君が内通をするに至った真相は、“無個性”に生まれた青山君を彼の両親が哀れみ、オール・フォー・ワンに頼んで“個性”をもらい、その見返りとして雄英のスパイをするよう命じられたというものだった。
父上のワールドワイドでの活躍により、“個性”差別解消法が可決されたが、それでも法では取り締まれないようなもっと本質的な部分で、“無個性”への差別はいまだに根強く残っている。
青山君のご両親は、裕福な家系の出自だ。
“無個性”差別こそなかったとは思うが、
青山君のご両親も、まさか相手がかつて混沌の世界を支配していた悪党だとは思わなかっただろうしな。
「知っている事は洗いざらい話してもらいますよ…青山さん。私の両親は、オール・フォー・ワンに殺されたんです。私達も、奴を捕らえる為に必死です」
私は青山君の両親に、オール・フォー・ワンの事で何か知っている事はないか尋ねた。
すると青山君の父親が口を開く。
「知ってる事は…何もない。私達はただ…頼まれたら実行するだけだ。失敗すれば殺される。嘘をついても……殺される」
「どうやって?」
「…………見せられた。そうした人間が処分される様を…警察に逃げ込んだ者は…出所後に殺された…逃げられなかった…どこにいても居場所がバレる…必ず…死に追いやられる…!!言われた通りにしてどうなるか…優雅は知らなかった…!!ただ、誰にも勘付かれてはいけないとだけ…!!悪いのは私達だ…!!」
青山君の父親は、怯えた表情を浮かべながら言った。
任務に失敗したり裏切ったりしたら殺す、オール・フォー・ワンのやりそうな事だ。
奴からしてみれば、きっと青山君が内通をしていた事が私達にバレた事など、大した問題ではないのだろう。
何故なら奴にとって青山一家は、まさしく使い捨てでしかないのだから。
「罪悪感で押し潰されそうになるから…気丈なふりをして笑って過ごした。自分が殺していたかもしれない人達と僕は、仲間の顔して笑い合った…笑い合えてしまったんだよ。僕は…青山優雅は、クズの
青山君は、涙を流しながらそう語った。
自分を罵る言葉の中に、彼の本心が見えた気がした。
己の身が可愛いだけなら、心を潰してまで大真面目にスパイを続けたりなどしない。
青山君がここまでする理由は、おそらく両親を守る為だ。
自分の命まで脅かされる事になってもなお、彼は両親の身を案じていた。
オール・フォー・ワンに“個性”を貰ってしまったがばかりに、重い十字架を背負う羽目になった彼には、私も同情を禁じ得ない。
だが生憎私は、感情的な話をする為にここへ来たのではない。
ただ彼に同情する為だけに、わざわざ塚内さんを呼んだりはしない。
私が今全力で関心を向けているのは、私の策がオール・フォー・ワンに届きうるかどうか、ただそれだけだ。
「…では、質問を変えましょうか。青山さん。奴からの指示は?次はどうしろと?」
私は、身を乗り出して青山夫妻に尋ねた。
私が質問すると、その意図に気付いたであろうA組の皆がハッとした表情を浮かべる。
「ただでさえ敵の情報が掴めず翻弄されている状況で、裏切りの発覚。普通なら事態が悪化したと捉えるでしょうけれど…これを逆にチャンスと捉える事はできませんか?」
「見方を変えれば、現状ただ一人、青山さんだけがオールフォーワンを欺く事ができる可能性があると…!」
「そういう事です。もし、オール・フォー・ワンから次の指示を受けているのであれば、次に奴がいつどこに現れるのかがわかるかもしれない。準備する時間と策さえあれば、今度こそ奴を捕らえられるかもしれない」
私の意図を汲んだ百に対して頷いてから、私は青山夫妻を説得した。
青山君は、オール・フォー・ワンにクラスメイトの情報をリークし、USJに手引きした。
ショッピングモールに死柄木が現れたのも、青山君がショッピングの行き先と日時をオール・フォー・ワンに漏らしたからだ。
もし
だが青山君がA組を…いや、日本を裏切ったのもまた事実。
私は、秩序やルールを破る奴が大嫌いだ。
自分や両親の身を守る為にはそれしかなかった事ぐらい、私とて理解はしているが、それとこれとは話が別だ。
私がこの家族を許す日など、一生来ない。
だからと言って、このまま見捨てるつもりもない。
このまま使い捨ての駒として終わるくらいなら、最後に一度くらいオール・フォー・ワンに一泡吹かせて欲しいものだ。
A組の皆もまた、青山君に手を差し伸べた。
裏切られてもなお、青山君の心がヒーローのままだと信じ、彼を救おうとしていた。
だがそんな彼らに、塚内さんが現実を突きつけた。
「盛り上がってるとこ悪いが…青山一家に捜査協力を頼むとして、嘘は通じないと先程聞いてる。君達の気持ちは分かるがここは冷静に」
塚内さんがそう言った事で、ある事を思い出した私は、相澤先生に目配せをした。
すると相澤先生は、何も言わずに右手で私を指した。
私は、頷いて一呼吸置いてから、塚内さんに話しかけた。
「塚内さん。私に考えがあります。全てがうまくいけばの話ですが…奴の率いる連合を一網打尽にできるかもしれません」
「本当か?」
「ええ。ただ…この作戦には、A組…いや、1年ヒーロー科全員と、そのご家族の理解と協力が必要です。それと、検証したい事があるので少しお時間をいただきたいのですが」
「聞かせてくれ」
私は、警察と教師陣、そしてA組の皆に、考えた作戦を話した。
するとその場にいた全員が驚き、塚内さんが私に尋ねる。
「そんな事が、できるのか…!?」
「全てがうまくいけばの話ですが。ただでさえ嘘が通用しない上に、警戒心の強いオール・フォー・ワンを欺く事は難しい。ですが、この方法なら…」
私は、そう話しながら相澤先生の方を見た。
相澤先生は、私の作戦に反対する事もなく、生徒全員にどうしたいかを尋ねた。
A組の生徒達は、オール・フォー・ワンと奴の操る
後でB組にも、同様に作戦を伝えた。
B組の皆は、驚きや戸惑いを見せていたが、最後には作戦に賛同してくれた。
全員、仲間の人生を弄んだ
「先生。この作戦が、青山くんを救う事ができる唯一の方法だというのなら…俺達は、この作戦に参加します」
飯田君は、A組を代表して、作戦に参加する意思を表明した。
すると相澤先生は、自分の教え子の気持ちを汲んで口を開いた。
「……わかった。保護者の説得は俺とブラドがしておく。だが、お前らはそれでいいのか?」
『言いたかねえが、一番の被害者はお前らだ。こんなバクチみてえな作戦に、命懸けられんのかよ?』
「これは、彼の心の内を掬い取れなかった俺達の責任でもあります。だからこそ、今泣いているクラスメイトに手を差し伸べたい。手を取ってもらいたい」
相澤先生に続けてプレゼント・マイク先生も尋ねると、飯田君が胸の内を吐露した。
それに追従するように切島君や緑谷君も口を開くと…先生方は、意外にもあっさり生徒の保護者の説得を引き受けてくれた。
子供をこんな博打のような作戦に参加させると聞かされれば、生徒の保護者から猛反発を受ける事は間違い無い。
それなのに、こうも簡単に私の作戦を信じて行動できるものか…
先生方も、ヒーローとして、教師として、教え子を救いたいという気持ちがあるからこそだろうな。
そんな事を考えつつ、ヒーロー科の皆の気持ちを確認した私は、青山夫妻に視線を向けた。
「青山さん。あなた方にも、協力してもらいますよ」
「無理だ…そんな事、できるわけがない。裏切りがバレたらどうなるか、あなた方も知っているでしょう…?」
私が協力を仰ぐと、青山君の父親が怯えた表情を浮かべながら言った。
その言葉を聞いて、心の中で何かが冷えていくのを感じた。
もはや怒りを通り越して軽蔑の域に達している。
青山君は、家族を守る為に罪を犯した。
彼の事を許す気は全く無いが、もし両親の命を脅かした奴にひと泡吹かせる為に立ち上がるというのなら、私は彼の未来を応援する事にした。
だが、彼の両親は駄目だ。
自分達の保身の為に子供に重い十字架を背負わせ、今もなお、子供や日本の未来よりも、自分達が助かる事を第一に考えている。
何故こいつらを助けなければならないのか、私にはわからない。
私は、椅子に座ったまま項垂れる青山君の父親に歩み寄り、彼の眼前に立った。
私が見下ろして睨むと、青山君の父親は顔色を悪くして小さく悲鳴を上げた。
…なるほど、私のような小娘にすら怯える奴等が、オール・フォー・ワンに逆らえるはずがない。
「できるかできないかではない。やれ。それしか貴様らが生き残る道は無い」
私は、青山君の父親に詰め寄って命令した。
私は彼等を許す気も救う気も無いが、私の作戦には彼等の協力が必要不可欠だ。
青山君のご両親の首を縦に振らせるため、私は彼等の退路を絶つ事にした。
「あなた方が従う他ない状況下に置かれていた事は、私も重々承知している。だがな。どんな理由があろうと、秩序を乱し、我が国の未来を脅かした貴様らを、私は決して許さない。断れば、オール・フォー・ワンではなく私が殺す」
私は、息がかかるくらいの距離で青山君の父親を睨み、殺気を放ちながら事実を突きつけた。
すると青山君のご両親は、顔色を悪くして頷いた。
無論私には、彼等を直接手にかけるつもりは毛頭ない。
私は暴力を信じない。
私は、秩序の為に生きると決めたのだ。
だがその気になれば、彼等を今すぐにでも葬る方法など、
そもそも
彼等がこちら側につく動機など、その事実だけで充分だ。
こうして青山一家を味方につけた私達は、作戦決行の為の準備を進めた。
夏休み中に行われるヒーロー科の林間合宿に、
それが、私が青山君から聞いた情報だ。
私の策とは、何も知らないフリをして
無論、万が一にも合宿に参加している生徒達に危害が及ぶような事があってはならない。
だから作戦決行日までに、奴等を迎え討つための罠を張ったダミーの宿泊施設を用意しておく。
青山君には、私達が用意したダミーの宿に、奴等を手引きしてもらう。
「それで俺が呼ばれたってわけね…」
「ご名答」
気怠げに話す心操君に対し、私は不敵に笑いながら答えた。
人は嘘をつく時、必ず頭を使っている。
人が嘘をつく事ができるのは、思考ができるだけの正常な意識があるからだ。
逆に言えば、考える能がなければ嘘をつく事ができない、という事になる。
I・アイランドでは、心操君の“個性”を利用してサミュエルの思考能力を奪い、嘘偽りのない情報を引き出した。
私が考えたオール・フォー・ワンを騙す策もまた、心操君の“個性”が鍵になる。
オール・フォー・ワンはおそらく、思考や感情を読み取って、相手が嘘をついているかどうかを判断している。
嘘をつこうとしている思考を感知できなければ、奴は青山君が嘘をついていないと判断するはずだ。
合宿中に心操君が青山君を洗脳し、オール・フォー・ワンから電話がかかってきたら、私が事前に作成した作文を朗読してもらうよう命令をする。
心操君が合宿に参加する事になった本当の目的は、この作戦を遂行する為だ。
療子は、計画を円滑に進める為のサポートと、回復役として参加する事になった。
合宿が先延ばしになったのは、建前では六徳家襲撃により社会が混乱に陥っているタイミングを避けたという事になっているが、本当の理由は作戦の準備の為の時間稼ぎだ。
本物の宿泊施設がある山と似たような山にダミーの宿泊施設を作り、あたかもそこで合宿が行われているように装うのはだいぶ苦労したがな。
「クラスの皆はああ言ったが…罪は罪だ。この件が終わったら、君は雄英にいられなくなるだろう」
作戦決行前日、私は青山君に話しかけた。
すると青山君は、自嘲しながら語る。
「わかっているさ…パパンとママンを守る為とはいえ、僕はクラスの皆を…いや、日本を裏切った。そのケジメは、つけるつもりだよ」
青山君は、仲間を売った自分を責めながらも、これからの事を考えていた。
どうやら彼は、とっくにその覚悟を決めていたようだ。
「私の知り合いが学長を務めるヒーロー科の学校に、前科不問の通信高校がある。私の部下は、そこで人を守る術を学び、資格を取り、そして今私を守る為に働いている。君にまだヒーローを目指す気があるのなら、私が君の事を紹介してやる。何としてでも、作戦を成功させるぞ」
私は、今度こそヒーローになろうともがいている青山君の背中を押した。
日本を裏切った罪こそ裁かれるべきだが、罪を犯したら一生
何より…今はまず、人の命を弄びすぎた屑を裁かなければなるまい。
◆◆◆
新井side
「残念だったな。てめぇらは、ここに来た時点で詰んでんだよ」
俺は、ガスマスクを被ったガキを地面に組み伏せ、顔にサポートアイテムの銃を突きつけた。
流石お嬢様、林間合宿をエサに
それにしてもこのガキ、お嬢様と同い年か歳下くらいか…?
こんな年端のいかないガキまで
なんて考えていると、囲と小雪ちゃんから連絡が入った。
作戦が失敗して動揺しているガキに、さらに現実を突きつける。
「たった今、俺の同僚がお前の仲間を2人倒したらしいが…どうしようか?」
「なっ!?」
俺は、囲と小雪ちゃんからの報告をガキに伝えた。
俺がガキの相手をしている間、囲は2年前にバカをやらかして捕まった
マスキュラーは、2年前にウォーターホースと囲に重傷を負わされて捕まり、そのリベンジの為に『筋肉増強』の“個性”で囲を殴り殺そうとしたが、『
一方でムーンフィッシュは、歯の刃で小雪ちゃんを一時は追い詰めていたものの、本気を出した小雪ちゃんに歯をバッキバキに折られてあっさりやられたそうな。
さすがは異形コンビ、パワーとタフさは一級品だぜ。
「ひとつ聞くが…お前、何でこんなバカみてえな真似したんだ?」
俺は、ガキの腕にカフスをかけながら尋ねた。
するとガキは、俺を睨みながら口を開いた。
「うるさい!!お前らみたいなエリートに、何がわかるってんだよ…“個性”と環境に恵まれただけのバカがチヤホヤされてさ…こんな世界、正しくないだろ!?」
ガキは、カフスをかけて身柄を警察に引き渡そうとする俺に、悪態をついた。
このガキは俺らを勝手にエリートだと思っているようだが、俺はエリートでもなんでもねえし、何なら六徳家に仕えている使用人の大半は元
俺は、特にガキの主張を馬鹿にするわけでも説教するわけでもなく、ただ一言投げかけてやった。
「政治家にでもなりゃあいいじゃねえか」
そう言って俺は、ガキを警察に引き渡した。
これで連合は3人捕らえたわけだが…
他の皆は、うまくやってるかな。
◆◆◆
西馬side
俺の前職は、ハッカーだった。
たまたま才能があったから、学生時代からハッキングでそれなりに稼いでいた。
俺は、その頃から、ネット上に蔓延るクラッカーや詐欺師を遊び感覚で潰していた。
だがある日、両親が俺のせいで死んだ。
俺の両親は、俺が当時目をつけていた詐欺集団から仮想通貨を買っていた。
俺が詐欺を暴いたせいで通貨が大暴落し、抱えきれない程の借金を背負った挙句、俺一人を残して自殺した。
両親を失って自暴自棄になって、家に引きこもって廃人になっていた俺を拾ってくれたのが、お嬢様だった。
あの人は、俺の力を高く買い、人を殺して才能を封印した俺に、人の命を救える仕事をくれた。
俺は、お嬢様の理想を叶える為に、今ここにいる。
『蛇腔病院の内部をくまなく調べろ。ついでに蛇腔病院の院長、殻木球大の居場所もな。異変を感知し次第、すぐに病院の電源を落とせ』
「オーケー、分かりました!」
脳無を製造場所を特定した俺達は、蛇腔に訪れていた。
お嬢様は、一ヶ月以上前から、連合のアジトやオール・フォー・ワンの協力者の捜索を行っていた。
奴には連合の他に、『氏子』という協力者がいる。
今は亡き旦那様が20歳の頃、六徳家に喧嘩を売ったオール・フォー・ワンは、旦那様に殺されたかに思われた。
だが協力者の手によってオール・フォー・ワンは復活させられ、オールマイトが追い詰めるまで、奴は水面下で暗躍し続けていた。
協力者の本名は殻木球大といい、旦那様に半殺しにされたオール・フォー・ワンを復活させた張本人だ。
連合と殻木、どちらか片方でも逃がせば、オール・フォー・ワンに復活させられてしまう。
奴等がいる限り、オール・フォー・ワンを倒す事はできない。
オール・フォー・ワンを倒すには、両方を同時に叩かなきゃいけない。
お嬢様はそれをわかっていたからこそ、タルタロスに収監されている囚人や裏社会の事情に詳しい情報屋に片っ端から聞き込みを行い、奴等の居場所を突き止めていた。
その中でも最も役に立ったのは、かつて連合と共闘していた事もあるヒーロー殺し“ステイン”こと赤黒血染と、この前俺達が捕まえた巨人“ギガントマキア”の証言だった。
赤黒は徒に力を振るう
お嬢様は、作戦の成功確率を少しでも上げる為、自ら刑務所に赴いて犯罪者に聞き込みをしていた。
全ては、彼女のお父様の代では止めきれなかったオール・フォー・ワンを、確実に仕留める為。
「探索開始っと…頼んだよ、イヴちゃん」
『お任せください!』
お嬢様から指示を受けた俺は、蛇腔病院の内部を“個性”で調べた。
俺は尾を近くの電柱に挿して蛇腔病院を透視し、俺の“個性”で把握しきれない場所は他の探知系ヒーローの力も借りる。
俺の尾はレーダーの役割を果たしていて、尾を挿した場所の周辺にいる目標を探知する事ができる。
さらには、今回はアメリカ政府に許可を取って、イヴちゃんをインストールしたヘッドセット型デバイスをI・アイランドから日本に持ち込んだ。
イヴちゃんがいれば、俺は無敵!!
「いました、標的…と、脳無!」
俺は、病院の霊安室内の隠し通路、その奥にある研究施設を発見した。
そこには、研究施設で何やら怪しい動きをしているジジィと、大量の脳無がいた。
ジジィの研究施設には、未完成の脳無が入った製造装置が並んでいる。
さあて、ここからが俺とイヴちゃんの腕の見せ所。
手始めに、病院内のシステムを全部掌握っ…そんで、電源を落とす!!
「……ふぅ」
これで俺の仕事は
あとはミルコやクラストをはじめとした病院への突撃班が、ジジィの逮捕と、患者や病院関係者の避難を済ませてくれる。
病院内の予備電源は突撃班が壊してくれる手筈になっているし、万が一突撃班が失敗して電源を復活させられても、病院内にある電子機器は全て俺が支配している。
突撃班がジジィを逮捕するのも、時間の問題だ。
なんて考えていると、ミルコから通信が入った。
『おい、いたぞ。奥でジジィが泣き言言ってら』
「殻木本人ですか?」
『知らね!蹴りゃわかる!』
『やだああああああああああああっ!!!』
通信機からは、ミルコが硬い何かを蹴る音と、ジジィのみっともない泣き声が聴こえた。
ミルコがジジィを仕留めようとしている間に、他のヒーローや警察は、病院の人達を安全な場所へ避難させた。
そして突撃から10分も経たないうちに、ミルコに蹴られて顔面を腫らしたジジィと、ヒーロー達に拘束された脳無が出てきた。
午後7時40分、俺達の任務は完了した。
あとは、死柄木とオール・フォー・ワンだ。
◆◆◆
死柄木side
「遅い……何をやっているんだ、あいつらは」
どうなってる?
爆豪とかいうガキを確保したどころか、誰からも連絡ひとつ入ってこない。
まさか、奇襲に失敗したのか?
俺が集めた精鋭が、あんなガキどもにやられた…?
…いや、有り得ない。
俺は先生の内通者から今のガキ共の成長具合を聞いた上で、ガキを捻り潰せるような精鋭を集めてきた。
しかも今回の作戦は、3日目のレクリエーションの時間中に奇襲を仕掛け、どさくさに紛れて爆豪とかいうガキを攫うって話だったはずだ。
俺が集めてきた奴等が連絡する余裕すらなくいきなりやられるなんて、どう考えてもおかしい。
先生は、ガキの中に俺達に情報をリークしてくれる内通者がいると言っていたが…
まさか、そいつが俺達を騙したのか?
…いや、嘘をついていたら、それに先生が気づかないはずがない。
だったら何で……
「どーも、ピザーラ神野店です」
…何だ?ピザだと?
ピザなんて、頼んでな──
「SMASSH!!!」
「っ!!?」
頼んだ覚えのないデリバリーに警戒した瞬間、派手に壁が吹っ飛んだ。
そこから飛び込んできたのは…俺の大嫌いな
「黒霧!ゲート…」
「先制必縛!ウルシ鎖牢!!」
俺が咄嗟に叫んだ直後、別のヒーローが飛び出し、木の枝で俺と黒霧を縛り上げた。
「もう逃げられんぞ
……何故だ。
何で、こいつらの先制攻撃を許した?
何で、ここがわかった?
クソッ、何もかも滅茶苦茶だ…!!
「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ…ピザーラ神野店は俺達だけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめ手練のヒーローと警察が包囲してる」
そう言ってまた別のヒーローが、警察の機動隊を引き連れてきた。
「せっかく色々こねくり回してたのに………何でそっちから来てくれんだよラスボス…仕方がない…俺達だけじゃない……そりゃあ、こっちもだ。黒霧、持って来れるだけ持って来い!!!」
俺は、黒霧に命令してありったけの脳無を解き放とうとした。
だが……
「すみません死柄木弔…所定の位置にある筈の脳無が…無い…!!」
………は?
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
「
オールマイトは、俺に向かって高らかにそう告げた。
ふざけるな。
まだだ…まだ、終わりじゃない。
「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなモンで蓋されたこの掃き溜めを、ブッ壊す…その為にフタを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…………黒ぎっ…」
「うっ…」
俺が黒霧に命令しようとすると、黒霧は意識を失った。
黒霧を気絶させたエッジショットが、糸のように細くした身体を元に戻していた。
「中を少々弄り気絶させた。死にはしない。忍法千枚通し!この男は最も厄介…眠っててもらう」
「なァ死柄木弔。聞きてぇんだが…お前さんのボスはどこにいる?」
爺が、俺に話しかけた。
俺の頭の中に、記憶が蘇ってくる。
「……………………………………………………………………………………こんな…呆気なく…ふざけるな…失せろ………消えろ…」
クソッ、クソ、クソ……
何でこうも、何もかもうまくいかないんだ。
何もかも全部、オールマイトが悪い!!
「奴は今どこにいる、死柄木!!」
「お前が!!嫌いだ!!」
俺がそう叫んだ瞬間、何もない場所から臭くて黒い液体が湧き出し、中から2体の脳無が飛び出てきた。
店内の至る所から湧き出した液体から、次々と脳無が現れた。
何だこれは……こんなの、知らねえぞ。
まさか、先生が……
「ごぽっ」
ヒーローどもが脳無に気を取られた瞬間、俺の口から黒い液体が湧き出した。
それは瞬く間に俺の身体を覆った。
先、生……
◆◆◆
亜楼side
私は、ベストジーニストやギャングオルカ、Mt.レディと一緒に、神野にある脳無の保管庫に来ていた。
私達は、襲ってきた脳無を返り討ちにし、中をくまなく調べた。
「うええ〜〜、これ本当に生きてんのぉ…?こんな楽な仕事でいんですかね、ジーニストさん。オールマイトの方行くべきだったんじゃないですかね。メッチャ勢い良く突入しましたけど」
「難易度と重要性は切り離して考えろ、新人。機動隊、すぐに移動式牢を!まだいるかもしれない、ありったけ頼みます」
Mt.レディの気の抜けた発言に対し、ジーニストが窘めつつ機動隊に指示を出した。
その時だった。
さっきまで誰もいなかったはずの場所に、人の気配を感じたのは。
それが誰だかを直感で察知した私は、考えるよりも早くありったけの矢印を飛ばした。
ベストジーニストとギャングオルカも、瞬時に攻撃態勢に入り、そこにいた人物に先制攻撃を仕掛けた。
そこにいたのは、私達の最大の標的…オール・フォー・ワンだった。
「せっかく弔が自身で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
私が矢印でオール・フォー・ワンを拘束している間にも、オール・フォー・ワンはものすごい力で矢印を引きちぎろうとしていた。
私は、オール・フォー・ワンを食い止めている間に、外で待機していた狭間君に向かって叫んだ。
「狭間くん!!」
私が叫んだ直後、オール・フォー・ワンが私の矢印やジーニストの繊維での拘束を引きちぎり、強烈な衝撃波を放った。
私は、矢印でバリアを作ってベクトル操作で衝撃波を分散させた。
私が逸らした衝撃波が、倉庫を破壊していく。
周囲数百メートルを破壊し尽くした末に、衝撃波の勢いが止まった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう」
私は、すぐさま皆の安否を確認した。
ジーニストは、乱れた呼吸を整えながら答える。
私とトップヒーロー二人が持ち堪えたおかげで、倉庫内に残っていた他のヒーローや機動隊は重傷を負わずに済んでいた。
倉庫が完全に破壊されると、そこには密林が広がっていた。
周囲に広がる木々を見たオール・フォー・ワンは、瞬時に状況を把握した。
「なるほど…倉庫ごと転送したか」
オール・フォー・ワンの視線の先には、滝のような汗を流しながら木にもたれかかっている狭間くんがいた。
あのまま神野でオール・フォー・ワンを暴れさせていたら、住民に甚大な被害が出る可能性があった。
だからあの一瞬で、狭間君に
オール・フォー・ワンが自分の置かれている状況を理解した次の瞬間、どこからか声が聴こえた。
「私が資源調達の為に買い取った島だ。ここなら、周囲への被害の心配がない」
声の聴こえた方向を見上げると、島の真上をヘリが飛んでいた。
ヘリには、お嬢様と劫波君、そして山根さんが乗っていた。
「欲求不満なんだろう?遊んでやるから、捕まえてみろ」
お嬢様は、ヘリから身を乗り出してオール・フォー・ワンを煽った。
今度こそ、奴を倒す。
最終ラウンドの始まりよ。
梅干し狩りRTAの始まりじゃい。
やっとこさ青山くんの話を消化できました。
非公開にした作品と抹アカの執筆中に色々あったせいで(愚痴になってしまうので詳しくは語りませんが)、正直青山くんが内通バレする話を書くのはモチベーションがダダ下がりだったので、スキップしようかどうしようか迷っていたのですが、なんとか書き上げました。
オリ主のスネイプ先生推し設定は、合宿で青山くんがアフォさんを裏切る展開のヒント的な小ネタでした。
何気に10話以上前に仕込んだネタを今回消化できました。
開闢隊は、特に大した描写もなくやっつけちゃいました。
だってこれ、戦闘メインの作品じゃないし。
最終決戦編に当たる本編は、オリ主と梅干しの心理戦や本作での死柄木の掘り下げ、あと六徳家のオリジンに重点を置いて、戦闘はサクサク片付けちゃおうと思います。