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作戦実行の数日前。
私は、作戦に参加するヒーローや警察と一緒に雄英の会議室で作戦を煮詰めていた。
神野区の地図を机の上に広げ、赤いマーカーで印をつけながら作戦を話す。
「奴等のアジトのバーから5km余り離れたここに、脳無の保管庫があります。ここにオール・フォー・ワンを誘き寄せます。そうしたら…狭間の“個性”で、保管庫ごと奴をここに転送します」
「そこは?」
「
私は、拘置所からリモートで会議に参加している青山夫妻に作戦を伝えた。
世界一隠れるのが上手いオール・フォー・ワンを探し出すのは、ほぼ不可能と言っていい。
だから、向こうから来てもらう。
具体的には、オール・フォー・ワンのシンパに、ヒーローが保管庫を嗅ぎ回っているという
私一人では理想を実現し得ない事など、私自身が一番よくわかっていた。
だから私は、世界中にいる友人に協力を仰いだ。
父の無念を晴らすと決めた日からずっと、私はこの世界を変える為に、オール・フォー・ワンの目を掻い潜って密かに仲間を増やしていた。
時には傍受対策に暗号化して友人とやり取りをし、社会を腐らせる芽を摘んでもらった。
時には悪事を告発し、時には追い詰めて破滅させ、時には裏切らせ味方につけた。
その中には、オール・フォー・ワンのシンパもいた。
今の私の持ち駒には、私の思うように動いてくれる裏切り者がいる。
「そこにオールマイト達が待ち伏せしておく、と…」
「いえ。オールマイトには、アジトの方に突撃してもらいます。オール・フォー・ワンが来る場所にオールマイトが待ち伏せしていたら、転送する前に警戒されてしまいますから。奴にはあくまで、少ない情報の中で無い頭を捻って考えた策だと思わせておいた方が都合がいい」
「しかし……」
機動隊の一人が口にした発言を私が訂正すると、オールマイトは不安そうな表情を浮かべる。
おいおい、しっかりしてくれよNo.1。
…と言いたいところだが、無理もない。
狭間の“個性”を使った転送は、黒霧のそれと違ってきつい制約がある。
それは、身体への負荷が大きく、大規模な転送をした後は数分間時間を空けないと次の転送ができないという点だ。
狭間の身体への負担を考えれば、オール・フォー・ワンを島に転送してからオールマイトを転送するまで、最低でも10分間はタイムラグが生じてしまう。
かと言って、オールマイトを最初から島に配置しておく事もできない。
連合のアジトや協力者の所在を突き止めたというのに、No.1ヒーローがそこに来ないというのは不自然だからだ。
転送する前から怪しまれれば、作戦の成功確率は低くなる。
相澤先生や心操君をオール・フォー・ワンの方に向かわせればいくらか楽だっただろうが、林間合宿中に襲撃される事をこちら側が把握しているという事実を、直前まで悟られたくない。
それにもし、
その代わり当日は、新井の分泌液を原料に量産した“個性”抹消弾をナガンさんを持たせ、島の岩場に配置しておく予定だ。
「問題は、この作戦だとオール・フォー・ワンを転送してからオールマイトを転送するまでの間に、タイムラグが生じてしまうという点です。奴は、黒霧以外にも、ワープの“個性”を所持している事が確認できています。オールマイトが来るまでの間に本土へワープされてしまっては、せっかくの作戦が水の泡となってしまいます。ですので、オールマイトが来るまでの間、オール・フォー・ワンを本土から引き離しておく囮役が必要です」
そう、囮役。
奴を本土に帰らせたくないなら、島から離れられない理由を作ればいい。
囮役には、オール・フォー・ワンを島に留めておける事が最低条件だ。
オール・フォー・ワンが、連合や殻木を差し置いてまで殺したい、尚且つ最低でも10分以上奴から逃げ切れる人物。
私はその条件に当てはまる人物を知っている。
「私が囮になって時間を稼ぎます。できるだけ奴を日本本土から引き離してから、オールマイトを転送します」
私が手を挙げてそう言うと、その場にいた全員が驚く。
無理もない。
本来守られるべき一般人で、しかも六徳家の当主である私が、わざわざ一番危険な役を引き受けるというのだから。
「六徳少女、君は……」
「勘違いしないで下さい。私は皆の為に自分を犠牲にしようだなんてキモい事、考えていません。私はただ、親の仇が無様に敗けるのを見たいだけです」
オールマイトが何かを言おうとするのを遮って、私は真顔で言った。
強がりに聞こえるかもしれないが、紛れもない本心だ。
私が囮役を引き受けたのは、この戦いの行く末をこの目で見届けたいからだ。
私は、父と母が果たせなかった理想を現実にする為に、今日まで生きてきた。
それを邪魔するオール・フォー・ワンを倒さなければ、それを果たす事もできない。
オール・フォー・ワンを倒して終わりではない。
むしろこれが始まりだ。
◇◇◇
作戦決行数日前。
私は、作戦に参加する使用人を全員講堂に集めて、今回の作戦の最終確認をした。
下手な戦力は奴の養分になってしまう可能性があるから、今回の作戦に参加するのは、奴に“個性”を奪われる可能性が低い、蓄積タイプの“個性”持ちや技術を極めた戦闘スタイルの精鋭だけだ。
「今回の作戦で、私は1秒でも長く逃げ切る必要がある。ここにいる皆には、私がオール・フォー・ワンを引きつけている間、私の身を守ってもらう。死にたくない者は今すぐ名乗り出ろ」
私は、その場にいた全員に尋ねた。
オール・フォー・ワンを倒すには、オールマイトが到着するまで、欲を言えばオール・フォー・ワンにできるだけのダメージを与えるか、最低でも足止めはしなければならない。
今回の作戦で、私は囮となるわけだが、私が死んでしまっては囮の意味がない。
それ故、私の身を守る者が必要となる。
私の身を守るという事は、死を覚悟でオール・フォー・ワンと戦うという事だ。
つまり、私が生き延びる為に、皆を捨て石にするという事だ。
もちろん私とて、死にたくない者にまで作戦への参加を強要するつもりはない。
ここで作戦から降りたとしても、誰も責める者はいない。
だが、誰一人として名乗り出なかった。
「愚問ですよ、お嬢様。元より私達は皆、あなたに救われた身です」
「ここにいるのは、あなたの為に命を懸ける事を選んだ者達です。あなただけを死線に立たせて生き延びるような恩知らずは、ここには誰一人としておりません」
メイド長の亜楼と執事長の山根が、皆を代表して言った。
私は、一度大きく息を吐いて吸ってから、皆の前で高らかに宣言した。
「…悪いな皆。私の為に、死んでくれ」
私が言うと、皆は一斉に膝をついて私に首を垂れた。
部下全員の気持ちを確認し、作戦決行当日の皆の配置を説明しようとした、その時だった。
突然、バンッと講堂の扉が開いた。
「待てよ」
扉からは、劫波が出てきてズンズンと私に近づいてきて、私の目の前に立って口を開いた。
「話は聞いた。囮が必要なんだろ?だったら俺も行く」
何を言い出すかと思えば…
劫波は、自分も囮になると言い出した。
「あのクソ野郎に命を狙われてんのは、俺も同じだ。囮は2人いた方が、作戦の成功確率は高くなる。
「劫波…」
「勘違いすんなよ。あのクソ野郎にイラついてんのは、俺も同じってだけだ。俺はオールマイトが来るまで足止めなんて甘え事は言わねえ。今度こそ、あいつをぶっ殺す」
そう言って劫波は、殺意のこもった顔で講演台を殴った。
甘い……か。
確かに、そうかもしれないな。
いつまでもオールマイトに甘えてる場合じゃないと言ったのは、どこの誰だったかな。
「劫波。お前に渡したいものがある」
そう言って私は、劫波にあるものを渡した。
まだ幼い子供の劫波を戦場に立たせるわけにはいかない。
だが、劫波の戦闘センスが今回の作戦の役に立つ可能性があるのもまた事実。
そこで私は、I・アイランドから送られてきた
公安に確認をとったところ、今回に限り日本での使用を許可された。
これがあれば、オール・フォー・ワンとの戦闘を有利に進められると思うのだが…
◇◇◇
私は、ヘリの中から身を乗り出してオール・フォー・ワンを煽った。
六徳家現当主である私と、その弟である劫波は、オール・フォー・ワンに命を狙われている。
その二人が自ら姿を見せたというのは、奴にとってこれ以上ないチャンスだ。
だが当然、私達とてそう簡単にやられるつもりはない。
ここは私達ではなく、奴にとっての墓場だ。
オール・フォー・ワンは、私達が乗っているヘリに向かって右手を伸ばし、“個性”を発動しようとする。
ヘリを墜落させる気か。
馬鹿が、それを私が見越していないと思うか?
オール・フォー・ワンが“個性”を使おうとしたその時、オール・フォー・ワンの右手を何かが貫いた。
遠方に配置しておいたナガンさんの狙撃だ。
「山根、このまま沖の方へヘリを飛ばせ」
「了解しました、お嬢様」
私が命令すると、山根は沖へとヘリを移動させた。
毒液を含んだ弾丸がオール・フォー・ワンに突き刺さり、オール・フォー・ワンが“個性”を出せなくなっている間に、ヘリをできるだけ遠くへと飛ばす。
山根がヘリを操縦している間にも、私は“個性”を発動し、ヘリの走行速度を超音速にまで引き上げた。
ついでに、空間干渉系の“個性”対策に、ヘリ周りの時空を歪めておく。
「逃がさないよ」
オール・フォー・ワンは、弾丸が刺さった腕を斬り落とし、瞬時に腕を再生しながら飛行系の“個性”で私達を追いかけてきた。
存外判断が早い。
まあ、あれで止められるとは思っていなかったが。
などと考えた、その時だった。
「ゲホッ、ゲホッ…」
黒いヘドロのような液体が湧き出し、中から死柄木と黒霧と思しき人物が出てくる。
死柄木達は、オールマイト達が押さえていたはずだが…
そんな事を考えつつ、オール・フォー・ワンに視線を向ける。
こいつ、転送系の“個性”で二人を逃がしたのか。
タイミングが良いんだか悪いんだか。
「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ。全ては君の為にある」
オール・フォー・ワンは、死柄木に向かって何かを話していた。
オール・フォー・ワンは、指先から棘のようなものを出し、それを黒霧に突き刺した。
「黒霧、弔を逃がすんだ」
「先生は…」
「常に考えろ弔、君はまだまだ成長できるんだ」
オール・フォー・ワンが言うと、黒霧のワープゲートが、本人の意志とは関係なく勝手に開いた。
だが、死柄木達を逃がすまいと、狭間が黒霧のワープゲートを切り裂いた。
狭間が逃げ道を断つと、亜楼とベストジーニストが、死柄木の確保に動く。
するとオール・フォー・ワンは、バリアの“個性”で死柄木と黒霧を覆い、二人を亜楼とベストジーニストの攻撃から守った。
「っ先生!?先生!!」
バリアで覆われた死柄木は、内側からバリアを叩いてオール・フォー・ワンを呼んだ。
オール・フォー・ワンが発動したバリアは、死柄木の崩壊の“個性”でも壊れない…“個性”そのものを弾く仕様のようだ。
「黒霧、今のうちに弔を逃がせ」
オール・フォー・ワンは、バリアの中にいる死柄木に向かって言った。
その隙に、劫波が右手首のスイッチを押した。
すると10秒も経たないうちに、キィィィ、と空を切る音が聴こえ、何かが猛スピードで接近してくる。
「やっちまえ、アダム!!」
劫波が叫ぶと、音速を超えるスピードで飛んできたそれは、勢いよく左脚を振り上げ、そしてオール・フォー・ワンの顔のマスク目掛けて蹴りを放った。
だが放たれた蹴りは、オール・フォー・ワンの顔の数センチ手前で、バリアの“個性”によって阻まれていた。
「人が話している時に不意打ちとは…行儀が悪いね」
オール・フォー・ワンは、バリアで蹴りを防ぎながら余裕そうに笑った。
すると劫波の命令で飛んできたそれは、空中で高速回転しながら飛び上がり、オール・フォー・ワンの頭上を取った。
「脳天カチ割れろォ!!」
劫波が叫ぶと同時に、それはオール・フォー・ワンの頭に右足の踵を振り下ろした。
強烈な踵落としによって、バリアは今度こそ粉々に砕け散った。
だがオール・フォー・ワンにはほとんどダメージが入っておらず、オール・フォー・ワンは先程保管庫を吹き飛ばした衝撃波を撃った。
オール・フォー・ワンの攻撃を直接受けたそれは、驚くべき事に、ほぼ無傷だった。
六徳家の研究チームとデヴィット・シールドが共同開発したアンドロイド型戦闘兵器、アダム。
“個性”を養分とするオール・フォー・ワンへの対策として、伯母をはじめとする六徳家の研究チームが生み出した、兵器技術の結晶だ。
最高速度マッハ7で飛行し、あらゆる形状に変形可能で、100を超える機能を搭載している超ハイテク戦闘用アンドロイドだ。
だが、これだけハイテクな兵器を使いこなすのは至難の業だ。
そこで劫波の戦闘センスが役に立つわけだ。
六徳家には、“個性”を持たない代わりにある分野で突出した才能を持つ子供が生まれる事がある。
劫波の場合、それは戦闘センスだった。
あらかじめ劫波の戦闘パターンを学習させたアダムを劫波が操縦して初めて、オール・フォー・ワンに太刀打ちできる。
劫波は、アダムを操縦してオール・フォー・ワンに畳み掛けるように攻撃を仕掛けた。
両眼から放たれる特殊な電磁波で全身を麻痺させてからワイヤーで拘束し、ワイヤーから放たれる電撃と、頭部に内蔵されたスピーカーから放たれる音波による内部破壊で弱らせ、両腕に仕込まれた機構から放たれる高温のレーザーと口から放たれる極低温のガスによる急激な温度差で表皮を破壊してから、総重量800kgの身体で音速を優に超える殴打や蹴りを繰り返し、オール・フォー・ワンの身体をボロボロにしていく。
極め付けは、周囲数百メートルを全て消し炭にする小型爆弾による爆撃だ。
アダムが撃った爆弾が炸裂し、オール・フォー・ワンはゼロ距離で灼熱に晒される。
汚い花火が上空に炸裂する中、アダムは距離を取り、次の攻撃の準備をしようとする。
だが…
「浅ましい」
重く冷たい声が聴こえた次の瞬間、何の前触れもなくアダムの頭が吹き飛んだ。
爆煙が晴れるとそこには、マスクが外れ、のっぺらぼうのような顔をしたオール・フォー・ワンがいた。
服は爆撃によりボロボロになっていたが、身体はほとんど無傷だった。
「粗大ゴミをぶつけて僕に勝ったつもりか?
オール・フォー・ワンは、頭部を破壊されたアダムを見下したように言い放った。
こいつ、全身を麻痺させた状態で爆撃を喰らわせたのに、何で生きて……
「君達が仕掛けてくるなら、そろそろだろうと思っていた。だからね…
そう言ってオール・フォー・ワンは、何らかの薬剤が入っていたであろうケースを投げ捨てた。
……そういえば、爆撃の直前、奴は何かを懐から取り出していたような気がする。
まさか…身体を修復する薬でも、身体に打ち込んでいたというのか…!?
どこまで用意周到なんだ、こいつ……
「!」
アダムは、頭が吹き飛んでもなお、オール・フォー・ワンへの攻撃を続けた。
だがオール・フォー・ワンは、私達が積み上げてきた技術、戦略、そして先人達の弛まぬ努力、それら全てを嘲笑うかのように衝撃波を放ち、アダムの身体を木っ端微塵にした。
「もう終わりかな?案外、呆気なかったね」
そう言ってオール・フォー・ワンは、私達の乗っているヘリを墜落させようと、私達を追いかけてくる。
すると亜楼が、無数の矢印をオール・フォー・ワンに向けて伸ばした。
オール・フォー・ワンは、攻撃力の高い遠距離“個性”を幾つも組み合わせ、向かってくる亜楼を返り討ちにした。
だが亜楼は、オール・フォー・ワンに巻きつけた矢印を縮めた勢いを利用し、猛スピードで接近してきた。
「ちくしょうが…アタシって何でこうも男運が無いんだよ、クソッタラぁ!!」
亜楼は、顔の皮が一部剥がれ、脇腹が抉れる重傷を負いながらも、無数の矢印を操ってオール・フォー・ワンの周りを矢印で覆い、矢印の檻の内側に力場を発生させて押し潰そうとした。
だがオール・フォー・ワンは、身体から無数の棘のようなものを発生させて無理矢理拘束を解くと、棘で亜楼を串刺しにした。
オール・フォー・ワンは、胸と腹を棘で刺され血を流しながら落ちていく亜楼を嘲った。
「結局最期まで、ゴミのように使い捨てられるだけの人生だったね。元公安ヒーロー、“メデューサ”」
向かってくるヒーローを蹴散らしたオール・フォー・ワンは、私達が乗っているヘリを追いかけてきた。
奴は、手から隕石のような火球を生み出し、ヘリ目掛けて飛ばした。
だがオール・フォー・ワンの火球はヘリに当たる事はなかった。
何故かって?
「何よそ見してんだ、クソ
「てめぇ俺達の事無視してんじゃねえよ!!」
「そんな適齢期過ぎた年増のババァより、俺らの方が断然良くねえ?」
私の部下達が、火球を撃墜してくれたからだ。
皆がオール・フォー・ワンを煽ると、誰かさんが部下の発言に反応したらしく、矢印が音もなく猛スピードで飛んできて、オール・フォー・ワンの背中に突き刺さった。
オール・フォー・ワンの背後には、矢印を身体に巻き付けて止血をした亜楼がいた。
「年増だのババァだのうっさいわ!!アタシはまだピッチピチの35だっつうの!!」
亜楼は、矢印を操ってオール・フォー・ワンを食い止めた。
私達は、皆がオール・フォー・ワンを食い止めてくれている間に、さらに遠くへ逃げた。
亜楼は、オール・フォー・ワンに私達を追わせまいと矢印を操って食い止めるも、ボロボロの身体では矢印の強度を維持できず、あっさり返り討ちにされた。
片手で捻るように亜楼を吹き飛ばしたオール・フォー・ワンは、亜楼の頭を掴んだ。
「矢印を操るだけの“没個性”を、よくここまで鍛え上げたものだ。普通は君のような“個性”は奪わないんだが…こうも邪魔ばかりされると鬱陶しいからね。“個性”を貰うよ」
「ちくしょ……っ」
そう言ってオール・フォー・ワンは、亜楼の“個性”を奪おうとする。
だがその瞬間、オール・フォー・ワンの腕に弾丸が刺さり、その拍子にオール・フォー・ワンは亜楼から手を離した。
弾丸が刺さる直前に腕から結晶のようなものを生やして防御していたオール・フォー・ワンは、弾丸が飛んできた方を見る。
「汚ねえ手で私の後輩に触ってんじゃねえ…!」
弾丸が飛んできた方を双眼鏡で見ると、ナガンさんが、殺意に満ちた表情を浮かべながらライフルを構えていた。
オール・フォー・ワンは、心なしか苛立ったような表情を浮かべつつも、ナガンさんを煽った。
「ナガン……先代当主の出涸らしを守って、今更ヒーロー面か?」
「今更、ヒーローに戻れるだなんて思っていない。ただ、後輩の仇は討たせてもらう」
「せんぱぁい…!」
ナガンさんが言うと、亜楼は目に涙を浮かべた。
ナガンさんの言葉に元気付けられた亜楼は、矢印を操ってオール・フォー・ワンを私達から遠ざけた。
他の部下達も、オール・フォー・ワン目掛けて一斉に攻撃を放つ。
すると痺れを切らしたオール・フォー・ワンは、電撃の“個性”を放ち、部下達の意識を刈り取った。
トドメと言わんばかりに斬撃の“個性”を放出し、周りにいた私の部下を切り刻んだ。
何とか電撃には耐えた亜楼も、斬撃をまともに喰らってしまい、真っ逆さまに落ちていく。
そしてナガンさんが身を潜めている岩場目掛けてエネルギー弾を放ち、岩場ごと消し飛ばした。
「やっと邪魔者がいなくなった。次は君達だ」
ヒーロー達や私の部下を全員リタイアさせたオール・フォー・ワンは、私達が乗っているヘリ目掛けて火球を放った。
山根は、方向転換して回避しようとするが避けきれず、火球がヘリの側面に触れた瞬間に大爆発を起こした。
爆発して木っ端微塵になったヘリは、黒煙を上げながら墜ちていく。
だが私達は間一髪ヘリから脱出し、山根の氷を操る“個性”で飛行し爆発を回避していた。
「ほう。あの一瞬で脱出していたとは…流石だ」
山根は、私と劫波を抱きかかえたまま足元に雪の結晶のような氷を出して操り、氷霧でオール・フォー・ワンの動きを捕捉しつつ、追いかけてくるオール・フォー・ワンから全速力で逃げた。
オール・フォー・ワンが攻撃を仕掛けてくると、山根は氷で補強したワイヤーを操って迎撃した。
山根は、冷気を操ってオール・フォー・ワンを内側から凍らせにかかった。
オール・フォー・ワンは、身体が凍えて“個性”の発動はおろか身動きひとつ取れなくなった状況で、私に話しかける。
「なあ、六徳刹那。この状況、11年前と似ていると思わないかい?僕をここに飛ばすよう差し向けたのは、君だろう?あの時も、僕の差し向けた
オール・フォー・ワンが放った言葉に、一瞬思考が止まる。
私が、
「君の父は勘の鋭い男でね、僕の仕込んだ
「っ………!!」
オール・フォー・ワンは、悪びれずにあの日の事件の真相を語った。
事件の直前、私に百やメリッサ以外の友達ができた。
内気で口下手だった私に明るく話しかけてくれた、優しい子達だった。
私は、あの子達なら大丈夫だと思って、六徳家の秘密を喋ってしまったんだ。
ただ、大好きな父を皆に自慢したいだけだった。
「どんな気分だ?教えてくれよ、親が死ぬ事になった原因を自分が作ったという事実を知った気分を」
私が秘密を喋ったせいで、
私が殺したようなものだ。
……ああ、なんだ。
とっくにわかっていた事じゃないか。
私が父と母の足を引っ張って死なせたって事は。
「どんな気分かって…?そりゃあ、お前を処刑台に送りたいとは……思ってるよ」
私は、オール・フォー・ワンに向かってハッキリと言ってやった。
奴の言葉の真偽は、今は重要ではない。
仮に奴の言葉が真実だったとしても、私がここで足を止める理由になりはしない。
私がここで殺されれば、それこそ父や母に、私を守って死んでいった者達に顔向けができない。
「私が父と母の足を引っ張った事くらい、とっくにわかってる。己の弱さも、愚かさも、私が一番よく知っている。だからこそ、私がやらなきゃいけないんだ」
私には、父と母が果たせなかった、『生きやすい世界を未来に残す』という理想を果たす責務がある。
その為にはまず、それを邪魔するオール・フォー・ワンを倒さなきゃいけない。
私が考えるべき事はただ一つ、目の前の敵を討つ事だけだ。
「くだらない」
「これが私だ。理想の未来を生きる為に、今度こそお前を討つ。今、ここで」
私は、見下したように嗤うオール・フォー・ワンに向かって言い放った。
◆◆◆
死柄木side
「クソッ……」
先生が上空で六徳家の奴等を蹴散らしている間、俺はその場にいたヒーロー達から逃げていた。
先生がオールマイトに殴られて、バリアが弱まった一瞬のうちにヒーロー達から総攻撃を受け、バリアは完全に破壊された。
先生は、20年以上前の傷も癒えないうちに6年前のオールマイトとの戦いで重傷を負い、もう以前のように戦える身体じゃない。
俺が先生の足を引っ張る事だけは、何としても避けなきゃならねえ。
社会のゴミを殺せないのは癪だが、ここは退くしかない。
黒霧は“個性”が使えるようになっていたが、俺がワープで逃げようとすると、刀を持った奴がワープゲートを切り刻んで邪魔してくる。
クソッ、こうなったのも全部、オールマイトのせいだ。
俺が心の中でオールマイトに悪態をつきつつ逃げようとしたその時、頭ん中に激痛が走った。
「う……!!」
――あったかいねぇ、転くん。ぽかぽかしてて、気持ちいいね。
知らない女と赤ん坊の姿が、脳裏に浮かび上がってくる。
何だ、この記憶は……
――ヒーローになりたい?そりゃあいい!なりたいもんになって、生きたいように生きりゃあいい!
今度は、若い男が俺に笑いかける様子が走馬灯みたいに浮かび上がってくる。
何だこれ…こんなの、俺の記憶じゃない。
「死柄木弔…?」
頭ん中で、記憶がグチャグチャになっていく。
頭が痛い。
気持ち悪い。
消えろ、消えろ…!!
「う…ぐぅ……!ち…がう……消え…ろ…消えろ、消えろ…!!」
◆◆◆
刹那side
「君達姉弟は…本当に僕の邪魔ばかりしてくれるね。だが、それももう終わりだ。理想の未来?そんなものは来ないよ。仲間を失い、僕への復讐も失敗した君達に残されたものは、死だけだ」
オール・フォー・ワンは、内側から山根の氷を融かしながら嘲笑った。
すると劫波は、先程オール・フォー・ワンにバラバラにされたアダムの部品をオール・フォー・ワン目掛けて飛ばし、その顔面にクリーンヒットさせた。
氷を融かそうとしたタイミングでいきなり顔面を殴られたオール・フォー・ワンは、凍らされた上に殴られてひび割れた顔面に青筋を浮かせた。
「うるせえよゴミ。俺は俺のやりたいようにやってるだけだ。てめえが目障りだからぶん殴る、それ以上でも以下でもねえ」
「君なら、僕の新しい器になり得ると思ったんだけどね…なあに、心配はいらないよ。君の仲間もすぐに送ってやるさ。あの世へ行く君のもとへね」
「バカが。今殺すっつってんだろうが」
劫波は、中指を立てながらオール・フォー・ワンを煽った。
理想の未来を生きる為に戦う私と、今を生きる為に戦う劫波。
見ているものは違うけれど、目の前の敵を倒す、ただその一点においてお互いに向かう先は同じだった。
「やれ、マキア!!」
劫波が叫ぶと、島の地面の中に潜っていたギガントマキアが土から這い出てきて、オール・フォー・ワン目掛けて岩を投げた。
オール・フォー・ワンは、それを軽々と避けるが、見るからに苛立った表情で島の方を見た。
「主よ…俺は、あなたの為に……何故、俺を置いていったんだ…オール・フォー・ワン!!」
マキアは、涙を流しながら、自分を六徳家の庭へ置き去りにして逃げたオール・フォー・ワンに怒りをぶつけた。
マキアは捕まった後、自分がオール・フォー・ワンに置いて行かれた事にひどく絶望し、自分を見捨てたオール・フォー・ワンに怒りを覚えた。
劫波は、そんなマキアに声をかけ、マキアを味方につける事に成功した。
「行けぇ!!そのままこいつぶっ殺せ!!」
劫波が叫ぶと、マキアはそれに呼応するように雄叫びを上げながら、オール・フォー・ワンに攻撃を仕掛けた。
山根の氷を融かし動けるようになったオール・フォー・ワンは、マキアを見ながら意味深な発言をする。
「ギガントマキアが反応している…やはり彼には、血が濃く現れているらしいな……何にせよ、裏切り者は殺処分だ」
そう言ってオール・フォー・ワンは、エネルギー弾でマキアを吹き飛ばし重傷を与えた。
吹っ飛ばされて気を失ったマキアは、そのまま海の中へと落ちた。
「てめぇ…!!」
ついこの前まで忠臣だったはずのマキアを躊躇なく始末したオール・フォー・ワンを見て、劫波はギリっと歯を食いしばっていた。
マキアを始末したオール・フォー・ワンは、不気味な笑顔を浮かべながらこちらを見てくる。
そして、音速に迫る速度で私達に近づき、手を伸ばしてきた。
私に触れて“個性”を奪おうとしてくるオール・フォー・ワンを退けようと、私が“個性”を発動しようとした、その瞬間。
――ガンッ
「間に合った……」
思わず、そんな言葉が口から漏れる。
突然何もない空間からオールマイトが現れ、オール・フォー・ワンに向かって拳を振るった。
オール・フォー・ワンがオールマイトの拳を受け止め、二人は手四つの状態で組み合った。
狭間が、オールマイトを私のもとへ転送してくれたのだ。
ここに至るまで、多くの犠牲を払った。
だが彼等の犠牲は、決して無駄ではなかった。
「全て返して貰うぞ、オールフォーワン!!」
「また僕を殺すか、オールマイト」
最終決戦編、何も知らない第三者から見れば、おじさんが女子高生と男子小学生の尻を追いかけるという、事案な絵面な件。
最終決戦編は、もう一話だけ続きます。
流石にこの一話では全部消化しきれなかった…