私の世直しアカデミア   作:M.T.

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第4話 マスゴミ?よろしい、ならば110番(つうほう)

「ほぁ……」

 

 心操君と癒治君を特訓に誘った次の日。

 山根が運転する黒塗りのリムジンの中で起きた私は、伸びをしながらあくびを漏らした。

 というのも、徹夜でトレーニングメニューと入試問題を作成していたから、リムジンの中で仮眠を取っていたのだ。

 トレーニングメニューは心操君や癒治君の現状を知っている私が作らなければ意味がないし、入試問題も雄英生である私が作った方が雄英にマッチした人材を募集できる問題が作れるだろうと考えたから、こればっかりは他人に任せる事はできなかった。

 

「おはようございますお嬢様。よくお休みになりましたね。もう到着致しますよ」

 

「ん…ああ」

 

 思考がようやくクリアになってきた頃、山根が声をかけてきた。

 車の窓から外を見ると、校舎の正門の前に人集りが見えた。

 正門を塞いでいる者達は、撮影機材やら音響機器やらを持っており、登校してくる雄英生を今か今かと待ち構えている。

 …報道陣か。

 

「まったく…朝からご苦労な事で」

 

「自社が覇権を握る為にも、いの一番に取材がしたいのでしょうな。何せ日本の…いえ、世界のNo.1ヒーローが就任した学校なのですからね」

 

「ああいうのがいるから、『日本のマスコミは地に堕ちた』などと叩かれるのだ。私が官僚になったら、あの手の奴等を処罰する法案を作るか」

 

「お嬢様、過激な発言はくれぐれもお控えくださいませ。このご時世、誰がどこで話を聞いているのかわかりませんよ」

 

「ああ、そうだな」

 

 報道陣が正門の前で屯している理由は、深く考えずとも察しがつく。

 オールマイトがヒーロー活動を一時休業し、雄英の教師に就任したというニュースだ。

 皆、オールマイトに関する情報を少しでも多く雄英から引き出し、自社が覇権を握ろうと躍起になっているのだろう。

 まあ純粋にオールマイトに関する情報が知りたいというのもあるのだろうが。

 

 …それにしても、邪魔だな。

 軽く見積もっても100人以上はいる。

 おそらく奴等のほとんどは、雄英に取材許可を取らずに来た礼儀知らず共だ。

 一箇所に固まって周囲に不快さを撒き散らす様は、まるでゴm…おっと、これ以上はやめておこう。

 六徳家の当主たる者、品位を落としてはならない。

 

 さて、どうしようか?

 六徳家当主としての権限をフル活用すれば、奴等を簡単に散らせるだろうが…

 …一応、何かあった時の為に録画しておくか。

 そう考えていたその時、ちょうど登校しようとしていた女子生徒二人が報道陣に絡まれているのが見えた。

 二人ともヒーロー科の制服を着ていて、一人はポニーテールの長身の女子、もう一人はショートボブの小柄な女子だ。

 

 ………おや?

 あの後ろ姿は…

 

「山根。車を停めろ」

 

「かしこまりました」

 

 私は、正門から少し離れた場所に車を停めさせ、車から降りた。

 さて…と。

 取材をしたいのなら、大いに結構。

 だが雄英に許可を取らず…況してや部外者が在校生に迷惑行為を行うなど言語道断。

 無礼が過ぎたマスゴミ共を、どう料理してやろうか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

耳郎side

 

 ウチは今、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてる。

 たまたま途中で同じクラスの八百万さんと一緒になって、昨日の戦闘訓練の授業の話をしながら正門を潜るところだったんだけど…

 

「オールマイトの授業って、どんな感じです!?」

 

「オールマイトが教師に就任した事について、どうお考えですか!?」

 

「オールマイトについて何か一言!!」

 

 ウチらが正門を通ろうとしたら、こんな感じでマスコミが詰め寄ってきた。

 やっぱり、オールマイトが教師に就任したってのが、それだけ社会に与えた影響が大きいんだろうね。

 けど今から学校に行こうって時にいきなり質問攻めとか、すごく迷惑なんだけど…?

 

「オールマ──」

 

「失礼。道を開けていただきたいのですが」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 ウチらの後ろから、声が聴こえてきた。

 別にうるさいと感じるような大きい声でも低音でもないのに、重みがあって威圧感を感じる声色だった。

 それでいて、ウチが今まで聴いてきた中で一番綺麗な声だった。

 その声を聞いて声の主の顔を見るなり、マスコミが青ざめる。

 

 世界的に有名な富豪一族、六徳家の当主様。

 ニュースとかで顔を見た事はあったけど、本人を間近で見るのはこれが初めてだ。

 …あ、一応入学式で一目観たけど、アレを数に入れていいのかな…?

 さっきまで質問攻めしていたマスコミがまるで『十戒』の如く道を作った。

 

「さて…皆様。たった今、皆様全員の顔を覚えました。ここに状況証拠もありますし、半日もあればここにいる皆様全員の身元を特定できます。これ以上迷惑行為を続けるのであれば、()()()()()()()へ連絡させていただきますが…その上で彼女達に何か言いたい事は?」

 

「「「「たっ…大変失礼しました!!」」」」

 

 六徳さんがスマホで録画を続けながらマスコミに圧力をかけると、ウチらに質問攻めしてきたマスコミが一斉に謝ってきた。

 

「お引き取りを」

 

「「「「は、はい!!」」」」

 

 六徳さんが笑顔を浮かべながら言うと、蜘蛛の子を散らすようにマスコミが去っていった。

 すごい、あんなにしつこかったマスコミが、一目散に帰ってった…

 マスコミを散らした六徳さんは、何事もなかったかのようにジャケットをピンと張ると、ウチらに声をかけてきた。

 

「やあ。朝から災難だったね。無神経な質問はされなかったか?」

 

「刹那さん…!」

 

「おはよう、百。ちゃんと話すのは、去年のパーティー以来だね」

 

 六徳さんと八百万さんが、何やら親しげに話している。

 クラスでは凛とした頭脳明晰のお嬢様って感じだったから、こうやって楽しそうに話してるのを見るのは何気にこれが初めてかもしれない。

 …もしかして八百万さんって、六徳さんとすごく仲がいい?

 

「えっ、八百万さん、六徳さんと仲いいの?」

 

「ええ。家族ぐるみのお付き合いをしているお友達ですわ。お爺様同士が大の仲良しですの。六徳家主催のパーティーにも、毎年招待していただいてますのよ」

 

「そうだったんだ…」

 

 六徳家主催のパーティーに呼ばれるって、八百万さんもすごいお嬢様って事だよね?

 何かますますウチがここにいるの、場違いな気がしてきたんだけど…

 ウチが住む世界の違う二人に囲まれて困惑していると、六徳さんがウチに話しかけてきた。

 

「失礼、君は?」

 

「クラスメイトの耳郎さんですわ。先程、偶然一緒になりましたの」

 

「はじめまして、耳郎響香です」

 

「うむ、はじめまして耳郎君。百の友達の六徳刹那だ。そう緊張しなくていい。百の友達なら、私の友達も同然なのだからな」

 

 そう言って六徳さんは、ウチに手を差し出してきた。

 戸惑いつつも手を握ると、六徳さんは変わった握り方をしてきた。

 六徳家の人って、もっとこう雲の上の存在だと思ってたから、こうやって普通に話してると、夢でも見てるんじゃないかって気分になってくる。

 というか今更だけど、改めて見るとすごい美人だし、気さくだし、女同士なのに見惚れざるを得ない…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 今朝は、百の友人の耳郎君と少しだけ仲良くなった。

 百のお祖父様と私の祖父が大の仲良しなので、孫である私達も昔から家族ぐるみの付き合いをしている。

 各国の上流階級の人間同士が社会問題について本格的に議論をする我が家主催のパーティーには必ず招待しているし、私も八百万家が携わる企業には随分と好待遇を受けている。

 それにしても、耳郎君か…

 何だかんだでヒーロー科との絡みは少なかったから(まだ入学三日目だから当然と言えば当然だが)、他クラスの友人ができるのは単純に嬉しい。

 

 ちなみにさっきのマスコミ共は、私が少々()()をしたら帰っていった。

 私が奴等の顔を全員覚えたのも、次迷惑行為を働けば然るべきところへ電話するのも、全て本当の事だ。

 まああれで大人しく帰ってくれたようだし、質問攻めされた生徒も怒ってはいないようだから、通報はやめておこう。

 法を犯すようでなければ、二度目までは許す。それが私の中でのルールだ。

 

 さて、今日のホームルームの議題は何だったかな。

 入学式の日に配られた資料によると、確か…

 

「皆さん、今日のホームルームでは、学級委員長を決めてもらいます!」

 

「「「「「えぇ〜…?」」」」」

 

 13号先生が言うと、他のクラスメイトが困惑した声を上げる。

 

「そういや昨日そんな事言ってたっけ」

 

「うわー、やりたくねー」

 

「誰か立候補してくんねぇかな」

 

 ネガティヴな声が、あちらこちらから聴こえてくる。

 普通科では、学級委員長は雑務というイメージが強い。

 元々志願者が少ない上に、ヒーロー科への編入を狙っている生徒は学級委員長をやっている場合ではないので立候補したくてもできない。

 委員長を押し付け合っている奴等に関しては、人の嫌がる事を進んでできないところがヒーロー科に入れなかった所以であるような気もしなくもないが、今言う事でもないので黙っておこう。

 そういうわけで、例年は委員長の押し付け合いになるそうだが…

 

「私、やります」

 

 私は躊躇なく、右手を挙げて宣言した。

 六徳家の当主はいつの時代も、人の上に立ってきた。

 クラスのリーダーとして級友をまとめるのは、私の天職だ。

 それに、トップ官僚を志す者が、学校の雑務の一つや二つこなせなくてどうする。

 

「六徳さん、引き受けてくださるんですか?」

 

「これもひとつの社会勉強かと思いまして」

 

「わかりました!他に立候補者がいないのであれば、六徳さんにお任せします。皆さんも、それで構いませんか?」

 

 13号先生が皆に尋ねると、皆は私の立候補をすんなり受け入れた。

 誰でもいいから早く決めてほしいという考えを感じ取らなかったわけではないが…まあ、いい。

 こうして私は、晴れてC組の委員長を引き受ける事となった。

 

「それでは、学級委員長は六徳さんに決まりという事で…次は、副委員長を決めてもらいます!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 13号先生が言うと、他のクラスメイト…特に男子生徒がどよめく。

 あー…これは、波乱の予感がする。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

心操side

 

 13号先生が爆弾発言をすると、クラスの男子の目つきが変わった。

 その理由は、言うまでもない。

 

「副委員長を引き受けてくれる人は、立候補を──」

 

「俺、やりたいっス!」

 

「僕も!」

 

「いや、ここは俺が!」

 

「は!?ふざけんなよお前、さっき委員長やりたくねーって言ってただろーが!」

 

 他の男子は、我こそはと副委員長に立候補した。

 実のところ六徳さんは、クラスの男子達の間で人気が高い。

 美人で、気高く、性格もいい。

 六徳家の財力や名声を抜きにしても、人を惹きつける魅力がある。

 皆、畏れ多すぎて近寄れないだけで、ウチのクラスの男子の大半は彼女に憧れてる。

 クラスメイトといえど、六徳さんに自分から声をかけに行ける度胸がある奴はいない。

 だが、『副委員長の業務』という大義名分があれば話は別だ。

 委員の仕事という接点を持つ事で、あわよくば彼女にお近づきになりたいと考えている奴がほとんどだろう。

 こいつらと一緒くたにされるのは不本意だけど、憧れの女子と仲良くなれるチャンスが仕事のめんどくささに勝つ、それが男っていう生き物だ。

 さっきまで委員長を押し付け合う空気だった教室で、今度は副委員長争奪戦が繰り広げられるかと思った、その時だった。

 

「静粛に」

 

 六徳さんが、鶴の一声で男子達を黙らせた。

 六徳さんは、クラス全員を一瞥してから、皆に提案をする。

 

「このままでは建設的な話し合いができん。そこでだ。ここはひとつ、副委員長は投票で決めるというのはいかがだろうか?それで構いませんか、先生?」

 

「なるほど、民主主義に則るというわけですね。皆さんの納得のいく形であれば、僕からは何も言う事はありません」

 

「ありがとうございます。それでは、投票をするとしよう。ああ、公平性に配慮して、自分への投票はナシにしようか」

 

 こうして、既に委員長となった六徳さん以外の全員で、副委員長決めの投票が行われたわけだが…

 結論から言うと、やたらと票が女子に偏った。

 多分他の男子が、自分以外の男子が副委員長になるのを阻止しようと、女子に票を入れたんだと思う。

 

「…というわけで、副委員長は御法くんに決まりました」

 

「よろしくお願いします」

 

 副委員長は、投票で5票を獲得した、御法というメガネをかけた真面目そうな男子に決まった。

 自己紹介の時、代々裁判官の家系だと言っていた男子だ。

 委員長決めの時、六徳さんが立候補する前に一瞬手を挙げそうなそぶりをしたのを見たから、一瞬でも委員長をやろうとしていた彼なら副委員長も務まるだろうと思って、俺は彼に投票した。

 何故か俺にも3票入っていたが、俺はヒーロー科への編入に向けた特訓で来週から忙しくなるから、どのみち引き受けるつもりはなかった。

 委員長と副委員長が決まって、その後は二人が進行役として残りの委員を決めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

「…うん、美味い」

 

 午前中の授業が終わった後、私は当家のシェフの新井が持たせてくれたおにぎりを食べながらそう呟いた。

 今日は心操君と癒治君以外のクラスメイトも誘って、一緒に昼食を食べている。

 たまたま今日は二人とも弁当だったので、教室の机をくっつけて弁当を食べた。

 

 昨日は食堂で昼食を食べたが、昨日知り合いから珍しい食材が送られてきたので、せっかくだからこの日は弁当を作ってもらったのだ。

 新井が普段は入荷できない珍味の数々に舞い上がってうっかり作りすぎてしまったらしく、私一人で食べるには少々多い…というか女子一人で食べ切れる量ではなかったので、今日のお弁当メンバーにも少し手伝ってもらう事にした。

 上機嫌の新井に漆塗りの重箱を渡された時は、流石に私でもギョッとしたぞ。

 …まあ、作ってくれるだけ有り難くはあるんだがな。

 

 一段目には小ぶりなおにぎりが、二段目には鰆の西京焼き、春野菜の肉巻き、淡竹と茸の五目煮、山菜のお浸し、だし巻き卵、お新香、フルーツ寒天などのおかずが、仕切りのひとつひとつに丁寧に詰められている。

 いつもより2、3品多い上に、単純に量が多い。

 軽く見積もっても2〜3人前はあるぞこれ。

 

「ん〜、メッチャ美味しい!」

 

「おにぎり美味っ」

 

「この肉巻きの味付け最高!」

 

「ランチラッシュ先生のご飯も美味しいけど、このお弁当を毎日食べられる六徳さんが羨ましいよね」

 

「こういうのって、全部お手伝いさんが作ってくれるんですか…?」

 

「ああ。たまには自分でも作るが…」

 

「すげー…」

 

 そんなわけで皆に手伝ってもらった弁当だが、一緒に昼食を食べていたメンバーには好評だった。

 当家の使用人の腕前を褒められるのは、自分の事のように嬉しい。

 皆も気に入ってくれたようだし、また一緒に弁当を食べに誘ってみよう。

 …もしや、ここまで計算して私に多めに弁当を持たせてくれたのか?

 

 ………いや、違うな。

 あいつがそこまで考えていたとは思えない。

 珍しい食材を貰って張り切っちゃっただけだな、うん。

 

「御法君。副委員長就任おめでとう。改めてよろしく頼むよ」

 

 私は、副委員長に選ばれた御法君に、改めて挨拶をした。

 彼の家は代々優秀な裁判官を輩出しており、彼自身も裁判官を志しているそうだ。

 彼が副委員長に立候補したのは、私と同じように委員の仕事を通して経験値を積んでおきたいという動機だそうだ。

 副委員長に立候補した奴のほとんどは不純な動機だったから、純粋な動機で立候補した彼が選ばれたのは、私も嬉しく思う。

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 私が声をかけると、御法君はメガネをしきりに直しながら言った。

 見た目通り、真面目な印象を受ける。

 彼もそうだが、他の皆も緊張しているように見える。

 

「そう緊張するな。私達はクラスメイトなのだから、敬語で話す必要もないし、多少無礼を働いたところで別に何もしない。気兼ねなく接してくれ」

 

 私は、皆の緊張をほぐそうと、笑顔で接した。

 するとだ。

 

「えっ、そうなの?いやぁ〜、六徳家の人を目の前にすると緊張しちゃってさ。あー、やっと普通に話せる」

 

「あ、やっぱ御法もそう思ってた?実はアタシもなんだよね」

 

「ねえ、六徳さんってラインやってる?」

 

「てか髪綺麗ね。普段シャンプー何使っとるん?」

 

「えっ」

 

 御法君が砕けた口調で話し始めたのを皮切りに、他の皆もグイグイと私に話しかけてきた。

 気兼ねなく接してくれとは言ったが…いくらなんでも、気兼ねなさすぎじゃないか?

 あまりの態度の変わりように、驚いて変な声出ちゃったよ。

 

 いや、別にいいんだよ?

 敬語を使わなくていいと言ったのは私だしな。

 ただ、温度差というものがあってだな…

 まあ、私の誘いに応じてくれた時点で、かなり社交的な性格であろう事はわかってはいたが…

 そんな事を考えていた、その時だった。

 

 

 

 ――ウゥーーーーーーー!!!!

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 異常事態を知らせるサイレンが、けたたましく校舎中に響き渡った。

 

「け、警報…!?」

 

「何があったってんだよ…」

 

 突然のサイレンに、教室にいた皆は驚いていた。

 その直後、アナウンスが鳴り響く。

 

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい》

 

「セキュリティ3!?」

 

「何でしょうかそれ…?」

 

「正門から校舎までの間には、確か3つのバリアーが設置されていたはずだ。その3つ目のセキュリティが突破されたという事は、校舎内に誰かが入ってきたという事だろう」

 

「ナイス解説!って、感心してる場合じゃねー!早く避難しねーと!」

 

「落ち着け。今ここにいる全員が一斉に逃げ出したら、混雑に巻き込まれるぞ」

 

「確かに…」

 

「じゃあ、どうすんだよ!?」

 

「…最悪、“個性”で時を縮めて窓から避難する」

 

 私は、教室にいた皆を落ち着かせ、何が起こったのかを確かめる為に窓の外を覗いた。

 外には、今朝のマスゴミ共が押し寄せていて、相澤先生とマイク先生が対応していた。

 ああいう奴等を防いでくれるはずの雄英バリアーは、無惨な姿となっている。

 

 チッ、あいつら…一度追い返したのにまた来たのか。

 しかも今回は器物損壊に不法侵入ときた。

 ここまで来ると、もはやマスゴミを通り越してカスゴミだな。

 大抵の事は二度目までなら許すのが私の主義だが、“法”を犯すようなら話は別だ。

 また迷惑行為を働くなら奴等が所属している報道機関の上層部に直接釘を刺すつもりでいたが、今回ばかりはそれだけでは済まされない。

 きっちり然るべきところへお電話(110番通報)してやるから覚悟しておけよ。

 

「…大丈夫。ただのマスコミだ。避難の必要はない」

 

「良かった…」

 

 私が言うと、他の皆が安堵の表情を浮かべる。

 とりあえず、ウチのクラスの皆は、私の声を聞いて冷静になる事ができたようだ。

 他のクラスの皆も、落ち着いて行動できているといいが…

 

「だが、不法侵入は不法侵入。きっちりと警察に事情を説明して──」

 

 ……いや、待てよ?

 私が釘を刺したらあっさり帰ったような奴等に、雄英のセキュリティを壊すなんて大それた事ができるとは思えない。

 マスコミは囮で、本当の黒幕が他にいるとしたら…?

 あのマスコミ共は、黒幕が()()()()()()までの時間稼ぎの為に、唆されて敷地内に不法侵入した。

 だとしたら、この混乱に乗じて(ヴィラン)が侵入してきたとしか思えない。

 

 考えろ…

 私が(ヴィラン)なら、校舎内のどこに侵入する?

 私が、(ヴィラン)なら……

 

「………!」

 

 ……わかったかもしれない。

 (ヴィラン)の居場所が。

 

 しかしそれがわかったところで、私一人ではどうする事もできない。

 確証はないし、下手にこの事を皆に話せば、混乱を招いてしまう。

 その結果(ヴィラン)の逃走を手助けしてしまうような事になれば、元も子もない。

 だからといって、私が自ら犯人探しをするのは愚策だ。

 そもそも私はヒーローでもなければ警察でもないし、下手に首を突っ込めば人質にされる危険がある。

 だが、この事実を黙っていれば、雄英がさらに危機的状況に晒される可能性も否定できん。

 犯人を早急に捕まえるに越した事はない。

 …とりあえず、この事は校長に報告しておくか。

 

 私はすぐさま、この件を根津校長に報告した。

 騒ぎが収束した後、私は残りわずかとなってしまった昼休み中に弁当を急いで食べる羽目になるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、警察が駆けつけ、マスコミは撤退。

 私は一応教師陣に(ヴィラン)の捜索を依頼したが、それらしき人物は校舎にいなかったそうだ。

 だが一応防犯カメラの映像をチェックしてみたところ、職員室付近に一瞬だけ黒い靄のようなものが映っていたらしく、犯人がワープ系の“個性”を所持している可能性を考慮し捜査を進めてくれているらしい。

 学校を占拠するのが目的なら校長室に、何かしらの情報を抜き取るのが目的なら職員室に侵入するのが手っ取り早い。

 いずれにせよ、犯人が校長室か職員室に侵入しているであろうという私の予測は正しかったというわけだ。

 

 ちなみに大食堂では、マスコミが押し寄せてきたのがちょうど昼時という事もあり、大勢の生徒がパニックになっていたそうだが、1年A組の生徒が事態を解決に導いたそうだ。

 確か、インゲニウムの弟の天哉君だったか。

 彼が非常口のマークになって、生徒全員に大声で呼びかけたらしい。

 ちょうどその時食堂にいたクラスメイトが、当時の様子を教えてくれた。

 最初話を聞いた時は正直「は?」ってなったが、とにかく非常口だったそうだ。

 

「ん…ぁふっ…」

 

 帰宅後いつものトレーニングを終えた私は、山根にマッサージをしてもらっている。

 タオルが敷かれた施術用のベッドの上に紙パンツ一枚の姿でうつ伏せになり、山根の施術に身を任せる。

 暖色の照明がぼんやりと薄暗い室内を照らし、ゆったりと落ち着きのある音楽とアロマの香りが、マスゴミと(ヴィラン)のせいで溜まったストレスを溶かしてくれた。

 

「お嬢様、お力加減はいかがですか?」

 

「ああ…悪くない」

 

 山根が、ちょうどいい力加減で施術をしてくれる。

 昨日は寝不足だった事もあり、私が微睡んでいると、山根が話しかけてくる。

 

「そういえば、今日の昼食がお嬢様のご友人のお口に合ったと聞いて、新井が大変喜んでおりましたよ」

 

「それは良かった」

 

「来週からのお弁当を楽しみにしておいてください、と申しておりました」

 

「そうか…なら、期待しておくよ」

 

 嬉しい知らせを持ってきてくれた山根に、私は顔を横に向けて微笑みかけた。

 新井の喜んでいる顔が目に浮かぶ。

 

 しかし…今日のマスコミは、一体誰が差し向けたのだろうか?

 雄英バリアーを破れるとなると、相当強力な“個性”を持っている奴という事は間違いない。

 しかも、複数人による犯行ときた。

 警察曰く共犯者はワープ系の“個性”持ちの犯行の可能性が高いそうだが、ワープの“個性”を持つ奴がいるなら、何故マスコミをけしかけてバリアーを壊す必要があったのだろう。

 …ひょっとして、一度行った場所にしか使えない…もしくは、ワープ先の座標を正確に知っている事が発動条件なのだろうか?

 一応、その条件の“個性”を持つ人間に絞って、調査しておくか…

 私一人では限界があるから、その手の事に強い親戚にも調査を依頼しよう。

 うまく説明はできないが、今回の事件が、世間を混乱に陥れる大事件のきっかけになってしまったような気がしてならない。

 雄英に侵入した犯人を、一刻も早く見つけ出さねば…

 

「お嬢様」

 

「ひあっ!?」

 

 不意に腰のあたりを強く押され、情けない声が漏れる。

 ………ものすごく恥ずかしい。

 ここには家族同然の山根しかいないとはいえ、聞かせたくない声というものはある。

 自分でも、羞恥で顔が赤くなっているのがわかる。

 

「失礼致しました。お力加減が強すぎましたか?」

 

「いや、そういうわけじゃないが…」

 

「随分とお疲れのようですね。やはり、今日の事件が原因でございますか?」

 

「…ああ。マスコミ共が雄英バリアーを破った時に侵入したであろう(ヴィラン)の存在が、ずっと引っ掛かっていてな。一刻も早く捕らえなければならない…私の直感がそう言っているんだ。まあ、私がいくら考えても仕方のない事ではあるんだがな…」

 

「ご安心くださいませ、お嬢様。当家の使用人は、お嬢様がご自分で選び、私が鍛え上げた仕事人達です。万が一その(ヴィラン)がこの家に侵入しようと、お嬢様に指一本でも触れさせるような事は決してございません」

 

「それは頼もしい限りだが…今回(ヴィラン)が現れたのは雄英だぞ。奴等の狙いが、先生方や私の友達だったとしたら?」

 

 私は、今抱えている懸念を山根に話した。

 すると山根は、今度は凝り固まった背中の筋を圧迫してきた。

 またしても、変な声が漏れる。

 

「あっ…んぅっ…」

 

「お嬢様は大変お優しいお方でございますね。ですが、悩みすぎはお身体に毒ですよ。せめてお身体に溜まった疲れは、私めが癒して差し上げましょう」

 

「お前、絶対わざとやってるだろ…」

 

「はてさて、何の事でございましょう」

 

 私が問い詰めると、山根はのらりくらりと躱した。

 その後私は、1時間ほどかけて全身の凝りを揉み解された。

 

 この時、私は知らなかった。

 私が抱いていた懸念が的中するどころか、私の想像よりもはるかに凄惨な事件が起こる事を。

 

 

 

 

 




委員長決めの日の時点でのじろちゃんは、まだヤオモモをヤオモモ呼びじゃない設定です。
なんかヤオモモって言わないじろちゃんは自分で書いてても違和感ありますが、言うてまだ入学三日目だからこれくらい余所余所しくても無理はないのかなって。
次回、お待ちかねのトレーニング回。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
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