私の世直しアカデミア   作:M.T.

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第一部もこれにて最終話です。
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エオイメン様、とらとらとらとらとら様、評価10を入れていただきありがとうございます!
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第41話 【判決】おじさんが捕まりました【タヒ刑】

「ん……ぁ…」

 

 私は、微睡む頭を叩き起こし、周囲を見渡した。

 私は病衣を着ていて、屋敷の医務室にいた。

 私が目を覚ました、その直後。

 

「刹那ちゃん!!」

 

「お嬢様ぁぁぁっ!!」

 

 療子と小雪が、泣きながら私に抱きついてきた。

 クラスの皆も、私の為にわざわざ見舞いに来てくれていた。

 小雪に至っては、私の胸の谷間に顔を埋め、おいおいと泣いていた。

 六徳家の使用人ともあろう者が、人前で涙するなど…と言いたいところだが、胸の内に留めておいた。

 自分の失態で部下に心配をさせてしまうとは…私もまだまだだな。

 

 そんな事を考えながらふと横を見ると、お見舞いのフルーツやお菓子が山のように積まれ、なんか巨大なクロカンブッシュみたいな感じになっていた。

 気持ちは嬉しいんだが、寝起きにこれを見せられたら心臓に悪いよ…

 というか、食べ物をこんな積み方してたら傷まないか?

 などと考えているうちに、ふとオール・フォー・ワンとの戦いを思い出した。

 私は途中で気絶してしまったから、戦いの結末を知らないんだった。

 

「小雪…作戦はどうなった?成功したのか?」

 

「……はい。オール・フォー・ワンは、無事に逮捕されましたよ」

 

「そうか…」

 

 小雪の泣きながらの報告に、気づけば私は胸を撫で下ろしていた。

 あの後、オール・フォー・ワンは無事に逮捕されたそうだ。

 オールマイトを除くプロヒーロー達が総出で捜索を行った結果、海底から気を失ったオール・フォー・ワンが引っ張り上げられたらしい。

 あの高さから海面に叩きつけられておいてまだ生きていたとは、しつこさはゴキブリ並みだな。

 

 今回の作戦による民間人への被害はゼロだったが、オール・フォー・ワンが転送した脳無が広範囲にわたって出現したため、雄英や士傑の教師陣、エッジショットやグラントリノをはじめとしたプロヒーローが対処にあたっていたらしい。

 街に散った脳無は全てプロヒーロー達が捕獲し、検査の為に、I・アイランドに匹敵する最先端技術が揃った六徳研究所の地下の収容施設へと運び込まれた。

 

 オール・フォー・ワンに返り討ちにされた亜楼とナガンさんは一命を取り留め、ナガンさんは既に退院したそうだ。

 亜楼はまだ意識を取り戻さないが、命に別状はないとの事。

 そしてオール・フォー・ワンからこちら側に寝返って制裁を受けたマキアも、重傷ではあったがかろうじて生きていたそうだ。

 

 死柄木達はというと、死柄木の投降により死柄木・黒霧の両名が逮捕され、(ヴィラン)用の医療施設に搬送された。

 既にその場にいたヒーロー達によって軽くはない傷を負わされていた事、そして黒霧がオール・フォー・ワンに重傷を負わされていた事を考えれば、大人しく投降したのは賢明な判断だったと言えよう。

 拘置所への移送は、彼等が回復してからになるそうだ。

 

 ちなみに1年ヒーロー科の合宿は、生徒達に被害がなかったとはいえ、あんな事があったから生徒達は一旦家に帰宅する運びとなった。

 まあ合宿が3泊4日に短縮される事自体は、元々計画を話す時に説明していた事だし、そこに対する反発はなかったが。

 今回の件もあり、残りの日程は雄英の敷地内で4日間の強化合宿を行う事となった。

 

 私が目を覚ましたのは、オール・フォー・ワンを倒してから20時間後の事だった。

 目が覚めると、指の腹の肉球が縮んでいた。

 医与曰く、オール・フォー・ワンを追い詰める為に多少無茶をしたから、“個性”因子が擦り減っているそうだ。

 今は“無個性”同然の状態だが、別に“個性”が使えなくて困る事はないし、安静にしていれば一ヶ月程度で元に戻るそうなので、全くもって気にしていない。

 強いて言うなら、11年間生活を共にしてきた肉球が縮んだせいで、若干指先が気持ち悪いくらいか。

 

「委員長、“個性”が使えない間、ウチらにできる事があったら何でも言ってね」

 

「ああ、うん…ありがとう」

 

 クラスの皆は、“個性”が使えなくなった私を心配して、色々と世話を焼いてくれた。

 私にとっては指の薄皮が剥けるくらいの些細な事だなんて言えない…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 日が暮れてクラスの皆が帰っていった後、先生方が私の見舞いに来てくれた。

 

「六徳さん。君を前線に立たせてしまった事、守りきれず危険な目に遭わせてしまった事、担任としてどうか謝らせてください。本当に、申し訳ございませんでした」

 

「一般市民への被害を最小限にする為とはいえ、生徒を囮にするという、教育者としてあるまじき判断に踏み切ってしまった。六徳くんには、申し訳ない事をしたのさ」

 

「すまなかった、六徳少女。私は、君を守りきれなかった」

 

 13号先生、根津校長、そしてオールマイトは、先日の作戦で私がオール・フォー・ワンに殺されかけた事を謝罪してきた。

 全て私が指示した事とはいえ、ヒーロー志望でもない一般の学生を戦場に立たせるなど、ヒーローとしてあるまじき判断だと思われても否定はできない。

 それでも私は、私の作戦を信じた先生方の判断が間違っていたとは思わない。

 

「前線に出る事を志願したのは私です。奴に命を狙われるなんて、今に始まった事ではありませんし…それに、私が奴を空中に誘い出していなければ、損害は計り知れませんでした」

 

 一般人の犠牲がゼロで済んだのは、オール・フォー・ワンを本土に帰らせずに決着をつけたからだ。

 一般人の犠牲を出さない為には、誰かが死を覚悟でオール・フォー・ワンを本土から遠ざける必要があった。

 たまたま私が、その役目を引き受けるのに最適だったというだけの事。

 囮役は、奴が死ぬほど殺したいであろう、初代ワン・フォー・オールの子孫である私と劫波でなくてはならなかった。

 

 そもそも、私も劫波も、生まれてからずっと命を狙われ続けて生きてきた。

 向こうから喧嘩を売るか、こちらから喧嘩を売るかの違いでしかない。

 私と劫波が囮を引き受けた事は客観的に見ても正しい判断だったし、先生方が責任を感じる事など何一つない。

 

「まあ…アレです。終わりよければすべてよし、というやつです。私はもう大丈夫なので、先生方は他の皆のフォローをしてあげてください」

 

 私は、肩をすくめながら先生方にそう伝えた。

 先生方が帰った後、私は今回の戦いの後始末に取り掛かった。

 六徳家当主として、やらねばならない事は山のようにある。

 

「山根…今回の作戦で発生した被害は?」

 

「…………」

 

 私が尋ねると、山根が重たい口を開く。

 山根は、今回の作戦で命を落とした者の名前を一人ずつ言っていった。

 

「……全部で9人か」

 

「はい」

 

 山根が口にしたのは全員、私の部下だった。

 皆、オール・フォー・ワンから私を庇って命を落とした。

 

 無駄な犠牲だったのかもしれない。

 彼等が死なずに済む方法はあったのかもしれない。

 自分は自己犠牲を嫌うくせに、人には犠牲を強要するのかと、つくづく自己矛盾に厭気が差す。

 

 それでも、彼等は私の作戦を信じて、自らを捨て石にした。

 彼等は、私の理想の礎となったのだ。

 なればこそ、私には理想を叶える義務がある。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 後日、外出できるまでに回復した私は、リムジンに乗って全国各地を回った。

 今回の作戦で、私を庇った部下達が命を落とした。

 亡くなった部下の遺族へ、遺品を届けているのだ。

 

 私は、亡くなった部下の家族の家を一軒ずつ訪れて、遺品を渡していった。

 事前にアポを取ってから足を運んだため、遺品の受け渡しはスムーズに進んだ。

 そして今、最後の一軒の前に来ている。

 広々としているが、質素なレイアウトの一軒家だ。

 私がインターホンを鳴らすと、50代くらいの女性が出てくる。

 

「はい」

 

「突然のご連絡、失礼いたします。私、浮島遊太さんの仕事関係者の六徳刹那と申します。恐縮ですが、遊太さんのご家族の方でいらっしゃいますか?」

 

「…母です。遊太の事で、お話があるのですよね。どうぞ、上がってください」

 

 そう言って部下の浮島の母親は、私を家に上げてくれた。

 私は、浮島が今回の作戦で命を落とした事を、彼の家族に話した。

 一切の私情を交えず、ただ事実だけを嘘偽りなく伝え、彼の命を奪った事を謝罪した。

 全てを話した後、彼の母親はその場で静かに啜り泣いた。

 

「遊太さんの遺品です。もし自分が死んだら、これを家族に渡してほしいと」

 

 私は、浮島の母親に遺品の入った箱を渡した。

 彼女は箱の中身を確認し、数秒の沈黙の後、私に尋ねた。

 

「息子は…最期に、あなたのお役に立てたのでしょうか」

 

「凶悪(ヴィラン)を捕らえる事ができたのは、遊太さんのおかげです。彼がいなければ、今頃日本中が(ヴィラン)の脅威に晒されていました」

 

 私は、一切表情を変える事なく、浮島の母親に淡々とそう伝えた。

 すると彼女は、静かに涙を流し、肩を震わせながら話し始めた。

 

「…遊太は、心の優しい子でした。昔から、人の役に立ちたいと口癖のように言っていました。あなた程の人にお仕えする事ができたのなら、あの子も最期に救われたんだと思います。六徳様、今まで本当にありがとうございました」

 

 そう言って浮島の母親は、私に向かって深々と頭を下げた。

 憎悪の表情の一つでも見せてくれたら、どんなに気が楽だったか。

 何故、家族の命を奪った相手を心の底から尊ぶ事ができるのだろうか。

 何故こうも気高くいられるのか、私にはわからない。

 

「お嬢様、そろそろ」

 

「…ああ、そうだな」

 

 山根に声をかけられ、私は車に乗り込んだ。

 私には、まだやり残した事がある。

 この優しい人達から家族を奪ったオール・フォー・ワンを、処刑台に送る。

 奴への復讐を遂げて初めて、私は次へと踏み出せる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

オール・フォー・ワンside

 

 気がつけば、僕は拘束具をつけられたまま車椅子に座らされ、看守に運ばれ、タルタロスに連れてこられた。

 オールマイトに敗れ、海底に叩きつけられた後、どうやら僕は奇跡的に生き延びていたようだ。

 あの小娘のせいで“個性”のストックはほとんど失ったが、“個性”封じ対策にドクターが改造手術を施してくれていたおかげで、海底に沈められてもかろうじて生き延びる事ができた。

 

 弔の離反は想定外だったが、まだ打つ手はある。

 警察上層部にも、裁判所にも、僕に有利になるように動いてくれる友達がいる。

 彼等がいる限り、僕が死刑になる事はない。

 時間さえあれば、ここからいくらでも巻き返しはきく。

 せいぜい、束の間の平和を享受しているといいさ。

 などと考えていると、看守が僕に声をかけてくる。

 

「出ろ。面会の時間だ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 部下の遺族と会った翌日、私はタルタロスの面会室に訪れていた。

 銃弾すらも防ぐ強化アクリル板で仕切られた部屋に、オール・フォー・ワンが座っていた。

 

「おはよう」

 

 私は、脚を組みかえながら、オール・フォー・ワンに話しかけた。

 

「オールマイトがお前を倒したと聞いた時は、お前が死んでしまったのではないかと肝を冷やした。お前とまたこうして話せて、嬉しいよ」

 

 私は、偽りのない心からの笑顔をオール・フォー・ワンに向けた。

 オール・フォー・ワンが死んでいなくてよかった。

 嫌味でもなんでもなく、本心だ。

 本当に、あの時海の底に沈んだまま死んでしまっていたらどうしようかとヒヤヒヤしたんだ。

 生きてここにいてくれて、本当に嬉しい。

 おかげで、私は私の目的を果たす事ができる。

 

「君の方から来てくれるとはね。何を話しに来た?」

 

「別に…特に話したい事もないが、お前の死刑が決まった事くらいは、伝えておこうと思ってな」

 

 私は、オール・フォー・ワンに死刑が決まった事を伝えた。

 するとオール・フォー・ワンからは、余裕そうな笑みが消えた。

 

「おや?聴こえなかったか?なら、もう一度言ってやろうか?死刑だ。し・け・い。お前は、これから死ぬんだよ」

 

 私は、オール・フォー・ワンに真顔で現実を突きつけた。

 両親を殺した奴等を逮捕したところで、意味がない事はわかっていた。

 だから確実に復讐を果たす為、11年前から手を打っておいたのだ。

 この11年間、私は、国をより良くする為の政策を提案し、時には自ら積極的に人助けを行い、良識のある警察官や裁判官からの信用を勝ち取ってきた。

 私の両親の仇を処刑台に立たせる為、良識のある私の友人達に、水面下で犯罪者の有利になるように動いている売国奴を排除してもらったのだ。

 11年間にもわたって根回しを続け、そして昨日、オール・フォー・ワンの死刑が確定した。

 

 最高裁判所の裁判長曰く、多くの人の命を奪った動かぬ証拠が出揃っている事、そして奴が生きている限り再犯の可能性がある事から、死刑が妥当だとの判断を下したらしい。

 奴の息がかかった人権団体(笑)の妨害を防ぐ為、処刑の決定は公には知らされず、刑の執行後に報道されるそうだ。

 故にこいつが処刑される事を知っているのは、私を含むごくわずかな人間のみだ。

 その判断も含めて、私の周りに有能な大人が多くて本当に助かる。

 

 オール・フォー・ワンを死刑にしたら、奪われた“個性”は持ち主に帰ってこないが、奪われた“個性”の持ち主はほとんどが既に故人だし、私が魂レベルでボコボコにしたせいで“個性”がろくに機能しなくなっているから、どのみち“個性”が持ち主に戻ってくる事はなかっただろう。

 今はそれよりも、奴に“個性”を奪われる人をこれ以上生まない事を優先すべきだ。

 

 こいつには、反省の余地すら与えない。

 後悔も改心も必要ない。

 絶望の中、ただ処刑台の上で息絶える事。

 私がこいつに望むのは、それだけだ。

 

「……笑えない冗談だね」

 

「現実だ。私は、お前に復讐するつもりで今日まで生きてきた。それで、ようやくお前が嫌がる事が何かわかった」

 

 こいつの嫌がる事を、ずっと考えていた。

 家族を奪われた絶望に屈しないというところを見せつける為に、わざと顔の火傷を残し、その傷を世間に晒した。

 奴が蒔いた種から生えた芽を摘む為に、わざわざ元(ヴィラン)を使用人として雇った。

 考えて、考えて、ようやくひとつの答えに辿り着いた。

 

 それは、私自身が幸せになる事だ。

 こいつは、自分を半殺しにした私の父への嫌がらせの為に、私を苦しめて殺そうとした。

 だったら、私が苦しんで死ぬというこいつの望みをぶち壊せばいい。

 命が尽きるまで幸せに生きる事こそが、私の復讐の行き着く先だと、ようやく気付いたんだ。

 どんなに醜態を晒そうが、生きていくと決めた。

 生きて、生きて、世界一幸せにならなきゃいけないんだ。

 

「お前に復讐するには、私が幸せになれば良かったんだ。私は、お前のいない世界で幸せに生きていく」

 

「…………そっか」

 

 私がオール・フォー・ワンにハッキリとそう伝えると、奴はどこか諦めた様子で、残念そうにポツリと呟いた。

 精神世界での対話を終えた今なら、何故こいつが私にこうも執着していたのか、わかる気がする。

 私を苦しめる事で、弟の子孫である私を繋ぎ留め、あわよくば自分のものにしたかったのだろう。

 だが生憎、私は今後一切、こいつに関わる事はない。

 せいぜい、独りで地獄に行けばいい。

 魔王には、本物の地獄がお似合いだ。

 

「時間です。面会時間の延長は、如何なる理由があろうと認められません」

 

 タルタロスの女性職員に声をかけられ、私は静かに席を立った。

 オール・フォー・ワンの事だから、刑が執行されるまでに脱獄しようと目論むだろう。

 私は、奴が脱獄を計画する事も見越して、()()()死刑の事を奴に伝えた。

 脱獄の手段を全て潰され、確実な死へと向かっていく絶望を味わわせる為だ。

 お前はただやる事もなく、独房の中で絶望していろ。

 裁きが下される、その日まで。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 後日、私は死柄木が収監されている拘置所に面会に行った。

 死柄木は、オール・フォー・ワンに利用されていた事、再犯の可能性が低い事、そして最後にオール・フォー・ワンに一矢報いた功績等を鑑みて、死刑や無期懲役は免れたそうだ。

 

「黒霧はどうなった?」

 

「ウチのドクターが色々調べてくれている。脳無にされる前の人格を取り戻す方法を探しているそうだ」

 

 黒霧はというと、医与が検査した結果、14年前にインターン中に亡くなった雄英生、白雲朧のDNAが体内から見つかったそうだ。

 今は白雲朧と仲が良かった相澤先生とマイク先生の力を借りて、彼の記憶を蘇らせることができないかどうか試行錯誤しているという。

 脳波に変化はあったようだが…記憶を復活させる段階までは、まだまだ程遠そうだ。

 

「それにしても意外だな。今になってあっさり投降するとは、どういう風の吹き回しだ?」

 

 私は、死柄木にそう話しかけた。

 すると死柄木は、掠れた声でボソボソと話し始める。

 

「俺は今でもオールマイトと、この世界が嫌いだ。『いつかヒーロー』が、『ヒーローが助けてくれる』、そうやって見ないフリを続けて、守られる事に慣れたゴミ共、そのゴミ共を生み出し庇護するマッチポンプ共。腐って蛆が湧いたこの世界をぶっ壊したいとは、今でも思ってる。だけど、刹那ちゃんが嫌がる事だけはしたくなかった」

 

「私……?」

 

「思い出したんだ。おじさんとおばさんが、俺を救けてくれた事。刹那ちゃんが、俺の心の支えだった事」

 

 死柄木曰く、自分がまだ志村転弧だった頃、両親が私を連れて何度も家に遊びに来ていたという。

 父親と喧嘩をした時、赤ん坊だった頃の私に愚痴を言っていて、私は嫌がらずにニコニコ笑って話を聞いていたらしい。

 そんなところで死柄木と接点があっただなんて、誰が予想できたよ…

 まあ、私がまだ1歳にもなっていない頃の話だから、覚えていなくて当然なんだがな。

 

「俺は、刹那ちゃんがいたからオール・フォー・ワン(あいつ)に歯向かった。刹那ちゃんが守ろうとしたから、この世界に意味があったんだ」

 

 『私が守ろうとしたからこの世界に意味があった』という言葉を聞いて、死柄木弔という人間の本質がわかった気がする。

 こいつは、世界を壊そうとした事を、後悔も反省もしていない。

 たまたま、踏みとどまるきっかけがあったというだけだ。

 逆に言えば、もし私がオール・フォー・ワンと戦う決断をしていなければ、この世界を壊すつもりだったという事だ。

 きっとこの先も、反省する事はないのだろう。

 それを理解した瞬間、どこか冷静になった自分がいる。

 

「…ありがとう。お前がどういう人間なのか、今の話でわかった。私は、秩序を乱し、平和を脅かしたお前を許さない」

 

 私は、自分の立場をハッキリと死柄木に伝えた。

 どんな理由があろうと、秩序を破り社会を混乱に陥れた事実がある以上、法の裁きを受けるべきだ。

 両親が殺される前の私なら歩み寄っていたのかもしれないが、生憎『転弧君に優しいわたし』は、11年前のあの日に焼かれて死んだ。

 大体、散々人を傷つけて殺しておいて、今更自己完結して投降するなんて、身勝手にも程がある。

 

「だが私は、お前が何をしてきたかより、これから何をするかが大事だと思う。お前にまだこの世界で生きていく気があるのなら、何度でもここで話をしよう」

 

 私がそう伝えると、死柄木が顔を上げて僅かに目を見開く。

 罪は許さないし、法の裁きを受けるべきだという考えはこの先何があっても変わる事はない。

 それでも対話をして、折り合いをつけられるところを探すべきだ。

 同情なんかじゃない。

 あの日の悲劇を繰り返さない為だ。

 話をして何かが変わるのなら、何度だってぶつかってやる。

 全ては、理想の未来の為にあるのだから。

 

「……ああ。ありがとな」

 

 死柄木は、何のつもりか私に礼を言ってきた。

 なんか、思っていたのと違うというか…

 もっと悪態をつかれるものだと思っていたから、こうも素直に受け入れられると、逆に調子が狂うな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 数日後、オール・フォー・ワンの死刑が秘密裏に執行された。

 案の定、奴は脱獄を試みたらしいが、そうくる事がわかっていれば対策は難くない。

 タルタロス内のセンサーをウチの情報班が24時間体制で監視し、外に助けを求められないように、死刑執行までは電磁波を一切通さない電波暗室に収監し、核兵器でも傷一つつかない外壁でタルタロス周辺を覆っておいた。

 間違っても復活させられないように、火葬した死体はバラバラにしてからコンクリートで固めて地下数百メートルの地層に埋めた。

 扱いが完全に放射性廃棄物なんだが、そこはご愛嬌。

 

 処刑が公表されたのは、刑が執行された翌日の事だった。

 予想通り人権団体(笑)が裁判所の前でギャーギャー騒いでいたが、すぐに警察の方々が対応してくれて、低脳な塵芥共の浅ましい努力(笑)も虚しくあっさり鎮火した。

 おまけに、警察沙汰になったところを通行人に見られ、写真を撮られSNSに顔写真を晒され、全国の暇を持て余した紳士淑女の皆様によって半日もせずに身元を特定されたそうな。

 噂によると、オール・フォー・ワンの処刑に対してギャーギャー騒ぎ立てた連中は、『犯罪者を野放しにしようとしたクズ』としてネットのおもちゃにされ、外も出歩けない生活を送っているそうだが、まあ自業自得だな。

 流石にやりすぎな気もしなくないが、今回ばかりは事情が事情だから庇う気にもなれない。

 

 オールマイトの引退とオール・フォー・ワンの処刑に、世間は騒然としていた。

 『平和の象徴』がいなくなった社会をどう生きるか、国民一人一人が問われる時代が来たのだ。

 どいつもこいつも気付くのが遅すぎるんだよ馬鹿どもが、と言ってやりたい気分だったが、照らされなかった人達を掬い上げるのに必死で、恵まれていた側の人間の意識を変える事にまで手が回らなかった私にも責任はある。

 

 死柄木の面会の帰りの車の中で、今まで私がやってきた事は正しかったのだろうかと自問自答していると、中年の男女が小学生の腕を引っ張っているのを見かけた。

 どう見ても誘拐だが、周りにいた通行人は誰も子供を助けようとしなかった。

 『ヒーローが助けてくれる』という甘えが抜けきっていないのだろう。

 

 何もかも人任せな愚民に呆れつつも車から降りたその時、恐竜のような顔をした大柄な女性が野次馬を押し除け、誘拐犯に近づいた。

 女性が誘拐犯二人に何かを言うと、誘拐犯は青ざめた顔をして逃げた。

 誘拐犯を追い払った女性は、子供の手を取り、一緒にどこかへと歩き出した。

 誘拐犯から子供を助けたのは、かつて私が掬い上げた女性だった。

 

 私一人では、ほとんどの人達の意識を変える事はできなかった。

 だが、私が掬い上げた人達が、その思いを他の誰かへと繋いでいく。

 死柄木や黒霧も、大事なものを壊してしまう前に思いとどまる事ができた。

 無駄な事など、何一つなかったんだ。

 

 え?逃げた誘拐犯はどうしたのかって?

 もちろん、山根がその場ですぐに捕縛して警察に突き出したさ、HAHAHA☆

 

 

 

 療子から聞いた話だが、ヒーロー科1年の合宿が今日で終わったらしい。

 仮免試験に向けた更なる強化の為、多めにプロヒーローを招いて、校内で3泊4日の圧縮訓練を行ったそうだ。

 普通科にも優秀な生徒が大勢いるので、成績優秀な希望者に限り合宿に参加させてもらえたらしい。

 普通科の皆が心操君や療子に感化されて体育祭前から鍛え始めたので、夏休みが終盤を迎える頃には、ヒーロー科と他科との垣根はなくなっていた。

 

 オール・フォー・ワンの内通者だった青山君は、校内合宿を最後に雄英を去り、私の知り合いが学長を務める高校に転校する事になった。

 青山君と入れ替わりで、2学期から心操君がA組に編入する事が正式に決まったそうだ。

 その関係で、合宿最終日に、皆で青山君の送別会兼心操君の歓迎会を開いたという。

 オール・フォー・ワンが処刑された事で、『ワン・フォー・オール』の秘密を隠し通す必要がなくなったので、緑谷君が『ワン・フォー・オール』の秘密をクラス全員に話し、その流れで幼馴染みの爆豪君と和解したそうだが……正直あの爆豪君が謝ったというのは、にわかに信じがたいな。

 

 

 

 そんなこんなで、夏休みも残すところ2週間を切った。

 私は、花と線香を持って、父と母の墓参りに来ている。

 墓参りと言っても、墓石があるわけではなく、二人の遺骨を埋めた山に桜の木が生えているわけだが。

 

 両親が生前、墓は作らなくていいと言っていたから、二人がよく登りに行っていた山に遺骨を埋め、墓の代わりに桜の木を植えた。

 本来はお盆の時期に二人の眠っている山にお参りに行くのが毎年の恒例行事なのだが、今年はオール・フォー・ワンとの戦いとその後始末に追われてお盆を過ぎてしまったので、当主としての仕事が落ち着いてから墓参りに来たのだ。

 私は、二人の遺骨が埋まっている桜の木の前に花束と線香を置き、手を合わせた。

 

「父上、母上。ようやく、2人の仇を討てました。私は、2人の自慢の娘になれたでしょうか」

 

 私はまず、二人の仇を討った事を報告した。

 そして学校の事や友達の事、少しずつではあるが社会がいい方向に向かっている事など、思いつく限りの事を話した。

 私は、父と母の果たせなかった夢を果たす為に今日まで生きてきた。

 父と母を殺した犯人を殺したいほど憎んだが、私が法を破って(ヴィラン)になれば、それこそ二人が今まで築いてきたものが全て水の泡となってしまう。

 だから私は、犯人を正規の方法で捕まえ、法の裁きを受けさせる事に決めた。

 そして先日、父と母の命を奪い、理想を邪魔した仇に、ようやく法の裁きを下す事ができた。

 これでようやく、夢を叶える為の一歩を踏み出せる。

 

「………あれ?」

 

 気がつくと、生温かいものが頬を伝って流れ落ちた。

 ……まいったな、二人の前では泣かないと決めていたのに。

 二人の仇を討って、平和を脅かしていた根源が消えて、少しずつ世の中が変わって…

 ずっと望んでいた事が叶ったはずなのに、喜ばなきゃいけないのに、どうして涙が止まらないのだろう。

 

「お嬢様。本当に、良うございましたね」

 

 そう言って山根が、私の肩を支えてくれて、泣いているところを見られないように横に立ってくれた。

 気が済むまで泣いた後は、自分の両頬を打って気持ちを切り替えた。

 

 私の理想を阻む邪魔者が一人消え、六徳家に付き纏う問題が解決した。

 ここからだ。

 表社会からも裏社会からもトップが消えた今こそ、改革が必要だ。

 日本を脅かす脅威は、まだ消えたわけじゃない。

 今の世界には、足を引っ張る連中が多すぎる。

 いつまでもヒーローが守ってくれると思っている低脳共や、無能な量産型ヒーロー、そういう低脳や無能を量産し続ける税金泥棒共。

 お前ら全員やり直しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 私の世直しアカデミア 第一部・完

 

 

 

 

 




弔くん(と黒霧)も無事お嬢様に脳をプロミネンスバーンされました。
ヒロインレース参加者が増えたよ!やったねオリ主ちゃん!
お嬢様を敵に回したら(ヴィラン)連合と死穢八斎會がまとめて報復に来るとか、敵からしたら冗談抜きで悪夢でしかない。

これにて第一部が完結しましたが、箸休めに番外編を2、3話挟んでから第二部に移行します。
第二部からは、第一部の反省点をしっかり活かせたらなぁと。
あと情報整理のために設定集をアップし直すかもです。
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