私の世直しアカデミア   作:M.T.

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【番外編1】夏休み編
番外編第1話 祝・梅干し粉砕!夏の島で旅行だぜ!の会


癒治side

 

 青い空、白い雲。

 そして…

 

「「「海だーーーーー!!」」」

 

 広い海、砂浜!

 

「わぁぁぁ…!」

 

 非現実的な光景に、思わず目を見開いて声が漏れる。

 私は、クラスの皆と一緒に海に遊びに来ていた。

 そもそも何で海に来ているかというと…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 7月、刹那ちゃんの家でテストの復習をしていた私達C組女子は、刹那ちゃんから旅行のお話を聞かされた。

 

「え?皆で旅行ですか?」

 

「ああ。ウチが所有している島に別荘があるんだが、皆来ないか?」

 

「行くーーーーー!!!」

 

「おいバカ矢田、声でかい」

 

「ヴェ!!」

 

 矢田さんがはしゃぐと、斥口さんが矢田さんをチョークスリーパーで黙らせた。

 この二人いっつも仲良いな…

 

 刹那ちゃん曰く、六徳家の所有している島が国内にいくつかあるらしくて、その中には六徳家の別荘もあるそうだ。

 島に別荘があるっていうか、島が別荘だよね、それ…

 

「え、逆にいいの?」

 

「私が一度でも来るなと言った事があるか?」

 

 複原さんが尋ねると、刹那ちゃんは当然の事のように答えた。

 すると完膳さんが、パアッと笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「ねえねえ、だったら先生も誘わない?いつもお世話になってるしさ、さ!」

 

「ウム、そうだな。予定が合うかどうか確認してみるよ」

 

 完膳さんが提案すると、刹那ちゃんは早速携帯で予定を確認した。

 結局、いつもお世話になっている担任の13号先生も旅行に誘う事にしたみたいだ。

 先生からは快くOKを貰えたらしいけど、なんか職員室で旅行の話が広まっていたらしくて、ミッドナイト先生とマイク先生も行きたがっていたみたい。

 あの2人、こういうお祭りっぽいイベント好きそうだからなぁ…

 

 でも刹那ちゃん的にはどうなんだろう、と思っていたら…流石は刹那ちゃん、あっさりOKした。

 あとはC組以外にも仲の良い友達を誘って、皆で刹那ちゃんの別荘に遊びに行く事になった。

 本当はヒーロー科の皆も誘いたかったけど、今年は夏休み最終日に仮免試験があって、旅行の日がちょうど仮免試験の準備期間と被っちゃうから、試験の邪魔をしないようにあえて誘わなかったみたい。

 来年は皆でどっか一緒に行けたらいいんだけどな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして旅行当日。

 私は、C組の皆や先生方、あとは仲の良い他のクラスの友達と一緒に、最寄駅で待ち合わせをした。

 オールマイトの引退があったから旅行自体が中止になっちゃうんじゃないかと思ったけど、皆で旅行に行けてよかった。

 最寄りの港からフェリーで移動する事1時間、私達は目的地に到着した。

 白い砂浜と青い海、そして青々とした山が見えた。

 

『ヒュー、スゲェ!!これ全部六徳の所有地かよ!?』

 

「ええ、まあ…とは言っても、ほとんど父の遺産ですが」

 

 マイク先生が驚いていると、刹那ちゃんは謙遜した様子で答えた。

 刹那ちゃんは、サングラスをかけ、紺のグラデーションがかかった黒髪をポニーテールにして、ノースリーブの白いワンピースを着ている。

 所作一つ一つが気品に満ち溢れていて、つい見惚れてしまう。

 

 島に着いた私達は、早速刹那ちゃんの別荘に案内してもらった。

 別荘は、洋風の木造建築だった。

 本邸程じゃないけど、お城かと思う程の豪邸だ。

 なんでも、海外のデザイナーに設計してもらったとか。

 

「家を出てすぐのところにビーチがあるし、反対側にはハイキングコースがある。ここに置いてあるものは全部タダ。“個性”の使用も自由。この3日間、思いっきり満喫するといい」

 

「「「「YEAHHHHHHH!!!」」」」

 

 刹那ちゃんがサムズアップしながら言うと、皆は声を上げてはしゃいだ。

 マイク先生も、一緒になってはしゃいでいる。

 そんな中、珍しく私服姿の13号先生が、皆に注意をした。

 

「皆さん、行きの船の中でも言いましたが、くれぐれも六徳家の方々にご迷惑のないように。外に行く時は、必ず携帯を持っていく事。あと、準備運動を忘れずに!怪我には気をつけてください。以上!」

 

「「「はーい!」」」

 

 13号先生の声掛けに、皆元気よく返事をした。

 私達は、刹那ちゃんの家に荷物を置いて、水着に着替えて早速ビーチに飛び出した。

 刹那ちゃんが選んでくれたピンクのフリルのビキニを着て、髪を高い位置でお団子にしてみた。

 女子皆でビーチに行くと、既にビーチには男子達がいた。

 

「あれ?男子もう集まってんじゃん」

 

「うおおおおおおっ、キター!!」

 

 私達がビーチに出てくると、男子が一斉に歓声を上げた。

 そんな中、私の話をしている男子の声が聴こえた。

 

「癒治さんって意外と胸あるよな…」

 

「意外と顔可愛いし、スタイル良いよな」

 

 私の話をされているのを聞いて、顔が熱くなるのを感じた。

 小学校、中学校と、自傷癖のせいで気味悪がられて友達が一人もできなくて、こうやって男子に異性として見られるのは何だかんだで新鮮だから、恥ずかしいけどちょっと嬉しい。

 『意外と』が余計だけど…

 なんて事を考えていると、先生方がビーチに現れた。

 

「あら?皆もう集まってるのかしら?」

 

 際どいハイレグの水着を着たミッドナイト先生が、サングラスを外しながら私達に視線を送る。

 その色っぽい仕草に、男子達は目をハートにして歓声を上げた。

 

「うおおお、いつにも増して際どいぜミッドナイト!」

 

「流石俺らのミッナイ先生!」

 

 水着姿のミッドナイト先生の登場に、男子達はすっかり有頂天になっていた。

 すっかり旅行を楽しんでいる男子を見て苦笑いを浮かべていると、心操君が話しかけてくる。

 

「癒治さん。六徳さんは?まだ出てきてない?」

 

「はい…」

 

 刹那ちゃんは、何か用事があるのか、まだ出てきていない。

 一緒に着替えてたはずなんだけどな…

 そう考えた、その時だった。

 

「お待たせ」

 

 刹那ちゃんが、ビーチにやって来た。

 刹那ちゃんの声に反応した男子達が、刹那ちゃんの方を振り向く…けど、刹那ちゃんはラッシュガードを着ていた。

 刹那ちゃんは縮こまっていて、しきりにラッシュガードの裾を引っ張っていた。

 もしかして寒いのかな…?

 

「刹那ちゃん、もしかして寒いですか?あ、それか日焼けが気になるとか…?」

 

「いや…そうではなくてだな…見せるものでもないだろう?こんなケロイドだらけの身体」

 

「そんな事ないです!刹那ちゃんはカァイイです!」

 

「何を根拠に…」

 

 私が熱弁すると、刹那ちゃんは呆れたような表情を浮かべた。

 お世辞とかじゃなくて、刹那ちゃんは本当にカァイイのに…

 なんて思っているとだ。

 

「つべこべ言わずに脱げーーーい!!」

 

「キャッ!な、何するんだ矢田君!?」

 

 矢田さんが、刹那ちゃんのラッシュガードを引っ張って脱がせて、刹那ちゃんの水着姿を皆の前で晒した。

 刹那ちゃんは、紺色のブラジリアンビキニを着ていた。

 暗い色のビキニを着ているから白い肌が映えて、刹那ちゃんの健康的な美ボディが引き立っている。

 ハイレグのTバックの水着を穿いているから、丸くて大きなお尻やスラリと伸びた脚が綺麗に見える。

 刹那ちゃんはケロイドがどうとか言ってたけど、男子達は刹那ちゃんの美貌に完全に目を奪われていた。

 

「女神…!」

 

「俺、このクラスでよかった…!」

 

「俺一生六徳さんに足向けて寝れねえ」

 

 男子は、刹那ちゃんを神様みたいに拝んだり、感動のあまり涙を流したり、あまりの刺激の強さに倒れたり…中には、無言で顔を赤くして前屈みになったり、どこがとは言わないけどテントを張っている人もいた。

 わかりやすいなぁ…

 かくいう私も含めて、女子も刹那ちゃんの美貌に見惚れていた。

 

 どうしよう、刹那ちゃんがえっちすぎて色々と許容量オーバーしそう。

 しかもこれ、私が選んだ水着じゃん。

 え、女神…?

 目が幸せすぎる。

 血を3Lくらいあげたい。

 可愛くてありがとう。

 

「せっかくだから、療子が選んでくれた水着を着てみたんだが……療子?何してるんだ?」

 

「ただの崇拝です」

 

「…?そうか」

 

 私が刹那ちゃんを崇拝すると、刹那ちゃんは怪訝そうな表情を浮かべた。

 刹那ちゃんは、私と心操君を交互に見てから口を開く。

 

「2人ともよく似合ってるよ」

 

「六徳さんもね。すごく綺麗だと思う」

 

「……ありがとう」

 

 刹那ちゃんの褒め言葉に心操君が褒め言葉で返すと、刹那ちゃんは数秒間を置いてから返事をした。

 これは…どっちだろう?

 なんて考えていると、刹那ちゃんがフッと笑った。

 

「心操君、療子。この前はありがとう。作戦、引き受けてくれて」

 

 刹那ちゃんは、私と心操君がヒーロー科の合宿に参加して青山君のサポートをした事に対してお礼を言ってくれた。

 でも私は、お礼を言われるような事なんて何もしていない。

 敵を欺いたのは青山君と心操君だし、敵を倒したのは刹那ちゃんとオールマイトだから。

 

「いや、別に俺は…」

 

「私は、刹那ちゃんに言われたから参加しただけで…感謝されるような事は、何もしてないです」

 

「そう言うな。この3日間は私からの礼だと思って、思う存分楽しんでくれ」

 

 そう言って刹那ちゃんは、女神のような笑顔を浮かべた。

 刹那ちゃんの眩しい笑顔を見て、私は迷わず刹那ちゃんの手を取った。

 

「じゃあ一緒に遊びましょ!ね!」

 

 私が笑顔で言うと、驚いたような表情を浮かべていた刹那ちゃんも、フッと笑って走り出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 その後私達は、海で目一杯遊んだ。

 ダイビングをしたり、ビーチバレーをしたり、トーイングチューブに乗ったり、一緒に昼食を食べたり…

 昼食を終えた後は、引き続き海水浴を楽しむグループと、反対側の山へハイキングに出かけるグループに分かれて、各々自由行動に出た。

 

 ハイキングを楽しんだ後は、主に完膳君が主導でクラスの皆が夕食作りをする事になった。

 いつも私に散財させてばかりでたまには礼がしたいという事で、皆で食材を持ち寄って夕食を作ってくれるそうだ。

 海の幸や山の幸が豊富な島なので、いろんな種類の新鮮な食材が揃った。

 

 山登りチームはキクラゲやタマゴタケ、ミョウガやシソやミズといった山の幸を、川遊びチームはイワナやアユやテナガエビ、釣りチームは小アジやサバ、マゴチやキジハタなどの海の幸をとってきた。

 皆が獲ってきた食材を使った献立を完膳君が考えていると、海遊びをしていた男子達が戻ってきた。

 

「おお、結構獲れてんな。まだ何も獲れてないと思ってたよ」

 

「随分と自信満々だけど、そっちは何か収穫あったの?」

 

「どうだ見ろ!」

 

 そう言って男子達が、自信満々に収穫物を見せてきた。

 網の中には、アワビにナマコ、イセエビ、サザエ、ウニ、カニ、タコ、ワカメなどの海の幸が大量に入っていた。

 短時間でよくこんなにたくさん……もしかして”個性”を使ったのか?

 

「うわあ、美味しそう!」

 

「こんなに大きいサザエ初めて見た…」

 

「今日は海鮮パーティーだ!」

 

 大量の海の幸を見て女子達が喜ぶと、海遊びチームの男子達は得意げな表情を浮かべた。

 うーん…恥をかかせるのは気が引けるが、説明しなかった私の責任でもあるし、皆を犯罪者にはしたくないので、きちんと説明しておかないとな。

 

「すまない、きちんと説明しなかった私が悪かった……それ、密漁だぞ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 私が説明すると、男子達が驚く。

 ……やっぱり知らなかったか。

 

「委員長の私有地なのに獲っちゃダメなの!?」

 

「そういう法律だからな。元あった場所に返してこい」

 

 私がそう言うと、海遊びチームは泣く泣く収穫物を海に返しにいった。

 せっかく獲ってきてくれた皆は気の毒だが…やらかしたのが私の私有地でまだ良かった。

 他所でやらかしていたら、『知らなかった』じゃ済まされんからな。

 完膳君達が料理を始めてから10分が経過した頃、何者かが家のドアを勢いよく開けて中に入ってきた。

 

「見て!でっけーシジミとれた!」

 

 見ると矢田君が、大きな黒い貝を大量に獲って帰ってきた。

 矢田君が持っていた網には、殻長20cmを超える黒い貝が50個ほど入っていた。

 

「叶恋チャンどしたんこれ」

 

「川の下流にわんさか棲みついてたワ。今日はシジミパーリーだー!」

 

「それ確かナイトスクープで林先生が調理してたよね」

 

「てかくっさ!その貝、ドブの臭いがすんだけど!」

 

「おい矢田、これ臭くて食えねーぞ!」

 

「食えるかどうかは食ってみなきゃ分かんねーだろうがぁぁぁ!!」

 

「おい誰かこのバカ止めろ!!」

 

 矢田君が黒い貝を掻っ捌いたせいで洗い場に悪臭が漂い、皆が矢田君を責めた。

 私はゆっくりしていていいと言われていたが、矢田君が持ってきた貝の臭いのせいでキッチンが地獄絵図と化していたため(というか普通に私の家を臭くされるのが嫌なので)、流石に耐えられなくなって口出しをした。

 

「ドブガイだな。一応食えるが美味くはない。川に返してこい」

 

「ちぇー」

 

 私が説明すると、矢田君は獲ってきたドブガイを渋々川にリリースしに行った。

 それから一時間ほどして、完膳君主導で作った夕食が完成した。

 普段から新井が作ってくれるディナーを食べ慣れている私でも、素直に美味いと感じる出来だった。

 たまにはこういうのも悪くないな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

心操side

 

「ふぅっ……」

 

 皆が寝静まった後、俺は山の中でトレーニングをしていた。

 基礎トレをした後は、相澤先生のお下がりの捕縛武器を自在に操る練習をした。

 この夏休みが終われば、俺は晴れてヒーロー科に移籍する事になる。

 自主退学した青山の代わりってのは心境としては複雑だけど、それでもせっかく手に入れたヒーロー科のイスを蹴るつもりはない。

 俺は今、ヒーロー科の誰よりも遅れてる。

 このままだと、立派なヒーローになるなんて夢のまた夢だ。

 2学期が始まる前に、少しでも差を埋めておかねえと…

 

 ……ん?

 何だこれ。

 香ばしくて甘さと塩気が混ざった、何だか懐かしい香りが…

 

「できたてのポップコーンはいかが?」

 

「うわっ」

 

 俺の背後には、ハローキティ…もとい六徳さんがいて、俺の鼻の近くに指先の肉球を翳していた。

 びっくりした…

 確かに肉球からポップコーンの匂いするけど…

 

「六徳さん…いつからいたの?というか、何でここに…」

 

「すまん、出掛けるのが見えたからつけてきた」

 

 つけてきたって…全然気が付かなかった…

 険しい山道を登ってきたはずなのに全然息も上がってないし、この人、やっぱり特殊部隊か何かの間違いなんじゃねえの…?

 

「根の詰めすぎは身体に毒だぞ」

 

 そう言って六徳さんは、俺にスポーツドリンクの入った水筒を手渡してきた。

 

「ああ、ありがとう」

 

 俺は六徳さんから水筒を受け取って、ドリンクをがぶ飲みした。

 よく冷えたドリンクが、熱った身体に染み渡る。

 俺がドリンクを飲んでひと息ついたその時、六徳さんが準備運動をしながら俺に話しかけた。

 

「せっかくだし、組手に付き合ってやろうか?」

 

「え?」

 

「どのみち、目が冴えて眠れないのでな。暇潰しにちょうどいいと思わんか」

 

 そう言って六徳さんは、構えを取った。

 彼女の隙のない構えを見て、俺も油断なく構える。

 その直後、六徳さんが一瞬で距離を詰めてきて、蹴りを放ってくる。

 俺は彼女の攻撃をギリギリで回避し、捕縛武器に手をかけた。

 俺の捕縛武器を使った攻撃を、六徳さんはまるで全ての方向が見えているかのように、的確に捌いていく。

 俺は、一瞬の隙をついて六徳さんの身体を捕縛武器で拘束し、地面に押し倒した。

 だが六徳さんは、捕縛武器で身体を縛られた状態で、俺の股間を膝で蹴り上げた。

 あまりの痛みと衝撃に、俺はその場で蹲った。

 

「い゛っっっっっっっ…!!」

 

「油断しているからだ」

 

 俺が痛がっている間にも、六徳さんは自力で拘束を解いて立ち上がり、服についた土を払っていた。

 クソッ…結局俺は、一回も六徳さんに勝てなかった。

 

「君と特訓をするのも、これで最後だな」

 

「寂しくなるね、お互い」

 

「…別に、寂しくはないよ。君の望みが叶うんだ。喜ばしい事じゃないか」

 

 六徳さんは、いつもと同じ様子で平然とそう言ってのけた。

 寂しくはない…か。

 六徳さんらしいな。

 

「そろそろ戻らないか?明日の為にも、少しは寝ておかないと」

 

「そうだな」

 

 六徳さんは、俺に声をかけてから先に下山した。

 俺の目の前で、黒のポニーテールが揺れる。

 

 初めて会った時、俺は六徳さんの事が苦手だった。

 金も、地位も、名声も、才能も、お誂え向きの“個性”も、全部持っている彼女がわざわざ普通科に来るなんて、馬鹿にしてるのかと思った。

 恵まれた人間に俺の気持ちなんてわかるはずがない、そう思っていた。

 

 だけど六徳さんは、俺を捕まえて真っ先に声をかけてくれて、俺がずっと誰かに言ってほしかった言葉を言ってくれた。

 彼女はいつでも正しかった。

 彼女が口にしたのは、今までの奴等が言ってきたようなお世辞や皮肉なんかじゃなく、嘘偽りのない事実だった。

 

 それだけじゃない。

 4歳で親を失って、不本意に名家の先頭に立たされて、それでも必死に努力して、自分を当主に相応しい器に磨き上げた。

 彼女が完璧なのは、最初から全てを持っていたからじゃない。

 誰も見ていないところで、誰よりも泥臭く努力をしてきたからだ。

 それを知った俺は、彼女を妬むのも馬鹿馬鹿しくなった。

 今では、前を向いて走り続けている彼女が、誰よりも眩しく見える。

 

 髪を揺らしながら降りていく六徳さんの後ろ姿を見て、一瞬、魔が差した。

 この“個性”で彼女を手に入れたいとか、そんな烏滸がましい事は考えていない。

 ただ、知りたい。

 何を考えて生きてきたのか、今何を思っているのか。

 

「六徳さん!」

 

「うん?」

 

 俺が六徳さんに声をかけると、彼女が返事をした。

 その瞬間、俺は“個性”を発動した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 次の日。

 俺は、部屋から出てきた六徳さんに声をかけた。

 

「おはよう」

 

「…ああ、おはよう」

 

 俺が声をかけると、六徳さんはワンテンポ遅れて返事をした。

 一瞬気まずい空気が流れた後、六徳さんはスタスタと歩いていった。

 その直後。

 

「人使っち〜!」

 

「うわ」

 

 いきなり、後ろから芸民具が肩を叩きながら声をかけてきた。

 芸民具は、俺の肩に腕を回してコソッと耳打ちしてきた。

 

「それにしてもさ!全校生徒の憧れの刹那チャンを落とすなんて、人使っちやるぅ!」

 

「何の話だ」

 

「とっぼけちゃって、オレちゃんは夜中に君ら2人が帰ってくるのを見たんだからな?普段あんなに仲良くしといて、何もナシって事はねえだろ?」

 

 芸民具は、俺と六徳さんが付き合っているものだと思って尋問してきた。

 これ、誰かに聞かれてたら香山先生あたりが飛んできそうだな…

 誤解されたまま噂が広がるのも避けたいし、否定するところはきちんと否定しておくか。

 

「何もなかった」

 

「えっ?」

 

「何もなかったよ、本当に。ただトレーニングに付き合ってもらっただけだ」

 

 俺は、変な噂が広まる前に、きちんと芸民具の誤解を解いた。

 昨日六徳さんと組手をして、二人で話をしたけど、結局その後は何もなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 昨日の夜、俺は六徳さんに洗脳をかけて、彼女の足を半歩後ろに退かせた。

 前に傾いていた重心を後ろにずらしたところで洗脳を解くと、六徳さんは瞬きをしながら後ろを振り向いた。

 

「………えっ?」

 

「あ、いや…今、転びそうだったから、咄嗟に…ごめん」

 

「…ああ、ありがとう」

 

 俺が謝ると、六徳さんはきょとんとした表情を浮かべた。

 “個性”を使って、六徳さんの本心が知りたい。

 一瞬そう考えたりもしたけど、結局やめた。

 そんな事よりも今は、自分の心配をしないと。

 これでいざヒーロー科に入って無様を晒せば、それこそ俺をヒーロー科に編入させてくれた先生や六徳さんの顔に泥を塗る事になる。

 

「心操君」

 

 不意に、六徳さんが振り向きながら声をかけてきた。

 六徳さんは、俺の方を振り向いてフッと笑った。

 

「頑張ろう、お互いに」

 

「……うん」

 

 優しく微笑む六徳さんに対して、俺も微笑みながら頷いた。

 この気持ちは、しまっておく事にした。

 今はまだ、気持ちを伝える時じゃない。

 ヒーロー科の皆を追い越して、立派なヒーローになったら、その時に伝えよう。

 

「編入後も訓練場は常に開けておくから、また投げられたくなったらいつでも声をかけてくれ」

 

「勘弁してください…」

 

 六徳さんがフッと笑いながら言うものだから、思わず苦笑した。

 本人は軽く投げてるつもりだろうけど、あれ結構痛いんだよな…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

「ふぅー……」

 

 心操君と一緒に下山して家に帰った後、私は自室のシャワーで汗を流した。

 心操君は、入学当初とは見違えるほどに強くなった。

 

 私が心操君に興味を持ったのは、彼の未来を見据えた目に惹かれたからだ。

 心操君はあの場でただ一人、本気でヒーロー科への編入を狙っていた。

 ヒーローには興味ないが、彼自身には個人的に興味が湧いたので、ヒーロー科への編入を手助けした。

 彼と接しているうちに、単なる興味から始まったはずが、気がつけば彼と一緒に過ごす時間が心地良いと感じるようになった。

 何だかんだで話が合うし、比較的自然体で話せる彼は、普段から営業スマイルでマニュアル通りの会話をしている私にとってはオアシスのような存在だった。

 

 心操君の方も、多分私を憎からず思っている。

 ずっと同じ教室にいたのだから、向けられる好意にはいやでも気づく。

 だが私は、敢えて気づかないフリを貫き通した。

 彼には、ただ前だけを見て突き進んでほしい。

 私は、入学式の時に見た、野心の宿った彼の目に興味を引かれたんだ。

 ()()()()に気を取られて足を止めるなんて、そんなの許さない。

 私が彼の気持ちを受け止める気になるとすれば、それはお互いに夢を叶えた後だ。

 

「…………」

 

 気持ちの整理をつけてからシャワーのハンドルを捻ってお湯を止めると、ふと一緒に海で泳いだ時の事を思い出した。

 そのまま鏡を見ると、私の頬はほんのりと赤く染まっていた。

 心操君は、療子が選んでくれた水着を着た私を見て、綺麗だと言ってくれた。

 I・アイランドでのレセプションパーティーの時もそうだった。

 彼は、亜楼が見繕ってくれたドレスを着た私を、恥ずかしがりながらも褒めてくれた。

 

 今まで私に近寄ってくる男といえば、六徳家というブランド目当てか、“個性”目当てか、身体目当ての下品な連中がほとんどだった。

 それも六徳家の人間の定めだと割り切り、純粋に誰かと想いを寄せ合う事は、割と早い段階で諦めた。

 なのに今になってあんな風に純粋に好意を向けられては、こっちが気恥ずかしくなってしまう。

 思えばあの時から、彼の事を好きになりかけていたのかもしれないな。

 

 だが今は、それを伝える時じゃない。

 お互い夢を叶えたら、その時にじっくり自分の気持ちと向き合ってみよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 翌日、海や山で遊んだり、スイカ割りで割ったスイカを皆で食べたりして夏の島を謳歌し…昼食が終わってから、夕食の仕込みを始めた。

 この日の夕食は、心操君の送別会を兼ねた、バーベキュー…もとい、串焼きパーティー*1だ。

 調理は私達女子、セッティングは男衆といった感じでざっくり役割分担をして各々作業を進めている。

 今は完膳君主導のもと、下拵えをした食材に串を打っているところだ。

 私がカットした肉や野菜に鉄串を打っていると、細谷君が横から話しかけてくる。

 

「委員長手際いいねぇ」

 

「料理の基礎はウチの使用人に習ったからな」

 

 細谷君に対してそう答えながら、串を打っていく。

 ウチの部下に習った事を褒められるのは、その部下が褒められたようで嬉しい。

 なんて考えた、その時だ。

 

『ヘイ女子リスナー!そっちは順調かー!?』

 

 マイク先生の声に反応して窓の外を見てみると、裏庭は既にパーティー仕様になっていた。

 私達女子が調理をしている間に、男衆がセッティングをしてくれていたおかげだ。

 私達ができた串を裏庭に運ぶ途中、大型のクーラーボックスを運んでいた心操君が話しかけてくる。

 

「六徳さん、これどこに運んだらいい?」

 

「ああ、蛇口の近くに置いておいてくれ」

 

「わかった」

 

 私が指示を出すと、心操君はクーラーボックスを運んでいった。

 何気ないやりとりだが、この気が合う者同士のテンポ感が私は好きだ。

 なんて考えていると、ミッドナイト先生が私達のやりとりに過剰反応し、囃し立ててくる。

 

「あらあなた達もうそういう関係!?いいじゃない、今のうちに青春を謳歌しときなさい!」

 

「ちょっと先輩…」

 

「「違います」」

 

 普段通りに話す私達を見て興奮気味に囃し立てるミッドナイト先生の発言を、二人で同時に否定した。

 …うん、今の私には、この距離感が一番心地良い。

 

「おぉー、美味そうだ!」

 

 私達が運んだ食材を並べると、男子達が目を輝かせながら覗き込んでくる。

 肉類はリブロース、サーロイン、牛フィレ、豚肩ロース、豚バラ、鶏串、ラムチョップ、ソーセージ。

 魚介はイカ、エビ、ホタテ、サザエ、イワナ。

 野菜はトウモロコシ、パプリカ、ピーマン、タマネギ、ミニトマト、ナス、ズッキーニ、カボチャ、シイタケ、エリンギの10種だ。

 冬場だったら、ジビエも食べられたんだが…

 それはまたの機会にしておこう。

 その時は、できたら皆で山登りに行きたいな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 午後5時40分、パーティーの準備が終わった。

 バーベキューコンロを囲んで、全員が自分のグラスを持ったのを確認してから、委員長の私が乾杯の音頭をとる。

 

「それでは、夏休みの思い出作り兼、心操君の編入祝いという事で…」

 

「「「「CHEERS!!!」」」」

 

 私の音頭に合わせて、私達生徒はクーラーボックスで冷やしたジュースやお茶で、ミッドナイト先生、マイク先生、13号先生の三人はヴァイエンステファンのビールで乾杯した。

 ノンアルコールなのはご愛嬌。

 一応引率だから…な?

 

「矢田ァ!!てめー人が育ててた肉勝手に食ってんじゃねー!!」

 

「それまだ火通ってないよー」

 

「これでシメの焼きそばとかあったら最高なんだけどな」

 

「いやそこは焼きおにぎりだろ」

 

 パーティーが始まってすぐ、皆はわいわいとはしゃぎ始めた。

 入学当初は挫折を味わって暗い表情をしていたクラスメイトも、燻っていた過去をすっかり忘れて、今を楽しんでいた。

 あの頃の淀んだ空気は、どこにもなかった。

 たらればを長々と語るのは非合理だが、仮に違う未来があったとするなら…もしここにいる皆が這い上がる事を諦めていたら、もし私達がオール・フォー・ワンに敗けていたら、この光景は決して見られなかった。

 騒がしい食事など、本当にたまにでいいと思っていたが……これは、悪くないな。

 

「刹那ちゃん!お肉持ってきましたよ!」

 

「ああ、ありがとう…」

 

 私が考え事をしていると、療子が肉を山盛りにした皿を両手に持ってホクホク顔で戻ってくる。

 片方の皿だけでも、どう見ても1kg以上ある。

 よくそんなに肉を、しかも脂身ばかり食えるな…

 そんなに脂を食ったら、私なら次の日確実に腹を壊すんだが。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 腹が膨れ、片付けを終えた後は、海岸沿いで花火大会を開いた。

 皆で持ち寄った花火を全て使い切り、最後は線香花火で締め括った。

 パチパチと弾ける線香花火の火を見ながら、療子がポツリと呟く。

 

「明日には帰らなきゃいけないのかぁ…」

 

「ヤダヤダ!!もっと遊んでたい!!」

 

 療子が寂しそうに言うと、矢田君が首を横に振りながらワガママを言った。

 そんな会話を聞きながら、黄金色に光り輝く松葉に目を向ける。

 

「花火は、すぐに消えるからこそ美しいのだと思う。楽しい時間というのは…いつか必ず終わるものだ」

 

 私が言うと、隣にいた療子がクスッと笑いながら頷いた。

 話しているうちに、花火の勢いが静かになっていき、やがてポトリ、ポトリと玉が落ちていく。

 そして最後の一人の花火が落ち、夏休みの小旅行の最後の思い出が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

*1
バーベキューとは本来ブロック肉を低温で半日以上かけて焼き、調理を終えてから食べるスタイルの事。日本のバーベキューは、厳密には焼肉。




A組とB組を番外編に登場させようかどうしようか迷ったのですが、流石に人数が多すぎて過密になってしまうのと、時期的に仮免の1〜2週間前なので遊んどる場合ちゃうやろっちゅーわけで没にしました。
ちなみに本作では青山くんが責任取って夏休み中に自主退学したのと、梅干しが粉砕☆玉砕☆大喝采されているので、雄英は全寮制ではありません。
一応今回の事件を受けてハイツ・アライアンス自体は建設されましたが、入寮はあくまで任意です。
その辺を次の話で書くつもり。

心操くんは、原作より9ヶ月ほど早く青山くんと入れ替わりで2学期にA組に入ります。
オリ主が普通科なのに青山不在化とかいう謎現象。
そういうのは普通、オリ主がA組に来る時にやるんだよ。おい聞いてんのか作者。
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