シリアス回の前のほのぼの回です。
後半、オリ主が原作キャラとわちゃわちゃします。
プロフィール公開を挟んでから、第二部に移行します。
時は遡り、4月下旬。
私は根津校長にある提案をしに、会議室を訪れていた。
「ヒーロー科の入寮?」
「はい。先日のUSJ事件を受けて、今後
USJの直後、私は根津校長にヒーロー科の入寮を提案した。
前からずっと感じていて、入学してみて改めて確信した事だが、ヒーロー科には今すぐにでも寮を導入すべきだ。
理由は主に三つ。
一つ目は、生徒の安全の確保。
二つ目は、訓練時間の捻出。
三つ目は、問題児の監視。
特にA組には
資格を取る前に世間様に迷惑をかけたら洒落にならん。
「しかし……」
私が提案すると、オールマイトが難色を示す。
寮制度には、資金面とか、人間関係とか、保護者とのコミュニケーションなどといった問題が付き纏うわけだが…
無駄な出費を全てなくせば必要な費用は余裕で捻出できるし、人間関係の拗れくらいで辞めるのならそれまでの奴だったという事だ。
オールマイトが気にしているのは、おそらく三つ目…保護者の事だ。
USJに
だからといって、『じゃあやめます』というわけにもいかん。
「先生方の懸念ももっともです。USJ襲撃事件を受けて、雄英の防犯意識に疑念を抱いている親御さんもいる事でしょう。だからこそ、今のうちにきちんと説明をした上で、ご理解をいただく必要があると考えているのですが?」
私は、毅然とした態度で自分の意見を伝えた。
保護者が寮制度に納得してくれるはずがない、だからこそ今のうちから雄英の今後の方針を明確にし、誠意をもって保護者に伝え、信頼を築いていく必要があるのだ。
生徒を預かっている以上、寮制度の有無に関係なくどのみち避けては通れない道だしな。
「六徳くん。ちょうどその事について、警察庁長官と話し合っていたところなのさ。次世代のヒーローを育てる為にも、改革が必要という結論になってね。話を詳しく聞かせてもらえるかい?」
「ありがとうございます。ここからは現実の話になるのですが…まずはこちらをご覧ください」
私は、パワーポイントで作った資料をスクリーンに表示した。
その後は、私が作成した計画書を参考に、寮の設備や予算をどうするか、ルールはどうするかなどの細かい部分を煮詰めた。
◇◇◇
そして時は流れ、オール・フォー・ワンが逮捕されてから数日後。
丸5日かけて工事が行われ、ちょうど昨日寮が完成した。
私は、入寮希望者の皆と一緒に寮の内見に来ていた。
「わぁぁ…!」
「でけーーー広ぇーーーーー!!」
療子と矢田君は、新築の寮を見て歓声を上げていた。
ハイツ・アライアンス。
校舎から徒歩5分の場所にある、雄英の学生寮だ。
ヒーロー科とサポート科は全員強制入寮だが、普通科と経営科の入寮は任意だ。
私は屋敷を開けるわけにもいかないので、入寮する予定は無いがな。
「1クラス1棟ずつ、2階より上の生活スペースは男女別、1階は共同スペースだ」
そう言って私は、皆を寮の中に案内した。
玄関を通り抜けると、フカフカのソファーとテレビが置かれた広いリビングが見える。
窓の外を見ると中庭があり、キッチンもなかなかの広さだ。
私は、キッチンの設備を確認しつつ、内見に来た皆に食事の説明をした。
「朝と夜は、我が校とスポンサー契約を結んでいる飲食店が無償で食事を提供してくれる。ランチラッシュ先生のお墨付きの三ツ星店ばかりだ。食事に関しては、期待してくれていい」
「は!?神かよっ!?」
私は、食事の献立が書かれたカレンダーを壁に掛け直しながら説明した。
朝食と夕食は、ランチラッシュ先生やウチのシェフが太鼓判を押す三ツ星店がタダで送ってくれる。
雄英高校というブランドを貸す代わりに、食事を提供してもらうという契約を結んでいるのだ。
オールマイトを輩出し、
最初はランチラッシュ先生に食事を作ってもらうという前提で話が進んでいたが、それだと先生の負担が大きいし、オールマイト引退による不況を回復させるチャンスが目の前に転がっているなら、それを逃がす手はない。
「さて…食事の説明はこの辺にして、次は風呂場とランドリーだ」
さらに奥へ進むと、男女別の洗面所を兼ねたランドリールームと風呂場がある。
風呂場は温泉旅館のレイアウトを使用していて、サウナもある。
さらに、女湯にはパウダールームもある。
我が家の風呂場程ではないが、身体の疲れを癒すのには充分だろう。
ランドリールームには、洗濯機の他に、大型乾燥機が男子の方には2台、女子の方には1台の計3台設置されている。
「驚くのはまだ早いぞ」
そう言って私は、まだ見ていない1階の共同スペースを案内した。
廊下の角を曲がったところには、シアター、音楽室、ジムがある。
どれも完全防音で、時間帯を気にせずに使う事ができる。
「まじかっ、シアターまであんのかよ!?」
「ジムもあるんだ…で、こっちは音楽室だって」
矢田君と斥口君は、シアターと音楽室を見て驚いていた。
学生寮には、各棟にホームシアター、音楽室、ジムを完備している。
映画や音楽、スポーツといった趣味はどうしても音や振動が気になるからな。
いくら部屋の防音性能が高いとはいえ、完璧に音や振動を漏らさないようにするのは現実的に無理がある。
だったら初めからそういう用途を想定した共同部屋を作ってしまった方が合理的だ。
「共同スペースの説明は以上だ。普通科の寮は全部で6階建て、1フロアに男女各4部屋ずつだ。ついて来い」
そう言って私は、エレベーターを操作した。
まずは、女子棟の2階の1番手前の部屋を開ける。
「広!豪邸じゃん!」
「ここが私達の新しい家…」
「各フロアに洗面所とミニキッチンがある。全部屋にエアコン、冷蔵庫、クローゼット、ユニットバス完備。他に必要な設備があれば、購買に行けば大抵のものは揃う。ペット等の飼育は、クラスメイトが全員同意書にサインした場合のみ可能だ」
私が説明しながら部屋の中を案内すると、皆が口を大きく開けて驚く。
部屋の広さは約15畳、手前にはバスルームとクローゼットがある。
最初の案だと部屋の広さは8畳ほどだったんだが、3Dモデルを作ってみたら思ったより狭く感じたので、部屋の広さを倍にした。
まあ、その分掃除の手間が増えたわけだが…
「どうだ、新しい寮は?」
「メッチャ気に入った!」
「この寮、委員長も設計に携わったんでしょ?」
「まじかっ、道理で贅沢空間だと思った」
「フフフ、そうだろう?ちなみに寮のデザインはバウハウス建築を参考に……」
自分で設計に携わった寮を褒められて気分が良くなった私は、まだ説明していなかった寮のデザインの魅力を説明しようとした。
だがその瞬間、
皆が入寮する + 超安全快適な寮 = ウチに来る理由がなくなる = そのうち必要とされなくなる
という方程式が、脳内で一瞬にして構築される。
「クッ…小癪なマネを…!」
「誰も何もしてませんよ」
私が誰にでもなく悪態をつくと、療子が冷静にツッコミを入れた。
こうして寮の内見が終わり、下校する事になったわけだが…
「ねえ、皆はさ、花火大会行く?」
「花火大会?」
複原君の質問に、皆がきょとんとする。
すると複原君が、スマホで花火大会の告知を見せながら言った。
「ほら、夏休み最終日に、呉賀神社の近くで花火大会があるじゃない?寮生活が始まるなら、皆行けるんじゃないかと思って」
「知ってる!毎年いろんな屋台が出てたよね?」
「そうなの!かき氷とか、リンゴ飴とか、金魚すくいとか!」
「オレは行くぜ!」
「僕も行こうかな」
「いんちょは?」
皆が花火大会の話で盛り上がる中、矢田君が私に尋ねる。
正直、行きたいのは山々だが…私は、首を横に振った。
「……すまないが、私は外せない用事があるんだ」
「あ……」
私がそう言うと、療子がハッとする。
『外せない用事がある』というのは建前で、本当の理由は、暗殺者に命を狙われるのを防ぐ為だ。
オール・フォー・ワンが逮捕されたおかげでだいぶ減ったとはいえ、私の命を狙う暗殺者は、まだごまんと程いる。
ああいう人が多いところに行けば、必然的に命を狙われる。
私が狙われるだけならまだしも、皆が危険に晒される可能性がある。
私が行って皆の楽しみを奪うくらいなら、行かない方が賢明だ。
「用事があるなら、仕方ないか…」
「六徳さんごめんね」
「こちらこそすまない」
私が誘いを断ると、皆のテンションがあからさまに下がった。
誰も『花火大会に行こう』と言い出せる空気ではなくなり、花火大会の話はそれで終わりとなった。
別に私抜きで楽しんでくれればいいのに…ううむ、どうしたものか。
◇◇◇
『こんばんは。今晩もこの時間がやって参りました、『本音で語る!六徳刹那のぶっちゃけトークライブ』のお時間です。今回も私、六徳刹那がお届けします。まずは視聴者の皆さんからいただいたコメントにお答えしていきたいと思います』
その日の夜、私は自室で動画の配信を行った。
オールマイトが引退したあたりから、社会を引っ掻き回そうとする
幸い、有能な大人が目を光らせているおかげで大きな犯罪は起こっていないが、未だに社会は混乱の最中にある。
だから人々の意識を変える為に、これ以上
配信の内容は、まずは前回の配信へのコメントに対する回答から始まり、私が現在行っている取り組みや今後の方針、世の中に対して思っている事、あとは視聴者へのお願いなどだ。
I・アイランドでの演説以降、チャンネル登録者数が一気に増え、この配信も若い世代に広く認知されるようになった。
だが人気者になると同時に悪意を持った視聴者も増え、誹謗中傷をしたり殺害予告をしてきたりする命知らずや、セクハラコメントをしたり猥褻物の写真を送りつけてきたりする気持ちの悪い視聴者もいたりしたが、私が反応するまでもなく即BANされた。
そんな事をすれば当家のサイバー班を敵に回すという発想はなかったのだろうか。
…閑話休題。
私は今、日本が直面している社会問題について、視聴者の意見を聞きながら私自身の考えを話している。
『オールマイトが引退して、
『私は今まで、たった一つのボタンの掛け違いで道を踏み外した人達を、多く見てきました。かつてインタビューした人の中には、幼い子供を17人も殺害した殺人犯もいましたが…彼が殺した17人の子供の親は、かつて犯人をいじめていたいじめの加害者と、いじめの傍観者でした。被害者の遺族の中には、過去の悪事が明るみになるのを恐れて、警察に通報しなかった人もいたそうです。もちろん、犯罪に手を染めたのは犯人自身の判断であり、そこに同情の余地はありません。ですが、誰かが犯人をいじめから救っていれば、罪のない子供の命が奪われる事はなかった。その事実は、無視できるものではありません』
私が話をすると、コメント欄がざわつく。
この配信を聴いている視聴者の中には、心当たりがある者もいるだろう。
『そこで気がついた事は、今後の日本のあるべき姿は、『
私は、自分の体験談を交えつつ、自分の主義主張を視聴者に伝えた。
おそらくこのチャンネルの視聴者の多くは、今まで『ヒーローが助けてくれる』と傍観を決め込んでいたのだろう。
だが、目の前の問題を放置し続けた結果、巡り巡って自分の子供が殺されるかもしれないとなれば話は別だ。
『『誰かのヒーローになるべき』と言われても、何をすればいいのかわかりませんよね。そこで、誰もが気軽にヒーローになれるSNS、『
私は最後に、実際にスマホで画面を操作する様子を見せながら、先日リリースした自作のSNSの説明をした。
僅かではあるが、現状を変えようとしている人もいるのだ。
異形差別をなくす為に自ら啓蒙活動や保護活動をしている伊口君や、不幸な子供を増やさないように自ら施設を経営して子供を引き取っている分倍河原さん。
そういう人達の味方を一人でも増やす為には、やはりSNSを活用するのがいいと思う。
だが、何の見返りもなく人助けができる人間はそう多くない。
だから本物のヒーロー気分が味わえるような機能や、人助けをしたら見返りが貰える機能も実装してみた。
最初は見返り目当てでもいいから、とにかくアクションを起こす習慣をつける事が大事なのだ。
『もし興味を持っていただけたら、概要欄のリンクから登録よろしくお願いします。それではまたお会いしましょう』
最後の告知を終えて、30分に及ぶ配信が終了した。
すると山根が私に声をかけてきた。
「お疲れ様です、お嬢様」
「ああ、ありがとう」
私が背もたれに体重を預けると、山根が私の椅子を引いてくれた。
山根は、何かを思い出した様子で、私に話しかけてくる。
「そういえば…お嬢様、お嬢様のご級友の皆様は、今月末の花火大会に向かわれるのですよね?」
「何故急にその話を?」
「…申し訳ございません。ラインの会話が見えたので」
「ムッ…」
「お嬢様は行かれないのですか?」
「お前もわかっているだろう?家の外では命を狙われるのが、六徳家当主の常だ」
山根がまるで他人事のように言うものだから、私はため息をつきながら返した。
体育祭前の療子や被身子とのデートは時間帯が日中だったし、一般の同伴者が療子と被身子の二人だけだったから付き合った。
だが花火大会は夜だし、何よりクラスの半数以上が行くから、もし何かあった時に全員を守りきれない。
「もう寝る。明日も予定があるからな」
「………」
そう言って私は、髪を解きながらシャワールームの扉を開けた。
その時、山根がじっと私の背中を見ているような気がした。
◇◇◇
そして時は流れ、8月31日。
この日は、夏休み最終日だ。
翌日の授業に備えて予習をしていると、山根が話しかけてくる。
「お嬢様。今日は気分転換にお出かけにでも行かれませんか?」
「お出かけ?」
「はい。劫波坊ちゃんが、日本を観光したいと仰っていたので。学校が始まる前に、姉弟でお出かけでもいかがですか?」
「……うむ」
山根が微笑みながら言うので、私は劫波が言うなら、と思いつつ頷いた。
結局劫波と仲間の4人は、しばらくウチで面倒を見る事にした。
劫波が私の弟である事は、いずれ世に知れ渡る事になる。
六徳家の名に恥じぬ教養を身につけてもらうため、私が学校に行っている間、山根達に家庭教師をしてもらう事になった。
学校が始まったら忙しくなるので、その前に一緒に日本を観光しておこう、という話になった。
「そういう事なら、着替えを用意しないとな……亜楼」
「わかりました!メイクとお着替えは私にお任せください!」
私が亜楼に命令すると、亜楼は張り切って私の外出用の服を用意した。
亜楼にされるがまま着替えとメイクをする事1時間後。
「できました!」
姿見には、紺色の竜胆柄の浴衣を着た私の姿が映った。
太って見えないように胸を潰して腰回りを補正し、首元がすっきり見えるように髪を編み込んでアップにしてある。
和服が似合わない体型なのが地味にコンプレックスだったんだが、亜楼がしっかり補正してくれたおかげで、全く見苦しく見えない。
「……おい」
「何ですか?」
「この格好…まさかとは思うが、私をこれから祭りに連れて行く気じゃないだろうな」
「ダメでしたか?」
「ダメに決まってるだろ。危険だから、友達との花火大会を断ったんだぞ」
私がそう言うと、亜楼は問答無用で私を矢印で縛った。
そして矢印を操作して、無理矢理私を駐車場へと歩かせた。
別に痛くも苦しくもないが、身体の自由がきかん…
「細かい事はいいじゃないですか、早く車に乗った乗った!」
「おい、縛るな。話を聞け」
亜楼は、私に目隠しをして、無理矢理車の中に押し込んだ。
私を無理矢理祭りに連れ出して、何がしたいんだこいつら…
そう思っていたが、車の進行方向は、呉賀神社とは反対の方角だった。
「…おい、これ…どこに向かっているんだ?」
「そろそろ着きますよ」
そう言って山根が車を止めた先には、古びた石造りの鳥居があった。
亜楼が私を矢印で引っ張り、数十段の階段を登った先にあった光景に、思わず僅かに目を見張った。
そこには屋台が並んでいて、どこからか祭囃子が聴こえる。
「刹那ちゃん!もうお祭り始まってますよ!」
「刹那ちゃん浴衣カァイイです」
境内の中を歩いていると、浴衣を着た療子と被身子が、私を見つけて手を振ってきた。
何故療子がここにいるんだ…?
呉賀神社の花火大会に行ったんじゃなかったのか?
それに、何故被身子までここに?
「お姉ちゃん!」
「六徳さん!こっちこっち!」
療子と被身子だけじゃない。
壊理に廻兄、それにビッグ3の3人も来ていた。
「これは…一体どういう事だ?」
「あのね、通形がね、お祭りやるから来ないかって!不思議!」
そう言って波動先輩が見せてきたのは、私の自作のSNS上に投稿された祭りの告知だった。
祭りの告知が投稿されていたのは、『【雄英高校1年C組】お祭りやります!来てくれる人大募集』というコミュニティだった。
コミュニティの参加者を見てみると、C組の皆の他に、死穢八斎會の皆や私と縁のある人達が参加していた。
「あの後、皆で話し合ったんです。花火大会は楽しみだけど、刹那ちゃんだけいないのは嫌だから、代わりに皆でお祭りをやろうって。それで、協力してくれる人を一人でも多く集めようと思って、コミュニティに投稿したんです。そしたら、思ったより大勢の人が来てくれて…」
そう言って療子が指差した先には、ウチのクラスメイトや死穢八斎會の皆、そして分倍河原さんの分身が出している屋台があった。
施設の子供達や迫さんと操君、行きつけの美容院の健磁さん、伊口君の友達、白石警部、ウォーターホース夫妻と洸汰君…私が今まで仲良くなった人達が来てくれていた。
「お嬢、たこ焼き食うか!?」
「委員長〜!ウチのリンゴ飴おいしいよ〜!」
「トガちゃん、ウチの店来なよ!」
「いいや、俺んとこに!」
「お前ら分身同士で喧嘩すんな」
屋台から、賑やかな声が聴こえてくる。
皆、私の為にここまでしてくれていたのか…
まさか、自作のアプリがこんな所で活用されていたとはな。
などと考えていると、光輝君が私のもとへ走ってきた。
「お姉ちゃん…!」
「光輝君、久しぶり。お祭り楽しい?」
「うん…」
私が話しかけると、光輝君が小さく頷く。
保護した頃は痩せ細っていて肌も髪もボロボロだったが、今では栄養状態が良くなって肌や髪が瑞々しさを帯びている。
施設の他の子達とも仲が良いようだし、幸せになれて本当に良かった。
そう考えていると、光輝君に続けて、他の施設の子供達と、洸汰君も駆けつけてくる。
どうやら、私が来る前に合流して、意気投合したらしい。
「洸汰君も来てたんだ」
「ぼ、僕はパパとママが行こうって言うから来ただけで…」
「それでも私は会えて嬉しいよ」
私が微笑むと、洸汰君は帽子の鍔をきゅっと握った。
……恥ずかしかったかな。
「刹那お姉ちゃん、すごく綺麗…です」
光輝君は、俯いたまま小さな声で言った。
もしかして、浴衣を着てきたから、褒めてくれたのか?
今日は亜楼が浴衣を着せてくれて、髪やメイクも浴衣に合わせて仕上げてくれた。
何だか部下が褒められたみたいで嬉しい。
「ふふっ、ありがとう」
私が微笑むと、光輝君は俯いたままほんのりと頬を染めた。
照れているのか、かわいいな。
「えっと…一緒にお祭り回ってもいいですか」
「うん。皆で一緒に回ろう?」
そう言って私が光輝君の手を取ると、光輝君はビクッと肩を跳ね上がらせる。
驚かせてしまったかな。
「ごめん、怖かったか?」
「…怖くないです」
私が話しかけると、光輝君は顔を赤らめながら、私の手をきゅっと握った。
小さくて柔らかく、そして温かい掌が、何だかとても心地良かった。
私が光輝君と手を繋いで皆と一緒に歩き出した、その時だった。
「刹那ちゃん、元気にしとった?」
屋台で調理をしていた美輝さんが、私に話しかけてきた。
「美輝さん…お身体はもう大丈夫なんですか?」
「うん、おかげさまで。あん時はありがとうね」
私が心配すると、美輝さんはにこやかに笑った。
美輝さんは、二ヶ月前に
「ちょっと待っとってな。今焼き鳥が焼けるけん」
そう言って美輝さんは、汗だくになりながら私達の為に焼き鳥を焼いてくれた。
すると重い荷物を持った宝生さんが、屋台に戻ってきて美輝さんに話しかける。
「美輝、そろそろ休め。残りは俺がやるから」
「大丈夫!結は心配性やなぁ」
宝生さんが美輝さんを心配すると、美輝さんはあっけらかんと笑った。
仲睦まじそうに話す宝生さんと美輝さんの左手薬指には、お揃いのリングがはめられていた。
二人は、あの事件の後に結婚し、正式に夫婦になっていた。
そして、美輝さんを過剰なまでに心配する宝生さん…
……まあ、
本人達からの報告を待つ事にしよう。
「はい、お待たせ!」
そう言って美輝さんが、焼きたての焼き鳥を手際よくフードパックに入れて持たせてくれた。
ふと屋台を振り返ると、二人がイチャつk…もとい、仲良さそうに協力して調理をしていた。
私はその様子を尻目に、塩味のぼんじり串に七味唐辛子をかけてかぶりついた。
「……甘っ」
辛味と塩味がきいたはずの焼き鳥は、砂糖菓子のように甘い味がした。
私が焼き鳥を食べながら、他の屋台を冷やかして回っていると、だ。
「うお!なんじゃこりゃ!?」
私と同じ柄の甚平を着た劫波が、境内に駆け込んできた。
後ろには、ロップ達4人もいた。
「劫波〜、甚平似合ってるぞ〜」
「うわやめろ、勝手に撮るんじゃねえ!」
私が携帯で劫波の写真を撮りまくると、劫波がうざがった。
ほんっとかぁわいい。私の天使。
なんて思っているとだ。
「団長!見てください、ゲーム機!私、こんなに質の高いゲーム機初めて見ました!」
ロップが、興奮気味にゲーム機の箱を両腕に抱えて走ってきた。
どうやら、射的でゲットした景品のようだ。
「団長、食事を買ってきました」
「団長〜!俺もお菓子こんなに貰ってきたぜ!これ全部タダだってよ!」
「俺もこんなに魚釣れたぜ!今日はご馳走だな!」
ラットは屋台で買った焼きそばやたこ焼きを、シャムはくじ引きで引き当てた駄菓子を、カイマンは金魚すくいで掬った金魚を大量に持ってきた。
日本の暮らしが窮屈だと言っていた割には、思ったよりちゃんと楽しんでるじゃないか。
というか今、金魚を『ご馳走』って言わなかったか?聞き間違いか?
「何だこれ、食えんのか?」
一通り遊んだ後、劫波は両手に一本ずつ箸を持ち、両側から箸でたこ焼きを刺して不思議そうな表情を浮かべていた。
「ああ、たこ焼き?」
「?」
「ジャパニーズファストフード。オーケー?」
私が説明すると、劫波はたこ焼きを一口で食った。
すると案の定、思ったよりも熱かったらしく、涙目になってハフハフし出した。
周りがその様子を微笑ましそうに眺めると、劫波はムキになって残りのたこ焼きも全部口の中に放り込んだ。
かわいい。
「委員長この子知り合い?」
「ああ。私の弟だ」
「え、オトウト!?弟いたの!?」
「11年前の事件の時に生き別れてな、今まで異国の地で暮らしていたんだ。話せば長くなるが…」
「かわいい〜!!」
「お人形さんみたい!」
「天使…愛でる…」
クラスの女子の皆は、劫波を可愛がっていた。
流石我が弟、この歳から既にモテる男の素質を開花させている。
なんて呑気な事を考えていると、ウチのクラスの女子達に敵対心を抱いたロップが、劫波を庇うような形で女子達の前に立って通せんぼした。
「
ロップが女子達に対して敵意を剥き出しにしながら釘を刺すが、早口の、しかも独特の訛りが入った英語だったため、女子達は聴き取れずに困惑していた。
「…え?なんて?」
「困ってるからその辺にしてやれって」
女子達が困っていると、我らが副委員長、御法君が意訳してくれた。
すると女子達は、はしゃぎすぎたのを反省したのか劫波から少し距離を置き、それを見てロップも矛を収めた。
その後は、操君の店でかき氷を買って皆で食った。
私は抹茶を買い、療子と被身子はイチゴを、壊理は青リンゴを、劫波はブルーハワイを買っていた。
ところで、結局のところブルーハワイとは何味なのだろうか?
市販のかき氷のシロップがどれも同じ味なのは知っているが、だったらこれは一体何の香りなんだ?
サイダーかラムネか何かか?それとも何かのフルーツか?それとも、カクテルのブルー・ハワイか?
だとしたら、ブルー・キュラソーに使われるオレンジの香りにすると思うのだが…
他のフレーバーがきちんと明確に表記されているのに、青のシロップだけ『ブルーハワイ』という買い手の想像力に丸投げするようなふわっとした名前がついているのが、統一感がなくて気持ち悪い。
……もしかして、こうしてモヤモヤしている状況が、既にメーカーの術中に陥っているのか?
だとしたら、最初にブルーハワイという名前でシロップを販売したメーカーは相当の策士だ。
「刹那ちゃん氷解けちゃいますよ」
「えっ?」
私が色々と考えていると、療子が私の持っていたかき氷を指差す。
見ると、私の持っていたかき氷が解け、少し小さくなっていた。
……やってしまった。
考え事に夢中になりすぎて、食うのを忘れていた。
一度ツボにハマると延々と考えてしまうのは、私の悪い癖だな。
「できた!!ウチの最強レインボーフェスティバル!!」
「きったね」
「全部の味混ぜたから泥みてーな色になってんじゃねーか」
「罰ゲーム?」
「美味いもんを好きなだけ混ぜたら美味いに決まってんだろが!」
「滅茶苦茶な理屈だねぇ…」
「あげねーかんな!」
「いらねーよ」
かき氷の屋台の前が騒がしかったので見てみると、矢田君が全種類のシロップを混ぜて汚い色のかき氷を作っていた。
ドブみたいな色のかき氷を見て、斥口君と細谷君、角野君、暗土君が引いていた。
満足げな顔で汚物…もといかき氷を持って走る矢田君だったが、石畳に躓いて前のめりに身体を傾けた。
「どわああああ!!ウチの最強がああああ!!」
矢田君の悲痛な叫び声と共に、よりにもよって子供達の方へ汚い色のかき氷がぶちまけられる。
私が子供達を庇う形で前に出て“個性”を発動しようとした、その瞬間だった。
ベシャッと嫌な音が響いたが、冷たさや不快感は襲ってこなかった。
「大丈夫?」
「心操君…!」
見上げると、私の目の前には、いつの間にか心操君が立っていた。
心操君のTシャツは、矢田君がこぼしたかき氷で汚れていた。
何故、私を庇ったりなど…
「私は大丈夫だ。ありがとう」
「良かった…」
「…すまない。服、汚してしまって」
「別に六徳さんのせいじゃないでしょ。俺が勝手にやった事だし」
「えっ?」
「その、綺麗だから、汚したくなくて…」
その言葉を聞いて、胸が小さくとくん、と鳴るのを感じた。
気恥ずかしいのを誤魔化そうと、なんとか話を繋げようとした、その時だった。
「心操くん!大丈夫!?」
「まあ、大変!すぐに服を創りますわ!」
騒ぎを見かけたであろうA組の皆が、心操君のもとへ駆けつけてきた。
百は、心操君の服の汚れに気がつくと、“個性”で代わりの服を作った。
「てめぇ気ぃつけろや!!」
「ひぃん、ごめんなしゃい…」
爆豪君が矢田君にキレると、矢田君が縮こまりながら心操君に謝った。
うん、今のは完全に矢田君が悪い。
というか、爆豪君ってちゃんと正論を言える奴だったんだな。
……まあ、心境の変化もあったんだろうが。
「てか何でヒーロー科いるの?今日仮免試験じゃなかったか?」
「外出許可取れたから、皆で来たんだ。仮免合格祝いって事で。B組も後から来るって」
「わあ!」
鑑刀君の質問に対して心操君が説明すると、療子が喜ぶ。
ちなみに仮免は、A組もB組も全員無事に合格したらしい。
1年なのに、しかも心操君に至ってはヒーロー科の訓練を受けていた期間はたったの2週間だというのに、よく合格できたな…
正直記念受験だろうと思っていたから、まさか全員受かるとは思ってなかったよ。
「うなじ…腰つき…女神か?」
「峰田ぁ…」
「「俺達の努力は報われたぁ…!!」」
上鳴君と峰田君は、何故か涙を流しながら喜んでいた。
それだけ仮免試験が過酷だったんだろうな、きっとそうだろう。
などと考えていた、その時だった。
「あっ、花火!」
ちょうど雄英の校舎がある方角の空に、花火が打ち上がった。
神社が小高いところにあるおかげで、花火が何にも遮られずに綺麗に見える。
明日から、2学期が始まる。
思えば、ここまで長かった。
家族を奪った奴等への復讐を誓ってから11年、ようやく復讐が終わった。
邪魔者も居なくなり、理想の実現へと一歩踏み出せる。
「綺麗だね」
「……ああ、綺麗だ」
心操君が私に話しかけてくるので、私は空を見上げながら答えた。
私は未だかつて、こんなにも美しい景色を見た事がない。
立場も、境遇も違う人達が、たった一つの目的の為にこの場に集まり、同じ景色を見ている。
ここにいる皆だけではなく、誰もがそうあれる世界にしたい。してみせる。
そう決意を固めながら、私は最後の花火が打ち上がるのを見届けた。
皆で楽しくお祭り回。
この世界線のデク達、屋台のおじちゃん達が別の世界線ではほぼ全員敵って言っても信じないんだろうなぁ。