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第42話 年末じゃないけど大掃除をします
緑谷side
夏休みが終わって、2学期が始まる。
僕達は、始業式に出る為に廊下に並んでグラウンドに向かっていた。
先頭では、委員長の飯田君がいつもの様子で先導している。
「皆いいか!?列は見出さずそれでいて迅速に!!グラウンドへ向かうんだ!!」
「いやオメーが乱れてるよ」
「委員長のジレンマ!!」
飯田君は、やっぱりというか…いつも通り空回りしていた。
「後期はどんな授業やるんやろうね?」
「相澤先生は、特に何も言ってなかったけど…」
前の方で話す麗日さんと尾白君の会話を聞きながら、気を引き締めていると──
「まーずいぶんと弛んだ空気じゃないかA組ィィ!!後ろがつっかえてるからさっさと進んでくれるかなァァァ!?」
B組の物間君が、ずいっと前に出てきて僕達に突っかかってきた。
物間君も相変わらずだ…!
なんて思っていると、B組の委員長の拳藤さんが、物間君の首に手刀を叩き込んで気絶させた。
「ごめんな」
拳藤さんは、笑顔を浮かべて物間君を引き摺りながら謝った。
いつもの光景に、何とも言えない表情を浮かべていると、角取さんが口を開く。
「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスミタイ。楽シミしテマス!」
「へぇ!そりゃ腕がなるぜ!」
「つか外国人さんなのね」
角取さんが、不慣れな日本語で後期の授業の説明をしてくれた。
合同授業か…僕もB組の皆に負けないように頑張らないと。
そう思いながら拳を握りしめていると、物間君が角取さんに何かを耳打ちした。
「ボコボコォにウチノメシテヤア…ンヨ?」
「変な言葉教えんな!!」
意味を知らずに物騒な言葉を口にする角取さんの後ろで高笑いする物間君に、拳藤さんが再び手刀を喰らわせた。
B組も大変そうだな…なんて思っていると、B組の列のさらに後ろから、鈴を転がすような声が聴こえてきた。
「すまないが、早く進んでくれないか?後ろが詰まっているのでな」
「すみません!!さぁさぁ皆、私語は慎むんだ!迷惑かかっているぞ!」
後ろから誰かが声をかけると、飯田君がすぐに謝ってから僕達に注意をした。
聴こえてきた声に吸い寄せられるように後ろを振り向くと、そこには六徳さんが立っていた。
「お先に失礼」
六徳さんが前に出ると、A組B組関係なく、皆がサァっと教室側に寄って道を開けた。
六徳さんを先頭に、C組の人達が僕達を追い抜かしてグラウンドへ向かっていく。
六徳さんが肩にかかったポニーテールを手で後ろに靡かせながら通り過ぎると、ふわっとシャンプーの甘い香りが鼻を擽る。
クラスの大半は、彼女の色香にあてられて、男女関係なく見惚れていた。
「ワァァ、キレー」
「発育の暴力…」
「流石六徳様、毎日麗しさが更新してるぜ…!」
「女神……」
「峰田くん!そっちはC組の列だぞ!」
蕩けた表情を浮かべながら、何かに取り憑かれたようにふらっとC組の列に紛れ込もうとする峰田君を、飯田君が連れ戻した。
そんな中、C組の人達が、心操君に笑顔で手を振ったり、「がんばれ」とハンドサインをしたりした。
心操君が満更でもなさそうに元クラスメイトの人達に手を振ると、心操君の後ろに並んでいた瀬呂君が心操君の肩を掴んで軽く揺すり、心操君は恥ずかしそうに横を向いた。
周りからの注目を浴びて恥ずかしがる心操君を見てから、ふとC組の列の先頭を見ると、六徳さんがこっちを振り向く。
六徳さんは、「※私達が育てました」というテロップが出てそうな雰囲気の生暖かい笑顔を浮かべていた。
完全に生産者の顔してる…!!
◆◆◆
刹那side
グラウンドに立ったまま整列した私達は、根津校長の有り難いお話を聴いた。
全校朝会は、生徒のほとんどにとっては憂鬱な時間である事は間違いない。
何故なら…
「やぁ!皆大好き小型ほ乳類の校長さ!最近は私自慢の毛質が低下しちゃってね、ケアにも一苦労なのさ。これは人間にも言える事さ。亜鉛・ビタミン郡を多く摂れる食事バランスにしてはいるもののやはり一番重要なのは睡眠だね。生活習慣の乱れが最も毛に悪いのさ。みんなも毛並みに気を遣う際は睡眠を大事にするといいのさ!」
校長の話はものすごくどうでも良く、そしてありえない程長かった。
ただでさえ寝起きで眠い時間帯に、ひたすら長い話を聴かされるのは地味に苦痛だ。
矢田君に至っては、校長の話が長すぎて立ちながらうつらうつらしていた。
「生活習慣が乱れたのは皆もご存知の通りこの夏休みに起きた事件に起因しているのさ。柱の喪失、あの事件の影響は予想を超えた速度で現れ始めている。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。特にヒーロー科諸君にとっては顕著に表れる。2・3年生の多くが取り組んでいる『
インターンか…
確か、ヒーロー科の生徒による校外でのヒーロー活動だったな。
私にとっては、正直どうでもいい話だが…
「暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人たちは今その重い空気をどうしようか頑張っているんだ。君達は是非ともその頑張りを受け継ぎ発展させられる人材となってほしい。経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、皆社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」
校長がそう言うと、私も含め在校生が気を引き締める。
校長は壇から降り、ブラドキング先生に声をかける。
「だいぶ短くまとめただろ?定石を覆したのさ」
「流石です」
校長がブラドキング先生に話しかけると、ブラドキング先生は感心の言葉を口にした。
…まあ確かに、入学式や終業式の時に比べればだいぶ短かったな。
その後は、生活指導のハウンドドッグ先生から注意事項等を聞かされ、3年生から順に教室に戻っていった。
ネットニュースの記事は、どれもオールマイトの喪失に関するものばかりだった。
オールマイトとオール・フォー・ワンの戦いは、オールマイトの勝利に終わった。
父と母を殺されたあの日から、二人の命を理不尽に奪った犯人を殺したい程憎んだ。
奴へ復讐する為に水面下で徹底的に根回しをし、11年にも及ぶ戦いの末、父と母を殺した奴を処刑台に立たせるという私の目標はついに達成された。
だが、殺したい奴はまだいる。
父と母が生きていた頃は、今程ヒーローに頼りきった世界ではなかった。
父が圧倒的なカリスマで人々を導き、父の編み出した独自の技術と戦略によって、20世紀の高度経済成長期に迫る勢いで経済成長率を伸ばし続けていた。
そしてその頃は、名君とまではいかないが、父の理想を実現できる技量を持った国のトップがいたんだ。
誰もがヒーローになれる社会の到来は近かった。
それを台無しにしたのが、現首相の
父が殺された後行われた衆議院選挙により、嚊田内閣が政権を握った。
奴は私の父が亡くなった事による社会の混乱に乗じ、精神系の“個性”を使って国民を騙し、新首相に成り上がった。
そこからの10年間は、まさに地獄だった。
嚊田が実施したのは、表向きはプロヒーローが活躍できる体制を整え、日本が
奴はゴミのような政策で国民を思考停止させ、トラブルを見て見ぬ振りする風潮を作る事で、
多様な価値観を無理矢理『善』と『悪』に振り分ける事で、正しさもクソもない常識に適合できなかった者達の心を壊し、死ぬか
愚民どもは、都合のいいように操られ、知らず知らずのうちに前途有望な若者を苦しめている事にすら気づかない。
この社会の異常性に気づいて声を上げた者達は、
父が生きていた頃に就任していた元首相も、その一人だった。
動機や実態はどうあれ国の為に尽くしてきた彼は、ある日突然不審な死を遂げた。
当時まだ幼く何の権限もなかった私は、国が内側から腐っていくのを止められなかった。
嚊田は、私の父の仇も同然だ。
私腹を肥やす為だけに
あの屑に比べれば、殺人鬼やテロリストなどまだ可愛いものだ。
フランスの詩人、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの『寓話詩』には、
『
という一節があるが、まさにこの状況を的確に表す表現と言えよう。
オール・フォー・ワンが消えても、あの無能が国のトップに君臨し続ける限り、明るい未来などやって来ない。
父が創るはずだった美しい世界を穢した罰は、必ず受けさせる。
金や暴力で奴を屈服させるのは簡単だ。
だが、それでは意味がないのだ。
賄賂や
金や暴力に頼って強引に引き摺り下ろすのでは、奴のしてきた事と何も変わらない。
奴が不正で築き上げた地位を、正攻法で潰す事にこそ意味がある。
奴の犯した罪の証拠を少しでも多くかき集め、一人でも多くの議員を味方につけ、奴を玉座から引き摺り下ろす。
その後はきっちりと法の裁きを与え、社会的に抹殺してやる。
その為に、この10年間、根回しや証拠集めをしてきた。
知人の議員に味方を増やしてもらい、思いつく事は法に触れない範囲内で何でもした。
動画を配信したり、視聴者向けにSNSを開設したりしたのは、奴を社会的に抹殺する為の活動の一環でもある。
オール・フォー・ワンが死に、シンパの結束力が弱まりつつある今がチャンスなのだ。
だがまだ、決定打が足りない。
私が根回しをして味方につけた政界のお偉い方々や、信頼を置く有能な大人達が頑張ってくれてはいるが、それでもまだ過半数の議員があの屑を支持している。
私の方からも、手を打つか…
「デハコノ問題ヲ、六徳。前ニ来テ解答セヨ」
私が考え事をしていると、数学の授業をしていたエクトプラズム先生に指名された。
出題されたのは、定積分の問題だ。
エクトプラズム先生、まだ授業では習っていない範囲の問題を趣味で出題してくるからな…
「…はい」
私は、問題を頭の中で暗算しながら黒板の前まで歩き、その場で途中式を書いて問題を解いていく。
最後まで書き終えてからエクトプラズム先生の方を見ると、先生は満足げに頷いた。
「正解ダ」
先生に戻って良いと言われたので、ほっとため息を漏らしつつ席に戻った。
考え事をしていたので一瞬反応が遅れたが、問題自体は難なく解く事ができた。
私が考え事をしていたから指名されたのかとも考えたが、特に何も言われなかったので、そういうわけでもなかったようだ。
などと考えていると、私の前の席に座っている療子がコソッと話しかけてくる。
「刹那ちゃん考え事ですか?」
療子の質問に対し、私は返事代わりに軽く手を振りながら目配せした。
授業はきちんと聞かないとな。
反省反省。
◆◆◆
山根side
「本日はお忙しい中お話の場を設けていただきありがとうございます、先生」
「とんでもない!六徳家の方と直接お話できるなんて、これほど光栄な事はありませんよ」
9月が始まってすぐの事。
お嬢様は、内閣府特命担当大臣の勘解由小路様と対談の機会を設けられた。
表向きは嚊田首相に忠実な部下だが、その正体は、お嬢様が証拠集めの為に政界に潜り込ませたスパイだ。
いくら財界に名を馳せる六徳家のトップであるお嬢様といえど、未成年である以上は、国会や内閣に直接介入できない。
闇雲に嚊田のやり方に意義を唱えるだけでは、嚊田を刺す決定打にはなり得ない。
そこでお嬢様は、スパイに内情を探らせ、嚊田を失墜させる為の証拠を集めてもらう事にした。
お嬢様がスパイに適した人材を探していた際、目をつけたのが彼だった。
本人の優秀さもさる事ながら、お嬢様のバックアップにより嚊田の信頼を勝ち取り、35歳の若さで大臣の座にまで上り詰めた。
勘解由小路様は、表向きは嚊田をサポートしつつも、水面下で動きを監視して証拠集めや根回しをしてくださっている。
お嬢様が直接内情を探れない分の穴を埋めてくださっているのが、このお方だ。
「そろそろ、本題に入りませんか?」
お嬢様が話題を振ると、勘解由小路様は不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。
「ええ。例の件ですが…貴女の読み通りですよ、刹那様。オール・フォー・ワンの死後、与党内にも離党の機会を窺う議員が増えつつあります。ただ、私がマークしている議員数名が、ここ数日怪しい動きを見せています。長期戦になればなるほど、私達が不利になっていく…仕掛けるなら、早い方がよろしいかと」
「ふむ…」
勘解由小路様が報告をすると、お嬢様は考え込むような仕草をした。
お嬢様は、集めた証拠をSNS上にばら撒こうと画策していらっしゃるが、肝心なのはそのタイミングだ。
お嬢様の読みが正しければ、嚊田を支持している議員の中には、オール・フォー・ワンのシンパも多く存在する。
彼等が嚊田を支持するのは、愚民政策を敷き私腹を肥やす愚者が国のトップでいてくれた方が都合がいいからだ。
彼等が嚊田政権を支持した結果、国民の多くが愚民化し、国力低下を招いた。
幸いにも、オール・フォー・ワンの処刑が執行された事で、嚊田政権の統率は弱まりつつある。
嚊田政権のやり方に疑問を抱き、離党を視野に入れる議員も増え始めた。
だがシンパが結束を取り戻すのも時間の問題だ。
証拠集めが長引けば長引くほど、彼等に態勢を立て直す時間を与えてしまう。
第二、第三のオール・フォー・ワンが現れる可能性も、無いわけではない。
叩くなら、シンパの力が弱まっている今しかないのだ。
「それにしても、先生も物好きですわね。自らリスクを冒してまで、何の見返りもなく私に協力してくださるなんて」
「私が守りたいのは、この国の秩序であって、総理ではありません。もし刹那様の話が真実なら、守るべき国民を
勘解由小路様が嘘臭い笑みを浮かべながら言うと、お嬢様が目を細める。
建前を見抜かれた事に気がついた彼は、すぐに付け足して言った。
「というのは建前で、貴女に協力した方が賢明だと判断したからですよ…貴女は、総理よりも数段賢いお方です。正直な話、貴女だけは敵に回したくはありませんので」
勘解由小路様が苦笑いを浮かべながらそう仰ると、お嬢様は不敵な笑みを浮かべられた。
お嬢様は、幼くして当家のトップに立たれ、血の滲むような努力をして人望を勝ち取り、女子高生でありながら他のライバルを圧倒し当家の誇りと信頼を守ってきたお方だ。
優れた頭脳と人脈を駆使してトップヒーローをも従え、あのオール・フォー・ワンさえも下した。
敵に回したらどうなるかなど、考えるまでもない。
「あら、いやですわ先生。人を極悪人みたいに仰りますのね」
「いえいえ、とんでもない」
お嬢様がクスクスと笑うと、勘解由小路様は顔を引き攣らせながら首を横に振った。
「それに私、
勘解由小路様は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら言った。
彼には、嚊田にすら隠し通している、あまりにも悍ましい裏の顔がある。
共感性に欠けるサイコパスで、権力者の失墜をミュージカル感覚で楽しむサディスト。それが彼の本性だ。
彼の本性を知る者は、私とお嬢様を含め、片手で数える程しかいない。
彼の悪趣味な発言に対し、お嬢様は、淑女らしい穏やかな笑みを浮かべながらも、たっぷりと皮肉を込めた返しをした。
「素晴らしい趣味をお持ちで」
「やはり、私の芸術を理解してくれるのは貴女だけだ」
お嬢様が笑顔で皮肉を言うと、勘解由小路様は満面の笑みを浮かべる。
彼の裏の顔を見抜いたお嬢様は、彼の異常な趣味を利用し、スパイにする事を思いついたのだ。
客観的に見て彼の性格が破綻しているのは言うまでもないが…私からすれば、彼の本性を知ってなお対等に接し、「使えるかもしれない」という発想にまで至るお嬢様も大概だ。
「ふふふ」
「はははっ」
お嬢様と勘解由小路様は顔を見合わせ、「HAHAHAHAHA」と高笑いをした。
会議室内に、お二人の笑い声が響く。
旦那様、ご覧になりましたか。
…いえ、ご覧にならない方が良いかもしれませんね。
お嬢様は今もなお、気高く、美しく…そして悪賢い女性へと成長しています。
私は、お嬢様の将来が心配でございます。
◆◆◆
???side
「なァ江戸河さん。そろそろ、デカい山を狙ってみる気はねえか?あんたの腕を見込んで、頼みたい事があるんだが」
「そんな事言って、また危ねえ商売吹っかける気じゃねえだろうな?あんたに巻き込まれてお縄にかかるのはごめんだぜ」
「まァまァ、そう言わずに話だけでも聞いてくれよ」
俺は昔、義爛って名前で裏社会のブローカーをやってた。
もう10年以上も前に足を洗ったけどな。
今は、依頼人に情報を提供したり、探偵を紹介したりして生計を立ててる。
尤も、情けない話、今となっちゃあ収入のほとんどを、俺の事を贔屓にしてくれている
閑話休題。
俺はそのお得意様に頼まれて、知り合いの探偵の江戸河さんにある儲け話を持ちかけたのが、一ヶ月前の話だ。
最初は俺を怪しんでいた江戸河さんも、金の話をチラつかせたら、俺を事務所に招き入れて話を聞いてくれた。
俺は早速、お得意様から預かった依頼内容の書類を見せた。
「最初の仕事だ。このリストに名前が書いてある奴の身元を調べて、不正の証拠を集めてこいだとよ」
俺が見せたのは、調査対象の名前が書かれたリストだ。
リストには、議員や大企業の重役、そして裏社会で暗躍している
仕事内容を説明したところで、俺は現金の入ったアタッシュケースを見せた。
リストに書かれた名前と、アタッシュケースに詰められた法外な前金を見て、何かを察した江戸河さんは顔を引き攣らせる。
「おいおい。あんたのお客って、まさか…」
江戸河さんが何かを言おうとするのを遮ってから、タバコに火をつける。
たとえ古くからの付き合いがある取引先だろうと、大事なお得意様の秘密は喋らねえ。
…まあ、俺のお得意様が誰だかはわかっているだろうがな。
「余計な詮索はするもんじゃねえよ。あんたはただ言われた仕事をすりゃあいい。嫌ならこの話は無かった事にしてもいいが」
「…いや、やらねえとは言ってねえさ。ただなぁ……本当にやるのか?こんな事したら、下手をすれば日本が…いや、世界がひっくり返るぞ?」
「
「なるほどね。OK、引き受けた。その代わり、ちゃんと報酬は払ってくれよ?」
「交渉成立だな」
俺は、江戸河さんと握手を交わしてから、前金を支払った。
探偵事務所からの帰り道、俺はお得意様に交渉成立の報告をした。
「六徳さん。あんたに言われた通り、探偵に調査依頼しといたぜ。俺が知る限り、この辺りじゃ一番優秀な探偵だ。期待してくれていい」
『ありがとうございます、義爛さん。今回の分の報酬は、本日中に口座に振り込んでおきますので、金額をお確かめの上お受け取りください』
俺が報告すると、依頼主の六徳さんは、鈴を転がすような声でクスリと笑った。
口座を確認すると、今回の分の報酬がきっちりと振り込まれていた。
最近じゃ六徳さんのおかげで感覚が麻痺してきたのか、法外な報酬にも驚かなくなってきた。
何を隠そう俺のお得意様は、あの六徳家のお嬢さんだ。
俺が彼女から受けた依頼は、嚊田内閣を潰す為の不正の証拠をできるだけ多く集めたいから、腕利きの探偵を探してほしいという依頼だった。
何をどでけえ事を企んでるのかと思ったら、この国のトップをぶっ潰すとか、頭イカレてんだろ。
それくらい頭のネジぶっ飛んでなきゃ、資産家一族の当主は務まらねえって事なんだろうな。
俺はかつて、六徳家の先代当主に商売をぶっ潰されたのをきっかけに足を洗った。
だが今は、かつて俺を潰した男の一人娘のおかげで食い繋いでいる。
世の中、何があるかわからねえもんだな。
◆◆◆
刹那side
私は、嚊田内閣を確実に潰す為、水面下で準備を進めている。
興信所に依頼して手に入れたデータをもとに、情報屋の義爛さんに雇ってもらった探偵を使って嚊田の身元調査をしたり、スパイをしてくれている勘解由小路先生に奴の動きを監視してもらったりして、奴の犯罪行為の数々を記録した証拠品を集めてもらっている。
だが、それだけではまだ足りない。
嚊田の“個性”は『低脳化』、特殊な電磁波を声に乗せて発し、奴の声を聞いた生物の知能を下げる“個性”だ。
奴はこの“個性”を使って長い間国民を騙し、総理大臣の座に居座り続けてきた。
奴の“個性”を解呪しない限り、この地獄が終わる事はない。
10年間調査し続け、ようやく国民を奴の“個性”から解放する方法を見つけた。
私は、国民にかけられた“個性”を解くため、ある人物に助けを求めた。
「お忙しいところ申し訳ございません、伯母上。至急用意していただきたいものがあるのですが」
私が電話をかけたのは、父の姉で、私の伯母にあたる火輪さんだ。
伯母は、六徳科学研究所の所長で、日本人女性の中で数えるほどしかいないノーベル賞受賞者だ。
シールド博士と共同研究をしていた事もあり、その頭脳と科学力は折り紙付きだが、私はハッキリ言って彼女の事が好きではない。
『忙しいのがわかってるなら電話してこないでくれる?あんたに構ってる暇ないんだけど』
ババァ…もとい伯母は、話も聞かずに無礼な態度を取ってきた。
伯母は、弟である私の父が殺される原因を作っておきながら遺産と権限を全て継いだ私の事を目の敵にしている。
父の兄の地大さんと水月さんも私に対しては冷たかったが、伯母の当たりの強さは二人の比ではなかった。
伯母の頭脳は当家に必要だから、親戚というよりはビジネスパートナーとして接しているが、ノーベル賞受賞者でなければとっくに追放していた。
確かに父の死の遠因を作ったのは私だが、伯母の八つ当たりに付き合っていられるほど、私も暇ではない。
「では言い方を変えましょうか。六徳家当主として命令します。送ったメールに書かれているものを至急用意しろ。当家の権限は全て私が握っているという事を、お忘れなきように」
私が当主として伯母に命令すると、伯母が押し黙る。
私が六徳家の当主であるという事は、即ち当家の全ての権限が私の手にあるという事を意味する。
学校に行っている私の代わりにグループ企業の経営等は伯父達に任せるという約束だが、最終的な決定権は私にある。
伯母達は、出来損ないだった私が自分達より上の立場に立つ事が気に入らなかったようだが、私は当主に相応しい器になる為の努力をし、自らを押し上げる事で伯母達を黙らせてきた。
伯母がどれだけ私を嫌おうが、私が誰かに当主の座を譲渡しない限り、私達の間の主従関係が崩れる事はない。
『………ほんっと可愛くないわね、あんた。で?いつまでに必要なの?』
「2週間以内にお願いします。貴女にならできて当然ですよね?」
『チッ、わかったわよ』
私が微笑みながら伯母を煽ると、伯母は舌打ちしながらも引き受けてくれた。
国民にかけられた“個性”を解除するには、伯母の協力が必要不可欠だ。
これで、嚊田を失墜させる準備はほとんど整った。
10年間も国を騙して私腹を肥やし続けた国賊には、必ず裁きを受けさせてやる。
「ん゛んっ……」
パソコンの画面を見続けたせいか、突然眼痛を感じ、眉間を親指と人差し指で摘むように押さえる。
何時間も座りっぱなしで作業をしていると、身体が固まり、目が疲れてくるな。
などと考えていると、山根がノックと共に部屋に入ってくる。
「お嬢様、失礼します。お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
山根は、夜通し事務作業をしていた私を気遣い、カモミールティーと蒸しタオルを持ってきてくれた。
私がお茶を飲みつつ目元に蒸しタオルを当てて眼精疲労を和らげていると、山根が心配そうに話しかけてくる。
「そろそろお休みになっては?明日も学校があるのですし」
「…ああ、そうだな」
山根に言われてふと時計を見ると、午前1時を回っていた。
そろそろ寝ておかないと、明日の授業に響く。
正直勉強への不安は全く無いが、授業中に寝落ちでもしたら、せっかく今までオール5を取ってきた成績に傷がつく。
オールマイトの引退によって私の仕事も増えたし、いい加減スケジュールを見直した方がいいかもな…
42話目(設定集・番外編除く)にしてようやく書きたいものが書けました。
今回の話の要約
オリ主「現内閣クソすぎワロタ。せや、不正の証拠かき集めてクビにしたろ!」
こいつ、しれっととんでもない事企んでやがる…
ミュージカルおじさんといい、やってる事が完全に悪役のそれ。
まあ、こいつの初期プロット悪役令嬢だし…
学園モノのくせに、ここまでオリ主が直接元凶をぶっ潰しにかかる作品も珍しいんじゃないじゃなかろうか。