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嚊田side
「ご安心ください。彼女が証拠を晒すような事は、この私がさせません。私に考えがあります」
そう言って勘解由小路は、不敵な笑みを浮かべた。
六徳家の当主に掴まれた証拠を揉み消す方法があるとでもいうのか…?
「……握り潰せるのか?あの小娘を」
「毒を以て毒を制す、という言葉をご存知ですよね?弱みには弱みですよ、嚊田総理。こちらも彼女の弱みを利用するんです」
私が尋ねると、勘解由小路がニヤリと笑いながら酒を一口飲む。
弱みを利用するなどと、簡単に言ってくれる。
それができるなら、とっくにやっている。
「弱みだと…?あの女からスキャンダルを引き出すというのか…!?無理に決まってるだろ!」
「でしょうね。というか、いくら探しても見つかりませんよ。当主様は、人を思い通りに動かすのに賄賂を使いません。彼女の真の武器は、財力ではなく、その頭脳と人望…だから厄介なんです。かといって、スキャンダルをでっち上げるのも得策ではありません。そんな事をすれば、すぐにバレて糾弾されます。でっち上げがバレれば、むしろ不利になるのは我々です」
「だったらどうしろと!?」
わかっていてあの小娘を持ち上げる言い方をする勘解由小路に苛立ち、思わず猪口を卓に叩きつけた。
六徳家の当主が優秀なのは、紛れもない事実だ。
凡人がどれだけ努力しようと差を縮める事すら許されない、『天才』という表現すら生温い化け物。それが六徳家だ。
だからこそ私は、奴等を阻む為に“個性”と賄賂に頼った。
国民を愚民化して総理大臣にまで上り詰めたのは、六徳家への意趣返しのつもりだったんだ。
奴等は、強く、気高く、そしていつでも正しかった。
特に先代当主は、歴代最高の当主と謳われ、たった一人で世界中の社会構造を大きく変えてみせた。
私はずっと、あの男が憎かった。
だから奴が築いたものを、ぶち壊してやったんだ。
奴の築いたものを壊せれば、国民なんか知ったこっちゃなかった。
「何があの小娘の弱みだと言うんだ…!?」
「弟です」
私が尋ねると、勘解由小路は、ニタァ、と笑みを浮かべながら答えた。
その笑顔は、数々の悪事に手を染めて今の地位を手に入れた私ですら不気味だと感じるものだった。
「実は当主様には、歳の離れた弟さんがいまして。表向きは死亡扱いでしたが、異国の地で孤児として過ごしていた事が判明したので、保護したそうです。ですが当主様は、弟が悪い意味で注目を浴びるのを恐れて、その存在を一部の人間にしか明かしていないんです。彼女は、規則や利益よりも身内の幸福を優先する人です。弟の存在を、
勘解由小路は、鮪の刺身を箸の先でほじくってグチャグチャに潰しながら語った。
要は、あの小娘が証拠の揉み消しに応じなければ、弟の個人情報をマスコミや
楽しそうに語る勘解由小路の顔は、まるで新しい玩具を見つけた子供のようで、背筋が寒くなるのを感じた。
「……お前だけは、敵に回したくない」
「えぇ、よく言われます」
私が率直な意見を言うと、勘解由小路は笑って頷いてから、グチャグチャに潰した鮪を口に含んだ。
大臣という立場を与え、言いくるめて味方につけたが…
本当に、こいつは敵に回したくない。
◆◆◆
刹那side
「さて……」
勘解由小路先生主催の政治資金パーティー前日。
私は、自室の書斎で考え事をしていた。
厄介な事になった。なんてね、全部計画通りだ。
まさか、劫波の情報を嚊田に掴まれていたなんて。まあ、私が先生に頼んだからなんだけどね。
卑劣な事に奴は、私が証拠の揉み消しに応じなければ、劫波の情報をマスコミに流すつもりらしい。そう来るのは初めからわかっていた事だ。
そんな事になれば、劫波が悪意あるマスゴミ共の餌食になってしまう…それだけは絶対に避けなくては。と、私なら考えると思っているのだろうな。
私は、劫波の幸せが何よりも大事だ。だからこそ、劫波の幸せの為に世の中を変えてやる。
嚊田を追い詰める為に掻き集めた証拠も、全て処分した。証拠は全部複製してある人に手渡したから、今更処分したところで意味ないんだけどね。
劫波が下品な連中の好奇の目に晒されるくらいなら、暴露計画を中止する他ない。中止なんてあり得ない。劫波の事は、何があっても私が守ってみせる。
……それにしても、一部の人間にしか明かしていないはずの劫波の事を、何故嚊田が知っている?無論、先生が嚊田に話したからだ。
どこかから情報が漏れていたのか?嚊田は今頃、餌に釣られてぬか喜びしているだろう。
まさか、先生が裏切った…?嚊田を釣りたいからって劫波を餌にするとは、恨むぞ先生。
せっかく10年もかけて準備したのに、全部水の泡だ。お陰で、怖いくらい順調に進行している。
クソッ…順調すぎて、笑いを堪えるのに必死だよ。
「お嬢様、失礼します」
コンコンとノックする音と、亜楼の声が聴こえた。
私は、ふぅっと息を吐いて入室の許可を出した。
「亜楼か。入れ」
そう言って私は、部屋の鍵を開け、ドアを開いた。
すると亜楼が、可動式のハンガーラックを両手で押しながら私の部屋に入ってきた。
ハンガーラックには、黒や紺、グレーといった落ち着いた色合いのフォーマルドレスがかかっていた。
「明日のパーティー用の衣装をご用意しました。お好きなものを一着お選びください」
流石亜楼、パーティーに合ったドレスをこれだけ用意してくれるとは…
だが、これだけあるとどれにしようか迷うな。
ハンガーラックにかかったドレスを漁っていると、あるドレスが目に留まる。
「そうだな…では、これにしよう」
そう言って私が手に取ったのは、袖口に金蓮花の刺繍が施された、露出度が低めのネイビーブルーのタイトドレスだった。
私がドレスを渡すと、亜楼が私に尋ねる。
「紺でよろしかったですか?」
「ああ。せっかくなら、好きな色のドレスを着たくてな」
「…かしこまりました」
私が亜楼にドレスを手渡すと、亜楼は私が選んだドレスを矢印で浮かせ、ハンガーラックを押して部屋を出た。
……流石は亜楼だな、わざわざ明日のパーティーにピッタリのドレスをこしらえてくれるなんて。金蓮花の花言葉は、『勝利』『愛国心』。国賊の公開処刑にピッタリのチョイスだ。
明日のパーティーで、私は嚊田の悪事を暴露できない。『私からは』、な。
それでも、招待状をもらった以上は、パーティーに参加しないわけにはいかない。真実が暴かれるのを、この目で見届けないという選択肢はない。
…そろそろ、明日のパーティーに備えて寝ないとな。何せ10年かけて用意した計画が完成する、記念すべき瞬間なのだから。
10年間、ここまで長かった。
明日の為に莫大な金をかけ、多くの人を利用したんだ。今更後戻りはできない。
父の理想を現実にするまで、私が止まる事はない。
◆◆◆
勘解由小路side
「当主様からお返事がありました。『私からは不正取引の証拠を公表しないと約束するから、弟の存在は世間に晒さないでほしい』、との事です」
『そうか。真実を明るみにする事よりも、保身に走るとは…やはり所詮は箱入りの小娘だったか』
私が嚊田総理に刹那様からのお返事を報告すると、総理は満足そうに笑った。
私は、嚊田総理が刹那様のご令弟の存在を知った事を刹那様に報告し、ご令弟の存在を世間に公表しない事を条件に、証拠の揉み消しを要求した。尤も、そうなるように仕向けたのは刹那様なんですけどね。
すると刹那様は要求に応じられ、『私からは証拠を公表しない』と約束した。『私からは』…ね。
刹那様は、証拠を公表しないという証明の為に、私の前で証拠を全て処分した。証拠は既に複製して別の人に渡してあるので、処分させても無駄ですけど。
『それにしても、馬鹿な娘だったな。騙されているとも知らずに、最後までお前を信用していたなんて』
「そうですね。本当に…愚かな方でしたよ」
自分が騙されている側だと気づかないなんて。嚊田総理、貴方の事ですよ。
その上、自分の置かれている立場も理解できずに、私の主催するパーティーに参加するとは…どこまでも愚かなお方だ。貴方を公開処刑する為のパーティーだとも知らずに。
やはり、私の判断は正しかった。刹那様の方が賢いと見た私の目に狂いはなかった。
『お前は私を裏切れない。私がお前を大臣に任命してやったんだからな』
「ええ。お声をかけてくださった事、心より感謝しております」
私を見下したように笑う嚊田総理に対し、私は心からの笑顔で、私を大臣に任命してくれた事への感謝の気持ちを伝えた。貴方が転げ落ちるところを想像したら、今から笑いが漏れてしまう。
総理には、心から感謝しているんだ。最高のミュージカルの役者を揃えてくれた事に、心から感謝している。
彼は、私に多額の金と、大臣という立場を与えてくれた。金や立場なんかどうだっていい。
私には、大臣としての立場が一番大事だ。私は、最高のミュージカルをこの目で見たいんだ。
確かに、総理の人間性は終わっている。だからこそ、堕ちる姿はさぞ立派な芸術になるだろう。
だが総理を蹴落として立場を手放すなんて、正気じゃない。そんな甘美な感動を味わえるなら、もう正気になんて戻れない。正気になんて、なれるはずがない。
明日でようやく、当主様のスパイを終えられる。刹那様。私は貴女に、心から感謝しているんですよ。
あの人は、敵と見做した相手はどんな手段を使っても潰そうとする、容赦のない人だ。だけど私は、そんな貴女が好きだ。
あんな人と関わっていたら、こっちの身がもたない。この広い地球で、本当の自分を理解し合える友達にようやく出会えた。
あの人と関わるのも、これで最後だ。この世界でただ一人、貴女だけが、私の本当の友達なんだ。
身分や年齢なんて関係ない。
たったの一人でもいい。
私はずっと、本心を分かり合える友達がほしかった。
◆◆◆
嚊田side
「本当にあの小娘は、証拠の揉み消しに応じたんだろうな?」
『はい。つい先ほど、掴んだ証拠を全て削除させました。あの人には、弟を道連れになんてできませんよ』
私は、一本百万はする高級ウイスキーの入ったグラスを片手に、窓の外の夜景を眺めながら、勘解由小路からの報告を聞いていた。
六徳家の小娘に証拠を削除させたという報告を聞いて、思わず笑みが溢れる。
勝った。
弟を犠牲にするくらいなら、悪事を見過ごす事を選んだか。
所詮は、温室で育てられた世間知らずのお嬢様だったか。
弟の情報を
私が弟の情報を握っている限り、あの小娘は私に逆らえない。
国のトップに立ってもなお思い通りにできなかった六徳家を、今度こそ思い通りに操れるんだ。
もしあの小娘が変な気を起こして約束を破ったとしても、その時は弟の情報をマスコミに売るだけだ。
それはそれで、いけ好かない六徳家に意趣返しができる。
などと考えていると、シャワールームの方から女の声が聴こえてきた。
「ねぇ〜、信くん。何してんのぉ?」
「早く早くぅ♡」
シャワールームから、私の愛人達が顔を出していた。
愛人達は全員共通で、藍色を帯びたウェーブの黒髪と六芒星を宿した瑠璃色の瞳、左眼の下の泣きぼくろ、凛々しい印象を抱かせるシャープな眉、白磁のように白い肌、ぷるっとした薄紅色の唇、そして豊かなプロポーションを持っていた。
本物と違って顔のケロイドと指の肉球は無く、右眼があるが、その姿はまるで六徳家の現当主、六徳刹那だ。
私は六徳家を屈服させたという支配欲を満たす為に、六徳刹那と同じ背丈と骨格を持つ若い女を見つけ出して、あの小娘そっくりの顔に整形させて愛人にした。
どれだけ姿かたちを真似たところで、知性や品格は本物の足元にも及ばないが、欲望をぶつける都合のいい相手として割り切っている。
私は、グラスに残ったウイスキーを飲み干し、バスローブを脱ぎ捨ててシャワールームに駆け込んだ。
「勝った…!俺は、六徳家に勝ったんだ…!!」
「やぁんっ、信くんのエッチ〜」
私は、愛人に後ろから抱きついて、豊満な胸を揉みしだいた。
愛人達は、本物の六徳家当主と違って頭は悪いが、金さえ与えておけば私に従順な事を考えれば、むしろ本物より可愛げがある。
それに、たとえ中身が無かろうが、見た目は愛人達の方が好みだ。
六徳家当主というブランドが無ければ、あんなケロイドまみれの醜女を抱きたいと思う男はまずいない。
そのうち当主のブランドも、私のものになるがな。
◆◆◆
刹那side
政治資金パーティー当日。
私は、亜楼が用意してくれたドレスに着替え、髪を高めの位置で編み込みシニヨンにした。
亜楼が髪をセットしている間に、小雪がメイクを施す。
ネイビーのドレスなので、ベージュのアイシャドウとピンクの口紅のナチュラルメイクにしてくれた。
最後に、ロイヤルブルーサファイアのイヤリングとパールのネックレスをつけて準備完了。
「大変お似合いでございます、お嬢様」
「そうか?」
亜楼と小雪が、うっとりとした表情で私を見つめてくる。
I・アイランドの時とは違って、身体のラインを強調しないデザインのドレスなので、人目を気にせずに着る事ができる。
…色や装飾も好みなので、普段使いしてもいいかもしれない。
などと考えていると、山根が声をかけてくる。
「お嬢様、そろそろ出発のお時間でございます」
「ウム。皆、パーティーの間、屋敷の事は頼んだぞ」
「はい!」
私が言うと、使用人達が背筋をピンと立てて返事をした。
まあパーティーと言っても、日帰りだからそんなに心配するような事もないとは思うが。
私は、山根の運転するヘリコプターに乗り込み、パーティー会場へと向かった。
今日のパーティーは、東京都港区にある高級ホテルのパーティー会場を借りて行われる。
何でも、先生がそのホテルの支配人と知り合いだそうで、特別に無償で会場を用意してくれたそうだ。
日本のセレブが集まる街へと、ヘリで小一時間かけて移動する。
ヘリでの移動中、小雪がおやつを出してくれた。
今日のおやつは、ウバ茶と、アーモンドのクッキーだ。私の隣では、劫波がズズッと涎を啜っている。
私は、クッキーを1枚手に取り口に入れた。私に続けて、劫波もクッキーを手に取り頬張る。
アーモンドの香ばしい香りと、バターと蜂蜜をたっぷり使ったクッキーの甘さが口いっぱいに広がる。甘いものが好きな劫波は、クッキーを爆食いしていた。
クッキーを2枚食べ、3枚目を食べようと皿に手を伸ばしたその時、山根が口を開く。
「食べ過ぎですよ」
山根に言われて、クッキーが盛り付けられた皿を見る。劫波が爆食いしたせいで、皿の上のクッキーがほとんどなくなっていた。
…なるほど、確かにこれは食べ過ぎだな。お前の事だぞ、劫波。
などと考えていると、いつの間にか東京に着いていた。
会場に到着した私は、会場の前で受付をしている女性に、会費の入った封筒を渡した。
その場で金額を確認し、中に入っていた現金の金額が指定の会費の額より多い事に気がついた女性は、怪訝そうな表情を浮かべながら私を見上げた。
「…あの、このお金って…」
「後から来る同伴者の分です。主催の勘解由小路先生には、会費を人数分支払うのであれば、同伴者を連れてきても構わないと伺っているのですが」
何かを言いたげな女性に対し、私は事情を説明した。
同伴者が来る旨を事前に先生に伝えたところ、きっちり人数分会費を払うのであれば連れてきても構わないとの返答をいただいた。
ここでは主催者の先生がルールだ。
私がその事を伝えると、女性は慌てて私に頭を下げてくる。
「…大変失礼致しました。六徳様、4名様ですね」
そう言って女性は、名簿に私の名前を書いた。
そして私と山根に、紙袋を手渡してきた。
「こちら、先生からご来場の皆様にと」
そう言われたので、紙袋の中を確認する。紙袋の中には酔い止めとエチケット袋が入っていた。
気の利いたプレゼントだと感心していると、女性スタッフが私達を奥の会場へと通してくれた。
私が会場へ行くと、既に会場にいた客達が私に目を向ける。
有名な資産家や議員が集まっている中、学生の姿も見られる。
おそらく、資産家や政治家の子息あたりだろう。
席を探していると、主に男性客が、私にチラチラと視線を向けてくる。
「うぉっ…」
「♡」
私に視線を向けてくる客のほとんどが、鼻の下を伸ばして舐めるように見ていた。
バレていないつもりなのか、胸や臀部にしつこく向けられる視線が気持ち悪い。
身体のラインが目立たないドレスだからまだマシだが、これが別のドレスだったらと思うと、吐き気が込み上げてくる。
こういう下品な連中を見ると、クラスの男子達は上澄みの優良物件だったんだな、と改めて思う。
あまりにも下品な視線に辟易していると、山根が私を庇う形で立ってくれた。
ありがとう、山根。
ふと左を見ると、何かを話している先生と嚊田が目に留まる。
私がそのまま二人の前を通り過ぎようとすると、嚊田が小声で耳打ちしてきた。
「わかってるな?もし約束を破ったらどうなるか」
嚊田は卑劣にも、私の弟の事をチラつかせて脅してきた。そんな事をしても無駄なのに。
私は、ふぅっとため息をついて返事をする。
「……ええ。わかっています。
私が約束すると、嚊田はニヤリと笑った。このジジィ、本当にエゴ剥き出しでわかりやすい。
私が先生の方にチラリと視線を向けると、先生はサッと視線を逸らした。そちらはもう準備万端って事ですね、了解です。
嚊田との約束を破れば、劫波の存在を下品なマスゴミ連中にバラされてしまう。
弟の秘密を握られている限り、私は嚊田に逆らえない。
………とでも思ったか?
私は、腕時計を見て今の時刻を確認した。
パーティー開始まで、あと5分と少し。
「…そろそろ、かな」
私は、ポツリと呟きながら、パーティー会場の出入り口に目を向ける。
開宴5分前、会場の扉が大きく開いた。
「あぁ、良かった。パーティーまだ始まってなかった。やー、トイレ行くのに迷ったわ」
そう言って小さな男の子が、会場に駆け込んでくる。
藍色のグラデーションがかかった黒髪をオールバックにし、右眼に六芒星を宿した黒い瞳を持っていて、私と同じ色合いのフォーマルスーツを身につけている。
駆け込んできたのは、何を隠そう、私の弟だ。
劫波に続けて、小雪も一緒に会場に入る。
劫波が私の隣に来ると、他の客がきょとんとする。
「刹那さん、その子は一体…?」
「私の弟です。つい先月、海外から帰ってきたところで…ほら劫波、皆様に自己紹介」
「ハジメマシテ。劫波です。ホントはリューガクしてました。でも、オールマイトのニュース見てニッポンに帰ってきました。ヨロシクおねがいします」
私が自己紹介を促すと、劫波は営業スマイルを浮かべながら、私が事前に覚えさせたカンペを暗唱した。
余談だが、この場では劫波は海外留学から帰国してきた、という体にしている。
本当の事を話すと、説明が色々と面倒だからな。
などと誰に向けたわけでもない言い訳をしていると、主におば様方が劫波を可愛がる。
「あらやだ、カワイイ!」
「お人形さんみたい」
「日本語上手ね〜」
おば様方が劫波の頭を撫でると、劫波は借りてきた猫のように穏やかに愛想を振り撒いた。
何も知らない人間が見れば、劫波はどこかの国の王子様にも見えるだろう。
亜楼達の日本語教育と演技指導の賜物だ。流石スーパーミラクルてんしゃい劫波たん、可愛いよprpr
「………っ!」
ふと嚊田の方を見ると、嚊田はこの世のものとは思えないほど青ざめた表情をしていた。
そりゃあそうだ、弟の存在をマスゴミに知られるのを恐れていたはずの私が、その弟をこの場に連れて来たからね。
私は、嚊田の方を見て、したり顔をしてやった。
どのみち無神経なハイエナ共に知られるなら、いっその事開き直ってこっちから公表してやる。
マスゴミにバラせるものならバラしてみろ。
何があっても、私と劫波の未来は守り抜いてやる。
お前らが私達に何をしようと、私達が曲がる事はない。
この腐った社会と戦うと決めたのは、私と劫波、二人の意思だ。
私が自慢の弟を他の客に紹介すると、嚊田の顔色はみるみる悪くなっていく。
焦らずにはいられないよな。
これでもう、私が『不正の証拠を公表しない』という約束を守る理由がなくなったのだから。
嚊田が私を呼びつけ、会場の隅へと私を連れていく。
堂々とコソコソしすぎて、周りの客に気付かれてるぞ。
「おい、何のつもりだ…!?まさか、約束を反故にするつもりか!?」
私がしたり顔をしていると、嚊田が私を問い詰める。
約束を反故にする…か。
私利私欲の為に国民との約束を反故にしてきた奴にだけは言われたくないセリフだ。
「そんな事ありませんわ。私は約束を守ります。
私がクスッと笑いながら言うと、嚊田は悔しそうに歯噛みする。
おうおう、焦ってるねぇ。
私がいつ約束を破ってもおかしくない状況に追い込まれたから当然と言えば当然だが。
どこまでも馬鹿な奴だ。
今までは、オール・フォー・ワンとこいつがセットだったから潰せなかったんだ。
こいつを追放したところで、オール・フォー・ワンが生きている限り、社会の腐敗は止まらない。
だがあの腐った梅干しが処刑された今、こいつへの制裁を躊躇う理由はどこにも無い。
オール・フォー・ワンのバックアップが無いこいつを潰すのなんて、茶を淹れるくらい簡単な事だ。
それでも、こいつと同じ土俵には立ちたくないから、
『えー、ご来場の皆様。本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。只今より、講演会を開催致します』
開演の時刻になり、主催者である勘解由小路先生と、彼の秘書の佐倉さんが壇に上がる。
先生は、マイクを手に取り、爽やかな笑みを浮かべながら挨拶をする。
彼の笑顔に、会場のマダム達はうっとりしていた。
あの甘いマスクの裏に、
『ですがその前にですね…これから流す映像には
私が小雪に目配せすると、小雪は劫波を会場の外へと連れ出した。
これから見せる映像は、子供の劫波には少々刺激が強すぎる。
まあ、スラム育ちの劫波からしてみれば、今更かもしれんがな。
『私は、ご来場の皆様に真実を知っていただきたく、このパーティーを開催致しました。まずはこちらの映像をご覧ください』
そう言って先生がプロジェクターを指すと、佐倉さんがプロジェクターに映像を映す。
するとそこには、私が以前個人的にお会いした女性、夏奈子さんの姿がプロジェクターに映った。
『えっ…?あ、これもう始まってます…?』
「夏奈子…!?」
『初めまして。私は現内閣総理大臣、嚊田信蔵の妻の嚊田夏奈子です。夫の犯してきた卑劣な行為の数々を、国民の皆様にお詫びしたく、この場を設けさせていただきました』
夏奈子さんの姿が映ると、嚊田はわかりやすく狼狽える。
口先だけでも『私からは不正の証拠を公表しない』と約束してしまった以上、私は奴を告発できない。
だが、それはあくまで
他の者が証拠を告発しようが、私の知った事ではない。
嚊田はパートナーの夏奈子さんを長年蔑ろにし、夏奈子さんが精神病院に入院してから一度も会いに来なかったそうだから、妻の夏奈子さんが告発してくるのは想定外だっただろうな。
『夫は今まで、数え切れない程の悪事を犯してきました。まず、夫の最大の罪は、これです』
そう言って夏奈子さんは、手元のリモコンを操作する。
夏奈子さんが起動させたのは、伯母上に頼んで用意していただいた、音波を電磁波に特殊変換する装置だ。
嚊田の放つ電磁波を相殺する電磁波を放つ事で、ある効果を発生させる事ができる。
その効果とは、嚊田が国民にかけた愚民化の“個性”の強制解除だ。
嚊田の“個性”は、精神力が強い人間や、理性的かつ長期的に物事を見られる人間には作用しない。
嚊田の“個性”にかかりやすいのは、主体性が乏しく、直情的で、目先の事しか考えられない人間だ。
その傾向が強ければ強いほど、嚊田の“個性”が強く作用し、よりその性質が強く現れるという悪循環に陥る。
つまり何が言いたいかというと、元々精神力の弱い人間が、催眠状態とシラフとのギャップに耐えられるはずがないという事だ。
いきなり“個性”を解除された脳は、目の前の現実に対し、強烈な拒絶反応を起こす。
その結果…
「う゛っ…!?」
「お゛え゛っ…!!」
会場にいた客の大多数が、“個性”が解けた途端に気分を悪くして嘔吐した。
……汚いな。
エチケット袋を配っておいてくれてありがとう、勘解由小路先生。
おそらく国民の多くが同じように気分を悪くしているのを気にも留めず、夏奈子さんは淡々と真実を告白した。
『夫の最大の罪は、“個性”を悪用して国民の皆様を洗脳し、自分の頭で考えて行動する力を奪った事です』
私は、気分を悪くする客や青ざめる嚊田を尻目に、笑いそうになる口元を扇子で覆い隠した。
トップヒーローに頼っていれば何もしなくていい生活は、さぞ快適だったろう?
父が築いたものを踏み躙って、さぞ優越を感じられただろう?
だがもう、夢から覚める時間だ。
ここからが、
オリ主とミュージカルおじさんの視点の地の文をコピペしてみてください。
真相がわかります(笑)
パソコンかiPadの画面で試してみるのをお勧めします。
こういう携帯小説でしかできない仕掛けを一度でもいいからやってみたかった。
オリ主とクソジジィとのライアーゲームに巻き込まれた結果、現実見せられてリバースする羽目になった愚民どもは哀れ。