私の世直しアカデミア   作:M.T.

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PALUS様、刹那@閲覧垢様、青苗様、高評価をしていただきありがとうございます!
面白いと思っていただけましたら、高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。



第45話 サプライズパーティーのお時間です

『夫の最大の罪は、“個性”を悪用して国民の皆様を洗脳し、自分の頭で考えて行動する力を奪った事です』

 

 嚊田の妻の夏奈子さんが、SNSを使って告発動画を配信し、嚊田の悪事を世に知らしめた。

 嚊田の“個性”が強制解除された今、来場客の大半が吐き気を催し、SNS上でも何百万もの人が体調不良を訴え、もはや地獄絵図だ。

 超常黎明期以降、“個性”の発現に伴い日本国憲法が改正され、新たな憲法が追加された。

 “個性”を悪用するゴミクズから国を守る為に、先人達が知恵を出し合い、ルールを新たに決めたのだ。

 要約すると、『三権の長*1は、原則として就任中一切の“個性”の使用を禁止する*2』、『違反が確認された場合、違反者を即刻除名する事ができる』という内容だ。

 嚊田の場合、就任後も“個性”を常に使っていただけでなく、“個性”を悪用して国民を洗脳するというズルをやらかした。

 これは悪質なケースに該当するため、“個性”の不正使用を立証できれば、不信任決議案の提出を待たずに強制的に辞職させる事ができる。

 

「……嚊田総理。これは一体どういう事です?この映像で語られた内容が真実かどうか、ご自身の口でご説明いただけますか?」

 

 私は、嚊田にゴミを見るような目を向けながら、告発動画の内容について説明を求めた。

 もしここで素直に認めて全国民に謝罪をするようであれば、これ以上の追及はしないつもりだった。

 罪を認めて反省した人間を追い詰めるほど、私も無慈悲ではない。

 もちろん、罪は罪としてきちんと断罪するがな。

 だがこの老害が素直に罪を認めるはずがなく、見苦しい言い訳を始めた。

 

「み、皆さん!違います!騙されてはいけません!これは、誰かが仕組んだ悪質なイタズラです!オールマイトが引退した今、社会を混乱に陥れる為に、こんな捏造動画を流したんです!」

 

 ああ、そうか、そうか。

 そういう事、言うんだな。

 これが最後のチャンスだったのに。

 こうなったら、お前が犯してきた悪事を、一つも残らず世に曝け出してやる。

 

 もう、反省も改心も要らない。

 お前のような人間は、悔い改めるな。

 

「この動画に映っているのは、私の妻ではありません!!一体誰ですかこの女性は!?」

 

 嚊田は、映像に映っている女性は夏奈子さんの偽者だと主張し出した。

 嚊田の焦りっぷりを見れば、どちらが嘘をついているかは明白だがな。

 

「おい、勘解由小路!!お前、何のつもりだ!!何だこの映像は!?」

 

「も、申し訳ございません総理!おい何をやっているんだ佐倉、流す映像が違うだろう!?」

 

「申し訳ございません、先生!すぐに映像を切り替えます!」

 

 “個性”を強制解除されて冷静さを失った嚊田は、勘解由小路先生に映像を止めさせようとする。

 だが欲に溺れた権力者を蹴落として楽しみたい特殊性癖の持ち主である先生が映像を素直に止めるはずもなく、もたついているフリをして時間稼ぎをした。

 

「ああっ、すみません!先生、ここどうやってロック外すんでしたっけ!?」

 

「早く映像を停止させろ!こんなものが世に出回ったら大変だぞ!」

 

 先生と佐倉さんは、映像の切り替えに手こずっているふりをして、告発動画を垂れ流した。

 あまりにも映像の切り替えに手こずっているので、嚊田は顔を真っ赤にしてイライラしていた。

 本当にあの動画がでっち上げなら、毅然とした態度を取っていればいいものを…ああ、無理か。だって本当の事だもんな。

 まあ、この動画はSNSで配信されているから、ここで映像を止めたところで無駄なんだがな。

 

 それにしても、先生と佐倉さんの見事な大根っぷりには、思わず乾いた笑みが溢れる。

 というか、完全にふざけてるだろ、あの二人。

 

 二人がもたついている間にも、夏奈子さんは嚊田の悪事を告発し続けた。

 30年以上にもわたるモラハラや暴力の数々。

 「俺は議員だぞ」などと夏奈子さんを怒鳴りつけて奴隷のように扱き使い、そのくせ自分は政治資金をネコババしてキャバクラ通いしていた事。

 嚊田の卑劣なモラハラや暴力のせいで死産して子供を産めない身体になり、そのせいで精神病院に入院する事になったのに、嚊田は夏奈子さんの事を用済みと言わんばかりに放置してきた事。

 六徳家に嫌がらせをする為だけに、当家のご先祖様が築いてきた秩序をぶち壊し、(ヴィラン)を雇って治安を悪化させた事。

 夏奈子さんは、今まで溜まっていた怒りを爆発させるかのように、嚊田の卑劣な行いの証拠を全国民に曝け出した。

 

『……最初は、国の為に働いている夫を支えなきゃと思っていたんです。でもあの人、国の事なんてこれっぽっちも考えてなかった…!!それどころか、六徳家への意趣返しだとか、そんな幼稚な理由で国を腐敗させていただなんて…こうなったのは、現実から目を背け、夫を増長させた私の責任です。本当に、申し訳ございませんでした…!私は、妻としての役目を何も…!!』

 

 夏奈子さんは、告発動画の配信中も、ハンカチで涙を拭いながら啜り泣いていた。

 嚊田と夏奈子さんは、お見合い婚だったと聞いている。

 結婚は互いの両親が決めた事で、奴と結婚した夏奈子さんに落ち度はない。

 強いて言うなら、あんなカスを引いてしまった彼女の運が悪かったのだ。

 それでも彼女は、嚊田を今まで本気で愛していた。

 愛していたからこそ、長年寄り添ってきた夫にこんな形で裏切られた事が許せなかったのだろう。

 

 SNS上では、夏奈子さんに対する同情や、嚊田政権への失望の声が寄せられていたが、オールマイトが引退したこのタイミングで悪事を告発した夏奈子さんへの批判や、捏造を疑う声も少なからずあった。

 だが夏奈子さんが泣きながらも真実を話すと、夏奈子さんに共感したであろう視聴者が、次々と嚊田の悪事を告発し始めた。

 すると、悪事の証拠がまあ出てくる出てくる。

 

 今までに何人もの議員や秘書をパワハラやセクハラで辞職に追い込んできた事。

 過去に未成年を妊娠させ、認知せずに金と権力を使って揉み消そうとした事。

 裁判官に賄賂を渡し、自分の都合のいいように裁判の結果を捻じ曲げた事。

 国民達が汗水垂らして納めた税金で(ヴィラン)を買収し、その(ヴィラン)をヒーローに倒させていた事。

 嚊田が雇った(ヴィラン)のせいで、多くの人が家族や職を失った事。

 そして、先日処刑された凶悪(ヴィラン)、オール・フォー・ワンから賄賂を受け取り、(ヴィラン)が暗躍しやすい社会にする為にゴミのような政策を敷いていた事。

 自分の地位を脅かしかねない有能で善良な議員や官僚を暗殺し、その事実を揉み消そうとした事。

 

 パワハラ、セクハラ、モラハラ、不倫、横領、賄賂、詐欺、婦女暴行、殺人、売国行為、“個性”の不正使用…

 嚊田は、おおよそ人が思いつく悪事の限りを尽くしていた。

 嚊田の悪事を知った来場客はドン引きしていた。

 ここまで来ると、もはや悪事の満漢全席だな。

 国会議員には不逮捕特権があるからってここまで調子に乗れるのは、もう病名のある精神状態なんじゃないかとすら思えてくる。

 

 夏奈子さんの告発に六徳家(わたし)が一枚噛んでいる事に勘付いたのかは定かではないが、嚊田の巻き添えを喰らって断罪されるのを恐れたのか、秘書や閣僚、与党の議員までもが嚊田の告発をし始めた。

 まあ、水面下では私の信頼する有能な大人達が売国奴に制裁を加えてくれているから、賢い人間ほど自分の置かれている立場に勘付いて、嚊田を切りたくなるのも無理はないが。

 何というか…こういうのを見ると、人は追い詰められた時にこそ本性を現すというのは、ある意味正しいのかもしれない。

 部下からも見限られるとは、よっぽど人望がお厚いようで。

 おお、哀れ哀れ。

 

「ち、違う!!これは全部捏造だ!!皆さん、騙されないで下さい!!」

 

「これだけの人が、貴方を陥れる為だけに証拠を捏造したと?告発の全てが真実ではなかったとしても、貴方にも原因があると考えるのは当然でしょう?火のないところに煙は立たぬ、と言いますものね」

 

「違う!!全くの事実無根だ!!悪質な(ヴィラン)が、社会を混乱に陥れる為に結託してこんな事をしたんだ!!」

 

「告発者の中には、貴方の秘書や閣僚もいますが。今まで貴方を支えてくれていたお仲間まで(ヴィラン)扱いするなんて、ひどい物言いですね」

 

「そ、それは…(ヴィラン)に唆されて、あんな事を…!」

 

「だとしたら、貴方の人望がその程度だったという事では?無実の罪を着せられたのに、誰も信じてくれないんですね。ああ、可哀想」

 

 見苦しい言い訳をする嚊田に反論すると、嚊田はしどろもどろになる。

 余計な事を喋らなければいいのに、ボロが出るだけなんだから。

 などと考えていると、また新たな告発動画が投稿された。

 佐倉さんがパソコンを操作していないにもかかわらず、勝手に動画が再生される。

 おそらく、ラブラバさんあたりが先生のパソコンをハッキングしているのだろう。

 私の周りに有能な人材が多くて、ほんと助かるよ。

 そう考えつつ画面を見ると、吐き気を催す程に酷い映像が流れる。

 

 

 

『あっ、あんっ、あんっ、信くん♡しゅごいのぉ♡せつな、こんなのはじめてぇ♡』

 

 モニターには、嚊田が私によく似た藍色の髪の女とよろしくやっている場面がデカデカと映る。

 しかも一人ではなく、私にそっくりな女は画面に映っているだけでも三人いて、嚊田は彼女達の事を『刹那』と呼んでいる。

 

 お゛ぇぇぇ…

 キモチワリィ…

 

 父の理想を邪魔した敵と、自分のコスプレをした女とのプレイを見せつけられるとか、もはや新手の拷問だろ。

 この動画に反応する事すらも、嚊田と同じ土俵に立ったようで不快なので、敢えてノーリアクションを貫いたわけだが…

 

 不倫は一旦考えない事にするとして、お互い合意の上なら彼女達に私のコスプレをさせる事自体は悪い事ではないし、人の趣味趣向にとやかく言う筋合いはない。

 私に似た相手で代替しようという心理は、理屈としては理解できなくもない。

 私がキモいと感じたのはそこではない。

 何がキモいかって、こいつの場合、六徳家(わたし)への支配欲を満たそうという魂胆が透けて見えるところだ。

 要はこいつにとって、妻である夏奈子さんや守るべき国民よりも、卑小でくだらない自尊心を慰める方が大事なのだ。

 だからキモい。

 

 山根も表情には出さなかったものの、今にも卒倒しそうになっていた。

 赤の他人だと頭ではわかっていても、主人である私にそっくりな女の不貞行為を見せつけられるのは、精神的にかなりキツいものがあるのだろう。

 かくいう私も、混乱の最中にいる。

 何でもいいから嚊田を引き摺り下ろせる証拠を集めてこいとは言ったが、まさか義爛さんが雇った探偵達がここまで仕事するとは思わなかったよ…

 なぜベストを尽くしたのか(誰がここまでやれと言った)

 こんな汚い映像見せてごめんな、山根。

 

「「「「……………」」」」

 

 国のトップともあろう者が、六徳家当主に似た女を侍らせて不貞行為に及ぶという悍ましい映像に、その場にいた客のほとんどが絶句する。

 そんな中、来場客の大学生が、ポツリと、しかしハッキリと聴こえる声で呟いた。

 

「…………きもっ」

 

 大学生が呟いた一言が、パーティー会場に響き渡る。

 ふと嚊田を見ると、顔面蒼白になりわなわなと震えていた。

 こんなに悪事をやらかしておいて、平然と国のトップに立っていられるとは、逆に素直に感心してしまう。面の皮は広辞苑か?

 だがこんなものが流出したら、もう政治家として飯を食っていく事はできないな。

 可哀想に(笑)。

 

「ここまで来ると、もはや軽蔑を通り越して尊敬すらしてしまいますわ。貴方の天職は、政治家ではなく詐欺師だったのではなくて?」

 

「違う、私はこんな事していない!!誰かが、私を陥れる為にこんな捏造動画を流したんだ!!」

 

 私が扇子で顔を扇ぎながら笑うと、嚊田は唾が飛び散る程の大声で必死に言い訳をした。

 本当に捏造なら、毅然とした態度でそう言えばいいのに。

 そんなに動揺するから、言い訳してるようにしか見えないんだよ。

 

「おい、安久津、勘解由小路、佐倉!!何をボサっと突っ立っている!?さっさと映像を止めろ!!」

 

 嚊田は頼みの綱の安久津さんに縋るが、安久津さんは冷や汗をかきながら目を逸らしていた。

 あくまでも、今回の件は自分は無関係だと言いたげな様子だ。

 嚊田のやらかしは、六徳家当主への冒涜とも捉えられかねない行為だ。

 今回の件は、流石に庇いきれないと判断したのだろうな。

 

 などと考えつつ、チラッと勘解由小路先生の方を見る。

 おい先生、仮にも部下だろ。

 このままだと見ていてあまりにも可哀想だから、フォローして差し上げろ。

 

「こんなのは、じ、め、て♡」

 

 先生に視線を向けると、先生は恍惚とした表情を浮かべて身震いしていた。

 ……ああ、完全にヘヴン状態だ。

 ヘヴン状態なら仕方がない。

 ヘヴン状態なら仕方がない(大事な事なので2回言った)。

 このパーティーも収拾がつかなくなってきたし、そろそろトドメを刺すか…

 

「……はぁ。この部屋、空気が悪いわね。誰か換気してくださらない?」

 

 私は、ゴミを見るような目で見下しながら言い放った。

 私が嚊田を遠回しに汚物扱いすると、嚊田の顔面に青筋が浮き、怒りのあまり人間のそれとは思えない程に赤黒く変色する。

 悪事の証拠を晒されるよりも、手を組んでいた(ヴィラン)が潰されるよりも、確実にこいつの心が壊れる出来事がある。

 それは、この私に見下される事だ。

 

 嚊田は、この国で財界の頂点に君臨する私達六徳家に劣等感を抱いている。

 特に先代当主である父の事は、親の仇の如く憎んでいた。

 きっと内心では、どんなに努力しても父に勝てないとわかっていたのだろう。

 だからこそこいつは、不正に手を染め、(ヴィラン)と手を組んで六徳家を弱体化させようとした。

 

 私は、議員を賄賂で買収する事も、犯罪に手を染める事もなく、あくまで対等な対話だけで有能な大人を味方につけ、こいつをここまで追い詰めた。

 全ては、格の違いを突きつける為。

 ズルで積み上げた地位を正攻法で崩す事で、こいつの人生そのものを全否定する。

 

 誰がお前なんかと同じ土俵になど降りてやるものか。

 たとえどこまで上り詰めようと、“個性”や権力に頼っている限り、お前は永遠に私達に勝てない。

 

「見るな…俺を、そんな目で見るなぁぁっ!!」

 

 私が嚊田を見下して挑発すると、案の定、嚊田が激昂して私に殴りかかる。

 ワォ、か弱い乙女*3に殴りかかるとは、なんと野蛮な。

 ふと先生に目を向けると、嚊田が私に殴りかかる瞬間をしっかりスマホのカメラに収めていた。

 おそろしく速い撮影、私でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 嚊田の拳が私の顔面の数センチ前まで迫った瞬間、突然嚊田の拳がピタリと止まる。

 見ると、山根がワイヤー状の捕縛武器で嚊田を拘束していた。

 

「お怪我はございませんか、お嬢様」

 

「ありがとう山根」

 

 殴られる直前に山根が守ってくれたおかげで、私の顔には傷がつかずに済んだ。

 いやほんと、有能イケオジすぎて助かるわ、ウチの執事長。

 

「離せ!!俺を誰だと思っている!?」

 

 ワイヤーでギチギチに手足を縛られた嚊田は、私と山根に罵声を浴びせながら暴れた。

 おいおい、あんまり暴れると身体ちぎれるぞ。

 などと考えつつ、私は嚊田に歩み寄って口を開く。

 

「仮にも国のトップともあろうお方が、一国民に手を上げるとは…随分と堕ちたものですね。ああでも、未遂で済んで良かったですわね?」

 

「うるさい!!お前に何がわかる!?圧倒的な才能の差を見せつけられた人間の気持ちが、お前にわかるはずがない!!こうでもしなきゃ…お前らを出し抜けなかったんだ!!」

 

「…………」

 

「私は、お前ら六徳家がずっと憎かった。特にお前の父親は、“無個性”のくせに、見下されるどころか英雄として讃えられ、私に無いものを全部持ってた。あの男の作る、誰もが何者かになれる世界でなんざ生きたくなかった。だから壊してやったんだ!!」

 

 私が嚊田を見下して嘲笑すると、嚊田は人殺しのような目つきで私を睨みながら口汚く罵った。

 こうして見ると、一周回って哀れみすら覚えてくるな。

 完全なる逆恨みだが、散々地獄を見てきた今なら、こいつの気持ちが理解できなくもない。

 

 父はかつて、オールマイトと双璧を為す英雄と讃えられたが、父の善行に救われた者ばかりだとは限らない。

 強すぎる光は濃い影を生み出すように、希望の象徴と謳われた父も、反感を抱く誰かにとっては絶望の象徴だったのかもしれない。

 だが、私の父に人生を狂わされたからといって、か弱い人々の人生を壊していい理由にはならない。

 

「私は別に、貴方が父を妬んだ事を非難しているのではありません。貴方は、自分と他者を比べて僻むあまり、自分より弱い誰かの立場を考える事を忘れてしまった。だからこんな風に下から足を引っ張られるんですよ」

 

 私が事実を突きつけると、嚊田は言葉を失う。

 私は元々、自ら直接嚊田に手を下すつもりなどさらさらなかった。

 何故なら、私が手を下すまでもないからだ。

 

 嚊田を糾弾するのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私が六徳家の権限で嚊田を潰したところで、それは奴への制裁にはならない。

 それに、私の目的は制裁そのものではなくその先、世の意識を変える事にある。

 私ではなく、嚊田に虐げられてきた夏奈子さんの告発だったからこそ、嚊田は激しく動揺したし、今まで政治に無関心だった国民の心を動かした。

 私は、そのきっかけを作っただけに過ぎない。

 父を免罪符に弱者を踏み躙ってきた愚か者には、踏み躙ってきた者達に引き摺り下ろされるのがお似合いだ。

 

 より良い社会や未来の為に先人達が築いてきた秩序を私情で踏み躙ったこいつを、私は絶対に許さない。

 理想の世界に生きるのがそんなに嫌なら、望み通りこの世界から隔離してやる。

 今更改心なんて許さないし、やり直すチャンスなんて与えない。

 ただただやる事もなく、死ぬまで孤独でいればいい。

 

 そんな事を考えていると、会場にいた誰かがハッキリと『クズ』と言ったのを聴き逃さなかった。

 口を開いたのは、今まで嚊田を支持していた資産家だった。

 私は、それを分かった上で、地を這うような声で言い放った。

 

「誰です?今、総理を『クズ』と言ったのは」

 

 私が言い放つと、先程までザワザワしていた会場が静まり返る。

 私が怒りを覚えているのは、何も嚊田に対してだけではない。

 嚊田の“個性”の影響があったとしても、国民の背負う責任がゼロになったわけではない。

 嚊田に投票して当選させたくせに、今になって嚊田叩きに夢中になっている偽善者どもには、つくづく呆れる。

 そいつらは、自分が善人側だと思い込んで状況を悪化させ、そのくせ自分の言動に責任を持てない、社会のゴミだ。

 

「今ここにいる有権者の方々に問います。一体誰のせいでこんな事になったか、本当にわかっていますか?人の失態を非難して、正義ヅラしている場合ですか?確かにこの国の国民を騙した総理が一番罪深いですが、元を辿れば、彼を選挙で落とさなかった貴方達にも責任があるんですよ。もういい大人なんだから、自分の過ちを他人のせいにするのはやめましょう」

 

 私が言い放つと、その場にいたほとんど全員が顔面蒼白になり、言葉を失う。

 国民の意思を尊重する代わりに、本来国家元首が背負うべき重責を国民全員で背負う。それが民主主義のあるべき姿だ。

 馬鹿な政治家を選んだ責任が取れないなら、独裁国家にでも移住すればいい。

 自分の行動にすら責任を持てない愚民は、独裁者に生涯搾取され続けるのが分相応だ。

 馬鹿に票を入れた大馬鹿に、正義ヅラして嚊田の罪を非難する資格はない。

 

「私からは以上です」

 

 言いたい事を伝えた私は、そう言って先生の方を見る。

 ヘヴン状態から正気に戻った先生は、マイクを手に取り、来場客に向けてアナウンスをする。

 

『えー皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございました。本日は私どもの不手際により、不適切な映像が流出してしまったため、誠に勝手ながら、本日の講演はこれにて終了とさせていただきます。これより返金対応をさせていただきますので、返金を希望される方はお帰りの際に受付スタッフにお知らせください。ご来場の皆様にご迷惑をおかけした事を、深くお詫び申し上げます』

 

 先生がアナウンスをすると、再び会場がザワザワし始めた。

 あれだけの事をしておいて毅然とした態度でアナウンスできるメンタルは、流石としか言いようがないよ…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

勘解由小路side

 

 いやぁー、いいもの見れた。

 やっぱりミュージカルは、生で見るに限る。

 欲に溺れた演者がその地位を理不尽に奪われる絶望の表情、周囲の観客の失望の視線、冷笑、その全てが私に美しい世界を見せてくれる。

 こんなの知ってしまったら、もう正気になんて戻れない。

 たとえこの人生をドブに捨ててでも見届けたいものが見られた。

 全ては、最高のミュージカルにピッタリな演者を揃えてくれた刹那様のおかげだ。

 改めて思う。

 私は、この光景を見る為だけに生まれてきたのだと。

 

 嚊田総理は、“個性”を悪用していた事が立証されれば、近いうちに総理大臣の地位を剥奪されるだろう。

 そうなると、私も自動的に大臣を辞職する事になるわけだが…

 一応食い繋ぐアテがあるので、大して気にしていない。

 

 罪を暴露された嚊田総理は、抜け殻のようになり、刹那様の御付きの山根さんに連行されパーティー会場を出て行った。

 ここにいるほとんどの人は、彼を醜いと感じる事だろう。

 でもね、総理…いえ、嚊田さん。

 罪を暴かれ築き上げた地位を崩された貴方の絶望の表情こそが、私にとっては最高傑作なんですよ。

 貴方は今、この場にいる誰よりも、ひどく美しい。

 

「貴方のような異常者に付き合うのも、これで終わりですね」

 

 私がミュージカルの余韻に浸っていると、佐倉が私に声をかける。

 佐倉は今まで、私を側で支え続けてくれていた。

 私が、()()()()()()()()()()()()()()()()()であると知りながら。

 

「そうと知りながら私に付き合ってくれたのは、父親への復讐の為かい?」

 

 私は、佐倉の真意を確かめるような発言をした。

 私の秘書、佐倉(さくら)信春(のぶはる)には、実は生い立ちにちょっとした秘密がある。

 髪や目の色も顔立ちも“個性”も母親譲りだし、学生時代に結婚して改姓したから知らない人も多いが、何を隠そう嚊田さんの息子だ。

 彼は母親を虐げ議員の責務を放棄してきた父親に恨みを募らせ、父親に一矢報いる為に、私が異常者と知りながら近づいてきたのだ。

 若くして結婚し妻の姓に変えたのも、社会に出てから父親の姓を名乗りたくなかったからだろう。

 

「いえ…私は、正しいと思った事をしただけです」

 

 私が尋ねると、佐倉は首を横に振った。

 嘘が下手だね。

 さっき嚊田さんが言い訳していた時、必死に笑い堪えてるのを見逃さなかったぞ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

「んまい…」

 

 勘解由小路先生主催の政治資金パーティーから1週間後の早朝。

 私は、新井が作ってくれた秋刀魚の塩焼きに舌鼓を打っていた。

 よく脂がのっていて、塩加減や焼き加減も絶妙だ。

 なめこの味噌汁に口をつけ、新井特製のネギ味噌と糠漬けを、納豆と一緒に頂く。

 炊きたての白米とよく合うんだ、これが。

 

「西馬、ニュースつけてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 私が命令すると、西馬が“個性”を使ってテレビをつけた。

 テレビには、嚊田がタルタロスに収監されたというニュースが流れた。

 夏奈子さんをはじめとする大勢の人々による告発の内容が真実であるとの確認が取れ、嚊田はタルタロスにぶち込まれる事になったそうだ。

 

 政治資金パーティーから2日後、嚊田の“個性”の不正使用が立証され、嚊田の内閣総理大臣の地位が剥奪される事が正式に決まった。

 免職前の最後の本会議では、政治資金パーティーでのストレスが溜まっていたせいか、野党議員の追及に対し逆ギレして罵声を浴びせ、罵詈雑言に部分のみを切り取られてSNSに拡散されさらに炎上した。

 奴の免職後、次の衆議院選挙までは嚊田内閣の官房長官が内閣総理大臣臨時代理を務める事になった。

 今回の一件の火消しを行った臨時代理だったが、対応があまりにも後手後手すぎて、既に多くの国民の心は与党から離れていた。

 あんな事があったから、次の選挙で勝つのはもう無理だろうな。

 そして夏奈子さんは、嚊田と離婚し、退院後は自然の多い郊外で平穏に暮らしているそうだ。

 

「あっはっはははははははははは!!!」

 

 嚊田の免職とタルタロスへの収監をニュースで知った私は、思わず腹を抱えて高笑いした。

 ついに、嚊田を追放する事に成功した。

 これは、私達から美しい世界を奪った罰だ。

 これからは私が、お前の大嫌いな、誰かが何者かになれる社会を作ってやる。

 お前は、豚箱の中で一生孤独のまま死ねばいい。

 

「お嬢様。笑いすぎですよ」

 

「失礼」

 

 山根に注意され、ようやく笑いが収まった。

 国会や内閣にはまだオール・フォー・ワンのシンパがいるが、嚊田の免職により衆議院が解散する事が決定した今、あとはもう消化試合だ。

 残りのシンパを見つけ出して、何かをやらかす前にぶっ叩く。

 オールマイトが引退した直後に総理が不在になったので、私の仕事も増えたが、全部捌き切ってやる。

 

 などと考えていると、ちょうどニュースが切り替わり、プロヒーローの免許返納のニュースが放送される。

 嚊田の失脚から今日までわずか一週間しか経っていないが、免許を返納したヒーローは既に1万人を超え、離職者は今もなお増え続けている。

 

「とうとうプロヒーローの離職率も4割を超えたか。いよいよヒーロー社会の崩壊も近いな…」

 

「他人事のように仰っていますが、半分はお嬢様のせいでは?」

 

「ムッ」

 

 私が独り言を言うと、山根が正論で返してきた。

 総理の不正が明るみになった事による懸念点がない訳ではない。

 それは、ここ数日で民衆のプロヒーローへの不信感が高まり、民間や企業間でのヒーロー離れが一気に加速し、ヒーロー免許を返納するプロヒーローが大量に現れた事だ。

 元々ヒーローに頼る社会から脱却する動きが若者間で見られていたが、今回の一件がそれに拍車をかけたというべきか。

 

 配信の後、嚊田がヒーロー社会を成立させる為に意図的に(ヴィラン)犯罪を発生させていたのを、殆どのプロヒーローは知らなかった事、自分達にやれる範囲で真面目にヒーロー活動をしていた事を一応付け加えておいた。

 そのおかげで、掲示板やSNSではプロヒーローへの同情的な意見がほとんどだったが、中にはプロヒーローやヒーロー公安委員会を非難する声もあった。

 

 (ヴィラン)がいたからヒーローが必要とされ、そしてヒーローがいたから(ヴィラン)が必要とされた。

 真面目に活動していたヒーロー達を非難する意図はないが、残念ながらこれは事実だ。

 免許を返納したヒーロー達は、その事実を突きつけられ、自分達が知らず知らずのうちに(ヴィラン)犯罪発生の遠因を作っていた罪悪感に耐えられなかったのだろう。

 もしくは、これからはヒーロー業で飯を食っていけなくなると判断したか。

 

 ヒーロー社会の為に(ヴィラン)犯罪が発生する仕組みを潰したので、いずれヒーローは民衆から必要とされなくなるかもしれない。

 だが、民衆の生活を脅かす理不尽は無くなったわけではない。

 (ヴィラン)が激減したら生きていけなくなる無能は不要だが、誰かを救う気概があるヒーローは()()この国に必要だ。

 これからはヒーローにとっては生きにくい時代になるだろうが、現存するヒーローにまだ人を救う気があるのなら、逆境に負けずに頑張ってほしいものだ。

 

「ご馳走様」

 

「お嬢様、制服をお持ちしました」

 

「ああ。ありがとう」

 

 食事を終えると、亜楼がアイロンがけされた制服を持ってきてくれた。

 今日から、雄英の制服はまた冬服に戻る。

 4月に比べて胸が大きくなったから制服がキツくなりそうなものだが、亜楼が私の体型の変化に合わせてジャケットを調節してくれたので、要らない心配だ。

 冬服の時はパンストを穿くのだが、まだ今日は少し暑さが残っているので、下はガーターストッキングを履いた。

 

 …いや、便利なんだよ?

 涼しいし、蒸れないし、トイレの時とか楽だし、片方が伝線してももう片方は使い回せるし。

 冬場は兎も角、夏場はありがたいアイテムなので重宝している。

 とまあ誰に対してでもない言い訳をしつつ、身支度を整える。

 

「もう10月か…時間が経つのは早いな」

 

「左様でございますね」

 

 私が独り言を言うと、山根がそれに答える。

 9月が終わり、10月を迎えた。

 夏の気配もすっかり消え去り、寒暖の差も激しくなった。

 社会の変化に負けずに、私も学業に励まねばな。

 

 

 

 

 

*1
内閣総理大臣、衆議院・参議院議長、最高裁判所長官の4名

*2
ただし常時発動型や生命維持に必要な場合、正当防衛など、やむを得ない場合はこの限りでない

*3
※自称




クソジジィ、原作の初期エンデヴァーが裸足で逃げ出すレベルの毒親&毒夫で草。
毒親ムーブかましてた時ですら、子殺しと不倫はやらかさなかったぞ。
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