私の世直しアカデミア   作:M.T.

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大変ながらくお待たせしました(三ヶ月くらい?)。
エタるつもりは無いのでご安心を(そもそも二部構成を想定していて、構想期間が欲しかったので)。
文化祭編が始まります。
多分今回を含めて二、三話くらいで終わると思います。
面白いと思っていただけましたら、高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。



【第二部】第二章 文化祭編
第46話 文化祭って準備してる時が一番テンション上がりますね


 10月になり、夏の暑さもすっかり気配を消した。

 先月までは夏服だった制服も、つい一週間ほど前から冬服に戻ったところだ。

 前総理大臣の辞職及び逮捕により、世間は騒然としている。

 ヒーローと(ヴィラン)の癒着が明るみになったせいで、ヒーロー制度そのものに対する非難が集まり、プロヒーローが次々と離職している。

 

 どう考えても私が嚊田を糾弾したせいだが、私は奴を潰した事が間違っていたとは思わない。

 あのままではいずれ奴に日本を乗っ取られ、崩壊の一途を辿る運命だったのだ。

 我が国のあるべき姿を取り戻す為には、それ相応の犠牲はつきものだ。

 世の中がひっくり返って喚いている連中もいるが、世の中の事に関心を持たずオールマイトに頼り切って思考停止していたツケが今回ってきただけの事。

 

 とはいえ、私は今すぐにでもヒーロー制度がなくなるべきだとは思っていない。

 ヒーローも(ヴィラン)もいない世界の方が、遥かに生きやすくはあるのだろうが、ヒーローに希望を与えられた人達は確かに存在する。

 (ヴィラン)と癒着して点数稼ぎをしていた贋者(ヒーロー)は論外だが、正規の活動をしていたヒーローに罪はない。

 彼等はただ、ルールを守って真面目に仕事をしていただけだ。

 私は、そういうヒーロー達まで排除しようとは思っていない。

 ルールを守った結果誰かが傷つくというのなら、変えねばならないのはルールの方だ。

 今まで真面目に仕事をしていたヒーロー達には、これからも正規の活動を続けてもらいたい。

 今は()()()()()()もあるしな。

 

 

 

「ねぇ癒治、何描いてんの?」

 

 ふと、クラスメイトの声が聴こえてきた。

 前の席を見ると、療子が熱心に何かを書いている。

 療子の机を覗いたクラスの女子達は、何故か顔を引き攣らせていた。

 

「わぁ……」

 

「素敵な絵だね…」

 

「うわ、グロ…うわっぷ」

 

 女子達はどうやら、療子の絵を見て顔を引き攣らせたらしい。

 何やら矢田君が、失言をしようとして斥口君に口を塞がれているようだが…

 それにしても、療子の描いた絵か。

 少し気になるな。

 

「どうした?」

 

 私は席を立って、療子の席の前に立っていた女子達に話しかけた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

斥口side

 

「ねぇ癒治、何描いてんの?」

 

 唐突に矢田が、癒治さんの机の前に立って話しかけた。

 癒治さんは、何かの紙…多分便箋?に、一生懸命何かを描いている。

 覗き見みたいで趣味が悪いけど、ちょっと気になるので、隙間から覗かせてもらった。

 

「わぁ……」

 

「素敵な絵だね…」

 

 便箋に描かれていたのは、赤と黒で彩られた、()()()()()()()()()だった。

 何というか、人を選ぶというか…人によってはトラウマになりそうというか…

 とにかくすごく異質な絵だった。

 

「うわ、グロ…うわっぷ」

 

 矢田が失言をしようとしたので、咄嗟に口を塞ぐ。

 思った事を何でも言うな、こいつ。

 私が矢田の口を塞いだその時、委員長が話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「あ、刹那ちゃん。今、被身子ちゃんにお手紙書いてたんです」

 

 委員長が声をかけると、頬をほんのりと赤らめた癒治さんが振り向く。

 癒治さんが委員長にほの字というのは、周知の事実だ。

 まあ委員長は全てが完璧だから、好きになるのもわからなくもないけど。

 委員長も委員長で、癒治の事をだいぶ個人的に気に入ってる。

 二人のやりとりに心がほんわかした私だったけど、すぐに思考を現実に引き戻された。

 

 委員長は、癒治さんの描いた絵をまじまじと見つめている。

 私達がコメントに困った絵を、委員長がどう感じるのかと思っていると…

 

「上手いんじゃないか、よく描けてる」

 

「ホントですか!?特にどの辺が!?」

 

「パースがちゃんと取れてるところとか…」

 

 委員長がコメントすると、癒治さんは頬を緩めて嬉しそうな表情を浮かべた。

 え、パース……?

 そこ気にするんだ。

 やっぱり頭のいい人って、普通の人とは物を見る角度が違うんだなぁ。

 

 なんというかもう、嫉妬する気すら起きない。

 美人だし、頭良いし、しかも人を悪く言わないとか…

 それに私らは、委員長が誰よりも努力してきた人だって事を知ってるから。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 そんなこんなで行われた朝のホームルーム。

 13号先生が、開口一番に重大発表をする。

 

「文化祭があります!」

 

「「「学校っぽいのきたぁぁ!!」」」

 

 13号先生の報告に、クラスの皆が盛り上がる。

 学校っぽいっていうか、学校行事では…?

 クラスの皆が一斉に盛り上がる中、矢田君だけはどこか他人事のように椅子にもたれかかっていた。

 

「おうおう、みんな気合い入ってんネー」

 

「矢田、おめー知らねーのか!?」

 

「あん?」

 

「体育祭の主役はヒーロー科だったけど、文化祭の主役は他科(おれら)!体育祭でのヒーロー科の活躍に負けまいと、みんな毎年張り切ってんだ!大企業の重役とかも来るからな、店の業績がそのまま企業へのアピールになるってわけ!プロ顔負けの店も多いんだぜ!」

 

「お、おう」

 

 矢田君は、周りのクラスメイトの熱量に若干引いていた。

 雄英体育祭の次に人気のビッグイベントが、雄英文化祭。

 体育祭の主役がヒーロー科なら、文化祭の主役は他科(わたしたち)だ。

 体育祭で踏み台にされた分の鬱憤晴らしになる上に、出し物の業績がそのまま就活でのアピールになるので、普通科・サポート科・経営科による商売合戦が毎年恒例となっているわけだが…

 文化祭での商売合戦では、体育祭でほとんど目立たない普通科や経営科、サポート科が業績で上位を独占するという逆転現象が起こる。

 かくいう私も、実は一番楽しみなイベントだったりする。

 体育祭では私一人が目立つ結果となってしまったが、文化祭は皆の底力を全国の大企業に知ってもらう良いチャンスだ。

 クラス委員長の私と副委員長の御法君は、早速出し物決めの進行をした。

 

「それでは、これからウチのクラスの出し物を決めるが…案のある者は挙手を」

 

「「「「「ハイ!ハイ!ハイ!ハーイ!!」」」」」

 

 私が皆に意見を求めると、皆は一斉に勢いよく挙手をした。

 おぉう…すごい熱量。

 皆、そんなに楽しみだったのか……私もだが。

 あまりにも勢いがすごいので、私の隣で御法君が顔を引き攣らせていた。

 

「思った以上の熱気だね…」

 

「あー、早い者勝ちとかないから、一人ずつ言ってくれるか?」

 

 私は、とりあえず出席番号順に皆の意見を聞いた。

 すると皆は、次々と意見を言っていった。

 

「かき氷屋さん!」

 

「演劇は?ハムレットとかやりたいな」

 

「ラーメン屋やろうぜラーメン屋!」

 

「ミュージカル!2.5次元的なやつ!」

 

「ゲーム大会!」

 

「博物館…」

 

「鉄道研究会!」

 

「アニメ制作!」

 

「おっぱb「死ね!」グァァァ!!!メガ、メガァァァ!!!」

 

 皆はそれぞれ、思い思いのアイディアを出した。

 ……一人だけ殴られている奴がいたが。

 私は、皆の提案を全て黒板に書いた。

 皆の意見をひとつひとつ吟味する中、療子が提案したお化け屋敷が目に留まる。

 そういえば療子はホラー系が好きだったな。

 命を狙われて中学に通えない事も多かった私は、クラス全員で出し物をした経験がない。

 友達と一緒にお化け屋敷をやれたら、きっと楽しいだろうな。

 

「お化け屋敷やりたいな…」

 

 ボソッと口に出した後で、自分の過ちに気がついて咄嗟に口を塞ぐ。

 やってしまった…

 つい本音が漏れてしまった。

 これ、皆に案を出させた意味がなくなるぞ。

 

「お化け屋敷!お化け屋敷よくね!?」

 

「うん、俺もお化け屋敷がいいと思ってた!」

 

「奇遇ですな!小生もですぞ!」

 

 他の皆…特に男子は、さっきまで自分がやりたい出し物を我先にと言おうとしていたのが嘘のように、口を揃えてお化け屋敷がいいと言い出した。

 変わり身早いなオイ…

 やっぱり、案を出させた意味がなかったか…

 御法君には、白い目で見られた。

 いや、ごめんて。

 

「それじゃあ、1年C組の出し物はお化け屋敷という事で…皆いいですか?」

 

「「「「はーい」」」」

 

 最終的には、皆納得の上でC組の出し物はお化け屋敷に決まった。

 …まあ、皆納得の上ならいいんだが。

 出し物決めが終わったタイミングで、芸民具君が口を開く。

 

「そういや文化祭といや、アレどうすんの?ミスコン!」

 

 芸民具君の発言を聞いた皆がハッとする。

 雄英文化祭には、商売合戦の他にもう一つ名物がある。

 それは、ミス雄英を決めるコンテストだ。

 毎年各クラス1人ずつ代表の女子がエントリーし、優勝を競い合う企画となっているわけだが…

 

「ウチらの代表は、もちろん委員長だよね!」

 

「え?」

 

 完膳君が、私の顔を見ながら無邪気な笑顔を浮かべる。

 するとそれをきっかけに、他の皆も口を開き始めた。

 

「だよな!俺も六徳さんが適任だと思う!」

 

「うんうん、美人だし、もうオーラが違うよね!」

 

「いや、私は…」

 

「委員長が出れば優勝間違いなしだよ!」

 

「女神…崇拝……」

 

「いんちょが出ればオチンチンランド開園でぇい!特にそのおっp「うるさい!」キャッサバ!!!」

 

 クラスの皆は、どうやら私をC組の代表としてミスコンにエントリーさせたいようだ。

 矢田君が意味のわからない発言をしてしばかれていたりしたが…

 

 まいったな、私はミスコンに参加する気はなかったんだが…

 というか、私以外にも適任の女子はいると思うんだが?

 私がそう思っていると、13号先生が申し訳なさそうに口を開く。

 

「あの、皆さん。盛り上がっているところすみません。その事なんですけど…」

 

 13号先生は、盛り上がっている皆の前で重大発表をした。

 それを聴いた皆は、一斉に驚く。

 

「ええっ、エントリーできないんですか!?」

 

「今朝の職員会議でそういうルールに決まったんです。ですので、ミスコンの代表は六徳さん以外の女子の皆さんの中から選ぶという事で…」

 

 驚いている皆に、13号先生は申し訳なさそうに伝えた。

 どうやら今朝の職員会議で、私はミスコンにエントリー禁止というルールが新たに設けられたらしい。

 なんでも、ミスコンの公平性を保ち、誰でも優勝できるチャンスを作る為だとか。

 この文化祭は、大企業の重役や資産家、そして六徳グループの傘下の者達も大勢観にくる。

 私がエントリーしてしまうと、()()()()()()()()()()()()で私に投票する者が大勢現れ、大会を開くまでもなく私の独走となってしまう事が予想される。

 このイベントにおいては、『六徳家当主』という肩書きがノイズになってしまうのだ。

 だったら初めから参加を禁止にするのが得策、との判断らしい。

 事情が事情とはいえ、クラスメイト…特に男子達は、それを聞いて絶望していた。

 

「な…んだ…と…!?嘘だろ……」

 

「なんて事だ…今日という日を生きる気力がなくなってしまった…」

 

「先生ェ!!何とかならないんスか!?俺ら、ミスコンで六徳さんを拝む為に今日まで雄英に通ってきたんスよォ!?」

 

 ある男子は絶望して項垂れ、ある男子はなんとか私がミスコンに出場できないか交渉しようとしていた。

 そのうちキノコかカビでも生えるんじゃないかというくらい、クラス全体が暗くてジメッとした空気になる。

 君達は気づいてないかもしれないが…その態度、他の女子に失礼だからな。

 

 公平性を考慮した上での措置、それはわかる。

 だが、そうしてウチのクラスの代表になった女子は、果たしてそれを素直に喜べるのだろうか。

 『本来の代表(わたし)の代わり』という名目でミスコンの舞台に立たされ、失望の目に晒されるなど、尊厳破壊もいいところだ。

 だったらいっその事、棄権した方がまだマシだ。

 誰も傷つけず、尚且つ公平性のあるコンテストにする良い方法はないものか。

 

「……わかった。ミスコンの件は私がなんとかしよう。だからそこまで落ち込むな」

 

 私がそう言うと、クラスの男子達の表情が明るくなる。

 そんなにミスコンにエネルギーを注ぎ込んでいたとは…正直驚いた。

 ミスコン一つで文化祭へのモチベーションが削がれるのも考え物だし、何か策を考えておかないとな…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 午前の授業を終えた私は、いつも通り食堂に向かおうとする。

 するとA組の峰田君が、私に話しかけてくる。

 

「六徳様、今ちょっといいスか」

 

「うん?」

 

「ちょっと大事な話なんですけど…聞いてもらえませんかね?」

 

「……わかった、聞くだけなら聞こう」

 

 峰田君に真剣な表情で詰め寄られた私は、空き教室に彼を招き入れ、二人きりで話を始めた。

 自販機で買った缶コーヒーを片手に、峰田君の話を聞く。

 

「それで、話とは何だ」

 

「実はですね?今朝うちのクラスで文化祭の出し物決めしてたんスけど、オイラは雄英のイメージアップを図るとっておきの秘策を提案したんスよ」

 

「何?」

 

 峰田君の言葉に、思わず反応する。

 先日の一件により、世間では反ヒーロー派の動きが目立ってきている。

 一部の過激派のヘイトは、ヒーローや公安だけではなく、純粋にヒーローを目指しているヒーロー科の学生にまで向けられている。

 USJ事件や体育祭で目立っていた1年A組は、その分だけ向けられるヘイトも多く、他のヒーロー科の学生とは比較にならない。

 社会をあるべき姿に戻す為とはいえ、私が社会をひっくり返した事による悪影響は、こういった身近なところに出ている。

 

 確かに私は、他科の皆がこれ以上負け犬扱いされないように策を講じ、心を入れ替え熱意を持ってくれた者には真摯に対応してきた。

 だが、ヒーロー科の皆に対してはどうだっただろうか?

 ヒーロー科…特に1年A組は、皆を這い上がらせる為の踏み台にした自覚はある。

 仲間が見向きもされない状況に苛立つあまり、注目を浴びているA組が(ヴィラン)に襲撃された被害者であるという客観的事実が頭から抜けていたのではないだろうか。

 反ヒーロー派の動きも、ヒーローに頼らない社会を作る事に必死になるあまり、善良なヒーローが居場所を失くすリスクを軽視していた私の責任と言えなくもない。

 

 その件に対しての償いというわけじゃないが、今回の文化祭で、彼等に向けられたヘイトを少しでも払拭できないものか。

 人の笑顔を守る為に、彼等は雄英(ここ)で学んでいるのだという事を、少しでも多くの人に知ってもらいたい。

 何より、彼等の進む未来が暗いものでは、せっかくヒーロー科に入る為に努力してきた心操君が可哀想だ。

 もし雄英のイメージを少しでも上げる秘策があるのなら、聞いておいて損はない。

 私が椅子に深く腰掛けて構えながら峰田君の話を聞いていると、峰田君はため息をつきながら残念そうに話を続ける。

 

「でも残念な事に、ウチの副委員長に断られちゃって。だから六徳様から、許可を頂きたくてですね」

 

 ……ん?百に断られた、だと?

 言いくるめられやすい百が断るとは、提案内容が余程不適切なものだったのでは?

 というか、もうA組で既にやらないという結論が出ているんだよな。

 だったら、私が口を出していい事ではないんじゃ…

 何故私をワンクッション挟む必要があるのだろうか。

 

「それは、君のクラスで話し合った結果、やらないと決まった事なのだろう?私が勝手に決めていい事ではないのではないか?」

 

「いや、それはそうなんスけどねぇ。でも雄英のイメージアップを図れる秘策を一方的に反対するっていうのもどうかと思いまして。せめて話だけでも聞いてもらえませんかね?」

 

「何だ、その秘策とは」

 

 峰田君のもったいぶった態度が流石に少し鬱陶しくなってきて、単刀直入に聞くと、峰田君が秘策とやらを教えてくれた。

 どうやら出し物の案に、おっぱぶ?というものを提案したらしい。

 単語だけ聞いても、何をするのか全く想像がつかんな。

 一般的な文化祭の出し物ではない事は確かだろうが。

 

「その、おっぱぶ…?というのは何だ?知らん」

 

 私が尋ねると、峰田君が出し物の内容を説明してくれた。

 説明を噛み砕くと、女子生徒が客の膝の上に座り、胸を触らせる接客サービスらしい。

 説明を聞いた私は、数秒黙り込んでから、缶コーヒーを一気に飲み干す。

 そして、小さくため息をついてから口を開いた。

 

「…好きにしろ」

 

「ホントっスか!?」

 

「そんなにやりたいなら、私から相澤先生に伝えておく。もちろん、今の会話の録音も提出させてもらおう。証拠としてな」

 

「は?」

 

 そう言って私は、今までの会話を記録したスマホをスカートのポケットから取り出す。

 すると峰田君の態度が急変した。

 なんて目をしてるんだこいつ……怖。

 

 百が反対したという話を聞いた時点で、もしかしたらその秘策とやらが人前で披露できないような不適切な内容だったのかもしれないと思い、念の為に会話を録音しておいたのだ。

 六徳家当主(わたし)の前でセクハラ発言をしたんだ、最悪除籍処分は覚悟しておいた方がいいだろう。

 逆に私にまで堂々とセクハラ発言をできる奴が、よく今まで除籍されなかったな。

 雄英のイメージアップの秘策があると聞いたから期待したのに、こんな事に時間を割いた私がバカだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 放課後、残った時間で全員の役割を決めた。

 私は元々役者として表に立つつもりはないし、他にやる事があるので、舞台のセッティングなどの裏方を担当する事になった。

 

 屋敷に帰った私は、お化け屋敷について調べた。

 せっかくクラスの皆と出し物をするんだ。

 やるからには、成功させたいし勝ちたい。

 その為には、まずは情報を集めなくては。

 

「お化け屋敷をやるのはいいが…コンセプトはどうする?どういったアプローチが喜ばれるだろうか」

 

 私が調べ物をしていると、山根がカモミールティーを持ってきてくれた。

 

「お嬢様、随分と張り切っていらっしゃいますね」

 

「ああ、来月の文化祭で、ウチのクラスはお化け屋敷をやる事になってな。何をやるのがいいか考えていたところなんだ。やるからには勝たなくては」

 

 私は、ふんすと鼻を鳴らしながら気合いを入れた。

 そんな私を見て、山根が目尻を下げて微笑む。

 山根も見に来るのだ、尚更成功させなくては。

 そう思っていると、小雪が私のもとへ駆けつけてくる。

 

「ニャ!そういう事なら、私達にお任せくださいお嬢様!お嬢様のクラスのお化け屋敷を最高のものにする為、日本全国から腕利きのプロデューサー、著名なデザイナー、最高品質の機材を手配して参ります!六徳グループの力を持ってすれば、文化祭は大成功間違いなしですニャ!」

 

 小雪は、ふんふんと鼻を鳴らし、尻尾の先をプルプル震わせて興奮気味に言った。

 小雪の後ろでは、既に使用人達が、文化祭の出し物の為の人材や機材を手配しようとしていた。

 小雪達が私の為に動いてくれているのだという事は、十二分に理解している。

 だが今回ばかりは、余計なお世話だ。

 

「やめろ」

 

 私が低い声で命令すると、小雪達はぴたりと手を止め、恐る恐る私の顔を見る。

 私は、その場にいた部下全員の顔を見渡してから、話を続ける。

 

「私の力を使って客を呼び込む事は簡単だ。だが、それでは意味がない。私は、()()()()()()()()()文化祭を楽しみたいんだ。この件に関しては、お前達は一切手出しするな」

 

「もっ…申し訳ございませんお嬢様!」

 

 私が命令すると、小雪をはじめとする部下達が深々と頭を下げる。

 そんな小雪達に対し、微笑みながら告げる。

 

「なに、心配するな。必ず成功させるさ。皆がいるのだからな」

 

 私には、クラスの皆がいる。

 皆が本気を出せば、反ヒーロー派に傾いた人々の心を動かせる、私はそう信じている。

 私が微笑むと、山根が話しかけてくる。

 

「お嬢様」

 

「何だ?」

 

「大変素晴らしいご友人に恵まれましたね」

 

 山根は、目尻を下げて微笑んだ。

 私が皆と一緒にいられるのは、山根のおかげだ。

 山根が私を支えてくれているおかげで、毎日学校に通えている。

 そもそも山根が身を挺して私を守ってくれなければ、私は今頃ここにいなかった。

 

「……ああ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 次の日から、私達は早速準備に取り掛かった。

 まずはコンセプトなど細かいところを煮詰めていく。

 ウチのクラスのお化け屋敷は、50年前に凄惨な殺人事件が起こった屋敷というコンセプトに決まった。

 配役や設定を決めた後は、具体的な仕掛けの案を出していったわけだが…

 

「でもさ、お化け屋敷って何が起こるかわからないから怖いわけだろ?探知系の“個性”とかがいたらさ、仕掛けが全部わかってるから楽しめないんじゃないかな」

 

「あ〜確かに」

 

「でもそれはしょうがないんじゃね?全部わかってる奴を怖がらせるのは無理だろ」

 

 お化け屋敷をやるにあたって、あるひとつの懸念要素にぶち当たる。

 それは、普通にビックリさせて怖がらせるだけだと、“個性”の関係で全部視えてる奴は楽しめないという点だ。

 普通なら、『そういう人もいるから仕方ない』で諦めるんだが…

 勝ちに行く以上は、そういう奴も楽しませなければな。

 

「いや、あるぞ。全部わかってる奴も怖がらせる方法」

 

 私は、クラスの皆にとっておきの秘策を話した。

 私が話すと、クラスの皆がドン引きする。

 特に秘策を実行する上で重要な役割を担う複原君は、一番ドン引きしていた。

 唯一療子だけは、目を輝かせていたが…

 

「うわ…それマジでやるの?」

 

「前から思ってたけど、委員長っていい性格してるよね」

 

「ククク、何が起こるかわからない奴しか怖がらせられないのは三流の仕事だ。タネが割れてても怖いっていうのが一番怖いんだよ。どうせ全部わかってるから面白くないと斜めに構えてる奴には、世の中には知らない方が幸せな事がごまんとあるという事を、思う存分わからせてやろう」

 

「なんか趣旨変わってない?」

 

「これ、下手したらトラウマになる人出てくると思うけど、大丈夫かな…」

 

 私がほくそ笑んでいると、他の皆が顔を引き攣らせる。

 他のクラスの皆だって必死にやっているんだ、手段は選んでられまい。

 勝てば良かろうなのだ。

 

 話を煮詰めに煮詰め、午前中には全ての仕掛けが決まった。

 そして休憩時間中、食堂で昼食の肉野菜炒め定食を食べていたわけだが…

 

「ダンス?」

 

「ああ。バンド演奏とダンスホールをを融合したようなやつをやるんだけど…」

 

 私は偶然、食堂で心操君とバッタリ会ったので、彼からA組の出し物の内容を聞いた。

 A組は、ダンスとバンド演奏をやるらしい。

 普通に悪くない案だと思うが、心操君は何故か浮かない顔をしていた。

 

「……どうした?」

 

「俺は正直、このままやっても失敗すると思う。前総理が不祥事でクビになって、そのせいで世論がヒーロー批判に傾いてるだろ?」

 

「…そうだね」

 

「批判の的になってる俺達が何をしたって、人は集まらないと思う。けど、今世間で起こってる事って、六徳さんにとっては望んでいた事なわけだろ?俺も、あれで良かったと思ってる。むしろ、あれだけの悪事が罷り通ってた今までが異常だったんだ。六徳さんは家族の仇を討って、皆は前に進もうとしてるから、なかなか言い出せなくてさ…」

 

 み、耳が痛い…

 そうなんだよな、心操君まで非難されてるのは、元はと言えば私のせいなんだよな。

 非難している連中の中には、エリートの雄英生に対する嫉妬心から世論に乗じて叩いているだけの奴も一定数いるので、私が自分を責めても仕方のない事ではあるのだが…

 

 私とて、たとえ世の中が正しい方向に進んだとしても、そこに彼がついてこられない事は本意ではない。

 だがおそらく今彼が求めているのは、そういう共感や感情論ではない。

 余計な共感や同情は示さず、他人事だと割り切って建設的なアドバイスをする事にした。

 

「簡単な事だ。世間の批判など知った事か。君達が楽しめばいいだけの話じゃないのか?」

 

 私が言うと、心操君は僅かに目を見開く。

 私は、皿の上の肉野菜炒めを箸でかき集めながら、心操君にアドバイスをした。

 

「お客を楽しませようだとか、一人でも多くの客を集めようだとか、余計な事を考えるのはナンセンスだ。客を惹き込んだり、客の需要に合ったものを提供したりするのは、そういうセンスのある奴がやればいいし、世の中は今もそうやって回ってる。だったらいっその事、自分達が楽しむ為にやればいい。好き勝手やって周りを巻き込むのは、君達の得意分野だろう?」

 

「自分達が楽しむ……か」

 

 私がアドバイスをすると、心操君は自分の皿の定食を見つめながらポツリと呟く。

 言い方が拙かったかと思い、顔を上げて心操君の顔を見る。

 

「…って、余計なお世話だったか?」

 

「いや、参考になった。ありがとう、六徳さん」

 

「どういたしまして」

 

 心操君が微笑みながら礼を言うので、頬が少し赤くなるのを感じつつ、私もフッと微笑む。

 やはり私は…彼の笑顔には弱いな。

 これが惚れた弱みというやつか…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして放課後。

 私達は、授業が終わった午後から作業に取り掛かった。

 私が監督として指示を出して木材を切ったり釘を打って固定したりしていたのだが、慣れていないせいか思ったようにテンポよく進まないので、効率を上げる為に私も作業に加わる事にした。

 

「六徳さん、危ないから俺やるよ!」

 

「いや俺が!」

 

「いや、いい。それより君達は、役の練習に専念しろ」

 

 私が鋸で木材を切断しようとすると、男子達が代わりにやろうとするので、私はそれを断りつつ鋸を手に持つ。

 長い髪を高い位置でポニーテールにし、Tシャツとズボンを身につけた私は、片足で木材を押さえ込み、両手で鋸を引いて木材を切断した。

 私が次々と木材を切断していくと、近くで作業をしていたクラスメイトが私を見てくる。

 

「お嬢様なのにノコギリ使いまで超高校級とか…」

 

「さすがウチらの委員長だわ」

 

「う、うむ…巨乳なのにホレざるを得ない…」

 

 クラスの皆は、私を見て口々に感想を言った。

 私を見ている暇があるなら、作業をしてほしいんだが…

 …っと、切り終わった木材がだいぶ貯まってきたな。

 

「切り終わったやつから運んでくれるか?」

 

「「「はい!」」」

 

 私が指示を出すと、力のある男子達が木材をせっせと運んだ。

 作業をしている私を見て、矢田君と斥口君が口を開く。

 

「いんちょやけに張り切ってんね」

 

「なんか、今回の文化祭、エリちゃんが来るらしいよ。多分それで張り切ってんじゃないかな」

 

 私が今張り切っているのは、クラスの為というのもあるが、文化祭を観にくる壊理の為でもある。

 文化祭の話がどこで広まったのか、死穢八斎會の皆が壊理を連れてきてくれる事になったのだ。

 壊理を楽しませる為にも、半端なものは出せない。

 残りの準備期間をフルに使って、最高のお化け屋敷にしなくてはな。

 

 

 

 

 




久しぶりの投稿となりました。
原作ではヒーロー科が他科の不満を取り払う為に張り切った文化祭を、本作では逆に非難の的となってしまったヒーロー達を救う為に他科の人達が頑張るという展開にしてみました。
ちなみに今後のストーリーですが、

対異能解放軍編:2話
劇場版第二作:1話
2学期後編:3話
劇場版第三作:1話
3学期編:5話
劇場版第四作:1〜2話
最終編:1〜2話

といった感じで、最大あと20話くらいで完結する予定です。
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