やっとA組との絡みがあります。
第7話 うちのクラスメイトが申し訳ございません
癒治君達を家に招いてから2日後、通常の授業が再開した。
あれから2日間、私達は本邸の敷地内で過ごした。
敷地内のプールで泳いだり、映画観賞会を開いたり、庭でスポーツを嗜んだりした。
私の部下達が24時間体制で見張りをしてくれていたから、不届者が入り込む余地などなかった。
「えっ、じゃあ男子も2日間贅沢暮らしだったん?」
「おう。ビジネスホテルみたいなとこだと思ったら、五つ星の超高級ホテルに連れて行かれてよ」
「しかもVIPルームだぜ?俺らばっかこんな贅沢していいのかね」
「委員長様様だわー」
私の家やホテルに泊まったクラスメイトは、2日間の出来事を共有していた。
家に泊めてやれなかった男子には、家の客間と遜色ないグレードのホテルを用意した。
当家の系列会社のホテルだったので、もちろん宿泊費はタダだ。
どうやら男子達も、楽しんでくれたようだ。
「皆、席に着こう。ホームルームが始まるぞ」
「「「はーい」」」
私が皆に声をかけると、皆は席に座った。
最初は皆緊張して一言も口を利いてくれなかったというのに、ここ一週間で随分と心を許してくれるようになったものだ。
それにしても、今日のホームルームは誰が担当するのだろうか?
13号先生はまだ入院中のはずだし、他の先生がやる事にはなるのだろうけど…
私がそんな事を考えていると、前の扉が開いた。
教室に入ってきたのは、ミッドナイト先生だ。
「おはよう皆。今日は13号の代わりに私がホームルームを担当するわ」
「ミッドナイト先生。13号先生の容態は…?」
「経過は順調だと聞いてるわ。明日には退院できるそうよ」
ミッドナイト先生の報告に、クラスメイトが胸を撫で下ろした。
何はともあれ、命に別状はなくて良かった。
「今日は、皆に大事なお知らせがあるの」
ミッドナイト先生は、いつになく真剣な面持ちでそう言った。
その言葉に、もしや先日のUSJ事件に関する事だろうかと、生徒達は身構える。
「体育祭やります!!」
「「「「体育祭…!!」」」」
ミッドナイト先生がピシャンと鞭を打ちながら言うと、教室がざわついた。
体育祭…この激動の時期に、普通に学校行事が来たな。
雄英体育祭。
雄英の…というより、我が国のビッグイベントの一つだ。
“個性”の発現によりオリンピックが形骸化した今、我が国でスポーツの祭典として新たに注目されるようになったのが、この体育祭だ。
「ま、待ってください!
「だからこそ、逆に開催する事で雄英の危機管理体制が盤石だと世に示す、という考えよ。警備も例年の5倍に強化されるわ。何より体育祭は、ヒーロー科にとって最大のチャンスだけど、あなた達にとっても最大のチャンスでもあるのよ!」
「「「「!!」」」」
「この中には、入試との相性が悪くて涙を飲んだ人もいるわね?それは私達教師陣も重々承知よ。だから体育祭で上位の成績を残した生徒には、ヒーロー科への編入を検討するわ。もちろん、その逆もまた然り。ヒーロー科のイスを勝ち取りたいのなら、プルスウルトラの精神で挑みなさい!」
ミッドナイト先生の言葉に、ヒーロー科に落ちた生徒…特に心操君と癒治君が気を引き締める。
彼等にとっては、今後の人生を大きく左右する重大なイベントなのだ。
かくいう私も、体育祭に興味がないわけではない。
全国から、ヒーローだけでなく大企業も見に来るのだ。
六徳の名を世に知らしめるチャンスというものだ。
「体育祭かー」
「ウチらぶっちゃけ出るメリット無いよね」
「どうせ引き立て役にされるだけだしなー」
その日の昼休み、私達はいつものメンバーで昼食を食べた。
私は、癒治君が作ってくれた豆腐ハンバーグ弁当に舌鼓を打っている。
昼食の時間中は、体育祭の話題で持ちきりだった。
そんな中、斥口君が御法君に話しかける。
「副委員長、体育祭出んの?」
「いや、僕は出ないよ。僕は元々裁判官志望だし…競技という形式と相性がいい“個性”ではないからね」
「だよねー。アタシも出るのやめとこっかな」
斥口君が尋ねると御法君が答え、斥口君も同意した。
ヒーロー科以外の学科は、体育祭への参加は強制ではない。
普通科はヒーロー科への編入を狙っている生徒が多いので半数以上の生徒が参加するが、経営科はほとんどの生徒が体育祭に参加せずヒーロー科の生徒をどう売り出すかという経営戦略を立てたり、飲食物の売り子をしたりする。
まあ普通科の中にも、私や御法君のように、ヒーロー科への編入に興味がない生徒もいるにはいるので、体育祭に参加しない生徒は毎年必ず一定数はいるのだが。
「六徳さんは?」
「私は参加するつもりだよ。せっかく学校側が用意してくれた催しなのだから、全身全霊で挑ませてもらう。何より、六徳家当主としての威厳を世に示すチャンスだからね」
「「「「おぉ〜…」」」」
私が言うと、他の皆は感心したような声を上げる。
元より私は、体育祭には参加するつもりでいた。
私はヒーロー科に編入するつもりはない…というかできないが*1、私には体育祭に参加するメリットが大いにある。
体育祭に参加すれば、何も恐れないという姿勢を世に知らしめる事で、六徳家の誇りと信頼を維持する事ができる。
…まあ、私に敵意を抱く者にも“個性”が知れ渡ってしまうというリスクはあるが、
そういう連中のほとんどは、私に辿り着く前に、使用人として当家に仕えている世界最強の傭兵集団に阻まれて涙を飲む事になるからだ。
その他にも、“個性”がバレても問題ない理由はあるが…今は割愛しておこう。
ところで、心操君の謹慎期間が今日で終わる。
明日からは体育祭に向けた本格的なトレーニングが始まるわけだが…
「時に心操君、君は明日からトレーニング解禁だったな。明日からまた地獄のトレーニングの日々が続く事になるが…ついてこられそうか?」
「…聞かれるまでもねえよ。絶対、喰らい付いてやる」
「が…頑張ってください…!私もすぐ、追いつきますから…」
「うむ、百点満点の答えだな」
心操君が私の質問に答えると、癒治君も気合を入れた。
…どうやら、愚問だったようだな。
そうと決まれば、体育祭までに調整が間に合うように、最適なトレーニングプランを考えてやらなければな。
◇◇◇
放課後、私と御法君は二人で委員の仕事をした。
担任不在の際、その仕事の一部を引き受けるのが委員長と副委員長の務めだ。
必要な書類をまとめ仕事を終えた私達は、職員室を後にし、帰り支度をする為に自分達の教室に戻ろうとした。
すると、他科の生徒がA組の教室の前に集まっているのが見えた。
「……彼等は何をしているのだ?」
「敵情視察じゃない?
「ほう」
敵情視察、ねぇ…
まあ別にやるなとは言わないが、そんな事をして意味あるのか?
あと、教室の出入り口を塞ぐのは感心しないな。
「それじゃ、僕は塾があるからこれで」
「ああ、また明日」
A組の前のギャラリーを尻目に、御法君はこれから塾があるという事で先に帰った。
私も帰ろうとすると、A組の教室から声が聴こえてくる。
「意味ねぇからどけ、モブ共」
「知らない人の事をとりあえずモブって言うのやめなよ!!」
そんなやりとりが、A組の教室から聴こえてきた。
出入り口を塞いでいる生徒に非があるとはいえ、仮にもヒーロー科が暴言を吐くなよ…
別に聖人君子であれとまでは言わないが、せめて夢を壊すような態度は控えてほしいものだ。
私はとうの昔に失望してしまったが、この国の子供の多くはまだヒーローに夢や希望を抱いているのだから。
「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
ムッ…見慣れたモジャモジャ頭が混じっていると思えば、心操君じゃないか。
普通科のホームルームは一時間も前に終わっただろうに、まだ帰っていなかったのか。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ。敵情視察?少なくとも
心操君は、A組に向かって堂々と宣戦布告した。
隙あらば足を掬ってやろうという虎視眈々とした姿勢は、嫌いじゃない。
だが、教室の出入り口を塞ぐな(二度目)。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!
ほう、B組もいるのか。
というか、どいつもこいつも出入り口に屯するなよ(三度目)。
…仕方ない。
このままだと誰も退きそうにないから、注意するか。
「君達、何をしているのだね?」
私は、A組の教室の出入り口に屯している生徒達に声をかけた。
するとほとんどの奴の顔からはさぁっと血の気が引き、何人かは足を震わせ後ずさった。
「敵情視察、宣戦布告、大いに結構。だが教室の出入り口を塞いではいけないよ」
私は、彼等の気分を害さないよう、言葉を選んで最低限の注意をした。
すると心操君と、B組の男子生徒が口を開く。
「……わかってる。もう用は済んだし、別に長居する気はねぇよ」
「言われてみりゃ、その通りだな…すまん!!」
心操君とB組の生徒は、私が注意したらあっさり退いてくれた。
物分かりが良くて助かる。
私は、その場で立ち尽くしている残りの生徒達に笑顔を向けて話しかける。
「わかってくれればそれでいいんだ。他の皆も、自分の教室に戻れるね?」
「は、はい…」
私が笑顔で言うと、教室の前で屯していた生徒達は、素直に私の言葉に頷いて帰っていった。
簡潔かつ穏やかに注意すれば終わるのなら、それに越した事はない。
言いたい事は色々あったのだが…既に言う事を聞いてくれた相手を捕まえて時間を奪うのは、全くもって非合理的だ。
皆が素直に帰ってくれたのなら、これ以上は私がとやかく言う事じゃない。
私は、A組の諸君に迷惑をかけた事を、彼等の代わりに謝罪した。
「ウチのクラスメイトが迷惑をかけてすまない。他科代表として、私が詫びよう。だが、彼等もまだ新生活に慣れ切ってはいないのだ。私に免じて許してはもらえないだろうか」
「免じてって…別に、なぁ?」
「別に気にしてねーよな?」
「こちらこそ、関係ない事で頭を下げさせてしまい申し訳ない!」
私が言うと、赤髪の男子生徒と金髪の男子生徒が顔を見合わせて言った。
飯田君に至っては、私が頭を下げた事に対して謝ってきた。
本当に、物分かりが良くて助かる。
…なんか葡萄みたいな頭の男子生徒が私の胸部を凝視しているが…触れないでおこう。
「ありがとう。体育祭、楽しみにしているよ。私からは以上だ」
そう言って、私は教室へ戻っていった。
その途中、A組の教室から声が聴こえてくる。
「やっべぇ、今六徳家の人と喋っちゃったよ!!」
「あかん、緊張で膝ガクガクしてもうた…」
「麗日さん!?」
「前テレビで見た時よりオッパイ育ってtへぶっ!!」
正直、先日の事件で精神的に不安定な生徒がいるのではないかと思っていたのだが、いらない心配だったようだ。
なんか、バシッと叩かれる音が聴こえたが…
……気にしないでおくか。
◇◇◇
翌日、私は心操君と癒治君を訓練場に呼んだ。
体育祭が近いからか、他の普通科の生徒や、サポート科からも何人か来ていた。
流石に全員の面倒は見れないので、初めから訓練に熱心に参加していた心操君と癒治君のみ私がつきっきりで身体の使い方を教え、他の生徒は常連のトレーナーと一緒にキャンプに参加してもらう事にした。
「さて。今日から特訓を再開するぞ。まずは君がどこまで成長したか確認しようか」
「…よろしくお願いします」
私が言うと、心操君が頭を下げた。
まずは途中経過を確認する為、クライミングの課題に挑戦してもらう。
彼は、早速私が与えた課題に取り掛かった。
あらかじめ決めておいたルートを、私のアドバイス通りに登っていく。
初めて登った時に比べて、かなり動きが良くなっているのがわかる。
「っし……」
「………!」
心操君は、一週間前までは手も足も出なかった課題を、まだ余裕がある感じでクリアした。
しかも驚くべき事に、その次の課題までクリアしてしまった。
ドクターの作った特製プロテインで回復の為のインターバルを短縮して短期間でハードなトレーニングをしていたとはいえ、何だこの成長速度は。
あと3年…いや、1年早く相性のいいトレーナーに出会えていたらヒーロー科に合格していたかもしれないと思うと、尚更もったいない。
才能というのは、どこで開花するのかわからないものだな。
「…どうした?」
「私がやった時は三ヶ月かかった。一週間でクリアするのはずるいぞ」
「いや、それ確か9歳の時でしょ?」
私が拗ねると、心操君がツッコミを入れる。
確かに、私が心操君と同じ課題をクリアしたのは9歳の頃だし、トレーニング方法も今と比べて効率的ではなかったが…やっぱり悔しい。
弟子の成長を喜ばしく思う一方で、やはりどこか対抗心を燃やしている自分がいる。
しかし、この調子なら、当初の予定を少し早めてもいいかもしれないな。
◇◇◇
体育祭の予告から一週間後。
私はこの日も、つきっきりで心操君と特訓に打ち込んでいた。
癒治君もトレーニングをとっくに再開しており、今は心操君とは別の課題をやってもらっている。
癒治君も癒治君で、一週間のブランクがあったというのに、しっかり力を身につけていた。
どいつもこいつも、才能がありすぎて末恐ろしいよ。
ちなみに他の皆は、常連のトレーナーとのキャンプで、それなりに親睦を深めたようだ。
サポート科の皆は、私が紹介した優秀な技術者に、サポートアイテム開発のノウハウを教えてもらったらしい。
最初はだるいだとかなんだとかほざいていた連中も、少しでもいい結果を残すと意気込んでいた。
本番では予選通過…とまでは言わなくとも、きっと大番狂わせを見せてくれる事だろう。
「さて。今日からは、より実戦的な訓練に移っていく。一週間じゃ正直付け焼き刃程度にしかならないと思うが、それでもやらないよりはマシだろう」
「よろしくお願いします」
私が言うと、心操君は礼儀正しく頼み込んでくる。
私達が今いるのは、訓練場の中にある道場だ。
「で、訓練の内容だが…私と戦って一度でもダウンを奪えば課題はクリアだ」
私は、ジャージの上を脱いで、Tシャツ姿になりながら言った。
以前は、激しい運動をする時はタンクトップタイプのヨガウェアを着ていたのだが、目のやり場に困ると前に心操君に怒られたので、今日からはTシャツを着るようにした。
私が準備運動をしていると、心操君が戸惑った表情を浮かべる。
「俺が、六徳さんと戦うって…それマジで言ってる…?」
「訓練を受けたヒーロー科の生徒をいきなり相手にするのは酷な話だろう?なに、私にも
そう言って私がコキコキと関節を鳴らすと、心操君が顔を引き攣らせる。
…まあ、言いたい事はわかるが、私からダウンを奪えなければヒーロー科とまともにやり合うのは難しい、残念ながらこれは事実だ。
私も護身用に格闘技を齧ってはいるが、ヒーローになるつもりがない以上自分の身さえ守れれば充分なので、“個性”を濫用する暴漢との戦闘を想定した訓練などはしてこなかったのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、“個性”の使用を想定していないアマチュアの格闘家に梃子摺っているようでは、容赦なく戦闘に“個性”を使ってくる連中と同じ土俵に立つ事すらできないという事だ。
「それでは…はじめ!」
私が合図を出すと、心操君が駆け出した。
…うむ、一瞬反応が遅れはしたが、不意打ちにもちゃんと対応できたのは誉めてやろう。
そんな事を考えていると、彼は私の右側に回り込んできた。
ほう、私の死角を突いてくるか。
いい判断だ。
だが…
「甘い!」
「ぐっ…!」
私は、右側から飛びかかってきた心操君が攻撃に移る前に背負い投げた。
彼の身体を思いっきり床に叩きつけると、鈍い音が道場に響く。
初心者向けの訓練といえど、攻撃を繰り出すのを待ってやれるほど、私もお人好しじゃない。
「咄嗟に死角に入り込んだ判断は良かったが、攻撃に移るまでの隙が大きすぎだ。来るとわかっている攻撃を待ってくれる敵などいないぞ」
「……うす」
私がアドバイスをすると、心操君は上体を起こし、首の後ろを左手で押さえて返事をした。
私は、床に座っている彼に手を差し伸べた。
「立てるかい?」
「ああ…」
私が手を差し伸べると、心操君は私の手を取った。
そして次の瞬間、私の手を強く握ったかと思うと、そのまま強く引いて転ばせようとしてくる。
だが彼が仕掛けてくるのはわかっていたので、脚に力を入れて重心を後ろに傾け、そのまま逆に彼の身体を掴んで投げた。
「っだ…!!」
またしても床に身体を強く打ちつけた心操君は、痛そうに顔を歪める。
正直、初めての組み手で容赦なく不意打ちを仕掛けてくるとは思わなかった。
…いいね、なんだかんだで野心剥き出しじゃないか。
「今のは良かったぞ。その調子でどんどん仕掛けろ。じゃないと、私からダウンを奪うのなんて10年早い」
私が手招きしながら不敵に笑ってみせると、心操君は悔しそうに顔を歪める。
今の不意打ちには自信があったみたいだ。
「何で俺が不意打ちしようとしたのわかったんだよ…」
「そりゃあわかるさ。生まれた時からずっと命を狙われ続けてるからな」
「!?」
「六徳家の名声への嫉妬だったり、財産目当てだったり…私を殺そうとする連中はごまんといるのだよ。15年も狙われ続けると、暗殺慣れしてきてな。いつどこで誰が私の命を狙っているのか、直感でわかるようになるんだ。ちなみにこうして話してる今も、10時の方向に1.3kmくらいの場所からスナイパーが狙ってるぞ」
「!!!?!?」
私が笑いながら言うと、心操君は度肝を抜いたような表情を浮かべる。
まあ、いきなりこんな話を聞かされれば、驚くのも無理はないか。
別に今私の命を狙っているのがスナイパーだけだとは言っていないが、これ以上怖がらせても時間の無駄なので早く特訓を再開しよう。
「…さ、続きをしよう。早く立て」
「ま、待て!」
私が特訓を再開しようとすると、心操君が後ろから私の腕を掴んで止めた。
「…何か?」
「いや、『何か?』じゃねえよ!今の、そんな軽い感じで言う事じゃねえだろ!?命狙われてるって、ここにいて大丈夫なのかよ!?」
「なに、今に始まった事ではない。だからこそ、世界最強クラスの傭兵集団が、普段は使用人として働きつつ私の身を守ってくれているのだ。私に辿り着く事すらできない連中にいちいち怯えていてはキリがない。そういうわけだから、どこからスナイパーが狙っていようが、君には全く影響がない。君は、目の前にいる私を跪かせる事だけを考えていればいいのだよ」
心操君が心配してくれたので、私は彼をこれ以上心配させない為に笑いながら答えた。
私は、その後も丸一時間ぶっ通しで心操君と組み手をした。
結局この日は、彼は一度も私からダウンを奪えずに終わった。
投げすぎて、終わる頃にはボロボロになっていたが…まあ、ウチのドクターに治してもらえば大丈夫だろう。
「いってえ…」
「今日の特訓は終わりだ。医務室でドクターに診てもらえ。明日は、攻撃が掠るくらいにはなっているといいな」
「まだそのレベルかよ…」
私が言うと、心操君が悔しそうにぼやく。
…どうして彼が挫折を味わう事になったのか、分かった気がする。
要は、先の事に気をとられすぎて、目の前の事がおざなりになってるんだな。
よし、せっかちさんには灸を据えてやるか。
「いだだだだだ、何で関節技!?」
私は、完全に油断していた心操君の腕を固めた。
彼が痛がるとすぐに解放し、額を指先で軽く押した。
「そう焦るな。先を見据えすぎると、目先の事が疎かになる。君の悪い癖だ。今は、目の前の小さな目標を達成する事に全力を注げ」
私が言うと、心操君はため息をついて首の後ろを左手で押さえる。
…その仕草いっつもやってるが、もしや肩が凝ってるんじゃないのか?
◆◆◆
癒治side
私は、六徳さんに作ってもらったトレーニングメニューを終えて、訓練場の掃除をしていた。
六徳さんに怒られてからは、“個性”は二度と使ってない。
一週間の謹慎期間中にしっかり頭を冷やして、自分がやった事がどんなに軽率な事だったかを自覚した。
私はまだ実戦的な特訓ができるレベルには達してないけど、明日のテストの結果次第では、私も心操君がやっているのと同じ特訓をさせてもらえるみたいだ。
「はふ…」
掃除を終えた私は、ため息をついて額の汗を腕で拭った。
別に動けないほどじゃないけど、散々全身の筋肉を動かした後の掃除は、やっぱりキツい。
私が掃除用具を片付けていると、道場で六徳さんと特訓をしていた心操君が、ボロボロの姿で戻ってきた。
「ただいま…」
ヨロヨロと1階のロビーに戻ってきた心操君は、全身にできた痣や擦り傷に包帯や絆創膏で応急処置を施されていて、見ているだけで痛々しかった。
一時間前の姿とのあまりの変わりように、思わず心操君を二度見してしまった。
「し、心操くん!?どうしたんですか!?」
「それがさ…」
私は、心操君から特訓の内容を聞いた。
どうやら次の課題は、正面戦闘で六徳さんからダウンを奪う事らしくて、結局攻撃が掠る事すらなく何十回も投げられたそうだ。
それでついさっき、医務室に寄って六徳さんの専属のお医者さんに手当てしてもらったらしい。
「あー…それは痛いですね」
「何が『多少心得はある』だよ…元特殊部隊の間違いじゃねえの…?」
私が心操君の分のお茶を淹れながら話を聞いていると、心操君は顔を引き攣らせて言った。
元特殊部隊の間違いって…六徳さんって、そんなに強いの…?
「えっと…六徳さんって、官僚志望ですよね…?」
「小さい頃からずっと命を狙われ続けてたから、
「ひえっ…」
心操君の話を聞いて、血の気が引いていくのが自分でもわかる。
ヒーロー志望じゃないから戦闘は専門外って勝手に決めつけてたけど、
…やっぱり、人の上に立つ人って、上に立つべくして立ってるんだなぁ。
六徳さんに追いつきたい…とは烏滸がましくて口が裂けても言えないけど、彼女の友達として恥ずかしくないくらいには、強くならなきゃ。
私が決心した、その時だった。
「癒治君!」
いきなり、六徳さんがロビーに駆け込んでくる。
突然駆け込んできたものだから、心操君は驚きのあまりビクッと肩を跳ね上がらせてお茶を噴き出していた。
六徳さん、なんか息を切らしてるけど…どうしたんだろう?
「ああ、良かった。まだ帰ってなかったか」
六徳さんは、私の顔を見るなり安堵の表情を浮かべた。
どうやら、私に用があるらしい。
「六徳さん、私に何か用ですか?」
「今週の日曜、時間取れるか?」
「え…?あ、はい…日曜は大丈夫ですけど…」
「なら良かった。君に会わせたい人がいるんだ」
私に会わせたい人…?
もしかして、入学二日目に言っていた、六徳さんのお友達かな。
どんな人なんだろう…
◆◆◆
刹那side
その日の夜、私はベッドの上でゴロゴロしながら友達に電話をした。
渡我被身子。
同じ小学校に通っていた、一つ歳上の女友達だ。
「いきなりですまないね。わざわざ時間を取ってくれてありがとう」
『刹那ちゃんのお願いなら全然いいですよ!私も刹那ちゃんとお出かけしたいもん!』
私が礼を言うと、被身子は電話越しに喜んだ。
被身子なら、自分の進路に悩んでいる癒治君に何かアドバイスをしてくれるんじゃないかと思って、今週の日曜日に会う約束をしていたのだ。
被身子には、『私の高校の友達を紹介したいから近いうちに一緒に遊びに行こう』と既に伝えてある。
私の友達に会えると聞いて、被身子は大喜びで了承してくれた。
『ねえ、刹那ちゃんのお友達ってどんな人なんですか?』
「癒治君っていう女友達でね、血を飲ませて傷や疲労を癒す“個性”を持っているんだ。少々内気だが、真面目で優しいよ。多分、被身子と気が合うんじゃないかな」
『きゃっ、癒治さん!とっても素敵!早く会いたいなぁ』
私が癒治君の事を話すと、被身子はさらに上機嫌になった。
昔、顔の火傷のせいで周りから同情を買って腫れ物のような扱いをされた時、学校で唯一私に普通に話しかけてくれたのが、被身子だった。
今でも被身子は、本心で語り合える親友の一人だ。
被身子と直接会って話すのは、いつぶりだろうか。
私は、今週の日曜日に三人で何をするか考え、胸を躍らせながらシーツに身を預けた。
トガちゃん救済ルート。
恋バナができるよ!
やったねトガちゃん!
あとこの世界線は、オリ主ちゃんのお家の政策によって、原作よりもヒーロー志望じゃない学生が多いという設定です。
原作の8年後とまではいきませんが、どの学校でもクラスの2割程度はヒーロー科以外の進路を希望している生徒がいるって感じです。
普通科やサポート科にも、いい意味でヒーローに関心がない生徒の派閥がある状態なので、ヒーロー科と他科との溝はそこまで深くはありません。
A組の期末前の修行パートいります?
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書け
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いらん、本編進めろ
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んなもんより他の番外編書け
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好きにしな