私の世直しアカデミア   作:M.T.

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第8話 女子会ってなんだか素敵な響きですね

癒治side

 

「大丈夫かな…変、じゃないかな…?」

 

 日曜日。

 私は、鏡の前で自分の姿を確認した。

 今日はクリーム色のカーディガンに、紺のキュロットという格好だ。

 キュロットの下には、厚めの黒いタイツを穿いている。

 今日は六徳さんのお友達に会うから、ちゃんとした格好しなきゃ。

 

「よしっ、行ってきます…!」

 

 私は、お気に入りのリュックと厚底ブーツを身につけて、待ち合わせ場所に向かった。

 今日行くのは、若者に人気の街として名高い木椰区だ。

 私は、待ち合わせスポットのヤシの木を見つけて、ヤシの木を囲むように配置されたベンチに座った。

 

「えっと…待ち合わせ場所確かここだったよね」

 

 私は、周りをキョロキョロと見渡しながら、スマホで時間を確認した。

 待ち合わせの時間まで、あと10分あるけど…

 

「やあ。おはよう癒治君。待たせてすまないな」

 

「あっ、おはようございます…!」

 

 どこからか、六徳さんに声をかけられて、背筋をピンと伸ばして返事をする。

 振り向くと、青い刺繍が入った黒いワンピースを着て、ワンピースと同じ色味のベレー帽を被った六徳さんが立っていた。

 そして彼女の隣には、クリーム色の髪をお団子にした女の子が立っていた。

 その女の子は、白とピンクを基調としたセーラー襟の可愛い服を着ている。

 あの服、どこに売ってるんだろ…

 

「わぁ、この子が刹那ちゃんのお友達!?カァイイです!」

 

「へっ!?」

 

 私が女の子の可愛い服に見惚れていると、その子が話しかけてくる。

 私が戸惑っていると、六徳さんが間に入ってその子を紹介してくれた。

 

「紹介しよう。私と同じ小学校に通っていた友達だ」

 

「はじめまして、渡我です!渡我被身子!えと…癒治さん、だったよね?」

 

「あっ…はい。癒治療子です。よろしくお願いします」

 

「カァイイ名前!ねえ、療子ちゃんって呼んでいい?」

 

「は、はい…お好きなように呼んでいただければ…」

 

「やー!じゃあ私達お友達ね!やったあ!」

 

 私が言うと、渡我さんは満面の笑みを浮かべて喜んだ。

 『可愛い』なんて面と向かって言われた事なかったから、自分でも顔が赤くなるのがわかる。

 いきなり話しかけてこられたからびっくりしたけど、いい人みたいで安心した。

 …まあ、六徳さんが仲良くしてるって時点で、悪い人なわけがないんだけれども。

 

「…二人とも。小腹は空いていないか?もし食べたいものがあったら私が奢るぞ」

 

 そう言って六徳さんは、路上に停まっていたクレープのキッチンカーを指差した。

 六徳さんは、心なしかソワソワしている。

 …もしかして、クレープ食べたいのかな?

 

「私はこのイチゴクリームってやつが食べたいです!」

 

「えっと…私はこの、イチゴケーキメルバを…六徳さんは?」

 

「私は遠慮しておくよ」

 

 渡我さんと私が注文する中、六徳さんは首を横に振った。

 あんなに食べたそうにしてたのに、何で…

 

 ……あっ、そっか。

 六徳さん、小さい頃から暗殺者に命を狙われながら育ってきたから、外の食事にはいやでも警戒しちゃうのか。

 そうじゃなくても、食中毒とか色々心配だもんな…

 でも六徳さん、ものすごく食べたそうな顔してるんだよなぁ。

 私がなんとかしてあげたいと思っていると、渡我さんが両手を合わせて名案を思いついた。

 

「じゃあ皆で分けっこしましょう!」

 

「あ、いいですねそれ…!だったら私と渡我さんが先に味見して、その後六徳さんが食べる…というのはどうですか?それなら、六徳さんも安心して食べられますよね?」

 

「ムッ…では私は、この抹茶黒蜜とやらを」

 

 渡我さんと私が言うと、六徳さんは少し戸惑いながらもクレープを注文した。

 しばらくして、店員さんが三人分のクレープを作ってくれた。

 まずは私と渡我さんで六徳さんの分のクレープを味見して、それから二人でクレープを分け合いっこしながら食べた。

 六徳さんが頼んだのは、生クリームの上に抹茶アイスと粒あんと白玉が載っていて、その上に黒蜜ときな粉がかかっているクレープ。

 渡我さんが頼んだのは、生クリームの上にイチゴとイチゴジャムが載ったクレープ。

 私が頼んだのは、生クリームの上にイチゴとイチゴアイスとチーズケーキが載っていて、その上にイチゴジャムとカラースプレーがかかっているクレープだ。

 中学までは気味悪がられて誰かとクレープを分け合いっこする事なんてなかったからか、一人で食べる時より美味しく感じた。

 そして六徳さんは、クレープを上機嫌で頬張っていた。

 口の端に生クリームをつけて幸せそうにクレープを食べる彼女の姿は、年相応の女の子に見えて、何だか可愛いと思った。

 

 

 

「さて、まずはどこに行きたい?今日は二人の為の休日だからな。二人が決めてくれ」

 

 三人でクレープを分け合いっこした後、六徳さんがそう尋ねてくる。

 私が渡我さんと顔を見合わせた後、渡我さんがスマホの画面を見せながら提案する。

 

「だったら映画はどうでしょう?私、見たい映画があるのです」

 

 そう言って渡我さんが見せたのは、R15もののスプラッター映画だった。

 あ、この映画…

 私も近いうちに見ようと思ってたやつだ。

 

「あ…!その映画、私もちょうど見ようと思ってたところなんです!」

 

「本当?私達、気が合うね!」

 

 私が言うと、渡我さんがその場でぴょんと飛び上がって喜んだ。

 なんだか私と趣味の合う人に出会えて、心の奥がほんわかするのを感じた。

 でもその隣で、六徳さんは心なしか顔を引き攣らせているように見えた。

 

「あっでも…六徳さん、こういうの大丈夫でしたっけ?」

 

「ああ、大丈夫だ。六徳家当主に怖いものなど、あるはずがない。時間は有限。早くチケットを買いに行かねば」

 

 そう言う六徳さんは、ズンズンと映画館へ歩いていく。

 なんか早足になってるけど…大丈夫かな?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

「おぉう……」

 

 私は、癒治君と被身子と一緒に二人の好きな映画を見た。

 私達が見た映画は、若い男女の恋愛を軸にしつつも、しっかりとグロテスクなスプラッター映画だった。

 敢えて感想を言うなら、イチゴジャムとトマトと生レバーと生魚とブラッドソーセージをまとめて鍋にぶち込んで赤ワインで半日くらいドロドロに煮込んだものを食った気分だ(そんな滅茶苦茶な料理を食った事はないので味は知らん)。

 所詮は映画だとわかってはいても、やはり赤ばかりを二時間も見ていると目がチカチカして気分が悪くなってくるものだ。

 目の前に緑色の残像がチラつくので、眉間を押さえて目をシパシパさせていると、隣に座っていた二人が席から立ち上がった。

 

「面白かったぁ!」

 

「はふ…」

 

 二人は、ご満悦と言わんばかりの恍惚とした表情を浮かべていた。

 特に癒治君は、よほど映画に熱中していたのか、顔をほんのりと赤らめてとろんととろけた目をしていた。

 あの映画を見て何で、こんなにも純粋に笑えるんだろう。

 …まあ、二人が楽しめたのなら何よりだが。

 

「私のわがままで申し訳ないのだが…次は水族館に行ってもいいだろうか?この映画館の下の水族館に興味があってね」

 

「私はいいですよ!」

 

「わ、私も水族館行きたいです」

 

 私が提案すると、二人とも快く賛成してくれた。

 その後は、映画館の下の階にある水族館に行き、昼食までの時間を水族館で過ごした。

 やはり日曜日だからか、家族連れの客が多かった。

 え?暗殺者に狙われているのに、人が多いところに女三人で行って大丈夫なのかって?

 まあ実際、今も命を狙われてはいるわけだが…別に心配する程の事でもない。

 変装して一般客に紛れ込んだ私の部下達が、常に私達を見守ってくれているからな。

 

 アーチ状の水槽の中を潜ると、まるで空中を魚が泳いでいるような幻想的な光景が目に映った。

 薄暗い館内で、照明で照らされた水槽だけがぼんやりと青く光っていて、それが何だか心地良かった。

 ふと上を見上げると、羽衣が靡くように、エイが鰭をはためかせて私の頭上を横切った。

 魚の大群が織りなすアーチが、天の川のようだ。

 その光景に、何故だか目が離せなかった。

 

「水族館に来ると、宇宙空間に迷い込んだような感覚になるのは、何故だろう…薄暗い水の中を自由に泳ぐ魚が、無重力の宇宙空間を連想させるからだろうか?」

 

 そう思ってふと二人を見ると、二人はぽかんとしていた。

 …もしかして今考えた事、言葉に出ていたのか?

 

「やっぱり刹那ちゃんは刹那ちゃんだね」

 

「ムッ…」

 

 被身子が、満面の笑みを浮かべながらそんな事を言った。

 どういう意味だろうか。

 

 その後私達は、水族館の展示物を一通り見て回って、外国人観光客に写真を撮ってもらったり、お土産コーナーでお揃いのペンケースを買ったりした。

 水族館の後は、近くのファミリーレストランで遅めの昼食を食べた。

 時間が時間だったので、あまり客は多くはなく、好きな席に座る事ができた。

 

「えっと…私は、チーズハンバーグのランチセットに、ボロネーゼと、シーフードフライと…あと、トマトリゾットとイチゴパフェをつけて下さい」

 

 癒治君は、席に着くなり女子一人で食べ切れるとは思えない量の料理を注文した。

 おい待て、どう見ても四、五人前はあるぞ。

 普段の食事では、そんなに食べていなかったと思うのだが…

 

「……癒治君。気分を害したのなら申し訳ないが…君、そんなに健啖だったか?」

 

「す、すみません…私、“個性”の関係上、血になるものをたくさん摂らないといけないので、おなか空くとたくさん食べちゃうんです」

 

 私が指摘すると、癒治君は顔を赤くする。

 …ああ、もしかしてアレか?

 学校だと男子の目があるから食べるのを控えめにしていたとか…そういう事か?

 だとしたら、これ以上追及するのはやめておくか。

 私がそう考えていると、癒治君が話を変えてくる。

 

「あの…そういえば、ずっと聞こうと思ってたんですけど…渡我さんと六徳さんって、どうやって仲良くなったんですか?」

 

 癒治君が尋ねると、被身子は恍惚とした表情を浮かべながら話し始めた。

 

「最初はね、刹那ちゃんのボロボロの姿がカアイイと思ったの。それで、勇気出して話しかけたら、お友達になってもいいよって言ってくれたの。だから私は、刹那ちゃんが好き」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

渡我side

 

 一目見た時から、すぐ好きになった。

 だって、ボロボロの姿がカァイかったんだもん。

 

 小さい頃、好きだった子が血を流してて、それがすごく綺麗だったからチウチウした。

 そしたら、その子になれた。

 好きな子になれたのが嬉しくて、血がもっと好きになった。

 でも、傷ついたスズメをちうちうしてたら、お父さんとお母さんに怒られた。

 人間じゃないって、言われちゃった。

 お父さんにも、お母さんにも、先生にも、普通になれって言われた。

 普通にならなきゃ、人じゃないって、カァイくないって言われちゃうから、好きな事を全部我慢した。

 

 でも小学生の時、私は刹那ちゃんに救われた。

 私の通ってた学校に転校してきた刹那ちゃんは、休み時間にいっつも一人で本を読んでいた。

 火傷でボロボロの姿がすごくカァイくて、すぐ好きになった。

 だけど先生に、刹那ちゃんは両親を(ヴィラン)に殺されて可哀想だから、話しかけちゃダメって言われた。

 不謹慎だから、笑うなって言われた。

 

 何でみんな、刹那ちゃんの事を可哀想って言うのか、わからなかった。

 こんなにカァイイのに、何でみんな好きなの我慢してるんだろうって、ずっと思ってた。

 本当はダメだってわかってたけど、あまりにもカァイかったから話しかけた。

 

「それ…何読んでるんですか?」

 

 私が話しかけると、刹那ちゃんは驚いた顔をして本を落とした。

 

「今、私に話しかけたのか?」

 

 怒られると思った。

 でも刹那ちゃんは、普通に話しかけてくれた。

 

「私に普通に話しかけてくれたのは、君だけだ。私は六徳刹那。君は?」

 

「渡我です!渡我被身子」

 

 その日から、私は刹那ちゃんと仲良くなった。

 昼休みに空き教室に行ったり、放課後にお家に行ったりして二人で一緒に遊んだ。

 刹那ちゃんは、火傷がカァイイって言っても怒らなかった。

 

「刹那ちゃんは、火傷がカァイイって言われて嫌じゃないの?」

 

「……嫌ならとっくに治してる。望んで残したものを、可哀想だの何だのと言われる道理はない」

 

 刹那ちゃんは、他のみんなとは違って、好きなものをダメって言わなかった。

 私は、そんな刹那ちゃんの事がもっと好きになった。

 好きになればなるほど、血を吸いたくなった。

 そんな事したら嫌われちゃうから必死に抑えてきたけど、ある日我慢が限界を迎えた。

 お菓子作りしようって刹那ちゃんに誘われて家に行った時だった。

 

「痛っ」

 

 刹那ちゃんが、ナイフで指を切って血を流した。

 白い肌に真っ赤な血が垂れているのがすごく綺麗で、血を吸いたい衝動に駆られた。

 抑えようとしたけど、ダメだった。

 気がつけば、刹那ちゃんを押し倒して、手に握ったナイフを振り下ろそうとしていた。

 

「血ィ吸いたい…抑えなきゃ…我慢しなきゃ…!」

 

 私は、刹那ちゃんをナイフで刺すのを我慢した。

 笑いたいのを、必死に堪えた。

 ちゃんとしてなきゃ、嫌われちゃう。

 カァイくないって思われちゃう。

 

「そうやって、好きな事をずっと我慢してきたんだな」

 

 刹那ちゃんは、怒るどころか、私が抱えてきたものに触れてくれた。

 私の事をわかってくれた、初めての人だった。

 

「だって…やめろって言われたもん……笑うなって、言われたもん…カァイくないって思われちゃうから…血ィちょうだいって、言えなかった…!」

 

 私は、思ってきた事を刹那ちゃんに話した。

 話しているうちに涙が溢れてきて、服をびちゃびちゃに汚しちゃったけど、刹那ちゃんは嫌な顔をせずに私の話を聞いてくれた。

 私が話すと、刹那ちゃんは血を流した指を差し出してきた。

 

「いいよ、吸っても。この際、溜め込んできたものを全部吐き出せ」

 

 刹那ちゃんは、ちうちうしてもいいよって言ってくれた。

 その言葉が、温かくて、嬉しかった。

 私は、迷わず刹那ちゃんの指を咥えてちうちうした。

 私が『変身』の“個性”を使って刹那ちゃんの姿になると、刹那ちゃんは驚いた顔をした。

 

「ずっと、知りたいと思っていた…そうか、君には…私がこんな風に見えていたんだな」

 

 刹那ちゃんは、私の姿を見てそう言った。

 刹那ちゃんの血がもっと欲しいと思っていると、刹那ちゃんは髪を掻き上げて言った。

 

「もっといるか?」

 

「いいの…?」

 

「好きなように笑って生きて、好きなものになって、好きなものを好きと言う、それが君にとっての“普通”なのだろう?」

 

 私は、刹那ちゃんのその言葉に救われた。

 ずっと止まっていた時間が、動き出した。

 私は、刹那ちゃんに抱きついて、耳に噛みついてちうちうした。

 ちうちうしてる時に触れた刹那ちゃんの肌が、温かくて、柔らかくて、すごく気持ちよかった。

 その日の帰りに刹那ちゃんが持たせてくれたお菓子を、家に帰ってから大事に食べた。

 好きな子に好かれて、好きな子になれて、とっても幸せな気分になれた。

 世界一カァイイ、私の“普通”の友達。

 

 

 

「刹那ちゃん!何読んでるんですか」

 

 いつからか、刹那ちゃんは心理学の本とか、難しい医学書とかを読むようになった。 

 刹那ちゃんはすごく頭が良くて、私より歳下なのに難しい事を色々知っていた。

 

「被身子の吸血欲求を、抑圧しない方向でコントロールする方法を探しているんだ。私も六徳家当主としての立場がある以上、ずっと君に血を与え続ける事は難しいからね」

 

「…そんなの、カウンセリングの先生は言ってくれた事なかったよ。優しいんだね」

 

「そもそも、血への関心そのものには善も悪もない。君が普通に生きる為に必要なのは、抑圧する事ではなく、自分の欲求と向き合い使いこなす事だ…と私は思う。君が好きなものになりたいと思うように、私はわからないものをわかりたいと常々思っている。それが私にとっての“普通”なんだよ」

 

 そんな事を言ってくれたのは、私の事を悪くないって言ってくれたのは刹那ちゃんだけだった。

 私は、刹那ちゃんの事がもっと好きになった。

 

「ところで…前からずっと気になっていたんだが、君の“個性”で変身できるのは、本当に外見だけか?」

 

 刹那ちゃんは、それを確かめる為に、お父さんとお母さんに、私の“個性”を調べた病院でもう一度検査してもらうように話をしてくれた。

 そしたら私が変身したら見た目だけじゃなくて中身もその人のものになるって事がわかって、輸血や難病の治療に有用だって病院の先生が教えてくれてからは、血を飲むのと同じくらいに、人の命を救う事に憧れるようになった。

 それからはお父さんもお母さんも、私に笑うなとか普通になれとか言わなくなって、家族みんなでカウンセリングを受けているうちに少しずつ関係を修復できた。

 新しいカウンセリングの先生は、刹那ちゃんがしてくれたみたいに、私の心を軽くしてくれた。

 お父さんとお母さんは、刹那ちゃんと先生に泣いて感謝していた。

 

 ちなみに私に普通になれって言ってきたカウンセラーは、刹那ちゃんが訴えたら、他にも色々余罪があった事がわかって懲戒処分が下された…って話を聞いている。

 ちゃんと偉い人が怒ってくれたんだろうなっていうのは、刹那ちゃんが『勝訴』って書かれた紙を持ってニコニコ笑いながら走ってきたから、なんとなく察しがついてたけど。

 

 今は、看護系の大学に入る為に予備校に通って受験勉強をしている。

 刹那ちゃんが転校してからは一緒に遊ぶ機会も減っちゃったけど、刹那ちゃんのおかげで今、私は毎日笑って好きに生きてる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

癒治side

 

「というわけで、刹那ちゃんは私の大切なお友達なのです」

 

 渡我さんの話を聞いて、私はダバァっと滝のように涙を流した。

 それを見て、六徳さんと渡我さんがぎょっとする。

 

「わ、どーしたんですか療子ちゃん!?」

 

「すみません…なんだか、自分の話を聞いているようで…」

 

 私は、涙を拭ってから、自分の話をし始めた。

 

「私も、友達を治してあげたくて血をあげようとしたら、気持ち悪いって言われて…雄英に来るまで、友達が出来なかったんです」

 

「うん」

 

「要らないって言われて…何の為に生きてるのかわからなくて……ヒーローになったら、そんな事もなくなると思ってたんですけど…私、トロいから、スタートラインにすら立てなくて…」

 

「…うん」

 

「“個性”を使って人の役に立ってる人達が、羨ましかった…!私だって、好きに“個性”を使って生きてみたかった…!誰かに必要とされたかった…!!」

 

 私は、カーディガンの袖を捲って手首の傷を見せながら、今まで思ってきた事を二人に打ち明けた。

 人を治す為に握ったはずのナイフを、自分を傷つける為だけに使っていた。

 だけど本当は、好きに“個性”を使って生きたい。

 誰かに必要とされたい。

 矛盾してるってわかってる。

 それでも、私は……

 

 

 

「…好き。私、療子ちゃんが大好き。療子ちゃんになりたい。人を治す為にボロボロになって血を流してるところが、世界一カァイイと思うんだ」

 

 渡我さんは、腫れぼったい目を細めて、口角を上げて笑った。

 私はその笑顔が、今まで出会った誰よりも素敵だと思った。

 

「ねえ、療子ちゃん。血ィ、ちょうだい?」

 

 渡我さんが言った、その瞬間だった。

 視界がぼやけて、目から温かいものがとめどなく溢れ出した。

 

 …あれ?

 なんだろ、これ…

 泣きたいわけじゃないのに、涙が止まらないや…

 

「六徳さん、渡我さん…私、今が人生で一番幸せなんです。こんなに…幸せな事があってもいいんでしょうか…?」

 

 私は、涙を流しながら尋ねた。

 私を必要としてくれて、こんな私を世界一可愛いと言ってくれる人がいる。

 こんなにも嬉しい事はない。

 

「だったら、泣いていないで笑え。人は、笑う為に生きている」

 

 六徳さんは、私にハンカチを差し出しながらそう言ってくれた。

 私は、六徳さんが渡してくれたハンカチで涙を拭ってから、渡我さん…被身子ちゃんに話しかけた。

 

「……被身子ちゃん。こんな私の血で良かったら、好きなだけ飲んでください。あなたが必要としてくれる、それだけで私は、世界で一番幸せだから…」

 

 私が言うと、被身子ちゃんは目を瞑って満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔が眩しくて、とくん、と胸が鳴るのを感じた。

 すると六徳さんが、被身子ちゃんの服の袖を掴みながら話しかける。

 

「ところで被身子、癒治君が世界一可愛いと言ったが…世界一可愛いのは私じゃなかったのか?」

 

「お顔がカァイイのは刹那ちゃんですけど、療子ちゃんは中身がカァイイのです!カァイイのカテゴリーが別です」

 

「ならいいが…」

 

 被身子ちゃんが言うと、六徳さんは大人しく引き下がった。

 もしかして、張り合おうとしてた…?

 なんて思っていると、六徳さんが話しかけてくる。

 

「癒治君」

 

「は、はい」

 

「これからは、私の事も名前で呼んでくれないか?私も、療子と呼ぶ事にするから」

 

「わ、わかりました…えっと、刹那……ちゃん?」

 

 私が言うと、六徳さ…刹那ちゃんは満足げに笑った。

 私にはもったいないくらいにできた友達に恵まれて、私は世界一の幸せ者だ。

 

 …ああ、そうか。

 やっとわかった気がする。

 私はきっと、この二人に出会う為に生まれてきたんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

刹那side

 

 当初の思惑通り、療子は無事に被身子と打ち解けた。

 ぶっちゃけ両方とも血を触媒とした“個性”だから気が合うかもしれない、くらいの安直な考えだったのだが…正直ここまで波長が合うとは思わなかった。

 ファミリーレストランで昼食を摂った後は、スイーツ店で持てるだけのスイーツを買ってから被身子の家に行った。

 私達が寄ったのは六徳家の系列のスイーツ店だったので、私が店長に挨拶をすると何%かオマケしてもらえた。

 

 被身子の家にスイーツを持ち帰った私達は、リビングの床にありったけのクッションを敷き詰めて、ローテーブルの上に買ったスイーツを広げた。

 被身子の家にあった採血針で血を抜いて二人のグラスに注ぎ、私の分のグラスにはザクロジュースを注いだ。

 ワインの代わりに鮮血とジュースで乾杯して、スイーツを囲みながら三人で恋バナをした。

 

「私の好きな人は、斉藤くんです。皆に好かれてて、困ってる人の味方で、ヒーローみたいでかっこいいのです」

 

「斉藤君…ああ、確か個性的なTシャツを着ているんだったか?」

 

「そう!そうなんですよ!」

 

 私が尋ねると、被身子はさらに上機嫌になった。

 被身子のお気に入りの斉藤君の話は、前から聞かされている。

 勇気を出して話しかけたら、友達になれたそうだ。

 

「私は…実は、ヒーロー科に気になってる男の子がいるんです。あっ、別にまだ好きとか全然そういうんじゃないんですけど…」

 

「それって、入試で助けてもらったっていう、B組の?」

 

「………はい」

 

 私が質問すると、療子は唇をモニョモニョ動かしながら頬を染めて頷いた。

 療子にも春が来たか…

 なんて考えていると、被身子が私に話を振ってくる。

 

「刹那ちゃんはいないんですか?好きな人」

 

「どうだろうね…今はまだいないかな」

 

 私が被身子の質問に答えると、療子が驚いたような表情を浮かべる。

 

「えっ、心操くんは違うんですか…?」

 

「いやいや、ないよ。私はただ、彼の思い描く未来に興味があるだけだ。それ以上でも以下でもない。というか、私より弱い男を伴侶に持つ未来が想像できないのだが…」

 

「……刹那ちゃん、その辺にしといてあげてください。それ以上は死体蹴りになっちゃいます」

 

「えっ?」

 

 私が正直な話をすると、療子が真顔で私を諌めてきた。

 死体蹴りって…私、そんなに酷い事言ったか?

 

 その後も私達は、恋バナを続けた。

 推しのヒーローの話とか、将来結婚するならどんな相手がいいとか、そんな話をして妄想を膨らませた。

 帰る時間になる頃には、スイーツを食べて血糖値が急激に変化したからか睡魔が襲ってきて、迎えの車の中でウトウトしてしまった。

 

 それにしても、立場を忘れて友達と本音で語り合ったのはいつぶりだろうか。

 全員がお互いの事を好きで、全員が幸せにしかならない…

 これって、世界一平和な三角関係なのでは?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時は流れ、体育祭前日。

 この日も私は、心操君と療子に近接格闘の稽古をつけていた。

 二人とも成長速度が凄まじく、たった一週間で攻撃が入るようになってきた。

 …“個性”が格闘と相性が悪いのと、今まで効果的なトレーニング方法に出会えなかっただけで、才能は下手なヒーロー科よりあるんだよな。

 なんて呑気に考えていると、心操君が距離を詰めて拳を振りかぶってくる。

 

「セイッ!」

 

 うむ、昨日に比べてキレが良くなったな。

 だがまだ隙が多い。

 私は、心操君の攻撃の軌道を見切ると、カウンターを仕掛ける為に間合いを殺す。

 だがそれが彼の狙いだったらしく、私がアッパーを繰り出す直前で拳を引き、半歩後ろに退いた。

 そしてその直後、後ろに引いた手を使って掌底打ちを仕掛けてきた。

 だが僅かに私のアッパーの方が早く、私の拳が彼の顎に直撃し鈍い音が響いた。

 私は、咄嗟に重心を左に傾ける事で掌底を回避したが、無理な体勢で回避したせいでバランスを崩してよろめき、着地の際に左膝をついてしまった。

 

「やっと、跪いた…」

 

 私が膝をつくと、思いっきり殴り飛ばされて床に伸びていた心操君が上体を起こしてニヤリと笑った。

 鼻血が出ていて殴られた部分が内出血を起こしていたが、その表情はどこか誇らしげだった。

 なるほど、これは…私の負けだな。

 

「合格だ」

 

「っ…!ありがとうございます」

 

 私がニヤリと笑いながら言うと、心操君は礼儀正しく頭を下げた。

 心操君は、これで合格だ。

 療子は、残念ながら体育祭までに課題をクリアする事はできなかったが、それでも一週間前とは見違える程に強くなっていた。

 正直結果は体育祭が始まらないと何とも言えないが、少なくとも予選落ちって事はないだろう。

 

「これなら、体育祭で恥をかく事はまずないはずだ。療子も、昨日より動きが良くなっていたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「明日の体育祭、楽しみにしているよ」

 

 私が言うと、二人は顔を見合わせてから、私に頭を下げた。

 

「「押忍!!」」

 

 二人の声が、道場に響き渡る。

 二人とも、私の予想をはるかに超えて強くなった。

 他の皆も、キャンプに参加したメンバーは、それなりに力をつけているようだ。

 これは、明日の体育祭が楽しみだな。

 

 

 

 

 




カァイイ女の子同士のイチャラブ血う血うからしか得られない養分があるんや。
異論は認めん。
トガちゃんの中では、お顔が世界一カァイイのがオリ主ちゃんで、中身が世界一カァイイのが癒治ちゃん…という設定です。
次回、体育祭編。

A組の期末前の修行パートいります?

  • 書け
  • いらん、本編進めろ
  • んなもんより他の番外編書け
  • 好きにしな
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