壊れた世界と忘却の星 〜幼馴染がオススメするVRMMOがなんかおかしい〜 作:暁天花
Prologue 忘却の星
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【警告。残存エネルギー量八%。予測戦闘可能時間一三分】
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晩秋の冷たく乾いた風が吹き抜ける、山間にひっそりと佇む廃墟の街並みの中。異形の怪物達の攻撃を掻い潜って逃げ込んだ建物の影で、金髪
「くっそ……! こんなところで……!」
少女の着ているワンピース型の軍服は既にボロボロで、怪我こそないものの息は上がりきっている。はぁはぁと激しく息を吐く端正な顔には、苦悶の表情と共に汗が滴り落ちていた。
少女の脳内には絶えず数式が流れ、残存の
視線を傍らに戻すと、そこには不安げな顔でこちらを覗き込んでくる少女の姿。服装こそ同じワンピース型の軍服だが、その着こなしはぎこちない。彼女の髪と同じく綺麗な
彼女を安心させるように金髪の少女は
「雪音、君だけでも逃げて」
「れ、レイ、あなた、何を言ってるの?」
雪音、と呼ばれた黒髪黒瞳の少女は、金髪の少女に困惑の言葉を返す。しかし、レイ、と呼ばれた金髪の少女は、笑顔を保ったまま、
「僕がここに残ってヤツらの注意を引き付ける。だから、雪音はその隙に逃げて。羽根の使い方は……分かるね?」
「い、嫌よ! 私は、レイと一緒に……」
「駄目なんだよ」
戸惑う雪音の言葉を遮って、レイは優しい声音で告げる。
「今の僕には、君を守って逃げる力も、ヤツらを撃退する力も残されていない。……それに。このまま僕と君が二人で逃げれば、戦場ヶ原のサーバーに危害を加えてしまう」
戦場ヶ原サーバー。それが、二人が目指していた場所だ。今いる場所――旧福島県
「サーバーのある場所がヤツらに見つかる。それだけは、絶対に避けなくちゃならない。けれど、今の僕達には、あの化け物達を撒く手段がないんだ」
少女の視界の傍らに映し出された光学映像には、翼を拡げて悠然と空を舞う異形たちが大量に映し出されている。ヤツらに見つかれば最後、並大抵の動きでは追跡を逃れることはできない。
そして。ヤツらを“サーバー"に近付けることは、絶対にあってはならないことなのだ。
黙りこくる雪音に、レイは再び笑みを向ける。
「それに。僕は軍人で、雪音は民間人でしょ? 民間人を守り、助けるのが軍人たる僕の役目だ。だから……ね?」
しばしの沈黙。
「雪音、お願い」
と、レイが更に言葉を続け、雪音はなおも黙りこくって、
「…………わかった」
とても小さな、消え入りそうな声で答えた。
雪音の答えに満足したように笑って、レイは一言。
「ありがと」
それだけ呟き、レイは廃屋の影から今一度空の異形達を見上げる。やはりこの周辺にいるということは分かっているらしく、ここを動く気配はない。
「僕が出たタイミングで、雪音は南に全速力で逃げて。何があっても、絶対に立ち止まったり振り返ったりはしないこと。いいね?」
ちらりと、後ろに佇む雪音を振り返る。
「……うん」
雪音が俯き加減で頷くのに、レイは一瞬だけ小さな苦笑をもらして。次の瞬間、レイは軍人の表情を形作っていた。
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右手で
短く息を吐き、レイは最後に精一杯の笑みを雪音に向ける。
「……少しの間だったけど。キミの傍にいられて幸せだったよ」
言い放ち、視線を頭上の異形達へと向ける。刺すような視線を感じながらも、レイは決して振り返らない。
脳内に表示されたシステムに意識を集中させ、発動した〈
全ての準備が整ってから、背後で雪音が〈
「じゃ、またね。雪音」
言い置いて。レイは異形達のもとへと突撃していった。
――――そして。そんなレイに背を向けて、雪音は南へと飛び立つ。
決して振り返らず。
立ち止まらず。
涙を堪えて。
首にかけたデータ記憶体を、強く握り締めながら。