壊れた世界と忘却の星 〜幼馴染がオススメするVRMMOがなんかおかしい〜 作:暁天花
第二二話 天羽々斬作戦
草木に侵食された廃墟の高崎の街の上、黎明に染まる薄闇の空の下。一機の輸送機を中心とした戦闘機と爆撃機、攻撃ヘリの大編隊が、地平線の彼方にある旧高崎市の〈
散発的に襲い来る〈
窓外のそこかしこで鮮やかな爆炎が煌めき、静かな廃都市の空に大音響を轟かせる。炎が風と共に消え、見えてきた景色に〈
つい最近実用化されたらしい、対〈
無謀にも更に中央へと攻撃を仕掛けてくる一匹の〈
乗っている輸送機が風に煽られているのを座席の上で感じつつ、雪音は視線を窓から目の前の立体映像へと移す。
表示されているのは、今回の作戦で初めて使用可能になった新しい〈量子兵装〉の概要だ。数こそ多くはないものの、そこに記載されている兵装の性能はこれまで手の届かなかった機能のものばかり。正直自分がどこまで扱い切れるのかは分からないが……。ともかく、戦闘の選択肢が増えたというのは喜ぶべきことだろう。少なくとも、レイなら完璧に扱えるんだろうなという感覚がある。
その当のレイは、雪音の隣で同じ立体映像を開きつつも両腕を組んで目を閉じている。少し前に画像を流し読みをしたと思ったら、いつの間にかこうなっていた。
……まぁ。彼女には〈量子兵装〉に対して天賦の才があるのだ。特に心配する必要はないだろう。
記載されていた文章に一通り目を通し、表示していた資料を消去する。
「……ふぅ」
と、一息。一瞬だけ目を閉じ、直ぐに開いて今度は三人の前に大写しになった作戦状況図を見上げる。
「……敵の数、少ないですね」
呟く声の先、対面に座る
「〈
状況図の上部には〈
そして。それらの中央を突っ切るのが青い点の集団――雪音たち、〈戦場ヶ原〉サーバーの保有する全
とはいえ、その数はお互いに微量なもの。現状、雪音達の軍は殆ど無傷で敵地へと進撃を続けており、〈
……つまり。〈
その事実に雪音は生唾を飲み込む。東側での損害が少ない分、西側では膨大な量の情報が――電子化された人々が――消滅しているのだろう。
未来を紡ぐために。明日をよりよいものとするために。
作戦状況図の右下へと目を向けると、そこには〈戦場ヶ原〉サーバーのある場所の地上の様子が映し出されている。
こちらとは打って変わって静寂そのものの戦場ヶ原の雪原には、一個大隊ほどの戦車隊と、百数人ほどしかいない歩兵部隊が臨戦態勢で待機している。
『目標地点まであと五〇〇メートルを切りました。各員、戦闘準備をお願いします』
と、機内スピーカーから男性兵士の声が聞こえてくる。雪音は思考を今へと戻し、対面の
帰ってくるのは、決意に満ちた青い瞳と頷く動き。
席を立って隣を見る。振り向く少女の深紅の瞳は、二人と同じように決意に満ちていた。
雪音は手を差し出し、短く告げる。
「行きましょう。……未来を切り拓くために」
レイは無言でこくりと頷き。そっと雪音の手を取った。
目標地点に到達間近ということを告げる士官の声が機内スピーカーに響く。それを聞き終えた三人は、一様に〈
脳内にメッセージが駆け巡り、殆ど同時の素早さで背中に光の翼が形成される。が、その色は今までの金色ではなく、澄んだ
聞きなれた無機質な機械音声と同時に光の粒子が右手に寄り集まり、それらは急速に大きな銃の形を成していく。半透明の金色が次第に鈍く光る黒鉄へと変化し、数秒もしないうちに実体化。その銃のグリップを握り込み、微かな重量を右手に感じさせる。
【〈
脳内に鳴り響くのは、無機質な機械音声。同時に網膜へと映し出される文字列を即座に消去し、空いたリソースを確認してから更に幾つかの兵装を脳内に思い描く。
【〈
【〈
……これで戦闘の準備は整った。
あとは、この機体から降りた際に予備起動しているものをちゃんと起動するだけだ。こうしておけば、〈量子兵装〉の並列生成――つまりは同時生成が可能になる。
ちらりと隣を見ると、
『健闘を祈る』。そう言外に言っていた。
『目標地点に到達しました! 後部ハッチ、解放します!』
操縦士の声がスピーカー越しに聞こえ、それに呼応するかのように目の前のハッチが上から下へと開いていく。気圧差による暴風が容赦なく機内に入り込み、閉ざされていた爆音が鮮明な音となって三人の耳に襲いかかってくる。もう随分長い間聞いていなかった、『普通の戦場』の音。
眼下に覗くのは一面雪に覆われた高崎の廃都市。約二年前に〈
『司令部より通達! 「現時刻をもって第一段階を完了。特殊
『了解』と
「これより
その言葉に雪音はこくりと頷き、一歩前に踏み出す。一度だけ短く息を吐いて、気を整え。
直後、雪音は開いたハッチから黎明の冬空へと飛び込んだ。
雪の混じった冷たいであろう大気の暴風を、量子場の壁が遮断する。視界の端々には赤い炎が瞬き、それと同時に大気を裂くような爆音が廃都市の空に轟く。少し遅れて防ぎ切れない衝撃波があらゆる方向から押し寄せ、降下したばかりの雪音に叩きつけられる。
対衝撃波用の量子場を少しだけ強化し、範囲内の大気が安定するように設定。それを感知した〈CPCAS〉が事前のプログラムに沿って〈量子兵装〉を展開。刹那、左腰に提げていた
頭上の左右に〈
使用する弾薬はもちろん、
一通りの兵装展開を終え、雪音は後から降りてきた二人に視線を向ける。
『用意はいいな?』と問う
「先陣はステラフォードが切る。中段に月咲が、
「了解」と雪音とレイの声が重なる。応答を確認した
「では、これより特殊
雪雲に覆われた黎明の空の下、草木と白雪にまみれた廃都市の上を
先頭を行くレイが、〈
が。その頃には既に
レイの頭上から二つの光線が煌めき、一直線に漆黒の竜の頭部と胸部に突き刺さろうとして――
見えない『壁』が、二つの弾丸を受け止めていた。
ガラスの砕けるような音が辺りに響き、『壁』が砕け散る。その衝撃で漆黒の竜が光の集積を中断して仰け反り、それを予期していたかのようにレイが跳躍。一息で漆黒の竜の懐にまで迫ると、右手の〈
瞬間、二つの漆黒が嘘のように消失し、半瞬遅れて暴力的な衝撃波が撒き散らされる。それを
動きに一切の無駄がなく、それでいて被弾の可能性を完璧に排除しながら敵を排除する。絶対に負けない、死なない戦い方。けれどそれは、普通の人間では到底できるような動きでは無い。〈量子兵装〉に天賦の才があるレイだからこそできる、完全無欠の機動戦。
神速のごとき素早さで縦横無尽に
『金色の姫騎士』。彼女の持つ綺麗な金髪と可憐な容姿から、函館の駐屯地で言われるようになっていた
……それと同時に沸き起こる感情に対する答えは、まだ出てこなかった。
レイが掃討した空の道を、雪音と
それらを全て突っ切って、三人はただひたすらに〈
果たしてどれほどの時間が経ったのだろうか。距離にして約四キロメートル。視界の彼方に見えていた焦点の合わない金平糖は、いつの間にか目前にまで迫っていた。
絶えず形状を変化させるその姿は全く実像が掴めず、まるで物凄く画質の悪い動画を見ているようで。何度か見ている雪音でさえも慣れない。
先行していたレイに遅れて、雪音と
『じゃ、
――と。さも当然のことかのように言い放っていた。
「……え?」
全く予想していなかった言葉に、雪音は素っ頓狂な声を上げる。
が、
『これが何か分かるか?』
「……何ですか?」
輸送機から降下してからずっと背負っているのは分かっていたが。それが何なのかは検討も付かなかった。眉を下げる雪音に、隣のレイが、
『量子コンピュータだよ』
その答えに頷いて、
「ステラフォードの言う通り、これは〈戦場ヶ原〉サーバーからここまでの通信を繋ぐ、中継用の量子コンピュータだ。ただでさえ
『……確かに』と顎に手を当てる雪音。その体勢のまま、雪音は記憶の片隅で埃を被っていた情報を思い出す。
〈戦場ヶ原〉サーバーに収容されている人間が動けるのは、半径約七〇キロメートルの範囲内。そして今いる場所は、半径六七キロメートルの地点だ。
雪音は思い出したように網膜に映る情報に意識を移し、右上の隅、通信状況が表示されたアイコンを捉える。果たして、そこに映る白色の縦線――普通の回線は一本しか立っていなかった。残りの四本は、中継機を挟んだことを示す水色で示されている。
網膜の情報から意識を逸らし、再び目の前に戻して雪音は問う。
「……
『ああ』
帰ってきたのは、酷く簡潔な答え。
しばしの沈黙ののち、雪音は短く告げる。
「……帰ってくるまで消えないで下さいよ」
『当たり前だ』
にっと笑って
雪音とレイは無言で彼に背を向け、光の翼に加速力を付与する。
そして、その翼が振り下ろされる瞬間。
『未来を導いてくれ』
刹那、雪音とレイは最大速力で〈