壊れた世界と忘却の星 〜幼馴染がオススメするVRMMOがなんかおかしい〜   作:暁天花

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第六話 激闘

 【〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉起動。刀身長を二に設定――――実体化処理完了】

 【〈電磁加速銃(レールガン)〉起動。〈量子相殺(Quantum Offset)弾〉装填。――完了】

 

 

 左手に光の剣を、右手に電磁加速銃(レールガン)を生成しながら、レイは前方を全速力で駆け抜ける先輩たちの後をついていく。先輩たちの振るう光の刃が、行く手を阻む漆黒の竜たちを次々と斬り裂いていく。切り捨てられた竜は瞬時に消滅し、直後、衝撃波となって後方を駆け抜けるレイと雪音に襲いかかってくる。量子場の形成でそれを受け止めながら、レイたちは先輩たちの側面支援に当たっていた。

 

 《〈ODEE(オーディー)西洋竜(ドラゴン)型》の放つ光線を総合予測戦闘演算システム――〈CPCAS〉で捉え、割り出された射線に交わるように〈電磁加速銃(レールガン)〉を撃ち放つ。彼我ともに秒速三〇〇メートルはある弾道はほとんど瞬時に交錯地点に到達し、次の瞬間、光線は跡形もなく消え去っている。直後、消滅地点から弾かれた衝撃波がレイたちの髪を揺らす。

 

 量子相殺(QO)弾。どういう原理なのかは知らないが、光線に接触させるとその光線を消滅させることのできる弾丸だ。

 針に糸を通すような、それも高速機動をしながらといった困難極まる技が要求される弾丸ではある。だが、〈CPCAS〉が瞬時に光線との接触軌道を割り出し、そして照準までもを担当してくれているのだ。お陰で、レイ自身はトリガーを引くだけでこの弾薬のポテンシャルを最大限まで引き出せている。

 量子相殺(QO)弾もその使用方法も、この一ヶ月間手探り状態の中で探し当てたものだ。

 

 ……正直、こんなに便利なものがあるのならデフォルトで設定しておいてほしかった。つくづくチュートリアルやゲーム説明がないのが悔やまれる。

 

 徐々に金平糖のようなモノ――〈(ネスト)〉に近づいているのを感じつつ、レイは〈電磁加速銃(レールガン)〉を撃ち続ける。近くの〈ODEE(オーディー)〉は先輩たちが片っ端から撃破していくおかげで、この間左手の剣はご無沙汰だった。

 ついに異様な構造体の表面に到達し、陽花先輩は

 

『じゃ、頼んだよ!』

 

 とだけ伝えて、金平糖状の異様な構造体の中へと突き進んでいく。その間、先輩たちが帰って来るまでここを守り抜くのが、レイたちに与えられた役目だ。

 どうやら〈(ネスト)〉の中は外からは見えないらしい。消え去った先輩たちを傍目に振り返り、レイは迫り来る漆黒の竜たちを睨み据える。

 視界に映る赤色は無数、脳内に響く警告音は敵の照準が多数こちらにあることを告げている。小さく息を吐き、その場で静止。そっと〈電磁加速銃(レールガン)〉を構え、システムに命令を送る。

 

 【弾種変更。装填済の銃弾(量子相殺弾)を誘導集束(クラスター)方式に変更】

 【〈電磁加速銃(レールガン)〉の出力を五に設定。――エネルギー量不足。〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉の刀身長を一に強制変更】

 

 瞬間、左手に持つ剣が短くなる。これも予想のうちだ。

 〈CPCAS〉に敵の発する光線の弾道を片っ端から予測させ、それに対応する座標を〈電磁加速銃(レールガン)〉に設定していく。

 

『レイ!?』

 

 通信機に雪音の驚愕する声が聞こえてくる。それに

 

「大丈夫だから。ボクの傍に来て」

 

 といつもの口調で応え、直後、脳内に入ってくる全ての音声をシャットダウンする。トリガーに指を添え、いつでも射撃できる体勢に。視界に映るのは、無数の赤点に重なる漆黒の竜――《〈ODEE(オーディー)西洋竜(ドラゴン)型》と、彼らが頭上に集める極光。神経を研ぎ澄まし、その光を注視する。

 ごくりと唾を飲み込み、漆黒の竜たちが一斉に光線を放ってくるのを視界に捉える。

 

 瞬間、撃発。

 

 竜たちの放った光線がレイに向かって一直線に迫り来る。それに対応するのは、レイが放った誘導クラスター方式の量子相殺弾一つ。そう。()()()()()方式――つまり、無数の子弾(しだん)をばら撒く弾丸だ。

 一定の距離で集束(クラスター)が作動し、無数の小さな弾丸となって飛散する。それらは『誘導弾』となって一つ残らず設定座標へと向かい――光線と接触。

 

 直後。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「雪音! 行くよ!」

 

 音声シャットダウンの解除と同時に言い捨て、レイは〈光量子翼(ルクス・フリューゲル)〉の出力を最大まで引き上げる。同時に〈電磁加速銃(レールガン)〉を解除し、代わりに〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉の出力を『三』に設定。剣の刀身がさっきの三倍にまで延伸(えんしん)される。

 

『う、うん!』

 

 という困惑の声を聞きつつ、レイは衝撃波の中を突き進む。頭を振り下げた体勢の竜へと刃を突き立て、システムの示す箇所に向かって剣を滑らせる。僅かな硬い感触を手に感じつつ、一刀両断。そのまま走り抜け、次に目を向けるのは無防備に背面を晒す別の竜。

 心臓のある位置へと一直線に突撃し、漆黒の肉体を突っ切って真反対まで駆け抜ける。直後、背後で巻き起こる衝撃波の風。

 ちらりと視線を向けた先、そこでは雪音が加速と急旋回を駆使して竜を翻弄している姿が見えた。生じた一瞬の隙に剣を一突きして、無駄なく敵を撃破していっている。大雑把なレイとは違い、雪音の戦い方は実にスマートなものだった。

 

 

 

 レイは速度とシステムに頼った高速戦を、雪音は加速と急旋回を駆使した機動戦を展開して、二人は無数の竜を狩り続けていった。

 その間、かすり傷こそあったものの大きな被弾はなく、着実に敵の数は減っていた。少なくとも、二人のいる空域の安全を確保できるぐらいには。

 一段落したところで、その報告は来た。

 

『〈(ネスト)〉の破壊が完了した! 二人とも次に備えて!』

「え?」

 

 突然陽花先輩に放たれた言葉にレイは戸惑う。備えるって、いったい何に……?

 

「レイ! シールドを展開して!」

「え? あ、うん!」

 

 雪音に言われるがままに〈量子盾(クオンタム・シールド)〉を展開し、彼女と同様〈(ネスト)〉の方へと向き直る。

 直後、金平糖のような形状でうねっていた表面が、眩い光を放ち始めた。

 視界が真っ白に灼け、それと同時に大爆発の轟音が耳に流れ込んでくる。直後、光の奔流と共にとてつもない嵐が吹き荒れた。

 

「な……なに……!?」

 

 奥歯を噛み締めながら呻き、必死で〈量子盾(クオンタム・シールド)〉の裏にしがみつく。盾が壊れていないあたり攻撃力のあるものではないらしいが、とはいえこの暴風だ。盾から離れてしまえば最後、この空域からは弾き出されてしまうだろう。

 前から襲い来る猛烈な風がゆっくりと勢いを減らし、目を灼く光がどんどん光度を下げていく。視界に景色が戻り、処理機能の正常化が済んだシステムが各種の機能を取り戻す。色彩を取り戻し、眼前に灰と緑の廃墟があることを確認する。

 隣に目を向けると、そこには雪音の姿がある。

 

「雪音、今のは……?」

「後で分かるから、今は戦闘態勢に入って」

「え……?」

 

 レイが困惑している間にも、雪音は〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉を生成。二秒もしないうちに臨戦態勢に入っている。

 鬼気(きぎ)迫る雰囲気に気圧されつつ、レイも同じく〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉を再生成。左手に量子相殺(QO)弾を装填した〈電磁加速銃(レールガン)〉を生成し、来たる戦闘に備える。

 程なくして、耳に入って来たのは通信機越しの陽花先輩の声。

 

『ごめん! 天使の降臨までは食い止められなかった!』

 

 ……天使? 降臨?

 

 なんのことだかさっぱり分からない。脳内に『?』を浮かべている間に先輩たちが帰還し、レイたちの周辺で静止する。振り返る二人の右手には、レイたちと同じく〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉――光の剣が握られている。

 

「会敵時間は」

 

 と、雪音が聞いたこともないような冷えきった声音で問い、

 

『二十秒後だ。ちょうど〈(ネスト)〉があった地点に大きな量子ゆらぎがある』

 

 と、これまた聞いたこともないような単語と声で恭夜先輩が答える。

 ……いくら一回負けたら買い直さなければならないゲームとはいえ、そこまで決死の表情になるものなのだろうか。そんな違和感をレイが感じていると、

 

「レイちゃん、まだいけそう?」

 

 いつもの調子で陽花先輩が訊ねてきた。レイは「あ、はい」と笑みを作って応え、

「全然大丈夫です」

「ならよかった。最初の作戦とはちょっとズレちゃったけど、こっからが正念場だよ。頑張ろうね」

「は、はい……?」

 

 曖昧な表情を浮かべるレイをよそに、陽花先輩は何もないように見える街へと目を向ける。レイも同じように目を向けて――その時。

 

 灰と緑色の廃墟の景色が、ぐにゃりとねじ曲がった。

 

 【高度量子生成感知】

 

 脳内にアラート音が鳴り響き、ねじ曲がる景色に巨大な範囲のロックオンが掛かる。虚空に真っ黒な点が現れ、それは急速に拡大していく――と思うと、突然、無音の閃光がレイたちを襲った。

 一瞬の明滅ののち、入り込んできた光景に絶句した。

 

「なっ……――!?」

 

 目の前。システムが示す二〇〇メートル前方。そこには、全長二十メートル以上はある漆黒の『天使』がいた。

 立体感の感じられない、輪郭だけの黒色は人の形をしていて。巨大な翼が二対、悠然と空の空気を掴んで滞空している。システムが示すこの敵の名は、《〈ODEE(オーディー)天使(エンジェル)型》。つまり、敵であることを告げている。

 

『いくよ! みんな!』

 

 と陽花先輩が叫び、雪音と恭夜先輩がそれに呼応する。少し遅れてレイも『はい!』と返事を返し、目の前の巨影に〈電磁加速銃(レールガン)〉の銃口を合わせる。

 静かに息を吐き、脳内に入ってくる情報に意識を集中させ、

 

 

 ――天使の周囲の空間が歪んだ。

 

 

 刹那、計二〇の射撃予測位置が即座に特定され、歪んだ空間に光の点が形成される。一秒と掛からずにそれらは臨界点にまで達し、その光度を保ったまま発射。光の槍がレイたちに向かって放たれた。

 誘導クラスター方式の量子相殺(QO)弾でそれらを掻き消し、吹き荒れる衝撃波の中をレイたちは全速力で駆け抜ける。

 

『私と恭夜が正面から相手する! 二人は裏に回り込んで!』

『了解!』「はい!」

 

 陽花先輩の言葉に雪音とレイが応答し、それきり通信が途切れる。遠ざかる二人の先輩を視界の端に捉えつつ、天使の脇腹を全速力で疾走。ものの数秒で背面に回り込むことに成功した。

 

『五秒後に突撃する! タイミング合わせて!』 

 

 一瞬だけ聞こえた先輩の声は、風切り音と爆発音が背景に鳴り響いている。

 こちらに視線を向けてくる雪音に黙って了解の頷きを返し、右手の剣に意識を集中。

 

 【〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉の刀身長を三に設定。対衝撃波量子場を強化。――エネルギー量不足。〈電磁加速銃(レールガン)〉強制停止】

 

 右手に構える光の刃が更に長さを増し、周囲に展開されている『空間』の改変が強さを増す。これで風の抵抗が更に弱まり、突撃の効果がより一層高くなる。

 突撃の準備が整い、最後に一つ、

 

 【〈陽電子弾〉装填。注:拳銃接射専用弾】

 

 左脚のレッグホルスターに入れてある拳銃が淡い燐光を纏わせる。こちらは雪音に使用方法を聞いた上であまり使いたくないモノなのだけれど……まぁ、保険としてだ。 

 

 システムが突撃開始の時間を告げ、それと同時に〈光量子翼(ルクス・フリューゲル)〉を最大加速。人で言うところの心臓部分に雪音と共に剣を突き立てる。肉を裂くような感覚を突っ切り、天使の正面へと到達。十分な距離をとって振り返る。

 漆黒の体の両腕は切り落とされ、その奥には二人の人影。先程レイたちが切り裂いた穴からは唯一、心臓と思わしき物体が七色に煌めいている。

 

「いくよ!」

『ええ!』

 

 剣を構え、再び突撃。システムが光線の発生を告げ、レイたちの進路に光の槍が立ち塞がる。雪音がレイの前に進出し、〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉で迫る光線を両断。光線と光の刃が掻き消え、至近の衝撃波に雪音が吹き飛ばされる。

 

「雪音ッ!?」

『行って!!』

 

 有無を言わさぬ、鋭い叫声(きょうせい)

 

 吹き飛ぶ雪音から目を離し、再び煌めく七色の物体を見据える。またもやシステムが光線の接近を知らせ、レイの視界に『回避不可能』の文字を送り込んでくる。予測線の先に〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉の刃を合わせ、構わず突き進む。

 

 【〈光量子剣(ルクス・シュヴェルト)〉対消滅。再起動まで十秒】

 

 光の刃が光線と接触し、相殺されて双方の光が掻き消える。直進はそのままに左脚から拳銃を引き抜き、構える途中で安全装置を解除。照準を七色の物体に合わせ、撃鉄を起こす。

 勢いよく漆黒の体に着地し、左手に右手を添える。

 コンッ、という音が、七色の物体とゼロ距離であることを告げる。

 

 直後、トリガ。

 

 瞬間、レイの視界は真っ白に漂白された。

 

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