ソードアート・オンライン~LuLuの物語~ 作:ウンニーニョ
浮遊城1層
始まりの町にある教会。
少し前に子供達を助けたキリト、アスナ、ルル、リズベットにユイの5人は助けた子供達と先生にお礼にと一晩泊めてもらい、朝食をご馳走になっていた。
「これは……すごいな」
「そうだね……」
キリトがつぶやき、アスナが頷く。
目の前では大勢の子供達が食事を取っている。中には取り合っている子たちまでいる。
「いつもこうなんですよ。……その、ユイちゃんの具合、大丈夫ですか?」
そう言ったのは先生と呼ばれているサーシャだ。
「ええ、昨晩休ませてもらったおかげでこの通りです」
ユイは何事もなかったようにパンにかぶりつき、硬いのか難しい顔をしながら口を動かしている。
ルルが「これつけてみな」っと懐かしの小瓶をユイの目の前に置く。
ユイは小瓶をタップし、パンにクリームを付けると一口かじる。「ん~~」と目を輝かせ一気に食べてしまった。
ルルはクツクツと笑いながら「これつけたときの反応もママと一緒だな」とユイをなでている。
リズもそれをつけて食べると「なにこれ、おいしい」と驚いている。
「今までにもこんな事が?」
サーシャがたずねる。
「分からないんです。この子、21層の森で迷子になっていて……記憶をなくしているみたいで。それで始まりの町へ」
アスナが答えていると顔色が少し曇ったのを感じたのかユイが笑顔でアスナにクリームの付いたパンを差し出してくる。
アスナは笑顔で受け取りユイの頭を撫でながら続ける。
「この子の事知っている人がいるんじゃないかと思って」
「何か心当たりはありませんか?」
アスナに続いてキリトがたずねる。
「残念ですけと始まりの町で暮らしていた子じゃないみたいです。ゲーム開始時にほとんどの子供達が心に傷を負いました。私、そんな子供達がほっておけなくてここで一緒に暮らし始めたんです。
毎日困っている子がいないか見て回っていますが、ユイちゃんみたいな子は見たことがありません」
「そうですか」
アスナとキリトが肩を落とす。
その時、教会のドアをノックする音が響いた。
ルルは最後の一カケを口に放り込むと目を細める。
ドアを開けると女性が立っていた。
「はじめまして。ユリエールです。」
女性はお辞儀をする。
「軍の方ですよね? 昨日の抗議にでも来たんですか?」
5人はユリエールを見る。
「いえいえとんでもない。よくやってくれたとお礼を言いたいくらい。今日は皆さんにお願いがあってきました。」
「おねがい?」
そして今、奥の机を囲んでいる。
「もともと私達は、いえ、現ギルドのトップであるシンカーは独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。ただ、情報や食料をなるだけ多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」
「だけど、軍は巨大になりすぎた」
ユリエールの説明をキリトが補足する。
「ええ。前リーダーであるディアベルがまとめている内はこんな事はありませんでした。ディアベルが亡くなって内部分裂が始まりました。
当時副リーダーであった2人、シンカーとキバオウ。会議でリーダーはシンカーが引き継ぐと決まったのですが、納得のいかなかったキバオウは勢力を強め、効率のいい狩場の独占をしたり、調子にのって徴税と言って恐喝まがいのことまでもはじめたり、でも、ゲーム攻略をないがしろにするキバオウを批判する声が大きくなって、キバオウは自分の配下のプレイヤーの中から最もハイレベルなプレイヤーを最前線へと送り出しました。しかし攻略は失敗し、キバオウは強く糾弾され、もう少しでギルドから追放できたのですが、追い詰められたキバオウはシンカーを罠にはめると言う強攻策に出ました。
……シンカーをダンジョン奥深くに置き去りにしたんです。」
そう言ってユリエールは悔しそうに唇を噛んだ。
キリト達は驚愕の声を上げる。
転移結晶など脱出方法はあるからだ。
それを聞いたユリエールは首を横に振ると話を続ける。
「シンカーはいい人過ぎたんです! キバオウの丸腰で話し合おうと言う言葉を信じて……3日前のことです」
「3日も前に、それでシンカーさんは?」とアスナが相槌をうつ。
「かなりハイレベルなダンジョンのようで、身動きが取れないようで……全ては副官であるあたしの責任です。ですが、とても私のレベルでは突破できませんし、キバオウが睨みを聞かせる中での軍の助力は当てにできません。そんな時、恐ろしく強い4人組が町に現れたと聞いてこうして、お願いにきたしだいです。皆さん、私と一緒にシンカーの救出に行ってくれませんか?」
ユリエールは深々と頭を下げる。
「こちらも貴女の力になって差し上げたい。しかし、貴女の話の裏づけをとらないと…」
アスナが二つ返事では強力できないと告げる。
その言葉にユリエールはもう一度深く頭を下げた。
「無理なお願いだってことは私も分かっています。だけど……だけど今シンカーがどうしているかと思うとおかしくなりそうで」
その時、ユイが話し出す。
「大丈夫だよママ。その人嘘ついてないよ」
「ユイちゃんそんなこと分かるの?」
「うん、うまくいえないけど分かる」
ユイの言葉に皆驚愕するが、キリトがはじめに声を上げる。
「疑って後悔するより信じて後悔しようぜ」
「ああそうだな。あんた、ユイに感謝するんだな」
ルルはそう言ってユイの頭を撫でる。
それを見てアスナとリズはため息をつき旦那達の言葉を肯定する。
「まぁ、私達にも大事な人を守りたいってのは分かるしね」
「微力ながら協力させてもらいます」
☆★☆★
始まりの町、黒鉄宮
「まさか始まりの町にこんなダンジョンがあるなんてね」
リズがそう呟く。
「上層の進み具合で開放されるタイプみたいです。キバオウはこのダンジョンを独占しようと計画していました」
「ったくあのクソ虫、はじめは独占したやつは詫びろとか言ってたクセに」
ルルのぼやきにキリトはから笑いをしている。
「それが、60層クラスの強力なモンスターが出るのでほとんど狩りはできなかったようです。……ここが入り口です。」
ダンジョンは順調にクリアして行った。
キリトが先行し、モンスターを狩りまくったので他のメンバーは付いていくだけだった。
キリトが戦っているため、ルルがユイの左手、リズが右手をつなぎジャンプなど遊びながら進んだ。
キリトの強さにユリエールが驚いていたがアスナが誇らしげに「戦闘狂の血が騒ぐんですよ」などと言っていた。
ダンジョン最深部
「奥にプレイヤーが1人いる」
キリトの言葉にユリエールは走り出す。
「シンカー‼︎」
「ユリエール」
シンカーも言葉を返す。
しかし、まだ続きがあった。
「来ちゃ駄目だ! その通路は……」
異変に気づいたルルはユイの手を離し走り出す。
同時にキリトも走り出した。
「ダメ、ユリエールさん戻って!」
アスナが叫ぶが遅い。
通路からユリエールに向けて大鎌が振り下ろされる。
間一髪、キリトがユリエールを抱え前へ飛び、ルルは何とか刀で滑らせ鎌をいなす。
「ユリエールさん、この子達と安全エリアに非難してください」
アスナの声にユリエールは頷く。
「ママ……」とユイが心配そうに目を向けるユイをリズが抱かえて非難した。
「キリト君、ルル君」
アスナが駆けつける。
そこのは大鎌をもった死神のようなモンスターがいた。
「アスナ、今すぐユイ達と転移結晶で脱出しろ。俺の識別スキルでもデータが見えない。こいつ、90層クラスだ!」
「俺たちが時間を稼いでやるから早くしろ!」
キリトとルルが叫ぶ。
「2人も一緒に……」
「後から行く。早く‼︎」
キリトが声を荒げる。
アスナは安全エリアを見るとにこりと笑い叫ぶ。
「リズ、ユイを連れてみんなで脱出して!」
キリトとルルは目を見開くがアスナはしてやったりと笑う。
「3人の方が心強いでしょ?」
その時モンスターの鎌が振り下ろされた。
3人は武器を重ね防ぐが衝撃で吹き飛ばされる。
アスナは前を見るとルルとキリトのHPがイエローの後半に入っている。
「うそ……」
そう呟いたとき、安全エリアから「ユイちゃん戻って」と声が聞こえてくる。
そちらを見るとユイとユイを追いかけてきたリズが目に入る。
「ユイちゃんダメ!」「早く逃げろ!」「リズ、お前もだ!早くユイを連れて____」
3人が声をかけた時モンスターの鎌がユイに向けて振り下ろされた。
「大丈夫だよ、パパ、ママ、リズ、ルル」
大鎌はユイに当たる事は無く、ユイの前に障壁が現れ鎌を止める。
4人は目を見開いた。
ユイの前にはある文字が浮かんでいたからだ。
Immortal Object
アスナが声を漏らす。
「破壊不能オブジェクト?」
ユイは空中に浮かぶと右手を前に出す。するとそこから炎が生まれ中から大剣が現れる。
ユイは自分の背丈よりも大きいその剣を軽々と振り上げると一撃でモンスターを屠った。
4人はユイに声をかけようとする。
するとユイは振り返り言った。
「パパ、ママ、リズ、ルル。全部思い出したよ」
4人は安全エリアでユイの話を聞く。
ユイが話し出す。
「キリトさん、アスナさん、リズベットさん、ルルさん」
言えなかったキリトとアスナの名前を正確に口にし、他人行儀なはなしかたで。
「SAO《ソードアート・オンライン》は一つの巨大なシステムによって管理されています。システムの名前はカーディナル。人間によるメンテナンスを必要としない存在として設計されたこのシステムは、SAOのバランスを自らの判断に基づいて制御しています。
モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス。何もかもがカーディナルの指揮下で制御されています。プレイヤーのメンタル的なケアすらも。
……メンタルカウンセリングプログラム試作1号、コードネームYuiそれが私です」
ユイの言葉に全員が驚愕する。
「…プログラム? AIだって言うの?」
アスナが信じられないと口を開く。
「プレイヤーに違和感を与えないように私には感情模倣機能が組み込まれています。
……偽物なんです。この涙も……ごめんなさい、アスナさん」
そう言ってユイは涙を流す。
「ユイちゃん」そう言ってアスナはユイに手を伸ばすがユイはそれを拒む。
「でも記憶が無かったのは? AIにそんなこと起きるの?」
アスナの質問にユイは答える
「2年前、正式サービスが始まった日、カーディナルはなぜか私へプレイヤーへの一切の干渉禁止を言い渡しました。私はやむなく、プレイヤーのメンタル情報のモニタリングだけを続けたんです。
……状態は最悪と言ってもいいものでした。恐怖、怒り、絶望と言った不の感情に支配された人々、時として狂気に陥る人さえいました。本来ならすぐにでもプレイヤーの元へおもむかなければならない。しかし、人に接触することは許されない。私は徐々にエラーを蓄積し、壊れていきました。
でもある日、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメーターを持つプレイヤーの集まりを見つけました。喜び、安らぎ、でもそれだけじゃない。そのプレイヤー達に少しでも近づきたくて私はフィールドをさまよいました」
「それで、あの森に?」
「はい。……皆さん、私、ずっと皆さんに会いたかった。おかしいですよね? そんなこと思えるはず無いのに…私は……ただのプログラムなのに……」
「ユイちゃん、貴女は本当の知性を持っているんだね」
アスナがユイに話しかける。
ユイは首を横に振る
「私には分かりません。私がどうなってしまったのか」
その言葉を聞いてキリトが前に出る。腰を折りユイの目の高さまで視線を下げる
「ユイはもうシステムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の思いを言葉にできるはずだよ。ユイの望みはなんだい?」
そう問いかける
ユイは泣きながら手を伸ばす。
「私は、私は、ずっと一緒に居たいです。パパ…ママ…」
「ずっと一緒だよユイちゃん」
そう言ってアスナがユイを抱きしめその上からキリトも抱きしめる。
「ああ、ユイは俺たちの子供だ」
それを見てリズは涙をこらえギュッとルルの手を握った。
しかし、ユイは座っている黒い箱を見ると否定する。
「もう遅いんです。これはGMがゲームに緊急アクセスするために用意されたコンソールです。これを使ってモンスターを消去したんですが、同時に今私のプログラムがチェックされています。カーディナルの命令にそむいた私はシステムにとって異物です、すぐに消去されてしまうでしょう。」
「そんな」「何とかならないのかよ」キリトとアスナが叫ぶ。
リズも見ていられないと下を向く。
「パパ、ママ、ありがとう。リズにルルも……これでお別れです」
「いや、これから、これからじゃない! みんなで楽しく仲良く暮らそうって……」
そう言ってアスナはユイを再び抱きしめ、泣き出す。
「ユイ、行くな!」
キリトがユイの手をとり叫ぶ。
(またダメなのか、この左手は何の役にもたたないのかよ)
ルルは左手を握り締める
その時ルルには『大丈夫ですよ』と聞こえた気がした。
それを聞いたルルは力を緩め笑顔を浮かべる。
「パパとママ、ルルやリズの周りにいるとみんなが笑顔になれる。お願いです。これからも私の変わりにみんなを助けて、喜びを分けてあげてください」
「いやだ、いやだよ。ユイちゃんが居ないと私笑えないよ」
アスナ、リズは顔をグシャグシャにして泣いている
「ママ、リズ、笑って?」
ユイはニッコリと笑いながら透けていく。
「カーディナル、いや、茅場! そういつもお前の思い通りになると思うなよ!」
そう言ってキリトはGM用コンソールをいじり始める
「キリト君何を?」
「今なら、今ならまだここのGMアカウントでシステムに割り込めるかも」
キリトは懸命に操作する。
そこで、ユイの体が消え、そしてキリトが弾き飛ばされる。
「キリト君!」
アスナが駆け寄る。
「クソッ‼︎」
キリトは両膝を付いたまま床を殴る。
「大丈夫だ」
ルルが口を開いた。
キリトはルルを睨み近づくと胸倉をつかみ壁に押し付ける。
「何が大丈夫だ? ユイが、ユイが消されたんだぞ‼︎」
キリトが叫ぶ
「落ち着け」そうルルはキリトをなだめるがキリトは止まらない。
「落ち着いてなんかいられるか! ユイが、ユイが……」
「落ち着け!」
ルルが叫ぶ。
そこで声がした。
「もう少しましななだめ方はないのかしら?」
全員が入り口をみる。
そこには身長170センチくらいの金髪をポニーテールに結った巫女服の女性と身長130センチくらい、あごくらいの赤茶けた癖ッ毛にメガネをかけた修道服の少女が立っていた。
「誰?」
アスナがたずねる。
「私達はカーディナル。あの子も説明が足りないわねぇ。カーディナルはお互いに監視しあう2つのシステムなのに」
巫女服の女性はコロコロと笑いながら答える。
「まぁそれはいいです。始めまして、プレイヤーキリト、アスナ、リズベット。」
修道服の少女は無表情に挨拶をする。
「カーディナルだと?」
キリトは怒りの矛先を2人に向けそちらへ向かおうとするがルルに手を捕まれとめられる。
「離せ」
「大丈夫だって言ってるだろ。落ち着け」
ルルがキリトをなだめる。
そこに巫女服の女性が近づいてきた。
「これはあなたが持っておくべきだわ」
そう言って握った右手をキリトの前に差し出す。
キリトはあっけにとられ、それを受け取るそれは青い宝石だった。
「それはあの子、ユイのプログラムをシステムから切り離してオブジェクト化したものよ。つまりあの子の心よ」
巫女服の女性がそう言うとキリトは目を見開き大事そうに両手で包む。
「しかし、大変でした。作業中にコンソールから割り込んでくるんですから」
修道服の少女が悪態を付く。
「まぁ、それを止めてくれなかったルルに文句を言わないとね?」
巫女服の女性はコロコロと笑いながら言う。
そこで全員が気づく。ルルはこの2人と知り合いなのかと。
「ルルは知り合いなの?」
リズが問いかける。
「前にこの2人にクエストを受けさせてもらった。この左手を手に入れるクエスト」
「なんだよ、知ってたならちゃんと言ってくれよ。なんで俺は怒ってたんだ……」
「悪い。なんて説明したら言いかわかんなくてな」
キリトとルルは笑いあう。
巫女服の女性がアスナの前に来る。
「プレイヤーアスナ、ごめんなさいね。茅場晶彦を騙す為とはいえこんな形でしかあの子を助けられなかった。このアイテムはこのゲームがなくなってもプレイヤーキリトのナーブギアの中に存在し続けるわ。向こうに戻ったらあの子を本当の意味で助けてあげてちょうだい」
修道服の少女がリズの前に立つ。
「プレイヤーリズベット、あの人を頼みます。あの人は背負っているものが多すぎる。私達の選んだ勇者を支えてあげてください。このことはオフレコで頼みます。」
少女は口の前に人差し指を当てるとリズにしか聞こえないように話す。
リズはなんかルルに似てるな。と思いながら笑顔で「任かしておきなさい。ずっと支えてやるわよ」と返した。
2人のカーディナルは「ここで私達にあった事は内緒ですよ」と言い残し消えていった。
元気を取り戻した4人は岐路に着く。
現実に戻ったらまた5人で机を囲もうと誓って。
☆★☆★
ダンジョンを抜けた後、ルルは3人に「先行ってくれ。ちょっと野暮用がある」と1人シンカーのもとを訪れていた。
そして今はある部屋の前。
ガン、とドアを蹴破る。するとそこには踏ん反り返っているキバオウがいた。
「ようクソ虫、好き勝手してるみたいじゃないか?」
そこにユリエールに連れてこられたコーバッツが来た。
「来たか阿呆。お前もこっちに来い。
クソ虫、お前自分で独占はアカンとか言ってたよなぁ? お前もだ阿呆! なにが一般プレイヤーに資源や情報を平等に分配し、秩序を維持すると共に一刻も早くこの世界からプレイヤーを開放するために戦っているだ。プレイヤーを苦しめてるのはお前ら軍じゃないか!」
こうして2人はルルの説教を食らい、軍から追放される。
その後、始まりの町から軍の圧力が消え人々に平和が戻ったのだった。
あとがき
アインクラッド編も終わりが見えてきました。
私も気合を入れねば。
入れてもそんなにかわらない? はい。おっしゃるとおりです
それではまた026で。