黄金の祝祭 ~怪獣至上主義カルト教団の村にて~   作:よよよーよ・だーだだ

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1、スパイとカルト二世

 ……ではまず、お名前からお願いします。

 そう切り出すと、目の前の男はこのように名乗った。

 

「アダム=ビンデバルト。ロリシカ国、国防省情報局第三統括部、第2018情報作戦部隊所属。階級は少尉」

 

 国防省情報局第三統括部、第2018情報作戦部隊……っと。手元のレコーダーを確認しながら、わたしは目の前の男が名乗った肩書をそのまま繰り返す。

 

「では、アダムさん。あなたが属するという“第2018情報作戦部隊”についてですが、公式の資料には記載が見当たりませんでした。いったい、どういう部隊なのでしょうか?」

 

 わたしからの質問に対し、アダム=ビンデバルトはわずかに眉を動かした。頬は痩せこけてやつれた陰が深かったが、その目は鋭く、奥には強い意志を秘めているように思える。

 アダム=ビンデバルトは、フッ、と口元に皮肉気な笑みを浮かべながら答えた。

 

「“2018”はいわゆる非正規部隊、つまり『政府が公に認めていない部隊』だよ。汚れ仕事(Dirty Work)が専門、だから公式の資料なんか調べても出てきやしない」

 

 ……なるほど。そうくるか。

 わたしは続けて訊ねた。

 

「では、あなたの言う“汚れ仕事”というのは具体的にどのようなものなのでしょうか?」

「場合によっては軍事的な潜入、情報操作、個人や団体の監視……まあ、いろいろだ。君だってジャーナリストなら聞いたことがあるだろう、“そこにはいるはずがない部隊”の存在くらいは」

 

 そう言うと、アダム=ビンデバルトはまたしてもかすかな笑いを浮かべた。まるで何もかも分かっている、と言わんばかりだ。

 ……それが虚勢か事実か、わたしはまだ見極められない。アダム=ビンデバルトの口調は落ち着き払っているが、その眼差しの奥には隠しようのない疲労が滲んでいるようにも見える。

 

「……すみません、差し支えなければ教えてください。なぜ今()()にいると?」

 

 少し踏み込んだ質問を投げかけると、アダムは短く息を吐いた。

 

「さあな。俺に言わせれば“外”にいる方がよっぽど狂ってる。ここにいると少なくとも時間だけはある。何かを語ろうと思えば、聞いてくれる人もたまには来る……君みたいな物好きが」

 

 周りを見れば、白い壁に囲まれた無機質な部屋。

 窓の外には灰色がかった空が広がり、時折、遠くでカラスの鳴き声が聞こえる。独特の閉塞感を感じながら、私は再度レコーダーの残り時間を確かめた。いつ話が終わるのか、そもそも終わるのかさえ検討がつかない。

 でもまあ、焦りは禁物。まずは信頼関係が必要だ。

 

「……わかりました。では、ゆっくりお話を伺わせてください。アダムさんのこれまでの経緯や、‘部隊’での任務のことなど、どんな些細なことでも……」

「なあなあおいおい、イチノセさんよ」

 

 だが、ここでアダム=ビンデバルトは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「もっとずばり聞いたらどうだい。君が聞きたいのはそんなつまらないことじゃあなくて、“あの事件”のことだろう?」

 

 ……“あの事件”。

 そう、わたしが今回取材しているのは、世間を騒がせた“あの事件”のことだった。アダム=ビンデバルトは“あの事件”の最重要人物であるとされている。

 そしてアダム=ビンデバルト自身が言うとおりだ、回りくどいのは辞めよう。わたしは、はっきり首肯した。

 

「……ええ。ぜひとも」

 

 途端、アダム=ビンデバルトの瞳がわずかに細まり、私をじっと見つめる。

 そこには嘲笑でも威嚇でもない、言葉にしづらい穏やかさがあった。まるで「ようやく聞いてくれる相手が現れた」と安堵しているかのように。

 アダム=ビンデバルトはしばし憮然とした沈黙の末、口を開いた。

 

「……いいだろう。話してやるよ、俺が“あの事件”で見たものをすべてな」

 

 

 そもそも俺が軍に入ったのは、「頼るあてがなかった」からだ。

 身もふたもない話さ。そもそも親兄弟はいないし、施設育ちで社会に出たところで、行き場があるわけでもなかった。『怪獣黙示録』のこのご時世、軍にはそういう“居場所のない連中”が多いんだよ。自分もその一人だったってだけ。

 それに施設で暮らしているうちに、無意識に思っていたんだろう。愛国心だとか自分らしい社会貢献だとか、自分の存在意義みたいなものを見出したい……なんてね。馬鹿げた話だよな。凡人は凡人らしく、地に足のついた暮らしをしておけばよかったものを。

 

 最初は普通の兵士として新兵訓練を受けただけだ。ジェームズ=ボンドやイーサン=ハントとその仲間みたいに大した技術や知識があったわけでもないし、最初から“特殊工作員”なんて呼ばれたわけじゃない。

 ただ、あまりにも身寄りがないっていうのは、軍にとって“使いやすい”要素だったらしい。背負うものがない兵士は命令違反をしづらいし、何かあっても切り捨てて隠蔽しやすい。情報局の上層部はそういう理屈で、俺みたいな孤児を“2018”へスカウトするんだそうだ。

 そうした任務のひとつとして、“潜入任務”が課された。“あの事件”の場合は、ある“奇妙な団体”を内側から探るって作戦だった。

 

 その“奇妙な団体”ってのがあの連中。

 『黄金の祝祭』だった。

 

 『黄金の祝祭』、表向きは「自然との調和を目指すコミューン」みたいな触れ込みだったらしい。

 けど、実際は“怪獣至上主義カルト教団の村”とでも言うのかね。奴らが『黄金の救世主(すくいぬし)』なんて呼んでる得体の知れない怪獣を神のように崇拝している新興宗教団体、それが『黄金の祝祭』だった。

 

 ……最初にその話を聞かされたとき、正直「何をバカバカしい」と思ったさ。

 『怪獣黙示録』のこのご時世、“ゴジラ教”しかり、“無垢なる祈りの院”しかり、巷には怪獣を崇めるカルトがいくらかあるらしいってのは俺も噂で聞いていた。

 だけど、そんなものへ政府の、それも非正規の隠密部隊である俺たち“2018”が大真面目に取り合おうだなんてね。兵器の密輸やテロリストのアジトならまだしも、怪獣を崇拝してる頭のイカレた団体を調べろなんて。

 

 ただ、情報局の第三統括部、特に“2018”がわざわざ動いてる以上、ろくでもない裏があるのは察しがついた。だから言われたとおり潜入するしかない。それが俺の仕事だ。脱走すれば行き場はないし、その先には“抹消”が待っている。

 そのコミューンは閉鎖的な共同体を作っていて、外部の人間とはほとんど交流を断っていた。だからこそ、俺のような一匹狼の諜報員が潜り込む必要があったのだろう。

 偽の身分と、いかにも“人生に迷った苦悩する若者”というカバーストーリーを用意して、俺は奴らの敷地へ足を踏み入れたんだ。

 

 

 かくして俺は『黄金の祝祭』のコミューンに潜入したわけだが、蓋を開けてみればそこには牧歌的な風景が広がっていた。

 見渡す限り手入れの行き届いた畑があり、素朴な木造の家々が並ぶ。大人たちは朝から畑を耕し、子どもたちは走り回っては笑い声を上げる。

 

「ようこそ、アダム=ビンデバルトさん!」

「我々は、あなたのことを歓迎しますよ!」

 

 村の連中は新参者の俺を恐れるどころか、妙に温かい笑顔で迎えてくれた。通りを歩けば、すれ違う人々が

 

「ゆっくりしていきなよ」

 

 とか、

 

「困ったことがあれば言ってね」

 

 なんて声をかけてくる。

 ……ずいぶん人懐っこい連中だな、と思ったよ。こっちとしては情報を引き出すつもりで近づこうとしていたのに、こっちが却ってヒイてしまうほど向こうから距離を詰めてくるんだ。下手をすると、ここでの暮らしが悪くないと思えちまいそうになるくらいだった。

 ……たしかに、何かにつけて『救世主(すくいぬし)』サマに祈ったり、やたら有機農業を推奨してたり、『献身』とやらを言ったりやったりしてるのは如何にも『その手のコミューンらしいな』とは思ったけどな。

 

 ゴォーン……!

 

 毎朝、夜明けとともに小さな鐘の音が響くと、皆が集まってその日の作業割り当てを確認するのが日課だ。

 畑に出る者、炊事を担当する者、掃除や物資の管理を任される者――その当番表は詳しく区分けされ、村人はそれに従って動く。外の貨幣もほとんど使わず、道具や食材は“共同倉庫”で管理しているため、必要なものは申告すれば自由に使えるらしい。

 そんな仕組みがすっかり出来上がっているせいか、コミューンの連中は互いを「さん」付けで呼び合いながら、驚くほど和やかに協力し合って暮らしていた。

 

 とにかく、最初の数日は拍子抜けするほど穏やかだった。

 外の世界を荒んだ場所だと感じているらしいコミューンの人間は、現代社会に倦み疲れた若者(という設定)である俺に対してはどこまでも優しかった。

 

「まあ、外の世界でそんな目に……」

「さぞやおつらかったでしょうね……」

 

 そのせいで、むしろ余計にこっちの立場がややこしい感じになった。こちらはあくまでも“監視”と“潜入調査”が任務なんだが、むしろ疑問に思ってしまうほどだったよ。「なんでロリシカ政府や“2018”がこれを問題視するんだ?」とね。

 もちろん、表に出てこない『何か』があるんだろうってことは分かっているつもりだったが、それにしても拍子抜けするほど“平和”な場所だったもんでね。

 

 ……ま、それでもね。俺の本分は潜入工作員、スパイだ。割り切るしかない。

 連中の懐へ入って核心を探れ。それが俺に与えられた任務だ。どれほど人が良さそうに見えたって、結局は“怪獣を崇拝するイカレたカルト宗教”であることに違いはないしね。

 

 

 最初に“彼女”と出会ったのは、コミューンに来てまだ日が浅い頃だった。

 いつもそうなんだが、ああいう閉鎖的な集団ってのは大人たちほど警戒心が強い。新参者の俺には「よく来てくれたね」とか「困ったことがあれば相談してね」とか、口では柔らかく言ってくるものの、内心じゃ何を考えているか分からない。用心深い視線を向けられることも少なくなかった。

 

 ところが“彼女”だけは違った。

 

 ある昼間、畑仕事のフリをしながら辺りを探っていたら、背後から見つめられている気配がして、振り返ってみると“彼女”がいた。

 

「じーっ……」

 

 ……年齢は14歳くらいか。いつの間にか背後にちょこんと座り込んで、じーっと俺を見つめていたのさ。

 艶のある金髪を三つ編みにまとめ、汚れたエプロンを付けている。そしてそのエメラルド色の瞳は、不思議なくらいに生き生きと輝いていた。純粋な好奇心というか、人懐っこさというか――とにかく“嘘のない”目つきが印象的な子だった。

 “彼女”は最初、こう尋ねてきた。

 

「……ねえ、あなたって外から来たんでしょ?」

「そうだけど……なにか用かい?」

 

 できるだけ警戒心を顔に出さないように答えつつ、心の中では少し身構えていた。潜入任務の手がかりを得るためにも、この子がどんな情報を持っているか探りたかったからね。

 すると少女は、まるで俺の考えなどお構いなしと言わんばかりに畳みかけてきた。

 

「外には大きな塔があるって聞いたんだけど、本当? ガラスでできた背の高い建物がいっぱい立ってるんだって。あと、車っていうのがあって、歩くよりずっと速いんでしょ?」

 

 彼女の問いは立て続けだった。あまりに無邪気なその質問に、こっちの緊張が拍子抜けしてしまう。カルト組織の一員というよりは、普通の田舎育ちの子どもという印象しかなかった。

 とりあえず俺はこう答えた。

 

「……確かに、外の世界には高いビルがある。全部が全部ガラス張りってわけじゃないけど、鏡みたいな外壁のやつも多いんだよ。車も、走るよりはるかに速いし、何人かまとめて移動できる便利な乗り物だ」

「やっぱり本当だったんだ! 車って、一体どうやって動くの? 塔の上まで行くのには、梯子を登るの?」

 

 無数にあふれる素朴な疑問。外の世界のことを嬉々として聞いてくる彼女の目つきには、一点の曇りもないように思えた。これが作られた演技だとしたら大した役者だけど、どう見ても自然体にしか思えなかった。

 質問に答えようとしながら、ふと気づく。

 

 ……この子、『二世』か。

 

 『二世』、つまり『カルト信者の二世』だ。信者を親として生まれ育ち、外の世界を知らず、教団の教義だけを「真実」として刷り込まれた子供。

 この少女は、おそらくこのコミューンで生まれ、ここでしか生きてこなかったのだろう。だからこそ、外の世界のことを、まるで童話の中の出来事でも聞くかのような目で見ていたんだろうな。

 俺は作業の手を止めずに答えた。

 

「車はガソリンって燃料を使ったり、最近だと電気で動くものもある。で、ビルの上にはエレベーターっていって……うーん、箱みたいなものが上下に動く機械があってさ、簡単に高いところへ行けるんだ」

「へぇ……!」

 

 エレベーター、ガソリン、電気……そんな言葉をいちいち説明しながら話すなんて、今までの人生でまず経験がない。少女はそのたびに驚きの声を上げたり、首を傾げたり、頬をふくらませたりと、表情がめまぐるしく変わる。

 そんなことより気になったのは、

 

「……学校は? 行ってないのか?」

 

 今は平日の昼間、中坊なら学校に行ってる時間のはずだ。それに『車もエレベータも知らない』ってのはいくらなんでも物を知らなすぎる。

 俺からの問いかけに、少女は素直に頷いた。

 

「うん、行ってないよ。パパとママが行かなくていいってさ」

 

 ……カルトの二世と言えど、平日昼間なのに学校にも行ってないのは流石に法律違反じゃないのか。そんなこともちらっと思ったが、非合法な非正規部隊の俺が言ってもな、とも思い至ったので言わずにおいた。

 「ねえねえ、そんなことより!」と少女は口を開いた。

 

「外の世界ってどんなところ? もっと教えて!」

 

 少女は話し足りなかったのか、俺にあれこれと質問を投げかけ続けた。町の匂い、道路、電車、ショッピングモール、テレビの放送――全部が彼女にとっては未知の世界なんだろう。

 

「町には、ほんとにいろんな人がいるの? 例えば、お金がない人はどうなるの?」

「ショッピングモールって、どんなものを売ってるの? パンとかお菓子とか洋服とか、全部あるの?」

「おしえておしえて、もっと、もっと!」

 

 わかったわかった、今話してやるよ……。

 ……そうやって話しているうちに、俺もなんだか奇妙な感覚を覚え始めた。

 社会の暗部、汚れ仕事が専門であるところの自分が、この少女に説明するときにはどうしても“綺麗な部分”を強調してしまう。外の世界がこんなにも眩しく映っている子供に、わざわざ暗い部分まで教えなくてもいいんじゃないか……なんて心のどこかで思っていたのかもしれない。

 ……潜入対象に情を寄せちゃいけない。そんな鉄則は訓練で叩き込まれてきたはずなのにな。

 

「すごいね! 外の世界って、なんだか魔法の国みたい!」

 

 そう言ってひとしきり喜んだあと、彼女はこう名乗った。

 

「わたし、〈レヴ〉っていうの!」

 

 ……レヴか。

 つづりが“Liv”だとしたらフルネームはOlivia(オリヴィア)、“Reb”ならRebecca(レベッカ)の略だろうか。どちらにしても綴りと発音がおかしい気もするが、まあ子供の渾名だろうしな。

 そんなことを考えつつ、俺は握手で答えた。

 

「俺はアダムだ。よろしくな、レヴ」

「よろしく、アダム!」

 

 そう言ってレヴが笑った瞬間、後ろから柔らかい声がかかった。

 

「レヴ、勝手にこんなところでおしゃべりしてはいけないよ。転んでケガでもしたらどうするの?」

 

 振り向くと、レヴと同じ茶髪をゆるく束ねた女性が立っていた。年の頃は三十代前半といったところだろうか。彼女はほんの少し眉をひそめて、心配そうに娘を見つめている。

 

「だってママ、アダムが外の世界のことを教えてくれるんだよ。すっごく面白いんだもん! 車とかビルとか、知らないことだらけで――」

「もう、レヴったら……」

 

 女性は苦笑しながら、レヴの頭をぽんぽんと撫でた。その仕草には心配そうな様子がにじんでいる。一方で、“外の世界”という言葉を耳にしたときには、どこか落ち着かない様子を見せているように俺には思えた。

 

「ごめんなさいね、アダムさん。この子、ちょっと好奇心が強くて。余計なことばかり訊ねなかった? 困らせちゃったでしょう?」

「いや、別に。気にしてませんよ」

 

 俺がそう答えると、女性は安心したように微笑んだ。しかしその表情の奥底には、うまく言えない不安というか、焦りのようなものがあるようにも感じられる。

 

「でもレヴ、危ないところには行かないようにね。変に走り回って転んだら大変なんだから。あなたはまだ体が弱いんだから気をつけて」

「わかってるよ、ママ……」

 

 レヴがほんの少し拗ねたような声を出すと、今度は男性が近づいてきた。

 がっしりした体格の、微笑みを浮かべた白人の男だ。彼は娘の頭に大きな手を置きながら、俺にも会釈した。

 

「初めまして。私はサイモン=クラウス、この子の父親だ。アダムさん、だね? 大丈夫だったかい? うちの子があれこれと押しかけてきて……」

「いえ、全然。むしろ俺のほうがおしゃべりしすぎちゃったかもしれません」

 

 するとサイモンは「それならいいんだ」と小さく笑った。

 見る限り穏やかそうな人にも見えるが、どこか神経質そうな空気も感じられる。レヴが少しでも動くと、自然と視線をそちらにやり「危なくないか?」というふうに身構えてしまうのが伝わってくる。

 娘の様子を心配そうに見守りながら、サイモンは言った。

 

「レヴは昔から体が弱くて……だから、外で遊ばせるのも本当は心配なんだ。何かあってからじゃ遅いだろう?」

「パパ、もうその話やめてよ。わたし、もう平気だもん」

 

 そう言いながら、レヴは笑顔を絶やさない。その笑顔の裏には、小さな反発や窮屈さを抱えているようにも見える。両親は優しげだが、やたらとレヴの身を案じ過ぎている――そんな印象を受けた。

 

(……なるほど。過保護、ってやつか)

 

 俺は頭の中でぼんやりとそんな言葉を思い浮かべる。孤児である俺には縁の無かったものだ。

 外の世界がどうとか大きなビルがどうとか、レヴが熱心に質問してくるのは、両親の厳しい“囲い込み”があるからこそかもしれない。外の世界を夢見るのは、息苦しい過保護からの“解放”を求めているからなのか、と。

 それを裏付けるかのように、サイモンは俺に耳打ちした。

 

「……もしレヴがあなたにしつこく絡んでも、適当にあしらってくれて構いませんからね。あまり好奇心を広げすぎると体にも悪いし」

「……ええ、わかりました。気をつけますね」

 

 そんなやり取りを終えると、父親と母親はそろってレヴを連れて行きかけた。だが、レヴは名残惜しそうに俺のほうを振り返る。

 

「また外の話、聞かせてね!」

 

 ……そう言い残したレヴの瞳は、まるで外の世界を夢見る小鳥のようにキラキラしていたのだった。

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