書架棚   作:戒告

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太陽

 500万年前、人類はアフリカで誕生した。

 

 これと指して最初の人類だと呼べる存在が見つかっているわけではない。しかし、人類と呼べるものが長い旅の出発点に選んだのは、間違いなくアフリカであった。

 

 広大な大陸の中を、人々は適地を求めて彷徨い、やがて探索の余白は失われていった。

 

 機は熟した。

 人々はアフリカを発った。

 

 アフリカから、ヨーロッパへ、アジアへ、アメリカへ。

 ただ東へ、東へと。遠い大地から、遥かな水平線から、昇る太陽を追うように。

 

 人類は夜明けを迎えた。

 

 アフリカの中に留まっていれば、少し珍しいくらいの二足歩行。それが、あっという間に、この地球を覆い尽くさんと広がっていった。

 

 地球を覆う生き物はいくつかいるが、人類ほどその姿を変えず留めたまま、その領土を拡大したものはいないだろう。

 

 種の繁栄は、太陽の下にある。

 

 日の出に朱く染まる空。

 人類は東の空に道を見た。

 

 人類は眩い曙光を追いかけた。

 

 

 

 

 

 全ての道はローマに通ず。

 

 大いなる帝国ローマの時代が訪れた。

 太陽を追いかけた道はローマに通じていた。

 

 人類の栄華の始まりであった。

 

 やがてローマは滅ぶ。けれど、人類の栄華が枯れることはなかった。

 

 

 大航海時代。

 人類の領域は大地を越え海へと広がる。

 

 やがて海さえ支配せんと、その手が大海へと伸びた時代。

 スペインとポルトガル。僅か二つの国が世界を二分した。

 

 けれど、世界の半分を我が物とした強国にも衰えは来る。

 

 

 さらに西、日の沈まぬ帝国イギリスへ、栄華は移り行く。

 地球を一周囲い込むように領地を得たイギリスは、まさしく世界そのものであった。

 

 嗚呼、されど日は沈む。沈まぬ太陽などないのだ。

 大英帝国の栄華はやがて夢と消える。

 

 人々は繁栄を求め、太陽を追いかける。

 覇権は西へ動いていく。

 

 

 大正義アメリカ。

 世界はその傘の下にあった。

 

 傘の下で、正義は彼の決めるものであった。

 アメリカは覇権をその掌中に収めたのだ。

 

 日の沈まぬ帝国、など戯言と言いつつ、人は未だ夢見ている。沈むことのない栄華を。太陽さえ、その掌中に収めんと。

 

 それでも日は沈む。なんとか沈ませまいと、西へ追いかける。

 

 

 太陽は中国まで来た。

 

 日の出とともに産声をあげた大国は、移り行く陽光の中で、一度沈み、今またその光の中に現れた。

 

 人類の栄華よ、ここで終わるまいと、シルクロードをなぞり、その手は西へ伸びていく。

 

 

 

 

 

 太陽が地平と交わる寸前。その鮮血のように燃える赤色は、唯一無比の輝きを見せる。

 太陽が燃えている。その火を躍らせて、空を紅に染め上げる。

 

 しかし、ひとたび地平と交われば、その輝きはもう褪せていくのみ。

 赤はやがて青く染まり、じきに夜が来る。僅かその間隙に、最後の灯りを見せるにすぎない。

 

 それでも人は追いかける。太陽の与える栄華を求め、西へ、西へと追いかける。

 

 沈みゆく先に、何があるのか、人々は未だ考えていない。

 ただ、太陽の輝きの下に繁栄があると信じて。

 

 

 太陽が沈む場所を、私たちは知らないでいる。

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