アナタの魂に刻まれた『記号』、しかと……しかと観測させていただきましょう!!』
【大人のカードを使用する】
光が溢れる。
大人のカードから放たれた前代未聞のエネルギーに、ビナーが怯み地中に潜った。
私もあまりの眩しさに目を瞑り、光が晴れるの待つ。数瞬の後、目を開けると……ピンクの髪が見えた。
「うへぇ……こうやって呼ばれるのも懐かしいね。ねぇ、『先生』?」
「ホシ……ノ……?」
私の目の前に、体全体が透過しじんわりと発光している小鳥遊ホシノが現れた。
どうしてここに?大人のカードで?なんで私を先生と呼ぶ?
様々な疑問が脳裏をよぎるが、あまりの驚きに名前を呼ぶことしかできない。
「うん、久しぶりだね。おじさん嬉しくてつい涙ぐんじゃうよ〜。なーんか先生は可愛らしい姿になってるし。ヘイロー付いてるし、目の前にビナーがいるしさ〜」
「……先生?わたし……が……?」
「あれ!?人違い!?……でも、先生は『大人のカード』を使って私を呼んだんでしょ?」
「あ、ああ……」
このホシノは私の事を知っている……つまりは前のキヴォトスのホシノって事だろうか?
「じゃあ貴方は私の先生だよ。例えどんな姿になったとしても、それだけは変わらない。
ねぇ先生、貴方がキヴォトスから居なくなった後……どうなったか知ってる?」
「……すまない、分からない」
「皆ね、先生のこと忘れちゃったんだ。おじさんも、さっき呼ばれるまで先生の事何にも覚えてなかった」
「!!」
「だからね……こうして、先生が
「ホシノ……ッ、触れられない?」
様々な情報が私の脳にインプットされていくが、そんなことはどうでも良い。
だから精一杯慰めようと手を伸ばして……体を貫通した。
「ごめんね、先生……こうして呼ばれたから、分かっちゃうんだ。私はこのキヴォトスに存在できないって。ほら、大人の方のシロコちゃんが言ってたよね。『シロコは同時に存在できない』って。この世界にも小鳥遊ホシノがいる。だけどこうして今私がお話出来るのは……奇跡なんだって」
「奇跡……」
「あれ、もう時間がないみたい。もうちょっと……話したかったな。先生、ヘイローがあってビナーが居るってことは戦ってるんでしょ。うへへ、銃弾1発で致命傷の先生が戦闘って似合わないねぇ〜。
私の力を使って。先生」
「ホシノの力を……私が?」
さっきよりも透明度が増してきたホシノが、彼女の愛銃と……梔子ユメの形見の盾を渡してきた。
ホシノ自身には触れられなかったけど、彼女の武器を受け取ることが出来た私はその使い方が手に取るようにわかった。
「…………ああ、やっぱりやだなぁ。もう2度と、先生の事思い出せなくなるなんて」
「私がホシノを呼んだから……?」
「ううん。先生、前におじさんに言ったじゃん?『ホシノのせいじゃないよ』って。
あれ、すごく救われたんだ。
だから今度は、今の先生よりちょっぴり年上な私が言うね。
だから先生、元気でね」
「待って、待ってよホシノ!!」
ホシノの足元から、光の粒子になって消えていく。
私に武器と、神秘を渡して少しずつ消えていく。
「ッ…………」
ホシノが少しだけ悲痛な顔をした。
違う、違うだろう私。
私はホシノにそんな顔をして欲しかったんじゃない。だから、私が彼女にかけるべき言葉は……
“ありがとうホシノ。”
“元気でね”
ホシノの返事を聞く前に、彼女の姿は消えてしまった。
だが最後に見た彼女の表情は、笑っていた。
「…………うぁ」
本当に、もう2度と彼女に会えないのだろうか。もう一度、大人のカードを使えば、もしかしたら……
いや……『奇跡』は万能じゃない。一度きりだから、あり得ないことだから……
ビナーが再起動し、私に照準を向ける。
無粋な奴め。だが、仕方ない。
だから使った。
だから呼んだ。
だから託された。
「私は私を再解釈する」
これより始めるは私自身を解釈すること。ホシノの武器と神秘をまるっと受け取った今、私の身体には『相反ユヅキ』と『小鳥遊ホシノ』の2つのテクストが記された。
「私は『相反ユヅキ』である」
「私は『小鳥遊ホシノ』である」
身体中の骨が軋む。ひとつの体に2人分の神秘が宿るのは無理があったんだろう。
いや、無理無茶などという話ではない。
本来あり得ない事象、物語のジャンルから矛盾した異分子であり存在してはいけなかったモノ。
そもまだ
「私は『ゲヘナ学園所属』である」
「私は『アビドス高校所属』である」
私の情報と矛盾させるように、自己暗示として、私自身に記されたテクストを増やしていく。
ああ、そうか。
これが『神秘』を強化していくことで到達することが出来る、一種の『崇高』。
『恐怖』では観測できない領域!!
ならば、もっと……『矛盾』させろ!!
「私は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎である」
「私は『暁のホルス』である」
そうだ、ホシノに関しては『忘れられた神々』としての名も知っている。
持っているリソースを全て私の再定義の為に使え。
混じり合うはずのない神秘が、無理矢理にでも私の中で混ざっていく。
【我思う ゆえに我あり】
「第一定義完了。Q『私は何者か』……A『私は私である』」
私を中心に据えるように吹き荒れていた砂嵐が、弾け飛んだ。
【神秘解放】
「いくぞビナー」
刹那、ビナーの横っ腹にショットガンを叩き込む。
ビナーの装甲を貫通し内部が露わになった部分へ、2発目を。
ホシノの神秘が含まれたショットガンの威力は、ビナーに大ダメージを与えるに十分だったようだ。
私の危険度を大幅に更新したのか、先ほどよりも荒れ狂うような砂嵐を起こすと同時にビナーがアツィルトの光を私に放ってきた。
さっきまでの私と舐めてもらっては困る。
私は地上に降り立ち盾を構える。
「この程度で、私達の守りを貫けると思うなよ。今の私は、キヴォトス最高の神秘だ!!」
正面からアツィルトの光を受け止める。
熱量は凄まじいが今の私には効かない。
私は盾でアツィルトの光を防ぎながら、一歩前進した。
伝わる。ホシノが私を守ってくれる。
さらに一歩。
伝わる。こうやって使うんだよとホシノが教えてくれる。
さらに一歩。
盾で防いでいる間に、盾の裏にあるマガジンを取り出して銃にリロードする。
一歩ずつ、着実に歩みを進める。
そしてついに、アツィルトの光が止みビナーが冷却モードに入った。
私はすかさずビナーに向かって走り出した。
十分な助走をした事で、弾丸のような速度で空に羽ばたく。
VLSから発射された多数のミサイルが私目掛けて飛んで来るが、着弾直前に私のSMGで破壊。
受けきれなかったミサイルは盾で殴り爆砕する。
そうだ、ホシノは相手の懐に飛び込んで高火力を叩き込むのが得意だ。
だからそれに倣う。
ミサイルが届かないビナーの頭部に張り付いた私は、冷却を中断してオーバーロード覚悟でアツィルトの光を放とうとするビナーに向けて宣言する。
「私達の勝ちだ」
ビナーの口内に向けてありったけの弾を捩じ込んだ。
悲鳴にも聞こえる機械音と共に、ビナーは巨体を拗らせながら地に伏せた。
【ビー、ビー、ビー】
私がビナーに背を向けるように着地すると、ビナーから警告音のような音が聞こえてくる。どうやらダメージが大きかったらしくゆっくりと巨体を動かして地中深くに潜り退却していった。
「…………撃退できたのか」
ビナーの去った後、私は警戒もせずその場に座り込んだ。
「はぁ、はぁ……はぁ〜…………疲れた……死ぬかと思った」
呼吸が辛い、幾らホシノの戦い方とはいえ無理にアツィルトの光を正面から受ける必要はなかったのかもしれない。
呼吸を整えもう一度立ち上がった瞬間。ホシノの銃と盾が光を放ち始めた。
「……行くのか。ありがとう、君達のお陰で助かった。戻ったらまた……ホシノのために……何者をも貫く矛に、何者をも防ぐ盾として……頑張れよ」
私の言葉に返事をしたかのようにより強い光を放ち、それらは光に溶けていった。
そして次は、私の身体から光が生まれた。
「……ホシノの『神秘』が私の身体から抜けていく。救ってくれてありがとうホシノ。これからの人生……幸せに生きろ。それが君達『生徒』に与えられた、最大の権利なのだから」
私から放たれた光が全て霧散した後、懐から『大人のカード』を取り出す。
「この奇跡は、私の知るキヴォトスからかつて絆を結んだ
ホシノの言葉をそのまま信じるなら、私はどうやら前のキヴォトスで『先生』だったらしい。
どういうわけかその世界で死に、今の私がここにいるようだ。
「私が何者なのか、解なんて得られないと思っていたが……まさか、『生徒』から学ぶことが出来たとはな」
ホシノには感謝しない……と……?
……
………
…………
あれ……ホ⬛︎ノって、
⬛︎⬛︎ノ?……彼女は、⬛︎⬛︎ドスの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……
「……これが、代償だと……ふざけるな!!」
『それで、⬛︎って寝てる時も⬛︎⬛︎を我慢して⬛︎⬛︎⬛︎んだっ⬛︎。すごくない?』
消えていく。彼女との思い出が。
『うへ⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎動か⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
何か、何かを彼女にプレゼントした気がする。思い出せない。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
あの子と一緒にどこかにいった気がする。あの子の顔が思い出せないけど、確か……すっごく……喜んで……いたっけ……な?
顔も、声も、使っていた武器も、好きな物も……その苦しみも、その気高さも、その……心も……
「もう……全て……きえてしまった……ああ、あぁ……!!」
『もう2度と、思い出せなくなるなんて』
「一方的なモノじゃなかった……相互の繋がりが、絆が、完全に絶たれる!!これが、こんなものが……こんな、ことって……ないだろう!?」
「………あああああああああああああああ!!!!」
昔読んだ漫画でこんな事を言っていた。
【人が本当に死ぬのは命が絶えた時じゃなく、誰からも忘れられた時だ】
あれ……私は、なんで泣いてたんだっけ。
◆
「ご無事で何よりですよパラドックス。アビドスでの食事は如何でした?」
「最高の時間だったな。あそこは通うと決めたほどだ」
「それは何よりです。ですが
「うぅ……確かに、ここまで不幸が続くとは流石に思ってなかったな。まさか『大人のカード』まで使わないといけない状況になるとは思っていなかった」
「クックック……ええ、支援できず本当にすいません。『大人のカード』はどのような神秘をもたらしたのですか?アビドスで凄まじい『神秘』の奔流が観測されましたが、それが何かまでは観測出来なったのですよ」
「黒服でも観測出来なかったのか?そうだな……『大人のカード』を使った後、『神秘』が急激に高まってなんとかビナーを撃退したんだが……代償がかなり重くてな」
「ほう、代償?それは一体どの様なモノで?」
「私の知るキヴォトスの『生徒』の神秘を借りる代償として、その『生徒』との【絆】を失う。そういった代物らしい。気がついた時には私は泣き腫らした後だったから本当に悲しい思いをしたんだろう」
「何故、疑問系なのです?……ああいえ。申し訳ありません……配慮が足りませんでした。これを使ってください」
「ハンカチ?なんで……あれ、私……泣いているのか?」
「今日はゆっくり休んでください。
「……ああ、そうする。ハンカチは洗って返すよ」
「クックック!!お気になさらずに、涙も貴重な研究資料ですので」
「人がすごい悲しんでるのになんてこと考えてやがる。どつき回すぞ」
⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎
絆ランク
【100→i】
『クックック……クックック!!素晴らしい実験結果でした。『大人のカード』で呼び出された生徒が誰なのかを観測することは出来ませんでしたが、それ以上の変数が見つかりましたね。
帰還したパラドックス……いえ、『相反ユヅキ』の身長が小数点以下の数値で伸びている。対して『パラドックス』には以前変化無し。
これらが意味することは簡単ですね。『相反ユヅキ』と『パラドックス』が表裏一体の存在ではなく、本当の意味で1つに溶け合おうとしている。
『神秘』と『恐怖』……相反する、両立しない、【矛盾】した両者が理を超え新たな領域へと歩み出した。
それをもたらしたのは間違いなく『大人のカード』……ならば、パラドックスには今後も『大人のカード』を使用し続けて頂きましょう』
『クックック……クックック!!クックックックックック………!!』