「よし、こんな所だろう」
やぁ諸君、パラドックスだ。
今日はついに私の新生活がスタートした所である。オートロック式の良いマンションにそれなりの家具、気分はまるで新社会人や大学生活1年目の引越し完了のような清々しさだ!!こんなにも支援してくれた黒服には感謝の念が尽きない。衣食住が揃ってこその文明的な生活。それに加えてスマホやPCといった便利な品まで用意してくれている。それに少なくない金額が私の通帳に振り込まれており足を向けて寝られない。
さて、必要な情報を整理していこう。まず私の戸籍が出来ている。いったいどんな手段を使ったのかは知らないが想像より遥かに早く戸籍の書類と保険証やらが届いた。まさか本名をパラドックスにしたのか?と一抹の不安を覚えながら中身を確かめると、私の新しい名前がしっかり登録されていた。恐らく黒服が考えてくれたのだろう。案外良いセンスをしている。
では改めて名乗らせていただく。パラドックス改め、『相反(あいはん) ユヅキ』だ。矛盾を命題にしている私に相応しい名字だ。ユヅキという名前の響きも良い、結構気に入っている。黒服曰く、『黒服』と名付けてもらったお礼だそうだ。結構長いこと考えてくれたらしいのでこの名前を誇って生きていこうと思う。なんというか、心と体に名前が馴染んだ。
恐らくこれが、テクスチャの貼り付け、というものなのだろう。私という概念的存在に、『生徒』と『大人』というテクスチャを貼り付けることで、物質的な存在を確定する。そして『大人』の私には『パラドックス』という記号を、そして今回『相反ユヅキ』という『生徒』の私への記号を与えたことで、名実共にこの世界に押し込められた、だからこそ馴染んだように感じた……のだと考える。おお、今の研究者っぽいな。かっこいいぞ私。
という事で今日から『相反ユヅキ』として活動する事になったわけだが、新しい名前が登録されたもう一つのカードが私の手元に届いている。
『ゲヘナ学園高等学校 相反ユヅキ』
そう、来年から1年生としてゲヘナに通う事になった証である学生証も届けられた。
なぜゲヘナか?という問いについて、最も簡単に説明すると
「さて……買い物がてら昼食をとりに行こう」
家具の設置など力仕事を一通り終え、時間も正午が近い。早めだがお腹も空いたという事で近くのショッピングモールに行こう。生活必需品は一通りショッピングモールで揃えることができたので、これからもずっと世話になるであろう施設だ。文字通りなんでも揃っているので、動物の個性を持つ住民に適した服や、それらをケアするための物などキヴォトスらしいものが売っていてとても助かる。
ドガァァァァァン!!!!
「…………もはや慣れてきたな」
今日に至るまで買い物や食事で周辺の散策をしていたのだが、あまりにも銃声や爆発音が聞こえてくる。流石は『裸の人より、銃を持ってない人の方が少ない』と言われるキヴォトス、1日外を歩けば2桁は聞く事になるであろう音なので嫌でもなれる。はっきり言って治安が悪い。
ああそうだ、前述の通り、裸の人より恥ずかしい人になりたくないので私も一応銃器を持ち歩いている。
サブマシンガン『Who am I(私は誰だ)』
何を言っているか分からないと思うが元ネタはUZIだ。銃の名前は私らしくて良いだろう?
この銃を選んだのは、私の適性の問題だ。端的に言えば、射撃が得意じゃないのである。黒服の元で色んな銃を数日かけて試したのだが、それはまあ命中しない。もちろん0距離などでは流石に当たるのだがスナイパーライフルを始めとしてアサルトライフルやピストルはもちろんダメ。なまじ神秘保有量が高いためショットガンやグレネードランチャーは威力が高くなりすぎて困る。
そして黒服に提案されたのが、ばら撒き戦法だった。先ほども言ったが神秘保有量の高さはそのまま射撃の威力になる、とは黒服の研究成果らしいが私の場合サブマシンガンの1発でも結構な威力になるそうだ。なので1発でも当たれば良いという思考でサブマシンガンによるばら撒きで時間を稼ぎ倒せたら御の字、倒せなくても射撃の威力に怯んだところでとっとと撤退する事をメインにする事にしたのだ。その時黒服に突っ込まれたのだが、
『どうやらパラドックスは、人を撃つ、という行為に忌避感を抱いているご様子。ならば当てるのではなく当たればいい、というマインドで戦闘を行いましょう。最初のうちはそれで十分です。そのうち慣れますよ』
とのことだ。まあ慣れる云々は別に良いのだが、人を撃つ行為を好かないのは図星だった。というかそれに慣れたら人として終わりな気がするのだよ。もちろんキヴォトスでそんな思考回路をいつまでも残していたらキリがないのでそれこそ慣れないといけないのだが……はぁ、気が遠くなる。なぜかやけに黒服の口調が優しかったのも気に入らない……哀れに思われていたのが声音から察した。うん、悲しいね。
バスに乗って数分、ショッピングモールに到着した私はフードコートに向かう。今日は何を食べようか、いつかはアビドスの柴崎ラーメン屋に行きたいのだが生半可な覚悟でアビドスに行くと遭難する自信があるので覚悟が決まったら行こう……ラーメンのことを考えていたら食べたくなってきた。決まりだ。
「おい、聞いたか?あの黒館ハルナが爆破しなかったラーメン屋があるらしいぞ」
「なんだって!?つまり名店じゃないか!!あとで行ってみようぜ」
とんでもない会話が聞こえた。なんでだよ、なんでラーメン屋で爆破云々の話が起こるんだよ。あーそうだったな、柴崎ラーメンもそういや爆破されていたな。流石はゲヘナ自治区……というかこのモールにあの黒館ハルナが来る方が恐ろしい。
黒館ハルナとは、キヴォトス最悪のテロ集団と言われるゲヘナ学園美食研究会の部長の名前だ。美食研究会とは、良く言えば名前の通り料理のレビューや食への研究活動をする部活だ。悪く言えば、というか一般的には彼女らの『美食』に反する店は常に爆破して回るテロリスト集団として知られる。そこの部長ともなれば、『美食』に関しては一際こだわりが強い。そのせいか、『黒館ハルナが爆破しなかった店は名店になる』という謎の噂話が出回るというよく分からない状況になっている。
……うーん、まあ爆破されていないとなれば少なくとも騒動になることは無いし混み出す前にさっさと食べてさっさと帰ろう。黒館ハルナが今何年生なのかは知らないが、すでに美食研究会は存在する様子。つまり同等にテロ集団である温泉開発部もあるわけで……キヴォトス屈指の問題児たちは今日もどこかで元気に活動しているのだろう。クソ喰らえだ。
と、言うわけで早速噂のラーメン屋の為にフードコートを訪れたわけだが、よかった。昼飯時な割にそこまで混んでない。初めて来る店なのでシンプルなラーメンを頼み、席に座って待つ。それにしても何処を見ても獣人キヴォトス人ばかりだなぁ。まあ平日だし、生徒達は学校に行っているのだろう。
そんなことを考えていると、フードコート入り口付近が騒がしくなってきた。混んできたかな?と思い、視線を向けると……噂の人物が居た。
「……おい、黒館ハルナだ。巻き込まれる前に逃げるぞ」
「あ、ああ……やべぇ、なんで今日なんだよ」
「ひぃ……早く帰りましょ」
「うふふ!!わざわざ学園を抜け出してきたのですから、楽しみですわ」
ガッデム!!なぜこのタイミングなんだ!!
なぜ!!今!!ラーメンが出来上がるの待つ!!絶対に逃げられない今のタイミングなんだ!?せめて、ラーメンが出来てからならまだやりようがあったものの……くっ、いや仕方ない。彼女はただ食事に来ただけ……しかも足取りは私が注文したラーメン屋に向かっている。つまり爆破されない……されないよな?
冷や汗をかきながら横目で様子を伺っていると、私以上に店員が冷や汗を掻いていた。そりゃそうだ、私があの立場だとしたら即座に退勤したい。何かの間違いで機嫌を損ねることがあれば爆破されるからだ。
……ん?そういえば私の注文、やけに遅いな。トッピング無しだからもうそろそろできても良いと思うのだが……あっ、なるほど……黒館ハルナを優先しているのか。うん、それは仕方ない。むしろそうしてくれ、このフードコートの安寧のために。
時間が経ち、悲しい事に私の席に近いところに座っている彼女の端末から先に呼び鈴が鳴り商品を受け取りに行った。席に戻った彼女は、それはまあ美味しそうに食事を始めた。そんなに美味しいのか、私も楽しみになってきた。
数分後、私の端末からも音が鳴り漸くといったところで商品を受け取りに行った。
「遅れてすいやせん……お詫びにチャーシューサービスしときましたんで……」
「いや仕方ないとも、気にしないでくれ。私だってそうするさ。サービス感謝する」
「そう言っていただけるとありがたいっす。ごゆっくりどうぞ……」
嬉しい誤算だった。ふむ、黒館ハルナのお墨付きなだけはある、店員の気遣いも素晴らしい。なるほど、これは良い店だ。今後はゲヘナが授業中の時間帯に来ようかな!!
おお、味もいい。言い方は悪いが、フードコートの店なのでまあまあくらいだと思っていたのだが、全然美味しい。通いたくなる美味しさだ。ショッピングモールなので深夜帯にやっていないのが勿体無いくらいだ。いや待て、チェーン店っぽいから別店舗があるか探す事にしよう。
「ご馳走様でした。ふむ……美味かった」
「もし、少しよろしいでしょうか?」
嫌ですぅ。なんて言えるわけもなく、問いの主に視線を向ける。黒館ハルナだ……黒館ハルナだ(血涙)
「あ、ああ……構わないが、何用かね?」
「私、黒館ハルナと申します。その……私より後に注文された方がいないにも関わらず、私の後にラーメンが届いていたのが気になりまして。なにか理由があったのかお聞きしたいのですが」
「ッ……いやなに。そんな大層な理由じゃない。気にしないでくれ」
まずいまずいまずい……!!そうか、そっちの線があったか!?
黒館ハルナの『美食』にはただ美味しさを求めるだけではなく、重要な別の要素が存在する。彼女にとって美食とは、多くの人に届けられる幸福である、というものがある。つまりサービスの良さだ。ただ美味しいだけじゃダメ。提供し、客が店を去るまでのサービスにおいても不満を抱いたらアウト……つまりとんでもなく厳しいのだ。
「いえ!!是非とも教えてくださいませ!!初対面の方に失礼かもしれませんが、私の『美食』にとってとても重要な事なのです!!」
君にとっては大事だろうが、何分今の私には、店の爆破と店員達の命がのしかかっていてね?下手な反応をすると大騒ぎになるのだよ。うん、だから一刻も早く逃げたい。
「まさか、まさかとは思いますが、私の評判を恐れて私の注文を優先した、などという愚行だった場合は……」
「ば、場合は……」
「このお店のサービスに著しく意識が欠けているとしか思えません」
「……つまり?」
「爆破ですわ!!」
「何故そうなる!?」
「食事とは、その全てが最高に整った状態でなくてはなりません。素材、調理、配膳はもちろん、お客様への対応……それらが合わさった時に最高の食事、つまり『美食』が成されるのです!!」
「待ってくれ。だからどうして爆破に繋がる!?」
彼女が言っていることは何も間違っていない。店としてはそれが正しいし食事とは確かにそういうものだ。だがそこから爆破という思考になることが理解できぬ……理解できぬ!!
というか、『私の評判』って……コイツ、全て自覚した上で爆破しようとしているな?余計にタチが悪い!!
「ふふふ……その反応、図星ですわね?」
「何のことかわからない。そもそもその埋め合わせは既にしてもらっている!!だから一旦落ち着いてくれ」
「
「あっ」
やった、やらかした。いやでも待ってくれ。今の私は『神秘』で『生徒』、つまり子供なのだ。感情が優先される傾向にあるから今の失言は仕方ないというかなんというか……はい、私が戦犯です。
「ふふふふふふ……許せません。許せませんわ。ですから……」
私は彼女の動作に反応して、何があっても良いようにすぐに立ち上がる。そして彼女は持っていた鞄をラーメン屋に向かって投げつけた。中身は絶対爆弾だ。まずい、客の避難を……あっ、全員逃げてる。流石ゲヘナ自治区の住民……危機感知能力が高いな。
が、ラーメン屋の厨房にはまだ店員達がいる。私達の会話を遠目に見ていたようだが、急な投擲に反応出来るわけがない。そして今動けるのは私だけ……やるしかないか。
「ッ!?貴女、何を……!!」
「私の責任だからなぁ!?」
投擲……そう、投擲なのだ。つまり鞄は弧を描いてラーメン屋に向かっている。ならば、私の
申し訳ないが、周りのテーブルや椅子には犠牲になってもらう。ありとあらゆる障害物を蹴散らしながらラーメン屋に走る。鞄が厨房内に投げ込まれるギリギリでキャッチ……が、爆破自体は防げないので
あー……分かる。キヴォトス人でなければ全身が吹き飛ぶやつだこれ。こんなはずじゃなかったのになぁ……
走馬灯ではないが、時間がゆっくりに感じながら呑気にそんなことを考えていた。
刹那、鞄の中の爆弾が起爆した。
ドガァァァァァン!!!!
◆
「大丈夫ですか!?……もし!!聞こえますか!!」
「…………う、げほっ」
いったいなぁ……!?痛いで済むのかこれ!!煙で何も見えないが、地面のひんやり感があるので私は倒れているのだろう。一瞬意識が飛んでいた気がするが、流石は神秘保有量の多い私だ。痛いだけで済んだらしい……聞こえてくる声は黒館ハルナだと分かる。店は無事か……?
「良かった、意識はあるようですね。立てますか?」
「……あぁ、問題ない。それより店はどうなった?」
少しずつ煙が晴れ、店内の全貌が見えてくる。私の周囲のテーブル達は真っ黒焦げになっているが、どうやらラーメン屋は無事らしい。注文窓口などは結構焦げているが、厨房内の店員達は無事らしい。ギリセーフかな。
「良かった、無事だな……」
「あ、あなた……なんて無茶を……それにどうして自分を犠牲にしてまで店を守ったのですか!!」
「……理由は2つ。
1つ目、ここはフードコート、不特定多数の客と数件の飲食店が1箇所に存在している。飲食店同士が隣り合わせになっているこの空間で、あのラーメン屋は中央付近にあることから店内で爆発物が起爆した場合左右の飲食店にも大きな被害が及ぶ!!」
「それは……ッ!!その通りですわね」
意外と物分かりがいい。彼女は思想がイカれているが常識がないわけではない。常識と倫理観を無視出来るくらい物事の判断が極端なだけだな。
……だが、やった事がやった事だ。
「2つ目、さっき口が滑ったが私はこの店の店員から配膳が遅れたことに関して、チャーシュー1枚の特別サービスを受け納得し了承した。つまり当人達の間で既に完結した話だ。それに対して部外者……部外者か?まあいい、部外者が口を挟んだからだ。しかも私との会話が原因でな」
「ですが!!店側が客を蔑ろにしたことは事実です。『美食』を探求する者としてそのような暴挙は許せませんわ!!」
「貴様の主義主張で、一体何人に迷惑がかかる!!」
「ッ……」
「まず、ラーメン屋の店員の負傷、そして機材の破損、フードコートは貸店舗であり、2次被害としてテーブルなどの備品の損壊があるからショッピングモールの運営もだな。次に客。今回は被害者は居なかったから良かったがもし食事中の客がいたらどうする?無関係の、ただ食事を楽しんでいた一般人の『美食』を奪ってまで成さなければいけないことか?私はそうは思わないな。最後に、貴様は『生徒』だろう。生徒のしでかした事の責任を取るのは誰だ。所属校の管理組織である。理解したか?どれほど大人数がこの爆破で動くことになるのか……理想を追い求めるのはいい、情欲で行動できるのは子供の特権だ。だが貴様ももう高校生、それなりに生きてきたのだから分別をつけろ!!」
「ッ…………申し訳ありませんでした」
「私は別にどうでもいい。謝罪する相手が違うだろう?」
その後、彼女は私が言った通りにラーメン屋と左右の店、そして遠巻きに見ていた客達に謝罪をして回った。だが少し違和感がある、不都合があればすぐ逃げ出すのが美食研究会のはずだが……まだ私の知るフルメンバーではないのか?
「改めて謝罪しますわ。申し訳ございませんでした」
「私のことはどうでもいいと言っただろう?」
「いえ、その……お洋服が……」
「は?…………なんッ!?」
彼女の謝罪を適当に躱し何故か無事だった手鏡で自分の状態を確認すれば、服の内側で爆発させたせいか先日買ったばかりのパーカーの前側だけが綺麗に無くなっているというダイナミックスタイルを晒していた。もちろん、下着も木っ端微塵だ。
「早く言わないか!?」
「言う暇もなくすごい剣幕で説教したのは貴女ではないですか!!」
「誰のせいだこの野郎!?あぁ……買ったばかりの服が……」
「とりあえずこれを。一時凌ぎにしかなりませんが、弁償させていただきます」
「あ、ああ……助かる」
彼女の制服には大きめのマントがあるのだが、両肩の留め具からマントを外し私の痴態が見えないように被せてくれた。なんでこういうところはまともに常識があるんだ……
「流石にここの服屋で買うのはバツが悪いですわね……そうですわ!!私の行きつけの服屋に行きましょう!!お詫びにもなりませんがお運びいたします!!」
「は?ちょ、待て。まだ謝罪は終わってな……おい、なぜ横抱きなんだ!?力つよ!!」
全力を出せばふり解けるが、今やると私は恐らく顔面からダイブすることになりせっかく貸してくれたマントから私の貧相な身体を晒すことになる。つまり私の社会的尊厳を守るためになす術なくこのままでいるしかなくなった……コイツ……どこまで計算してるんだ。
そして約10分後、全く同じものとはいかなかったがそれなりに良質な服を買ってもらうことができた。
「これでひと安心ですわね」
「何処がだ馬鹿者」
「いたぁ!?……なにするんですの!!」
「推定怪我人を横抱きで運ぶな。怪我はしていないが……万が一があるだろう」
「うっ、確かに……配慮が足りませんでした」
「配慮が出来たら爆破なんてしていないだろう。はぁ……どうしてこんな目に」
トラブルを避けるためにゲヘナに入ろうとしたのに、入学前からゲヘナ生にトラブルを起こされるとは……我ながらなんとついてないことか。
「後日改めて謝罪させてくださいませ。その、連絡先を教えていただけますか」
「ん?ああ、構わない……すまない、買ったばかりで登録方法がわからない。モモトークでいいかね?」
「ええ、少しお借りしますわ」
手際よくスマホを操作するのを見て覚える。ほぅ、そうやるのか。よし覚えた。次からは……って、なにやってるんだろうな私は。
「出来ましたわ!!この度は本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、私に関してはもう構わない。弁償代にしては高くついたからな」
「えっと、ユヅキさん?のお言葉、とても身に染みました。特に、私のせいで他の方の『美食』を汚すなどあってはならないこと……しかと胸に刻みました」
「その通りだ、これに懲りたらこれか「ですので!!」……んん?」
「これからは計画的に、余計な被害を出さず、必要最小限を考えて爆破しますわ!!」
「違う、そうじゃない」
「では私は急ぎますので……失礼しますわ!!」
「いや待て、なぜそんなに急ぐ?」
「うふふ……そろそろ逃げないと面倒なことになるからですわね」
「面倒なこと?」
「……見つけた」
おっと、この声は……なるほど。面倒なこと、ねぇ。
「出ましたわね
「また迷惑をかけて……そろそろ懲りてもらう」
「嫌ですわ!!そういうわけなので、ユヅキさん。また後日連絡いたしますわ!!」
「逃げ足早いな……」
「大丈夫、アレくらいならすぐ捕まえられる。発信機も付けたから」
うわぁ……ガチだ。
颯爽と走って逃げていく黒館ハルナを見送って、やってきた少女と会話をする。
『空崎ヒナ』……私の記憶ではゲヘナ最強格だろう彼女は風紀委員会の委員長を務める責任感の強い少女だ。今の黒館ハルナのような問題児達を制圧するのは日常茶飯事、それ以外にも風紀委員会として日々過剰なほど仕事をするワーカーホリックだ。今の段階でもう委員長かは知らない。
「何故ここに残る?早くあの問題児を捕まえにいくべきだと思うのだが」
「ハルナは逃げ切った後すぐに次の行動を起こさない。当分大人しくしているはずだから問題ないわ」
「なるほど……手慣れているな」
「ここに残っているのは、今回一番の被害者が貴女だと報告を受けたからよ。『相反ユヅキ』さん。確か来年からゲヘナに入学予定の人。中途半端な時期に入学手続きが来ていたから覚えているわ」
「おや、それは申し訳ない……です。すいません、敬語に慣れていないので」
「構わない。めんどうくさいから今まで通りでいいわ。貴女はまだウチの生徒ではないし」
「……助かる。事情聴取といったところかな?」
空崎ヒナ、こうして自分にも神秘があるからかとんでもない実力者だということがひしひしと伝わってくる。
「ええ、見たところ無傷だけれど……受けた報告が事実なら、ごめんなさい」
「何故謝る?」
「ウチの生徒の起こした問題に巻き込んでしまったからよ。本来は問題を起こす前に止めるべきだけれど……」
「そういう事なら構わない。今回は成り行きで、服の弁償はしてもらっている。両者間で禍根は残っていない。それに……わざわざゲヘナに入学するんだ。予行演習とでも思った方が気が楽だ」
「そう……貴女、良い人なのね」
空崎ヒナからの視線が少し和らいだ気がする。なんか、こんな良い人がゲヘナに入学してくれるなんて……みたいな視線だ。
「そんな事はない。誰だってなにかしら事情はあるものだ。まあ、被害者として一つ願うなら……あの馬鹿をきっちり絞めてやってくれ」
「分かった。他ならぬ被害者の意見だから尊重する」
「……ふふ」「ハハッ」
「よければ連絡先を交換してくれないだろうか?ゲヘナ自治区に越してきたばかりだから知り合いが居なくてね。貴女のような人が知り合いだと心強い」
「ええ、喜んで。入学したらぜひとも風紀委員会に入ってほしいくらい。ちょっと激務だけどやり甲斐はあるから」
やり甲斐搾取だと思いますけどね???特に君の場合。確か……午前3時就寝の午前6時起きだっけか。流石にここまでブラックなのは彼女だけだが、数百人を超える風紀委員会で激務なのはゲヘナがどれだけヤバい場所なのかよく参考になる。
無事連絡先の交換(今回は私からやった)を終え、解散の雰囲気になった。
「私のことは『ヒナ』でいいよ。ユヅキ」
「ああ……では遠慮なく、これからよろしく頼む。ヒナ」
「ッ、うん。またねユヅキ」
そういって彼女は去っていった。去り際の後ろ姿、特徴的な大きな羽がやけにファサファサ動いていた気がするが……何か良いことでもあったのだろうか。
「はぁ、疲れた…………おや、そういえばモールで買い物出来なかった……まあいいか。知り合いもできたしな。帰ろう」
あっ、黒館ハルナのマントを返しそびれた……まあ後日連絡してくるらしいしその時でいいだろう。しかしこのマント、いい生地を使っている……触り心地が普通の服より段違いにいいな……
『ヒナ』
「……友達?友達でいいよね。初めてまともな友達ができたかも。いつも怖がられてばかりだし……あっ、居た。うん、友達からの頼みだから。しっかり締める」
『ハルナ』
「初めてあんなに説教されましたわね。しかし……新たな知見ですわ。ふふふ、これからの食事がまた一つ楽しみですわ……次はユヅキさんを誘ってみてもいいですわね。あっ、ヒナさん?……と、投降しますわ!!今回は流石に反省していますn……へぶぅっ!?」