矛盾の化身   作:ゼノアplus+

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「クックック……皮肉ですね」

「矛盾、矛盾ですか……銃の名前に()()()()、などと付けるほど全てを失っていると言うのに、彼女はまるで万能です。本来神秘とは意識的に操作できる訳がない、恐怖もまた同様です」

「万能が故の矛盾……なるほど、きっと彼女が完璧に覚醒した場合に起こり得る事象は大凡4通り

1つ、例外無くキヴォトス全土が彼女の支配下に収まるでしょう。
2つ、彼女の記す文字によってキヴォトス全てが滅びを迎えるでしょう。
3つ、全てを失ったはずの彼女が、新たに築き上げた全てがたった1人の存在によって無に帰すでしょう。
4つ、『忘れられた神々』『名もなき神』を超える『楽園の創造主』になるでしょう」

「何故なら彼女は『在る』だけで良い。彼女は『在らしめるもの』です。彼女自身の探究の完了……それ即ち自らの存在証明……神の顕現と同意義でしょうね。ええ、デカクラマトンの存在証明が子供の遊戯としか思えません」

「口にするのも恐ろしい。暁のホルス……そして未だ現れぬ死の神。その全てが矮小な存在だと言わざる負えません。理論ではなく私の感情……研究者失格ではありますが、敬意と畏怖を兼ね備えてその名を記すことにしましょう」


【YHVH】


「私の観測ではここが限界でしょう。これ以上は『色彩』を刺激するだけ……しかしその名を知れただけで僥倖。かの存在に正確な発音というものは不適切ですのでこれが最高到達点です」

「彼女の完全顕現こそ、私が探究する『崇高』そのもの……ベアトリーチェにはゲマトリアを退場していただくことも視野に入れねば」

「さて……そろそろパラドックスが来訪する時間ですね。手厚く出迎えましょう」


楽園の創造者

 

 

 

「クックック……パラドックスは自らをキメラのような肉体だと称していますが、私にはむしろその逆としか思えませんね」

 

「逆?どういうことかね」

 

「パラドックスの仰るキメラとは様々な動物の要素が混在し冒涜的に入り混じった空想上の生物のことでしょう?しかし貴女の場合、全てのパーツが完璧なバランスで成り立っている。新たな黄金比の形を見せつけられているようですね」

 

「ほう……つまり、作為的な何かがあると……謎は深まるばかりだ。取っ掛かりを掴めたのは僥倖だがな」

 

 

ゲヘナ生徒の騒動から3週間。連絡先を交換したハルナ、ヒナとは良好な関係を気付けている。ハルナの場合食事の誘いが大半ではあるが、私といる時は騒動を起こさない……むしろ今まで行って良かった店を紹介してくれるスタイルなので良い思いをさせてもらっている。

 

『ふふふ……人との食事がこれほど心躍るものだとは思っていませんでしたわ』

 

だそうで、なにやら先生の役目を奪ってしまった気がしなくもない。

 

ヒナとは、未だに会うことはできていないがモモトークでの会話は弾んでいる。大半は風紀委員会の活動への愚痴だったり辛いだの寂しいだのネガティブな話題になりがちだが、私がハルナに紹介してもらったお店の話をしたりショッピングの話をすると反応がいいので、時間の都合が良い時に2人で出かける約束をしている。

 

ちなみに、ハルナとヒナは同学年なのは知っていたが、現在は1年生だそうだ。私の記憶では3年生だったはずなので、この時間軸は先生が来訪する2年前ということになる。2年……2年か長いようで短い。一体2年でどこまで己の探究を達成することができるのだろうな。まあとりあえずハルナとヒナが1年生から3年生まであまり変わらない生活を送っていたことの方が驚きだ。

 

 

「ふむ……現段階ではこれ以上の成果を得ることは難しいですね。検査結果もまだ完璧ではありませんのでこれから長期的に進めてまいりましょう」

 

「長期的か……はぁ。憂鬱だ」

 

「仕方ありません。必要な行為ですからね」

 

 

黒服の言う長期計画とは詰まるところ、私の肉体を削り取って検査する、と言う行為を数ヶ月にわたって観測し続けるということだ。私の髪の毛や皮膚、各部位の一部を削り取られるのは本当に痛い。神秘を意識的に肉体に込めないように集中しつつも機械によって体を抉り取られる……ああもう想像するだけで涙が出てきた。でも一晩寝れば大体治ってるのがまたキヴォトス人である事を実感させられる。

 

 

「お疲れ様です、本日は以上にしましょう。素晴らしいデータを観測できましたので報酬は弾んでおきます」

 

「あー……その件なのだがな。そろそろアルバイトを始めようかと思っていてね」

 

「おや、何か大きな出費でも?そこそこの金額は渡していると思うのですが」

 

「違う、そろそろ『生徒』としての真っ当な収入が欲しいのだよ。日中買い食いしても不自然じゃないような、至って普通の金額がね」

 

 

ハルナとの食事は店のランクによってはポンと出せる金額ではないし、PCの性能など拘ろうとするとまあまあ金がいる。『生徒』の活動資金の出所をまともに説明できないのも困るからな。

 

 

「そういう事でしたか。そうですね、パラドックスの能力を最大限活かすとなれば……ふむ。建設のバイトでしょうか」

 

「建設?キヴォトスでは全てオートメーション化されているものと認識していたが、違うのかな?」

 

「連日連夜戦闘行為が横行するキヴォトスでは建築物の修繕や道路整備の全てを機械で補うことは不可能です。文字通り猫の手でも借りたい状況だそうです。あまり人気のない土木工事ですが、『生徒』は力持ちで知られていますからね、どこへ行っても受け入れてもらえるでしょう」

 

「なるほど……で、本音は?」

 

「パラドックスさんに効率の良い傭兵業は向いておりませんので。弾丸の無駄です」

 

「そういう話になると思っていたとも……」

 

 

チクショウ黒服め、それっぽいこと言って誤魔化そうとしたってそうはいかない。しかし弾丸の無駄とか言う必要は無かったんじゃないか?結構グサッと来た、グサッと。

 

 

「まぁ……適材適所、か」

 

「クックック、身体能力は神秘でどうとでもなりますからね……条件の良いアルバイトをリストアップしておきましょう。それともご自身でされますか?」

 

「自分でやるさ、自分に何が出来るかを見つけることもまた自身の探究に繋がるだろう。まだ碌に探究を始めれられていない自分への言い訳だとも」

 

「ゲマトリアへの正式所属はまだ先になりますからあまり気にせずとも良いでしょう。少し難航していましてね」

 

「大方、ベアトリーチェが反対しているのだろう。マエストロとデカルコマニー、ゴルゴンダはあまり興味を持たないはずだ。それとも、()()1()()の存在を気にしているのか」

 

「ッ!!クックック……アレこそ気にする価値はありませんよ」

 

「『大人』として未熟。キヴォトスにおける外れ値とでも認識しておけば良いだろうな。むしろ、ああいったイレギュラーこそ観測のし甲斐もあるがリスクが大きすぎる」

 

 

ゲマトリアへはまだ道のりが遠そうだ。恐らくベアトリーチェを今潰してもさほど問題は起きないだろうが、指導者を失うアリウス分校への『大人の責任』を果たせない現状では何も出来ることはない。そして何より、アリウスに勝てる未来が想像できない。神連携にボコられて傀儡にされるのがオチだ。

 

 

「射撃訓練場を借りる。備えあって憂いなしだ」

 

「ええ、構いませんよ。用事がありますので今回はドローンでの録画をさせて頂きます」

 

 

気晴らしに訓練でも、と思ったが……もちろん良い成果は得られなかった。聖園ミカの隕石や百合園セイアの未来予知のように私にも高い神秘由来の特殊能力があれば良かったんだがなぁ……

 

そして黒服の拠点からの帰り道、当然のように私は不良生徒も襲撃にあった。

 

 

「ええぃ!!どうしてこうなる!?」

 

「オラオラァ!!有金全部よこしやがれクソガキィ!!」

 

 

おかしい、聞いていた情報と違う。この辺はゲヘナ生の問題行動が多すぎるあまり一般不良生徒は他の自治区に逃げているという話だったはずだ。それがどうして今私の目の前にいる?

 

一応、バリケード代わりの障害物に身を潜めているが援護は期待できそうにない。何故なら私は1人で、周りの一般人は既に逃げているからだ。

 

 

「うわ……銃弾が頭掠めたぁ……!!こっわ……ちっ、どうすべきか……」

 

「埒が開かねぇ!!アレ持ってこい!!」

 

「ん……?」

 

 

キィン……

 

 

なんだこの音……ピンが抜けたような軽い音……手榴弾か!?

 

 

「それはやり過ぎだろう!?お返しするよ!!」

 

 

こちらに投げられた手榴弾を、身体能力にものを言わせて蹴り返す。最近は爆発がトレンドかな!?

 

 

「「「うぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

あ、ダウンか?蹴りであそこまで狙いが定まるとは思っていなかった。先ほどからこちらに銃を乱射してきた3人組の悲鳴が聞こえたので身を乗り出して状況を確認するが、どうやら本当に倒せたらしい。ふぅ……弾代が浮いたな。さてと。

 

 

「はい、では襲撃者諸君。拘束させていただく」

 

 

黒服から万が一、と譲り受けていたロープで不良を縛りヴァルキューレ警察学校に通報をする。20分そこらで到着してくれるそうなので……強請るか。

 

 

「慰謝料を請求するよ。財布はどこだ?」

 

「あぁ!?誰かテメェにそんなこと教える『バァンッ!!』…………上着の左ポケットです……」

 

「素直でよろしい。おや?9mm弾……これも貰っておこう。銃の種類さえ同じなら弾薬の規格が大抵一緒なのも楽で良い」

 

 

大収穫だ。金は日銭程度しか持っていなかったので返却したが、弾薬は頂いておこう。節約できるものはできるだけ節約したいからな。

 

それにしても手榴弾1発で気絶するような戦力でよくもまぁ挑んでくるものだ。私が明らかに年下だから舐めて掛かったんだろうが、まあこの程度で済んで良かった……もう射撃は諦めて体術を極めようかな……そのうち銃弾も蹴り返せるようになったらそれで済むのではないかと思い始めた。

 

 

「む?…………観測されているな。これは……夢?いや私の意識は覚醒状態。こうも一方的に干渉されているとすれば……『百合園セイア』か。覗きとは趣味が悪い。言葉を交わしたいのならまずは招待が欲しいところだが……それとも意趣返しに『恐怖』がご所望かな?」

 

 

誰も見ていないことを確認し、自身を反転させる。自分では知覚できないが黒服曰く、意識していなくても大きなプレッシャーを感じるとのこと。私に干渉しようとしている彼女には劇薬になるだろう。その証拠に少しだけ干渉が途切れた。いじめ過ぎたかと思い『神秘』に戻してセイアからの干渉を待つ…………ほら来た。

 

 

()()()も程々にするといい。が、正直君には興味がある。一体どこまで私の事を観測出来たのか、他者の視点というのは馬鹿に出来ないからな。さて……見返り、そうだな。見返りが必要だ……どうしたものか」

 

 

彼女の興味を引ける話題もしくは情報……何かあっただろうか。

 

【もっと気楽に生きましょう】

 

……誰だ?干渉を受けた気配はなかった。だが今の言葉は、懐かしい、求めるほどに遠い……絶対に手の届かないと思わされるような何か。おや、涙が……うん。そうだな、せっかくこの世に生を受けたのだ、好きにさせてもらおう。

 

 

「『楽園』の証明に、興味があるだろう?体調が安定したら正式な招待を期待しているよ。百合園セイア」

 

 

私の鬼札の一つ。まだ誰にも話したことがない私の秘密、そして……私がそこに居る事を許されなかっただろう『楽園』。主観の話になってしまうな。

 

……干渉が無くなった。どうやら私の問いに満足したらしい。少しお仕置きをしたので当分接触して来ることはないだろう。彼女は強力な未来予知と夢による他者への干渉を持つ代わりにかなりの虚弱体質だからな。今回の干渉と『恐怖』による攻撃でしばらく体調不良で寝込むことになるだろう。

 

 

「はぁ……未来のゲヘナ最高戦力の次は、未来のティーパーティーか。おかしいな、厄介ごとは避けたいはずなのに向こうからやって来る。ダメだ、こういう時は飯に限る」

 

 

いつもいい店を紹介してくれているし、今日は私がハルナに手料理を振る舞ってもいいんじゃないだろうか。そうと決まれば早速連絡である。

 

 

 

 

 

 

 

「この度はご招待ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ。普段の礼とでも思ってくれたらいい。まあ質はあまり期待しないで欲しいところではあるが」

 

 

何気に自宅で料理をするのは初めてだ。エプロンは買っていなかったのでしていないが、まあ仕方ない。ハルナを部屋へと招くと、あまりこういう場に慣れていないのか少しソワソワしたあといつものハルナに戻った。

 

 

「なに、我が家への初めての客だ。誠心誠意もてなさせてもらおう」

 

「まあ!!それは楽しみですわ。それにしても、整った部屋ですわね」

 

「越してきたばかりだからだろう。これから維持するか面倒くさがるかで変わってくるさ」

 

「ユヅキさんが物事を面倒がるのも見てみたいですわね。想像できないですし」

 

「ゲヘナに入学すれば嫌でも見ることになるさ……問題児たちのお陰でな」

 

「それはそれは、腕がなりますね」

 

「……せめてとぼけるくらいしてくれ。自信満々に言われてもなぁ、問題児筆頭」

 

 

会話が弾む。元々会話のテンション感が合っていたのもあるがちょこちょこ会っているのでもう普通に仲のいい友人だ。

 

 

「よし、出来たぞ」

 

「待ちわびましたわ!!」

 

「久しぶりの料理にしては上出来だな。案外私も衰えていなかったらしい」

 

 

本日のメニューはオムライスとサラダだ。シンプルながらに技術が要求されるオムライスだが、割と綺麗な見た目に仕上がっている。

 

 

「ケチャップはどうする?何か文字でも書こうか」

 

「ならば是非、『美食』と!!」

 

「ははっ、なんとなくそう言うと思ったよ。しかし漢字か……潰れても文句は言うなよ」

 

「そこまで強情じゃありませんわ!!友人が丹精込めて作ってくれた料理ですもの」

 

 

どの口がぁ……?何て言うわけではないがそう言う意味ではあまり信用ないんだよなぁ。まあ楽しみにしてくれているのは本当らしいので頑張ってみるとする。

 

 

「むむ……ふむ。セーフ……か。あっ、垂れた……」

 

「いえ、味があって良いではないのですか?家庭料理ですし」

 

「そういうものか」

 

「そういうものですよ。友人とする食事が1番の『美食』ですから」

 

「……ふっ、そうか。ならば私も目一杯楽しまないとな」

 

「「いただきます」」

 

 

1番、か。先生が来たらきっとその1番も変わってしまうのだと考えたら少し寂しくなるな。だからこそ今のうちに楽しんでおこう。初めての友人だからな。

……昔から思っていたが、自分で料理すると、まあこんなもんだろ、ってなるのどうにかならないか?美味しいのだが自分が作ったとなるとどうしてもなぁ。

 

 

「美味しいですわユヅキさん!!ふふふ!!たまにはこういうのも良いかもしれませんね」

 

「いつかはハルナの手作りも食べてみたいものだ」

 

「え、それは……自信無いですわね……はっ!!……最高の食器と最高の環境で作るレトルト食品ならば行けるかもしれませんわ!!」

 

「ちょっとそれは気になる」

 

 

まあ、ハルナの楽しそうな笑顔が今日の1番の駄賃だろう。元々誘ったのは私だしな。

 

 

「そういえば気になっていたんだが、今のゲヘナのトップはどんな人物なんだ?」

 

「ッ……ユヅキさん。それは風紀委員長の事でしょうか、それとも生徒会長の事でしょうか?」

 

「ん?まあ……実質的なトップは生徒会長になるのではないか?」

 

「…………はぁ。よく考えれば、まだ入学してもいないユヅキさんを疑うのは見当違いでしたわね」

 

「は?一体何の話だ?」

 

 

急にハルナの周囲の温度が下がったように感じる。真面目な時は真面目だとは思っていたがここまでプレッシャーを放つことができたのは意外だった。

 

 

「いいですかユヅキさん。年次が変わるまでその話題はゲヘナ生の前で決して出してはいけません」

 

「そんなにヤバい情報なのか」

 

「ええ、現在のゲヘナのトップは『長』という枠組みに収まりません。圧倒的な支配者がいますから」

 

「圧倒的な……支配者?」

 

「現在のゲヘナでは鉄拳政治が行われています」

 

「ほう……それはまた」

 

「そしてその支配者は『雷帝』と呼ばれています」

 

「『雷帝』だとッ!?」

 

 

雷帝……まさか今その名前を聞くことになるとはな。私もあまり知らないが、確か2年前にキヴォトスを混沌に陥れたという……ん?待て、2()()()……今年じゃないか!!

 

 

「ユヅキさんもご存知でしょう。数ヶ月前に起こったキヴォトスの危機について、あくまで噂の段階ですがその主犯が彼女だと言われているほどの傑物ですわ」

 

「あー……なるほど。年次が変わるまで、というのはつまり雷帝は今年で卒業……キヴォトスを去る事になる、ということだな」

 

「その通りです」

 

 

キヴォトスの危機について詳しく知りたいが流石に知らないのは不自然だろう。私はあくまで今までキヴォトスで暮らしていたという戸籍情報なのだから。

 

 

「雷帝は暴君であると同時に策略家、発明家、そして政治家でもあります」

 

「す、凄まじいな……」

 

「故に、彼女が最も警戒しているのが情報の流出。ユヅキさんも先日の件が雷帝の仕業であるとは知らなかったでしょう?つまり、そういう事なのです」

 

「……あいわかった。私は雷帝なんて聞いたこともない。漫画で読んだキャラクターの二つ名であると認識しておこう」

 

「それが賢明です。私も友人を失いたくありません」

 

 

ハルナがネタ抜きでここまで警告して来るとはな。ヒナにも聞きたいところだがこの様子ではモモトークでの会話も危ういか。直接会った時、電子機器のない密室でのみ話すのがいいだろうな。つまり情報共有を受けるなら黒服がベストというわけだ。どうせいい情報は引き出せないだろうがな。

 

 

「さて……真面目な話はここまでにしましょう。せっかくのディナーです、楽しい話題をしませんと。うふふっ♪」

 

「切り替えが早いのもゲヘナ生の慣れか……そうだな。せっかくの夕食が冷めてしまう」

 

「それがいちばん大事ですわね!!しかし冷めても美味しいのが家庭料理の魅力でもありますわ。お弁当にも当てはまります。しかしお弁当はまた別の魅力がありまして……」

 

「ああ、一見手抜きに見える冷凍食品や昨日の残り物のおかず達。だが、食材を余らせないテクニックがふんだんに使われている上に……」

 

「「少し手の込んだタコさんウインナーがあるとテンションが上がる!!」」

 

 

ガシッと完璧なタイミングでシェイクハンド。流石は美食家、ピンポイントな部分まで完璧に抑えている。

 

 

「ふふふふふふ……やはりユヅキさんには美食の才能が光ってますわ!!ゲヘナに入学した暁には是非とも美食研究会に……」

 

「あっ、それは断る」

 

「なんでですか!?」

 

「テロリストの仲間入りをするつもりはない……まだ給食部に入る方が安全だからな」

 

「くっ……こんな所で日頃の評判が悪さを……評判が良くなるまで下手人を爆破して回るしかありませんわね」

 

「下手に計画性が育ったせいで小賢しくなったな。これ私の責任か?まあ被害が広がるよりマシと考えるしかない」

 

 

日が完全に落ちる前に解散する事にし、バス停まで見送る事にした。

 

 

「今日はとても楽しい食事でした。これほど満足できたのは久しぶりです」

 

「そうなのか?ハルナならもっと色々知っているだろう?」

 

「百聞は一見にしかずと言いますでしょう?私の場合はもちろん食事回数も多いですが、ただお金を払って受けるサービスとはまた違う良さがありましたもの」

 

「……そうだな」

 

「お友達とわいわいお喋りしながらの食事はお金では得られませんでした……ユヅキさん、私、目標が出来ましたの」

 

「目標?」

 

 

この流れならとてもいい話に流れて欲しい所だが、ハルナだからな。まあ今日の感じだと良いこと言ってくれるだろう。

 

 

「ええ、今の美食研究会は個人がそれぞれ美食を探究する部活ですのでみんなで集まって食事、とはなりません。各々主張が強すぎて食事会どころでは無くなってしまいますからね」

 

「想像しやすいのがまた怖いんだが……それで?」

 

「いつか、美食研究会の部長になって部員達で楽しく食事会ができるような部活にしたいと思います!!」

 

「ふっ……出来るとも。人の基本は衣食住。その中でも娯楽にしやすい食はそれ故に拘りが強くなる。その結果が美食なのだから、大丈夫だ。ハルナには人徳もあるだろうしな」

 

「人徳……ですか?あまり自覚したことはありませんわね」

 

「ハルナは店側の良いサービスには、客として気持ちのいい態度で返すだろう?悪評で押し潰されているが普段の気品ある態度も合わせて、爆破していない店からは評判がいいんだよ。ハルナは気にしていないから知らないだろうがな」

 

「そのようなことが……全く知りませんでしたわ」

 

「ハルナはハルナらしくあれば自ずと人もついてくるさ……まあ爆破するのはやめたほうがいいが」

 

「うふふ、それは出来ない相談ですわね。ですが……ユヅキさんのアドバイスは心にスッと染み渡りますわね。しかも説得力がある。ユヅキさんこそ人徳に恵まれそうですが」

 

 

そう見えるだろうハルナ。そう見せている、と言いたい所だがこれははっきり言って虚勢なんだよ。私には、未だ心の底から頼れる人がいない。私には私しかいない。だから精一杯の虚勢を張って自分を大きく見せることしかできないんだよ。

 

 

「ははっ、ゲヘナに入ればまた変わるとも。自由と混沌が校風のゲヘナならな」

 

「それもそうですわね。爆破を始めたのは今年からですし」

 

「そうなのか!?」

 

「流石に中学生から爆破の発想はありませんでしたわね。せいぜいアンケート用紙の裏面まで使って良い点、悪い点、改善すべき点を書き出していた程度ですし」

 

「じょ、常識的だ……!!」

 

 

マジか。あの黒館ハルナにもそれほど可愛い時期があったとは……それがどうしてこうなった。ゲヘナに入ったからだなぁ!?

 

 

「ですからユヅキさんもダイナミックに行きましょう。スカッとしますわよ?」

 

「それが本音かお前。結構俗物的な理由だったな」

 

 

まあ、元気な10代ならそれくらいの意識でいいのだろう。

 

子供の責任を取る大人が居れば、の話だがな。私の持論だが、大人が居ないから大人を必要とするのは道理だがそれだけではダメだ。キヴォトスでは大人が居ないのが当たり前だったのだから、居ないなりに責任のあり方について学ばなければならない。BDによる学習が一般的なキヴォトスではそういう道徳を学ぶ機会が実践以外ないのが難しい所だな。

 

 

「では、失礼します」

 

「ああ。気をつけて帰ってくれ」

 

 

私はどうして……『先生』のような目線で『生徒』を語っているんだろうな。私は私が正しいとは思わないが……独善的な考え方を自覚しなければいけない。はぁ、これもまた自身の探究と捉えるべきか。

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