「【楽園に辿り着きし者の真実を証明することはできるのか】」
「……出来てしまった。矛盾した、証明の不可能な問いだったはずなのに」
「君の夢を覗き見たその瞬間に全てを察してしまった」
「アレは間違いなく楽園。人の主観による妄想なんてものじゃない。完璧な、楽園だった……!!」
「では何故君は今この場にいる?楽園に居たのならずっとその恩恵を享受しておけば良い」
「君に……貴女にとってあの場所は、楽園じゃなかったとでもいうのか」
百合園セイア、私の記憶にもないほど真剣で、かつ懇願してくるような表情で私に問いを投げかけてきたその少女を私は軽く諌める。
「落ち着いてくれ、百合園セイア。今日はその話をしに来たのだ。時間は十分にある、お互いの気が済むまで語り明かそう……まずは自己紹介からだな」
「……ああ、すまない。気がはやってしまったこれではホストとして情けない。百合園セイア、トリニティ総合学園1年生だ。よろしく」
「相反ユヅキだ。来月にゲヘナに入学予定の……まだ何者でもない少女だよ」
そう、現在ゲヘナへの入学まで1ヶ月を切っている。色々あった、雷帝の失脚だとか黒服からの観測がほぼ無くなった事だとか。語るべきことはたくさんあるが今はこの彼女に招待されたこの茶会を楽しむとしよう。
……彼女の家は本当に広い。金持ちのトリニティ生の家とはどここうなのだろうか。高級だろう調度品が上品に飾られている。
「まずは謝罪を。勝手に君に干渉したことを詫びさせて欲しい」
「謝罪を受け入れよう。知りたいという欲は人間誰しもが持つものだ。藪蛇だったことは否めないがね。ああ、それと私のことはユヅキで構わない。一応、年下だからな」
「分かった。じゃあ私のこともセイアと呼んで欲しい、なんとなく長い付き合いになる気がするからね」
……口調が似ているせいでどっちが喋っているか分かりづらいな。
「ではセイア、お互い聞きたいこともあるだろうし早速本題に入ろう。問いは交互、セイアからで構わんよ」
「ありがとう。といっても色々棚上げした上で聞きたい、ユヅキにとっての楽園とは?」
「楽園……か」
難しい問いだ。基本的に私の主観で定義付けしなくてはいけないし、きっとそれは万人受けしないだろう。
私は今日のホストであるセイアに用意してもらった紅茶に口をつけ、一呼吸置いてから答える。
「私にとっての楽園とは、恐らくセイアが見た景色そのものだよ」
「……分からないことがある」
「聞いても?」
「あの光景が……ユヅキが今後見る景色なのか、それとも過去に見てきた景色なのか。私には分からなかったんだ。キヴォトスに暮らす人々が幸せに暮らしていたあの光景……ただ一つ。いくら探しても君の姿だけは見えなかった。君にとっては数瞬に満たなかったあの時間で、私はキヴォトスのありとあらゆる場所を見て回った。その上で……ユヅキは存在しなかった」
「……」
まあ、そうだろう。私がここにいる事が全ての証明だ。私の記憶にあるキヴォトスでは、私は相反ユヅキでもパラドックスでもなかったはずだ。だから私は、私が何者なのか知りたい。私はあのキヴォトスで一体誰だったのか、私は一体どんな使命を持ってこの世界に生まれ落ちたのか……だが、それを彼女に話す気はない。
「相反ユヅキ、君は……楽園を追放されたのか?それとも楽園を追放される運命にあるのか?」
「……問いは交互だ。いいかね?」
「あ、ああ……構わないとも……そうか、ハハッ……結末は変わらない、のかもしれないな」
私の答えを肯定と捉えたのだろう。セイアは力無く笑い肩を落とした。まったく……人の話は最後まで聞いてからでも遅くないというのに。
「では私の問いだ。といっても、聞きたいことは先の問いで知れてしまったのがね。私は哲学的な表現は得意じゃないのだが……ふむ。では問おう。セイアの問いは終わっていないのではないかね?」
「……は。何を言って」
「私の事を楽園を追放されし者として認識したのだろう。だがセイアの問いの本質は『自らの意思で楽園を去った者がいるのか』という点のはずだ」
「確かに……ああ、そうか。私は本質を見失っていたようだね。問いに答える、終わっていない。むしろ終わらせたら……つまらないな。ユヅキ、君の解もまた一つの例だ。だがこれは一つの解に辿り着く数学とは違うもの……ならば、何通りの解があっていいのかもしれない」
「さぁ、それはセイアが自身に問うべきだ。私はただ一方的に例を開示させられたに過ぎない」
「うっ……そこを言われると立つ背がないね」
まだ3年生の時のような諦観がない、普通の子供のような希望に溢れた百合園セイア。そうだ、そんな彼女が見たかった……そうか、私が見たかったものはコレか。ならば……トリニティに入学することも吝かではなかったな、今更だが。
セイアは自身の興奮を落ち着けるように紅茶に口をつけた。そういえばやけに紅茶が美味しいな。私は基本レモンティー派だが、こんなに香り高い紅茶をストレートで嗜むのもなかなか悪くない。私がコーヒー派閥な事を除いてな!!徹夜には栄養ドリンクとコーヒーなんだよ!!
「ユヅキ、君は何者なんだい。これは予知夢ではなく私の所感だけれど、君は相当な実力者だろう?それ以外の何かもきっとあるのだと思う。私はきっと君に恐怖を抱いている。あの一瞬、君に垣間見えたのは全てを絶望で染め上げるような恐怖だった……だが、同時に全てを掬い上げる神秘的な希望のようにも見えた。君は……このキヴォトスで何を為すんだい?」
「何を為す、か」
セイアの疑問は最もだ。私がお仕置き代わりに食らわせた『恐怖』はおそらく彼女の精神に大きな傷を負わせてしまったのだろう。だが、希望だと?反転した私に、『恐怖』に身を染めた私に対して一体どんな希望を見出したというのか……いや、きっと勘違いだろう。押し寄せる恐怖の中で何か一つでも身勝手な希望を見出さなければ耐えられなかったのだろうな。
「『恐怖』」
「ッ……!!その姿は……」
「この姿を見てどう思う?悼ましいか、冒涜的か、それとも……むしろ人間らしいか?私は人間らしいと感じる。人が1番人らしいのは感情を剥き出しにしている瞬間だからだ。しかし……『神秘』」
「も、どった……」
「理性があってこその人間、理性なき人はただの獣だ。だから私はこの姿でいるといっても過言ではない。どのみちキヴォトスに順応するにはこの姿でいるしかないわけだが」
「セイア、私は何に見える?私は私だ、それを証明しなくてはならない。他ならぬ自分の為に、私は自らの存在証明を完了するのだ。問いへの解はこれでよかったかな?」
「…………とても参考になったよ。だが、だが……少し時間をくれないか。飲み込む事が、難しいんだ」
「構わないとも。その悩みは、自分なりに納得をつけるしかないのだよ。私自身……解を得られていないのだから」
10秒……1分……1時間……2時間。
どれほど時間が経過したかは分からない。1秒にも満たなかったかもしれないし、半日は経過しているかもしれない。自分で語っておいてなんだが、何を言ってしまったんだ。誰にも言うつもりがなかった。黒服は大凡気付いているのだろうが、きっと話しちゃくれないだろう。アイツはそういう奴だ。
「すまない……飲み込んだ」
「悩ませてしまって悪い。どうだろう、私のことは理解してもらえたかな?」
「いやさっぱりだね。むしろ分からない事だらけだ」
「ほう、やけに開き直ったようだが」
「私はきっと、今ここで君をどのような手段を使っても始末しなければいけないという結論にしかならないんだ」
「ああ、それは正しい」
「……何をいっているのか分かっているのかい?私は、君を、殺すべきだと」
素晴らしい、素晴らしいよセイア。まさかその結論に至るとは思わなかった。セイアだからこそ出来る答えだ。他の生徒ではせいぜい行動不能にするとか牢屋にぶち込むとかが限界なはずなのに、確固たる意志を持って、『殺すべき』だと主張している。観測した情報から正確に言葉を紡ぐことが出来るのは、確かな才能だ。
「【理解できないものを通じて私たちは理解を得ることはできるのか】」
「ッ!!第二の古則……」
「証明されたな、今この瞬間。理解できないものとは私だ。私を通じて、セイアは今理解を得た。私を殺さなくてはいけない、と」
「そんなものは理解ではない!!理解を諦めた……理解できぬ異物の排除……追放だ!!追放……?追放……追放!!ああ、あぁ……!?だから君は……そんなの……君が報われないじゃないか!!だって君は……!!」
ああ、出会ったばかりの私にそんな泣きそうな顔をしてくれるのかセイア。優しい人だ……だからこそ、そうしてしまった責任は私が果たさねばな。
今のセイアに背負わせるべき責任はない。だってこれは問いと解を繰り返すだけの会話なのだから。ただの会話から殺し合いに発展させる必要はない。
「理性と感情がせめぎ合っている……実に結構。だがセイア、忘れてはいないか?君はトリニティ、私はゲヘナ。敵対している組織に属する者だ。今はそれでいいと思わないか?」
「これはそんな単純な問題では……」
「今解決できる問題でもないだろう。君は私に勝てると思っているのか?私の一端に触れ、未だ本調子ではないだろう。信頼できる同志もこの館には居ない様子……不用心だと言わざるおえない。好意を持って接すれば何もしてこないと思ったか?私は射撃のセンスは壊滅的だが0距離ならどうとでもなる。その為に携帯しやすいサブマシンガンを使用しているのだからな。今ここで私が、殺そうと思えば、君は容易く葬られる」
煽る、煽る。私に対して同情を抱いているセイアをこれでもかと煽る。危機感を持ちなさい、学びなさい、秘密とは暴かれたくない者が必ずいるのだ。
そう、人生は失敗と学びの連続なのだから。
「ッ……ふっ、やる気もないのによく吠えるじゃないかユヅキ。ティーパーティー入りが約束されているといっても過言じゃない私がどうにかなれば社会的評判が地の底に落ちるとは思わなかったのかい?他人を思いやる心を持っている君が、これ以上ゲヘナの評判を積極的に落とすとは到底思えない」
「いや、ゲヘナにこれ以上落ちる評判など存在しないが」
「……言ってて悲しくならないかい?来月から入学だろうに」
お互い去勢を張っているのが丸わかりだ。しかし、それでいい……だってお互い、害そうなどと微塵も思っていない。
ゲヘナは元々終わってるから別に何言ってもいいんだよ。かの雷帝もいつのまにか退場しているらしいしな。
「「…………」」
「辞めようかユヅキ。私の負けだよ、君の言うとおりだ。今解決できる問題じゃない……それが例え差し違えてもやらなければならない私の使命だとしても、私が今やらねばキヴォトスの滅びを防げないかもしれなくても。最後の問いをしよう、受け入れてくれるかな?」
「クククッ……是非とも」
「もしかして、私は先走りすぎなのかい?」
「ああ、このレベルの難問は頼れる存在に頼るべきだ。それが決して話してはいけないことでも、伝え方は工夫次第だからな。そして、予知夢などという力を持っているからこそどうにかしなくてはならないという考えも改めるべきだな。おっと、勘違いしないでくれ。セイアなりのノブレスオブリージュ……力あるものはその責任を負うべきである、という考えを否定するつもりはない。力の使い方をよく考えたまえ。『知る』ということは『関わる』ということだ」
「なるほど、忠告痛みいるよ。自分の身の程を知るべきだ……ということに気づけた事が今日の最高の成果かもしれないね」
「ご期待には添えたかな?では、そろそろ私は失礼する」
いいなぁ、責任感のある無鉄砲な子。こんなの思わず応援したくなってくるじゃあないか。セイアにもこんな時期はあったんだなぁ。
「なんだって?もう帰るのかい、もう一杯くらい……おや?もう夕方なのか」
「熱中してしまった。わるーいゲヘナ生が夜分まで誇り高きトリニティ生と共にいるのは醜聞だからな」
「下品な煽りをして悪かったからその言い方はやめてくれ……しかし、少し勿体無いな。物足りない」
ほう、セイアがそんな事を言ってくるとは思わなかった。それなりに心を開いてくれたと認識してもいいだろう。ならば……
「ふむ……では、私も最後の問いをするとしようか」
「なんでも聞いてくれ、出来る限り答えよう」
「明日暇だったら遊びに行かないか?」
「いいとも………ん、今なんて???」
◆
「というわけで本日はDU地区にやって来ました」
「待ってくれ、説明を求める」
「そうは言いつつ、しっかりとおしゃれをしてくる百合園セイアさんです。意外とウキウキで可愛いですね」
「昨日とは随分キャラが違うねユヅキ、そして誰に言っているんだ!?」
この状況を簡潔に説明するためさ、誰になんて野暮なことは言ってはいけない。
「まあまあ、治安が比較的マシなDU地区で学生みたいに遊ぼうって話だ」
「…………みたいに、というか私たちは学生なのだけどね。了承した私も私だが。それにどうやら君は中々愉快な性格をしているようだ。昨日の会話からじゃ想像できなかったよ」
ゲヘナとアビドスは論外、トリニティはセイアの顔が割れている。ミレニアムはセミナーとC&Cに万が一見つかった時は面倒。ならば連邦生徒会のお膝元であるこのDU地区が1番マシだろう。
「昨日は随分と真面目に話し込み過ぎたからな。普通に交友を深めるのもいいんじゃないかと思っただけだ。理解できぬのなら、理解できるまで突き進むしかないのだよ。私のような存在は特にね」
「むぅ……少しはぐらかされた気がする」
というわけで、今日はセイアと共に色々行ってみることにする。この辺りの地理には詳しくないから地図と睨めっこしながらにはなるがな。
「それで一体どこに行くんだ?あまり外出をしないから少し不安だよ」
「ふむ……まあ無難にカラオケ、ゲームセンター、ショッピングといったところか?」
「もしや、ユヅキもあまり慣れていないのではないか?」
「ははっ、なんのことか分からないな」
「……はぁ、行き当たりばったりということか」
「それもまた醍醐味だろう?そういうセイアこそ、口角が上がっているぞ?実は楽しみにして来たんじゃないのか?」
「まあ、興味がないといえば嘘になるが……」
いや君、超楽しみだろう。かつて無いほど尻尾がブンブンしているじゃあないか。
ではここからは、ダイジェストでご覧いただこう。
【カラオケ】
「『ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↑フッ→ミッ↑ ダ↓イ→スッ↑キッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ア↑ジ↑タ↑ニッ↑ ヒ→フ↓ミ↓ ダッ→イ↓スキ↓ス→キ↑』」
「どんな楽曲なんだ!?いや待て、ナギサっぽい声で歌うのはやめてくれ。やけに耳に残るし、今日以降彼女の顔を見るたびに思い出してしまう!!というかヒフミって誰のことだ!?」
うん、本当になんでこんな曲がカラオケにあるのだろうな。歌える私もおかしいが……わざと桐藤ナギサっぽく歌ってみたが何故かそうしなければならない気がした。
「ほら、セイアも歌いたまえよ。
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↑フッ→ミッ↑ ダ↓イ→スッ↑キッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ア↑ジ↑タ↑ニッ↑ ヒ→フ↓ミ↓ ダッ→イ↓スキ↓ス→キ↑」
「うっ……分かった。せっかくのカラオケ、楽しんでやろうじゃないか。こ、こうか?
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↑フッ→ミッ↑ ダ↓イ→スッ↑キッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ア↑ジ↑タ↑ニッ↑ ヒ→フ↓ミ↓ ダッ→イ↓スキ↓ス→キ↑」
「ほう、上手いじゃないか。じゃあ私も……」
「「ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↑フッ→ミッ↑ ダ↓イ→スッ↑キッ↑
ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑
ア↑ジ↑タ↑ニッ↑ ヒ→フ↓ミ↓ ダッ→イ↓スキ↓ス→キ↑」」
「「ヒッフッミ〜!!」」
なんだこれ……なんだこれ。
【ゲームセンター】
『クレーンゲーム』
「これがクレーンゲームか。操作も単純で分かりやすい……!!」
「……分かりやすいとか言いながらシマエナガに操作を任せるのはどうかと思う。あっ、取れた。え……取れた???……シマエナガ様、出来ればあのウェーブキャットを取ってほしいのだが……い、1発だと!?」
『シューティングゲーム』
「久しぶりに銃を手に取るが、勘は衰えていなかったらしい」
「ああ……よかったな」
「ユヅキ、射撃センスが壊滅的と言っていたが……この距離でゲームでもダメなのかい?」
「言うな。泣けてくるだろ」
「パンチングマシーンで満点を出せる事の方が私は恐ろしかったけどね」
『襲撃』
「「「「「「私たちはグツグツヘルメット団!!今日からこのゲームセンターを占拠させてもら……うぎゃぁぁぁ!?!?!」」」」」」
「ハハハッ、0距離ならなぁ!!せっかくの楽しい時間を邪魔してくれるなよ不良どもがッ!!食らえ、ハリケーン旋風脚ゥ!!」
「……実は銃を撃たない方が強かったりしないか、ユヅキ」
『プリクラ』
「写真なら携帯でいいんじゃないか?」
「待て待て焦るな。プリクラは自由に写真の加工ができるのだよ」
「いやそれも携帯で出来た気が……」
撮影後
「クククッ……この落書きをしたくてわざわざこのプリクラを選んだんだよセイア」
「とんでもない種類の落書きがあるな。これはなかなかおもしろい……」
『セクシーセイアですまない』キリッ
「こんなこと言った覚えはないんだが!?」
『格闘ゲーム』
「「…………」」
「なあ、やめにしないか」
「ああ……不毛だ」
「「これじゃまるで泥試合だ。二人とも下手すぎる!!」」
【ショッピングセンター】
「おお、おお……!!ユヅキ、ユヅキ!!ショーケースでマネキンが服を着ている!!」
「あ、ああ……見本の物だな。これならば店に入らずとも商品の質を見れるだろう?これを見て興味が湧いたら店内に入る選択肢が生まれるのだよ」
「考えられているのだね……普段は商人が我が家に来るからこういうのは初めてだ……!!」
「ナチュラル金持ちめ。楽しんでいるようで何よりだが」
「こっちは玩具か!?初めて目にした……ミレニアム製のような出来栄えだな」
「いやそっちは普通の……むっ!?絶版で手に入れることが出来なった『DXアイアンロボ フルコンプリートセット』!!うぉぉぉ……こ、こんなに!!そうか……2年前だから現役……!!あまりにも欲しい!!」
【コンビニ】
「ほう……これが噂に聞く、『カップラーメン』……たった3分でこのクオリティ……トリニティの学食でも実装してくれないものか」
「多分だがトリニティのコンビニに行けば普通に売っていると思う……え、売っているよな?待てセイア、流石にシマエナガ様には…………食べただと!?」
「遊び倒したな……」
「ああ、流石に疲れたよ……でも、楽しかった。ありがとうユヅキ、君のおかげだ」
「私も随分と楽しんだとも。むしろ……いや、なんでもない」
歩いている最中に見つけた公園のベンチに座り、日が落ちていくのを気持ちのいい疲労感と共に眺める。道中自販機で飲み物を買ったが、まさかのシマエナガ様に高いところのボタンを押してもらっていた。流石はシマエナガ様、クレーンゲームが上手い、ラーメンが食える、自販機で飲み物も買える……最強か?
「?」
「こういう楽しい日々がずっと続いて欲しいな」
「ッ……ああ、その通りだね」
この言葉の重みは、私達のみが恐ろしいほど理解しているつもりだ。だからこそセイアには、諦めず楽園を目指し続けて欲しい。
「セイア」
「なんだい」
「今から残酷なこと言う。楽園を目指すことを諦めてはいけない。セイアだけじゃない、この世界の全ての存在が楽園を享受する資格がある。楽園が存在しないのならば作ればいい、楽園の存在を確信したのなら向かって進み続ければいい」
「それは……とても残酷だね」
私の言葉にどういう解釈をしたのかは分からない。が、彼女なりに解答を見つけることを祈ろう。
「いつか楽園に辿り着くと
だが、それこそ『子供の特権』なのだから……そのための道筋は、その責任は、
「ッ……君はなんというか、自分を勘定に入れないね。君もその子供だろうに」
「正論のナイフで突き刺してくれるなよ。まあ……言いたいことはそれだけだ。気をつけて帰ってくれ。では失礼する」
「……ああ、ユヅキ!!」
「ん?」
「またこうやって遊びに行こう!!」
「ふふっ……もちろんだ」
こうやって楽しく遊ぶことも、大事な子供の特権なのだからな。
『後日』
「セイアさん、今日は何やらご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか?」
「あー、確かにセイアちゃん。今日はずっと尻尾が揺れてるね⭐︎」
「…………くっ……ふふふ、ふふふふふふ……いや、なんでもない。き、気にしないでくれ……!!少し思い出し笑いをしただけだよナギサ」
「私の顔を見て思い出し笑いをすることがあるのですか!!ロールケーキぶち込みますよっ!?」
(くっ……ふふふ……ユヅキ、覚えていたまえ……君のせいだからな)
セイアはナギサの顔を見るたびに思い出し笑いをし、その後スマホとケースの間にしまってある一枚のプリクラを思い出すのであった。