『諸君、入学おめでとう。自由と混沌が我が校の校風だ、存分に学生生活を楽しむといい。君たちの入学を歓迎する!!』
「…………普通の入学式だな」
セイアとの邂逅から1ヶ月が経過し、私は無事にゲヘナに入学することが出来た。
が、予想していた入学式よりも随分とおとなしいものだった。襲撃もなければヤジも飛ばない、それどころか上級生は風紀委員数名と生徒会……万魔殿のメンバーがいるのみ。ヒナの姿も見えないのが不思議だが、何をやっているんだろうか?
ちなみに私の制服だが、ゲヘナの一般制服に棗イロハが着ているロングコートにハルナのようなマントを付けている。本当はズボンにしたかったのだがリストになくてなぁ……はぁ、スカートは苦手だ。せめてもの抵抗にスカートは長めにしたがな。
『以上を持ちまして、入学式を終了いたします。生徒の皆さんは
「「「「「「???」」」」」」
な、何やら変なアナウンスが入ったような……身の安全?
ドガァァァァァン!!!!
「何事か!?」
「温泉開発部です!!私たちと一緒にこの世の全ての温泉を掘り当てましょう!!」
「美食研究会ですわ!!私達で『美食』の崇高を目指すのですわ〜!!」
「火力研究会だ!!どうだ今の爆破力!!気に入った奴らは入りな!!!!そうでなくても入りな!!」
「あっ……救急医学部ですぅ……勧誘もしたいですがこんな感じなので、負傷された方はこちらまでどうぞ〜……はぁ」
カオスか?…………カオスだったなそういえば()
微かに聞こえた救急医学部の話を聞く限り、この襲撃のような地獄絵図はどうやら部活の勧誘らしい。元々マンモス高なのだからいくらでも勧誘の余地はあるだろうに……勧誘の筆頭は温泉開発部、美食研究会、火力研究会の3つ。火力研究会による体育館の爆破で壁が吹き飛び、そこからとんでもない量の上級生たちが雪崩れ込んできた。新1年生は逃げる、目を輝かせる、むしろ応戦するなどこっちはこっちで阿鼻叫喚な状況となっている。うーん、セイアのいう通りトリニティの方が良かったか???
そういえば知っている声が聞こえたような……?
私はと言うと、持ち前の神秘による身体能力で座っていたパイプ椅子を盾にしながら、先ほどまで代表者が挨拶をしていた壇上まで走り抜けた。そのまま片付けられていない演台を背にして座り込み、いつでも発砲できるように銃を手に持つ。
「……はぁ、帰宅するか落ち着くまで待つか、悩みどころだな……っっっ!!」
「おっ、今年は賢いのが居るじゃあないか。いいねぇ、気に入ったわ」
急に強い気配を感じたのでその方向に銃を構えてみれば、さっきまで挨拶をしていた生徒会長……いや確か議長だったか、が笑いながら私を見ていた。
「議長?」
「おう、あたしが今年の万魔殿議長、『田中サユリ』だ。よろしくな1年」
…………普通だ!?初めて見た、普通のっていうかよくある苗字の人だ。いたのか、キヴォトスにも。
「相反ユヅキです。よろしくお願いします」
「良い名前だ。将来有望な1年とはもっと親睦を深めたいんだけどな、恒例行事を楽しもうや。あっ、堅苦しいの嫌いだから敬語じゃなくて良いぜ」
お前が止めろ、なんて言えるはずもなく調子のいい先輩が銃撃音と爆発音が鳴り響くこの戦場で話し続けている。いいのかそれで。
「恒例行事なのはまあ、3年らしき奴らの活き活きした顔をみればなんとなく分かるが……」
「あたしが推奨したからな。おっと、仕返しだこの野郎!!……ここ最近はどこぞのクソ野郎のせいで大人しい入学式だったんだよ。反動が来てるんだろ」
「はぁ……どこぞのクソ野郎、か、まあ察するよ」
お前が原因か!?見るところ中々愉快な性格をしている。良くも悪くもゲヘナらしいという意味でだ。
「ユヅキはここからどうする。混ざるか?」
「いや、帰るのも勿体無いのでどこかで観戦させてもらおう」
「おっ、良いね。お前も立派なゲヘナ生だな。じゃあ特等席教えてやるよ。ジャンプ力に自信はあるか?」
「ああ、任せてくれ」
「よっしゃ、じゃあ着いてこい!!」
「っ……速い。が、追いつけないほどじゃない」
議長は華麗な身のこなしで体育館裏に走り始めた。裏口から出るつもりだろうと予想しついていく。流石にまだ裏口にまで勧誘の魔の手は伸びていないな。
「こっからキツイぜ」
見上げれば、絶妙に手を掴めそうなところがある突起をすいすいと駆け上っていっている。ボルダリングか、面白い。興が乗ってきたので少しズルをしよう。黒服からもこの程度なら驚かれるだけで済むだろうとアドバイスされたからな。
「どうだ、追い抜いたぞ」
「ッ!?ハハッ!!なんだそりゃ、
キヴォトスに来た時のことを覚えているだろうか。あの時はそもそも空にいたので楽に飛行が出来たが、訓練に訓練を重ね地上からでも翼を羽ばたかせて飛行することが出来るようになったのだ。ちなみに本邦初公開だ。
2人して体育館の屋根に登り終え、校庭を見下ろしてみれば、体育館内と同じくらい酷い有様になっていた。恐らく別働隊だろう、逃げてきた1年生を捕獲するための上級生が待ち構えていてまたもや乱戦が起きている。ゲヘナの1年はこうやって鍛えられていくんだろうなぁ……肉体的にも精神的にも。
「いい景色だと思わねぇか!!どこを見ても全生徒が自由と混沌の校風の下に暴れまわっていやがる!!クソ雷帝を引き摺り下ろした時と同じくらい最高の気分だ!!」
「おや、その名は口にしていいのか。そもそも噂には聞いていたが貴女が主犯だったとはな」
「おうよ。あたしと、あたしが選んだ精鋭でな。もう居ない奴のことなんて知るかってんだ。アイツならどうせキヴォトスじゃなくても上手くやってるだろ。戻ってきたらもう一回ぶちのめすだけだからな!!」
「なるほど」
ヒナやマコトが真剣に雷帝の遺産を処理していたのはこの人が取り組んでなかったからだろうな。本当に愉快な性格のようだ。ネルを思い出す……
「おっ、もう鎮圧されてきた。やっぱアイツが居るからか」
「アイツ?……ほう、ヒナじゃないか」
「あ?知ってんのか。風紀委員会2年の空崎ヒナ、現時点ですでに来年度の風紀委員長就任が確定している天才だよ。なんといっても強すぎだ。あたしでも勝てねぇ」
砂埃の舞う運動場が少しずつ晴れてくる。倒れ伏す生徒たちの中で唯一無傷で残っているのは、ヒナだった。この時点でこんなにも頭角を現していたとは流石だな。
鎮圧が終わってすぐ次の戦場に向かっている。ワーカーホリック、治っていないじゃないか。
「あーあ。今年はもうちょっと楽しめると思ってたんだけどなぁ、まっ、後輩が育ってんならいいや」
議長のぼやきに目を疑った。一応ちゃんと責任者を遂行しているのか。
「なあなあユヅキ。お前万魔殿に入らないか?単刀直入に気に入った!!」
「ペーペーの私をか?やめておけ、不要な顰蹙を買うだろう」
「そんなことあたしが気にするわけねぇだろって。あたしがいる間、ウチは実力主義だからな!!書類の時点で数人目星はつけてたんだけど、見落としがあったとはなぁ。お前にゃ度肝を抜かれたぜ?それに……
私の肩をバシバシ叩きながら議長はそう言った。私としては所属すること自体は構わないが……ヒナが拗ねるだろうなぁ。先に誘ったのにって。
後先輩、獲物を見る目つきやめてくれ。思わず震え上がりそうだ。
「強さに関しては諸事情あって微妙だ。勧誘自体はありがたい話だが、少し持ち帰らせてもらってもいいだろうか。せめて学園生活に慣れてからにしたい」
「おう!!構わねぇぜ。入ってくれたらラッキーって感じだし。あっ!?違うからな、ちゃんと入って欲しいって気持ちはあるからな!!」
「分かっているとも。意外と細かいことを気にするのだな議長は」
「まあな!!んじゃ、あたしは風紀委員長と話つけてくるからよ。また会おうなユヅキ!!」
連絡先だけ交換して、議長は屋根から飛び降りていった。嵐のような人だったな、いい意味で気持ちのいい人だが。
「ふむ……やはり何人か知っている生徒がいるな。あの長髪は陸八魔アル、ふわふわな髪は棗イロハ、あっちの黒髪は愛清フウカか」
目立つ生徒というのはどこにでもいて、例えばアルはアウトローがまだ染み付いてないのか高校デビューした姿でオロオロ逃げ回っている。イロハは壊れた戦車の裏で寝ているし、フウカは逃げたいのか跳ねている。
「…………暇だな」
そう、暇なのだ。そもそも銃撃戦がデフォルトのキヴォトスで、それを楽しみに観戦など出来るはずがない。
ぶっちゃけて言うとあんまり面白くない。なので入学式はほどほどに、黒服の元へ行くことにした。元々時間は問わず、入学式後に呼ばれていたので良いタイミングだろう。
そうと決まれば話は早い、今回ご用意したのはこちら。『転送装置』でございます。『名もなき神』や『忘れられた神々』の遺産であるオーパーツをふんだんに使用した逸品です。黒服が色々な場所へどうやって行っているのか今まで疑問だったか、この転送装置のおかげでスッキリとした。
指紋、網膜など複数のチェックをクリアしてようやく起動させると、すでに目の前には黒服が座っていた。
「おや、お早いですね……いえ、先に祝辞を。ご入学おめでとうございますパラドックス」
「ありがとう。初日からどんちゃん騒ぎの連続でな。飽きたので帰ってきた」
「クックック、貴方も順調にキヴォトスに染まってきましたね」
「言うな。自覚はある」
ついに黒服にまで言われてしまった。
「早速ですが少し検査をさせていただいても?入学し正式に『生徒』になったことによる『相反ユヅキというテクスチャ』に変化があったのか確認をしたいのですよ」
「ああ、むしろ大歓迎だ。私自身それは気になっていたしな」
検査、といってもいつも通り皮を剥いだり羽をむしったりといった痛いものではなく、全身のスキャン程度にとどまった。これもまたオーパーツの一つなのだろう。
「ふむ……変化無し、ですか。それはそれで興味深いですね。私の仮説では何かしら変化すると考えていたのですが」
「相反ユヅキが強固になったということもないのか。まあこの通り自我もしっかりしているしな」
「現状を鑑みるにこれ以上の変化は見込めそうにありません。当面は学園生活を満喫してください。ああ、それとゲマトリア加入について少し進展がありました」
「ッ!!」
おお、ついにか。流石は黒服だ、こう言った交渉ごとは本当に頼りになる。いやーついに私も正式にゲマトリアの一員に……
「反対派が実力行使も問わないと仰ったので難航中です」
「あんのババァ……!!」
「クックック……まあまあ、予測されていた程度ではありませんか」
反対派なんて1人しかいるわけがない。それに行使できるような力を持つのはアリウスを従えているかつ、限定的に本人もボス級に強くなれるベアトリーチェだけだ。
「ベアトリーチェだけなのか?」
「ええ、マエストロ、デカルマニー、ゴルゴンダは歓迎すると仰っていましたね。まあ我々は同じグループに所属しているとは言え味方同士ではありません。己が探究を邪魔される事態になれば……ねぇ?」
「本当に、底意地が悪いな黒服。まあ私もそのほうが手っ取り早くていいが」
要は私が3人に、彼らの研究にとって相反ユヅキという存在が有益であると示すことができたのなら、ベアトリーチェ排除の方向に舵を切ってくれるかもしれない、という事だろう。だが私自身、まだ自分の価値を測りかねている。恐らく黒服は私の価値をほぼほぼ正確に把握しているからこの提案をしてくるはずだ。が、それは私の研究成果ではない。
「まあ、まだ一旦保留だな。プレゼンが出来るほどの資料もない」
「おや、そうですか。パラドックスが決めたことでしたら異論はありません」
「……黒服は少し、私に対して甘い気がする」
「いえいえ滅相もない。
「はぁ……その確信に至るまで、私はどれほど時間をかければ辿り着けるだろうかな」
「クックック!!研究者肌ですが、まだまだ新参……そうやすやすと私の領域に来られては立つ背がありませんよ。パラドックスのペースで構いません」
なぜだろう、スーツという格好も相待って執事に見えてきた。黒服だぞ?まあ現在1番良くしてもらってるから何もいうことはないんだけどな。
「ああそうだ、一つ相談がある」
「お聞きしましょう」
「食の探究、風紀の維持、学園の維持……どれが面白いと思う?」
「……なるほど。やはりというべきかモテますね。貴女の研究の事を加味して申し上げますと学園の維持でしょうか。
「確かに。ヒナには悪いが、自己を優先させてもらうとしよう」
「そして食の探究。こちらについては……そもそも選ぶ気があるのでしょうか?」
「……ぶっちゃけていうと無いな。面白さ、という点ではピカイチかもしれないが犯罪行為に手を染めて街中を歩きづらくなるのも度し難い。じゃあやはり万魔殿だな。ありがとう、参考になった」
「いえ、この程度でしたらいつでもお聞きください。ああそうだ。遅くなりましたが、制服姿、よくお似合いですよ」
「世辞でも嬉しいよ。では失礼する」
というわけで、私は議長に連絡をする……訳でもなくそのまま自宅へと転送装置で帰宅した。
「ありえない話だと考えていましたが、この感情を否定することはできませんね。この私が、誰かに