輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
某都内の私立高校で、俺たちは剣道部に所属していた。
明日は都内の剣道大会だ。勝利祈願をするため、俺たち兄弟は街のはずれの神社に来ていた。
「ふふ。雁哉は必ず大会の前日お参りするね?」
俺の弟、カナトがそう笑って声を掛けてくる。
「ここはお前の実家みたいなもんだからな。お前を勝たすために神仏の加護が働くんじゃないか?」
「いやいや、仏様はお寺にしかいないよ? ここは神社だから。」
そう、もともとこの神社は弟のカナトが住んでいた。こいつは六つの時、両親を不慮の事故で亡くした。
引き取り手もおらず、養護施設に行くかと思われたが、俺の曽祖父、輝利哉がどういうわけかこいつを養子に引き取った。
なぜそんなことをしたのか、どういう縁があったのか、未だに俺は知らない。
けど関係ない。俺はこいつを実の弟のように思っている。俺たちは兄弟だ。その事実だけで充分だった。
「でもさ、炭彦君から息の仕方を教わってから、僕たち負けなしだよね。今更お参りする必要があるの?」
「その炭彦と会えたのだって、ここでお参りした後の帰り道で偶然会ったようなものだろ? だからだよ。」
「ふ~ん。じゃあ感謝のお参りってわけだね。」
もう日が暮れる。俺たちは帰ろうと、鳥居を潜った。
「?」
なんだ? 勘のようなものが働いた。嫌な予感という奴だ。俺は周囲を警戒する。
すると、林の中で何かが動いたような気がした。
「カナト! 走るぞ! 林に誰かいる!」
「え!? 不審者!? こっわ~。全力で逃げないと!」
俺たちがその場を急いで立ち去ると、暗闇の中、人影が追いかけてくる。明らかな悪意を感じる。
「けけけ! ガキ二人か! ついているな!」
絶対ヤバイやつだ。猟奇殺人犯かもしれない。俺たちは高校の体力テストでの短距離走も長距離走も満点評価だが、そんな俺たちを迫りながら追走してくる。
「どうしよう! 雁哉!」
「どうもしない! 人気のあるところまで走り続けろ!!」
もう数キロメートルは走ったはずなのに、街には明かりが見当たらない。いや、そもそもここはどこだ? まるで見覚えがない田舎道だぞ!?
「荷物捨てる!?」
「いや、どうせ捨てるなら追いつかれそうなタイミングで投げつけろ! そうするしかない!!」
こいつの体力はどうなっている!? 駅伝選手か何かか? まるで息が乱れる様子がない。
「さあ、もう少しで追いつくぞ!!」
「雁哉!!」
「今だ投げろ!!!」
俺たちは鞄を投げつける。教科書やら部活の道着やら入ってるそれは中々の重さだ。足にぶつければひっくり返っても可笑しくない。
だが、そいつは俺たちの荷物を軽々と蹴り飛ばした。
「っ!?」
「まずは一匹!!」
そいつの手が俺に迫る。そいつの腕は鋭利な爪が生えていた。人間じゃないのか!?
しかし、その瞬間、長身の黒ずくめの格好をした男が目にもとまらぬ速さで通り過ぎ、鮮血が舞う。
「ぐぎゃ!?」
その化け物の頸が遠くに飛んで行った。
「え!? まさかの首ちょんぱ!? そこまでする!?」
「いや、それよりもカナト。あれを見ろ。」
俺たちは、助けてくれたであろう長身の男を見る。額に宝石のような装飾品がついた鉢巻きをつけている。
指先はカラフルなマニキュアらしきものを塗っていて、全身は忍者のコスプレのような恰好をしていた。ノースリーブだけど・・・
そして何より、目を引くのが、馬鹿でかい出刃包丁のような刃物を2本持っていることだ。
「じゅ、銃刀法違反!?」
「いや、首切り落としたことの方が驚きだろ。殺人の方が罪重いから。」
俺が冷静に突っ込みを入れると、目の前の男は俺たちを見る。雲が晴れてきたのか、周囲が月明りで見えやすくなる。
「なんだ? 派手にハイカラな洋装したガキ共だな。しかも命助けてやったってのにひどい言いがかりじゃねえか。まあいい。お前ら何者だ? なぜ呼吸が使える? 詳しく話せ。」
「呼吸?」
俺たちは質問の意味がわからなかった。しばらくいろいろ尋問される。
年齢、出身地、身分等々・・・そして名前を聞かれる。
「・・・産屋敷です。あなたは?」
「は? なんでお前らお館様と同じ苗字なんだ? まあいい、このまま連行する。変な真似するなよ?」
俺たちは、この謎の男に拉致られた。荷物を回収したら、俺たちは両脇に抱えられ、すさまじい速度で連れてかれた。
俺達は事態が呑み込めず、あっという間に時代劇の殿様屋敷みたいなところに連れてかれた。
朝になった。非常に眠いが、この屋敷の主が俺たちと話がしたいということなので、屋敷の奥に案内される。
どうして、こうなったのか。なぜ俺たちはここに来ることになったのか、今でもわからない。
現在、俺たち二人は大会で着る予定だった剣道着のまま広い屋敷の和室にいた。
なんで制服から着替えたかと言うと、派手で目立つからと言われた。解せぬ。
目の前には、上等な着物を着た若い成人らしき男性がほほえみを浮かべ座っている。
額と左目周辺にただれたようなあざがあるその男性は、落ち着いた声色で話し始めた。
「二人とも。よく来てくれたね。産屋敷邸に。私はこの家の当主、産屋敷輝哉。二人のことは天元から少しばかり聞かせてもらったよ。」
産屋敷と名乗るその男性は穏やかに挨拶をした。俺たちがあっけにとられていると、後ろから声がかかった。
「おい、お館様の御前だぞ。お前らも派手にほうけてないで名乗ったらどうだ。」
後ろの大男は宇随天元と言ったか。俺たちが黙っていると不機嫌そうにそう言い放つ。
流石に黙ったままではどうしようもないので俺は目の前の男性にお辞儀をした。
「すみません。少し驚いてしまいました。俺の名前は雁哉・・・産屋敷雁哉と申します。」
後ろの大男から刺すような視線を感じる。警戒されているのだろうか。
俺は頭を上げると、隣でわたわたしているやつを指さし口を開いた。
「で、こっちがカナトです。こいつは六つの時に俺の家に養子に入ったので血はつながっていませんが弟です。」
「お、弟のカナトです! よっよろ・・・よろしくお願いします!」
「うん。よろしくね。カナトの方は緊張しているのかな?」
「あっ、えっと、ごめんなさい!」
「落ち着け。あとは俺が全部話すから・・・」
隣で勝手にてんぱってるカナトをなだめて、俺たちはその場に座った。
その様子にうなずいた後、目の前の男性は一呼吸置いた。
「私の頼みでこの場に来てくれて嬉しく思うよ。君たちにはいくつか聞きたいことがあるのだけど教えてくれるだろうか。」
俺はわずかに身構えたが、うなずきだけ返して了承した。
「ありがとう。もうすでに気づいている通り、私と君たちの苗字は同じなんだ。私たち産屋敷の家系は、代々鬼という化け物を滅することを使命としている。なぜなら、私たちは同じ血筋から鬼を出したことで呪われてしまい、その結果、一族はみな三十年と生きられないからだ。」
可能な限り冷静を装ったが、今の話を聞いて自然と体がこわばってしまった。
「君たちに聞きたい。私たちと同じ苗字の人間は、鬼殺隊が設立した後、ほとんど見聞きしたことがない。君たちは一体どこの出自のものなんだろうか。」
しばらく沈黙が続いた。目の前の輝哉さんは穏やかな笑みを浮かべているが、わずかに眼光が強くなったような気がした。
加えて、後ろの宇随という男から注がれる視線も徐々に鋭くなる。
俺は現時点で疑問に思っていることも含めて確認するいい機会だと思い、一言断りを入れた。
「それに答える前に、一つ確認したいことがあります」
「なんだろうか?」
「今年は西暦何年ですか?」
俺の前後にいる二人から、戸惑いの気配がする。この状況でぽかんとしているカナトはある意味すごいな。
やがて輝哉さんは落ち着きを取り戻し一呼吸置いた。
「今は大正元年だが、西暦でいうと1912年にあたるね。」
その回答に、俺は顔をしかめた。隣のカナトも困惑している様子だった。
「それはおかしいですね。今年は西暦2012年のはずなんですが・・・」
俺の発言にさすがの輝哉さんも息を飲み、額に手を当てる。まるで信じれられないというように。
「おい、雁哉とか言ったか。派手にわけわからねえこと言ってんじゃねえぞ。なんでお前たちと俺たちの認識の差に100年も食い違いがあるんだ?」
「俺の方こそ聞きたいですよ。そもそも街並みの様子といい、皆さんの服装といい、文明水準にも乖離があること自体おかしな話なんです。」
宇随という男から指摘が入るが、正直俺にも何が何だかわからない。
その様子に隣で物言いたそうなカナトが口を開いた。
「もしかしてタイムスリップ?」
「カナト、それは漫画の読みすぎだ。科学的に説明がつかないだろ。」
「えぇ~。そうかなぁ。相対性理論では光の速さで移動すると周囲よりも時間の進みが遅くなるっていう仮説があるし、もしかしたら・・・」
「どうやって俺たち二人が光の速さで移動するって言うんだ・・・ありえないだろう・・・」
「そっか。ごめん・・・」
俺たち二人の冗談めいた議論に、輝哉さんも目を丸くする。やがて、口元を覆い、わずかに笑い声を漏らしていた。
「すまない。二人の様子が面白くてね。でも、そうだね。本当に雁哉の言うことが事実なら、君たち二人は時代をさかのぼったのかもしれないね。」
「お館様! このような戯言を信じるのですか!?」
「鬼や呪いだってあるんだ。もしかしたら神仏の気まぐれで彼らは神隠しにあったのかもしれないよ。もしくは、これは私たちにとっての吉兆なのかもしれない。」
そういうや否や、輝哉さんは居住まいを正して、笑いを止める。
「君たちの時代には鬼はまだいるのかい?」
まじめな声色でそう尋ねられるので、俺も調子をもとに戻す。
「いえ、少なくとも俺は生まれてこの方、そんなものは見たことも聞いたこともありません。せいぜい子供のころに曽爺さんが鬼の昔話をしてくれたくらいです。」
「君の曽おじいさまの名前はなんて言うんだい?」
「・・・輝利哉ですね。曾爺さんの名前は輝利哉といいます。」
俺がそういうと、輝哉さんは目を丸くしたが、すぐに心底嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「そうか。そうなんだね。それはよかった。本当によかったよ。」
俺は何のことかわからず首を傾げるしかなかった。そこだけは隣のカナトと同じ反応をしていた。
俺の回答に満足したのか、輝哉さんは微笑みながら話をひと段落させた。
「ありがとう。今日は有意義な話ができたよ。長話はこのあたりにして、二人ともしばらくはこの屋敷に泊まっていきなさい。帰りの目途が立つまでいつまでも居ていいからね。この後部屋の用意をさせるから。」
「お館様!? よろしいのですか!? このような素性の知れない者どもを屋敷に住まわせるなど・・・!」
「いいんだ天元。私は彼らが赤の他人のようには思えない。そんな気がするんだ。このことは、次の柱合会議でほかの子供たちに私から伝えよう。どうか納得してくれないか、天元。」
「・・・! ・・・御意。」
突然の輝哉さんからの申し出に、俺たちも驚いたが、有無を言わさぬ笑顔を向けられ、了承するしかなかった。
こうして俺たちの、鬼殺隊での生活が始まった。
続く