輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話   作:科学大好き人間

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兄の雁哉君視点です。


12話 蝶屋敷

「カナト・・・お前いつになったら目を覚ますんだよ・・・」

 

 

俺は今蝶屋敷の個室にいた。ここは重篤者の治療部屋でカナトがベットに横たわっている。

 

はじめ、鎹烏から報告を聞いたときは驚いた。

 

花柱のカナエさんの任務についていったら、そこで上弦の弐と遭遇。

 

戦闘開始早々、花柱は血鬼術を喰らい、肺を損傷して戦闘不能。

 

妹のしのぶが負傷した姉を、町中の藤の花の家紋の家に緊急搬送し、治療。

 

その間、カナト一人で上弦の弐と戦闘し、その後頭を打ったのか意識不明の重体で気絶。

 

結局、上弦の弐は倒せたのか、逃げたのか、それすらもわからないとのことだ。

 

カナトが殺されずに済んだってことは、倒したってことなのか?

 

それとも運よく、日が昇って相手が逃げた?

 

いや、相手が生きてたなら、なぜ気絶したカナトにとどめを刺さなかった?

 

カナトが目を覚ませば、全て明らかになるのだろうが、かれこれひと月はこのままだ。

 

もしかしたら、頭を打ったことで脳に損傷を負ったのか。

 

このまま、目を覚まさなければ、俺は何のために鬼と戦い続けるのだろうか・・・

 

俺にとって、現代に残してきた産屋敷の家族と恋人、そして弟のカナト。それだけが、生きる目的だというのに・・・

 

 

「失礼します。代わりのお飲み物をお持ちしました。」

 

 

俺が悶々としていると、部屋へ小さな女の子が入ってきた。

 

 

「ああ、すまない。ええと・・・」

 

「はい。一か月半ほど前からお世話になっているなほと申します。」

 

「あ・・・いや・・・君たちのことは把握してるんだが・・・如何せん顔がそっくりすぎてな・・・君はなほか。」

 

「はい。髪型で覚えていただけるとわかりやすいかもしれません。」

 

 

カナトが上弦の弐と遭遇する半月ほど前に、カナエさんが鬼の被害に遭った遺族の子供たちを引き取った。

 

 

それが、なほ、すみ、きよの三人なのだが、三つ子なのか顔がそっくりすぎる。未だに区別がつかない。

 

たった半月とはいえ、カナトはこの子達になつかれていたのを覚えている。

 

しかも、初日から三人の区別がついていたそうだ。すさまじい観察眼だ。

 

 

「あの・・・お二人はご兄弟とお聞きしました。」

 

 

なほの髪型を覚えようとじっと観察していたせいか、不審に思われてしまっただろうか。

 

 

「ああ・・・血はつながっていないが、カナトは弟だ・・・」

 

「そうですか・・・あまり根を詰めていらっしゃると持ちませんよ? 気分転換されたらどうですか?」

 

「気分転換・・・」

 

 

よほど今の俺は辛気臭い顔をしていたのだろうか。幼い女の子に心配されるほどに。

 

 

「わかった。一度鍛錬で道場を借りる。許可は自分で取るから気にしないでくれ。」

 

「鍛錬ですか。息抜きはされないのですか?」

 

「息抜きか・・・これといった趣味もないからな。俺のことは気にしないでくれ。

 もし、カナトが目を覚ましたら教えてくれると嬉しい。」

 

 

そう言い残し、俺は部屋を後にした。

 

花柱のカナエさんは上弦の弐との戦闘後、柱を引退した。緊急柱会議の時にお館様に直訴し、自分から退いたようだ。

 

上弦の弐の血鬼術のせいで、なんでも肺胞が壊死したらしい。

 

全集中の呼吸が使えず、鬼狩りに支障が出るため、仕方ないだろう。

 

今では、蝶屋敷での看護担当だ。男性隊士達は喜んでいるようだが、そのたびに、しのぶから冷たい目線を浴び、みな震えあがっている。

 

まあ、カナトが抜けた穴を、カナエさんが埋めてくれるのはいいことだ。

 

加えて、なほ、すみ、きよの三人もアオイの仕事を手伝っているようで、以前より蝶屋敷の労働力不足は改善したらしい。

 

カナトの自作した洗濯機と冷蔵庫も十二分に有効利用されているようだ。

 

しかし、カナトの科学の知識については、誰も代わりになれない。

 

俺が今受け持ってる元隠の遠距離支援部隊も、結局カナトが作ってくれる火器頼みだったから、今は活動を休止している。

 

雑魚鬼の掃討任務に限定すれば、すでに100件以上の実績がある。死傷者も今のところ誰一人いないため、結果としては悪くない。

 

ようやく俺たちの計画も次に進めると思っていたが、肝心のカナトがいなければ元の木阿弥だ。

 

やがて、俺はしのぶが作業する薬剤室にたどり着き声をかける。

 

 

「すまないが、道場を借りる。構わないか?」

 

「! 間君ですか。ええ、問題ないですよ。・・・今日も鍛錬を?」

 

「ああ、月の呼吸の鍛錬を始めてから、一日1万回素振りをするのが日課なんだ。もう癖みたいになっていてな。」

 

「そうですか・・・使い終わったら教えてくださいね。」

 

「ああ・・・」

 

 

現在、蝶屋敷の主人はしのぶだ。半月ほど前、下弦の肆を討伐し、蟲柱の任命を受けた。

 

よって、この屋敷の道場を使う際は、しのぶの許可が必要になる。

 

俺がさっそく向かおうと部屋を出る際、急にしのぶから声をかけられる。

 

 

「すみません。呼び止めてしまって・・・なんと言ったらいいのでしょうか・・・」

 

 

しのぶはばつが悪そうにうつむく。そのしぐさでこのひと月何度も聞いた話だと悟った。

 

 

「俺は何も気にしていない。だから、いちいち謝られても困る。」

 

「し・・・しかし・・・私が姉さんでなく稲葉君を優先していればこんなことには・・・!」

 

「何度も同じことを言わせるな。負傷者を優先的に避難させるのは、隊士として当然のことだ。

 

 お前はその役割を忠実に果たした。そしてカナトもしんがりを忠実に務めた。

 

 その結果、あいつが目を覚まさなくなったのは・・・運が悪かっただけだ。いろいろとな。」

 

「で・・・でも・・・」

 

「はあ・・・お前は俺に謝ることで気持ちを楽にしたいだけだろ」

 

「! そんなこと・・・!」

 

「じゃあこれ以上謝るな・・・俺の堪忍袋が切れないうちにそれをやめろ・・・」

 

 

しのぶの目に涙が浮かんだ。やがてそれは零れ落ちる。俺はそれを見て猶更苛立ったが、冷静さを装うため私憤を収めた。

 

 

「しのぶ・・・俺とカナトは・・・お前ら姉妹みたいなものだ・・・

 他に代わりはいない・・・大切な存在だ・・・もちろん失えば悲しいし辛いだろう・・・

 だがな、勘違いするな。たとえ、お前がカナトより実の姉を優先したからと言って、俺はお前らを恨むことはない。

 何よりも・・・カナトがそれを選んだんだ・・・その選択を間違いだと言われる筋合いはない。

 俺はあいつの決断を兄として誇りに思っている。だからもう謝るな。泣くな。悪かったと思うな。

 それでもお前自身が、俺たちに罪悪感を感じて苦しいって言うのなら、一人でも多く人を助けろ。傷ついてる人を癒せ。人を守れ。

 それが俺と・・・おそらくあいつがやろうとしていることだ。

 その気持ちを汲み動いてくれるなら、俺からはもう何も言わん。」

 

「・・・はい。」

 

 

はあ・・・らしくもない偉そうなことを言ってしまった。だが、こうでも言わないとこいつずっと謝り続けるだろう。

 

そうなればいよいよ俺の我慢が限界に達する気がする。

 

とにかく今はできることをやるしかない。うじうじしててもしかたない。そもそもあいつが起きてしまえば何も問題は・・・

 

 

 

「みなさーーーーーーーーーん!!! 稲葉さんが起きましたよーーーーーーーー!!!!!」

 

 

しのぶと俺はほぼ同時に部屋を飛び出した。

 

病院の廊下を走るなとガキのころ散々注意を受けたが今は知ったことではない。

 

俺たちは、カナトがいる部屋へと一目散に向かった。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 




先日11話までまとめて投稿したのですが、ご親切に誤字脱字を直してくれた方がいました。本当にありがとうございます。人生初の投稿だったので、読んでくれる人がいたのが驚きです。もっと面白くなるよう頑張りたいと思います。
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