輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「・・・随分大掛かりになったな・・・」
「え・・・? そう? いや~。まだまだこれからだよ~。もっともっといろんなもの作る予定だから!」
現在、僕は輝哉さんから許可をもらい作った、鬼殺隊直営の生産拠点を雁哉にお披露目中だ。
「・・・ちなみにあれは・・・?」
「うん? もしかして、あのハーバーボッシュプラントのことかな?」
「・・・・・・ええと・・・つまりあれか・・・アンモニアの量産をしてるのか。」
「おお~。流石雁哉。物分かりが早くて助かるよ!」
「いや・・・正直学校でならった以上のことはわからん・・・それであれか? アンモニアから何を作るつもりなんだ? 肥料でも作るのか?」
「いやいや、火薬を作るんだよ。鬼殺隊直営で肥料作っても使う人がいないと思うよ?」
あれ? 雁哉が固まってしまった。僕は何かおかしなこと言ってしまっただろうか。
「すまん・・・もう少しわかりやすく教えてくれ・・・」
「えっとね。つまりアンモニアを空気と混合して、白金つまりプラチナ触媒を使って一酸化窒素を合成するんだ。
で、一酸化窒素をさらに酸化させて二酸化窒素にする。
そのあと水と反応させて、硝酸を作るんだ。
そしたら硝酸と貝殻から硝酸カリを量産して、硫黄や炭と混ぜて黒色火薬を作る。
追加でブドウ糖を足すとさらに威力があがって・・・」
「わかった、もういい。つまりアンモニアから大量に火薬が作れるってことはわかった。説明助かった。」
「ちなみに大量の硝酸と硫酸とグリセリンがあればダイナマイトの原料であるニトログリセリンも量産が可能で・・・」
「わかった。わかったから・・・とにかく火器の原料については、もう心配がいらないってわけだな?」
「そうそう。流石雁哉だねぇ。なかなかここまでわかってくれる人がいないからさぁ。雁哉とは本当に話しやすいよ~。」
話を進めるごとに僕はついご機嫌になる。やっぱり雁哉は僕の頼れるお兄さんだ。
僕が科学の話をいくらしても、他の隠のみんなは理解してくれないから、正直ずっともの足りなかったんだ。
やっぱり同じ話題を共有してくれる人がいるとモチベーションあがるね。
ただ、話を進めるにつれて、僕とは対照的に雁哉がどんどん憔悴していってる気がする。
どうしてだろう。やっぱり任務が忙しくて疲れてるのかな。
じゃあ、名残惜しいけど、この後の話は手短に済ませてあげなきゃね。
「ごめん。疲れてるのに無理に見学に呼び出して・・・もう少しで終わるからもうちょっとだけがんばってね。」
「ああ・・・なるべく簡略化した説明で頼む・・・」
続いて、別の生産現場を案内する。
「こっちは、主に有機合成をメインに行うプラントだね。
今後いろいろ増設するつもりだけど、今は医療用の使い捨て手袋の素材を作ってるね。
ポリ、ニトリル、塩化ビニル、ゴムあたりはもう量産できるようになってるよ。
蝶屋敷では今まで布製の手袋を使ってたけど、やっぱり作業効率や精密性、あと血液感染のリスクとか考えると必須かと思ってね。
それと、つい最近になって、抗生物質の一種であるサルファ剤も少量だけど作れるようになったかな。
これだけは、今も僕が調製して作ってるけどね。
どうしても任務中に怪我人が出ると、傷口にばい菌やら雑菌とか入って重症化する隊士もいるからね。
あと、感染症で肺炎とかが蝶屋敷でパンデミック起こすと大問題だから必須だと思って作ったんだ。
ちなみに、ここ以外にも別の生産拠点はあってね。
水車を利用した発電設備による鉛蓄電池の充電とか、製鉄炉のふいごを動力により自動化したりとか、他にも見せたいものが一杯あるんだけど、一旦今日はここまでだね。
忙しいのに、最後まで付き合ってくれてありがとう。雁哉。」
「ああ・・・説明助かった・・・この調子で引き続き続けてくれ・・・」
「うん! 来月にはまた新しいもの作って待ってるね!! それじゃあまたね!!」
僕の説明が終わると、雁哉はとぼとぼと帰っていった。
本当に疲れて顔色も悪いように見えたから、しっかり休んでほしいと思った。
その後、今日までの生産ノルマが終了していることを確認し、僕は蝶屋敷へと向かった。
「それで、間君には今話したような説明をしてきたと。そういうことですか稲葉君?」
「うん。話を聞いてくれるからつい嬉しくなっちゃってね。予定の倍ぐらい話し込んじゃったよ。」
現在、蝶屋敷の客間で、しのぶさんと一緒にお茶の休憩をしている。
僕は雁哉と有意義な時間を過ごせたことを話しご機嫌だったが、しのぶさんの顔は引きつっていた。
「稲葉君・・・前から言おうと思ってたのですが・・・いいですか?」
「うん? なんだい? しのぶさん。」
「まず、前提として、他のみんなはあなたのように博識ではないんですよ。
間君はあなたのお兄さんなので、多少我慢してくれているみたいですが、あなたの話はとても難しいのです。」
「ええ・・・そうなのかなぁ。」
「そうですよ・・・間君がかわいそうです。私だって、今稲葉君から説明されたことの半分もわからないんですから・・・」
「ええ!? そうなの!? しのぶさんなら、医学と薬学なら僕より詳しいしわかるんじゃないの!?」
「いや・・・わかりませんよ・・・少なくとも抗生物質やらサルファ剤やらは稲葉君から初めて聞かされましたし・・・
はあ・・・あなたは呼吸の才能だけでなく、薬学や化学の知識も抜きんでてるようですね。
私の方が先輩なのに・・・稲葉君と話してると自信なくしてしまいますよ・・・」
「ええ・・・そんなぁ・・・」
しのぶさんから予想外の反応が返ってきたため、僕はとても落ち込んだ。
そうなんだ・・・僕の話し方がおかしいから、みんなわからないだけだと思って今まで生きてきたけど・・・
そうか・・・中身に問題があったのか・・・
確かによくよく考えたら、サルファ剤の開発の経緯って、1935年のドイツのとあるお父さんが娘さんの敗血症を治すのに投与したのがきっかけだっけ・・・
確かに、しのぶさんが知るはずもないか・・・
きっと僕は、しのぶさんからはよくわからないことを嬉々として語る頭のおかしい人だと思われているんだろうなぁ・・・
「今までごめんねしのぶさん・・・僕のせいで何度も不快な思いさせたよね・・・今度から、蝶屋敷に来るのは最低限にするから許してほしい・・・」
「え!? ちょっと・・・なんでそうなるんですか!? 私そんなふうに思ったことなんて一度もありませんよ!!」
「え? でも、僕の話は分かりにくいって・・・」
「いやいや!! 内容が難しいだけで他に問題なんてありませんから!!
確かに時々・・・こちらがドキッとするような言葉を言ってくることがありますが・・・決して不快になんて思っていませんよ・・・!」
「本当に・・・?」
「ほ・・・本当です! だから今後も蝶屋敷に足蹴く通ってください!!」
そこまで言い切ると、しのぶさんは僕の手を握ってくる。とっさの行動だったのか、すぐさま手を放してしまったが。
「しのぶ様・・・稲葉さんと二人で何をしていたのですか・・・?」
気が付くと、客間のふすまが開いており、そこにはアオイちゃんが立っていた。
心なしか、いつもより目線が冷たい気がする・・・
「ア・・・アオイ!? いつからそこに・・・」
「そうですね・・・『こちらがドキッとするような言葉を言ってくることがありますが・・・』のところからですかね・・・」
「ちょ・・・! よりによってなんでそこから・・・!?」
「もう! しのぶ様ばかりずるいです!! もう休憩時間終わってますよね!?今度は私が稲葉さんとお話ししますから!!」
「アオイちゃん? どうしてそんなに怒ってるの?」
「稲葉さんには関係ありません!! しのぶ様!! 部屋から出てってください!!」
「アオイ・・・一旦落ち着いて・・・これには深いわけが・・・」
僕が事態を呑み込めない間に、しのぶさんは部屋から追い出されてしまった。
「稲葉さん! お疲れ様です! 今日のお仕事大変でしたか?」
一転して、アオイちゃんは満面の笑みで僕に話しかけてくる。
「あの~アオイちゃん。しのぶさんを無理矢理追い出してよかったの? あとで喧嘩になるんじゃ・・・」
「稲葉さんは気にしなくても大丈夫ですよ? それよりも稲葉さんのお話が聞きたいです!」
なんだろう・・・一瞬有無を言わさない圧がアオイちゃんから発せられたような気がするけど・・・
まあいいか。どうせ僕が考えてもわからないだろう。
「今日は雁哉を生産拠点に呼んで、工場見学をしてもらったんだ。」
「そうなんですね! 月柱様とはどんなお話をしたんですか?」
しのぶさんと全く同じ質問をされたので、僕は反射的にしのぶさんにした説明と全く同じ内容を話した。
すると、みるみるアオイちゃんの笑顔が消えていく。
「ごめんなさい・・・あまり難しいお話はわからなくて・・・」
「ああ、むしろごめんね。しのぶさんが言うには、僕の言う話の内容は難しいんだってさ。
意味不明なお話ばかりしてごめんね。僕と話したって、退屈でしょうがないよね。」
「そ、そんなことありませんよ!! 稲葉さんのお話は、難しいですけど面白いです!
私としては、モノづくりの原理よりも用途についてお話してくれれば、もっと分かりやすくていいと思います!
ですから、退屈なんておっしゃらずに、どんどんいろんなお話をなさってください!
私、稲葉さんとお話できるのを楽しみに毎日蝶屋敷のお仕事頑張っているんですよ?」
そうか・・・化学反応の経路とか、構造の機構についてばかり話すから分かりにくいのか・・・
よし。アオイちゃんのおかげで、これからはもう少しわかりやすい話ができそうだぞ・・・!
「ありがとう。アオイちゃん。それじゃあ僕の話聞いてくれるかな?」
「もちろんです! もっと一杯お話しましょう!」
それから僕は、今後の生産拠点の増築の話と、その狙いについて話した。
今後作るものが何に使えるのかを意識して話したことで、アオイちゃんもよくうなずいてくれるようになった。
そうこうしているうちに時間が経ったのか、客間のふすまが開いた。
「アオイさん・・・そろそろ戻ってきていただいてもいいですか・・・?」
ふすまから、なほちゃん、すみちゃん、きよちゃんが顔を出す。
何だか困ったような表情を浮かべていた。
「あ! もうこんな時間!! すぐに晩御飯作らないと!!
稲葉さん、私行きますね。また蝶屋敷に来てください。約束ですよ?」
「うん。また来るよ。」
僕の回答に満足したのか、アオイちゃんは部屋を出ていった。
僕も自分の家に戻ろうと席を立ったが、なほちゃん、すみちゃん、きよちゃんが物言いたそうにこちらを見つめている。
「どうしたの?」
三人はひそひそと話し合った。
「稲葉様は、しのぶ様とアオイさん、どちらとお付き合いされているのですか?」
「ん? 僕はどちらともそういう関係じゃないよ。どうしてそう思うんだい?」
僕の回答に、再び三人はひそひそと話し合った。
「稲葉様は、気づいていらっしゃらないのですか?」
「ん? 何に?」
続けての質問の意図がわからず、僕は逆に聞き返す。
三人から、「えぇ・・・」と声がしたが、気にせず返事を待った。
「あ・・・はい・・・何でもないです・・・今の質問は忘れてください・・・」
「? そう? それじゃあまた来るね。」
そうして僕は蝶屋敷を後にした。
最初こそは、三人の質問の意図を考えていたが、わからないと判断するや否や、明日の生産のための準備について考えを巡らせた。
続く
冒頭のカナト君が言っていたハーバーボッシュ法については、まんまDr.STONEのゼノの話と同じ内容ですね。まあカナト君には独裁者願望なんて微塵もないのでご安心ください。ちなみに今年の一月からDr.STONEのアメリカ編がアニメでやってるので、興味を持った方は是非ご覧ください。ちょうど鬼滅の連載終了後にジャンプで連載してた話だったと思います。当時の私は激ハマりしました。理系の方には特にお勧めです。ちなみにカナト君はDr.STONEの千空のように恋愛に興味がないわけではありません。ただ情緒が発達しきってないだけなんです。生温かい目で見守ってあげてください。