輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「始まりの呼吸の剣士の子孫・・・ですか?」
「ああ、つい先日身元を特定したんだ。今度、あまねと一緒に彼らに会いに行ってほしい。頼む雁哉。」
毎度おなじみ、ここは産屋敷邸の一室、目の前には輝哉さん。
ある日突然、そのようなことを頼まれた。
「どうして俺も行くべきだと?」
「そうだね。勘かな?」
「勘・・・なら行った方がいいですね。」
代々、産屋敷家当主は先見の明ともいうべき勘が働くことがある。
俺も産屋敷の血を引いてるからか、輝哉さんほどではないが、このような鋭い勘に助けられることが多いのだ。
「まあ、勘もあるけど、一番は君が今代の月柱だからかな。今回会いに行ってほしい子たちは、正確には初代月柱の子孫なんだ。
なんでも初代月柱は、鬼殺隊に入る前に妻子がいたそうで、おそらくその時の子どもから今回の子たちまで途絶えずに生き残っているのだと思う。もしかしたら、君の月の呼吸が使えるかもしれない。」
それを聞いて、体がこわばる。胃が熱くなる。いや、落ち着け。少なくともその子たちに罪はない。
会う際は冷静に対処し、鬼殺隊に引き込まなくては・・・
「承りました。一切お任せください。」
「うん。よろしく頼むよ。」
後日、俺は輝哉さんの奥方、あまねさんと一緒に頼まれた子たちに会いに行くことになった。
しかし、いざ会いに行ってみると、こちらの自己紹介と来訪の旨を伝えた段階で、双子の兄の方に罵声を浴びせられた。
俺はひとまず、両親のいない二人を鬼殺隊で保護しようと提案するが、それでも彼の意思は変わらなかった。
「いいから帰れよ!! どうせ俺たちのことをていよく利用する気なんだろ!?
じゃなきゃ、俺たちみたいな貧乏な木こりにそんな都合のいい話持ってくるわけないじゃないか!!
先祖が剣士だからってなんだ!? 子供の俺たちに何ができる!?
せいぜい犬死と無駄死にが関の山だろ!?
この話はこれで終わりだ!! 俺たちはお前らの相手なんかしてる暇ないんだよ!!」
俺の対応に問題があったのだろうか。いや、少なくとも、元月柱への嫌悪感は一切表には出さなかったはずだ。
しかし、これでは何度来訪しても無駄だろう。
俺は作戦を変えることにした。
まず、その日はおとなしくあまねさんと帰った。正確にはあまねさんにだけ帰ってもらい、俺は近くで潜伏した。
そして、彼らが仕事に戻った後、双子が離れ離れの作業に移った際に、すかさず弟の方に声をかけた。
「驚かせて済まない。どうしても君の方から事情だけでも聞いておきたかったんだ。」
俺が姿を現した際、弟君は肩をびくつかせていた。
しかし、話を聞くなら、こちらからしか手はないだろう。
「君、名前は?」
「時透・・・無一郎です。」
俺は彼の木こりの仕事を手伝った。
本来斧で木を切ってるそうだが、時間短縮のため、指示された木を片っ端から刀で切り倒した。
そうして浮いた時間で彼から話を聞きだすことにした。
なんでも、彼らの両親はとても心優しい方々だったが、母親の方が無理して体を壊し、その母のために薬草を取りに行った父親は事故で亡くなったそうだ。
たった一日で両親を亡くし、残された彼らは二人で木こりの仕事を続けるしかなかった。
当然、子供二人では生活は一向にラクにはならず、加えて無一郎は要領が悪いのか、家事も仕事もあまりうまくはできないらしい。
その積み重ねで兄には負担ばかりかけている、心苦しいと、そんな無一郎の心の吐露を聞いた。
「そうか・・・じゃあまずは、兄さんにラクをさせてやらないとな。」
「でも、どうやって? 僕は木を切る仕事も家事もうまくできないのに・・・」
「君に全集中の呼吸を教える。」
「全集中の呼吸?」
「そうだ。呼吸で酸素を大量に取り込み、身体能力を飛躍的に向上させることができるんだ。さっき俺が木を豆腐のようにスパスパ切ってたのもその技術によるものだ。無一郎も、コツさえつかめば、今よりずっと木を切るのが早くなるはずだ。」
それから俺は、兄の有一郎に内緒で、度々こっそりと無一郎に呼吸を教えた。
嬉しい誤算だったのが、無一郎が半月もしないうちに全集中の呼吸を身に着けてしまったことだ。
正直気長にやるしかないと覚悟を決めて始めたことだったが、無一郎のとんでもな才能に感謝するしかない。
やがて、俺が無一郎に度々会っていることが有一郎にばれた。
なんでも、ここ数日で木こりの仕事が以前とは比べものにならないくらいラクになったそうで、その原因を追究したら、無一郎の働きによるものだったそうだ。
俺が全集中の呼吸を教えてひと月たったくらいで、無一郎は常中を徐々に身に着けつつあった。
その結果、仕事の生産性が尋常でないほど上がり、結果有一郎に気づかれることとなった。
俺はまた罵倒されることを覚悟していたが・・・
「無一郎に教えた全集中の呼吸・・・俺にも教えてくれないか?」
意外にも教えを請われることとなった。
「別にかまわないぞ。なんなら剣も教えようか?」
「いや、俺たちは鬼殺隊に入る気はない。それでもいいなら教えてほしい。」
うん・・・まあ、こんな山奥で子供二人で暮らしていれば、いずれは鬼に襲われるかもしれない。
護身のために教えるのはありか・・・
「わかった。ひとまず有一郎には呼吸を、無一郎には剣を教える。鬼が来た時のために、念のため日輪刀も用立てよう。もし、今後鬼と会ったら、全力で朝まで逃げるか、日輪刀で鬼の頸を刎ねれば殺されることはないからそうしろ。鬼殺隊に入るかどうかは、この際保留にしておいてやる。」
そうして、一週間に一度のペースで、俺は二人を育てることにした。
用立てた日輪刀を無一郎に握らせたら、刃は霞がかかったような白色に変わった。
月の呼吸の適正はなさそうだが、現状、鬼殺隊に入ってくれるかわからないので今は考えないことにした。
そうして、有一郎が全集中の呼吸を身に着けた頃、時透家に野良鬼が現れたらしい。
しかし、瞬きする間に無一郎が鬼の頸を刎ねたと後日聞くことになった。そして・・・
「あんたが俺たちに戦うすべを教えてくれてなかったら、俺たち二人は鬼に殺されていた。
俺はあんたにひどい態度ばっかり取ってきたにも関わらず、それでも俺たち二人を育ててくれた・・・
これでもうあんたは必要ないとはねのけたら、きっと天国にいる父さんも母さんも許してはくれないだろう。
あんたが望むなら、俺と無一郎を鬼殺隊に入れてくれないか?」
「兄さん! ありがとう! 僕絶対強い剣士になって兄さんを守るよ!」
「馬鹿か。俺がお前を守るんだよ。今までも・・・これからだってな・・・!」
有一郎も思うところがあったのか、俺にそう言ってきた。
正直俺はお払い箱になるかと思っていたから面食らった。
だが、結果としては、無事輝哉さんの期待に添えたようで、俺は安心してことの顛末を報告した。
続く