輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「この子たち同期なの?」と思われるかもしれませんが、後のことを考えると面白そうだったのでこうしました。
「ねえ、雁哉。本当にやるの?」
「可能な範囲でだがな。正直この最終選別の趣旨には俺は納得しかねる。」
僕らは今、藤重山という藤の花に囲まれた山奥にいる。
なんでもここは、鬼殺隊という鬼退治の人として入隊するための試験を受ける場所らしい。
育手という鬼殺隊の先生みたいな人に訓練を受けた剣士たちが、この山で7日間サバイバル試験を受けるみたいなんだけど・・・
「でもさ、輝哉さんが言ってたけど、鬼殺隊に入る以上は一人で鬼退治できないといけないんじゃないかな。」
それが、この最終選別の趣旨だそうだ。鬼殺隊に入れば、一人で任務に行く機会も多いため、そのための実力を試すとのことだ。
でも、雁哉はそれに納得していない様子だ。
「カナト。お前はいつからそんな薄情になったんだ。この試験に合格できないやつはイコール鬼に食い殺されるってことだぞ。実力を見るためだからっていくら何でも命を粗末にしすぎだ。せめて合格を途中であきらめた者たちだけでも助けるべきだ。」
「わかったよ。確かに合格する実力がない人たちは救出してあげないとかわいそうだよね。今回ばかりは、輝哉さんよりも雁哉の方が正しいと思う。僕も協力するよ。」
こうして、僕たちは負傷している人や刀が破損してしまった人たちを探して水源の場所に陣地を構えて避難誘導を行った。
僕は、中学校から理科が得意だったのと、薬草の自由研究や人命救助の体験学習をした経験もあったから、陣地の設営と怪我人の治療を主に行った。
雁哉は、僕と違って集団で人を率いたりまとめたりする経験が多かったから、主に救助活動と救助後の陣地での取り仕切りを行っていた。
ー風の呼吸 壱の型 塵旋風・削ぎー
僕が雁哉の後を追いかけていると、また目の前で鬼に襲い掛かられている人に遭遇し、間髪入れず雁哉が鬼の頸を切り飛ばした。
「おい、大丈夫か?」
「は・・・はい・・・ありがとうございます・・・!」
目の前の子は肩を押さえていた。おそらく鬼につかみかかられてけがをしたのだろう。
「カナト。陣地に連れてくぞ。」
「うん。僕が背負うね。君はなるべく肩を押さえていてね。」
「陣地で手当てをしたら、ほかの連中と最低5人一組になって身を守り合え。そうすればそう簡単には死なない。わかったな?」
「は、はい。ありがとうございます!」
そうして再び陣地に戻る。この工程をかれこれ20回以上繰り返しただろうか。
最終選別に参加した人数が50人弱いたからもうそろそろ半分の人は救出できたことになるのかな。
そう考えてるうちに、僕たちは陣地に返ってきた。
僕は連れてきたばかりの子の手当てをして、陣地での取り決めの説明を始めた。すると、
「あの! 私が鬼に襲われてた場所の近くに、半刻程前に無数の手を巻き付けた異形の鬼がいたんです! あいつとは戦わないでください!」
助けたその子がようやく落ち着きを取り戻したようで、僕の腕を握りしめてそう警告してきた。
「異形の鬼? ああ、あいつか。確かさっき二人で倒したよね、雁哉?」
「ああ、少し面倒くさい奴だったが、二人で挟み撃ちでやったらすぐに崩れたな。詳しくはそこにいる真菰から聞け。」
そう雁哉が説明すると、狐のお面を被った真菰と呼ばれた少女がひらひらと手を振った。
「そうだよ~。私が四肢を掴まれて引き裂かされそうになったところを二人が助けてくれたんだあ~。二人にはお礼がしたいから、今度鱗滝さんの家に来てよ。歓迎するからさぁ。」
真菰のお誘いに軽く頷く雁哉。その様子を見て、今しがた助けたその子は安心したのか涙を流してその場にへたり込んでしまった。
「もう大丈夫だよ。君はここでゆっくり休んで傷を治すんだ。あと三日の辛抱だから安心して。」
僕がそう語り掛けるとその子は涙を拭いて僕の目を見つめた。
「あの・・・お名前を聞いても・・・?」
「僕? カナトだよ。・・・稲葉カナト。君は?」
さすがに産屋敷の苗字を名乗ると後々面倒くさいから、しかたなく旧姓で伝えた。
「わ・・・私は神崎アオイって言います。助けてくださってありがとうございました。」
その子は震えていたが、僕の名前を聞いて少しだけ落ち着いたようだった。
しばらくして、僕と雁哉は陣地をあとにした。
救出と救護を繰り返し、やがて7日目の夜が明けた。正直、最後の1日はほとんど鬼は見当たらなかった。
助けた人は合計で39名、自力で生き残った人が1名、僕ら2名で、生き残りは42名だった。
参加人数は48名だから、6名は亡くなっちゃったけど、本来なら16人中1名しか生き残らなかったはずだから、やれることはやり切ったと思う。
雁哉は納得していなかった。一人も死人を出したくなかったんだろう。
正直そこまで雁哉が責任を持つことはないと思う。
ただ、後日輝哉さんには選別方法の見直しを相談しに行った方がいいかもとは思った。
そうこうするうちに、最初の入山前の集合場所に戻った。
その場には、最終選別の説明をしていた輝利哉君とかなたちゃんがいた。
二人は生存者の人数に目を丸くしていたが、すぐに入隊手続きの説明に移った。移ったが・・・
「おい! まさか全員入隊させるつもりじゃねぇだろうな? 一人で雑魚鬼すら切れねえようなカス共なんざ何人いたって無駄だろうが!」
手首や首周りに勾玉のような飾りをつけた黒髪の男の子が声を上げた。
見れば明らかに不機嫌そうだ。まあ彼の言い分もわからないでもないけど、さすがに言葉が過ぎると思う。
「ええ。ですから、救助された方々は次回の最終選別を受けるか、支援部隊の隠に配属するかを決めてもらいます。」
困った様子でかなたちゃんが答えるが、勾玉の子は納得していない様子だ。
「はあ? 救助されるようなカス共は全員荷物まとめて実家にでも帰ればいいだろうが!
はっきり言って目障りなんだよ! 弱いくせに隊服着て周囲うろうろしてるなんざな! 下手に鬼殺の道に残っても足手まといなんだよ! てめえら全員消えろ!!」
周囲が一気に静かになる。正直この空気を作った彼には一言言ってやりたいかな。
そう思っていると、雁哉が勾玉の子の前に立ちふさがった。
「お前、名前は?」
「はっ! なんだてめぇは! 言うわけねえだろうが! カス!!」
「おい・・・獪岳・・・その人は俺たちを助けてくれたんだぞ・・・そんな言い方・・・」
「ああ!? カス共の意見なんざ知るかよ! 俺は別に助けてもらっちゃいねえぜ!」
獪岳と呼ばれた男は不敵に周囲をあざけり笑う。
その様子を見て、雁哉は無表情のまま腕を組んだ。
「獪岳・・・確かにお前の剣技は見事だった。鬼が間合いに入った瞬間頸だけでなく四肢も切り刻んだのはかなりの早業だった。」
「おい! 勝手に名前呼んでんじゃねえよ! それと何人の剣技盗み見てんだよ!」
「だが、雷の呼吸で最も速度がある壱の型だけ使ってなかったな。それはこだわりか? それともお前の未熟さ故に使えないだけか?」
雁哉の最後の言葉を皮切りに獪岳から怒気が放たれる。
しかし、一向に反論する様子はなかった。
「まあいい。使えるにしても苦手なら任務までに使いこなせるようにしておくことだ。お前のような奴でも訃報は聞きたくない。がんばれよ。」
獪岳は青筋を浮かべていたが、何を言ってもぼろが出ると思ったのか、そのまま踵を返して、離れていった。
ひと悶着あったが、ひとまず騒動はおさまり、希望者は隊服を支給され、隠として入隊するための手続きを進めていった。
「ごめんね。輝利哉君にかなたちゃん。僕らのせいで少しもめたけど、人命優先だと思ってここはひとまず見過ごしてほしいな。」
様子を見て僕は二人に謝りにいく。
「いえ。生存者の数に驚きはしましたが、お二人の尽力には感謝が付きません。きっと父も喜んでいます。」
「あはは・・・それならいいんだけどねぇ。」
僕は苦笑いしながら、挨拶を済ませた後、玉鋼の選定と鎹烏の支給を受け、寸法した隊服を受け取り、その場を後にした。
ただ雁哉はずっと何かを考えているのか、屋敷に戻るまでずっと無口だった。
僕は只々、その雁哉との空気がいささか気まずかった。
続く