輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
ー草の呼吸 肆ノ型 穀種争乱ー
僕と、不死川さんの間で、すさまじい剣戟が繰り広げられる。
今回は僕に分があったのか、不死川さんは後退したため、そのまま畳みかけることにした。
ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー
「ウオオ!?」
僕が突進と共に棍を旋回させ、波状攻撃を繰り出す。
さらに不死川さんを追い詰める。
押し込み続けたことで、たたらを踏み始めた不死川さんに、僕にとっての最速の一撃を放つ。
ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー
それを受けたことで、不死川さんは吹き飛ばされ、背を地面に着けた。
「クソがァア!! 稲葉ァア、少しは遠慮しろやァ!!!」
大急ぎでその場から起き上がって大声を上げるのを尻目に、僕は棍を旋回させて、再び防御の構えを取る。
「いや、不死川さんなら問題なくさばいてくれるかなって・・・」
「程度があるわァ!!! 尻上がりに調子あげすぎなんだクソがァア!!!
後半になると普段の倍速で動き始めんのはどういう理屈だァア!?」
僕は一度構えを解く。
「ん~・・・なぜかわかりませんが、体温と心拍数が上がってくると、調子がすこぶるよくなってくるんですよね・・・
不死川さんはそういうことってないですか?」
「チィ・・・! ねェわ、んなことはよォオ・・・ったく、最初は俺の方が数段速えェのにどうなってやがる・・・」
「そうですか・・・」
現在、僕は風柱邸で、不死川さんに稽古をつけてもらっている。
なんでも、不死川さんは雁哉から頼まれて、時透君たちを継子に引き取ったらしい。
兄の有一郎君は風の呼吸を、弟の無一郎君は霞の呼吸を使うそうだ。
特に弟の無一郎君はすでに常中ができていて、剣の腕も相当立つらしい。
そんな彼に、柱同士の稽古を参考までに見せるのはどうかという話が上がり、僕が呼び出された。
まあ、僕にそんな指示を出したのは、今屋敷の縁側でご満悦に僕らを見て笑っている僕の元師範がきっかけなんだけど・・・
「不死川君~。私や時透君たちにかっこ悪いところばっかりみせないでほしいな~」
「おいコラァ・・・俺の醜態見てにやついてんじゃねェぞカナエェ・・・」
不死川さんが恨めしそうに言うと、カナエさんは縁側を降りて近づいた。
「うふふ。冗談よぉ~。後半の稲葉君の動きは私もほとんど目で追えなかったし、打ち合える不死川君がすごいと思うわぁ~」
「チィ どうなってやがるその痣っていうのはァ・・・どうやったら俺にも出るって言うんだァ?」
そう・・・僕は痣を発現した・・・それは柱全体に共有されている・・・
これがわかったのは、この前の柱合会議の後、悲鳴嶼さんが僕に稽古をつけてくれた時のことだ・・・
なんでも、上弦の頸を殴り潰した膂力に興味があったらしい。
悲鳴嶼さんの稽古は木刀の類は使わず、実戦の日輪刀によるものだった。
雁哉も何度か同じ条件で稽古を受けた過去があるそうだが、何度も死ぬ思いをしたともらしていた・・・
案の定、稽古開始早々僕は死にかけた。
矛ではじくには到底無理な質量の鉄球(棘付き)が僕を何度も打ち砕きそうになり、何度手斧に胴ごと切り払われそうになったことか・・・
それを何とか回避しさばこうと呼吸を続けていった結果、僕は途中で痣が出てたらしい。
その後は、多少悲鳴嶼さんの攻撃に対抗できていた気がする。悲鳴嶼さんも目に見えて僕の動きが速くなったと言っていた。
悲鳴嶼さんと話し合った結果、おそらく稽古中に発現したのではなく、上弦との戦いの最中に浮かび上がったものであることが推察できた。
それを輝哉さんに報告すると、昔も痣者の剣士たちはいたそうで、他の剣士とは一線を画す強さだったとのことだ。
ここまでの話だけなら、僕にとって非常に喜ばしかった。しかし、現実は違った。
輝哉さんが言うには・・・痣者はみな例外なく25歳以内に死ぬらしい。
痣によって強くなるのは、あくまでも寿命の前借りなのだそうだ。
この話を聞いて、ああ・・・癌の余命宣告を受ける人たちの気持ちってこんな感じなのかな・・・とそう悲しく思った。
ただ、僕の落ち込み以上に、蝶屋敷のみんなの衝撃の受け方はかなりひどかった。
カナエさんは悲しそうに眉をよせ、しのぶさんは顔をゆがめて悲痛そうにしていた。
アオイちゃんも泣き顔で顔をくしゃくしゃにし、普段無表情なカナヲちゃんですら目を見開いてひどく驚いていた。
なほちゃん、すみちゃん、きよちゃんも目に涙を浮かべていた。
僕はみんなに悲しい顔をしてほしくなくて、それからは作り笑いで無理してなんでもないように振る舞うことが増えた気がする・・・
まあ・・・流石に雁哉の前だけでは、弱音をこれでもかと吐いてはいる・・・雁哉にだって辛い思いをさせているのわかってはいるんだけどね・・・
まあ・・・どこまで言っても・・・雁哉は僕の頼れるお兄さんだから・・・許してくれるよね・・・許してくれる・・・かな・・・
「おい・・・稲葉ァ・・・お前ェ・・・」
「え・・・?」
不死川さんに声を掛けられ、ふと我に返った。
「稲葉君・・・大丈夫?」
どうやら僕は無意識のうちに涙を流していたらしい。頬に触れると、確かに濡れていた。
「あはは・・・すみません・・・なんででしょうね・・・」
僕は笑顔でなんでもないように答えた。でも、流石に心配をかけてしまったようだ。
「稲葉ァ・・・今日はもう帰れェ・・・カナエもついて行ってやれェ・・・」
「ごめんね稲葉君。私のわがままで勝手に連れ出して・・・」
まるで腫物に触るかのようだ。まあ当然か・・・突然涙が流れ出すような人間がいたら、そうなるよね・・・
気遣いが心苦しいなぁ・・・
それに、後輩の時透君たちに泣いてるところを見せてしまった。つくづく僕は不甲斐ないなぁ・・・
そんなことを思いながら、僕はカナエさんと一緒に蝶屋敷まで戻ることになった。
蝶屋敷が見えてくるころにはかなり気持ちも落ち着き、冷静になれた気がする。
しかし、また不意に、風柱邸でのように取り繕うことができなくなったら思うとみんなには会いたくなかった。
不死川さんやカナエさんの前でならまだしも・・・年下の子たちに泣いてるところを見せるのは無性に嫌だった・・・
「ありがとうございます。僕はこのまま家に帰りますので・・・」
「何言ってるの? 蝶屋敷で休憩していきなさい。お茶菓子ぐらい出すわ。」
「・・・」
いや・・・正直今は一人にしてほしいんだけど・・・そっとしておくとかできないのかこの人は・・・
僕の切なる願いもむなしく半ば強引に引っ張られた。
やがて、いつもの客間に案内され座るよう促される。
僕は無言でいつも座ってる場所に腰を下ろす。
「さっき確認したら、ちょうどアオイがクッキー焼き終わったそうよ。頼んで持ってきてもらうわね。」
「・・・はい。」
カナエさんがその場からいなくなったことを確認し、僕は誰にも見せたことがない大きなため息をついた。
正直、最近は下の子たちに会う方が疲れる。不安にさせたくないからだ。だから必死に取り繕う。そう、痣の余命を知ったあの日から・・・
仮にも僕は柱で、現在の蝶屋敷の主であるしのぶさんと同じくらい、あの子たちを安心させなければならない存在なのだ。
そんな僕がめそめそしてたら、必ずみんなを動揺させることになる。
だから、そうならないよう、すぐにいつもの笑みを作った。
よし・・・外面だけなら・・・しばらくは平静を装えそうだ。
「失礼します! 稲葉さん! お疲れ様です!」
すると、アオイちゃんが手作りお菓子の皿を持って部屋に入ってくる。
僕は作り笑いを浮かべたまま、穏やかに答える。
「お疲れ様、アオイちゃん。いい香りがするね。」
「はい! 稲葉さんから教わったクッキーです。前よりうまく作れるようになったんですよ?」
アオイちゃんは嬉しそうに笑う。いつものように。
そうだ・・・これでいい・・・本心は全て隠せ・・・そうすればきっとみんな笑ってくれる・・・
「今日は急遽呼び出されて大変でしたね。風柱様の稽古はどうでしたか?」
アオイちゃんからの質問を皮切りに、それから僕は取り留めもなく今日あった出来事を話した。
自身が途中で涙を流してしまったことを除いて。
やがて、話のきりがよくなったタイミングで、急遽アオイちゃんから笑顔が消える。
「どうしたの?」
僕はただ尋ねた。
「・・・無理なさってないですか?」
僕は閉口した。しかし、すぐに元の作り笑いを浮かべる。
「そんなことないよ?」
僕の言葉に対し、アオイちゃんはバツが悪そうに答える。
「すみません・・・私・・・稲葉さんがずっと無理して笑っているのを気づいていたんです。
以前のあなたは・・・私たちの前で心底嬉しそうに笑っていました・・・
私はその笑顔が好きでした・・・何度もその笑顔に元気をもらってきましたから・・・」
「・・・」
「でも・・・今のあなたは・・・貼り付けたような笑顔でしか笑ってくれません。
私は、それがとても悲しいです・・・
やはり、痣のことを気になさっているのですか?」
「・・・別にそんなこと・・・」
「稲葉さん! 以前私言いましたよね! 私にできることなら何でもするって・・・!
稲葉さんがお辛いのなら、その気持ちを素直に私に話してください!
きっと、それだけでも、気持ちがラクになると思うんです!」
「・・・いや、だから・・・」
「私は・・・稲葉さんの気持ちに寄り添いたいんです!
私、忘れたことがありません・・・
洗濯をラクにしてくれた時に、あなたが私の荒れた手を見て、少しでも手が痛まないようにって言ってくれたこと・・・!
任務に行けなくても、蝶屋敷での仕事を通じて人の役に立ててると言ってくれたこと・・・!
私がみんなに作ってるご飯を食べて、優しい味がする、おいしいって言ってくれたこと・・・!
最終選別の時なんて、命を救ってくれたばかりか、怪我の治療までしてくれて・・・
あれがあったから、私も同じように人の怪我を治してみんなの役に立とうって思えたんです!
だから、私はそんなあなたに報いたい・・・少しでも痛みを和らげてあげたい!!
そのためにおそばにいさせてほしいのです。なぜなら私は・・・」
そこまで言い切った後、彼女は僕の目を見た。
「私はあなたのことをお慕い申し上げているのですから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は今どんな顔をしている? どんな目で彼女を見ている?
純粋な好意を向けられ頬を赤らめ緩ませただろうか?
彼女の言葉に胸が軽くなっただろうか? 気持ちは安らいだだろうか?
そうだったらどれだけよかっただろうか・・・
ただただ僕の心の中を満たしていたのは・・・・・・苦痛だった・・・
「ありがとう・・・気持ちは嬉しい・・・でも無理だ。」
「・・・どうしてですか?」
僕は俯いてしまった。彼女の顔を見れなかった。
「それは・・・君のことを・・・大切な実の妹のように思っているからだよ。
君は・・・僕がしてあげたことを特別に思っているみたいだけど、下の子たちが困ってたら助けてあげるぐらい、特別でもなんでもないと思う。
一方でアオイちゃんには、僕は弱音を吐くことはできないと思う。悲しい顔をしてほしくないからね。
だから・・・君の言う、僕の痛みを和らげるっていう願望は果たせないと思うよ。申し訳ないけどね・・・」
アオイちゃんは口をつぐんでいた。僕のやんわりとした物言いの拒絶を受けて。
間違いなく、彼女の純粋な気持ちを無下にする行為だったと思う。
でも、どんなに苦しくても、この子達の前では、無理にでも取り繕ってしまう。それが今はとにかくしんどかった。
この子たちに笑っていてほしい・・・悲しい思いをしてほしくない・・・そう気持ちが先行してしまうから・・・
「そもそも、僕は君に慕われるほどの人間じゃないよ。寿命が他の人より縮んだくらいでめそめそしてるような器の小さい男なんだ。
僕に言われても嬉しくないと思うけど、君は本当に素敵な女の子だ。
今は幼いけど、将来は僕なんかよりも甲斐性のある頼りがいのある男性と一緒になるべき女性だと思う。
だから僕のことはもう気にかけないでくれ・・・」
そういってその場を立ち上がる。
僕はそのまま部屋を出て、泣きそうな彼女のことを無視してこっそりと蝶屋敷を抜け出した。
続く
もし現代人の価値観で痣が発現したら多分こうなるだろうなと思い、今回の話は書かせていただきました。その為に本小説の主人公を二人にしたまであります。
読後感良くないと思うので、次話もこの後投稿します。よろしければ一緒にお読みください。